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Page 1: 1.Vascular accessに対するIVR1.Vascular accessに対するIVR 滋賀医科大学 放射線科 金㟢周造 概念 終末期腎不全(End-stage renal diseases)患者の増加

第 37回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:金㟢周造

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概念

 終末期腎不全(End-stage renal diseases)患者の増加は欧米のみでなく,本邦でも同様である。日本透析医学会の調査によると,2007年末の時点で,慢性透析患者数は約275,119人と前年度調査より10,646人増加し,毎年増加傾向にある1)。地域により腎移植,腹膜透析,血液透析など治療方法の割合は異なるが,本邦では透析患者のうち血液透析の患者比率は約96.5%となっており,大部分を占めている。血液透析療法を導入された患者ではバスキュラーアクセスの管理が問題となる。 バスキュラーアクセス狭窄に対するインターベンション治療として,一般に経皮的血管形成術(PTA)が施行されるが,高度の狭窄でなければ比較的容易に対応することができる。ところがバスキュラーアクセス閉塞に陥ってしまうと,手技の難易度が増し,長時間の手技が多くなり,成功率も低下する。以前の報告では上腕動脈造影で描出されない内シャントの血栓性閉塞性病変は,インターベンション治療の適応にならないと記載されている 2)。最近,技術や器具の進歩により,閉塞性病変でもインターベンション治療を施行する機会が増加している。血栓性閉塞性病変に対するインターベンション治療としては,PTA,Mechanical thrombectomy,Pharmacologic thrombolysis,Phar-macomechanical thrombolysis or thrombectomyが施行される。

適応

 ほぼすべての血栓性閉塞がインターベンション治療の適応となり得る。外科的治療を含め,48時間以内に施行されることが望ましいとされる。理由としては,即時にバスキュラーアクセスが使用可能となり,中心静脈等の確保が必要ないことが挙げられるが,インターベンション治療の側面から見ると,閉塞後長時間経過したものは難易度が高くなり,早期に治療することが望ましい 3)。 禁忌としては,肺動静脈瘻,卵円孔開存など,右左シャントの存在(脳梗塞の報告あり),重篤な心不全,肺高血圧症(重篤な肺血栓塞栓症),血栓溶解療法では出血傾向,出血性病変を有する場合,その他,病変部の感染が疑われる場合,造影剤使用不可の場合などが挙げられる。ヨード造影剤が使用不可の場合,ガ

ドリニウム造影剤を使用すれば比較的良好な画像を得ることができるが,腎性全身性線維症(Nephrogenic systemic fibrosis;NSF)の問題が最近取りざたされているため,CO2を使用する方が望ましい。 また,血栓性閉塞であっても,閉塞が長期におよんでいる場合や短期間に再発を繰り返す症例では外科的治療が優先される。

解剖

 一般に自己血管を用いた内シャントは,手関節近傍近位側で橈骨動脈と橈側皮静脈との間に吻合が作成されていることが多いが,さらに末梢のタバチエール法にて吻合が形成されていることもある。しかしながら,血管の状態や,すでにバスキュラーアクセス不全により外科的再建が施行されている症例では,前腕部,肘部,上腕部などに動静脈吻合が形成されていることも珍しくない。人工血管を用いたシャントは,前腕部,肘部,上腕部などに作成されている。また,上肢で作成できなくなった症例では下肢に作成されている場合もあり,多彩である。よって,狭窄病変にせよ閉塞病変にせよ,バスキュラーアクセスの形態によって穿刺部を考慮しなければならない。 血管解剖,病変を理解するために,画像診断は必須である。最も全体像を理解しやすいのはCT angiography(CTA)であるが,手技に慣れていない場合,非常に有用である。また,上腕動脈造影も非常に有用であるが,動脈を穿刺するため侵襲度がやや高くなること,橈骨動脈と尺骨動脈が高位分岐している症例では逆行性に穿刺の上造影しないと全体像が把握できないなど,注意が必要である。また,超音波検査も非常に有効な手段である。術前に術者が自分自身で施行することが望ましいが,多忙な放射線科医はなかなか自分自身で超音波検査を施行できないこともあり,また血管造影室に容易に超音波装置を持ち込めない施設では,超音波検査施行者に皮膚にマジックで血管マップと閉塞部位を記入しておいてもらうと,手技が容易になる(図1)。

前準備,処置

 一般的に血管造影で使用する器具,薬剤に加えて,血栓除去に用いるカテーテル,血栓溶解術を併用する場合は血栓溶解用カテーテルセット,ウロキナーゼ等血栓溶解薬,狭窄部拡張用バルーンカテーテル,イン

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デフレーターなどが必要である。血栓除去を施行する場合,血栓除去用のHYDROLYSER(Cordis)や血栓吸引用のThrombuster(カネカ),Vasplyser(Cordis)を使用する。実際は後者のほうが安易に使用することができるので,ほとんど血栓吸引用カテーテルを使用する。また,大口径のガイディングカテーテル(Mach 1(Boston Scientific),BRITE TIP(Cordis))にて代用することも可能である。これらのカテーテルは大口径であるため,最低でも6Frのシースを使用する必要がある。

手技・コツ

Native fisturaの場合:シースは,基本的には病変部より近位側より逆行性に穿刺,挿入する(図2)。しかしながら,適当な穿刺部が見つけられないときは,動静脈吻合部より静脈側で順行性に穿刺,挿入する。さらに,静脈穿刺困難で動脈よりシース挿入した場合や,閉塞長が長区間に及ぶ場合,狭窄部通過が困難な場合など,手技の難易度に応じて,criss-cross catheter techniqueも考慮すべきである。シースは先端マーカー付きのものが便利だが,切れ味はやや劣るので少し使いにくい。Graft fistulaの場合:多くの場合2本のシースを挿入(criss-cross catheter technique)してアプローチする(図3)。ほとんどの症例ではグラフトと静脈吻合部

図1 皮膚面へのマッピング(CTボリュームレンダリング像使用)a : 術者自身が治療前に超音波検査を施行できないならば,超音波検査の結果を皮膚面にマジック等でマッピングしてもらうと,穿刺部の決定など戦略を立てるのに有用である。

b : CTAは動静脈の走行,吻合部及び狭窄部の位置を明瞭に表している(この症例は血栓による完全閉塞例ではない)。

穿刺部

主経路

狭窄部

動脈

吻合部

動脈

吻合部

動脈 静脈

動静脈吻合部

閉塞部

近位側穿刺部

吻合部側穿刺部

動脈 静脈

動脈吻合部

閉塞部

静脈側穿刺部動脈側穿刺部

静脈吻合部

狭窄部

ba

図2 Native fistulaの血栓性閉塞静脈側の血栓性閉塞に対し,基本的には近位側より逆行性にアプローチする。困難症例では閉塞部動脈側より穿刺することも可能である。

図3 Graft fistulaの血栓性閉塞多くの場合2本のシースを挿入(criss-cross catheter technique)。グラフトと静脈吻合部付近の狭窄は高頻度に認められ,同部が原因となっていることが多い。動脈側に狭窄がないと確信できる場合には順行性に穿刺し,1本のシース挿入可。

付近で狭窄が認められ,同部が原因となっているので,動脈側に狭窄がないと術前診断で確信できる場合には順行性に穿刺し,1本のシース挿入で手技を行うことも可能であるが,最終的にはcriss-cross catheter techniqueで行うことも多い。

閉塞部の通過(図4〜6) 0.035 inchガイドワイヤーとシーキングカテーテルが使用できる症例では,比較的容易に閉塞部に到達,通過できる。動脈穿刺で治療しなければならない症例では,急峻になっている吻合部を通過することが必要となるため,多くの場合,マイクロカテーテルとマイク

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ロガイドワイヤーを使用しなければならない。場合によっては,バックアップを確保するため,形状付きシース使用も考慮する。 静脈狭窄に伴う短区間の血栓性閉塞の場合,PTAのみで対処可能なことが多い。また,いずれの症例も狭窄部が血栓閉塞の原因となっていることがほとんどで,血栓溶解療法,血栓除去療法にPTAが追加される。

Pharmacologic thrombolysis,Pharmacomechanical thrombolysis or thrombectomy 閉塞部血栓内にカテーテルを留置する。ウロキナーゼ12〜24万単位,ヘパリン1000〜5000単位を生理食

塩水10〜50㎖に溶解して使用。10〜数十秒間隔で0.5㎖程度強く圧入し薬理学効果と物理的効果を期待することにより,血栓を破壊,溶解する。

Mechanical thrombectomy HYDROLYSERを使用する場合,下流から上流にゆっくり進め(1㎝ /sec以下),血栓を回収する。ThrombusterやVasplyser,ガイディングカテーテルを使用する場合は,カテーテルの先端方向が一定にならないようにしなければ,うまく血栓を吸引できないことがある。血管あるいはグラフト径に余裕があればストレートのものでなく,マルチパーパスタイプなど形

図4 症例1:70歳代 男性,native fistulaの血栓性閉塞a, b : CTAでは短区間だが動静脈吻合部より静脈側に欠損像(矢印)が認められ,同部で

の血栓性閉塞と考えられた(元画像でも造影剤の流入認めず)。c : 患者の都合により5日後にインターベンション治療を施行した。CTAと比較すると血栓が増加し,動静脈吻合部近傍まで閉塞区間が延長していた。近位側からのアプローチのみでは手技が困難であったため,動静脈吻合部側からシースを追加挿入した。矢印は近位側より挿入されたシース。矢頭(白色)はシーキングカテーテル。シーキングカテーテル先端部に極度の狭窄が認められる(黒矢頭)。

d : この症例では血栓吸引を近位側から挿入されたシースから施行するために,狭窄部のPTAをまず施行した。狭窄部にバルーンカテーテル(矢頭)が認められる。

e : 血栓除去を施行したが吻合部側の血栓は残存している(矢頭)。f : さらに血栓除去と最終的にPTAを追加した後の造影では,良好な血流が認められている。

e

a bcdf

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状付きカテーテルを使用し,回転や前後の動きを加えることにより,血栓吸引が容易となる。血栓を吸引する際,血栓と同時に血液も吸引される。閉塞血栓を除去する際,最も動静脈吻合部に近い血栓処理は最後に行うことにより,出血量を減少させることができる。

 上記のいずれの方法にせよ,血栓を完全除去することは難しい。残存血栓はバルーンPTAで破砕,残存狭窄はバルーンPTAで拡張する。良好な血流を得ることができれば,術後急性血栓閉塞を回避することができるが,よどんだような流れの悪い部分が残存すれば,早期再発の可能性が大きくなる。

後処置

シース抜去と止血 ヘパリンの使用量,手技に要した時間にもよるが,通常ヘパリン2000単位程度の使用量であれば,硫酸プロタミンを使用しなくても,手指による圧迫止血(10分程度)で止血可能である。

治療効果 4〜7)

 治療成績はEBPG(European Best Practice Guidelines)of Vascular Access4)によると以下の通りである。血栓溶解術や血栓除去術が組み合わされて施行されているが,初期成功率はgrafts fistulae 99%,autogenous AV fistulae 93%,1次開存率(12ヵ月)はgrafts fistulae 14%,autogenous AV fistulae 49%と記載されており,

c da b

図5 症例2:70歳代 女性,native fistulaの血栓性閉塞(困難症例)a : 適当な静脈穿刺部は見つけられず,肘動脈を順行性に穿刺し造影施行された。吻合部(矢頭)より静脈側の描出は認められない。

b : マイクロカテーテルとマイクロガイドワイヤーを使用し,静脈側にマイクロガイドワイヤーを挿入,バルーン径3㎜のバルーンカテーテルを挿入しPTAを施行した。

c : さらにガイドワイヤーを進め,PTAを追加した。超音波検査にて確認した際に皮膚に貼り付けたマーカーが認められる(矢頭)。

d : 術後確認撮影では良好な血流が認められている。

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遠隔成績はgrafts fistulaeで不良である。 AV fistulaeにおける2次開存率(12ヵ月)では,前腕部と上腕部では前腕の方が成績がよいと報告されている(前腕80%,上腕50%)5)。 AV fistulaeに対する治療で血栓溶解療法とPTAを施行した症例では初期成功率93%,1次開存率70%(12ヵ月)と報告されている6)。また,血栓除去術を主に施行した報告では初期成功率88.9%,1次開存率27%(12ヵ月),2次開存率51%(12ヵ月)と報告されている7)。AV graftでは初期成功率 73%,1次開存率 32%(1ヵ月),26%(3ヵ月)とそれほどよいものではない。

合併症と予防,対策

PTAに由来する血管損傷,仮性瘤の形成:ガイドワイヤー操作や,狭窄部を拡張する際に血管損傷が起こりえる。適切なバルーン径のカテーテルを用いることが重要である。狭窄部前後の血管径より1㎜程度大きなバルーンカテーテルを使用することが可能である。しかしながら吻合部付近では,最大径4㎜程度までのバルーンカテーテルを使用する方が無難である。不幸にも血管損傷が起こった場合,拡張部であれば低圧でバルーンを拡張させ(1〜3atm程度),同部を皮膚面から手指で圧迫し止血を図る。重篤な血管損傷や鎖骨下静脈等の中心静脈で血管損傷が発生した場合は,ステントグラフトが使用できればよいが,使用できない場

図6 症例3:60歳代 男性,graft fistulaの血栓性閉塞a : 動脈側より挿入されたシースより造影。当初超音波検査の情報では動脈側吻合部付近には血栓は存在しないとのことであったが,造影してみるとグラフト内のみならず,逆流した造影剤に欠損が認められた(矢頭)。

b : このシースから血栓吸引用カテーテルを挿入し血栓除去を施行した後の造影。欠損像は減少したが,残存していた。

c : この症例ではグラフトより逆行性にシースを追加挿入した(矢頭)。もっと静脈側に挿入すべきだったかもしれないが,動脈側のシース付近および同部より動脈側の血栓処理のために挿入したので十分であった。同部の血栓除去後の造影では,当初に認められた動脈側の欠損像は消失していた。

d : さらに血栓除去を施行した後の造影では,わずかな欠損像の残存(矢印)とグラフトと静脈吻合部に狭窄(矢頭)が認められた。

e : 残存血栓と狭窄部に対しPTA追加施行後の造影では,狭窄部は若干残存するものの良好な血流が再開した。

d ea b c

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合がほとんどと考えられる。通常のステントを損傷部に留置し,止血を図ることもできるが,最悪の場合手術を選択せざるを得ない場合もある。肺血栓塞栓症:血栓を飛散させないように十分注意していても,血流により肺動脈に血栓が流れる。RIを用いた検討によると,症状の程度はともかくとして59%の症例で肺動脈塞栓症が認められた。95%無症候性であったが,2症例では死亡している 8)。急激な血流改善による右心負荷:心機能低下患者では血流改善を契機に心不全を生じることがあるので注意する。 その他,穿刺部の血腫,感染,造影剤ショックなどが起こりえる。

【参考文献】1) わが国の慢性透析療法の現況(2007年12月31日現在),日本透析医学会 .

2) 成松芳明,田波 譲,長谷部光泉,他:透析シャント不全の診断:血管造影.IVR学会誌 14:18 -22,1999.

3) Poulain F, Raynaud A, Bourquelot P, et al : Local thrombolysis and thromboaspiration in the treatment of acutely thrombosed arteriovenous hemodialysis fistulas. Cardiovasc Intervent Radiol 14 : 98 - 101, 1991.

4) Tordoir J, Canaud B, Haage P, et al : EBPG on Vascular Access. Nephrol Dial Transplant 22 (Suppl 2) : ii88 - 117, 2007.

5) Hingorani A, Ascher E, Kallakuri S, et al : Impact of reintervention for failing upper-extremity arterio-venous autogenous access for hemodialysis. J Vasc Surg 34 : 1004 - 1009, 2001.

6) Liang HL, Pan HB, Chung HM, et al : Restoration of thrombosed Brescia-Cimino dialysis fistulas by using percutaneous transluminal angioplasty. Radiology 223 : 339 - 344, 2002.

7) Haage P, Vorwerk D, Wildberger JE, et al : Percuta-neous treatment of thrombosed primary arteriove-nous hemodialysis access fistulae. Kidney Int 57 : 1169 - 1175, 2000.

8) Swan TL, Smyth SH, Ruffenach SJ, et al : Pulmonary embolism following hemodialysis access thromboly-sis/thrombectomy. J Vasc Interv Radiol 6 : 683 - 686, 1995.

【参考図書】・ 後藤靖雄:透析シャントの IVR,IVR手技,合併症とその対策.メジカルビュー社,東京,2005, p329 -337.

・ 丸川太朗:透析シャントの血管形成術・血栓溶解療法,IVRマニュアル.医学書院,東京,2002, p81 - 86.

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2.塞栓(血栓症)に対するIVR上腸間膜動脈急性閉塞の場合

京都第二赤十字病院 放射線科藤田正人

はじめに

 上腸間膜動脈(SMA)の血流が急速に途絶えると小腸から右側結腸は虚血になる。腸管虚血は激しい痛みの原因となり,血流が改善しなければ腸管は壊死に陥る。SMA急性閉塞症の頻度は急性腹症の約1%で,死亡率は60〜90%。確定診断は造影CTあるいは血管造影で可能である。死亡率は高いが,腸管壊死に陥る前に適切な IVRを施行することにより,救命できる可能性がある。診断から治療まで IVR担当医に望まれる役割は大きい。本稿では IVRに直結するSMA急性閉塞のCT診断から血栓溶解療法,血栓吸引の手技を中心に記載する。

SMA急性閉塞の一般的事項

 急性腸間膜虚血の40〜50%が塞栓,15〜20%が血栓,非閉塞性も20〜30%存在する。患者は心房細動や動脈硬化などを基礎疾患として持つ高齢者が多く,腹部激痛を主訴とする。塞栓症は心臓由来の血栓が中結腸動脈分岐部直下に捉えられることが多く,血栓症はSMA起始部の動脈硬化部に形成されることが多い。 血液検査での異常は非特異的で,LDH,CPKの上昇や代謝性アシドーシスは初期には著明な異常値は示さない。腹膜刺激症状は晩期になるまで出現しない。すなわち早期にCT検査を施行しなければ診断が遅れることになる。心房細動や動脈硬化などを持つ高齢者の腹部激痛で,腹膜刺激症状がない場合には,腸管虚血を疑ってCT検査を施行することが肝要である。 注意すべきことは,腸管壁の全層が壊死になり穿孔しなくても,腸管粘膜が壊死すると腸のバリアー機能が障害され,腸管内の細菌やエンドトキシンが血中に侵入し(bacterial translocation),敗血症から多臓器不全となることである。粘膜壊死は腸管壊死を意味する。

CT診断

 最近のmultidetector-row CTでの診断は特異度95%以上,感受性90%以上である 1)。造影CTを施行することによりSMAの塞栓・血栓を動脈内の造影欠損として直接描出することができる。塞栓・血栓の描出以外に見られる所見は,腸管壁の造影効果の欠如,壁の thickeningあるいは thinning,腸管拡張,壁内ガス,門脈内ガスあるいは腸間膜静脈内ガス,腸間膜浮腫,

腹水,他臓器梗塞などである。 確実に腸管壊死を診断するのは困難であるが,壊死の確率が高い所見としては腸管壁の thinningと造影効果の欠如があり,壁内ガスも認める場合や,腸管壁のthickeningに造影効果の欠如が加わった場合などである 2)。 最近のCT-angiographyでは閉塞部と側副路,血管解剖まで描出することができる。SMA閉塞症では腹部大動脈の動脈硬化の状態や腹腔動脈・下腸間膜動脈の起始部に閉塞がないかなどの情報が必要であるが,CTで描出可能であれば,IVR施行時にこれらの造影は省略できる。

血管解剖

 SMAは第1腰椎の高さ,腹腔動脈直下で腹部大動脈の前面から分岐し,前下方に走行する。主な分枝は起始部から終末に向かい,下膵十二指腸動脈,中結腸動脈,空腸動脈(2〜 8本),右結腸動脈(欠損することが多い),回結腸動脈,回腸動脈(回結腸動脈分岐部から末梢側で7〜 17本)である。 下膵十二指腸動脈は腹腔動脈領域の上膵十二指腸動脈と膵十二指腸アーケードを形成し,他方で空腸動脈とも交通する。複数の空腸動脈・回腸動脈は小腸側でネットワークを作る。中結腸動脈は右枝と左枝に分かれる。右枝は右結腸動脈あるいは回結腸動脈と大腸側で吻合して上行結腸の辺縁動脈を形成する。左枝は横行結腸の辺縁動脈となり,下腸間膜動脈の分枝である左結腸動脈と吻合する。回結腸動脈は上行結腸の辺縁動脈を形成し,他方ではSMAの終末枝と吻合して大腸と小腸に血流を送る(図1)。 SMA本幹が塞栓や血栓で閉塞した場合には下膵十二指腸動脈,空腸動脈,回腸動脈の小腸側でのネットワークが末梢側の側副路となる。同様に中結腸動脈,右結腸動脈,回結腸動脈の枝から構成される上行結腸の辺縁動脈も末梢側への側副路となる。これらの側副路が発達していれば血流障害は緩和されるが,急性閉塞では一般に未発達である。さらには,血流低下のため本幹のみならず分枝にも血栓が形成されやすく,側副路として機能しないこともある。閉塞部の位置によっても虚血の範囲と程度は左右される。SMA起始部で閉塞した場合には広範に血流が遮断され,側副路はSPDやLCからの経路に制限されるので,虚血状態は重篤

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である。SMAの末梢側,たとえばTBの近位部で閉塞した場合には血流低下の範囲は回腸に限局し,JJ,MC,ICが側副路として機能するので虚血の程度も軽い傾向にある。

治療法の種類

1.外科的治療:壊死腸管は切除する必要がある。腸管切除で問題になるのは切除範囲の決定である。広汎に切除すれば,壊死腸管を残す危険はなくなるが,短腸症候群となり予後不良である。この問題を避けるため,second-look laparotomyが施行されることがある。また,腸切除後一期的に残存腸管を吻合するのではなく,人工肛門を増設して残存腸管血流の指標とすることもある。手術時に腸切除に加えるべき外科治療として,血行再建術がある。海外の文献ではLevy3)らは腸切除のみで死亡率82%,血行再建などを組み合わせると死亡率21%。Bull4)らは腸切除のみで死亡率62%,血行再建を加えると死亡率48%と報告している。血行再建術施行には血管外科的手技が必要になる。2.IVR:SMAの血流を改善するために行う。カテーテルから行う血栓溶解・吸引,血管拡張やステント留置などがある。この中で実際に多く行われるのはウロキナーゼ動注による血栓溶解とカテーテルによる血栓吸引である。バルーンカテーテルによる血管拡張術は血栓溶解・吸引後に血管狭窄が残存する場合に施行する。持続動注は血管造影室での治療後に病棟で施行され,使用する薬剤はウロキナーゼや血管拡張剤である。ステント留置は慢性的なSMA起始部の狭窄に対して施行されることが多い。3.保存的治療:外科治療や IVRが施行されなかった場合,あるいは終了後などに行われる。IVR施行中で

も,経静脈的な抗生剤,血管拡張剤,へパリン投与などは併用可能である。経口摂取が可能になれば,抗凝固剤の内服治療を開始する。 腹痛があっても鎮痛剤は使用すべきでない。理由は腹痛が腸管虚血の指標となるからである。

IVRの適応と目標

 腸管壊死がないこと。側副血行の状況などにより虚血状態は変化するので,発症からの時間のみで腸管壊死の有無は決められない。ただし,CT所見で壊死が疑われても,発症から5〜 6時間以内であれば血流再開により腸管壊死を免れる場合がある。動物実験では動脈閉塞後3〜 6時間で腸管粘膜は壊死に陥る 5)。 腸管壊死の確率が高い場合には外科手術が優先される。ただし,手術開始までに短時間の IVRを施行することはありうる。 目標は血流の改善である。最初のSMA起始部からの造影で,本幹は閉塞しているが分枝は開存している状態でも,本幹の再開通を目指す。末梢側に向かって再開通させるに従って側副路として機能する分枝の数が増加し,腸管虚血の範囲は限局する。最善はSMA本幹閉塞部が完全に再開通し,末梢側の血流が良好な状態である。次善は部分的開通で末梢側の血流が保たれている状態である。

IVRを開始するための準備・処置

 通常の IVRの場合と同様のことが必要であるが,時間をかけずに行うことが重要である。忘れてはならないのが脳梗塞,動脈瘤などウロキナーゼの禁忌事項となる項目のチェックである。心臓内血栓の有無についても心エコーで評価しておくことが望ましい。 普段から救急外来担当の医師には「腸管虚血を疑った場合には直ちにCT検査を施行すること,IVR担当医と外科医に連絡する」ように伝えておく。診断できしだい IVRや手術について相談すべきである。CT検査終了後直ちに診断可能であれば,病棟を経由せずに患者を血管造影室に運ぶことができる。血栓溶解療法施行と決定すれば,直ちにヘパリンを3000単位ほど静注するのが良い。 使用する器具としては通常の5Frほどの造影カテーテル,肝動脈塞栓術などに使用している子カテーテルとマイクロガイドワイヤーに加え,内腔の大きいガイディングカテーテルや J型シース,パルススプレイカテーテル 6)や血栓吸引用のカテーテルを用意する。PTA用のバルーンカテーテルやステントが必要となる場合がある。血栓溶解剤としてはウロキナーゼ(6万単位/ 1V)が24〜 48万単位ほど必要となる。

血栓溶解療法の手技

 ウロキナーゼはプラスミノーゲンをプラスミンに変えることにより血栓溶解作用を発揮する。プラスミ

図1 SMAのシェーマIC:回結腸動脈 IL:回腸動脈IPD:下膵十二指腸動脈 JJ:空腸動脈LC:左結腸動脈 MC:中結腸動脈SMA:上腸間膜動脈 SPD:上膵十二指腸動脈TB:SMAの終末枝

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技術教育セミナー / 血栓,塞栓

ノーゲンは血栓内にも存在するので,ウロキナーゼは血栓内に注入するのが有効である。そのためにはカテーテルを血栓内に送り込む必要がある。 最初のSMA起始部からの造影で,閉塞部の末梢がガイドワイヤーを送り込む目標として描出される場合と閉塞部(塞栓・血栓)の手前側しか描出されない場合がある。いずれの場合にもガイドワイヤーが血栓を貫通することが IVR成功の鍵となる。前者の場合には親水コーティングの0.035インチガイドワイヤーも選択できる。このガイドワイヤーを貫通させることができれば,パルススプレイカテーテルの使用も可能である。 5Frほどのサイズの親カテーテルとのコアキシャル法による子カテーテルとマイクロガイドワイヤーは,超選択的カテーテル挿入に常用されており,SMA末梢に送り込む時に,血管壁を損傷する危険が少なく操作性も良い。先端孔しか持たないが,血栓内にウロキナーゼを動注する目的は達成される。シースサイズを大きくしなくてすむメリットもある。閉塞部の末梢側が描出されているかどうかにかかわらず,この方法で慎重に末梢を目指すのが安全である。図2に手順を示す。以下にコツとポイントを記載する。①SMAの起始部からの造影で閉塞の位置,範囲や側

副路の状況を把握する。 側副路により塞栓・血栓による閉塞部をこえてSMAの終末枝が描出されてくる場合と,側副路が不十分で手前側しか描出されない場合がある。②ガイドワイヤーを塞栓・血栓内に通す。 使用するガイドワイヤーは親水コーティングのあるものが操作性に優れている。塞栓・血栓の手前側に接してカテーテルからガイドワイヤーを出せば貫通する力は強いが,血管壁に当たっている場合には血管壁を損

傷する危険がある。塞栓・血栓から距離を置いてガイドワイヤーを出せば,血管壁を損傷する危険は少ない。③カテーテルからウロキナーゼを動注する。 6万単位のウロキナーゼを生理食塩水20㎖に溶解,へパリンを500単位加えて動注の1単位とする。子カテーテルからの動注では先端孔からの注入になるので,血栓を押し流さないように,一定の低圧で10分ほどの間に1単位を注入する。血栓の遠位側から始め,近位にカテーテルをもどしながら,24万単位から36万単位の動注で血栓の全長にウロキナーゼを注入する。手押しの場合には単位終了時に造影剤のテスト注入を行いやすいが,一定の注入速度を保つのに苦労する。最初に30万単位100㎖を50分間で注入と決めて,自動注入器で注入する方法もある。この場合にもカテーテルを遠位から近位に移動させる必要がある。カテーテルと自動注入器の間には3方活栓をつけ,造影剤のテストインジェクションが行いやすいようにしておく。④SMAの起始部からの造影で溶解の状況を評価する。 血栓全長にウロキナーゼ動注が終われば,親カテーテルでSMA起始部から造影すべきである。動注の途中で,子カテーテルを使用して血栓の中から造影剤を注入すると末梢の描出が良好に見えても,SMAの起始部から造影すると血栓部で閉塞していることがある。血栓が多少残存していても開通し(図3),末梢まで良好に造影されれば,持続動注などの追加治療を選択できる。

血栓溶解療法の効果判定と継続治療方法の選択

 血栓溶解療法開始から約1時間で治療効果と追加治療を選択する。SMA急性閉塞では血流が改善してい

図2 子カテーテルによる血栓溶解療法の手順(血栓の遠位側が側副路により造影される場合)①:SMA起始部から造影する。②a:コアキシャルシステムのマイクロガイドワイヤーを血栓の遠位側まで貫通させる。②b:子カテーテルを血栓の遠位まで送り込む。造影剤のテストインジェクションを施行する。③a:子カテーテルを血栓内まで引き戻してウロキナーゼの動注を開始する。③b,c: 血栓内を近位側に引き戻しながらウロキナーゼを動注する。1単位ごとにテストインジェクションで溶解

の状況と子カテーテルの位置を確認する。④: 溶解により閉塞が解除されれば,多少血栓が残存しているようでも親カテーテルでSMAの起始部から造影

する。開通していれば持続動注は親カテーテルから行う。⑤: 持続動注終了後にも評価のためSMA起始部から造影する。

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なければ治療中にも虚血性障害は悪化するので,効果判定と継続治療の選択は急ぐ必要がある。Simo7)らは血栓溶解療法に成功した症例では1時間以内に症状が改善したと報告している。 効果判定はSMA起始部からの造影で,残存血栓の状態,末梢側の描出,腸管壁の染まり具合などを評価する。SMAの閉塞が消失し,末梢側が十分に描出され,腸管壁の染まりが十分であれば,血管造影室での血栓溶解は終了する。同時に症状や血液データも合わせて,腸管壊死の徴候がないか判断する。壊死が否定できないようであれば開腹手術を行う。大量に使用しなければ,ウロキナーゼの血中半減期は16分と短いため手術の障害にはなりにくい。腸管壊死がないという判断が困難であれば,Angio-CTで腸管壁の造影効果を評価するのが有効である 8)。Angio-CTで粘膜の造影効果を認めなければ,壊死と考え手術を勧める。 血栓溶解療法から吸引に移行するタイミングについての定説はない。心臓などにあった塞栓子は古い血栓であり,溶解されにくいことがある。SMAの動脈硬化に伴い発生した白色血栓も溶解されにくいことがある。残存血栓に対しさらにウロキナーゼの動注を継続するよりも吸引することは理にかなっている。 バルーンカテーテルによる血管拡張術は末梢側が開存し,起始部に近い所にアテロームなどによる狭窄が残存している場合に適応になる。ただし,内膜剥離やスパスムなどの合併症が発生すれば,かえって末梢側の血流は低下するので注意が必要である。

血栓吸引の手技

 血栓吸引は専用の子カテーテルで行う場合と,内腔の大きいガイディングカテーテルを用いる場合がある。

前者はSMAの起始部に親カテーテルとしてガイディングカテーテルや J型のシースを留置し,吸引カテーテルとガイドワイヤーはこの中を通すコアキシャルシステムになっている。血栓をガイドワイヤーで貫通後,このガイドワイヤーに沿わせて吸引カテーテルを血栓内に送り込む。モノレールタイプであれば,ガイドワイヤーを残した状態で血栓吸引が可能である。吸引した状態で血栓内を移動させることも容易である(図4)。吸引用のシリンジ,吸引された血液から血栓をより分けるフィルターが吸引カテーテルにセットされている。後者の場合には内腔が大きいので,血栓内に送り込むことができれば吸引の効果は大きい。しかしカテーテルの材質は硬く外径も大きいので,血栓の位置がSMAの起始部から離れている場合や動脈硬化で血管壁が不整の場合には,カテーテルを血栓に到達させるのは困難になる。しかも当然であるが,内腔にガイドワイヤーが入っていると吸引できない。

再評価から保存的治療へ

 血管造影室での血栓溶解や吸引による治療の終了時には,効果と腸管壊死を評価し,手術不要と判断した場合に,病棟(ICUでの管理が必要)で持続動注を行う。持続動注はSMA起始部に留置した親カテーテルからウロキナーゼ(24万単位/日)や塩酸パパベリン(血管拡張剤,40㎎/時間)などを注入する。持続時間は24時間から72時間程度になる。ヘパリンは(1万単位/日)点滴静注で投与する。持続動注終了時には,血管造影やCTにより治療効果と腸管壊死を再評価すべきである(図5)。良好な結果が得られた場合に,保存的治療に移行できる。不良であれば,手術を考慮する。

図3 持続動注時の血流a: 血栓で閉塞している場合には,ウロキナーゼの大半が開存している枝に流れるため有効ではない。

b: 血栓内の注入により開通し,ウロキナーゼの多くが残存血栓部を通過する状態で持続動注を行う。

図4 モノレールタイプカテーテルによる血栓吸引a: 吸引カテーテル用のガイドワイヤーで血栓を貫通する。以下ガイドワイヤーは固定しておく。

b: 吸引カテーテルを血栓内に送り込む。吸引を開始する。

c,d:血栓の全長に渡り吸引する。

a b

a

b

c

d

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 IVRのみの場合だけでなく手術を施行した場合でも,腸管壊死の判断は困難なことがある。手術場での治療が終了しても,症状や血液データに注意し,腸管壊死の徴候を拾い上げるようにする。手術後に持続動注を行う場合もある。手術から保存的治療に移行する前にも,再評価が必要である。

血栓溶解療法の治療成績

 Simoらは10例のSMA塞栓症の患者に血栓溶解療法を施行し,9例で溶解に成功し,7例で腸管壊死は免れたと報告している。その治療法の概略を記載する。溶解の方法は6Frまたは5Frの造影用カテーテルを親水コーティングのガイドワイヤーの誘導により血栓内の遠位側に挿入し,近位側に引き抜きながら20万単位のウロキナーゼを血栓の全長に注入する。その後,閉塞部の手前からウロキナーゼの持続動注(10万単位/時間)を施行する。溶解療法中と終了後4日間は時間当たり1000単位のヘパリンを投与し,その後ワーファリンに切り替える。抗生剤は投与するが鎮痛剤は投与しない。動注開始から4〜 6時間後に血管造影で効果を評価する。その後,必要に応じて血管造影を繰り返す。

合併症

 血栓溶解剤による合併症は出血に関連する。ウロキナーゼでは投与すると頭蓋内など止血困難な部位に出血の恐れのある患者では禁忌である。ウロキナーゼ60万単位を60分間でSMAに動注し,合併症として脳出血が生じた例が報告されている 9)。使用予定の薬剤の添付文書に目を通されることをお願いしたい。軽視されがちであるが,穿刺部の出血は合併症の中でも頻度が高い。心筋梗塞に対するウロキナーゼの静注治療時のデータでは96万単位,48万単位を30分間で投与し,前者では出血の合併頻度は18.8%,後者では0%と報告されている 10)。 左心系に血栓が存在すると,血栓溶解剤で部分的に

溶解した血栓が脳動脈など全身の動脈に塞栓する危険がある 11)。四肢の動脈や腎動脈に塞栓のある患者ではとくに注意が必要である。血栓溶解剤の使用には議論の余地がある。 ウロキナーゼが使用できない場合には,血管拡張剤の動注や血栓吸引が行うべき IVRとなる。効果が得られない場合には,時間をかけずに外科的な血栓除去と血行再建術を施行すべきである。

おわりに

 日頃から腸管虚血の診断治療について救急担当医・外科医らと相談し,良好な連携で早期に診断を行い,適切な治療をタイミング良く行うように心掛けたい。

【文献】1) Saba L, Mallarini G : Spiral computed tomography

imaging of bowel ischemia : a literature review. Panminerva Med 49 : 35 - 41, 2007.

2) Chou CK, Mak CW, Tzeng WS, et al : CT of small bowel ischemia. Abdomimal Imaging 29 : 18 - 22, 2004.

3) Levy PJ, Krausz MM, Manny J : Acute mesenteric ischemia : improved results - a retrospective analysis of ninety-two patients. Surgery 107 : 372 - 380, 1990.

4) Bull PG, Hagmüller GW, Kreuzer W, et al : New aspects in the diagnosis and management of acute mesenteric infarction. Inter J Angiol 2 : 51 - 58, 1993.

5) Klein HM, Klosterhalfen B, Kinzel S, et al : CT and MRI of experimentally induced mesenteric ischemia in a porcine model. J Comput Assist Tomogr 20 : 254 - 261, 1996.

6) Bookstein JJ, Valji K : Pulse-spray pharmacomechan-ical thrombolysis. How I do it. Cardiovasc Intervent Radiol 15 : 228 - 233, 1992.

7) Simo G, Echenagusia AJ, Camunez F, et al : Superior mesenteric arterial embolism : local fibrinolytic treatment with urokinase. Radiology 204 : 775 - 779, 1997.

8) 藤田正人,畑 博之,前田裕子,他:急性上腸間膜動脈閉塞:CT所見と血栓溶解療法.IVR会誌 18 : 352 - 358, 2003.

9) 宮園信彰,堀 晃,井上裕喜,他:急性上腸間膜動脈閉塞症に対する Interventional approach-経カテーテル的血栓溶解術と問題点-.画像診断 12:976 - 981, 1992.

10) 廣澤弘七郎,河合忠一,中島光好,他:急性心筋梗塞に対するウロキナーゼ静注法の有効性の検討(冠動脈造影による用量比較試験)-封筒法による

well controlled randomized study-.臨床と研究 63:3736 - 3748, 1986.

11) 山口敏雄,宮坂実木子,黒木一典,他:SMA embo-lism and fibrinolysis.IVR会誌 16:143 - 148,2001.

図5 再評価

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