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61第 56 巻 第 8 号(2012 年 7 月号)

はじめに

 さまざまな要因により,我々の生活環境のみならず,企業を取り巻く環境も急激な変化を余儀なくされる今日の日本の状況において,製品開発を根本的に見直す必要性が高まっている。 それは,製品の製造過程そのものや製品全般に関するデザイン,機能,コストなどの構成要素から始まり,製品を構成する各部品一つひとつに至るまで,徹底的な見直しと改善によるところが大きい。今まで長年の経験と勘に頼っていた部分を,完全に別のものに置き換えることは並大抵のことではないが,製品の軽量化に対するヒントを簡単に導くことができれば,材料削減によるコストダウンに加え,設計プロセスに費やす時間の節減も現実的に可能となる。本稿では最適化プログラムOptiStruct を次世代の GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)と融合することで,CAE の解析専任者以外の方でも手軽にトポロジー(位相)最適化が行える環境を提供する Inspireについて紹介するものである。

アルテアエンジニアリングについて

 当社(アルテアエンジニアリング)は,米国ミシガン州トロイに本社を持つ CAE アプリケーションの開発,販売およびエンジニアリングサービスを中心に行っている会社である。当社のアプリケーション群は,CAE モデルの作成から解析,結果処理まで,有限要素解析全般について網羅しているが,特にその中でも早くから最適化技術の有効性に着目し,その研究に力を注ぐことで,優れた最適化機能を持つ「OptiStruct」を開発,販売するまでに至っている。 OptiStruct は,自動車や電機をはじめ航空宇宙など多くの業界において近年その使用実績を伸ばし,さまざまな製品に活用されている。たとえば,飛行機の主翼内部のリブ構造の形状や,プリンターのフレームそのもののデザインといった身近なものにまで適応されている。図1に現行の部品と最適化計算を行って得られた情報を元に再設計した,新しい部品デザインを示す。ここで,Inspire

主要記事1

Altair Inspire

の「トポロジー最適化」を

用いた軽量化へのアプローチ

アルテアエンジニアリング:国井 和彦*

 *くにい かずひこ:H

yperWorks

事業部 テクニカルスペシャリスト

62 機 械 設 計

のトポロジー最適化で利用している OptiStructについて,機能の説明を行う。

OptiStructのトポロジー(位相)機能

 OptiStruct は,高速かつ高精度の有限要素解析ソルバーを内蔵し,多彩な最適化機能を持った汎用構造最適化プログラムである。適用可能な最適化のタイプは,トポロジー最適化,トポグラフィー最適化,フリー寸法最適化,寸法最適化,形状最適化,フリー形状最適化である。 中でもトポロジー最適化は,空間内の材料の最適な配置を求めることが可能な最適化の中の 1つの手法であり,材料の削減において有効な情報を導くものである。以下に,トポロジー最適化に焦点をあて,特徴的な機能を示す。

1. 多彩な目的関数および制約条件 最適解を求める上で,最適化の達成目標である目的関数と設計上の制限である制約条件が必要となるが,多彩な応答結果を目的関数と制約条件に使用することができる。なお,重量/体積,固有振動数,応力,変位,ひずみエネルギーなどの応答結果が使用可能である。

2. 豊富な製造性制約条件 計算によって得られた最適化結果から実際に製品として製造しやすいような形状にするための条件が,多く用意されている。これらにより,たとえば,型抜き方向,押し出し方向,面および周期対称性,パターン反復などを考慮することが可能である。

3. 高度な収束性と並列計算 最新の数値最適化手法による収束性の良さ,独自開発の超高速固有値計算手法,複数の CPU を同時に使用した並列処理等の数値計算手法により,計算時間を大幅に短縮することが可能である。

Inspireの機能

 OptiStruct の持つ優れたトポロジー最適化機能を,デザインや設計分野でも幅広く利用できるよ

う,簡単な操作によって短時間で最適化形状が得られることをコンセプトに開発されたのが「Inspire」である。また,最適化だけでなく,Inspire の操作方法や GUI についても最新技術を導入し,作業効率の向上を目指した結果,無駄のないシンプルなメニューシステムを採用している。そして,アプリケーションの操作習得にかかる時間を短縮することを念頭に置き,実際に行う作業とアイコンとの関連付けをイメージしやすいように設定している。具体的には,1 つのアイコン上でマウスクリックする位置により,異なる情報の定義ができるようにアイコンをデザインしたからである。本アイコンシステムの導入によって,Inspire は習得に多くの時間を必要としない,直感的な操作体系を確立することができたのである。 次に,前項で紹介した OptiStructの持つトポロジー最適化機能の中で,Inspire がサポートしている機能について説明する。初めに,最適化を行う上で達成目標となる目的関数については,剛性を最大化することが自動で設定されるようになっているが,ユーザーの入力を極力省略することがその理由である。ただし,振動問題に対する要望が高いことから,全ての固有モードに対する固有振動数を最大化する目的関数を近々追加する予定である。制約条件として与える部材の配置に使用する材料の分量であるが,選択した部品(設計空間)の領域全体に対する割合で,指定を行う。モデルの状態を表現する境界条件については,モデルの移動方向を制御する拘束とモデルにかかる力(トータル荷重,圧力,トルク)を面またはコー

図1 最適化設計

2000g

初期設計 最適化実行後の設計案

1550g

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主要記事1

Altair Inspire

の「トポロジー最適化」を用いた軽量化へのアプローチ

ナー点に直接与えることで設定する。なお重力を考慮することも可能である。そして製造プロセスに欠かすことができない製造性制約条件に関しては,型抜き方向,最小/最大部材寸法,面および周期対称を与えることが可能である。 型抜き方向とは,最適化形状内部に空洞を作成せず,型を抜いて作成できる形を設定する。最小

/最大部材寸法は,最適化形状の寸法値に対して上限と下限を設定する。また任意の面もしくは回転体の場合は周期として繰り返す回数により対称位置を設定し,指定した位置で対称な形になることを設定する。さらに製造性制約条件に関しては,成形加工された製品に近い,均一な厚みを持った最適形状を得るスタンピング制約を用意している。最適化の計算に使用する材料情報についても,ユーザーの入力を極力減らす意味で,自動で鉄の物性値が関係付けられる。なお,登録されたアルミ,チタン,マグネシウム以外にユーザー定義の材料を使用することもできる。 引き続き,最適化計算の対象となる空間を定義する幾何形状の設定について説明を行う。まず,Inspire 内で定義する方法であるが,最初にスケッチング機能を使って,断面形状を定義する。定義できたらフィレット,突起,穴などのフィーチャーの寸法を変更するプッシュプル機能により,断面に厚みを与えてソリッド形状を定義する。さらに,作成されたソリッド形状の任意面を指定して,フィーチャーの追加を繰り返し行い,複雑な形状に変更する。なお,簡単なソリッド形状同士をブーリアン演算によって結合,差し引き,共有

部抽出のいずれかを選択して実行することで,形状を変更することも可能である。別の方法としては,3次元CADのデータを直接 Inspireに読み込み,形状を定義することができる。また,複数の部品で構成されるアセンブリモデルについては 3次元CAD で主流であるダイレクトモデリング機能を利用して部品間の位置を変更することができる。 最後に,計算後の最適化形状について説明を行う。計算を実行したウィンドウ内のステータス表示の変化により,計算が終了したことをユーザーに伝える。計算終了後,実行したジョブの名前を選択し,結果として得られた最適化形状を画面上に表示する。表示中の最適化形状は,STL形式のファイルに保存可能で,他のシステムにデータを受け渡す場合は,本ファイルを使用する。さらに,結果として得られた形状について,表示を切り替える機能が利用可能である。これは,計算結果の値に対し,表示のしきい値を変更することで,部材が表示される領域自体を変化させる。また,形状表面の処理について,細部のディテールを表現する表示から,スムーズ化された滑らかな表示へと変更することも可能である。 以上,Inspire の持つ特徴的な機能を紹介した。次の項では,簡単な形状を用いた Inspire の実行例を紹介する。

実行例

 Inspireの実行例として,図2に示す形状について Inspire を用いたトポロジー最適化計算の手順を以下に記す。①形状の定義(最適化形状を求める部品をファイルより読み込む)。FilesアイコンよりModel Open

をクリックし,ファイルを選択する(図 3:モデル取込み後)②拘束の定義(モデルの拘束状態を設定する)。Environments アイコンより Apply Supports をクリックし,モデルの一部を選択する③荷重の定義(モデルにかかる力の状態を設定する)。Environmentsアイコンより Apply Forcesをクリックし,モデルの一部を選択する(図 4:条件設定後)④設計空間の定義(最適形状を求める空間を設定図2 トポロジー最適化計算例

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する)。モデルを選択し,表示メニューより,Design Spaceの項目をクリックする(図 5:メニュー表示)⑤最適化計算の実行(配置する部材の割合を指定し,計算を実行する)。Morphogenesis

アイコンをクリックし,表示されるウィンドウ内の Percent of design

space より,配置する材料の領域全体に対する割合を選ぶ。選択後,Runボタンをクリックする(図 6: 設定ウィンドウ)⑥計算中(計算実行の確認)。計算が開始されると,その計算を示す名称が表示される。計算が終了するとステータス部の表示が変わる(図 7: ステータス表示中のウィンドウ)⑦最適化形状(結果の最適化形状の表示)。計算の名称を選択すると,計算結果としての最適化形状が表示される(図8: 最適化形状)

まとめ

 本稿にて,製品の軽量化のヒントを得るのに有効なトポロジー最適化を用いて,短時間で最適化形状を求める Inspire

を紹介した。製品設計において,製品の軽量化は直接コストダウンにつながるため,極めて重要な課題である。本課題に対し,Inspire の持つトポロジー最適化機能が役立てられることを切望する。なお,当社は本稿で紹介した Inspire 以外に,さ

まざまな現象について数値モデルを用いてコンピュータ上で解く,有限要素解析に関連したアプリケーションの販売およびコンサルティングを行っている。お困りのことがあれば,是非ご連絡いただきたい。

図3 モデル取込み後

図5 メニュー表示

図4 条件設定後

図6 設定ウィンドウ

図7 ステータス表示中のウィンドウ 図8 最適化形状


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