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地域再生大賞などを受賞高齢者が活躍する地域づくり

NPO法人がんばろう高山は2017年11月に行われた第7回そうしんビジネス・イノベーション大賞で特別賞を受賞した。「地域住民が生産した農産物等を集荷し、日置市の江口蓬莱館に共同出荷。出荷戻り便を活用して同館の商品を地域住民に届け、会員の所得向上と買い物支援による条件不利地のコミュニティーを維持する活動を行っている。社会課題解決を目指す団体の中でも、同法人が特に地域住民全員を構成員とする点や社会貢献活動を事業化し、利益を創出していることが受賞理由だ。

ちなみに同法人は今年2月、「棚田を生かしたグリーンツーリズムや農産物の販売による交流拡大、高齢者が活躍する地域づくりは全国のモデルとなり得る活動である」として、南日本新聞社など全国の地方新聞46紙と共同通信社が設けた地域再生大賞で特別賞を受賞した。このほか、同法人が中心になって活動している高山地区公民館も14年11月の農林水産祭むらづくり部門で農林水産大臣賞、17年10月には過疎地域の自立と活性化の取り組みが評価され総務大臣賞、同11月には、地域の共同活動が地方自治の発展向上に寄与したとして地方自治法施行70周年を記念して総務大臣賞と相次いで受賞。今年3月には地域の教育・学習の拠点として社会教育振興への貢献が認められ文部科学大臣賞を受賞するなど、全国的に評価されている。

住民全員参加のNPO法人設立交流人口増で地域の存続目指す

日置市最北端の山間部に位置し桑木野、尾木場、郷戸、野下、高塚東、高塚西の6集落からなる高山地区は現在、111世帯202人が居住。うち子供は乳児1人、小学生1人、中学生2人で、高齢化率は67%。過疎・高齢化が進み、「維持存続が危ぶまれる集落」の定義に合致する地域でもある。地区内に唯一あった高山小は1992年3月に閉校した。

そんな中、地域の維持存続には交流人口を増やす必要があるとして、行政の力を借りて旧高山小

小学校跡を活用した高山地区交流センター

  活気みなぎる企業を訪ねて

元気企業訪問シリーズ

Vol.47

そ う し ん 元 気 発 信

代表 立和名 徳文 氏

NPO法人 がんばろう高山□所在地 日置市東市来町養母15819- 4□設 立 平成25年6月□会 員 202名□電 話 099(274)9856□F A X 099(274)9856

(伊集院支店お取引先)

地域資源と人材を活用した共生・協働の地域づくり

過疎・高齢化地域で住民全員参加の事業展開

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の施設を生かして調理室や研修宿泊施設、ピザ窯などを整備し、新たに体育館やプールを設け、96年に「高山地区交流センター」が開設された。2010年には集落ごとに6つの自治会が統合して「高山自治会」を発足。13年6月に全住民を会員とするNPO法人がんばろう高山が設立された。

高山地区公民館館長で同法人代表の立和名徳文さん(69)は「地域にある棚田の農地保全や高齢者の生活支援などの事業を進めるには、社会的に信用のある団体として安定した運営や活動の活性化を図ろうとNPO法人を設立した。集落全員を会員とするNPO法人は全国的にも極めて珍しいが、みんなが支え合い助け合って暮らすことのできる地域づくりこそ重要」と語る。

農産物の共同出荷で元気づくり尾木場の棚田で米作り体験事業

「高齢者が生き生きと生活でき、若者が定住したくなる魅力的な地域を創り出す」をミッションに掲げる同法人の事業は多岐にわたる。その中で、車で約30分の物産館「江口蓬莱館」への農産物の共同出荷は2015年11月に始まった。水曜と土曜の週2回、県の補助金で導入した小型保冷車を使って各農家から集荷し、「がんばろう高山」のブランドシ ー ル を 貼 っ て 出荷。帰りの便であらかじめ住民から注文を受けた海産物等を購入して自宅へ届ける。集荷等の際は地区内各世帯を巡回し、安否確認を行う高齢者見守りサービスも行う。

当初、出荷する農家は14、5人だったが、現在は28人に増え、売り上げも年間300万円を超える。「人間、目的があると元気で笑顔になる。所得向上だけでなく、農作業に前向きに取り組むようになり、高品質な野菜作りとともに健康づくりにもなっている。高山の頑張っている様子が世間に知られることで、遠方に住む子供や孫も生まれた地に愛着がわいて帰る機会も増え、高齢の親の見守りにもつながっている」と立和名代表。

明治時代から受け継がれてきた約7ha、約60枚の尾木場の棚田は、美しい石積みと大きな高低差が雄大な景観を

生み出している。同法人は農作業の受託、景観保全などで棚田の保全事業にも取り組む。毎年、他地域の家族や団体に田植えと収穫を体験してもらう「尾木場めだかの里米づくり体験事業」を実施。田植えと収穫時の昼食代に、かけ干ししたもみ米1俵を加えた参加料は1家族1万3000円。標高300m、きれいな山水が流れ、在来種のクロメダカが泳ぐ棚田で減農薬栽培、かけ干しされた棚田米は「めだか米」として江口蓬莱館でも好評だ。

このほか4月には山菜狩り、11月の最終日曜日には「高山ふるさと秋祭り」が行われる。秋祭りでは高山地区交流センターでの新米餅つきのほか、各集落で渓流マス釣り、こんにゃく作り、かずら工芸などのイベントがある。それぞれ参加費が必要だが、山菜狩りは約100人、秋祭りは1000人以上が参加する交流イベントになっている。秋祭りには、交流センターで20年以上夏季合宿している鹿児島大学クラシックギターサークルのメンバーが二十数人、ボランティアとして参加する。「クラシックギターの合宿最終日には演奏会を開き、地

域住民と交流している。交流センターでは県内外のスポーツ少年団などが利用しており、他地域の子供たち、若い人たちとの触れ合いは高齢者の元気と笑顔づくりに役立っている」と立和名代表。

法人の財政基盤強化に力点加工品やカフェなど6次産業化

高 山 地 区 が 市 の補助を受けて2011年に購入した8人乗りのワゴン車を同法人の所有に移し、高齢者の外出支援サービスを行っている。住民の希望を聞き、買い物や温泉、食事ツアーを随時実施。台風時などには避難所に指定されている交流センターまでワゴン車で送迎するなど、無料で行っている。

ちなみにNPOの運営は、1戸当たり月100円の会費、江口蓬莱館での売り上げ15%の手数料、秋祭りなどさまざまなイベントの参加費のほか、市からの年250万円の交付金で賄われている。同法人は財政が厳しくなることを見据え、自主財源の確保に今後一層力を入れることにしている。その一つが、農産物を加工して付加価値をつけて販売していこうという6次産業化。2015年10月に高山特産品加工グループを設立し、第一弾として「けせん団子」を作り、今年9月1日から江口蓬莱館で販売を始めたところ、毎回完売する人気となっている。

空き家になった古民家を活用し、地元食材を使って川魚・農村料理を提供するカフェ&地域サロンと直売所の開設も計画している。立和名代表は「今後は訪れた人にお金を落としてもらう仕組みをつくっていきたい。小さな事業からスタートして、必死でやっていくうちに周りの協力もあり、ここまでこぎつけた。今後も住民の自主性を尊重し、やる気が出るような方法でさまざまな事業を展開していきたい」と語る。尾木場めだかの里の棚田での米作り体験

農産物を共同出荷する保冷車

ワゴン車で地域住民の買い物・温泉ツアー


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