ディスポーザブル・バイオセンサーの可能性
~ポケットに入れて現場へ出かけよう!
平成31年2月14日
東京農工大学
大学院工学研究院 生命機能科学部門
准教授 津川 若子
1. ディスポーザブルバイオセンサー1. ディスポーザブルバイオセンサーとは?2. 測定の方法3. 従来法との比較4. 測定原理
2. 新しいディスポーザブルセンサーを開発するには?
3. 開発の例
ディスポーザブル・バイオセンサーの可能性~ポケットに入れて現場へ出かけよう!
ディスポーザブル・バイオセンサー
•水、生体試料、環境試料、食品などに含まれる糖、脂質、ペプチドなどを酵素を用いて測定します。
•ハンディメーターと、ディスポーザブルチップの組合せです。
•試料からの抽出、加水分解など前処理ののち、酵素センサーに滴下して、5分以内に濃度が測定できます。
酵素反応 電気化学計測
クロノアンペロメトリー電流値を測定
試料前処理
(必要な場合)抽出・希釈 等
データ処理、結果の表示センサー上に
滴下
<5 min
メーター(電池駆動)
センサー(ディスポーザブル)
ディスポーザブル・バイオセンサー
従来の測定技術との比較
測定法 測定技術 装置の価格
装置の大きさ
オンサイト計測
従来法 液体クロマトグラフィ
専門的 高 大型据置き
不可能
酵素法~分光学的検出
本法 ディスポーザブル・バイオセンサー
簡便 低 小型携帯可
可能
測定の原理
還元型
酸化型
グルコノ-δ-ラクトン
グルコース
酵素
グルコース酸化酵素またはグルコース脱水素酵素
例)グルコースセンサー(血糖センサー)
酸化型
還元型人工電子メディエーター人工電子メディエーター
酵素によりグルコースが酸化され、生じた電子が人工電子メディエータを還元し、還元型のメディエータが電極上で再酸化され、電流が流れる。電流値を測定しグルコース濃度に換算する。
電位を印加し
電流値を測定する。
バイオセンサーの構成
酵素
人工電子メディエーター人工電子メディエーター
電位を印加し
電流値を測定する。
メーターセンサー (ディスポーザブル)
我々はセンサー部分の開発技術を持っています。
電位の大きさ、かけ方、電流の測定方法を検討
酵素の選択
1. Oxidoreductases 酸化還元酵素2. Transferases 転移酵素3. Hydrolases 加水分解酵素4. Lyases 除去酵素5. Isomerases 異性化酵素6. Ligases 合成酵素
約 980種約1020種約1000種約350種約150種約120種
• 酵素は蛋白質でできた触媒で、常温で働き、特異性が高い。• 酵素はIUPAC-IUBMBによってEC番号で分類されている。• データベース上に性質、アミノ酸配列等の情報が公開されている。
反応系に必要な酵素系を組み立て、必要に応じて遺伝子レベルから改良した酵素を組換え生産できます。
メディエーターの選択・電気化学的測定条件の検討
• 酵素によりメディエータとの反応性が異なる。• 夾雑物の影響を受けにくい、低い印加電位が望ましい。
適切なメディエータを選択します。また、必要に応じてメディエータとの反応性を改善した、遺伝子レベルから改良した酵素を構築します。
開発例
バイオディーゼル中の短鎖脂肪酸検出
Methanol Formaldehyde Formate
Acetate
Carboxylate
Carboxylate(-2 Carbon)
dehydrogenate of α,β position
Linolenic Acid Methyl Ester
Propionate
65%
20%15%
formateacetatepropionate
H18.6.1 経済産業省 総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会燃料政策小委員会(第21回)[資料4-2 バイオディーゼル燃料の許容値検証試験データ集]より改題
ギ酸の生成機構
酢酸の生成機構
プロピオン酸の生成機構
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NADH + メディエータ(OX) NAD +メディエータ(RED)
ギ酸 + NAD+ CO2 + NADH + H+ギ酸脱水素酵素(FDH)
ジアホラーゼ[市販バルク品](Bacillus stearothermophilus)
好熱菌由来酵素
メディエータ(RED) メディエータ(OX) + e -
400mV vs Ag/AgCl
フェリシアン化カリウム
ギ酸センサーの検出原理の考案
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• 合成遺伝子の購入• 大腸菌へ形質転換• 培養と酵素の組換え発現 25℃, 30h • 細胞破砕と水溶性画分採取• 精製
• FDH 200U / L culture
( Km = 2.0mM , Vmax = 1.1U/mg)( 活性: 2.3U/ mgprotein)
kDa
1 :水溶性画分2 : 精製FDH (46kDa)
FDH
ギ酸 : 40mM
ギ酸脱水素酵素の組換え生産
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Cover
対極 CERE
作用極 WE(Ag/AgCl)参照極)
Spacer
(1.3μL)
CERE
WE
CERE
WE
CERE
WE
CERE
WE
Cover
乾燥
FDHNAD+
ジアホラーゼメディエータ緩衝液
CERE
WE
サンプルを滴下する
1 min. 待ち時間
400mV vs Ag/AgCl
電流値計測
Formate sensor chip/ store in desiccated until use
ディスポーザブルセンサーの作成
40mm
5mm
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反応 : 1minデータ取得 : 20sec
検出限界 : 1mM (46ppm)解像度 : 1mM (46ppm)直線範囲: 0 ~ 20 mM (0~920ppm)
ギ酸計測に十分な感度、正確性
ディスポーザブルセンサーでのギ酸計測
検量線電気化学的計測
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保存条件: at 37 ℃ デシケータ中
00.05
0.10.15
0.20.25
0.30.35
0.40.45
0 5 10 15 20
Curr
ent [
mA/
cm2 ]
Sodium formate [mM]
0 day
3 day
7 day
28 day
検量線の変化
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0 7 14 21 28
Curr
ent [
mA/
cm2 ]
Strage [day]
37℃
1ヶ月間 37℃で安定
センサーの保存安定性
10mMギ酸に対する応答電流値の変化
想定される用途
•体外診断薬 血液、尿などを検体としたPOCT用。脂質、糖、たんぱく質等の測定。
•食品分析 ATP, 糖、アルコール、酸などの測定。•環境試料 土壌や水中の農薬などの計測。
•その他 抽出などの前処理と組み合わせて
オイル中の酸、ガスなどの計測。
実用化に向けた課題
•酵素は蛋白質であるため、保存安定性が悪いと考えられがちだが、乾燥状態ではかなり長期間安定に保存できる。
•実用に供するにはより高い保存安定性が求められる。好熱菌由来酵素の利用、安定化剤の添加、酵素の改良を行うことで解決できると考えられる。
企業への期待
•簡便で、電池駆動のメーターを用いる本法は化学物質の計測の専門家でなくても使うことができる。また電源のない屋外、途上国でもその場で測定ができる。医療目的以外にもニッチな領域での用途が考えられ、さまざまな分野の企業との共同研究を希望。