◎プロローグ(在来種等の成立の歴史)
わが国において、鶏は発祥の地である東南アジアやインドから稲作の伝播に伴う形で伝来(天照大神の伝説、埴輪の出土)
「時告げ」、「闘鶏」、「鑑賞(姿、声)」、「食用(卵、肉)」の用途で、日本人独特の美意識、嗜好により多くの品種を作出
また、海外から渡来した鶏(遺伝子)も活用
シャモ(タイ国)×秋田県在来種 →比内鶏
コーチン(中国)×愛知県在来種等 →名古屋コーチン
(名古屋種)
注:JAS(日本農林規格)の在来種の定義としては、ロードアイランド
レッド、横斑プリマスロック等の明治時代以降に海外から導入、定着し
た品種も含む。
◎プロローグ(地鶏特定JASで定義された在来種:38品種)
会津地鶏、伊勢地鶏、インギー鶏、烏骨鶏、鶉矮鶏、ウタイチャーン、エーコク、沖縄髭鶏、尾長鶏、河内奴鶏、雁鶏、岐阜地鶏、熊本種、久連子鶏、黒柏鶏、コーチン、声良鶏、薩摩鶏、佐渡髭地鶏、地頭鶏、芝鶏、軍鶏、小国鶏、矮鶏、東天紅鶏、蜀鶏、土佐九斤、土佐地鶏、対馬地鶏、名古屋種、比内鶏、三河種、蓑曳矮鶏、蓑曳鶏、宮地鶏、
横斑プリマスロック、ロードアイランドレッド
1.我が国における地鶏・銘柄鶏生産(経緯)
江戸時代頃までは、産業としての養鶏はほとんど存在せず(闘鶏、鑑賞、自家消費用の在来種)
明治時代以降、採卵を中心としながら、採卵終了後に肉利用する生産形態が普及(卵肉兼用種等)
昭和40年以降、海外で開発された卵専用種及び肉専用種(ブロイラー)の生産が大幅に拡大、普及(一方で、日本の在来種、卵肉兼用種が減少)
昭和50年代から、特定の栄養成分を含む飼料を給与することで生産物の差別化を図る取り組みが出現(ヨード卵等)
昭和60年代から、おいしい鶏肉等を求める消費者ニーズに対応し、各県の畜産試験場を中心に在来種を交配利用した鶏種にこだわった地鶏・銘柄鶏の生産取組みが開始。
→ 平成24年度の地鶏生産状況(50銘柄、出荷羽数722万羽)
1.我が国における地鶏・銘柄鶏生産(肉用鶏の場合の交配方式例)
生産性向上の観点から、在来種の純粋種そのものを肥育するのではなく、一部の例外を除き、大部分が2元あるいは3元交配の交雑種を肥育
雄系には県のオリジナル性、おいしさをアピールできる品種を選択(軍鶏、名古屋種、比内鶏等)
雌系には、増体性とともに産卵性にも優れた品種を選択(横斑プリマスロック、ロードアイランドレッド、劣性白プリマスロック等)
→ しかしながら、卵用鶏、ブロイラー母系雌と比べると産
卵能力は劣る
交配例:(軍鶏×名古屋種)×劣性白色プリマスロック
軍鶏×劣性白色プリマスロック
軍鶏×(名古屋種×横斑プリマスロック)
1.我が国における地鶏・銘柄鶏生産(今後の課題及び対応方向)
更なる国際化の進展が予想される中で、鶏生産物の付加価値を高め輸入品との差別化を図ることが重要
そうした観点から、飼養管理方法の工夫と共に、我が国独自の鶏種をアピールした地鶏・銘柄鶏の取り組みに期待が高まる状況
しかしながら、地鶏、銘柄鶏の開発、利用に当たり、「肉用鶏」、「在来種」等に対する思い込みが強く、取り組みがワンパターン化、産業の裾野が広がりにくい構造
↓
従来にない発想で、新たな日本の鶏(新品種・銘柄)の開発、利用にトライすることが重要
(参考)通常の外国鶏種の肉用鶏(ブロイラー)
農業分野の中でも、突出して品種や銘柄の単一化、固定化が進行し、多様性が著しく失われている
◎品種
白色コーニッシュ(優性白色)
白色プリマスロック(優性白色)
◎交配様式
♂白色コーニッシュ
×♀(白色プリマスロック×白色プリマスロック)
◎育種会社(銘柄名)
チャンキー、コブの2社で世界で9割以上のシェア
(もはや肉用鶏のスタンダードというべき存在)
1.我が国における地鶏・銘柄鶏生産(今後の課題及び対応方向)
肉用鶏に偏った取り組み
→ 卵と肉利用を想定した新たな卵肉兼用種
の開発
在来種の生産性の低さ(在来種はそもそも肉や卵利用を目的に開発されたものでない)
→ 在来種の特長を残しつつ生産性にも優れ
た新たな鶏種の開発
限られた遺伝資源の効率的な活用
→ 卵用鶏と肉用鶏のコラボ鶏の開発
2.卵と肉利用を想定した新たな卵肉兼用種の開発(岡崎おうはん)
○特長・高い産卵性能・卵の大きさが適度(LLサイズ少ない)・黄身が大きい(卵かけ御飯に適する)・卵用鶏と比べ大型でうまみのある肉質(産卵後の成鶏肉としてだけでなく、そのまま肉用鶏として肥育することも可能)
○成績・産卵ピーク: 98%・90%産卵持続期間:24~52週令・卵黄卵重比: 28%・体重(64週令): 2.5kg
現在では世界的にも珍しい卵肉兼用種として平成20年に岡崎牧場で「岡崎おうはん」を開発、普及開始
2.卵と肉利用を想定した新たな卵肉兼
用種の開発(岡崎おうはん)
岡崎おうはん 外国銘柄
卵重 60.7g 60.7g
卵黄重 17.0g 14.4g
卵黄重量比 28.1% 23.7%
2012年食肉産業展では地鶏・銘柄鶏食味コンテストでグランプリ受賞
卵黄が大きく卵かけご飯
にすると濃厚な味わい
(参考) 岡崎おうはんの品種・系統までさかのぼる情報提
供システム (トレサビリィティ)構築の試み
情報例
岡崎牧場・品種・系統情報
民間種鶏場・コマーシャル鶏の生産方法等の情報
岡崎牧場横斑プリマスロック
(XS)ロードアイランドレッド
(YA)
民間種鶏場 ×♂ ♀
横斑プリマスロック(XS) ロードアイランドレッド(YA)
「岡崎おうはん」
生産者♂♂ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀ ♀
♂ ♂ ♀× ×
卵
消費者
肉
♀
生産者等・養鶏場等での飼養状況の情報
消費者・「岡崎おうはん」の肉や卵を購入した際に、上記の各種情報を検索することが可能
4.卵用鶏と肉用鶏のコラボ鶏の開発
これまで、主においしさ、増体性の観点から大部分の地鶏・銘柄鶏の開発が行われてきたところ。
従って、母系種鶏の増殖性(繁殖能力)が劣るものも多く、民間の種鶏・ふ化業者が参入し難い理由の一つとなっている。
一方、「岡崎おうはん」については、肉用鶏として肥育する場合には、発育速度の点で課題あり(雄:120日齢、3kg程度)
4.卵用鶏系統と肉用鶏系統のコラボ鶏の開発
家畜改良センターにおいて、これまで、兵庫牧場及び岡崎牧場ごとの系統のみを用いて銘柄鶏開発。(はりま、たつの、岡崎おうはん)
今後は、地鶏・銘柄鶏に求められる、「おいしさ」、「産肉性」、「増殖性」という相反するニーズをクリアーするため、両牧場の系統同士も組み合わせ、新たな銘柄鶏開発も行う予定。
また、民間ベースでも、兵庫牧場に加え、岡崎牧場の系統利用を進めることも期待。
4.卵用鶏系統と肉用鶏系統のコラボ鶏の開発(具体的なイメージ)
白色コーニッシュ白色プリマスロック(小雪)赤色コーニッシュ(紅桜)龍軍鶏ごろう
横斑プリマスロック×
ロードアイランドレッド
兵庫牧場 岡崎牧場
各県保有品種・系統民間保有品種・系統
5.新たな日本の鶏(新品種・銘柄)の開発までのプロセス
系統造成
系統の組合せ検定
系統の増殖、コマーシャル鶏生産
5年以上
2~3年程度
2~3年程度
トータルで最低でも8~9年程度は必要
ただし、家畜改良センターの品種、系統、組み合わせ検定結果を利用すれば大幅な期間短縮、コスト低減が可能
6.その他の課題
新品種(新たな日本の鶏(国産鶏種))の体のサイズにあわせた新たな販売・消費方法の工夫、提案(骨付き肉、1羽まるごと販売、骨付きあぶり焼き、スープ、サムゲタン的な消費)
新品種の付加価値を広く認知させるための普及啓発活動(分かりやすい表示等)
(参考)新たな鶏肉の定義(私案)
ブロイラー鶏肉(国産)
銘柄鶏肉(国産)
地鶏特定JAS鶏肉
ブロイラー鶏肉(国産)
銘柄鶏肉(国産)
国産鶏種Ⅰ 国産鶏種Ⅱ
国産鶏種Ⅰ(在来国産鶏種):在来種の血液割合50%以上国産鶏種Ⅱ(純国産鶏種):国産鶏種の血液割合100%以上国産鶏種Ⅲ:国産鶏種の血液割合25%以上
ブロイラー鶏肉(輸入)
ブロイラー鶏肉(輸入)
国産鶏種Ⅲ