平成 27年度
研 究 集 録
「子どもが自ら調べ,考える社会科学習指導法の研究」
~事実認識を高める学習活動の工夫~
福岡市小学校社会科研究委員会
はじめに
国立教育政策研究所は,平成25年度に,小学校4~6年を対象とした小学校学習指導
要領実施状況調査を実施しています。社会科における結果概要を一部示すと,次のように
なります。
◎ 相当数の児童ができている事項(概ね80%以上)
・示された学習問題の解決を見通して調べる事柄や資料を選ぶこと,など
・グラフや年表から情報を読み取ること,など
・主な地図記号,事故の防止や廃棄物処理のための法やきまり,など
▲ 課題があると考えられる事項(概ね60%未満)
・資料から読み取った情報を,比較したり,相互に関連付けたり,総合したりして,
社会的事象の働きや役割などを考え表現すること
・地図から読み取った情報を適切に表現すること,など
・47都道府県の名称と位置,主な国の名称と位置,産業における価格や費用,など
このような結果から,指導上の改善点が4点示されています。
1 情報を基にして社会的事象の意味を考え表現できるようにする指導の充実
2 基礎的な知識や技能を確実に身に付けるようにする指導の充実
3 問題解決の見通しをもったり学習したことを振り返ったりする指導の充実
4 よりよい社会の形成に参画する資質や能力の基礎を育てる指導の充実
本研究委員会は,これらの改善点を踏まえ,研究主題を設定しています。
本年度においては,学習過程の「さぐる段階」に焦点化し,資料から読み取った情報を
もとに事実認識を高める学習指導法を研究しました。これは,改善点に示された「情報を
基にして社会的事象の意味を考え表現できるようにする指導」の前段となる指導法の研究
であり,「基礎的な知識や技能を確実に身に付ける」指導法の研究でもあります。
研究の内容としては,「事実認識を高める」過程を,子どもが一つ一つの事実について
資料を収集・選択,分析・整理しながら理解していく過程としてとらえ,その手だての中
心に「中間交流」を位置付けました。そして,どのような中間交流を仕組めば,効果的に
事実認識を高めることができるのか,実践を通して研究を深めて参りました。本研究が,
本市小学校の社会科教育の推進に,少しでも寄与すれば幸いです。
最後になりましたが,本研究の機会と丁寧なご指導をいただきました福岡市教育委員会,
研究を支えていただきました研究委員所属校の校長先生方に,深く感謝申し上げます。
小学校社会科研究委員会
委員長 深 井 隆 弘
もくじ
○ はじめに
○ もくじ
○ 今年度の研究の考え方について
1 研究主題 P1
2 研究の考え方
3 主題
4 副主題 P2
5 仮説
6 中間交流 P3~5
○ さぐる段階について
1 調べさせ方 P6
2 まとめさせ方 P7
○ 実践例について
第5学年の実践例 P 8~11
第6学年の実践例 P12~15
○ 研究の成果と課題について P16
○ おわりに
○ 委員名簿
子どもが自ら調べ,考える社会科学習指導法の研究
事実認識を高める学習活動の工夫
今年度は,子どもが自ら調べ,考える社会科学習指導法の研究の2年次にあたる。 1 年次は学習問題づくり, 2 年次は追究の視点作成後の追究活動, 3 年次は最終的な交流活動
と,各段階に,学習活動の工夫を行っている。 今年度は学習問題設定後の子どもの追究活動に視点を当てて研究を行った。追究活動におい
て観察・資料活用を柱に,教師の資料の提示の仕方や,子どもの調べる方法,そして考えのふ
り返りのさせ方などを中心に実践を行った。 今年度研究の考え方
社会科研究委員会では,「自ら調べ,考える」姿を,次のようにとらえる。 「自ら調べ」とは,子どもが学習問題に対して,自分の追究の視点に沿って,各種の資料
から必要に応じて選択し,丹念に調べる活動のことである。調べていく過程で,他の子ども
たちからのアドバイスや質問をもとに,更に自分の考えを学習問題の答えに向かってより良
いものにしていくことである。 「考える」とは,子どもが調べた事実や他の友達の考えをもとに,学習問題の答えをつく
ることである。調べた事実の付加・修正を行い,自分の考えを高めることや,他の視点の考
えと自分の考えとを比較・関連させ,考えを深めることである。
今年度の研究の考え方
1 研究主題
2 研究の考え方
3 主題
1
・事実認識とは・・・ 「事実」とは,単元の内容を構成する一つ一つの具体的事実であ
る。下記の単元構成図で言うと,下段の四角囲みに示した一つ一つ
の事実となる。「事実認識」とは,その「事実」を,資料などの根拠
をもとに子どもが理解していることである。 ・事実認識が高まった子どもの姿とは・・・ 交流活動を通して,子どもがそれまで調べた事実に付け加えや修
正を行い,学習問題に対する自分なりの考えの根拠を強化している
姿である。 また,交流活動を通して,各種資料から自分の考えに合った資料
を選択できるようになったり,選択した資料からより適切な表現で
説明できるようになったりした姿である。
さぐる段階において,中間交流の活動を設定し,追究の視点が同じグループや,違うグル
ープでの交流を仕組めば,子どもが新たな事実を付け加えたり,調べた事実を修正したりし
て,事実認識を高めることができるであろう。
単元構成図 3 年「たくさん人が集まるキャナルシティ博多」
事実認識
高まった
事実認識
意味認識 関係認識
中間交流
今年度の取り組み
4 副主題
5 仮説
2
(1)中間交流とは
視点に沿って調べた事実や資料について,同質グループ(同じ視点を調べたグループ),あるい
は異質グループ(異なる視点で調べたグループ)で交流すること。交流する内容は「調べた事実」
「その事実の根拠となる資料」「資料の見方」「その事実が学習問題の答えにつながっているか」
などが中心となる。中間交流を行い他者の考えを取り入れることで,自分の考えを振り返ること
ができ,次時の追究活動に活かすことができる。
※同質グループとは,追究の視点において,同じ視点にたって調べているグループのこと。
異質グループとは,追究の視点において,違う視点にたって調べているグループのこと。
期待できる効果と意義
調べ活動に中間交流を仕組むことで「資料活用の技能」を向上させることができ,学習問題の答え
(社会的な見方・考え方)をとらえやすくなる。
(2)中間交流の設定場面
(3)中間交流の活動内容と得られる技能
「資料活用の技能」
○ 学習問題に対して,答えにつながる事実を資料から見つけることができる力(収集・選択)
○ 資料を多面的に解釈したり,つなげて考えたりできる力(分析・整理)
○ とらえた内容を表現物に表す(表現)
内
容 ○新たな事実が加わる ○新たな資料が加わる
○新たな資料の見
方が加わる ○学習問題とつながって
いるか検討できる
Aという事実しか調べ
ていなかったものに,
BやCという事実が加
わる。
①の資料からしか事実
を見つけていなかった
ものに②という資料か
らも見つけられるとい
うことが加わる。
①の資料の a から
事実を見つけてい
たが,bからも事実
を読み取れること
が分かり,1つの資
料を見る視点が加
わる。
調べている事実と学習問
題が関係あるかを話し合
うことで,事実の取捨選
択を行うことができる。
技
能 収集・選択 収集・選択 収集・選択 収集・選択
分析・整理
ね
ら
い
学習問題の答えに近づ
くための事実を増や
す。
より多くの資料から事
実を見つける。 1つの資料から多
面的に読み取るこ
とができる。
より多くの事実から取捨
選択を行い学習問題の答
えに近づける。
6 中間交流について
学習問題作り 予想の交流 追究の視点作り 調べ学習①
中間交流 自分の考えを見直す 調べ学習②
全体交流 学習問題の答えをまとめる
さぐる
3
(3)中間交流イメージ図
事=事実 資=資料
○新たな事実が加わる 交流前の事実認識 交流後の高まった事実認識 内容
1つの資料から考えを
作り上げる事実を増や
すことができる。
答えの予想
資①
資②
事 A
事 B
事 C
事 D
資①
資②
事 E
事 F
事 G
事 H
○新たな資料が加わる 交流前の事実認識 交流後の高まった事実認識 内容
資料が増えることで,考
えを作り上げるための
事実を増やすことがで
きる。
資①
資②
事 A
事 B
事 C
事 D
答えの予想
資③
資④
事 I
事 J
事 K
事 L
○新たな見方が加わる 交流前の事実認識 交流後の高まった事実認識 内容
同じ資料でも,新たな見
方が増えることで,すで
に見つけていた事実の
根拠を強化したり,自分
の考えを比較・関連した
ものにしたりできる。
資①
資②
事 A
事 B
事 C
事 D
答えの予想
新たな見方
資①
資②
事 A(強化)
事B (比較) (関連)
事C (比較) (関連)
事D(強化)
中間交流
中間交流
中間交流
4
中間交流は,単純に事実を増やせば良いというわけではありません。それらの事実が学習問題とつな
がっているのか検討をしながら,必要な事実を取捨選択,関連付けて自分なりの学習問題に対する考え
を高めていくものである。
(5)手順・進め方・留意点
※事実の交流に重点をおく場合は「同質A→異質」
資料の見方に重点を置く場合は「同質A→同質B」など,
子どもの実態に合わせて中間交流の設定を行う。
形
態 ○同質 A 【同じ視点を調べたグループ】 →事実や資料を交流する
○同質 B 【同じ視点を調べたグループ】 →資料を見る視点を交流する
○異質 【異なる視点を調べたグループ】 →学習問題の答えを検討する
内
容 ○新たな事実が加わる。 ○新たな資料が加わる。 ○学習問題とつながっている
か検討できる。
○新たな資料の見方が加わる。 ○新たな事実が加わる。
○新たな事実が加わる。 ○新たな資料が加わる。 ○学習問題とつながっているか
検討できる。
進
め
方
①事前に同質グループ(同じ視
点)でグルーピングしてお
く。 ②同質グループで事実と根拠
となる資料を交流し合う。 ③その事実がその資料から読
み取れるものなのか,学習問
題の答えとつながるのかを
検討する。
①事前に同質グループ(同じ視
点)でグルーピングしておく。 ※同じ資料で異なる事実を見つ
けている子どもでグルーピン
グをする。 ②同じ資料のどの部分から読み
取ったものかを交流し合う。
①事前に異質グループ(違う視
点)でグルーピングしておく。 ②異質グループで事実と根拠と
なる資料を交流し合う。 ③それぞれの視点の事実が学習
問題の答えとつながるか質問
をする。
留
意
点
○事実の出し合いになりかね
ないので,必ず根拠となる資
料も合わせて発表するよう
にする。 ○時間が少ない場合,聞く側は
事実より資料を主にメモす
るようにする。そうすること
で,中間交流後の調べ学習で
自ら調べることができる。
○必ずしも同質 A と別にグルー
ピングをする必要はない。3人
グループとして,その中の2人
でも交流ができる場合は交流
可能。その場合でも様々な資料
の見方をとらえることができ
る。
○それぞれの事実が少ないと検
討できないので,異質の交流を
行う前までに,それぞれの視点
でとらえさせたい内容は全員
がおさえておく。
5
「つかむ段階」でつくった学習問題の答えの予想から,追究の視点をつくり各自の視点に沿っ
て調べ活動を進めて行きます。調べさせ方は,
① 実際に施設や現場を見学する。
自分の追究の視点に沿って,施設や現場を見学します。見学したことはメモとして残すだけ
でなく,見学したことを写真などで記録しておくと,学習問題の答えになりそうなところを自
分の資料として活用し,自分の考えを表現しやすくなります。
② インタビューをする。
自分の追究の視点に沿って,インタビューをさせます。インタビューの型などを決めておく
とスムーズにインタビューできます。インタビューする相手が決まっている場合,まとめる段
階の方向性が決まっていれば,相手に事前に学習の流れなどをお伝えし,ある程度の方向性を
もって答えていただけるようにすると学習問題の答えにつながる自分の考えになります。
③ 文章資料を使う。
見学やインタビューで不十分なところ,見学やインタビューができないときには,文章資料を
準備しておき,そこから情報収集させます。資料の大切なところにはアンダーラインを引かせ
たりしながら,ノートなどに調べたことをまとめていきます。
④ 表やグラフを使う。
表やグラフを調べるときは,表やグラフの題名を見ながら自分の追究の視点にあったものを
選びます。その際,大きな増減の変化や全体の傾向また数量を意識させます。また,その変化
がどんな意味をもつのかを考えるとよいでしょう。自分に社会経験と事実をつながせると学習
問題の答えとのつながりに気づく場合もあります。
⑤ 年表を使う。
年表を読むときは,年代と年代の間の年数に着目し,その間の出来事を調べたり,中心にな
った人物の業績を調べたりします。また調べる際,年表を調べる視点ごとに分類すれば,子ど
もたちが調べる手がかりにもなります。
※ノートには資料の丸写しでなく,箇条書きや短い文など自分の言葉でまとめるようにしま
しょう。 ※全体で調べる時間を長くすることを避けましょう。特に6年生は時間的に厳しくなりま
す。そのために,子どもたちに集中して調べさせる訓練をしましょう。
さぐる段階について
1 調べさせ方
6
ここでは,これまでに調べた学習問題についての自分の考えの根拠をまとめる場面です。自分た
ちの考えを他の考えを持つ相手に説明するために必要な表現物を作ると良いでしょう。(教室掲示物
を使って説明する場合は省略しても構いません。)社会科の身につけさせる能力の一つに「表現力」
があるので,多様な表現方法を身につけさせておきましょう。しかし,調べたことを表現物にまと
める際には,それなりの時間が必要になってくるので,計画的・効率的に学習に位置づけておくこ
とが大切です。
〈まとめさせ方のポイント〉
① 図や表などを使ってまとめさせる。 説明する相手に自分の考えやその根拠をよりわかりやすく伝えるために,図や表
などを使ってまとめさせると効果的です。 ② 調べた事実とそこから考えられることを区別してまとめさせる。
自分の考えを説明するために,調べてきた事実(根拠)とそれらの事実から考え
られることをわかりやすく区別してまとめさせるといいでしょう。
③ 学習問題とのつながりを意識してまとめさせる。
自分の考えがどのように学習問題とつながるのかを明確にまとめさせることで,
より説得力のある考えになります。
《表現物の例》 ○画用紙・・・1枚にして必要な言葉,図(絵),を用いて簡潔にまとめさせる。 ○新聞形式・・・記事(調べた事実や絵,グラフ),社説(自分の考え) ○パンフレット形式・・・説明の工夫(箇条書き,読み手への問いかけ),キャッチコピー
2 まとめさせ方
7
5年生での実践例 「自動車工業の盛んな地域」
1. 学習問題の考え方
日産自動車九州工場では,なぜ1日に2,000台もの自動車をつくることができるのだろう。
日産自動車九州工場では,たくさんの自動車をつくるために関連工場と連携しながら,ロボットと人が仕事を分担して
流れ作業をしている。また,生産した自動車を速くたくさん運ぶ工夫をしたり,これからの時代に求められる自動車をつ
くるための技術の開発を行ったりしている。
追究の視点について
「工業生産に従事している人々の工夫や努力」を調べるとは,工業の盛んな地域
の事例を取り上げ,我が国の工業生産に従事している人々が,消費者の多様な
需要にこたえ,環境に配慮しながら,優れた製品を生産するために様々な工夫
や努力をしていることを具体的に調べることである。
ここで取り上げる「工業生産に従事している人々の工夫や努力」としては,原材
料の確保や製造の過程,製品の販売や消費地への輸送,新しい技術の開発,資
源の有効な利用と確保,環境保全への取組などに見られる工夫や努力を取り上
げることが考えられる。
○ 工場内の工夫だけでなく,関
連工場との関わりによって優
れた製品を効率的に生産して
いること。 ○ 工場内では,人とロボットが
分業したり,長い組立ラインに
よる流れ作業を行ったりして
いる。関連工場が近くにあり,
ジャスト・イン・タイム方式で
1つの工場のようにつながっ
ていること。
日産自動車九州工場で,1日に2,000台もの自動車をつくることができるのは,「工場
の中の工夫」と「工場の外の工夫」などのつながりにある。そこには,たくさんの車を正確
につくるための工夫や努力を見ることができる。この学習問題について追究していくことは,
工業生産に従事している人々の工夫や努力を調べていく上で有効であると考える。
A:工場の中の工夫 B:工場の外の工夫
工場の広さや効率のよい配置,流れ作業や分
業による工程の工夫や機械化に生産を高めて
いる。
組立工場と多くの関連工場がつながって一
つの大きな工場のようになっている。
学習指導要領の分析
8
【3・5学年部】
ここでは,これまでに調べた学習問題についての自分の考えの根拠をまとめる場面です。自分とは調
べた事実や視点が異なる相手によりわかりやすく伝えるために表現物などにまとめる工夫を行います。
3・5学年部では,調べたことをもとに,画用紙にまとめさせました。
〈まとめさせ方のポイント〉
①調べた事実を図や写真を使ってまとめさせる。
説明する相手にわかりやすく伝えるために,図や表などを用いてまとめさせるとよいでしょう。
②調べた事実から考えられることを書きまとめさせる。
調べた資料からわかった事実の中で,学習問題の答えにつながる考えを書きまとめさせるとよいで
しょう。
③調べた事実の学習問題とつながる部分を赤で囲ませる。
調べた事実のどこに着目すれば学習問題の答えにつながる考えを説明できるか,印をつけておけば
中間交流の際に説明しやすくなるでしょう。
《表現物の例》 ○画用紙…1 枚にして必要な言葉,図(絵)を用いて簡潔にまとめさせる。 ○新聞形式…記事(調べた事実や絵,グラフ),社説(自分の考え) ○パンフレット形式…説明の工夫(箇条書き,読み手への問いかけ),キャッチコピー
調べた事実
注目してもらい
たいこと
考えられること
2.まとめさせ方
9
中間交流1(本時では「同質A」の中間交流)
グループ構成
児童 交流前の事実認識 中間交流の様子 交流後の高まった事実認識
a 児
b児
c児
※ c児は,交流前の追究活動において,他の子どもよりも事実認識を高めることができており,中間
交流 1 において特に事実認識の高まりは見られないが他の子どもの事実認識を高める手助けができ
ている。
中間交流2(本時では「異質」の中間交流)
関連工場と自動
車工場が近くに
ある。
○
関連工場どうし
のつながり
×
関連工場と自動
車工場が近くに
ある。
○
関連工場どうし
のつながり
○
関連工場と自動車
工場のつながり。
○
関連工場どうしの
つながり
○
関連工場と自動車
工場のつながりの
仕組み
×
関連工場と自動車
工場のつながり。
○
関連工場どうしの
つながり
○
関連工場と自動車
工場のつながりの
仕組み
○
ジャスト・イン・
タイム方式
○
関連工場どうしの
つながり
○
関連工場と自動車
工場のつながりの
仕組み
○
3.指導の実際
中間交流 1 では,友達の考えを聞いて自分の考えに付け加えをしたり,友達にアドバイスをしたりすること
をねらいとして,「考えの根拠となる事実が同じで,同じ資料で調べた」少人数グループ(3~4 人)を構成し,
交流を行った。交流後は,考えの根拠となる資料からわかる新たな事実を付け加えた考えをもつことができた。
「考えの根拠となる事実が同じで,同じ資料で調べた」少人数グループ
a 児…考えの根拠となる事実について,1つの資料をもとに考えをつくることができている。
b児…考えの根拠となる事実について,2つの資料をもとに考えをつくることができている。
c児…考えの根拠となる事実について,2つ以上の資料の内容を詳しく読み取り,考えにつなげることができている。
大きな変化はない(※)
発表順 a 児→b児→c児 a 児:自動車工場の近くに関連工場が
あります。関連工場は,道路の近くに
あり,つくった部品をすぐに運ぶこと
ができるから,たくさんの自動車をは
やくつくることができると思います。
b児→a 児:関連工場どうしもつなが
っていて分担してつくっているよ。
b児:関連工場から部品を必要な時間
に自動車工場に運んでいます。また,
関連工場どうしも分担してつくって
いるので,たくさんの自動車をはやく
作ることができると思います。
C 児→b児:関連工場から届く部品は
届けられる数も決まっているんだよ。
C 児→b児:関連工場から必要な時間
に必要な数届けることを「ジャスト・
イン・タイム」方式というんだよ。こ
の仕組みがあるから,時間や部品のむ
だなくつくれるんだよ。
10
グループ構成
児童 交流前の事実認識 中間交流の様子 交流後の高まった事実認識
a 児
b児
c児
自動車工場では,たくさ
んの人やロボットが協力
して作業している。
△
関連工場が一つの部品で
も,第 1 次から第 3 次ま
で細かく分かれている。
△
長い組立ラインで流れ作
業を行って部品を素早く
取りつけている。
△
交流 2 では,友達の資料が,その主張点にふさわしい資料であるか,相手の資料が学習問題につながっているかという視点を持た
せ,質問を行うことをねらいとして「異なる追究の視点を調べた」少人数グループ(3~4 人)を構成し,交流を行った。友
達の発表を聞く際,聞く側は,発表者の調べた事実や考えが学習問題の答えにふさわしいかどうか質問したいことを付箋紙
に書き込み,友達の表現物にはっていく。交流後は,次時の再追究活動で追究していくことを明確にすることができた。
「異なる追究の視点を調べた」少人数グループ
a 児…追究の視点Aについて,事実をもとに考えをつくることができている。
b児…追究の視点Bについて,事実をもとに考えをつくることができている。
c児…追究の視点 A について,事実をもとに考えをつくることができている。
a 児
自動車工場の中では,たくさんのひと
とロボットが協力して働いているので,
はやくたくさんの自動車をつくること
ができると思います。
b児→a 児
人とロボットがどのように協力してい
るんですか?
b児
関連工場では自動車工場と分担して
協力しながら自動車をつくっているの
で,はやくたくさんの自動車をつくるこ
とができると思います。
c児→b児
なぜそのように3つに分けているん
ですか。
c児
1つの組立ラインで流れ作業で,正確
にはやく部品を取りつけているので,短
い時間にたくさんの車をつくることが
できます。
b児→c児
なんでまちがえずに部品を取りつけ
ることができるんですか?
人とロボットの協力の仕方やそ
の良さを調べるという次時の追
究活動の見通しをもつことがで
きた。
なぜ細かく分担しているのかを
調べるという次時の追究活動の
見通しをもつことができた。
なぜたくさんある部品を正確に
取りつけることができるかを調
べるという次時の追究活動の見
通しをもつことができた。
11
学習指導要領の分析
6年生での実践例 「新しい日本へのあゆみ」
1. 学習問題の考え方
戦後の日本は,たった 19 年の間にどのようにしてオリンピックを開ける国になったのだろう。
本単元は,終戦直後の人々のくらしや日本国憲法の制定,経済の発展,オリンピックの開催などについて調べ,我が国
は,第二次世界大戦後,民主国家として出発したことや,我が国は,国民生活が向上し,国際交流や国際貢献の面で重要
な役割を果たしてきたことを理解する。そして,これらの戦後の変化により,国民生活が豊かになり,国際社会において
も重要な役割を果たしてきたことに誇りをもち,今後の日本の役割について自分なりの展望をもてるようにする。
追究の視点について
「日本国憲法の制定」について調べるとは,戦後民主的で平和的な憲法
が制定されたことを調べ,戦後我が国が民主的な国家として出発したこ
とが分かるようにすることである。なお,憲法の基本的な原則などにつ
いては,内容の(2)のイの日本国憲法に関する学習において指導するよ
うにする。
「オリンピックの開催」について調べるとは,例えば,スポーツの祭
典としてアジアで初めて東京で行われたオリンピック大会や,その後我
が国で開催されたオリンピック大会を取り上げて調べ,戦後我が国の国
民生活が向上したことや我が国が国際社会において重要な役割を果た
してきたことが分かるようにすることである。
○ 日本国憲法が制定され,民主的な
新しい国づくりのための様々な改
革が行われていくこと。 ○ 朝鮮戦争を機に発展した日本経
済は,人々の努力や日本の高い技術
によって発展したことや,経済の発
展に伴い,家庭電化製品の進歩や社
会保障制度が整ってきたこと。 ○ 外国と結んだ条約や国際連合へ
の加盟,経済発展とともに国際社会
に尽力し続けた日本が,先進国の役
割を果たしてきたこと。
戦後,焼け野原の状態だった日本が,たった 19 年の間にオリンピックを開くことができ るようになったわけは,「新しい国づくり」と「外国の関わり」と「人々のくらしの変化」な どのつながりにある。この学習問題について追究していくことは,戦後の日本が日本国憲法 を制定し民主的な国家として出発したことや,国民の不断の努力によって国民生活が豊かに なり向上したこと,国際社会において重要な役割を果たしてきたことなどを調べていく上で 有効であると考える。
A:新しい国づくり B:外国との関わり C:人々のくらしの変化
日本国憲法を制定し,民
主的な国家として出発
するための様々な改革
他国と結んだ条約や,国
際連合への加盟 戦後から高度経済成長
期にかけての産業の発
達や生活の変化
12
中間交流をするまでに,子どもたちはそれぞれの追究の視点に沿った追究活動と,追究活動後の表
現物づくりに取り組んでいる。 中間交流会では,自作の表現物をもとに交流を行った。 表現物には,
を記してまとめることを全体でおさえ,表現物づくりに取り組ませた。
《表現物の例》 ○画用紙・・・1枚にして必要な言葉,図(絵),を用いて簡潔にまとめさせる。 ○新聞形式・・・記事(調べた事実や絵,グラフ),社説(自分の考え) ○パンフレット形式・・・説明の工夫(箇条書き,読み手への問いかけ),キャッチコピー
①
②
調べた 事実
調べた 事実から
考えられ
ること 図や表の
活用
④ 学習問題と
のつながり
2.表現物のまとめさせ方
①図や表の活用 ②追究活動によって調べた事実 (どの資料からその事実を調べたのか,資料の種類を記号で明記する。) ③調べた事実から考えられること ④学習問題とのつながり
③
13
中間交流1(本時では「同質 B」の中間交流)
グループ構成
児童 交流前の事実認識 中間交流の様子 交流後の高まった事実認識
a 児
b児
c児
※ a 児は,交流前の追究活動において,他の子どもよりも事実認識を高めることができている。よっ
て,中間交流 1 において特に事実認識の高まりは見られないが,b児やc児に対して,事実認識を高
める手助けができている。
中間交流2(本時では「同質 A」の中間交流)
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 ○
国際連合加盟 ○
独立回復 ○
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 ○
国際連合加盟 △
独立回復 ×
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 ×
国際連合加盟 ×
独立回復 ×
3.指導の実際
中間交流 1 では,事実認識を深めるための考えの根拠となる資料を見直すことをねらって,「考えの根拠とな
る事実が同じで,異なる資料で調べた」少人数グループ(3~4 人)を構成し,交流を行った。交流後は,考え
の根拠となる資料に訂正を加えたり,より詳しく説明するために付加する資料は何かの見通しをもつことがで
「考えの根拠となる事実が同じで,異なる資料で調べた」少人数グループ
a 児…考えの根拠となる事実について,資料の内容を詳しく読み取り,考えにつなげることができている。
b児…考えの根拠となる事実について,資料をもとに考えをつくることができている。
c児…考えの根拠となる事実について,資料をもとに事実を見つけることができている。
発表順:①c児→②b児→③a 児 ①c児
外国と条約を結び,外国と仲良
くなれたことが,オリンピックを
開催できた一番の理由だと思い
ます。
②b児 サンフランシスコ平和条約や
日米安全保障条約が結ばれ,色々
な国との信頼関係が強くなった
ことにより国際的な地位が高ま
ったことが,オリンピックを開催
できた一番の理由だと思います。
③a 児 サンフランシスコで開かれた
講和会議では48か国と平和条約
を結び,日本は独立を回復しまし
た。また,アメリカと日米安全保
障条約を結んだこと,国際連合に
加盟したことなどから,日本は外
国からも少しずつ信頼されるよ
うになり,国際社会に復帰するこ
とができるようになりました。
このように,日本は外国との関
わりを深めていき,国際的な地位
と信頼を高めていったことが,オ
リンピックを開催できた一番の
理由だと思います。
大きな変化なし※)
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 ○
国際連合加盟 ○
独立回復 △
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 ○
国際連合加盟 △
独立回復 △
14
グループ構成
児童 交流前の事実認識 中間交流の様子 交流後の高まった事実認識
a 児
b児
c児
※ 中間交流1と同様に,a 児は,考えが大きく広まったわけではないが,b児やc児に対して,考え
を広める発表やアドバイスをして,事実認識を高める手助けができている。
日本国憲法 ○
日本国憲法の三つの原則 ○
男女平等 ○
教育制度改革 ○
国の民主化 ○
日本国憲法 ○
日本国憲法の三つの原則 ×
男女平等 ○
教育制度改革 ○
国の民主化 △
サンフランシスコ平和条約 ○
日米安全保障条約 △
国際連合加盟 △
独立回復 ×
日本国憲法 ○
日本国憲法の三つの原則 △
男女平等 ×
教育制度改革 ×
国の民主化 ×
中間交流 2 では,考えを広げるための事実と,それを関連付ける資料を付加することをねらって,「追究の
視点が同じで,異なる事実を調べた」少人数グループ(3~4 人)を構成し,交流を行った。友達の発表を聞
く際,聞く側は,発表者の調べた事実やその資料の出処を付け加えていく。交流後は,次時の再追究活動で付
加したい事実と,そのための資料の出処を明確にすることができた。
「追究の視点が同じで,異なる事実を調べた」少人数グループ
a 児…自分が調べる追究の視点について,3 つ以上の事実をについて詳しく調べ,考えをつくることができている。
b児…自分が調べる追究の視点について,2~3 つ程度の事実をもとに考えをつくることができている。
c児…自分が調べる追究の視点について,1~2 つ程度の事実を見つけることはできているが,考えの深まりにはつながっていない。
発表順:①c児→②b児→③a 児 ①c児
戦後の日本は,新しい国づくりを
すすめるために,まず初めに憲法を
制定しました。憲法を制定したこと
で国の仕組みが整ったことが,オリ
ンピックを開催できた一番の理由だ
と思います。
②b児
戦後の日本は,新しい憲法が制定
され,様々な改革が行われました。
そして教育制度が整えられたり,女
性が政治に参加できる仕組みが整え
られたりし,国が安定していきまし
た。このことが,オリンピックを開
催できた一番の理由だと思います。
③a 児
戦後,日本国憲法が制定され,民
主的な国を目指して様々な改革が行
われました。教育制度改革では,義
務教育が小・中学校の計 9 年間にな
り,男女共学になりました。また,
男女平等な社会を築くために,選挙
法の改正によって女性の参政権が認
められ,女性議員が誕生しました。
戦後初めての選挙では,39 人の女性
議員が当選しました。このように,
日本は民主化が進み,国が安定して
いったこと,外国からも信頼される
ようになったことが,オリンピック
を開催できた一番の理由だと思いま
す。
大きな変化なし※)
日本国憲法 ○
日本国憲法の三つの原則 △
男女平等 ○
教育制度改革 ○
国の民主化 ○
日本国憲法 ○
日本国憲法の三つの原則 ○
男女平等 △
教育制度改革 △
国の民主化 △
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研究の成果と課題
成 果
○ 中間交流において,根拠となる資料を入れた表現物を用い,話し合ったので,自分の考え
と友達の考えを比べ,新たな考えをつくることができた。 ○ 同質・異質の少人数グループによる中間交流を仕組んだことで,根拠となる事実を確実に
増やすことができ,次時の追究活動の見通しをもつことができた。
課 題
○ 中間交流を行うことが目的になったところがあり,中間交流後の考えのふり返りができな
かったために,子ども自身がどれだけ自分の考えが深まっていったのかを十分に実感できな
かった。 中間交流の必要性を子どもが感じるような手立てや子どもの実態にあった中間交流の進
め方を今後研究していく必要がある。
16
おわりに
福岡市小学校社会科研究委員会では,研究主題「子どもが自ら調べ,考える社会科学習
指導法の研究」を設定し,今年度が2年次にあたります。1年次の「子どもが意欲的に調
べる学習問題作りの工夫」を受け,今年度は「事実認識を高める学習活動の工夫」を設定
し研究に取り組みました。
この副主題は,社会科学習を進めていく実践上の課題として常々語られることの多い
「子どもたちに問題解決の力をどのように身に付けさせていけばよいか?」ということに
スポットをあてたものだと考えています。
問題解決の力の中でも,私たちが特に焦点化したのが「事実認識」です。一口に「事実
認識」といっても「資料の収集」「資料の読み取り」「事実の取り出し」「事実をもとにし
た解釈」など連続した活動があります。学習問題に対する事実認識を積み重ねていく力は
教師が説明してできるものではなく,その活動を行うことでしか身に付けていくことはで
きません。
そこで,「事実認識」を積み重ねていく方法の一つとして,追究の視点が同じグループ
や違うグループで子どもが新たな事実を付け加えたり調べた事実を修正したりしながら,
事実認識を高めることのできる「中間交流の活動」を位置づけることとしました。私たち
が「中間交流の活動」でねらったことは,以下の2点です。
1 中間交流の活動では,「資料活用の技能」を向上させることがねらいであり,このこ
とによって事実認識を少しずつ高めることができる
2 中間交流の活動では,学習問題とどうつながるかを検討しながら必要な事実を取捨選
択・関連付け,学習問題に対する自分なりの考えを高めることができる
中間交流の活動に取り組むことによって,子どもたち一人一人では気づかなかった学習
問題の答えにつながる事実を増やしたり,事実と事実を関連させたりする姿を確認するこ
とができました。
最後になりましたが,社会科研究委員会の研究推進にあたりご指導くださいました福岡
市教育委員会 指導部 主任指導主事 清水浩一先生,福岡市教育センター研修・研究課 第
一係長 吉村明先生,授業研究の会場や委員の出張に際してご配慮くださいました各委員
所属校の校長先生方に深く感謝申し上げます。
小学校社会科研究委員会
副委員長 太 田 康 治
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平成 27年度 福岡市社会科研究委員会 研究委員名簿
委員長 福岡市立警固小学校 校長 深井 隆弘
副委員長 福岡市立西花畑小学校 教頭 太田 康治
NO 所属 委員名 所属部 学年
1 福浜小学校 星子 竜一 中・高学年チーフ 3年担任
2 住吉小学校 日浅 雄大 中・高学年 3年担任
3 香椎浜小学校 藤尾 浩明 中・高学年 5年担任
4 警固小学校 宮川 元気 中・高学年 5年担任 5 老司小学校 園田 宏朗 中・高学年 5年担任 6 勝間小学校 川田 佳明 中・高学年 5・6学年担任
7 小田部小学校 原田 まみ子 6学年部 6年担任
8 鳥飼小学校 諸岡 哲朗 6学年部 6年担任 9 飯原小学校 中村 剣志郎 6学年部 6年担任
10 博多小学校 糸山 雄一郎 6学年部 6年担任 11 板付北小学校 久保 裕也 6 学年部チーフ 6年担任 学校指導課 主任指導主事 清 水 浩 一
研修・研究課 第 一 係 長 吉 村 明
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