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未分化iPS細胞を障害除去する iPS/ES細胞特異的抗体
立命館大学 総合科学技術研究機構(糖鎖工学研究センタ―)
客員教授 川嵜 敏祐
立命館大学新技術説明会 2013.02.15
Epitopes: 174, Antibodies 613 糖鎖抗原-抗体データベース
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生体から 得た 細胞を培養する
必要な遺伝子を導入する(赤色が遺伝子導入された 細胞)
細胞を一旦集め、ES細胞の専用培地で培養する
遺伝子導入された細胞の一部がiPS細胞となり、ES細胞様の コロニーを形成する
Oct3/4 Sox2 Klf4
ヒトの患者自身からiPS細胞を樹立する技術が確立されれば、免疫拒絶の無い移植用組織や 臓器の作製が可能になると期待されている。
iPS細胞 (induced pluripotent stem cells、人工多能
性幹細胞)とは、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の転写因子(遺伝子)を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)に似た分化万能性(pluripotency)を持たせた細 胞のこと
出典:Wikipedia
細胞表面マーカー (実は糖鎖抗原)で同定
SSEA-3, 4, TRA-1-60, TRA-1-81 GCTM2, GCT343 K4, K21
iPS細胞と再生医学
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抗体 エピトープ 免疫原
SSEA-3 グロボシリーズの糖脂質(3GalNAcβ1-3Galα1-4Gal) 4-8 cell stage mouse embryos
SSEA-4 グロボシリーズの糖脂質(NeuAcα2-3Galβ1-3GalNAc) EC細胞(2102ep)
Tra-1-60 Podocalyxin上ケラタン硫酸(シアル酸関与) EC細胞(2102ep)
Tra-1-81 Podocalyxin上ケラタン硫酸 EC細胞(2102ep)
GCTM2 プロテオグリカン(ケラタン硫酸) EC細胞(GCT27)
GCTM343 プロテオグリカン(ケラタン硫酸) EC細胞(GCT27)
ES、iPS細胞の細胞表面マーカー
問題点:これらの抗体はEC(embryonal carcinoma)細胞などを 免疫原として作成されたものであり、iPS細胞に特異的でない 目的:iPS細胞を免疫原としてiPS細胞に特異的な抗体を作成する
実は、多くは糖鎖(糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質)抗原である
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ヒトiPS, ES, EC細胞に対するR-17Fの結合性
mAbR-10G およびR-17F は、iPS細胞 (Tic) およびES細胞 (KhES-3、H9) とよく結合するが、EC細胞(2102Ep、NCR-G3)にはほとんど結合しない
抗体
各抗体による免疫染色の結果をInCellで解析
※1:ES細胞を免疫原として作成された抗体。 Podocalyxinを認識する抗体
※2:anti-Podocalyxin antibody。リコンビナントPodocalyxinの細胞外ドメインを免疫原に作成された抗体
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M :分子量マーカー PC:positive control (TRA-1-60)
Western Blotによる結合性の検討
M
iPS 細胞 抽出液 M
10 G
11 A
12 D
17 F 25 26 27 PC A) B)
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R-10G と TRA-1-81 による iPS 細胞の染色 Hochest Nomarski
×100
×200
×400
TRA-1-81 R-10G Merge
ヒトiPS細胞は複雑な表面糖鎖抗原を発現している多様なローンの集団である
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250→
10→
25→
37→
50→
75→
100→
150→
15→
(KDa)
20→
SyproRuby
Western Blotting
A B
C
A B
C
Cell membrane
23
558
Thr-rich (35-334)
482
462
Extracellular domain
Cytoplasmic domain
x
x
x x x N-Glycan
R−10G 抗原タンパク質はポドカリキシンと同定された
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R-10Gエピトープのヒト体内分布
• ヒト正常組織(胎児/成人)をR-10Gで免疫染色した結果、 大脳・小脳(成人のみ)と肝臓(胎児のみ)でR-10Gと
結合性を示した。
ヒト正常組織:大脳・小脳・心臓・胃・肝臓・肺・胸腺・結腸・腎臓・ 脾臓・胎盤・膀胱・皮膚・筋組織・舌
(BioChain Institution, Inc. Hayward, CA)
成人 大脳 成人 小脳 胎児 肝臓
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抗原ポリペプチド部分はポドカリキシンと同 定された。
TRA-1-60 TRA-1-81
R-10G
200-400kDa
ケラタン硫酸付加ポドカリキシン
2011年5月、クローン化ハイブリドーマに対する米国国際特許仮申請
R-10Gまとめ
1. 抗体R-10G (IgG1) はこれまでヒト多能性幹細胞マーカー抗体として汎用されているTRA-1-60 (IgM), TRA-1-81 (IgM) と異なり、EC細胞を認識せず、iPS/ES細胞を特異的 に認識した。
R-10Gは多能性幹細胞以外では脳組織を染色した。ラット脳に含まれる 抗原タンパク質はテネイシン-R およびPTP-zetaと同定された。
R-10Gは市販の高硫酸化ケラタン硫酸認識抗体、5D4およびBCD4と異なり、過剰硫酸 化のほとんどないケラタン硫酸を認識した。
2.
3.
4.
5.
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SSEA-4 SSEA-3 R-17F Nomarski
SSEA-4 + SSEA-3 SSEA-4 + SSEA-3 + R-17F
マージ像
×80 R-17F、SSEA-3、-4のエピトープは細胞表面分布が異なる
細胞障害性iPS/ES細胞特異的抗体 R-17F
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抗体R-17Fの性質 ヒトiPS/ES細胞陽性、EC細胞陰性の新規抗体である。IgG1抗体であり、取り扱
いが容易。
特異性が非常に高い。ヒト組織アレイ(成体および胎児、それぞれ16組織)を用いて検討した結果、1-2の例外を除いて染色性を示さない。
強い補体非依存的細胞障害活性を示す。ターゲット細胞としてTic,201B7を確認。
エピトープはウエスタンブロット陰性で、細胞のトリプシン処理に抵抗性を示し、糖 脂質合成阻害剤により細胞表面の発現が減少することから膜糖脂質性物質である。
TLC-免疫染色で糖脂質領域に2種のバンドを示す。
細胞分布は他のヒトiPS/ES細胞マーカー抗体 (R-10G, TRA-1-60, TRA-1-81, SSEA-3, SSEA-4) と一部共局在するが、基本的には独立した分布を示す。
2012年12月21日 国内特許出願
再生医学における抗体R-17F確立の意義 • R-17Fは再生医療における多能性未分化細胞の規格化・標準化に新たな指標を
加えた。
• R-17Fは、多能性幹細胞より分化誘導された細胞に混在する未分化細胞を選択的に除去し、混在未分化細胞による癌の発生を抑成する薬剤として使用できる可能性が高い。
• R-17Fエピトープはこれまで報告されていない新規膜糖脂質である可能性が高く、化学構造の決定とその生理作用(細胞障害活性)の関係解明が期待される。
R-17Fの研究概要
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立命館大学糖鎖工学研究センタ― 河邊 圭子 中尾 広美 松本 尚悟 野中 元裕 川嵜 伸子
立命館大学薬学部 滝嶌 佑人 廣瀬 佳則 豊田 英尚 国立医薬品食品衛生研究所 川崎 ナナ
医薬基盤研究所 古江 美保 京都大学医学部 岡 昌吾 島津製作所 奥村 毅
共同研究者
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抗体の有効利用へ向けて 1. エピトープの解析 2. iPS/ES分化段階とエピトープ発現との関係 3. 細胞傷害活性の作用機序 4. 抗体改変研究
期待される応用 1. 生体分子分布解析ツールとしての実用化 2. iPS細胞を用いた再生医療への実用化研究
企業への期待
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• 発明の名称 : 標的細胞障害活性を有するiPS/ES細胞 特異的抗体及びその用途
• 出願番号 : 特願2012-280259
• 出願人 : 学校法人立命館、 独立行政法人医薬基盤研究所
• 発明者 : 川嵜敏祐、川嵜伸子、古江美保、川端健二
• 発明の名称 : ヒトiPS細胞を免疫原として得られた特異的 単クローン抗体
• 出願番号 : (米国仮出願)2099-000003
• 出願人 : 学校法人立命館、 独立行政法人医薬基盤研究所
• 発明者 : 川嵜敏祐、川嵜伸子、河邊圭子、古江美保
本技術に関する知的財産権
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お問い合わせ先
立命館大学 研究部 リサーチオフィス(BKC) 矢野 均
TEL:077-561 - 2802 FAX:077-561 - 2811 E-mail:[email protected]