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A. Asano, Kansai Univ. 2014年度秋学期 応用数学(解析) 浅野 晃 関西大学総合情報学部 第5部・測度論ダイジェスト ルベーグ測度と完全加法性 第14回

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

2014年度秋学期 応用数学(解析)

浅野 晃 関西大学総合情報学部

第5部・測度論ダイジェスト ルベーグ測度と完全加法性

第14回

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A. A

sano

, Kan

sai U

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

積分f(x)

xp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

積分f(x)

xp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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p q

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

積分f(x)

xp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

積分f(x)

xp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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p q

だから,

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測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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2014年度秋学期 

A. A

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, Kan

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niv.

積分に対する疑問

aのところで幅0の 直線を抜いても 積分の値は変わらない

積分f(x)

xp q

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測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

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p q

だから,

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測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を何本抜いても 積分の値は変わらないp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

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niv.

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幅0の直線を何本抜いても 積分の値は変わらないp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

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p q

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を何本抜いても 積分の値は変わらないp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

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可算無限個の直線を 抜いても

p q

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sano

, Kan

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niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を何本抜いても 積分の値は変わらないp q

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測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

可算無限個の直線を 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を何本抜いても 積分の値は変わらないp q

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

可算無限個の直線を 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「数えられる」無限

自然数とは,数えるための数字1, 2, 3, …

自然数の集合と同じ無限を 「数えられる無限」すなわち [可算無限]という

そして,「無限」

その「個数」は[可算基数]

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第2回第1部・「無限」の理解/ 無限にも大小がある

微分・積分の話をするとき,必ず出てくるのが「無限に」「無限の」という概念です。この講義の第1部では,「無限」を数学でどのようにとらえているか,3つの話題を通して説明します。

無限とは「コト」

「無限大」を表すのに,∞という記号を使います。この記号は,数学以外に日常用語としても使われていると思います。

しかし,間違えてはいけないのは,∞という数があるわけではない,ということです。「無限」というのは,「無限というモノ」ではなく,「無限であるコト」です。一方,数学において計算によって取り扱うことができるのは,実体のある数字,すなわち「モノ」です。そこで数学では,無限というコトを,人が取り扱うことができる具体的な数字を通じて理解しようと努めてきました。

自然数と「数えられる無限」

自然数とは「1, 2, 3, . . .」という数ですが,これは「ひとつ,ふたつ,みっつ, . . .」と物を数えるために考えられた,人類にとってもっとも基本的な数です。一方,ここで「. . .」と書いたように,人類にとってもっとも身近な「無限」でもあります。そこで,自然数の集合が無限であることと同じ意味での無限を,「数えられる無限」の意味で可算無限といいます。自然数の「個数」はもちろん無限ですから,数字で表すことはできませんが,仮に個数のようなものがあると考えて,これを可算基数といい,ℵ0(アレフゼロ)という記号で表します。

さて,ある集合の要素を数えることを考えてみましょう。集合Aの要素を数えることは,Aの各要素に 1, 2, 3, . . . と自然数を割り付けていくのと同じです。この割り付けがAのすべての要素について可能なとき,「集合Aの要素と自然数の集合の要素の間に一対一対応がつく」あるいは「集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在する」といいます。集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在するとき,集合Aは自然数と同じ無限である,すなわち基数(あるいは濃度)が ℵ0であるといいます。

「自然数と対応がつくものは数えられる」というのは,当たり前のような話ですが,無限はそう簡単ではありません。たとえば,偶数の集合を考えてみましょう。これが「一桁の偶数」という有限集合なら,自然数の集合は {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9},偶数の集合は {2, 4, 6, 8}ですから,自然数は偶数より倍近く多いことになります。しかし,「すべての偶数」という無限集合を考えると,自然数と偶数には 1と 2,2と 4,3と 6,. . .,1234と 2468,. . .,nと 2n,. . . のように一対一対応がつく,すなわち全単射が存在します。すなわち,偶数の基数も自然数と同じ ℵ0です。自然数と偶数は「個数が同じ」なのです。

ヒルベルトの「ホテル無限」

数学者ヒルベルト (Hilbert)が述べた,無限についての一種のたとえ話があります。

「ホテル無限」には ℵ0室の部屋があります。このホテルが満室の時に,ひとりの旅人がやってきました。この旅人は,泊まることができるでしょうか?

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第2回 (2014. 10. 2) http://racco.mikeneko.jp/  1/4 ページ

(アレフゼロ)

(よく「可算無限個」という)

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「数えられる」無限

自然数とは,数えるための数字1, 2, 3, …

自然数の集合と同じ無限を 「数えられる無限」すなわち [可算無限]という

そして,「無限」

その「個数」は[可算基数]

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第2回第1部・「無限」の理解/ 無限にも大小がある

微分・積分の話をするとき,必ず出てくるのが「無限に」「無限の」という概念です。この講義の第1部では,「無限」を数学でどのようにとらえているか,3つの話題を通して説明します。

無限とは「コト」

「無限大」を表すのに,∞という記号を使います。この記号は,数学以外に日常用語としても使われていると思います。

しかし,間違えてはいけないのは,∞という数があるわけではない,ということです。「無限」というのは,「無限というモノ」ではなく,「無限であるコト」です。一方,数学において計算によって取り扱うことができるのは,実体のある数字,すなわち「モノ」です。そこで数学では,無限というコトを,人が取り扱うことができる具体的な数字を通じて理解しようと努めてきました。

自然数と「数えられる無限」

自然数とは「1, 2, 3, . . .」という数ですが,これは「ひとつ,ふたつ,みっつ, . . .」と物を数えるために考えられた,人類にとってもっとも基本的な数です。一方,ここで「. . .」と書いたように,人類にとってもっとも身近な「無限」でもあります。そこで,自然数の集合が無限であることと同じ意味での無限を,「数えられる無限」の意味で可算無限といいます。自然数の「個数」はもちろん無限ですから,数字で表すことはできませんが,仮に個数のようなものがあると考えて,これを可算基数といい,ℵ0(アレフゼロ)という記号で表します。

さて,ある集合の要素を数えることを考えてみましょう。集合Aの要素を数えることは,Aの各要素に 1, 2, 3, . . . と自然数を割り付けていくのと同じです。この割り付けがAのすべての要素について可能なとき,「集合Aの要素と自然数の集合の要素の間に一対一対応がつく」あるいは「集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在する」といいます。集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在するとき,集合Aは自然数と同じ無限である,すなわち基数(あるいは濃度)が ℵ0であるといいます。

「自然数と対応がつくものは数えられる」というのは,当たり前のような話ですが,無限はそう簡単ではありません。たとえば,偶数の集合を考えてみましょう。これが「一桁の偶数」という有限集合なら,自然数の集合は {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9},偶数の集合は {2, 4, 6, 8}ですから,自然数は偶数より倍近く多いことになります。しかし,「すべての偶数」という無限集合を考えると,自然数と偶数には 1と 2,2と 4,3と 6,. . .,1234と 2468,. . .,nと 2n,. . . のように一対一対応がつく,すなわち全単射が存在します。すなわち,偶数の基数も自然数と同じ ℵ0です。自然数と偶数は「個数が同じ」なのです。

ヒルベルトの「ホテル無限」

数学者ヒルベルト (Hilbert)が述べた,無限についての一種のたとえ話があります。

「ホテル無限」には ℵ0室の部屋があります。このホテルが満室の時に,ひとりの旅人がやってきました。この旅人は,泊まることができるでしょうか?

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第2回 (2014. 10. 2) http://racco.mikeneko.jp/  1/4 ページ

(アレフゼロ)

(よく「可算無限個」という)

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数

Page 17: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数

Page 18: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数

Page 19: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数

Page 20: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

集合A = {a, b, c, …}

自然数 1対1対応がつく ([全単射]が  存在する)なら

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

どうやって数えるのか自然数と対応がつく集合は数えられる

1, 2, 3, …

この集合の[基数]([濃度])は [可算無限集合]という

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第2回第1部・「無限」の理解/ 無限にも大小がある

微分・積分の話をするとき,必ず出てくるのが「無限に」「無限の」という概念です。この講義の第1部では,「無限」を数学でどのようにとらえているか,3つの話題を通して説明します。

無限とは「コト」

「無限大」を表すのに,∞という記号を使います。この記号は,数学以外に日常用語としても使われていると思います。

しかし,間違えてはいけないのは,∞という数があるわけではない,ということです。「無限」というのは,「無限というモノ」ではなく,「無限であるコト」です。一方,数学において計算によって取り扱うことができるのは,実体のある数字,すなわち「モノ」です。そこで数学では,無限というコトを,人が取り扱うことができる具体的な数字を通じて理解しようと努めてきました。

自然数と「数えられる無限」

自然数とは「1, 2, 3, . . .」という数ですが,これは「ひとつ,ふたつ,みっつ, . . .」と物を数えるために考えられた,人類にとってもっとも基本的な数です。一方,ここで「. . .」と書いたように,人類にとってもっとも身近な「無限」でもあります。そこで,自然数の集合が無限であることと同じ意味での無限を,「数えられる無限」の意味で可算無限といいます。自然数の「個数」はもちろん無限ですから,数字で表すことはできませんが,仮に個数のようなものがあると考えて,これを可算基数といい,ℵ0(アレフゼロ)という記号で表します。

さて,ある集合の要素を数えることを考えてみましょう。集合Aの要素を数えることは,Aの各要素に 1, 2, 3, . . . と自然数を割り付けていくのと同じです。この割り付けがAのすべての要素について可能なとき,「集合Aの要素と自然数の集合の要素の間に一対一対応がつく」あるいは「集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在する」といいます。集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在するとき,集合Aは自然数と同じ無限である,すなわち基数(あるいは濃度)が ℵ0であるといいます。

「自然数と対応がつくものは数えられる」というのは,当たり前のような話ですが,無限はそう簡単ではありません。たとえば,偶数の集合を考えてみましょう。これが「一桁の偶数」という有限集合なら,自然数の集合は {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9},偶数の集合は {2, 4, 6, 8}ですから,自然数は偶数より倍近く多いことになります。しかし,「すべての偶数」という無限集合を考えると,自然数と偶数には 1と 2,2と 4,3と 6,. . .,1234と 2468,. . .,nと 2n,. . . のように一対一対応がつく,すなわち全単射が存在します。すなわち,偶数の基数も自然数と同じ ℵ0です。自然数と偶数は「個数が同じ」なのです。

ヒルベルトの「ホテル無限」

数学者ヒルベルト (Hilbert)が述べた,無限についての一種のたとえ話があります。

「ホテル無限」には ℵ0室の部屋があります。このホテルが満室の時に,ひとりの旅人がやってきました。この旅人は,泊まることができるでしょうか?

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第2回 (2014. 10. 2) http://racco.mikeneko.jp/  1/4 ページ

集合A = {a, b, c, …}

自然数 1対1対応がつく ([全単射]が  存在する)なら

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

2, 4, 6, …, 2n, …

Page 24: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

2, 4, 6, …, 2n, …

Page 25: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

2, 4, 6, …, 2n, …

Page 26: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

2, 4, 6, …, 2n, …

Page 27: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

2, 4, 6, …, 2n, …

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数

自然数

1対1対応がつく (全単射が存在する)

2, 4, 6, …, 2n, …

Page 29: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

偶数の集合の濃度は偶数と自然数とは対応がつくか

1, 2, 3, …, n, …

偶数の基数も

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第2回第1部・「無限」の理解/ 無限にも大小がある

微分・積分の話をするとき,必ず出てくるのが「無限に」「無限の」という概念です。この講義の第1部では,「無限」を数学でどのようにとらえているか,3つの話題を通して説明します。

無限とは「コト」

「無限大」を表すのに,∞という記号を使います。この記号は,数学以外に日常用語としても使われていると思います。

しかし,間違えてはいけないのは,∞という数があるわけではない,ということです。「無限」というのは,「無限というモノ」ではなく,「無限であるコト」です。一方,数学において計算によって取り扱うことができるのは,実体のある数字,すなわち「モノ」です。そこで数学では,無限というコトを,人が取り扱うことができる具体的な数字を通じて理解しようと努めてきました。

自然数と「数えられる無限」

自然数とは「1, 2, 3, . . .」という数ですが,これは「ひとつ,ふたつ,みっつ, . . .」と物を数えるために考えられた,人類にとってもっとも基本的な数です。一方,ここで「. . .」と書いたように,人類にとってもっとも身近な「無限」でもあります。そこで,自然数の集合が無限であることと同じ意味での無限を,「数えられる無限」の意味で可算無限といいます。自然数の「個数」はもちろん無限ですから,数字で表すことはできませんが,仮に個数のようなものがあると考えて,これを可算基数といい,ℵ0(アレフゼロ)という記号で表します。

さて,ある集合の要素を数えることを考えてみましょう。集合Aの要素を数えることは,Aの各要素に 1, 2, 3, . . . と自然数を割り付けていくのと同じです。この割り付けがAのすべての要素について可能なとき,「集合Aの要素と自然数の集合の要素の間に一対一対応がつく」あるいは「集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在する」といいます。集合Aと自然数の集合の間に全単射が存在するとき,集合Aは自然数と同じ無限である,すなわち基数(あるいは濃度)が ℵ0であるといいます。

「自然数と対応がつくものは数えられる」というのは,当たり前のような話ですが,無限はそう簡単ではありません。たとえば,偶数の集合を考えてみましょう。これが「一桁の偶数」という有限集合なら,自然数の集合は {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9},偶数の集合は {2, 4, 6, 8}ですから,自然数は偶数より倍近く多いことになります。しかし,「すべての偶数」という無限集合を考えると,自然数と偶数には 1と 2,2と 4,3と 6,. . .,1234と 2468,. . .,nと 2n,. . . のように一対一対応がつく,すなわち全単射が存在します。すなわち,偶数の基数も自然数と同じ ℵ0です。自然数と偶数は「個数が同じ」なのです。

ヒルベルトの「ホテル無限」

数学者ヒルベルト (Hilbert)が述べた,無限についての一種のたとえ話があります。

「ホテル無限」には ℵ0室の部屋があります。このホテルが満室の時に,ひとりの旅人がやってきました。この旅人は,泊まることができるでしょうか?

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第2回 (2014. 10. 2) http://racco.mikeneko.jp/  1/4 ページ

偶数

自然数

1対1対応がつく (全単射が存在する)

2, 4, 6, …, 2n, …

自然数と「個数」は同じ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

Page 31: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

この疑問に答えるには, 「幅」「面積」というものをもっと精密に 考える必要がある

Page 32: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

この疑問に答えるには, 「幅」「面積」というものをもっと精密に 考える必要がある

「測度論」

Page 33: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

Page 34: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の区間に分けて,

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の区間に分けて,その上の長方形の面積の極限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の区間に分けて,その上の長方形の面積の極限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

区分求積法で積分を求める

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の区間に分けて,その上の長方形の面積の極限「極限」とは,無限ではなく有限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

区間の分け方をいろいろ変えた時

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

区間の分け方をいろいろ変えた時こちらの上限

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

区間の分け方をいろいろ変えた時こちらの上限

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

ジョルダン内測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

区間の分け方をいろいろ変えた時こちらの上限

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

ジョルダン内測度こちらの下限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン内測度と外測度

f(x)

xp q

グラフの下側の部分の内部におさまる長方形

区間の分け方をいろいろ変えた時こちらの上限

f(x)

xp q

グラフの下側の部分を内部に含む長方形

ジョルダン内測度こちらの下限ジョルダン外測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度

f(x)

xp qこちらの上限

f(x)

xp q

ジョルダン内測度こちらの下限ジョルダン外測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度

f(x)

xp qこちらの上限

f(x)

xp q

ジョルダン内測度こちらの下限ジョルダン外測度

両者が一致するときジョルダン測度という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度

f(x)

xp qこちらの上限

f(x)

xp q

ジョルダン内測度こちらの下限ジョルダン外測度

両者が一致するときジョルダン測度という2次元の場合これを面積という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度

f(x)

xp qこちらの上限

f(x)

xp q

ジョルダン内測度こちらの下限ジョルダン外測度

両者が一致するときジョルダン測度という2次元の場合これを面積という

ジョルダン測度が定まる図形(集合)を ジョルダン可測という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度積分の例(区分求積法)に限らず

これの上限が ジョルダン内測度

ジョルダン測度が定まる図形(集合)を ジョルダン可測という

これの下限が ジョルダン外測度

両者が一致するときジョルダン測度2次元の場合これを面積という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

空集合の測度は0

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

空集合の測度は0

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

空集合の測度は0

重なりのない2つの集合については 和集合の測度は測度の和

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ジョルダン測度の性質ジョルダン可測な集合Aの ジョルダン測度をJ(A)とする

有限加法性という

空集合の測度は0

重なりのない2つの集合については 和集合の測度は測度の和

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

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f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,その上の長方形の面積の極限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,その上の長方形の面積の極限 ジョルダン測度

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,その上の長方形の面積の極限 ジョルダン測度

極限は,「無限」とは違う

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,その上の長方形の面積の極限 ジョルダン測度

極限は,「無限」とは違う有限だが,好きなだけ大きくできる

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

α – ε α + ε

ε ε

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

εをどんなに小さくしても

α – ε α + ε

ε ε

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしても

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしても

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしてもaN

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしてもaN

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしてもaN

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

数列の収束の定義数列{an}が α に収束するとは

数列が十分大きな番号 N まで進めば

a1a2a3

α

α – ε α + ε…

N 番より大きな番号 n については, anはみなその狭い区間[α – ε, α + ε]に入る

ε ε

εをどんなに小さくしてもaN

そういうNがある

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

「有限個の長方形」

積分 は,

2014年度秋学期 応用数学(解析) 第14回第5部・測度論ダイジェスト/ ルベーグ測度と完全加法性

測度論とは,「ものを測る」ことの本質を考える数学の分野です。長さ,面積,体積,質量など,ものを測るにはいろいろな測り方がありますが,これらをあわせて,何かを測った結果を測度 (measure)といいます。測度論では,測るとは何か、測ることのできる集合とは何か,といったことを学びます。この「測度論ダイジェスト」第1回では,測度論誕生のきっかけになった「疑問」を説明し,集合の基本的な測り方であるルベーグ測度,測度の持つべき基本的な性質である完全加法性,そしてその帰結として現れてきた零集合について説明します。

積分に対する疑問

定積分を習った時に,「任意のaについて,関数 f(x)のaからaまでの積分は0,すなわち! a

af(x)dx = 0

である」すなわち「幅が 0の積分は 0」ということを習ったと思います。

ということは,図 1(a)のように,積分! q

pf(x)dxから,pと qの間にある aのところだけ幅 0の線を

抜き取っても,積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないということになります。

幅 0の積分は 0なのだから,aの1カ所だけでなく,図 1(b)のように幅 0の線を何本抜き取っても,やはり積分の値,すなわち図のグレーの部分の面積は減らないはずです。ならば,pと qの間にあるすべての有理数の位置にある幅 0の線を抜き取っても,すなわち可算無限個の線を抜き取っても,やはり面積は減らないのでしょうか?

どうも納得いかない気がします。この疑問は,今までなんとなく考えてきた「幅」という概念を,より精密にとらえる必要があることを示しています。

ジョルダン測度

これまで,定積分は「区分求積法」として習ったと思います。これは,ある関数の積分区間を「重なりのない,有限個の」区間に分けて,その上に,その関数のグラフの下の部分におさまるように配置した長方形(図

p q

f(x)

a p q

f(x)

(a) (b)

図 1: 積分に対する疑問.

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  1/6 ページ

f(x)

xp

長方形で近似

q

積分区間を 重なりのない,有限個の 区間に分けて,その上の長方形の面積の極限 ジョルダン測度

極限は,「無限」とは違う有限だが,好きなだけ大きくできる

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有限個の長方形では,困る

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

Page 79: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有限個の長方形では,困る

こういう場合でも 積分や面積を考えられるようにするには

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有限個の長方形では,困る

こういう場合でも 積分や面積を考えられるようにするには

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

可算無限個の長方形にもとづく測度が必要

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

図形(集合)S

Page 82: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf

∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf

∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf

∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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空集合の外測度は0

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf

∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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空集合の外測度は0

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ外測度Sを 重なりを許した 可算無限個の長方形で覆う

ルベーグ外測度という

図形(集合)S

それらの長方形の面積の和の下限を可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf

∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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空集合の外測度は0

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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包含関係と外測度の大小関係は一致

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

ルベーグ外測度については 完全劣加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

ルベーグ外測度については 完全劣加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

有界な集合の列S1, S2, …について

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

が有界ならば

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

ルベーグ外測度については 完全劣加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

有界な集合の列S1, S2, …について

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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が有界ならば

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の和集合

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

ルベーグ外測度については 完全劣加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  2/6 ページ

可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

有界な集合の列S1, S2, …について

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

が有界ならば

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の和集合 外測度の可算無限個の和

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

ルベーグ外測度については 完全劣加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

有界な集合の列S1, S2, …について

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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が有界ならば

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の和集合 外測度の可算無限個の和

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

Page 97: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

Siを長方形 で覆う

Page 98: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)Siを長方形 で覆う

Page 99: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)

Siを長方形 で覆う

Page 100: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i)Siを長方形

で覆う

Page 101: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

Page 102: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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面積の和が

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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その 下限面積の和が

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列

こういう覆い方I1(i), I2(i), I3(i), … が存在する

S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列

こういう覆い方I1(i), I2(i), I3(i), … が存在する

S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

他のSiについても同様だから

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列

こういう覆い方I1(i), I2(i), I3(i), … が存在する

S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

他のSiについても同様だから

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列

こういう覆い方I1(i), I2(i), I3(i), … が存在する

S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

他のSiについても同様だから

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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各Siに ついて

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明有界な集合の列

こういう覆い方I1(i), I2(i), I3(i), … が存在する

S1, S2, …, Si, …

I1(i)I2(i)I3(i) …Siを長方形

で覆う

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

その 下限

よりも 少し大きい面積の和が

この覆い方は

他のSiについても同様だから

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

各Siに ついて

I1(i), I2(i), I3(i), … で覆う

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

問題1有理数は,可算基数をもつか

分母を横軸, 分子を縦軸とすると, 有理数は図の黒点 (格子点) ※分母0の点は除く

分母

分子

0 1 2 3

1

2

3

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2014

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

問題1有理数は,可算基数をもつか

分母を横軸, 分子を縦軸とすると, 有理数は図の黒点 (格子点) ※分母0の点は除く

分母

分子

0 1 2 3

1

2

3

すべての格子点を一筆でたどれれば 自然数と一対一対応がつく

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

εは正の数であればいくらでも 小さくできる

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全劣加法性の証明

εは正の数であればいくらでも 小さくできる

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形の, 可算無限個の和集合

可算無限個の長方形の和集合 と同じ

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ測度と完全加法性

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度…

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度… ルベーグ内測度

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度… ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度… ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度… ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度… ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度…

ルベーグ測度

ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度…

ルベーグ測度

ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  3/6 ページ

ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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ルベーグ可測な集合Sは

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度…

ルベーグ測度

ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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ルベーグ可測な集合Sは

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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任意のEについて

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

ルベーグ内測度,ルベーグ測度

ルベーグ外測度…

ルベーグ測度

ルベーグ内測度 補集合の外測度で

可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∪ I2(i) ∪ · · · ∪ In(i) ∪ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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可算無限個の長方形 I1, I2, . . . で覆ったとき,それらの長方形の面積 |I1|, |I2|, . . . の和の下限 inf∞!

i=1

|Ii|

を Sのルベーグ外測度といい,m∗(S)で表します。

ルベーグ外測度には,次の性質がなりたちます。

1. m∗(∅) = 0

2. S ⊂ T = m∗(S) ! m∗(T )

3. S1, S2, . . . を有界な集合の列とするとき,∞"

i=1

Siが有界ならば,m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

m∗(Si)

性質3は,完全劣加法性とよばれるものです。この性質は,次のように証明されます。有界な集合の列 S1, S2, . . . のうちのひとつの集合 Siを,長方形 I1(i), I2(i), . . . で覆うことを考えます。このとき,Siのルベーグ外測度m∗(Si)は Siを覆う長方形の面積の和の下限なので,任意の正の数 εについて,

Si ⊂ I1(i) ∩ I2(i) ∩ · · · ∩ In(i) ∩ . . .

かつ∞!

n=1

|In(i)| < m∗(Si) +ε

2i

(1)

となる I1(i), I2(i), . . . が存在します 3。

他の Sについても同様に考えると,∞"

i=1

Si ⊂∞"

i=1

∞"

n=1

In(i) (2)

となります。この式の右辺は,「可算無限個の長方形の可算無限個の和集合」になっていますが,これは「可算無限個の長方形の和集合」と同じです 4。そこで,

m∗(∞"

i=1

Si) !∞!

i=1

∞!

n=1

|In(i)|

<∞!

i=1

#m∗(Si) +

ε

2i

$((1)式より)

=∞!

i=1

m∗(Si) + ε

(3)

となり,εは正の数であればいくらでも小さくできるので,性質3がなりたちます。■

一方,内測度は「補集合の外測度」の形で定義されます。すなわち,Sを内部に含む長方形 J を考えるとき,Sのルベーグ内測度m∗(S)を

m∗(S) = |J |−m∗(J ∩ Sc) (4)

3面積の和が下限となる覆い方よりも,少し大きな覆い方が存在する,という意味です。4整数が可算無限個存在するのに対して,どちらも整数である分母・分子の組からなる有理数もやはり可算無限個存在する,

ということと同じです。

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ルベーグ外測度とルベーグ内測度が一致するとき ルベーグ可測

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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ルベーグ可測な集合Sは

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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任意のEについて

Sは[可測集合]である

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

可算無限個の和集合

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

可算無限個の和集合 測度の可算無限個の和

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

完全加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

可算無限個の和集合 測度の可算無限個の和

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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A. A

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, Kan

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niv.

完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

完全加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

可算無限個の和集合 測度の可算無限個の和

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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和集合の測度は測度の和

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A. A

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完全加法性ジョルダン測度の「有限加法性」

完全加法性

p q

f(x)

p q

f(x)

(a) (b)

図 2: 積分と長方形の配置.

2(a))と,グラフの下の部分を含むように配置した長方形(図 2(b))を考えます。

区間の分け方をさまざまに変えたとき,前者の配置での長方形の面積の上限をジョルダン内測度,後者の配置での長方形の面積の下限をジョルダン外測度といい,両者が一致するときそれをジョルダン測度といいます 1。

この例のような2次元の場合,このジョルダン測度をこれまで「面積」とよんできました。このように面積が測れる図形(一般には測度が定められる集合)をジョルダン可測であるといいます。ジョルダン測度には,次の性質があります。ここで,ジョルダン可測な集合 Aのジョルダン測度を

J(A)とします。

1. J(∅) = 0

2. A ∩B = ∅ ⇒ J(A ∪B) = J(A) + J(B)

後者の性質を有限加法性といいます。

ルベーグ測度

ジョルダン測度では「有限個の長方形」を考えています。一方,定積分の定義では,長方形の面積の「極限」を考えています。しかし,第4回の講義で説明した「極限」の意味を考えると,面積の極限を考えることは,無限個の長方形を考えることとは違うことがわかります。面積の極限とは,長方形を好きなだけ細かく分ければ,その極限に好きなだけ近づけることができる,という意味であって,あくまで有限個の長方形について想定されているものです。

測る図形の形がなめらかだったり,少々凸凹している程度なら,長方形が有限個であっても「十分多ければ」上記のように測ることができるでしょう。しかし,もっと複雑な図形ならば,いくら長方形を細かく分けてもある極限に思うように近づけることができない,すなわち可算無限個の長方形を用いなければ測ることができない場合があることが想像されます。

そこで,可算無限個の長方形を使った測度を考えます。図形(平面の有界な集合)Sを,重なりを許した 2

1ここでは定積分の区分求積法で説明していますが,一般にはある図形の内部に重なりのない有限個の長方形を敷き詰める,あるいは重なりのない有限個の長方形で覆う,と考えます。

2後で下限をとっているので,重なりはあってもなくても同じです。

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可算無限個の長方形を使う場合も 同じような性質がなりたたないか?

可算無限個の和集合 測度の可算無限個の和

E1, E2, … を互いに共通部分を持たない可測集合列

と定義します。

外測度と内測度が一致するとき,すなわちm∗(S) = m∗(S)がなりたつとき,Sをルベーグ可測な集合といい,m(S) ≡ m∗(S) = m∗(S)を Sのルベーグ測度といいます。なお,Sがルベーグ可測であるとき,任意の集合Eに対して

m∗(E) = m∗(E ∩ S) +m∗(E ∩ Sc) (5)

というカラテオドリの意味の可測性もなりたつことが知られています。より一般的には,上の性質1~3を満たすm∗を外測度といい,それがある集合に対してカラテオドリの意味で可測であるとき,その集合を可測集合といい,その外測度を測度とよびます。

完全加法性

E1, E2, . . . を互いに共通部分をもたない可測集合列とします。このとき,外測度m∗について

m∗(∞!

i=1

Ei) =∞"

i=1

m∗(Ei) (6)

という完全加法性がなりたちます。完全加法性は,「ある集合の測度は,それを部分に分けた時の,各部分の測度の合計」という直感が,「可算無限個に分けた場合」でもなりたつことを示しています。

これを証明するには,S =#∞

i=1Eiとして,任意の集合Aと任意の nについて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (7)

がなりたつことを示します。これがなりたつと,n → ∞とするとき∞!

i=1

(A∩Ei) = A∩ Sですから,m∗

の完全劣加法性(性質3)を用いて

m∗(A) !n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) ! m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (8)

がなりたちます。一方,A = A ∩ S +A ∩ Scなので,完全劣加法性より

m∗(A) " m∗(A ∩ S) +m∗(A ∩ Sc) (9)

もなりたち,両者から

m∗(A) =n"

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (10)

となります。Aは任意の集合なので,ここでA = Sとすると,S ∩ Ei = Ei,S ∩ Sc = ∅なので

m∗(S) =n"

i=1

m∗(Ei) +m∗(∅)

m∗(∞!

i=1

Ei) =n"

i=1

m∗(Ei)

(11)

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可算無限個に分けた場合でもそうなる和集合の測度は測度の和

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A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

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A. A

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, Kan

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niv.

零集合と 「ほとんどいたるところ」

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

この疑問に答えるために, pとqの間にある有理数全体が占める幅を考える

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A. A

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, Kan

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niv.

積分に対する疑問

幅0の直線を可算無限個 抜いても

p q

どれだけ拡大してみても, びっしりと直線がならんでいる

積分の値は変わらない のか?

この疑問に答えるために, pとqの間にある有理数全体が占める幅を考える 可算無限個ある

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅可算無限個ある有理数の幅を考えるには ルベーグ測度の考え方が必要

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2014年度秋学期 

A. A

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, Kan

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niv.

有理数全体が占める幅可算無限個ある有理数の幅を考えるには ルベーグ測度の考え方が必要

有理数の集合が数直線上で持つ幅(測度)

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A. A

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有理数全体が占める幅可算無限個ある有理数の幅を考えるには ルベーグ測度の考え方が必要

有理数の集合が数直線上で持つ幅(測度)

有理数全体を,区間の組み合わせで覆ったときの

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅可算無限個ある有理数の幅を考えるには ルベーグ測度の考え方が必要

有理数の集合が数直線上で持つ幅(測度)

有理数全体を,区間の組み合わせで覆ったときの「区間の長さの合計」の下限

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … をεを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … をεを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22 ε/ 23

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる

区間の長さの合計

有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22 ε/ 23

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる

区間の長さの合計

有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22 ε/ 23

となり,完全加法性((6)式)が成り立つことが示されます。

さて,(7)式がなりたつことは数学的帰納法によって示します。n = 1のとき,E1 ⊂ Sより Ec1 ⊃ Sc

なので

m∗(A) = m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Ec1)

! m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Sc)(12)

で,たしかに (7)式がなりたっています。n = kのとき (7)式がなりたっているとします。ここで Aは任意なので,これをA ∩ Ec

k+1で置き換えると

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Eck+1 ∩ Ei) +m∗(A ∩ Ec

k+1 ∩ Sc) (13)

で,Eck+1 ∩ Ei = Ei,Ec

k+1 ∩ Sc = Scより

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (14)

がなりたちます。一方,Ek+1は可測なので

m∗(A) = m∗(A ∩ Ek+1) +m∗(A ∩ Eck+1) (15)

で,(14)式を (15)式の右辺の第2項に用いると

m∗(A) ! m∗(A ∩ Ek+1) +k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

=k+1!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

(16)

となり,やはり (7)式がなりたっています。よって証明されました。■

零集合と「ほとんどいたるところ」

ここまでの議論をふまえて,最初の「有理数全体の幅」の問題を考えます。ここまでは平面上の図形を長方形で覆うイメージを思い浮かべてきましたが,ここでは,数直線上のある集合を「区間」を組み合わせて覆うことを考えます。有理数は可算無限個あるので,ジョルダン測度の考え方で「幅」を考えることはできません。そこで,ルベーグ測度で考えます。

有理数は可算ですから,通し番号をつけて a1, a2, . . . an . . . と表すことができます。ルベーグ測度の考えでは,有理数の集合が数直線上でもつ幅は,有理数全体を区間の組み合わせ(重なってもよいことに注意)で覆ったときの,区間の長さの合計の下限です。そこで,εを任意の正の数とし,a1を幅 ε/2の区間で,a2を幅 ε/22の区間で,・・・,anを幅 ε/2nの区間で覆うとします。

このとき区間の長さの合計はε

2+

ε

22+ · · ·+ ε

2n+ · · · = ε (17)

となります。εは任意の正の数ですからいくらでも小さくすることができるので,区間の長さの合計の下限は 0となります。すなわち,有理数全体のルベーグ測度は 0となります。したがって,最初の問題

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  5/6 ページ

εを任意の正の数とすると

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる

区間の長さの合計

有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22 ε/ 23

となり,完全加法性((6)式)が成り立つことが示されます。

さて,(7)式がなりたつことは数学的帰納法によって示します。n = 1のとき,E1 ⊂ Sより Ec1 ⊃ Sc

なので

m∗(A) = m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Ec1)

! m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Sc)(12)

で,たしかに (7)式がなりたっています。n = kのとき (7)式がなりたっているとします。ここで Aは任意なので,これをA ∩ Ec

k+1で置き換えると

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Eck+1 ∩ Ei) +m∗(A ∩ Ec

k+1 ∩ Sc) (13)

で,Eck+1 ∩ Ei = Ei,Ec

k+1 ∩ Sc = Scより

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (14)

がなりたちます。一方,Ek+1は可測なので

m∗(A) = m∗(A ∩ Ek+1) +m∗(A ∩ Eck+1) (15)

で,(14)式を (15)式の右辺の第2項に用いると

m∗(A) ! m∗(A ∩ Ek+1) +k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

=k+1!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

(16)

となり,やはり (7)式がなりたっています。よって証明されました。■

零集合と「ほとんどいたるところ」

ここまでの議論をふまえて,最初の「有理数全体の幅」の問題を考えます。ここまでは平面上の図形を長方形で覆うイメージを思い浮かべてきましたが,ここでは,数直線上のある集合を「区間」を組み合わせて覆うことを考えます。有理数は可算無限個あるので,ジョルダン測度の考え方で「幅」を考えることはできません。そこで,ルベーグ測度で考えます。

有理数は可算ですから,通し番号をつけて a1, a2, . . . an . . . と表すことができます。ルベーグ測度の考えでは,有理数の集合が数直線上でもつ幅は,有理数全体を区間の組み合わせ(重なってもよいことに注意)で覆ったときの,区間の長さの合計の下限です。そこで,εを任意の正の数とし,a1を幅 ε/2の区間で,a2を幅 ε/22の区間で,・・・,anを幅 ε/2nの区間で覆うとします。

このとき区間の長さの合計はε

2+

ε

22+ · · ·+ ε

2n+ · · · = ε (17)

となります。εは任意の正の数ですからいくらでも小さくすることができるので,区間の長さの合計の下限は 0となります。すなわち,有理数全体のルベーグ測度は 0となります。したがって,最初の問題

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  5/6 ページ

εを任意の正の数とすると

その下限は0

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

有理数全体が占める幅

こういうふうに覆うことができる

区間の長さの合計

有理数a1, a2, … を

a1 a2 a3

ε/ 2 ε/ 22 ε/ 23

となり,完全加法性((6)式)が成り立つことが示されます。

さて,(7)式がなりたつことは数学的帰納法によって示します。n = 1のとき,E1 ⊂ Sより Ec1 ⊃ Sc

なので

m∗(A) = m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Ec1)

! m∗(A ∩ E1) +m∗(A ∩ Sc)(12)

で,たしかに (7)式がなりたっています。n = kのとき (7)式がなりたっているとします。ここで Aは任意なので,これをA ∩ Ec

k+1で置き換えると

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Eck+1 ∩ Ei) +m∗(A ∩ Ec

k+1 ∩ Sc) (13)

で,Eck+1 ∩ Ei = Ei,Ec

k+1 ∩ Sc = Scより

m∗(A ∩ Eck+1) !

k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc) (14)

がなりたちます。一方,Ek+1は可測なので

m∗(A) = m∗(A ∩ Ek+1) +m∗(A ∩ Eck+1) (15)

で,(14)式を (15)式の右辺の第2項に用いると

m∗(A) ! m∗(A ∩ Ek+1) +k!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

=k+1!

i=1

m∗(A ∩ Ei) +m∗(A ∩ Sc)

(16)

となり,やはり (7)式がなりたっています。よって証明されました。■

零集合と「ほとんどいたるところ」

ここまでの議論をふまえて,最初の「有理数全体の幅」の問題を考えます。ここまでは平面上の図形を長方形で覆うイメージを思い浮かべてきましたが,ここでは,数直線上のある集合を「区間」を組み合わせて覆うことを考えます。有理数は可算無限個あるので,ジョルダン測度の考え方で「幅」を考えることはできません。そこで,ルベーグ測度で考えます。

有理数は可算ですから,通し番号をつけて a1, a2, . . . an . . . と表すことができます。ルベーグ測度の考えでは,有理数の集合が数直線上でもつ幅は,有理数全体を区間の組み合わせ(重なってもよいことに注意)で覆ったときの,区間の長さの合計の下限です。そこで,εを任意の正の数とし,a1を幅 ε/2の区間で,a2を幅 ε/22の区間で,・・・,anを幅 ε/2nの区間で覆うとします。

このとき区間の長さの合計はε

2+

ε

22+ · · ·+ ε

2n+ · · · = ε (17)

となります。εは任意の正の数ですからいくらでも小さくすることができるので,区間の長さの合計の下限は 0となります。すなわち,有理数全体のルベーグ測度は 0となります。したがって,最初の問題

浅野 晃/応用数学(解析)(2014 年度秋学期) 第14回 (2015. 1. 15) http://racco.mikeneko.jp/  5/6 ページ

εを任意の正の数とすると

その下限は0 有理数全体のルベーグ測度は0

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

零集合と「ほとんどいたるところ」

測度が0の集合を零集合という

有理数全体のルベーグ測度は0

「測度が0の集合を除いた部分で」を (この場合,「有理数を除いた部分で」)

「ほとんどいたるところで」(a.e.)という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

今日のまとめルベーグ外測度  可算無限個の長方形で図形を覆った  ときの,長方形の面積の合計の下限  内測度と一致するとき ルベーグ測度

零集合と「ほとんどいたるところ」  有理数の集合のルベーグ測度は0  測度0の集合を「零集合」という  零集合を除いた部分を 「ほとんどいたるところ」という

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2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

次回は最初の疑問はまだ解決していない

有理数の位置にある可算無限個の直線を抜いた積分

p q

ジョルダン測度にもとづく積分では, 可算無限個の分割はできない

Page 168: 2014年度秋学期 応用数学(解析) 第5部・測度論ダイジェスト / 第14回 ルベーグ測度と完全加法性 (2015. 1. 15)

2014年度秋学期 

A. A

sano

, Kan

sai U

niv.

次回は最初の疑問はまだ解決していない

有理数の位置にある可算無限個の直線を抜いた積分

p q

ジョルダン測度にもとづく積分では, 可算無限個の分割はできない

ルベーグ測度にもとづくルベーグ積分を考える