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2011年2月26日開催のシンポジウム「新「常用漢字表」にどう対応するか」(http://union-nets.org/?p=314)での発表スライドです。2010年11月告示の改定常用漢字表の審議過程における対立を報告します。
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改定常用漢字表の審議における
意見の対立小形克宏(フリーライター)
2011年2月26日/シンポジウム『新「常用漢字表」にどう対応するか』出版ネッツ関東支部校正部会企画
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余話「新しい常用漢字表」の名称について
• 名称を審議したのは第37回漢字小委員会(2009年10月23日)この時、氏原基余司国語主任調査官は配布資料説明で次のように説明
• これまで国語施策では、基本的な性格の変わらないものは「改定」をつけている。→例:改定送り仮名のつけ方、改定現代仮名遣い
• 基本的には目安であるという性格は変わらない以上、現行の「常用漢字表」を引き継ぐ形の方が分かり易い
• 「改定常用漢字表」で答申し、告示訓令になったら「常用漢字表」
• →この原案が了承され決定となった
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余話「新しい常用漢字表」の名称について• ところが「2010年11月に改定された常用漢字表」を特定して呼びたい場合の名称が定められていない
• 氏原主任国語調査官は「昭和56年常用漢字表」、「平成22年常用漢字表」を提案→使用例を見たことがない……元号/西暦問題もあり良い案ではない
• 現在一般的なのは答申名を流用して「改定常用漢字表」と呼ぶ方法。
• 朝日新聞(「改定常用漢字表が告示」2010年11月30日)、読売新聞など
• 『字体のはなし』(財前謙、明治書院、2010年)
• 『国文学 解釈と鑑賞』2011年 1月号「特集 いま、漢字は」3
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余話「新しい常用漢字表」の名称について
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アサヒ・コム2010年11月30日9時16分付
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余話「新しい常用漢字表」の名称について
日本経済新聞2010年11月30日付
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余話「新しい常用漢字表」の名称について
• 選択肢は以下の通り
• 改定常用漢字表/新常用漢字表/改定された常用漢字表
• いずれにせよ、以下は間違い
• 改訂常用漢字表/新常用漢字(「常用漢字」は1字ずつの漢字の意味、漢字表としてなら「新常用漢字表」)
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常用漢字とはどんなものか?• 凸版調査(3)による雑誌書籍846冊(延べ約5,000万字)の統計結果
• 常用漢字1,945字だけで異なり字数8,576字のうち96.36%を占める
• これに人名用漢字983字を加えると98.87%にもなる
• しかし、残り1.13%を表記するのに、5,648字が必要となる
※漢字表の字数は当時のもの7
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常用漢字とはどんなものか?• およそ1,500字程が非常に高い頻度で使われる一方、膨大な数の頻度が低い漢字が必要というのが実態
• ジップの法則(Zipf ’s Low)
• 追加字種の多くはロングテールに存在する
• 調査のサンプルによって低頻度の漢字は如何様にも入れ替わる
• 審議も危ういものにならざる得ない 使用頻度とその順位の関係(概念図)
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改定常用漢字表が決まるまで
• なぜ改定するのか?
• 諮問・審議・答申→行政が出した課題を第三者が検討
• 文部科学大臣諮問(平成17年3月30日)
• 情報化時代に対応する漢字政策の在り方について
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改定常用漢字表が決まるまで
• どんな組織が審議したのか?
実質的にはここで審議
主査・事務局他による原案作成グループ
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改定常用漢字表が決まるまで
• いつからいつまで審議したのか?
• 第1回(2005年9月13日)~ 第42回(2010年4月23日)
• 第1期……第1回~5回(2005年9月13日~2006年1月20日)• 第2期……第6回~14回(2006年4月24日~2007年1月9日)
• 第3期……第15回~20回(2007年7月25日~2008年1月9日)
• 第4期……第21~30回(2008年5月12日~2009年1月16日)
• 最初のパブリック・コメント(2009年3月16日~ 4月16日)
• 第5期……第31~39回(2009年4月28日~2010年1月29日)• 第6期……第40~42回(2010年3月24日~同年4月23日)
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⎫⎬⎭
⎫⎬⎭
}方向付け
実質的な審議
パブコメ対応
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改定常用漢字表が決まるまで
• 審議では何が問題になったのか?
• 何字増やすべきか(教育関係者が字数増に激しい抵抗)
• 「読んで書ける漢字」と「読めればいい漢字」
• →準常用漢字の設定
• 略字体か、いわゆる康熙字典体か12
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審議会におけるゲームのルール
• 審議会の目的は諮問にもとづき答申をまとめること
• 座長は一定の時間内に合意を形成しなければならない
• いったん決まった結論を蒸し返すのは掟破り
• 意思決定は「全員一致」による(沈黙は賛成の意味)
• 多数決はやらないのが基本
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漢字小委員会のメンバー(2008年5月~2009年1月)
• 前田富祺(主査・神戸女子大学)• 林史典(副主査・聖徳大学)• 阿辻哲次(京都大学)• 内田伸子(お茶の水女子大学)• 沖森卓也(立教大学)• 甲斐睦朗(京都橘大学)• 笹原宏之(早稲田大学)
• 納屋信(都立調布南高校)• 松村由紀子(目黒区立第八中学校)• 邑上裕子(新宿区立落合第四小学校)
• 金武伸弥(日本新聞協会)• 武元善広(東京書籍)• 出久根達郎(日本文芸家協会)• 東倉洋一(国立情報学研究所)• 松岡和子(翻訳家、演劇評論家)
❖ 学識経験者
❖ 専門家
❖ 教育関係者
※下線は漢字ワーキンググループのメンバー
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分析の方法
• 第27~30回議事録にある発言を元に、1回ごとに①原案作成者、②強い賛成、③弱い賛成/弱い反対、④強い反対に分類→それぞれ立場の増減を記録
• つぎに一人ずつ発言回数をカウントし、一覧表を作成→発言数が多いほど強く主張したと考えられる
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各委員の字体をめぐる発言回数
(第27~30回)
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その他13回5回
7回
8回
14回
金武伸弥16回
阿辻哲次16回
林史典 (副主査)
28回
甲斐睦朗31回
前田富祺 (主査)
54回
武元善広
杉戸清樹納屋信
氏原基余司(事務局)
※特定の人間が集中的に発言→激しい議論
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第27回漢字小委員会• この回は音訓と字体の審議が半分ずつ
• 字体の審議については、いわば序盤戦の段階
• 発言者のうち、納屋委員を除けば全員が「強い反対」
• 漢字WG以外は、ほとんどの委員は反対の立場をとった
第27回前田富祺 3
甲斐睦朗 2
林史典 2
氏原基余司 2
金武伸弥 2
阿辻哲次 3
武元善広 1
納屋信 3
杉戸清樹 2
松岡和子井田由美内田伸子笹原宏之松村由紀子東倉洋一邑上裕子濱田博信出久根達郎足立直樹
第27回0% 100%
35%0% 15%50%
原案作成者 強い賛成 弱い賛成/ 弱い反対 強い反対
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第28回漢字小委員会• 配布資料説明でいわゆる康熙字典体を採用した理由を事細かに説明
• 甲斐委員が前回の意見が反映されていないと反発
• 金武委員は協会として受け入れ不可能と表明
• 武元委員は字種と音訓だけ示せばと提案(腰砕け)
• 前回に引き続き反対派が目立つ状況
第28回0% 100%
33%2%6%59%
原案作成者 強い賛成 弱い賛成/ 弱い反対 強い反対
第28回前田富祺 16
甲斐睦朗 11
林史典 5
氏原基余司 2
金武伸弥 2
阿辻哲次 4
武元善広 2
納屋信 2
杉戸清樹松岡和子井田由美内田伸子 1
笹原宏之 1
松村由紀子 1
東倉洋一邑上裕子濱田博信出久根達郎足立直樹
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第29回漢字小委員会①• 字体の審議における最大の山場の回
• 漢字WGは妥協案として3部首許容を提示
• 金武委員がこれで態度を軟化
• 3部首を略体で示すかどうかが焦点に
• 甲斐委員が字典体を掲出する代わりに両論併記を要求
• しかし漢字WGはそれ以上の妥協を拒否
• 最後は前田主査が強引に押し切る
第29回前田富祺 14
甲斐睦朗林史典 10
氏原基余司 5
金武伸弥 4
阿辻哲次 0
武元善広 2
納屋信 2
杉戸清樹 3
松岡和子 3
井田由美内田伸子笹原宏之松村由紀子東倉洋一邑上裕子 1
濱田博信出久根達郎足立直樹
12
第29回0% 100%
18%21%9%52%
原案作成者 強い賛成 弱い賛成/ 弱い反対 強い反対
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第29回漢字小委員会②• 林副主査の最後の発言
• 「先ほど,冒頭に氏原主任国語調査官が言われましたように,この次はその前文について検討していただくということでございました。そこにも関連をいたします。甲斐委員のおっしゃることもそういうところにも関連をしてくることであります。私は非常に大事な点だと思ったのは杉戸委員の先ほどの御意見で,括弧内は康熙字典体,一方,備考の方には「3部首許容」で同じような部首の問題が出てくる。これは一見したときに混乱を起こしやすいと…,そういう点では余り美しくないと,そういうふうに理解いたしました。そういう点についてもなお,ちょっと考えてみて,何か頂くその最終案の時にもう一度見ていただくということでよろしいのではないかなと思います。」
• 妥協しているようで、全然妥協していない(芸術的話術)
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第30回漢字小委員会• 字体の審議では、いわば後始末の回
• なのに「天然キャラ」の井田委員が一点しんにょうの件を蒸し返し、火種が再燃
• しかし、しょせんは一時的な発言であり、原案をくつがえすような代案ではない
• 反対も散発的で、あきらめが混じった様子
第30回前田富祺 21
甲斐睦朗 6
林史典 11
氏原基余司 5
金武伸弥 8
阿辻哲次 9
武元善広納屋信杉戸清樹 1
松岡和子井田由美 10
内田伸子笹原宏之松村由紀子 2
東倉洋一邑上裕子濱田博信 2
出久根達郎足立直樹 2
第30回0% 100%
0% 35%4%61%
原案作成者 強い賛成 弱い賛成/ 弱い反対 強い反対
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字体をめぐる意見の推移第27回 第28回 第29回 第30回
前田富祺甲斐睦朗林史典氏原基余司金武伸弥阿辻哲次武元善広納屋信杉戸清樹松岡和子井田由美内田伸子笹原宏之松村由紀子東倉洋一邑上裕子濱田博信出久根達郎足立直樹
……原案作成者 ……強い反対 ……弱い賛成/ 弱い反対 ……発言、言及なし ……強い賛成
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字体をめぐる意見の対立状況
27回
28回
29回
30回
0 20 40 60 80
0回
10回
17回
7回
28回
12回
1回
0回
3回
5回
3回
3回
48回
29回
30回
10回
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……原案作成者 ……強い反対 ……弱い賛成/ 弱い反対 ……強い賛成
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少数派意見は考慮に値しないのか?①• 甲斐の主な主張(国語施策原理主義)
• 表内で字体が不統一なのは国民が覚えづらくなり好ましくない
• 表外漢字字体表の基準をそのまま常用漢字表に適用すべきでない(表外漢字字体表は答申どまり)
• 1字ずつ事情が違うから、この場で個々に審議すべき
• 国際規格の事情だけで字体を決めるのは、国民全体の使い勝手の良さを犠牲にするもの
• 「嗅」が点付きだとすると現行常用漢字である「臭」も点付きでよいという「逆流現象」がおきないか
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少数派意見は考慮に値しないのか?②
• 甲斐委員をはじめ略字体派は「国語施策原理主義」と言える
• たとえば甲斐委員は「俺」の収録に規範性から反対した
• 多少の混乱よりも常用漢字表の規範性を重視する立場といえる
• 対して字典体派は「現実主義」
• PCの実装字体(字典体)に配慮するし、頻度が高ければ「俺」も収録
• その意味からすると、略字体派は時代に逆行していたとも思える
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ご清聴ありがとうございました
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