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2014年9月3日に北海道大学大学院文学研究科FD研修会で行った講演「ピア・ラーニングを生かした授業の組み立て方」
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2014年9月3日北海道大学大学院文学研究科FD研修会
ピア・ラーニングを生かした授業の組み立て方
地域システム科学講座
宮内泰介
ピア・ラーニングとは
学習者同士が互いの力を発揮し共同で学び、向上しあう学習方法
具体的には、グループ・ディスカッション、グループ・ワークなど
ピア・ラーニングを生かした授業
少人数のグループディスカッションを中心とした授業
ゼミではなく、むしろ講義でディスカッション型授業を展開
全学・専門双方の講義で
今年度の「人文・社会科学の基礎」は160名相手にディスカッション型授業
なぜピア・ラーニングを生かした授業か
• 学生の意欲・関心を引き出しやすい
• 参加感・達成感がある
• からだで分かる
• 考える姿勢が身につく
• 知識が身につく
効果がある!
• 答の習得より問いの発見
• 問題発見・問題解決型へ
• とくにリベラルアーツとしての全学教育や文学部教育
問いの発見
ピア・ラーニングを生かした授業とはどういうものか?
ピア・ラーニングを生かした授業の基本形
導入資料を読む・映像を見る
個人作業
グループ・ディスカッション
個人作業
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
20~40分
ピア・ラーニングを生かした授業の基本形
導入資料を読む・映像を見る
個人作業
グループ・ディスカッション
個人作業
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
20~40分
ピア・ラーニングを生かした授業の例(1)
“定住外国人に教える日本語は?”
全学
ピア・ラーニングを生かした授業の例(1)
“定住外国人に教える日本語は?”
導入
新聞記事「教えたいのは『教えないこと』」を読
む
ワークシートを使い、まず各自で考えたことをメモ
日本に住み始めた定住意思のある外国人にどんな日本語をどこまで教えるべきか、グループ・ディス
カッション
グループでキーワードを3つ挙げる
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
全学
ダイヤローグを読む
ワークシートを使う
ピア・ラーニングを生かした授業の例(2)
“累進課税を考える”
全学
ピア・ラーニングを生かした授業の例(1)
“累進課税を考える”
導入ダイアローグと資料を読む
ワークシートを使い、まず各自で考えたことをメモ
累進課税は是か非か。是の場合、税率はどうするか、グループでディスカッションし、結論を出す
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
全学
ダイヤローグを読む
ダイヤローグを読む
ワークシートを使う
ピア・ラーニングを生かした授業の例(3)
“北海道の昆布漁から”
専門課程
ピア・ラーニングを生かした授業の例(3)
“北海道の昆布漁から”
導入
北海道のある町の昆布漁のドキュメンタリー映像を見る
“海と人と地域社会”について各自4つのキーワードを考える
グループ内で各自のキーワードを報告しあい、“海と人と地域社会”について“何が大事な点なのか”を話し合う
あらためて各自4つのキーワードを考える
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
専門課程
専門課程
ワークシートを使う
ピア・ラーニングを生かした授業の例(4)
“歴史的建造物を考える?”
専門課程
ピア・ラーニングを生かした授業の例(4)
“歴史的建造物を考える?”
導入「ダイアローグ」とデータを読む
各自、データの解釈を考える
グループ・ディスカッションで問題とその解決方法を
図式化する
全体でのシェア
ミニ・レクチャー
専門課程
歴史的建造物を考える
A市において、ある歴史的建造物の保存を
めぐって議論がある。このことについていろ
いろ調べてみると、次のようなことがわかっ
た。
ピア・ラーニングを生かした授業の例(4) 専門課程
この建物は、明治末期に建てられたもので、大学の建築史の専門家によると、日本全体では珍しい様式ではないが、この地域に残っているのはこれだけだという。
この建物について、愛着をもっている人は、A市の中に少なくないと思われるが、A市全体で広くそれが共有されているわけではない。
この建物を保存してほしいと考えている市民グループは、自治体が買い取ることを提案したが、自治体側は、財政難を理由にそれには難色を示している。
この建築を保存しようという意図で開かれたシンポジウムでは、複数の参加者から「この建物は、市民にとってもシンボル的な存在だ。ぜひ残してほしい」という意見があった一方、「この建物が大事だというのは、むしろよそから引っ越してきた人に多いのではないか」という参加者の意見もあった。
建物の近くの商店街の振興会会長さんは、「ぜひこの建物を保存して、観光客を呼び寄せられるようになってほしい。商店街としてもこの建物の保存に協力したい」と語った。
さまざまな関係者への聞き取りの中で、「銀行の建物より、むしろA市周辺部の田園景観の方が、この町の歴史をよく語るものではないか。こちらの保存に力を入れるべきである」という意見を聞き、「なるほど」と思った。
保存を望む市民グループが自治体と協力して、この建物の今後を考えるワークショップを開いたところ、20名くらいの市民の参加があり、熱心な議論がなされた。マスコミもその様子を伝えた。
ワークショップでは、この建物を市民が買い取って喫茶店やギャラリーにするという案が出て、参加者に好評だった。
自治体が全市的に行ったアンケート調査によると、「行政がいくらか負担してでもこの建物をぜひ残してほしい」という人が35%、「残してほしいが行政が財政負担すべきではない」という人が25%、「残すかどうかにあまり関心がない」という人が40%、という結果だった。
近くに住むある老人(女性)に話を聞くと、この建物に対して大きな愛着を持っていることがわかった。「私が嫁に来て以来毎日この建物の前を通っています。これがなくなると寂しいです」
近くに住むある老人(男性)に話を聞くと、この建物に対してたいした愛着をもっていないことがわかった。「ここに生まれ育ったが、確かにこういう建物は昔いくつもあったなあ。時代の流れだから、なくなるのはしょうがないんじゃないか」
保存を望む市民グループが、1日この建物を借りて、人形劇や1日カフェなどのイベントをしてみたところ、マスコミの事前報道もあって、多くの人が訪れた。
→何がわかったのか? どういう解決策が考えられるか?図式化してください
歴史的建造物を考えるピア・ラーニングを生かした授業の例(4) 専門課程
ピア・ラーニングを生かした授業の例(4) 専門課程
ディスカッションの方法はいろいろ
グループで答を出す
グループで議論を深める。結論は出さない
グループでアイデアを出し合う
口頭によるディスカッション
モノを使うディスカッション
KJ法
グループ・ディスカッションの「問い」もいろいろ
「~とは何か?」
「どれがよいか」
ランキングしてください
キーワードを作ってください
図式化してください
解決策を考えてください
個人作業との組み合わせが有効
個人による思考とグループディスカッションを組み合わせる必要
いきなりディスカッション、ではなく、個人で前もって考えてからディスカッションに入るほうが効果的
• 個人で考えたことのシェアから入ると議論に導入しやすい
• 議論が深まりやすい
個人とグループでは、思考方法が違ってくる
個人作業の「設問」の工夫
考えたことをできるだけたくさんメモしてください
キーワードを○つ作ってください
図式化してください
文章を作ってください
たとえば、「○○とは」で始まる200字程度の文章を作る
ピアラーニングを生かした授業
10のtips
1. グループ規模は4人が最適
2. ディスカッションへの指示を明解に
3. 講義デザインと個々の作業の関係を明確に
4. ディスカッションのテーマを工夫
5. 提供するネタが大事
6. 参考資料も大事
7. 宿題や文献購読との連動も
8. 教室のデザインを考える
9. ワークシートの作り方も工夫
10. TAの役割も大きい
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
1. グループ規模は4人が最適
経験から→
3~6人
4人が最適
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
2. ディスカッションへの指示を明解に
何をどう議論するか、明確かつ効果的に指示することが重要
学生たちを迷わせない
「考えるヒント」を提示する
議論がつまったときに使ってもらう
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
3. 講義デザインと個々の作業の関係を明確に
今自分たちが講義全体のどこにいるのか、常に意識させる
その日の作業が講義全体の中でどういう意味をもつのか、意識して提示する
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
4. ディスカッションのテーマを工夫
明解な「答」のないテーマを提示する
どんなネタでも、設問のしかたによって、おもしろいテーマに変身する
“最初簡単な問いだと思っていたのに、議論すればするほど、答えが見えなくなる、難しい”と学生に言わせれば、成功。
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
5. 提供するネタが大事
映像資料(テレビのドキュメンタリー番組など)
新聞記事
短い文献資料
ただ、ネタ探しはたいへん
講義の内容にぴったりするネタがそう転がっているわけではない
ネタから講義デザインを逆に考える
(※)著作権にも注意(勝手に改変しない)
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
6. 参考資料も大事
授業で議論したことと関連する参考資料を渡す短めの文献
雑誌記事
新聞記事
など
ディスカッションが深まれば深まるだけ、学生は参考資料をちゃんと読む傾向
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
7. 宿題や文献購読との連動も
授業での議論を深める文献紹介や宿題
宿題をもとにしたディスカッション
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
5. 宿題や文献購読との連動も
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
8. 教室のデザインを考える
マイク、スクリーン(見えやすさ)、音量(聞こえやすさ)
座席の配置
大人数のときには、着席方法を指定(「1つの机に2人」など)
以上の要領で座ってください。最前列・最後列は空けてください。
黒板
(空) (空)
廊下側:各列2人 窓側:各列2人各列4人
:::
人文・社会科学の基礎(人文科学入門 I)
机
(空)(空)
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
8. 教室のデザインを考える
黒板
廊下側:各列2人 窓側:各列2人各列4人
:::
人文・社会科学の基礎(人文科学入門 I)
机
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
8. 教室のデザインを考える
以下のように坐ってください
前
○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
座席の配置を指示
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
8. 教室のデザインを考える
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
9. ワークシートの作り方も工夫しよう
学生が取り組みやすいように
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
9. ワークシートの作り方も工夫しよう
ピアラーニングを生かした授業 10の tips
10. TAの役割も大きい
教室のデザインづくりの補助
グループ分けの指示
個人作業へのヘルプ
ディスカッションへのヘルプ
学生たちは実は議論好き
学生たちは意外に議論好き!(ということを自己発見する学生たち)
学生たちの“学びあいの力(ピアの力)”はなかなかすごい
参考文献
浅野誠, 1994, 『大学の授業を変える16章』大月書店
新井和広・坂倉杏介, 2013, 『グループ学習入門――学びあう場づくりの技法』慶應義塾大学出版会
池田輝政他, 2001, 『成長するティップス先生―授業デザインのための秘訣集』玉川大学出版部
佐藤浩章, 2010, 『大学教員のための授業方法とデザイン』玉川大学出版部
D.W. ジョンソン他, 2001『学生参加型の大学授業―協同学習への実践ガイド』玉川大学出版部
エリザベス・バークレイ他, 2009, 『協同学習の技法―大学教育の手引き』ナカニシヤ出版
バーバラ・グロス・デイビス(光澤舜明他訳), 2002, 『授業の道具箱』東海大学出版会
古宮昇, 2004, 『大学の授業を変える:臨床・教育心理学を活かした、学びを生む授業法』晃洋書房
宮内泰介, 2013, 『グループディスカッションで学ぶ社会学トレーニング』三省堂