10
自律型サッカーロボット Saint の研究開発 出村 賢聖(金沢泉丘高等学校) 本稿では、2010 年から 2013 年までの研究内容を対象とし、私が取り組んできた自律型サッカーロボット Saint の研究開発の遷移について述べる。開発初号機ではプラスチック製の皿に車輪と PIC マイコン e- gadget-core を搭載し、ブロック言語 C-style を利用した簡単なものであったが、現在では CAD で設計し、 ジュラルミンを CNC で切り出し、 Arduino Mega2560 を搭載し、 C/C++言語でプログラミングするまでに 至った。 キーワード: 自律型サッカーロボット, オムニロボット, ハードウェア, 戦術 1. 私はロボカップという国際プロジェクトに参加することに より、自律型サッカーロボットの研究開発を始めた。ロボカッ プとは、「西暦 2050 年「サッカーの世界チャンピオンチームに 勝てる、自律型ロボットのチームを作る」という夢に向かって 人工知能やロボット工学などの研究を推進し、様々な分野の 基礎技術として波及させることを目的としたランドマーク・ プロジェクト」である[1]ロボカップには 4 つの分野があり、私はその中のロボカップ ジュニア[2]という分野で研究に参加している。大学生や企業 の研究者が参加している他3つのロボカップリーグとは違い 、 19歳以下の子供達対象で、次世代の研究者と技術者を育て ることを目的としている。 ロボカップジュニアにもサッカー、ダンス、レスキューの3 つのチャレンジがあるが、私は、一番競技人口の多い、サッカ ーチャレンジに参加している。自作ロボットを使って 2 2 サッカー競技を行う。前後半 10 分ずつで、ハーフタイムが 5 ある。ロボットのサイズは直径 22cm の円筒に収まらなければ ならない。 ロボットは赤外線発光ボールを追うための赤外線センサや 壁、相手ロボットを検知するセンサなどを搭載している。方位 を探知する地磁気センサも使用される。自律で動くためにロ ボットにはマイコンが搭載され、パソコン等でプログラムを 作成してロボットを自律制御させる。 今回の研究開発では 2010 12 月から 2013 年までの研究内 容を対象とし、本稿では私が開発したロボットの詳細並びに 今後の課題を述べる。 2. 今まで開発したロボット 今の新型機ロボットに行き着くために試行錯誤して開発し た一連のロボットについて説明する。開発初号機ではプラス チック製の皿に車輪と PIC マイコン e-gadget-core を搭載し、 ブロック言語 C-style を利用した簡単なものであったが、第 8 世代では CAD で設計し、ジュラルミンを CNC で切り出し Arduino Mega2560 を搭載し、C/C++言語でプログラミング するまでに至った。 2.1 1 世代 1 のロボットは初めて製作した第 1 世代のロボットであ る。 2010 12 月、中1の冬休みに取り掛かった。この頃はロ ボットの知とんどなかったため、指導者の構想や用した部品材料を使い製作した。学生の頃からレのマイ ンドストームやいくつかのロボットキットを組みて、ライ ントレースなどの簡単なプログラミングをして学校の自研究にも出したことはあったのが、自分で1からロボッ トをつくるのは初めてった。指導者から用されたオムニ イールを使っていることが大の特徴であ

ロボカップジュニア日本大会提出論文(出村賢聖)140317

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自律型サッカーロボット Saintの研究開発

出村 賢聖(金沢泉丘高等学校)

本稿では、2010年から 2013年までの研究内容を対象とし、私が取り組んできた自律型サッカーロボット

Saintの研究開発の遷移について述べる。開発初号機ではプラスチック製の皿に車輪と PICマイコン e-

gadget-coreを搭載し、ブロック言語C-styleを利用した簡単なものであったが、現在ではCADで設計し、

ジュラルミンをCNCで切り出し、Arduino Mega2560を搭載し、C/C++言語でプログラミングするまでに

至った。

キーワード: 自律型サッカーロボット, オムニロボット, ハードウェア, 戦術

1. 序 論

私はロボカップという国際プロジェクトに参加することに

より、自律型サッカーロボットの研究開発を始めた。ロボカッ

プとは、「西暦 2050年「サッカーの世界チャンピオンチームに

勝てる、自律型ロボットのチームを作る」という夢に向かって

人工知能やロボット工学などの研究を推進し、様々な分野の

基礎技術として波及させることを目的としたランドマーク・

プロジェクト」である[1]。

ロボカップには 4つの分野があり、私はその中のロボカップ

ジュニア[2]という分野で研究に参加している。大学生や企業

の研究者が参加している他3つのロボカップリーグとは違い、

19歳以下の子供達対象で、次世代の研究者と技術者を育て

ることを目的としている。

ロボカップジュニアにもサッカー、ダンス、レスキューの3

つのチャレンジがあるが、私は、一番競技人口の多い、サッカ

ーチャレンジに参加している。自作ロボットを使って 2対 2で

サッカー競技を行う。前後半 10分ずつで、ハーフタイムが 5分

ある。ロボットのサイズは直径 22cm の円筒に収まらなければ

ならない。

ロボットは赤外線発光ボールを追うための赤外線センサや

壁、相手ロボットを検知するセンサなどを搭載している。方位

を探知する地磁気センサも使用される。自律で動くためにロ

ボットにはマイコンが搭載され、パソコン等でプログラムを

作成してロボットを自律制御させる。

今回の研究開発では 2010年 12月から 2013年までの研究内

容を対象とし、本稿では私が開発したロボットの詳細並びに

今後の課題を述べる。

 

2. 今まで開発したロボット

今の新型機ロボットに行き着くために試行錯誤して開発し

た一連のロボットについて説明する。開発初号機ではプラス

チック製の皿に車輪と PICマイコン e-gadget-coreを搭載し、

ブロック言語C-styleを利用した簡単なものであったが、第 8

世代では CADで設計し、ジュラルミンを CNCで切り出し

Arduino Mega2560を搭載し、C/C++言語でプログラミング

するまでに至った。

2.1 第 1世代

図 1のロボットは初めて製作した第 1世代のロボットであ

る。2010年 12月、中1の冬休みに取り掛かった。この頃はロ

ボットの知識がほとんどなかったため、指導者の構想や用意

した部品や材料を使い製作した。小学生の頃からレゴのマイ

ンドストームやいくつかのロボットキットを組み立て、ライ

ントレースなどの簡単なプログラミングをして小学校の自由

研究にも提出したことはあったのだが、自分で1からロボッ

トをつくるのは初めてだった。指導者から用意されたオムニ

ホイールを使っていることが最大の特徴であ

Page 2: ロボカップジュニア日本大会提出論文(出村賢聖)140317

図 1 第 1世代       図 2 第 2世代

る。オムニロボットとは全方位に無回転で移動できる機構を

搭載したロボットの総称である。図 3のようにオムニロボッ

トは 360度あらゆる方向に動くことができる。自作ロボット

に関しては全くの初心者だったので、ロボカップジュニア用

のモータ取り付けボードを使い、私自身インターネットで

色々なロボットを調べ[3-9]、参考書にして作成した。モータに

配線を取り付けるための半田ごてや、配線が相手ロボットと

絡まらないようカバーをつくるのが難しく、製作に 3カ月余

りかかった。

2.2 第 2世代

図 2のロボットは Japan Open2011(日本大会)のルールの

重量制限 1250gに収まるよう軽量化した第 2世代のロボット

である。石川ブロック大会では 1500gまでの重量制限だった

が、Japan Open2011ではルールが改正され 1250gに抑えな

ければいけなかった。そのため、4輪を 3輪へ、シャーシをアク

リルからポリエチレンに変え、200g軽量化させた。重量に余裕

ができたのでドリブル装置を付け、1230gの重量に仕上がっ

た。ドリブル装置とはボールを車輪でバックスピンさせ、ボー

ルの保持率を上げる機構である。重量制限(1250g)の規定を守

り、ドリブル装置を搭載することはロボット初心者の私にと

って難しかったが、指導者にアドバイスを受けながら作成し

た。

図 3 オムニロボットの動き方

図 4 第 3世代 図 5 関西オープン用ロボット

2.3 第 3世代

図 4のロボットは Japan Open2011 (昨年の日本大会)に出

場した第 3世代のロボットだ。毎日ロボット研究開発に明け

暮れていたため、この頃にはロボットが大分わかるようにな

り、指導者のアイディアではなく、自分で考えた画期的な機構

を沢山取り入れた。自分にとってはいわば芸術作品のような

ロボットである。作成の理由は、オムニホイールが金属製で、

試合中グレースケールの床を破いて退場させられる恐れがあ

ったためだが、他のハードウェアも改造しようと考えていた。

(1) RSS機構

今回はドリブル装置とキック装置をラチェットにより統合

した機構(RSS: Ratchet Spin System)を開発した。これは

羽生先生がレゴブロックで製作していたもの元に[10]、強度を

上げるために金属製のラチェットドライバーを使い製作した

ものである。長所は 1個のモータをラチェットにより正回転

時はドリブル装置、逆回転時はキック装置を駆動させるもの

であり、搭載するモータ数を減らすことができ軽量化である。

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図 6 RSS機構

図 7 KODS

表 1  軽量化

方 法     減 量

単3Ni-Mh 9 本 → LiFe 1本 -170 [g]

4輪  → 3輪 -123 [g]

金属スペーサ → 樹脂スペーサ -30 [g]

合 計 -323 [g]

(2) KODS

今までは減速比 15:1のモータを3個使用し3輪を制御して

いたが、姿勢制御が難しかったので、後方のモータのみ減速比

30:1のパワーがあり、進む速度が遅く制御しやすいものに 3

輪の制御簡易化を狙った機構(KODS:Kensei Omni Drive

System)を発明した。

(3) 105システム

次に 105システムである。これは、前方2個のモータ取り付

け角度を 105°にして前進、後進の速度を高める機構である。こ

のように、ハードウェアの開発に力を注いだ。

(4) ダイエット作戦

また、RSSを搭載するため、さらなる軽量化が必要だった。

そのため、ニッケル水素電池 6本から LiFePO4電池にしたこ

とで 170g軽量化し、金属スペーサを樹脂スペーサに交換して

更に 30gの軽量化を図った。前回より 200g軽量化したため

RSSを搭載することができた。 Japan Open2011に出場した

ロボットでキック装置とドリブル装置を搭載したのは、この

ロボットだけであった。

図 5のロボットは第 3世代をマイナーチェンジしたもので

ある。Japan Open2011の問題点を解決するために赤外線セ

ンサ(ボールを認識する)が周囲の光に干渉しないようブラ

インド(覆い)と IRフィルターをつけ、ロボットの自己位置

を検出するため距離を検出する超音波センサ 4つ垂直に付け

た。従来はまばらなグレースケールの床の色の濃さを利用し

た不正確な位置情報だったが、これにより、cm単位の正確な

位置情報がわかるようになった。

2.4 第 4世代

図 8は 2011年 12月に開催されたロボカップジュニア石川

ブロック大会用に開発した軽量化を極めた第 4世代のロボッ

トである。外装、ハンドル付き、キック装置付きで 800gという

非常に軽量なロボットを作り出すことができた。今回は赤外

線センサを 6個に増やした。壁沿いブラインド攻撃(図 15)

というロボカップジュニアの強いチームが使う戦法を石川ブ

ロックの選手に見せる必要があった。そのために、外装をつけ

た。この頃になるとロボットのハード製作にも余裕がでてき

て、12月の大会ということでクリスマスの飾りつけをロボッ

トに施し、デザインにも拘ることができた。

Page 4: ロボカップジュニア日本大会提出論文(出村賢聖)140317

図 8 第 4世代(クリスマスバージョン)

図 9 第 5世代 (Japan Open 2012出場)

2.5 第 5世代

(1) コンセプト

 昨年の日本大会 Japan Open2011(図 4のロボット)で

は、初心者だった私はロボット開発ばかりに取り掛かってい

たあまり、プログラムに時間をかける余裕がなかった。そのた

め、思いどおりにロボットが動かなかった。ボールを検出する

赤外線センサの取り付け位置が悪かったうえ、ハードウェア

も欠点だらけだった。

それは、今までモノづくり経験がなかった私が最強のロボ

ットを作ろうとして、新しい機構を編み出すことばかりに時

間をとられ、その機構やロボット自体に欠陥がないかソフト

ウェアで十分確かめていなかったからである。

その失敗がもう二度とないよう、昨年の上半期以内にロボ

ット技術を学び、経験を積み、下半期にロボットを製作し、ソ

フトウェアを開発した。今までの反省をもとに、第 5世代にな

る新型機のコンセプトを次に決めた。

安定したロボットを作り上げること

安定したロボットを作るために、今までプラスチック製の

植木鉢の受け皿をベース(土台)にしていたが、モータなどを取

り付けるとベースが歪んでしまいロボットの移動が安定しな

かった。そこで、ベースの素材を低発砲塩化ビニール板に変更

し、一枚の板から切り出すことにより問題点を解決した。図 9

の赤く見える板がベースである。さらに、ロボットの移動を安

定させるために 4輪オムニ機構を採用した。

また、ボールを安定して検出できるように、ロボットの側面

にボールセンサを 8個取り付け、死角をなくした。開発したロ

ボットを図 9に、スペックを表 2に示す。

なお、2012年 7月 23日から 30日の間に、中国河西省南昌市

で開かれた国際大会 SICTIC2012 (International School

Student ICT Innovation Competition of China) [10,11]に招

待され、参加した。SICTIC2012は,中国教育省が主催する第

1回国際学生 ICTイノベーション大会であり、この大会は 21

世紀の中学生と高校生の IT(情報技術)リテラシーの向上並び

に情報技術を媒介とした学生の国際交流を促進することを目

的としている。

SICTIC2012のロボットサッカー競技に図 10のロボット

で出場した。このロボットは Japan Open2012の問題点を解

決するために、モータを 2枚の板で挟むことによりロボット

を丈夫にし、耐故障性を高めた。SICTIC2012ではロボットの

重量が 1200gと更に制限されたこともあり、キック装置の搭

載を止めた。それ以外は、Japan Openのロボットと概ね同じ

である。競技会では 2012年のロボカップジュニア世界大会で

12位となったドイツ高校生チームと互角に戦うことができた。

ドイツや中国のメンターからは日本のロボットのオリジナリ

ティを高く評価され、いろいろ質問を受けた。

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図 10 第 5世代 (国際大会 SICTIC2012出場)

(2) ハードウェア

 市販のマイコンに自分で切り出したベースやマイコンやセ

ンサなどの電子部品を組み合わせ、ロボットを一から自作し

た。ほとんどのチームのロボットは、市販されているロボカッ

プジュニア用パーツを組み合わせて作ったものである。私は

このように、一からロボットを自作しているチームは、サッカ

ーAリーグでは、世界でもごく少数に限られるということが

わかった。また、プログラミング言語はC言語を使用している

本ロボットの最大の特徴は、あらゆる面において高速なこと

である。 

まず、スピードだが、加速度が他のロボットと比べて圧倒的

に大きい。ロボットの最高速度は、Saint(私が開発したロボ

ット)が 143.9 [cm/s]、Japan Open2012を予選突破したロボ

ットの多くが 146.5[cm/s]とさほど差はない。

表 2 第 5世代のスペック

項 目       詳 細

オムニタイプ X型 4輪オムニ(モータ配置がX状)

ベ ー ス ( 土

台)

低発泡塩化ビニール

マイコン Arduino Mega 2560:1個

駆動系 DCモータ: 4個

(Joinmax製High Power Motor3526)

オムニホイール:4個

(Joinmax製 Omni wheel pack)

電源分配器:1個

(Joinmax製 Power Distributor 4114)

キッカー

センサ

サーボモータ:1個

(SAVOX製:SB-2272MG)

赤外線センサ:8個

(Joinmax製 flame sensor)

超音波センサ:4個 (Parallax製 Ping)

地磁気センサ:1個

(ダイセン製多機能電子コンパス DSR-

1005)

付属品 シールド:1個 (GROVE Base Shield)

LCD:1個 ( GROVE Serial LCD)

重量 1150g

言語開発環境 Arduino IDE (C/C++言語)

電圧 DC13.2V , LiFePO4電池:2個

(タミヤ製 LF1100mAh, 6.6V)

だが、トルクは、Saintが 86.2 [N・cm], 主にライトウエイ

トリーグのロボカッパーに使われている、ダイセンギヤード

モーター 15:1を使っている他のロボットが 38.4 [N・cm]と

約 2.3倍の差があるので、最高速度に達するまで時間が半分以

下であり、平均速度は圧倒的に高速である。

もう一つの特徴は、JoinMax製の赤外線センサを使ってい

たので視力(ボール検出能力)が抜群に良いことだ。大抵の

チームは、最高でもボール(定常光)をコートの半分以下の面積

の中でしか発見できないが、Saintはコート上のすべての場所

でボールを検出できる。しかも、中立点にボールを置くときな

ど、審判が一時ボールを空中に上げるが、殆どのチームは地面

にあるボールしか検出できない、つまり2次元でしかボール

を発見できないが、Saintは空中にあるボールを検出できる。

つまり、3次元の視力を持っている。さらに、環境光(周囲の

光)をロボットがボールと見間違える現象があり、それを改

善するためには視力を下げるしかないが、Saintの赤外線セン

サは環境光に干渉しにくいため、視力を下げる必要がほぼな

い。

なお、現在の規格であるパルス変調光のボールに対しては

ダイセン電子のセンサと JoinMax製のセンサに性能的に大

きな差はない。

(3) ソフトウェア

戦術の考え方

 「2台で攻め、2台で守る。」

この戦術を使うと自分のチームのロボットが一台欠けても、

攻撃並びに防御を両立でき、これを実現するためには、総合戦

術を考える必要があった。5つの基本戦術と 2つの主流戦術を

Page 6: ロボカップジュニア日本大会提出論文(出村賢聖)140317

合併した。

基本戦術

2 回り込み     (図 11)

② 掻き出し     (図 12)

③ 自陣待機    (図 13)

④ ブラインド攻撃 (図 14)

⑤ シュート    (図 15)

回り込みとは、図 11に示すように自分の陣地にはボールを

攻めず、円、四角等の軌道を描いてボールを敵陣に回し、オウ

ンゴールを阻止する戦術である。私はオムニロボットの特性

を使い、ずっと敵陣の方向を向いているプログラムを書いた。

回り込むときは平行移動を使い、正多角形の軌道を描く。

掻き出しは、図 12のようにゴールの角や壁につまったボー

ルを移動させて攻めにつなげる戦術である。Japan Open2012

では超音波センサが試合中衝撃で外れてしまい、掻き出しプ

ログラムが作動しなかった。しかしそれが意外と功を奏した。

図 11 回り込み 図 12 かき出し

図 13 自陣待機     図 14 シュート

図 15 ブラインド攻撃

自陣待機は、図 13のようにロボットがボールを発見できな

いとき自陣に戻ることで防御を固めることができる戦術であ

る。

自陣にいる場合は回り込みする必要がないので、攻めの速

度が上がることによって、形勢逆転のカウンター攻撃につな

がる。この戦術を極めることにより、敵のブラインド攻撃で得

点されることがほぼなくなった。

シュートは、図 14のようにキック装置を使いボールを敵陣

まで飛ばして得点する戦術である。Japan Open2012の時、こ

のロボットにはキック装置が付いていた。威力は強かったが、

あまり得点源にはならなかった。SICTIC2012ではロボット

を軽量化する必要があったため、キック装置を外した。

ブラインド攻撃は、ボールを壁とロボットで挟み、ボールを

発見できないように死角を作りながら攻める戦術である。私

が昨年出場した Japan Open2011では高校生チーム(日本代

表として世界大会に参加)にこの戦術を使われ、全くボール

が発見できず、一方的に攻められ完敗してしまった。

主流戦術

1 正面突破         (図 16)

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② ブラインド&オウンゴール (図 17)

正面突破戦術とは、図 16に示すように相手のゴールに向か

い一直線で攻める戦術である。守りが堅いチームには得点し

にくいが、Saintの速度が圧倒的に速く、トルクも強いためボ

ールの支配率が圧倒的である。そのため、少しでも敵が隙をみ

せれば得点できる。予選ではこの戦術がとても役に立ち、大量

得点の礎となった。

ブラインド&オウンゴール戦術は、図 17のようにブライン

ド攻撃を仕掛け、次に高速のボールをキーパーにぶつけるこ

とにより、オウンゴールをさせ、得点する戦術である。この戦

術はキーパーがいない場合でもブラインド攻撃という形で得

点できるので、戦術に穴がない。この戦術を思いついた理 

図 16 正面突破 図 17 ブラインド&オウンゴール

由は、石川ブロック大会 2012(図4のロボット)にブライン

ド攻撃を使用しており、キーパーにボールが当たり得点した

ことがあったため閃いた。試合ではとても有効だった。

  

PID制御

PID制御とは、P(Proportional, 比例)制御、I(Integral,

積分)制御、D(Derivative,微分)制御を統合したものであ

る。この制御を使い、以前より目標の方位により正確、かつ高

速にロボットを向けるようになった。

P制御は、目標値と現在値の差(偏差)をモータへのパワー

(操作量)として与え、偏差を0になるよう制御するものだ。

だが、この制御だけでは偏差が小さくなったときに、モータへ

供給するパワーが不足し、いつまでたっても目標値に到達で

きないという問題がある。

そこで、目標値に正確に到達するために、I制御を使う。偏差

を時間ごとに足していき、その合計値を操作量に加えること

により、目標値と現在の値が 0になるまで正確に制御する。こ

れは、ロボットが回転するときに壁などにひっかかった時や

段差がある地面を走行するときなどに有効である。

最後に、D制御である。環境などの変化により、現在値が目標

値から急激にずれてしまうことがある。PI制御では目標値に

修正するまでに時間がかかるが、微分制御では瞬時に修正で

きる。目標地点でロボットが停止する制御を考える。PI制御で

は、ロボットは前進して目標地点で停止する場合に、目標地点

を行きすぎないと後進にならない。ロボットは慣性があるの

で急には止まれず、目標地点を通りすぎてしまう。一方、PID

制御では、目標地点に停止する前に後進の制御がかかり、目標

地点で停止することができる。

この制御は大学レベルであるが、コンピュータにプログラミ

ングすると、微分が減算、積分が加算になるので中学生でも理

解し、実装できる。これをC言語でプログラムにし、ロボット

に実装するには約2ヶ月かかった。

図 18 CADで設計     図 19 CNCで加工

2.6 第 6世代

第 5世代まではベース(土台)の材料に低発泡塩ビ板など

を使用し、手加工でロボットを製作した。第 6世代からは、サ

ッカーAオープン競技に出場するために、コンピュータ支援

設計ソフト CAD (Siemens PLM Software 社:Solid Edge)

を使用して設計し(図 18参照)、コンピュータ支援製造ソフ

Page 8: ロボカップジュニア日本大会提出論文(出村賢聖)140317

トCAM (Vectric社:Cut2D)でNC Codeを生成し(穴あけ、

切り出し順番を指定)、コンピュータ数値制御加工機CNC(オ

リジナルマインド社:KitMill420)でジュラルミン(A2017)と

ポリカーボネードを切り出し(図 19参照)、強度が強く大変

精巧なロボットを作ることが可能になった。

図 20 石川ブロック大会 2013 図 21 Japan Open 2013

表 3 第 6世代スペック

項 目       詳 細

オムニタイプ X型30°配置

4輪オムニ(モータ配置がX状)

ベース(土台)

中板、天板

ジュラルミン(A2017)

ポリカーボネート

衝撃吸収素材

防振ゴム

マイコン

衝撃吸収材 (1×30×500mm)

(内外ゴム製ハネナイト粘着付)

丸型防振ゴム:4個

(倉敷化学工業製:KA-8)

Arduino Mega 2560:1個

駆動系 DCモータ:4個

(Joinmax製High Power Motor 3526)

オムニホイール:4個

(Joinmax製 Omni Wheel Pack)

4ch モーターコントローラ:1個

(ダイセン製DSR-1202)

センサ シングルパルスボールセンサ:8個

(ダイセン製DSR-1204)

超音波センサ:4個 (Parallax製 Ping)

地磁気センサ:1個

(多機能電子コンパス:DSR-1005)

付属品 シ ー ル ド : 1 個 (GROVE Mega

Shield)

LCD:1個 ( GROVE Serial LCD)

スイッチ:1個(GROVE Button)

重量 1650g

言語開発環境 Arduino IDE (C/C++言語)

電圧 DC13.2V , LiFePO4電池:2個

(タミヤ製 LF1100mAh, 6.6V)

図 22 第 6世代 (SICTIC2013出場)

図 20に石川ブロック 2013、図 21に Japan Open 2013に

出場したロボットを示す。図 20のロボットはベースにジュラ

ルミンを使用し、中板は低発泡塩ビ板を使用しているが、図 21

のロボットは中板と天板に透明なポリカーボネート板を使用

しているため、強度に優れ、デザイン的にも優れたものになっ

ている。

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2012年に引き続き、中国教育部主催の国際大会 SICTICに

招待された。2013年は中国湖南省長沙市で 7月 23日から 27

日の間に開催された。Japan Open 2013で敵ロボットと衝突

した際に、マイコンが落ちたり、ボールセンサが壊れたりする

などの問題が生じた。そのため、次の改良を行い第 6世代のロ

ボットが完成した。

(1) ボールセンサの配置を奥に移動した。

(2) 衝撃吸収材を図 22に示すようにロボットの全面や支柱

に貼り付けた。

(3) Arduinoとロボット本体を防振ゴムで固定した。

SICTICでは中国国内予選を勝ち進んだトップチームと対

戦したが、ロボットに故障等は見られなく、互角に試合を終え

ることができた。

3. 結 論

本稿では、2010年から 2013年まで、私が取り組んできた自

律型サッカーロボット Saintの研究開発の遷移について、開発

コンセプト、ハードウェア、ソフトウェアの詳細について述べ

た。開発初号機ではプラスチック製の皿に車輪と PICマイコ

ンを搭載し、ブロック言語C-styleを利用した簡単なものであ

ったが、現在ではCADで設計し、ジュラルミンをCNCで切り

出し、Arduino Mega2560を搭載し、C/C++言語でプログラミ

ングするまでに至った。今まで 10台以上もロボットを開発し

てきたが、そのたびに技術が上がり、ロボカップジュニアを通

じて、ロボットづくりの楽しさに気づくことができた。

将来の研究としては、ロボカップジュニアサッカーB競技へ

対応した次世代のロボットを開発することやロボカップメジ

ャー@ホームリーグへ出場することのできる人に役立つロボ

ットを作ることである。

謝 辞

ロボカップジュニアのOBである監物慎也氏、歳森モシ人氏、

他にも金沢工業大学夢考房ロボカッププロジェクト所属の大

学生達がロボティクス学科教授と一緒に 2011年 5月から石

川の子供たちのためにロボットを教える DKTロボットスク

ールをボランティアで開講した。私もスクール生になるつも

りだったのだが、アシスタントとしてスクールを手伝うよう

言われ、教える側になった。そのため、自分で今まで以上にロ

ボットやプログラミングを勉強するようになり、教えること

が楽しくなった。これにより、ボランティア精神が生まれ、自

分のことだけではなく石川の子供たちを強くしたいという気

持ちが生まれた。これからも石川のロボカップジュニアを、先

輩である自分が中心となって引っ張って行きたい。

最後に、私を今まで支えてくれたロボカップジュニア石川

ブロックの皆様、高校にジュニアの活動を取り入れ、私たちを

サポートしてくれている金沢泉丘高校 SSH推進室の先生方、

ロボット作りの楽しさを教えてくれたロボカップジュニアジ

ャパン関係者の皆様に感謝を申し上げる。

参考文献

[1] ロ ボ カ ッ プ 日 本 委 員 会 公 式 ウ ェ ブ サ イ ト ,

http://www.robocup.or.jp/ 

[2] ロ ボ カ ッ プ ジ ュ ニ ア ジ ャ パ ン 公 式 サ イ ト ,

http://www.robocupjunior.jp/

[3] モッパーのロボット研究所, http://moparlab.sblo.jp/

[4] TeamRevereの徒然,http://teamreverse.blog3.fc2.com/

[5] くるくるミラクルのロボット日記 Team KURU-MIRA,

http://blog.goo.ne.jp/kuru-mira

[6] さぬき UDON!のブログ, http://kusuwata.blogspot.com

[7] 旧京都教育大学附属高校電子工学部のブログ ,

http://kyoukyou-zero.cocolog-nifty.com/

[8] 立命館森山高校 Sci-tech部のブログ, 

http: //scitech.blog130.fc2.com/

[9] Project Hanew, http://blogs.yahoo.co.jp/y_hanew

[10] 国際学生信息科技大会, http://www.sictic.org/

[11] SICTIC, http://www.sictic.org/news/eng/index.html

出村賢聖 (Kensei Demura)

2013年金沢市立野田中学校卒業,

同年石川県立金沢泉丘高校理数

科入学. 現在に至る. スーパーサ

イエンス部でサッカーロボット

の 製 作 に 明 け 暮 れ て い る .

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SICTIC2012, SICTIC2013のロボットサッカー競技で優秀賞

受賞.