91
小渓流における 魚道のタイプの選定と構造 北海道檜山振興局産業振興部林務課 主査(治山事業) 喜多 耕一

小渓流における魚道の選定_2014魚道ワークショップ

Embed Size (px)

Citation preview

小渓流における魚道のタイプの選定と構造

北海道檜山振興局産業振興部林務課主査(治山事業) 喜多 耕一

森林内に設置されてる治山ダムは、比較的大きな河川から、小さな沢まで、様々な規模の河川に設置されています。

はじめに

比較的大きな規模の

河川に設置された治山ダム

はじめに

比較的小さな規模の

河川に設置された治山ダム

はじめに

設置する沢の条件に合わせた、魚道の構造を選定します。

しかし小さい渓流は、通常時と洪水時の流量の変化が大きいので、構造の選定を間違えると魚道が機能しなくなります。

はじめに

詰まって機能しなくなってしまった折り返し魚道

土砂の堆積した魚道出口(上流)

はじめに

はじめに

この発表では、小渓流に着目し、魚道のタイプや構造、設置するダムの構造の工夫などについて提案、話題提供します。

はじめに

<注意>

この発表の内容は、発表者の経験と見識によるものがほとんどです。私は北海道職員ですが、北海道の治山で統一的に行っている、又は行おうとしていることと、違う内容がある場合があります。あくまでも、発表者個人の考えを述べていますので、注意してください。

なぜ小渓流に着目したのか

なぜ小渓流に着目したか

以前の職場が、北海道の道有林を管理する「森林室」であった。魚道を設置する場所は、主に山奥の小渓流。

大きな河川も、小さな渓流も、同じ基準で魚道を設計。

大きな河川に設置した魚道 小さな沢に設置した魚道

なぜ小渓流に着目したか

違和感

なぜ小渓流に着目したか

小渓流で大きな河川と同じタイプの魚道を設置して、機能しなくなっている

渇水期の対策がなされていないため、遡上できる水深が確保されていない

魚道の幅や勾配を大きくするため、コストが余分に掛かっている

なぜ小渓流に着目したか

小渓流には、小渓流にあった魚道の構造があるのでは?

なぜ小渓流に着目したか

小渓流における魚道のタイプ

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

折り返し式魚道

前面張り出し式魚道

主な魚道のタイプ

引き込み式魚道

折り返し式魚道

前面張り出し式魚道

主な魚道のタイプ

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

ダムが魚止めの役割をするので、下流から移動してきた魚が迷入しづらい

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道横から水が入らないように注意

放水路全体から水を流すことが出来る

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

魚道内のみ水を流すようにすると、ダム上流の森林復元が早い

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

小渓流における魚道のタイプ

上流の森林が回復してきている

引き込み式魚道

堆積土が深いので、側壁が高くなる

裏側

小渓流における魚道のタイプ

構造物が大きくなるので、ほかのタイプより建設コストが高い

引き込み式魚道

引き込み式魚道は、流量が多いが高さの低い構造物に適しているのではないか。

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

折り返し式魚道

前面張り出し式魚道

主な魚道のタイプ

小渓流における魚道のタイプ

折り返し式魚道

小渓流における魚道のタイプ

折り返し式魚道

ダム下流の局所洗屈(淵)を保全できる

小渓流における魚道のタイプ

折り返し式魚道

放水路の外に魚道を設置するので、土砂で詰まるリスクが高い

魚道出口土砂で詰まった折り返し魚道

小渓流における魚道のタイプ

折り返し式魚道

詰まらないように、いろいろやるけど無駄になることも多い

小渓流における魚道のタイプ

折り返し式魚道

通常時でも流量の比較的多い河川は、魚道出口も詰まりづらい

スクリーンは邪魔。いらないです。

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式魚道

折り返し式魚道

前面張り出し式魚道

主な魚道のタイプ

小渓流における魚道のタイプ

前面張り出し式魚道

流量の多い河川では、魚道入口が見つけられず迷入してしまう

写真は一例です

http://warashi-rod.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300448167-1http://blogs.yahoo.co.jp/gyozo_common/9725155.html?newwindow

%3Dtrue

小渓流における魚道のタイプ

前面張り出し式魚道

魚道下流側が洗屈され、落差が出来ることがある。大きくなると障害に。

小渓流における魚道のタイプ

前面張り出し式魚道

放水路内に魚道を設置するため、土砂による閉塞が起きづらい。

小渓流における魚道のタイプ

引き込み式 折り返し式 前面張り出し

建設コスト 大 中 小

維持管理 易 難 易

ダム下流の局所洗屈の維持

○ ○ ×

魚の迷入 なし 構造によりあり

構造によりあり

主な特徴 • 構造物が大きくなるため、建設コストが大きい

• 流量が多く、低い構造物では、ほかのタイプより有効に機能する

• 流量の多い河川でも一定の流量を魚道内に流すことが出来る

• 設置位置を間違うと、土砂が詰まり、維持管理に費用がかかる

• 流量の少ない河川では、少ないコストで建設できる

• 土砂による閉塞が起こりづらいため、維持管理が容易

小渓流における各魚道の特徴

小渓流における魚道のタイプ

前面張り出し式を小渓流で採用するためにクリアするべきこと

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

魚の迷入対策

http://warashi-rod.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300448167-1

前面張り出し式の場合、魚道以外の放水路から水が流れる様にすると、移動する魚が迷入してしまい、魚道の入口を見つけることが出来ません。

こちらに入ると、入口を見つけるのは難しい

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (迷入対策)

迷入したら、鳥の餌食になってしまう

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (迷入対策)

通常時には、すべての水を魚道から流す。融雪時期の増水くらいを流せる魚道幅を設定する。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (迷入対策)

ゆえに、大きな河川だと魚道幅が広くなるため、建設コストが高くなる。

大きな河川には前面張り出しは×

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (迷入対策)

また、極度にダムの下流が河床低下しているようだと、魚道の延長が長くなってしまうので「前面張り出し式」は向かないかもしれません。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (迷入対策)

魚道出口にも工夫が必要

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

※ここでいう「魚道出口」とは、魚道上流側のことです

よくある魚道出口

コンクリート面が平坦なため、渇水期に水深が浅い

水路の深さが浅いため、少しの増水でもあふれてしまう。

あふれた時に溜まった水

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (魚道出口の工夫)

コンクリートの幅が広すぎて移動しづらい

50cm以上切下げ

裏側を30cm程度さらに下げる

渇水期用に細い溝を付ける

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (魚道出口の工夫)

土砂が溜まるので、適度な深みが出来る

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (魚道出口の工夫)

魚道の幅や深さは、周辺の情報を参考にする

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

早瀬

平瀬

淵 淵頭

淵尻

平瀬

早瀬

早瀬

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (幅や深さの設定)

淵と瀬の概略図

魚道の幅は早瀬の幅を参考にします

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (幅や深さの設定)

魚道の深さは、渓岸浸食や、狭窄部の水深などを参考にします。

少なくとも50cm以上は必要です。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (幅や深さの設定)

大雨後の増水時に観察できればさらにいいでしょう。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (幅や深さの設定)

放水路を50cm以上切下げると、上流に土砂が堆積しても、流れは魚道に戻ってきます。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (幅や深さの設定)

魚道入口の局所洗屈対策

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

放水路を50cm以上切下げると、上流に土砂が堆積しても、流れは魚道に戻ってきます。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

原因1

高さの設定を間違っていないか?

魚道入口の局所洗屈対策

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

下流2~3段程度地中に潜らせる

対策

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

ここで注意すること!

下流側を掘削して、水路にしてしまわない建設会社の人は構造物を見せたくなるので、下流を掘ってしまう

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

下流の仕上げは、逆勾配に仕上げる。もしくはプールを埋めてしまう

プールが埋まっても問題なし

このあたりを打止壁より高くする

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

原因2

流速が落ちていない?

魚道入口の局所洗屈対策

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

魚道で流速が上がった流れが、下流にそのままの勢いで流れ、魚道下流を洗屈する

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

側壁の下流を高くしてしまうと、流速が落ちないで、下流に影響を与える

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

原因のひとつ

垂直壁直下に少しでも落差が出来ると、どんどん浸食が進む。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

原因のひとつ

落差

側壁の下流を地面に潜るくらい低くすると、

流水が分散して、流速が落ちる

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

対策

下流は地面により低くする

増水時は水があふれる

側壁の下流を地面に潜るくらい低くすると、

流水が分散して、流速が落ちる

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

3年後の状況

3年間の最大日雨量100mm/日、最大時間雨量35mm/時

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

流域面積約250ha

下流側には土砂が溜まっています。先掘は起こっていません。

大雨後の増水の状況前日に最大日雨量72mm/日、最大時間雨量17mm/時

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

側壁が低いので水があふれている

流域面積約320ha

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

流域面積約320ha

土砂が溜まっている

4年後の状況

魚道下流側の河床幅を広くすることも大事

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (局所洗屈対策)

隔壁の形状は工夫が必要

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

台形断面の構造は素晴らしい

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

ヨコエビなどが容易に遡上できるため、サクラマス等の大切な栄養源を、途絶えること無く供給できます

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

しかし、次のような問題点もある

•コンクリート量が多いので、建設コストが高くなる

•形状が複雑なため、施工が難しい

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

•コンクリート量が多いので、建設コストが高くなる

必要な生物がいるのならば、コスト高は仕方ない

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

•形状が複雑なため、施工が難しい

ブロック化するなどで簡略化?効率的な施工方法をマニュアル化する?

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

魚道を利用する生物をきちんと把握することで、台形断面では無い魚道でもいいかも?

建設コストを安く=進捗を早くする

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

およその生物の把握が難しい

台形断面魚道が安心(違うタイプを施工して後から改修するのは難しい)

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

台形断面でも小渓流の場合は、切欠きや、中央を低くするなど、渇水期対策が必要です

中央を低くしたもの

切欠きをしたもの

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

一般的には増水時に遡上行動が促進されると言われるが、実際には、水が少なくても遡上は行われる。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

個人的には、隔壁間のプールに土砂が溜まっても魚道が機能しているなら問題ないと考えています。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

プールに土砂が堆積し、フキが生えてきているが、

魚道機能は維持され全く問題ない

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

隔壁間プールの拡大

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (隔壁の形状)

魚道出口(上流部)で土砂が詰まるのは問題があるが、魚道内で土砂が詰まっても余り問題ありません。

水がきちんと常時魚道内を流れているかが一番重要です。

側壁は一体構造物でいいのでは?

小渓流で前面張り出し式を行う場合には

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (側壁の構造)

現在の側壁の設計は、左右それぞれの側壁ごとに魚道内を流れる水圧と、越流した時の越流水深を考慮して安定計算をしています。

そのため、側壁の断面が大きくなります。

外側に法が付く

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (側壁の構造)

しかし、実際には、隔壁が付くことで左右の側壁は一体構造物となっていると思います。

これで一体構造物

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (側壁の構造)

一体構造物となったら、もう少し断面を小さく出来ないものでしょうか?

石などで壊れない程度に薄く出来ないか

外側も直にして断面を小さく

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (側壁の構造)

皆さんはどのように側壁の断面計算をしていますか?

有効な情報があれば教えてください。

小渓流で前面張り出し式を行う場合には (側壁の構造)

小渓流では、大きな河川と同じ魚道設計を行うと、機能しなくなる場合があったり、余分にコストが掛かる

小渓流では小渓流にあった魚道構造を工夫することで、建設コスト縮減ができる

また、小渓流では渇水期対策が重要なポイント

まとめ1

小渓流では、メンテナンスフリーな魚道は「前面張り出し式」がいいのではないか

しかし、「前面張り出し式」を行う場合にも、構造上の問題が起こらないように工夫する必要がある

下流側が河床低下しているダムなどは、魚道延長が長くなるので「前面張り出し式」は向かないかも(コスト比較が必要)

まとめ2

隔壁の形状、側壁の安定計算などを見直すことで、コスト縮減が出来るのではないか。

また、そのような情報をまとめて掲示してくれるWebサイトなどがあれば、設計の参考に出来る

まとめ3

おわり

2014 魚道ワークショップ話題提供 資料