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3 実査 図解入門 How-nual 前章で作成した調査企画書に基づいて、実際に対象者に調 査を行うことを、実査と言います。ただし、実際には、リ サーチャーが行うのは実査そのものではなく、実査を行う調 査員などを手配・管理する実査管理です。実査で集めたデー タにミスがあると、その後に行う集計・分析や報告作業のす べてに影響が出てしまうので、慎重な実行が求められます。 本章では、まず、各調査方法について、どのような調査で、 何をすることが必要なのかなどを詳しく見ていきます。さら に、実査管理をする上での注意点についても触れます。 マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ65

図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

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3第 章

実査

図解入門How-nual

前章で作成した調査企画書に基づいて、実際に対象者に調

査を行うことを、実査と言います。ただし、実際には、リ

サーチャーが行うのは実査そのものではなく、実査を行う調

査員などを手配・管理する実査管理です。実査で集めたデー

タにミスがあると、その後に行う集計・分析や報告作業のす

べてに影響が出てしまうので、慎重な実行が求められます。

本章では、まず、各調査方法について、どのような調査で、

何をすることが必要なのかなどを詳しく見ていきます。さら

に、実査管理をする上での注意点についても触れます。

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ65

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第3章

実査

る調査方法です。定量調査は、調査対象者に調査票に回答してもらうことによって

情報を得る「質問調査」で行います。具体的には、「個人訪問面接調査」「会場テス

ト」「インターネット調査」「電話調査」「郵送調査」などの手法があります。

実験調査は、因果関係を確かめるための「因果的リサーチ」で使用する調査方法

です。

それでは、次節より、個々の調査方法について、詳細を見ていきましょう。

3-1 調査手法の分類

67

*観察調査 観察調査は、店鋪への来店者数をカウントしたり、調査票で聞けないことを調査するなど定量調査でもあ

り、記述的リサーチでもあります。しかし、仮説設定やインサイトを探る目的で用いられることが多いの

で、本書では探索的リサーチの定性調査の中で説明しています。66

3-1調査手法の分類調査手法の分類一口に実査(データ収集)と言っても、使う調査方法には様々なものがあります。

まずはどのようなものがあるのか概観しましょう。

実査とは?

前章で説明した企画作業と、この後の章で説明するデータ集計・分析、報告書の

作成作業の間に存在するのが、実査(あるいは「フィールドワーク」「フィールディ

ング」)と呼ばれるデータ収集活動です。

実査では、調査企画書で設定した調査方法に従って、データを収集します。

とはいえ、実際には、実査の作業自体はインターネット調査会社を含む調査会社

(リサーチ・サプライヤー)やフィールド会社(フィールドサービス)などに行って

もらうことがほとんどです。リサーチャーは、調査が調査企画書通りに行われてい

るかどうかを管理することになります。これを「実査管理」と言います。

ただ、リサーチャーの仕事は実査管理だとはいっても、具体的にどのような調査

方法があり、何をすればいいのかを知らなければ、管理のしようがありませんし、

そもそも調査企画書が書けません。したがって、リサーチャーにとっても、調査方

法についての最低限の知識は必要です。そこで、本章でそれらの知識を学んでおき

ましょう。

「定性調査」「定量調査」「実験調査」それぞれの具体的手法とは?

第2章で説明したように、調査方法には大きく分けて「定性調査」「定量調査」「実

験調査」の3種類があります。

定性調査は、マーケティング課題や仮説を発見するための「探索的リサーチ」で

使用する調査方法です。その調査目的を対象者に明示して行う直接法と、目的を隠

して行う間接法があります。前者の代表が、グループ・インタビューと、個人深層

面接調査です。後者には「投影法」などがあります。

定量調査は、行動や意見の割合を数字で表すための「記述的リサーチ」で使用す

調査手法の一覧

実験調査(定量調査)

個人訪問面接調査インターネット調査郵送調査電話調査

定量調査(質問調査)

定性調査

直接法 グループインタビュー個人深層面接調査

投影法観察調査*

間接法

個人訪問面接調査会場テスト(調査)

従来型の電話調査コンピューター支援電話調査(CATI)

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第3章

実査

さらに、例えば同じ定性調査の手法*である深層個人面接だと、対象者1人の意見

を収集するのに1時間ぐらいかかるのに比べて、グループ・インタビューでは2時間

で6人程度の意見が聞けます。つまり、非常に効率的にデータを収集できる手法だと

も言えるのです。

また、比較的短期間で調査が終了するのもメリットです。対象者の事前リクルー

トに(集める難易度によっても異なりますが)だいたい1~2週間程度、クループ・

セッション自体は1日2~3グループ行えます。

3-2 定性調査①グループ・インタビュー

69

*定性調査の手法 林美和子 肥田安弥女『定性調査がわかる本』(2008年、同友館)を参照。業界の大ベテランが書

いた力作です。

68

3-2定性調査①グループ・インタビュー定性調査①グループ・インタビューグループ・インタビューは、探索的リサーチのデータ収集手法であり、消費者の

生の声を比較的簡単に聞くことができる定性調査の代表的調査手法です。

グループ・インタビューとは?

グループ・インタビュー(グルイン)は、「性別や年代が同じ」「ある製品のユー

ザーである」など、同じ特徴を持った対象者(同質集団)6~10人程度のグループ

で約2時間ぐらい議論を進めてもらい、データを収集する方法です。集団面接と呼ば

れたり、フォーカス・グループス、フォーカス・グループ・ディスカッション、

フォーカス・グループ・インタビュー(FGI)と呼ばれたりもします。

新製品のアイディア出しや、新製品コンセプトや製品への反応、価格への反応、

広告クリエイティブへの反応、キャンペーンや販促施策への反応、製品カテゴリー

の購入・使用実態、消費者言語の収集などをテーマとした調査*に、よく使われてい

ます。

また、グループ・インタビューは1セッションあたり2時間程度で済むと言うこと

で、日頃ユーザーである消費者とあまり接触する機会のない多忙なクライアントに

とって、消費者を手軽に直接「学習」できる場でもあります。そのため、自分の仮

説(時には思いこみ)を簡便に確認する場としても、グループ・インタビューは非

常に重宝されています。

グループ・インタビューのメリット

グループ・インタビューが優れているのは、なんと言っても「1人ではなく、複数

の人に集まってもらう」という点です。

複数の人に集まってもらうことで、「グループダイナミクス」と呼ばれる、1人で

は決して生まれない参加者間の相互影響力が作用し、商品や購買行動についての思

わぬ気付きや意見が出されることが期待できます(ただし、意見の同調、連鎖反応

には注意する必要があります)。

*調査 問題探索のためのグループ・インタビューの成否は、調査票に反映させる問題解決のための有効な仮説を抽出

できるかどうかです。

グループ・インタビューの長所と短所

¡対象者の「生の声」が聞ける(驚きや新たな視点)¡クライアントがインタビュー会場をモニターできるため、実施中に生じた問題点・疑問点を、その場で確認可能

¡深い内容まで突き詰めた質問が可能¡対象者に質問の意図や呈示物の内容を十分に説明できる

¡企画者の意図しない発見が得られることがある¡特定のターゲットに絞り込んだ調査が可能

¡量的把握が不可能¡対象者による偏りが生じる¡サンプルあたりのコストが高い¡モデレーターの技量による影響が大きい¡母集団を代表する結果ではないけれども、クライアントもリサーチャーもその錯覚に陥り、過った結論や意思決定をもたらす可能性がある

長所

短所

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第3章

実査

用実態などの発言をしてウォーミング・アップを図り、本題のテーマの議論に入っ

ていく、という流れがよいでしょう。ラポール*の形成が大切です。

ポイントとなるのが、ガイドの長さです。つい「あれも、これも」と聞きたくな

るのですが、あまり長くなりすぎないように注意しましょう。

特に問題発見のグループ・インタビューでは、細部の項目までガイドを用意しな

い方がよいでしょう。かえって問題を狭くする恐れがあります。多くのことをたず

ねるのではなく、あくまでも問題についての自発的な意見を出させる方に注力する

ことが大切です。

6人の参加者で2時間は長いようですが、参加していてテーマについて意見を持っ

ている対象者からすると、発言できる時間がないのでフラストレーションを感じる

場合もあります。特に、よくしゃべる人がいて、モデレーターの交通整理が悪いと、

うまく議論が流れていきません。そのようなケースでは、後半は時間不足になりま

すので、あまり長いガイドはお薦めしません。

3-2 定性調査①グループ・インタビュー

71

*ラポール モデレーターと参加者間の信頼関係のこと。話し合いの動機付けとなる。

70

グループ・インタビューの準備と実行

グループ・インタビューを行うには、まず、各種の準備が必要です。準備すべき

主な事柄としては、以下が挙げられます。

¡対象者のリクルート*(スクリーニング調査票の作成)

¡社内あるいは社外の会場の予約

¡外部のモデレーターを依頼する場合はその手配

¡ディスカッション・ガイド

モデレーターというのは、参加者の中心となって話し合いを進めてもらう、コ

ミュニケーション・スキルを持った司会者のことです。また、ディスカッション・

ガイドとは、グループ・インタビューで話し合うべき項目について書いた書類で、

質問項目の代わりに使用します。

これらの準備が済み、ディスカッション・ガイドについてクライアントとの間で

最終的に合意が取れれば、後は当日の実査管理作業になります。ビデオ記録の準備

や、会場の設定、モデレーターや書記係、参加者の座席設営、参加者の出迎えと会

場への誘導、飲食の準備と配布、途中での追加質問やリクエストの「メモ」の持ち

込み、終了後の片づけなどの作業があります。書記係の人は、速記録(バーベイタ

ム)の作成があります。

なお、グループ・インタビュー終了後には、モデレーターと関係者を交えて、意

見を確認するために、各セッションの簡単なまとめ(デブリーフィング)のセッ

ションを持っておいた方がよいでしょう。さらにリサーチャーは、速記録を見なが

ら、報告書をまとめることになります。

ディスカッション・ガイド作成の注意点

上記のグループ・インタビューの準備の中でも、特に重要なのがディスカッショ

ン・ガイドです。グループ・インタビューの成否は、ディスカッション・ガイドに

かかっていると言ってもいいでしょう。

まずガイドの構成ですが、自己紹介から始まり、調査対象である商品の購入や使

*リクルート 問題探索のグループ・インタビューの対象者の選定は重要です。仮説抽出の観点からは、ヘビーユーザ

ーの方が好ましいでしょう。グループ・インタビューのリクルートは、課題解決のために表面的な対象

者条件だけでなく、もっと工夫が必要です。

3-2 定性調査①グループ・インタビュー

グループ・インタビューの実行手順

¡対象者のリクルート(スクリーニング調査票の作成)¡会場の手配¡モデレーターの手配¡ディスカッション・ガイドの作成

事前準備

¡ビデオ記録の準備¡会場の設定¡座席設営¡参加者の出迎えと誘導

調査当日

調査後

¡飲食の準備¡追加質問やリクエストのメモの持ち込み¡片付け¡終了直後のデブリーフィング

¡速記録の検討¡報告書の作成

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第3章

実査

を反射的に答えてもらいます。それを集計・分析して、動機を解明しようとするわ

けです。ブランド連想などが、その例です。その他、投影法の手法としては、文章

や物語などを完成してもらう「完成法」、絵を描いてもらう「構成法」、ロールプレ

イングなどをしてもらう「表現法」などがあります。

投影法は、通常の面接手法で得られないような回答を引きだす利点がありますが、

実施には熟練のインタビュアーが必要であり、解釈が難しいという難点もあります。

観察調査

観察調査は、消費者の行動など実際の事象を、人または機械装置(ビデオなど)

によって直接あるいは間接的に記録し、データを収集する方法です。

人による観察で記録できる対象としては、家庭における製品の使用実態(ホーム

ウォッチング*)や、店内での購買行動、店内での動線、陳列や販促状況(店頭観察

調査)などがあります。

他方、機械で記録できる対象としては、ビデオメーター(ビデオリサーチ)によ

る視聴率や、隠しカメラによる店内の購買行動、アイ・カメラ*やタキスト・スコー

プ*による、広告やパッケージなどへの心理的反応などがあります。

観察調査は、対象者の記憶にたよる質問調査とは違い、即時的に行動が把握でき、

面接員のバイアスからもフリーですので、より客観的で正確な情報を得ることがで

きるというメリットがあります。ただし、行動の結果はわかりますが、なぜそのよ

うな行動を取ったのかの動機や意図などはわかりません。そのため、面接調査と併

用されることがあります。また、観察者によるバイアスが起こる可能性もあります。

質問調査よりも比較的、費用がかかるという難点もあります。

3-3 定性調査②その他の定性調査

73

*ホームウォッチング ホームウォッチングに対して、街頭で行動を観察するのがタウンウォッチング(定点観測)。他に、交通

量調査や来街調査などもあります。売り場やサービス内容を覆面で調査する「ミステリーショッパー」

もその1つです。

*アイ・カメラ 眼球運動を記録して、どこに視線がいくかを測定できる装置。

*タキスト・スコープ 瞬間露出器で、視覚的刺激をきわめて短時間に呈示する装置。72

3-3定性調査②その他の定性調査定性調査②その他の定性調査グループ・インタビュー以外の定性調査の手法には、個人深層面接調査、投影法、

観察調査があります。

個人深層面接調査

個人深層面接調査(イン・デプス・インタビュー、IDI)は、調査者と被調査者が

1対1(ワンオンワン・インタビュー)で、一定時間に渡って面接を行い、会話をし

ながら「被調査者の購買行動がなぜ起こったか」を明らかにしようとするものです。

専門家へのインタビューや、特殊なトピックスなどに使われます。

個人深層面接のメリットは、集団面接であるグループ・インタビューよりもさら

に深い洞察を得ることができる点にあります。また、グループ・インタビューのよ

うに他の参加者の発言に影響を受けた意見が出ないという利点もあります。

ただし、個人深層面接には、その成否がインタビュアーの技量に追うところが大

きいという難点もあります。個人深層面接を成功させるには、プロービング*のでき

る熟練したインタビュアーが必要です。インタビュアーの力量が低いと、有益な意

見が出ない可能性があります。また、解釈が難しいという問題点もあります。

なお、「深層」とまでいかない場合は、いわゆるヒアリング調査として行われてい

ます。企業への業績や商品のヒアリングや、店頭での聞き取りなどです。

使われる手法として、「ラダリング*」や、「象徴分析*」などがあります。

投影法

投影法は、「自分の欲求や態度、習性を自分以外の人やものに帰する」という投影

的原理を応用して、消費者の購買動機を解明しようとする方法です。調査目的を明

らかにしてしまうと回答結果に影響が出るような事柄について定性調査をしたい場

合に用います。

例えば、投影法の手法の1つである「語句(言語)連想法」では、特定の文字や単

語を1つずつ、一定の間隔をおいて被調査者に与え、一定時間内で心に浮かんだ単語

*プロービング 的確な追跡質問をするためのテクニックの一種。

*ラダリング 「なぜあなたにとってこの商品は重要なのですか」といった質問を繰り返すことによって、消費者価

値の構造を明らかにする手法。

*象徴分析 対象となるものの象徴的な意味をその対極にあるものと比較することによって分析する手法。

その他の定性調査

手法名 概要個人深層面接調査 調査者と被調査者が1対1で面接を行う直接法。投影法 投影的原理を利用する間接法。語句連想法、完成法、構成

法、表現法など。観察調査 被調査者の行動などを観察・記録する間接法。

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第3章

実査

個人訪問面接調査の注意点

個人訪問面接調査の成否は、調査員の質にかかっています。調査員の質が悪い場

合は、調査結果に大きな誤差や偏りが生じるリスクがあります。

したがって、個人訪問面接調査を行う際には、調査員の手配に十分に注意する必

要があります。必ず事前に調査説明会(インスト)を行い、調査員に調査内容につ

いて十分に説明しておきましょう(図参照)。なお、調査説明会前には、調査用具を

調査員の数だけ準備しておく必要があります。

また、フィールドワーク開始後も、調査員のフォロー(電話連絡など)や回収後

の検票を行い、調査が正しく行われているかチェックする必要があります。さらに、

後日、本当に面接が正しく行われたかのチェックを行う「インスペクション」を実

施する場合もあります。

3-4 定量調査①個人訪問面接調査

7574

3-4定量調査①個人訪問面接調査定量調査①個人訪問面接調査個人面接調査は、定量調査のもっとも基本的な手法で、調査票を使用する質問調

査の代表的存在です。

個人訪問面接調査とは?

個人訪問面接調査は、調査員が調査票を対象者の自宅に持参して、その場で質問

文を読み上げて調査を行う方法です。具体的には、まず、調査員が事前に選ばれた

リストに沿って対象者宅を訪問するか、あるいは決められた調査地点で条件にあっ

た対象者を見つけて回答を依頼します。そして、調査票に従って順番に質問を行い

ます。最後に聞き逃しがないかどうかを確認し、謝礼を渡し、お礼を述べる――と

いう流れで調査を行います。商品サンプルなどの提示物も使用可能です。

個人訪問面接調査には、面接状況に応じて質問を変えることができたり、回答者

の回答をさらに追及できるといった柔軟性があります。他の調査方法に比べ多くの

質問をすることも可能で、対象者の協力を得られやすいと言えます。また、訪問面

接の場合、調査員による家庭状況などの観察も可能です。

一方で、1軒1軒の対象者宅を訪れなければならず、かつ回収目標数が達成できな

い場合は数度に渡る訪問を行う必要があるため、時間とコストがかかるのが難点で

す。対象者が主婦であれば、平日でも十分、対象者数は確保できるでしょうが、若

い女性の場合は難しいでしょう。男性になるとさらに難しくなります。不在などを

考慮すると、週末訪問を2度ぐらい入れる必要があるかもしれません。そうなると、

フィールドワークに数週間は必要になります。さらに、家庭での製品テスト(ホー

ム・ユース・テスト)の場合は、これに1週間とか10日といった使用期間が加算さ

れ、製品使用前と使用後の少なくとも2回訪問することになります。

ちなみに、調査員が直接面接する代わりに、調査票を預け、記入後、再び調査員

が訪問して回収する「留置き調査」というものがあります。本人に会えないことか

ら調査実施が不可能な場合、留置きによって、回収率を上げることができます(た

だし、個人面接法と留置き法の併用は好ましくない場合もあります)。

個人訪問面接調査の実行手順

¡調査員の手配 ¡説明会会場の手配¡調査用具の用意・点検(調査票、・調査の注意事項をまとめた調査指示書、地図、調査依頼状、謝礼、対象者リスト、製品テストの場合はその製品など)

調査説明会の準備

¡調査目的や調査方法の概要の説明¡1問ずつの調査票の説明(質問の趣旨や注意点、記入方法)¡回答カードなどの資料の扱い方の説明¡トラブルへの対応方法の説明¡連絡先の確認¡手当等の精算の説明

調査説明会

¡調査員のフォロー¡調査票回収後の検票¡インスペクション

調査期間中・調査後

¡日程の確認¡調査地点の割り当て¡質疑応答

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第3章

実査

ゆる「主婦会場」や団地の集会場などで行うケースもあります。

それから、路上リクルートをする場合は、会場内で面接を行う調査員の他に、路

上で対象者を探す調査員の手配が必要です。一方、事前に対象者をリクルートする

必要がある場合は、対象者のスクリーニング票の作成作業もあります。

さらに、テスト当日までに、調査票や調査指示書、謝礼などの準備作業をしなけ

ればいけません。クライアントから提供されるテスト製品以外に競合製品などを購

入する必要がある場合は、その手配も必要です。

調査当日や前日には、会場まで調査資材の搬入をしなければいけません。そして

会場を設営します。面接を行うスペースや、テスト製品を準備する場所、広告コ

ピーのビデオ設置場所などの確保が必要です。また、調査員に、調査が始まる前に

調査や調査票の説明を行っておきます。

会場テストの実行

対象者を路上で探す場合は、調査員を会場の外に配置します。路上でのキャッチ

は、周辺のお店に迷惑をかけないように配慮することも必要です。

対象者が会場に来たら、テスト製品やパッケージ写真などがある場合は、それら

の配布を行います。この際は、情報機密の点からも、クライアントからの預かり品

の紛失が起こらないように厳重に管理する必要があります(もちろん、テスト当日

前後のテスト品の管理にも十分な注意が必要です)。

テスト中は、対象者からの質問に答えるなどの対応を行い、テストが終了すれば

調査票をチェックし、謝礼を渡して完了です。

なお、路上リクルートの場合、調査時間は30分が限度です。事前リクルートの場

合は、交通費や謝礼も高くなりますが、1時間前後の調査も可能になります。

3-5 定量調査②会場テスト

7776

3-5定量調査②会場テスト定量調査②会場テスト会場テストは、対象者に会場に来てもらう質問調査の手法です。テスト製品や広

告案などの提示物がある場合に向いています。

会場テストとは?

会場テスト*は、対象者に教室やホールなどの特定の「会場」に来てもらって、個

人面接を行う方法です。ただし、会場テストの場合、面接法だけでなく、司会者の

指示の下に1度に多数の対象者に自記式調査票に記入してもらう「集合調査」で行わ

れる場合もあります。

「会場」という管理された環境で調査を行えるため、特に製品テストや広告コ

ピー・テストなど、テスト製品や広告案などの提示物がある場合に向いています。

対象者からの質問を受けることができたり、回答上の注意事項を徹底できなるど、

実査管理が容易なため、精度の高いデータを得やすいこともメリットです。

さらに、出現率の高い対象(例えば缶コーヒーの飲料者など)の場合は、会場周

辺の路上で条件にあう対象者を探すことができますので、比較的短期間で調査を完

了できます。よほど大規模な調査でない限り、実査に必要な期間は(同時並行で使

用する会場数にもよりますが)通常2~3日ぐらいでしょう。

なお、調査の内容や通行人状況、お天気、会場の広さ、調査員の数によっても異

なりますが、路上リクルートで1日50人程度の対象者の調査が可能です。

路上リクルートなら、対象者への交通費も不要という点も、コスト面で魅力です。

ちなみに、調査員へは「調査票1票あたり」ではなく日当で作業費を支払います。

会場テストの準備

会場テストを行うためには、まず、会場の手配が必要です。調理などが必要な食

品の製品テストでは、調理設備のある会場がいいでしょう。また、対象者を路上リ

クルートする場合は、人通りの多い繁華街(例えば東京だと新宿や渋谷あたり)で

行うことが多くなっています。テスト製品によっては、主婦を見つけやすい、いわ

*会場テスト 「ホール・テスト」や「セントラル・ロケーション・テスト(CLT)」とも呼ばれる。またアメリカでは、

ショッピング・モールで行われるので「モール・インターセプト調査」とも呼ばれる。また、対象者を

会場に集めて一斉に調査をする手法をギャング・サーベイ(集合テスト)と呼びます。

会場テストの実行手順

事前準備 ¡会場の手配¡調査員の手配¡対象者のスクリーニング票の作成¡調査票、調査指示書の作成¡謝礼の手配¡競合商品の手配

テスト当日 ¡路上キャッチする調査員の配置¡対象者の会場への誘導¡テスト製品などの配布・回収¡調査票回収後の検票¡謝礼の支払い

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第3章

実査

インターネット調査の実行

インターネット調査における実査の手順*は、アンケート・モニターへの調査依頼

のメールの発信から始まります。協力意向者の中から、本調査への依頼を行い、

WEB画面上で回答をしてもらう流れになります。

当然ですが、調査に先立ち、調査票をパソコン上で作成し、プログラムする必要

があります。それができあがれば、WEB画面のチェックです。クライアント側の調

査票との照合や、質問順番や回答数、プログラムのミスの有無のチェック、画面全

体の見やすさ、読みやすさの点検等を行います。それが済んで、ようやく実際にモ

ニターに配信することになります。

モニターに配信されて、回答され、返信されたデータは、デジタルデータですの

で、そのままパソコンで集計を行います。ただし、集計前に、対象者条件の合致度

や、回答所要時間(早すぎる、短すぎる)、不誠実な回答の有無などのチェックを行

い、データ・クリーニング作業を行う必要はあります。

3-6 定量調査③インターネット調査

79

*実査の手順 Web調査品質研究会『インターネット調査(Web調査)品質管理ガイドライン 改訂第2版』(2006

年)参照。

78

3-6定量調査③インターネット調査定量調査③インターネット調査インターネット調査は、調査員を介さずに行える質問調査の手法です。その速さ

や安さ、簡便さから、質問調査の主流になっています。

インターネット調査とは?

インターネット調査*とは、インターネットと調査票を使って、調査員を介さずに

回答を収集する方法です。ネットリサーチやWEB調査とも呼ばれています。

インターネット調査の普及により、実査管理上の3つのポイントである品質、ス

ピード、コスト面は大きく改善されました。

例えば、これまで調査員が行っていたU&Aなどの訪問面接調査において、調査員

が不要になったことにより、調査員の意図的、非意図的ミスに起因する非標本誤差

がゼロになりました(もっとも対象者の意図的、非意図的な誤差の心配が逆に増え

たことは無視できませんが)。

さらにスピード面でも、内容によっては1~2日で全国調査も可能になりました。

費用的にも、質問数やサンプル・サイズ、インターネット会社によっても異なり

ますが、非常に安くなりました。探しづらかった出現率の低い対象者も早く、安く

見つけられるようになりました。

現在は、こういった速さや安さ、簡便さから、インターネット調査が質問調査の

主流になっています。これからもその傾向は続くと予想されます。

ただ、テスト製品の試用(試食、試飲)や、各家庭での一定期間の評価の必要性

がある調査の場合は、インターネットだけで完結させることができないため、現在

も会場テストやホーム・ユース・テストが使われています。また、広告テストやコ

ンセプト・テスト、パッケージ・テストなどのテスト資材がある調査では、その機

密保持の問題から、いまだ会場調査で行われています。

ただし、最近ではホーム・ユース・テストも、テスト製品を宅急便で送ることに

よって、インターネット調査で行われる例が出てきました。後は情報機密の問題が

クリアされれば、インターネット調査はより拡大していくでしょう。

*インターネット調査 携帯電話を使ったモバイル・リサーチもあります。マクロミルやクロス・マーケティング、楽天

リサーチ、ヤフーバリューインサイト、medibaなどがサービスを提供しています。

インターネット調査の実行手順

¡モニターへの調査依頼メール¡調査票の作成¡プログラミング¡画面のチェック

事前準備

¡モニターへの調査票配信¡回答の回収・チェック¡データクリーニング

調査実行

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第3章

実査

ターネット調査の信頼性を検証した複数の調査*でも、同様な結論が出ています。

現在、インターネットの個人や世帯普及率が伸びることによって、全人口とイン

ターネット利用者集団との乖離は小さくなってきています。しかし、インターネッ

ト利用者と抽出フレームである「モニター集団」(調査協力に積極的に手を挙げた人

であり、中にはポイント獲得のため複数モニターに同時登録する人も多い)との間

にはいまだに乖離が大きいと言われています。

これに対して現状行われている1つの改善策*として、インターネット調査と従来

の訪問面接時での対象者の選定を組み合わせた方法があります。すなわち、従来の

無作為抽出法によって代表サンプルを選び、その人にインターネット調査のモニ

ターを依頼するというものです。インターネットの普及率が上がってきたことに

よって可能になった方法です。現在、電通リサーチが「電通Rネット」という名称

で、このサービスを提供しています。しかし、サンプルの収集、維持に費用がかか

るゆえに、首都圏のみの12000サンプルに限定されたものとなっています。

3-6 定量調査③インターネット調査

81

*複数の調査 内閣府が同じ内容の調査を従来からの訪問面接聴取法と、インターネット調査法の2つの方法で行い、結果

を比較して、現時点では内閣府の世論調査をインターネット調査方式には変えないと結論づけている(内閣府

『世論調査におけるインターネット調査の活用可能性~国民生活に関する意識について~』2009年5月)。

*改善策 傾向スコアの算出といったインターネット調査の偏りを補正する研究も行われています。80

インターネット調査の課題

現在広く使われているインターネット調査にも、課題はあります。

例えば、モニターの品質管理や、システム上のセキュリティといったデータの安

全性の管理は、非常に重要な課題です。そのため、これらの点については、各イン

ターネット調査会社がいろいろな対策を行っています。例えば、モニターの重複・

虚偽登録の防止対策、モニター登録情報の更新、不正回答の自動検出、本人認証に

よるなりすましの防止、調査に使用される資料(調査票や画面、動画等)のコピー

制御やセキュリティなどの対策が挙げられます。

しかし、こうした対策を取ったとしても解決できない、一番大きな問題が、対象

者に偏りがあり代表性に問題があることです。

皆さんご存じの放送局や新聞社が行っている内閣支持率や政党支持率といった世

論調査では、まだインターネット調査は使われていません。従来は訪問面接調査で

行っていましたが、最近ではRDDという電話調査を使って無作為に対象者を選んで

行われています。

なぜ世論調査ではいまだインターネットが主流の調査方法として使われていない

のでしょうか? それは、対象者の代表性に問題があるからです。

こうした世論調査などで代表サンプルを選ぶ場合、その抽出方法が非常に重要に

なります。

世論調査では、住民基本台帳を抽出フレーム*として使用します。そこから「標本

(対象者)」をランダム(無作為抽出)に選ぶわけです。住民基本台帳は基本的にす

べての人が登録されている、「全人口(母集団)」を代表したリストですから、この

方法で選ばれた人々は、全人口を代表する形になります。例えば、東京都の住民基

本台帳から無作為に1000人選んだ場合、その男女や年代の構成比は全人口約

1300万人の構成比とほぼ同じになるのです。

ところが現状のインターネット調査の場合、「全人口」に中にある「インターネッ

ト利用者」という集団の、さらにその中からいろいろな形で選ばれた(応募した)

「インターネット・モニター」集団が抽出フレームになっています。そのため、そこ

から選ばれた対象者は、世論調査が必要とする「20才以上の全国民を代表するサン

プル」になっていない可能性が高いと、現時点では判断されているのです。イン

*抽出フレーム 対象者を選ぶためのリストのこと。

3-6 定量調査③インターネット調査

インターネット調査のサンプルの問題点

インターネット調査 従来の調査手法

目標母集団全人口 全人口

インターネット・モニター集団

インターネット利用者

住民基本台帳

調査対象者 調査対象者

抽出フレーム

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ80

Page 10: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

電話調査とは?

電話調査は、電話を使って質問を行う調査方法です。訪問面接や会場調査と違う

のは、調査員がいない点です。そのかわり、面接調査の調査員にあたるオペレータ

(インタビュアー)が介在します(自動音声で行う場合もあります)。オペレータは

電話口で調査票を読み上げながら、回答を収集していきます。

電話調査は、必要な実査時間が短くて済むのがメリットです。広い地域で行うこ

とが可能な点で、郵送調査よりも柔軟性があります。また、調査員の数が面接より

も少なくて済むため、比較的費用が安く済みます。

ただし、電話口での質問となるので、あまり多くの質問はできません。また、電

話番号で特定できるのは世帯レベルまでですので、さらに「回答する個人の条件」

を選定する必要があります。

一番のネックは、電話調査の場合、対象者の電話番号が必須だということです。

最近では電話番号の電話帳への表記をしない世帯も増えています。その対応として、

コンピューターで無作為に作られた電話番号に電話をするランダム・ディジット・

ダイアリング(RDD)という手法が取られることもあります。

なお、電話調査をする場合には、電話をかけるオペレータの手配と、その訓練作

業が必要になります。特に、番号違いや、話し中、対象者不在、拒否などの処理方

法はあらかじめ指示しておく必要があります。また、電話調査の管理者は、電話調

査中に調査状況をモニターできるようにしておきます。

3-7 質問調査④郵送調査と電話調査

8382

3-7質問調査④郵送調査と電話調査質問調査④郵送調査と電話調査郵送や電話を使って質問調査を行う手法もあります。住所や電話番号のリストが

必要なのが難点です。

郵送調査とは?

郵送調査は、調査票をあらかじめ選定された対象者に送り、回答をしてもらった

調査票を送りかえしてもらう方法です。調査員は介在してません(郵送・集計など

を行う作業員の手配は必要です)。そのため、面接調査よりも安価で済み、広い地域

で調査可能なのがメリットです。また、回答者も、よく考えた上で回答することが

できます(匿名の場合には、より本音の回答を得ることができます)。

ただし、以下の欠点もあります。

¡回収率が低い

¡対象者の住所リストが必要

¡回答者が偏る危険性がある

¡実際に選ばれた対象者ではない人が回答する可能性がある

¡調査票の回収に時間がかかる

¡質問数をあまり長くできない

¡対象者の誤解や非協力によるデータの質の低下が起こる可能性がある

なお、郵送調査を行うには、まず、調査票や、依頼状、送付用封筒、切手添付(あ

るいは料金後納印)の返信用封筒、場合によっては謝礼などを封入し、対象者に送付

します。この際、対象者の宛名ラベルの作成や、料金後納手続きなども必要です。

発送後は、毎日返送状況を記録します。回収状況によって督促の手紙を送付する

場合もあります。また、宛先不明で帰ってくる封筒や、対象者からの問い合わせに

も対応しなければいけません。

その後、回収した封筒を開封し、調査票をチェックします。

郵送調査と電話調査

郵送調査 調査票を郵送し、記入してもらい、返送してもらう。

電話調査 電話をかけ、口頭にて調査票に回答してもらう。

調査方法 概要

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ82

Page 11: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

例えば、「店内でのサンプリング*が購買行動を刺激したか(売上を上昇させるか)

の因果関係を特定する」という課題のケースを考えましょう。このような関係を検

証する場合、主な実験デザイン*としては、図のようなものが考えられます(もちろ

ん、この他にもいろいろな実験デザインがあります)。

これらの中では、実験デザインDが、サンプリング以外の影響を排除できる点で、

サンプリングの効果を特定するには理想的なものです。しかし、対象者グループを2

つ設定しなければいけない点や、事前と事後の両方、測定を行わなければならない

点で、費用や時間面で割高だという難点があります。

それゆえ、実験デザインEが、効果の測定上も、費用的にも望ましい方法と言えま

す。ただし、2つのグループの同質性の確保は、現実的には困難なことが多いので、

その場合はこの方法は使えません。

このように、実験調査にあたっては、いろいろな制約の中で、最善の実験デザイ

ンを選ぶことが重要です。

3-8 実験調査

8584

3-8実験調査実験調査実験調査は因果的リサーチを行うための代表的な手法です。細かくは、実験室実

験とフィールド実験があります。

実験調査とは?

因果的リサーチのための手法の代表が、実験調査(実験法)です。実験調査には、

いわゆる実験室で行うような実験室実験と、野外で行うフィールド実験(疑似実験)

があります。

実験室実験は、設定した仮説を検証するために、実験に影響を及ぼす条件を適切

にコントロールして行う実験です。正確な実験結果を得るためには、実験グループ

と、コントロール・グループを設定し、両方のグループをできる限り等しくする必

要があります。マーケティング・リサーチにおいては、例えば次節で説明するよう

な製品開発時の製品テストなどが、実験室実験となります。

一方、フィールド実験は、例えば販売や広告、販促などを実験的に行ってみて情

報を得る方法です。全国発売予定の製品をまず限られた市場においてテスト販売し

てみる「テスト・マーケティング*」は、典型的なフィールド実験です。このよう

に、フィールド実験は現実の市場でテストを行うので、現実の状況を反映したデー

タを収集することができます。ただし、実験に影響を及ぼす条件をコントロールす

ることが難しく、時間や費用がかかる難点があります。また、全体を代表する市場

の選択も難しいです。

実験デザインとは?

実験は、外的要因の影響を可能な限り排除して、因果関係を特定しようとするも

のです。肝となるのは実験デザインです。

実験デザインとは、「ある因果関係が成立する」という仮説を立てた時に、「その

仮説を検証するためには、どのような実験を行えばいいか」を決めたものです。実

験調査を行うためには、まずこの実験デザインを決めておかなければなりません。

*テスト・マーケティング テスト・マーケティングの問題点を解決した小規模な消費者調査と机上での計算によって

販売量を予測する手法をSTM(Simulated Test Market)と呼びます。

実験デザイン①

実験デザインA

サンプリング サンプリング後の売上

サンプリングをした後に1度だけ売上を調べる。

¡1度だけ売上を調べるだけなので簡便。¡売上がどれだけ上がったか、効果の大きさが測れない。¡サンプリング以外の要素(例えばテスト期間中のテレビ広告や特売など)の影響を排除できないため、この実験だけで、サンプリングが売上アップにつながったと結論づけることはできない。

実験デザインB

サンプリング前の売上 サンプリング サンプリング後の売上

売上金額をサンプリングを行う前と後の2度測定する。

¡サンプリング前後の売上金額を比較することで、サンプリングの売上への効果の大きさが計れる。

¡サンプリング以外の店内、店外の影響を受けている可能性を否定できない。

*サンプリング 製品見本を無料で配布する販促施策のこと。

*実験デザイン 専門的な実験デザインでは、サンプリングのような刺激をX(独立変数)、サンプリング後の売上Y

(従属変数)の状態を観察(observation)した結果をOで表します。ただし、本書ではわかりやすく

するため、この記法は使わずに説明してあります。

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ84

Page 12: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

内的妥当性と外的妥当性

なお、実験デザインや手法(実験室実験かフィールド実験か)を選ぶ際には、内

的妥当性と外的妥当性をどの程度求めるかを考慮することも重要です。

内的妥当性とは、因果関係の確実性を指します。すなわち、従属変数(結果)の

変化が独立変数(原因)の操作にどの程度起因しているかどうかということです。

例えば、どの要因があるブランドの購買行動に影響を与えるかを調べる模擬店舗の

実験で、「価格」が原因であると特定できた場合、この価格と購買との因果関係はど

の程度確実でしょうか。価格以外にも、例えば店内の広告や、陳列、POPなどの

販促ツールなどが、ブランド選択に影響を与えているかもしれません。このように、

因果関係の内的妥当性を阻害する要因として、対象者の選定や、対象者自身の変化、

実験の方法、同時に起こる出来事、実験するタイミングなどがあります。これらの

実験を行う条件をコントロールし、第3の変数の影響を一定に保つことによって、因

果関係の内的妥当性を確保することができます。それゆえ、実験室実験が適切な方

法と言えます。

一方、人工的でコントロールされた状況で得られた実験結果がどの程度自然な状

況でも、その因果関係が言えるかどうかの程度を「外的妥当性」(一般化)と呼びま

す。外的妥当性を高く保つためには、現実に近い環境で実験できる、フィールド実

験が向いています。

マーケティング・リサーチの場合、因果関係の厳密性を求める内的妥当性を追求

すれば、逆に一般化を求める外的妥当性を確保することが難しくなるといった矛盾

を抱えています。そのため、実験結果を受けてどのようなマーケティング課題を解

決したいのかによって、その実験にどの程度の内部妥当性・外部妥当性を求めるの

かのバランスを取る必要があります。

売上への効果もない施策に多額のマーケティング予算を浪費することは悲劇です。

ROI(投資収益率)が重視されている今日、その意味からも、因果関係を特定して

効果を正確に測定し、それをマーケティング課題の解決策に落とし込むリサー

チャーの役割は重要だと言えます。

3-8 実験調査

8786

3-8 実験調査

実験デザイン②

実験デザインC

¡サンプリング以外の要素の影響をある程度排除できる。¡もともとサンプリング実施店と非実施店との間でサンプリングを行った商品の売上金額が異なっていた場合には正確に効果は測定できない。

実験デザインD

サンプリング前の売上 サンプリング サンプリング後の売上

サンプリング前の売上 なし サンプリング後の売上

サンプリング サンプリング後の売上

なし サンプリング後の売上

¡サンプリング以外の要素の影響をほぼ排除できる。¡実験にコストや手間がかかる。

比較対象としてサンプリングを行っていないお店を設定して、サンプリング後の売上結果をサンプリング実施店(実験グループ)と非実施店(コントロールグループ)間で比較する。

サンプリング対象商品についての売上規模等の条件が同レベルのお店を2つのグループにランダムに等分(無作為配分)しておき、サンプリング前後の売上結果をサンプリング実施店と非実施店間で比較する。

サンプリングを行ったお店:

サンプリングを行ったお店:

サンプリングを行わなかったお店:

実験デザインE

¡サンプリング以外の要素の影響をほぼ排除できる。¡実験デザインDに比べて、コストや手間がかからない。

サンプリング サンプリング後の売上

なし サンプリング後の売上

サンプリング対象商品についての売上規模等の条件が同レベルのお店を2つのグループにランダムに等分しておき、サンプリング後の売上結果をサンプリング実施店と非実施店間で比較する。

サンプリングを行ったお店:

サンプリングを行わなかったお店:

サンプリングを行わなかったお店:

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ86

Page 13: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

場で行う会場テスト(CLT)、もう1つは、逆に調査員がこちらから対象者のお家に

伺うホーム・ユース・テスト(HUT)です。

基本的に、家庭で調理をしてもらったり、ある一定の期間*の使用後や実際の使用

の場で評価してもらった方がよい製品の場合にはHUTを使います。例えば、シャン

プーや、ペットフード、洗濯や台所・風呂用洗剤などに適しています。

それ以外の製品については、会場テストの方がコスト的にも時間的にも有利で

しょう。例えば、清涼飲料水やビールなどのアルコール飲料、マヨネーズ、スープ

などの食品、たばこなどに適しています。プリンターなどのIT機器や家電なども対

応可能です。

3-9 製品テスト

89

*一定の期間 製品によって家庭への製品のプレースメントの期間や個数を決めます。

88

3-9製品テスト製品テスト製品開発関係の調査では、ここまでに紹介した手法を組み合わせた、独特の調査

方法が採用されています。

製品テストとは?

「製品テスト」は、実験調査の一種で、製品開発についての一連のテスト*です。

味覚や製品のパフォーマンスをチェックする「プロダクト・テスト」や、製品のア

イディアを評価する「コンセプト・テスト」、パッケージ評価を行う「パッケージ・

テスト」ネーミング調査を行う「ネーミング・テスト」などを含みます。

製品テストは、意識や実態を調べる調査や、意見をたずねるようなアンケート調

査とは違った独特の方法が使われています。したがって、製品テストを行うために

は、それらの方法を知っておく必要があります。

具体的には、製品テストを行う際には、以下の点について決めておく必要があり

ます。

¡CLTか、HUTか

¡コントロール製品(ベンチマーク製品)

¡ブラインドか、ブランディドか

¡テスト方法

¡アクション・スタンダードと主要指標

順に、詳しく説明していきましょう。

CLTとHUT

製品テストは、対象者に製品を試用してもらってデータを収集するため、その

「製品を試用する場所」が必要です。

この、テストを行う場所によって、製品テストは2種類に分かれます。1つは、会

*一連のテスト 多くの企業では、一般の消費者テストの前に、人間の五感で特性を測定する「官能検査」(センサ

リ・テスト)を行っています。

製品テストの課題

新製品開発を行う場合、新カテゴリーの製品開発や、新しい製品ライン、ライ

ン拡張(フレーバの追加など)、既存製品の改良・変更(アップグレード、リロー

ンチ、当初の製品に比べて形やサイズ、色などを改良した「フランカー製品」)、

リポジショニング、コスト削減といった課題があります。

新製品やライン拡張製品の場合は、既存品との共食い(カニバリゼーション)

を最小にしながら、新規ユーザーをどれだけ獲得できるかがポイントです。ブラ

ンド明示のモナディック法が多く用いられます。カテゴリー・ノルム値や、競合

や自社のコントロール製品との比較を行います。既存品の改良の場合は、既存ユ

ーザーの乖離を最小限にして、新規ユーザーの獲得と、既存ユーザーの購入頻度

のアップを図ることによって、拡売、シェアアップを目標とします。モナディッ

ク法でテスト製品の絶対評価を測定し、かつ一対比較で競合製品との比較を行う

ことによって(プロトモナディック法)、その可能性を探ります。コスト削減の場

合の目標として、既存のユーザーのブランド・スイッチを起こさない程度に安価

な原材料に変更することによって、マージンをアップすることがあります。ブラ

インドの一対比較法を用いて、既存品と改良品との間に消費者が気づくほどの差

があるかをチェックします。

✎COLUMN

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ88

Page 14: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

一度はブラインド・テストを行った方がいいと思われます。

テスト方法

前述のように、製品テストでは、テスト製品とコントロール製品を比較して、製

品の優劣を決めるのですが、その比較方法はいくつかあります。テスト目的とコス

トとの兼ね合いを考えながら、適した比較方法を選ぶことが大切です。

具体的なテスト方法*は、以下の通りです。

3-9 製品テスト

9190

テスト製品とコントロール製品

単に開発した1製品だけをテストした場合、そのテスト製品を実際の市場に発売し

てよいかどうか、判断が難しいでしょう。そこで製品テストでは、市場に出すかど

うかを決めようとしているテスト製品(プロトタイプ、試作品)と、それに対して

比較をするための製品、すなわちコントロール製品(ベンチマーク製品とも呼ぶ)

を設定し、その優劣をテストする方法が一般的に使われています。

コントロール製品には、マーケティング課題やテスト目的によって、現行製品や、

主要競合製品を使用します。

ただし、他に類似の製品が存在しない新カテゴリーの製品や革新的な製品の場合

には、比較する対象の製品を設定するのが難しい場合があります。そうした場合は、

できる限り製品特徴やユーザーの類似性などから判断して選定します。

ブラインド(目隠し)とブランディッド・テスト

製品テストでは対象者に製品を提示して評価してもらうわけですが、その提示の

仕方として、2つの方法があります。1つは、テストをする製品の製品名やブランド

名、製品コンセプトを隠して行う「ブラインド(目隠し)・テスト」です。もう1つ

は、逆にそれらを明示する「ブランディッド(ブランド明示)・テスト」です。

開発初期の製品パフォーマンスをチェックする場合は、ブラインド・テストが適

しています。逆に、市場化に近い段階では、ブランディッド・テストの方が現実の

評価に近い結果*を得ることができます。

ただし、市場化に近い段階であっても、時間と予算がある場合には、ブラン

ディッド・テストの前に、まずブラインド・テストで製品力のチェックをしておく

べきでしょう。ブランディッド・テストだけの場合、コントロール製品に負けた場

合、その原因が本当に製品力なのか、ブランド力なのかがわからなくなります。

実際に、ブラインド・テストでは低評価だった製品が、その製品のブランド力ゆ

えに、ブランディッド・テストでは高い評価を得るケースは多々あります。また、

例えば健康食品や飲料の場合、体によい成分表示のコンセプトを見て製品を評価し

た方が、商品説明のない場合よりも高い評価を得ることがあります。

こうした場合にブランド力やコンセプトの力を製品力と勘違いしないためにも、

*現実の評価に近い結果 これを調査の「リアリズム」と言います。調査はできるかぎり現実と近い状態で行うように

心がけることが大切です。

3-9 製品テスト

テスト方法

モナディック・テスト

グループA テスト製品の絶対評価

コントロール製品の絶対評価グループB

プロト・モナディック

グループA テスト製品の絶対評価

テスト製品とコントロール製品の相対評価

シークエンシャル・モナディック

グループテスト製品およびコントロール製品の絶対評価

一対比較

グループテスト製品およびコントロール製品の相対評価

トライアングル・テスト

グループテスト製品とコントロール製品をどちらかを2つ用意して、計3つを相対評価

*テスト方法 この他に、テスト製品総当たりで比較評価を行う「ラウンド・ロビン法(round robin)」や、1つの製品の提示

後、2つの製品の中で類似の製品を選ばせる「デュオ・テュリオ法(duo-trio)」などがあります。

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ90

Page 15: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

する50人(グループA)と、Q→Pという順で評価をする残りの50人(グループ

B)というように、評価の「ローテーション」を行ったとします。

Pが非常によい製品で、Qはそれよりは劣るという場合、グループAでは、最初に

よい製品であるPを評価するがゆえに、Qが本当の評価よりも低く評価される可能性

があります。逆に、グループBでは、Qがよくないので、その反動として、Pが実力

以上に高く評価される可能性があります。

本当は他の評価に影響を受けない絶対評価がほしいのですが、過大評価と過少評

価がミックスされた値になってしまうのです。その結果、本当の製品間の差以上に

優劣が付いてしまい、過った判断をする可能性があります。

それゆえに、連読モナデイック法を使う場合には、オーダーバイアスには十分に

注意を払ってテスト結果を読むことが重要です。例えば、対象数は小さくなります

が、第1オーダーだけの評価をチェックすることが必要な場合もあります。

¡一対比較(Paired Comparison)

一対比較は、2製品を同時に比較する方法です。連読モナディックでは、1製品を

評価した後、その製品は取り除かれ、第2の製品を単独評価します。これに対して、

一対比較では、対象者の前に同時に2製品がおかれ、比較評価します。

また、一対比較では、モナディック法のように「何点か?」といった絶対評価を

せず、単に例えば「全体的好意度はどちらがよいでしょうか?」といった比較をし

てもらいます。このように直接比較を行うことによって、モナディック法では識別

できなかった製品間の微妙な違いを特定することが可能になります。

ただし、絶対評価値がわからないので、消費者受容性の判断が難しいという難点

があります。すなわち、PとQではPの方が好ましいと判断されたけれども、どちら

の製品も受容性が低いということがありえます。また、改善情報も得られません。2

製品間の違いを過大評価するリスクもあります。

なお、一対比較法の応用版として、例えば「AとB」「AとC」「BとC」など2製

品以上の一対比較データを取得するための複数一対比較(Multiple Paired

Comparison/Round Robin)というのがあります。この場合、それぞれの組み

合わせのテスト回数は同数で、個々の対象者は、1つの組み合わせのみ評価をしま

す。これは、トータルサンプル数を減少させる方法と言えます。

3-9 製品テスト

9392

¡モナディック・テスト (Monadic Test、単独評価)

モナディック・テストとは、1人の対象者が1製品だけを評価して、絶対評価値*

(4点とか3点という評価)を付ける方法です。通常、消費者は買ってきた商品だけ

を食べたり使ったりしますので、モナディック法は自然な使用状態に近い評価だと

言えます。ただし、1人1製品の評価ですから、例えばテスト製品が1つで、コント

ロール製品が1つの場合、それらを評価する2つの対象者グループが必要になりま

す。そのため、対象者数が多くなり、費用が高くなるという欠点があります。

なお、テスト製品とコントロール製品の正確な比較を行うためには、できる限り

各グループが同質であることが望まれます。例えば、味覚テストの場合ですと、あ

るグループに甘い味覚を好む人が多くいたり、辛い味覚を好む人が多くいたりと

いった偏りがあると、各グループの評価結果を単純に比較できなくなります。その

ため、使用ブランドの分布や性別・年代の構成比を同じようにするなどして、味覚

志向の分布が同じようなグループになるように、対象者を振り分ける必要がありま

す。これを「ランダム・アサインメント」と呼びます。

¡シークエンシャル・モナディック(Sequential Monadic Test、連続モナディック)

モナディック・テストの費用面を克服した方法が、シークエンシャル・モナ

ディックと呼ばれる方法です。これは、1人の対象者が2製品以上を評価する方法で

す。2製品の場合ですと、必要な対象者数はモナディック法の半分になります。それ

ゆえに、多くの企業の製品テストで多用されています。

ただし、この方法は大きな問題を抱えています。例えばPとQという2製品を評価

させる場合、P→Qという順で評価する人と、Q→Pという順で評価をする人では、

評価が変わってしまう可能性があるのです。これを「オーダー・バイアス*(順序偏

倚)」と言います。

「オーダーバイアスを打ち消すためには提示順序を変えるローテーションを行う

とよい」とよく言いますが、実はローテーションではそれぞれの評価のバイアスを

消去しているわけではありません。バイアスのかかった評価値を単に足して2で割っ

ていることになるのです。

例えば、PとQという2製品を100人に評価させる場合、P→Qという順で評価

*絶対評価値 製品属性の評価には、ヘドニック(好き・嫌い)尺度や強弱尺度(強い・弱い)、バイポーラー

(2極)尺度(強い・ちょうどよい・弱い)などが使われます。

*オーダー・バイアス オーダー・バイアスには、上記で説明したように評価する製品の「組み合わせによる効果」以外

に、最初に評価することから生じる「位置効果」や、評価の繰り返しによる疲労から生じる「順

序効果」があります。

3-9 製品テスト

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ92

Page 16: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

3-9 製品テスト

9594

¡プロト・モナディック(Protomonadic)

「絶対評価値がわからない」という一対比較の欠点を補う方法として、プロト・

モナディックという方法があります。モナディック法と一対比較法を組み合わせた

方法と言えます。

具体的には、まずP(テスト製品)のモナディック評価を行い、Pの絶対評価値を

測定します。続いて、PとQ(コントロール製品)の一対比較を行います。

絶対評価値を得るというモナディック法と、比較可能という一対比較の両者の利

点を持っています。ただし、この場合、Qの絶対評価値は得られません。

¡トライアングル・テスト(Triangle Test、Difference Test)

トライアングル・テストは、製品間の違いを消費者が知覚できるかどうかを判断

するものです。3製品をテストする場合、そのうち2製品は同一製品を使い、どれが

異なるかを対象者にたずねます。

アクション・スタンダードと主要指標

製品テストは、そのテスト結果を基に「この製品は市場化してもよいか」を判断

するために行われます。そこで、例えば「この指標がこのレベルだったら合格点」

という目標値をテスト前に決めておくことが重要です。この合格基準を、「アクショ

ン・スタンダード」と言います。

アクション・スタンダードを決めておかないと、テスト終了後に、その判断で揉

めることにもなりかねません。必ず事前に決めておくことが必要です。なお、リ

サーチ側は調査の観点からアドバイスをすることはできますが、基本的には、アク

ション・スタンダードの決定はマーケティング側の判断事項です。

ちなみに、アクション・スタンダードに試用される主要指標(Key measures)

には、多くの場合は、全体評価(好意度)や購入意向の値が使われます。第1指標で

決着がつかない場合を考え、第2指標での基準も設定する場合もあります。

また、これらの指標の判断基準値には、平均値あるいはトップ・ボックス(5点尺

度の場合は5点の%)、トップ2ボックス(5点尺度の場合は5点と4点の%を併せ

た数字)が使われることが多くなっています。

こうしたテスト製品の主要指標の評価値が、コントロール製品の評価値と比べて

3-9 製品テスト

ノルム値

アクション・スタンダードと関連して、製品テストでよく使われるものとして

製品カテゴリーごとの「ノルム(Norm)」あるいは「ノーム値(Normative

value)」と呼ばれる値があります。これは、過去に行われてきたテスト結果と実

際の市場での売上結果から算出した、市場化の判断基準になる値です。

通常は、これまでのテスト評価値の平均値をノーム値とします。具体的には、

同じ製品カテゴリーにおいて、同じテスト方法で測定された同一の指標の平均値

を取ります。連読モナディック法の場合の評価値は、組み合わせる製品によって

値がブレる可能性がありますので、モナディック法による評価値を使用した方が

安定性があります。

このようなノーム値がある場合は、テスト製品の評価値がそれよりも高い(あ

るいは同等以上)でないと次のステップへ進めないといったアクション・スタン

ダードを設定することがあります。

ただし、注意したいのは、ノーム値はあくまで過去の実績から割り出した値だ

ということです。時代が変化していたり、消費者の好みが変わっていたりする可

能性がありますので、必ずしもノーム値が成功を保証するとは限りません。した

がって、あくまでも参考値として利用するに留めた方が無難かもしれません。

✎COLUMN

高いかどうかで、判断を下すわけです。なお、こうした評価値が統計的に有意に高

い場合のみをアクション・スタンダードとするか、同等レベルも含めるかは、マー

ケティング側の判断によります。

例えば、競合と市場で同等に戦うための製品の開発であれば、両者の差は同等で

あればよいわけです。しかし、有意な差をもって市場で勝つ製品を市場化するのが

マーケティング目標であるならば、テストでの基準を厳しくして、「統計的に有意に

上回る」ことをアクション・スタンダードにする必要があります。

このあたりは、市場化までの時間や予算、自社の開発能力と、マーケティング目

標とのバランスで判断することになるため、マーケティング側の判断事項となるわ

けです。

マケリサーチ第3章_v4 09.12.3 20:07 ページ94

Page 17: 図解入門最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本(5)

第3章

実査

などです。

調査員による誤差への対策

このように、実査では様々な誤差がデータに混入しやすいプロセスですので、リ

サーチャーはきちんと対策を練っておかねばなりません。

例えば、調査員の意図的エラーには、調査員管理の強化で対処します。指定され

た対象者を訪問しているか、質問の順番を変えずに最後までたずねているか、正確

に回答を記入しているかどうか、自分で勝手に回答を作っていないか、質問を飛ば

していないかなどをきちんとチェックしましょう。

また、対象者全体の10%程度を目処にインスペクションを行い、調査員の訪問の

有無や、質問の仕方、面接時間などをチェックすることも重要です。

一方、非意図的エラーに対して、調査員へのインストラクション(オリエンテー

ションやトレーニング)の強化や、面接のロール・プレイングの導入があります。

3-10 実査管理

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3-10実査管理実査管理実査は、データ収集活動であると同時に、品質管理活動です。実査管理では、そ

の点に注意する必要があります。

実査では「データの信頼性」を確保することが重要

以上が、各データ収集手法の実査作業内容の概略です。だいたいの作業内容はイ

メージすることができたでしょうか?

実査は、調査活動の中で、もっとも時間と費用を必要とし、多くの人が関わる、

非常に重要なプロセスです。なぜならば、信頼性のある「データ」なくして、企画

も、集計、報告も成立しないからです。

特に、記述的リサーチである定量調査の質問調査では、「結果の一般化」ができる

かどうかが重要です。そのために調査対象者がターゲット集団を代表するように標

本調査を行います。その際、母集団と標本との差である標本誤差は理論的に計算で

きますが、ひとたび非標本誤差(標本誤差以外のすべての誤差)が混入すると、そ

の影響の大きさは、全く推測することができないという厄介さがあります。

この非標本誤差がもっとも発生しやすいのが、実査のプロセスなのです。

実査において起こりえる誤差とは?

詳しく説明しましょう。まず、データ収集上の誤差は、調査員によるものと、対

象者によるものに分類できます。

さらに、調査員による誤差には、意図的なものと、そうでないものが含まれてい

ます。例えば、前者には、チーティング*などの調査員によるごまかしや、意図的な

回答誘導などがあります。後者は、調査員の誤解から生じたミスや、疲労などから

生じたケアレス・ミスなどがあてはまります。

対象者による誤差も、意図的なものと、そうでないものに分類できます。例えば、

前者は、意図的にウソをついたり、拒否したりといったもの。後者は、対象者の誤

解や推測による回答、調査への無関心や注意力散漫、回答への疲労感等によるミス

*チーティング 対象者でない人に調査を行うことなどの調査員による不正行為。調査員が自分で調査票に回答する

「メーキング」や質問をとばす「スキッピング」もあります。

各調査方法の実査管理上の問題点

¡品質面や、スピード、コスト面で改善の余地がある。¡調査会社の実査管理が不十分。¡調査員管理が難しい(条件にあった対象者に調査を行っているか、質問を正しく行っているか、回収率を上げる努力を行っているか)。

¡不在の家が多く、回収率が毎年落ちている。大都市では50%以下。

訪問面接調査

¡回収の際、名簿での到着チェックが必要。¡名簿・調査主体者の名前にもよるが、回収率は一般的には低い(例えば、調査会社名での調査で、電話帳などから抽出した一般対象者に郵送調査を行った場合で、5~10%程度が通常の回収率)

留置や郵送調査などの自記式調査

¡ランダム性の問題がある。 ¡電話帳掲載率が低下している。¡多くの質問や複雑な質問ができない。

電話調査

¡ランダム性の問題がある。 ¡実査管理の問題がある。

会場テスト

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第3章

実査

3-10 実査管理

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*ウエイト付け 個々のデータにウエイトを付けて集計することをウエイトバック集計という。例えば、年齢構成比で

ウエイト付けを行う。

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調査指示書を作成・配布して、指示事項の順守を徹底させることが重要です。

こうした対策は、やってやりすぎると言うことはありません。著者がメーカーの

リサーチ部門に在籍していた時は、会場で行われる製品開発関係のテストの初日に

は必ず出席するようにしていました。というのも、調査票作成や事前打ち合わせの

段階で調査会社側に十分説明したつもりでも、実査の現場にいくと、こちらの調査

意図と異なったことが起こるケースが多かったからです。

例えば、製品テストで、じっくり製品評価をさせないで調査票に回答させる調査

員をよく見かけました。また、テレビ・コマーシャルの試写評価の会場で、前に

座っている人の体で全く前のテレビ画面が見えない対象者がいるにもかかわらず、

テストを進める実査担当者もいました。「何のためにこの調査をやっているのか、わ

かっているのか」と思わず言いたくなったものです。

対象者に起因する誤差への対策

一方、対象者側の意図的エラーに対しては、謝礼をアップさせたり、匿名性や情

報保護策を強調したりします。さらに、インスペクションや第3者手法(回答を対象

者について直接たずねるのではなく、第3者に置き換えて答えてもらう方法)など

で、回答を再確認したりもします。

非意図的エラーに対しては、わかりやすい調査票や調査説明書を作成することが

重要です。例えば、わかりづらい回答選択肢(肯定と否定や、尺度の番号など)を

わかりやすくしたり、長い調査票では「もう少しで終了ですので、よろしくお願い

します」といった言葉を質問の間に入れるなどの工夫を施したりします。

実査というのは、調査が分業で実施されている場合、リサーチャーの手からしば

し調査が離れる時でもあります。つまり、品質管理上、目が届きにくいプロセスで

す。そのため、実査における品質管理の仕組み作りは非常に重要になります。

実査管理は肉体作業的要素が強く、ともするとその重要性が忘れられがちです。

また、コストや納期に意識が取られて、つい品質を軽視しがちでもあります。しか

しながら、「実査管理は、エラーを排除する品質管理の戦い」であることを肝に銘じ

て、実査に携わるすべてのスタッフに対しても実査の意義についてよく理解しても

らうことが大切なのです。

3-10 実査管理

データ収集上の誤差とその対応

大分類 小分類 対策

調査員による誤差 意図的な誤差 ¡調査員管理や監視の強化

¡調査実施のインスペクション強

意図的でない誤差 ¡調査員へのインストラクション強

¡面接のロールプレイングの導入

対象者による誤差 意図的な誤差 ¡謝礼のアップ

¡匿名性や情報を外部に漏らさな

いことの強調

¡インスペクションによって回答を

再確認

¡回答を対象者について直接尋ね

るのではなく、第3者に置き換え

て答えてもらう方法の採用

意図的でない誤差 ¡わかりやすい調査票や調査説明

書の作成

¡わかりづらい回答選択肢(肯定

と否定や、尺度の番号など)の改

無回答による誤差 調査協力の拒否 ¡事前の調査協力の徹底や、謝礼

の充実

調査途中での中断 ¡ウエイト付け*や、予備サンプリン

特定の質問への

回答拒否

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実査プロセス

本章で紹介した代表的な調査方法について、その実行プロセスを一覧表にま

とめました。各調査方法を比較して、検討してみてください。

実査プロセス

訪問面接調査

調査票準備

調査資料の準備

調査員の手配

調査地点の選定

(対象者の選定)

説明会の実施

フィールドワーク

会場調査

調査票準備

調査資料の準備

調査員の手配

調査会場の手配

(プレリクルート)

フィールドワーク、

当日調査説明

インターネット調査

調査票準備

調査資料の準備

インターネット調査会社の手配

プログラミング

サンプル抽出、スクリーニング調査

フィールドワーク、モニターへの発信

電話調査

調査票準備

調査資料の準備

電話調査会社の手配

オペレーター手配

電話リスト

フィールドワーク、電話

郵送調査

調査票準備

調査資料の準備

郵送調査会社の手配

作業員の手配

宛先リスト

フィールドワーク、郵送

グループ・インタビュー

ディスカッション・ガイド準備

調査資料の準備

モデレーター手配

調査会場の手配

参加者リクルート

フィールドワーク、集団面接

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