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表1 ACSRのより線構成 図1 二酸化硫黄濃度の年平均値の推移(4)
表2 ACSRの腐食状況
1 まえがき
架空送電線として多く利用されている鋼心(耐熱)アルミより線(以下ACSRと呼ぶ)は,中心に亜鉛めっき鋼線,外側に硬アルミ線を配置したより線で構成されており,表1に示すような構造となっている。ACSRは経年により腐食が進行することが知られており,当社設備においても,沿岸部に位置する送電線で腐食による素線切れが発見されている。そのため,点検により腐食状態の確認を行い,劣化進行に応じて腐食箇所の電線張替などを実施して設備の健全性を確保している。今回,点検の効率化・合理化を目指し,(一財)電力中央研究所で開発された「風況・海塩粒子輸送解析コード(以下NuWiCC-STと呼ぶ)」(1,2)による海塩粒子輸送シミュレーションを実施し,海塩粒子と電線腐食との関係を調査したので報告する。
2 海塩粒子による電線腐食現象(3)
ACSRは海塩や工場からの排煙,大気中の硫黄酸化物などにより腐食するが,大気汚染防止法の施行以来,大気中の硫黄酸化物濃度は減少している(4)ため,工場等の至近に位置する送電線を除くと海塩粒子が腐食の主要因となっている。 ACSRのより線内部に塩分を含む水分が浸入すると,腐食電位の違いにより局部電池が形成され,鋼心の亜鉛めっきとアルミ線の間で異種金属接触腐食が発生し,亜鉛めっきが減耗する。亜鉛めっきの消失により露出した鋼とアルミ線の間で異種金属接触腐食が起こり,アルミの腐食が進行していく。この結果,アルミの強度は低下し,アルミ素線が断線,電流は鋼心側へ分流
する。鋼心はアルミより高抵抗であるため異常発熱し,最悪の場合,過熱溶断に至る恐れがある。 このため,適切な点検により状態を把握する必要があるが,海塩による電線腐食はより線の内側で生じるため,表2に示すように,外観上は腐食生成物の白色が見えているものの,地上や塔上から目視で判別することは難しい。現在は,腐食進行による外径膨張測定や渦流探傷調査(5)による断面積の測定を実施することにより電線の点検を行っている。
3 研究成果
(1)局所領域解析による電線腐食との関係(6)
a.簡易版NuWiCC-STによる局所領域解析 NuWiCC-STは,風観測データ等から沿岸上空の海塩濃度分布を推定し,風況解析と風により運ばれる海塩粒子の輸送解析を実施することにより,任意期間に対する地上の任意地点における海塩粒子の平均濃度や通過粒子量を評価するものである(1)。局所解析では
Page 11エネルギア総研レビュー No.33
ACSR160㎟ ACSR410㎟
より線構造
鋼 7本/2.6㎜ 7本/3.5㎜
アルミ 30本/2.6㎜ 30本/4.6㎜
外観写真
アルミ外層
アルミ内層
鋼 心
架空送電設備の電線腐食推定におけるNuWiCC-STの適用について
流通技術センター保全技術課 國武 義高
電線腐食速度[%/年]
1.0
0.5
0.00 0.5 1 1.5
塩分飛来量
素線切れ箇所
径間No.▲No.● □□(変)
鉄塔位置での塩分飛来量径間位置での塩分飛来量電線腐食速度(%/年)
塩分飛来量
電線腐食速度(%/年)
1.01.0
0.5
0.0
0.5
0.0
(a)素線切れが発生したA線近傍における塩分飛来量の分布(地上20m)
(b)A線における鉄塔および径間(50mごと)位置での塩分飛来量(地上20m)と電線腐食速度
図2 NuWiCC-STによる解析結果(3風向の合成値)
図3 塩分飛来量と電線腐食速度との関係
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解析風向 鉄塔 電線
塩分飛来量多
少A線
素線切れ箇所
日本海
□□(変)
No.▲
No.●
SW
W
NW
研究レポート
海を含む領域を設定し,海を風上とする3風向による気流シミュレーションにより海塩粒子の陸上への輸送を計算する。
b.電線腐食発生箇所における局所解析 日本海近傍を経過する当社送電線(A線)で発生した電力線素線切れ箇所について,NuWiCC-STにより解析した結果を図2に示す。同図(a)は,送電線位置と地上20mにおける塩分飛来量1の分布を平面的に表したもので,素線切れが発生した径間(No.●~▲間)付近では塩分飛来量が多いことがわかる。また,同図(b)は同線路の鉄塔および径間位置50m間隔ごとの塩分飛来量と撤去電線の電線腐食速度2との関係を表している。塩分飛来量が多い箇所ほど電線腐食速度が速い傾向があらわれており,塩分飛来量と電線腐食速度に相関があることがわかる。
c.沿岸部における塩分飛来量と電線腐食速度の関係 日本海および瀬戸内海近傍を経過する当社送電線のうち,海岸からの距離が5km以下の沿岸部に位置する16箇所について,電線採取により引張強度試験を行うとともに,NuWiCC-STによる塩分飛来量の局所領域解析を実施した。図3に,塩分飛来量と電線腐食速度の関係を示す。塩分飛来量と電線腐食速度には正の相関が認められ,その相関係数は0.62と有意であった。以上のことから,塩分飛来量をもとに電線腐食状態を推定できることが示唆される。
1 NuWiCC-STで算出した移流フラックス量(1)について海上の平均値を基準として陸上の各地点での移流フラックス量を相対的に算出したもの。
2 電線腐食速度=(初期値110%-引張強度対規格値)/経年
表3 粒子階級区分
図4 NuWiCC-STによる中国地方の海塩粒子飛来マップ
(2)広域解析による電線腐食との関係(7)
a.高精度NuWiCC-STによる中国地方全体の解析 NuWiCC-STによる解析結果から電線腐食状態の推定は可能であると考えられるが,これを点検や設備更新計画へ展開するには,中国地方全体の塩分飛来状況の把握が必要となる。そこで,中国地方全体を解析領域としたNuWiCC-STによる解析を実施した。海塩粒子はその大きさ・重量により輸送距離が異なることから,表3に示す3つの粒子階級に区分し,それぞれの粒子階級における飛来量を計算した。 中国地方全体での解析は,基本的には局所解析と同じアルゴリズムであるが,海に囲まれた領域の解析となるため8風向での気流シミュレーションを実施する。また,日本海に比べて瀬戸内海は海域が狭いため,同じ強さの風が吹いても海上での海塩粒子発生量が異なることが考えられる。そのため,風上側に広がる海の
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広さ(以下,吹送距離3と呼ぶ)を考慮して解析することにより海の広さによる海塩粒子発生量の違いを反映させた。 図4に,広域解析による中国地方全体の海塩粒子飛来マップを示す。日本海側と瀬戸内海側では海上の風速・主風向および吹送距離が異なるため,海塩粒子飛来量4に大きな差が現れており,最大で5倍程度の違いが現れる結果となった。
b.沿岸部における海塩粒子飛来量と電線腐食の関係 図5に,3-(1)-cで示した沿岸部の16径間における電線腐食速度と,中国地方全体の解析より求めた海塩粒子飛来量との関係を示す。局所領域解析と同様に海塩粒子飛来量との相関がみられるが,相関係数が0.62から0.67へ上昇する結果となった。これは,吹送距離を考慮することにより,腐食速度が低い瀬戸内海側での海塩粒子発生量が抑えられたことによるものと考えられる。また,各粒子階級における相関係数は0.61~0.81とそれぞれ高い値を示粒子階級
平均塩分質量m[kg]
個数濃度C0[1/㎥](風速4.4m/s)
粒子直径dp[m]
(RH90%)階級 -log m0[kg]
P1 14.5~13.0 5.15×10‒14 3.00×105 8.50×10‒6
P2 13.0~12.0 5.50×10‒13 4.84×104 1.87×10‒5
P3 12.0~11.0 5.50×10‒12 6.88×104 4.03×10‒5
架 空 送 電 設 備 の 電 線 腐 食 推 定 に お け る N u W i C C - S T の 適 用 に つ い て
3 風が吹き抜ける海域の長さ。海岸線に到達する海塩量を対象とする場合,風向に応じた陸地間の海域の長さに相当。4 NuWiCC-STで算出した移流フラックス量(1)。風向に直角な面の単位面積・単位時間当たりに通過する海塩粒子の質量。
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一方,電線腐食速度が最も遅い径間において,海塩粒子飛来量が比較的高い数値を示す箇所もあり,電線腐食の推定において,海塩粒子以外の腐食要因を考慮する必要があることが伺える。海塩粒子飛来量についても,シミュレーションと観測データとの比較を行うなど,今後さらなる検討が必要である。
4 あとがき
NuWiCC-STを活用しACSR系電線の腐食速度推定が可能であることがわかった。今後は,塩分以外の腐食因子であるぬれ時間なども考慮した,電線腐食推定法を検討し,点検時期の見直しや電線張替計画へ活用する予定である。 最後に,NuWiCC-ST解析について多大なご協力をいただいた,須藤 仁殿をはじめとする(一財)電力中央研究所 流体科学領域の皆様に感謝いたします。
[参考文献](1)須藤 仁,服部康男,平口博丸:「海塩粒子輸送シミュレー
ションによる塩分付着量推定に関する研究」,電力中央研究所報告,研究報告,No.N07028(2008)
(2)須藤 仁,木原直人,服部康男,平口博丸:「海塩粒子輸送シミュレーションによる塩分付着量推定に関する研究(その5)-海域の広さを考慮した海上海塩濃度の設定手法の提案-」,電力中央研究所報告,研究報告,No.N10012(2011)
(3)架空送電線の電線劣化(腐食)現象調査専門委員会:「架空送電線の電線腐食現象」,電気学会技術報告 第968号(2004)
(4)環境省:「平成23年度大気汚染状況について」(5)磯崎正則,西村元宏,久米田俊昭:「電線腐食検出装置
の開発」,電気現場技術,7月号(2006)(6)前田広治:「シミュレーションに基づく電線腐食速度の
推定法」,平成24年電気学会全国大会,7-095(2012)(7)國武義高:「電線腐食推定における海塩粒子輸送シミュ
レーションの適用検討」,平成25年電気学会全国大会,7-098(2013)
架 空 送 電 設 備 の 電 線 腐 食 推 定 に お け る N u W i C C - S T の 適 用 に つ い て
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
7
6
5
4
3
2
1
00 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
電線腐食速度[%/年]
海塩粒子飛来量
(粒子P1,P2)
海塩粒子飛来量
(粒子P3)
粒子P1粒子P2粒子P3
×10‒7[kg/m2s] ×10‒9[kg/m2s]
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.00 5 10
電線腐食速度[%/年]
海塩粒子飛来量[×10‒7kg/m2s]
研究レポート
しており,粒子ごとの解析が腐食推定に有効であることが考えられる。
c.内陸部における海塩粒子飛来量と電線腐食の関係 内陸部では沿岸部に比べて海塩粒子飛来量が少なく,海岸からの輸送距離も長くなることから,シミュレーションの精度が低下することが予想される。そこで,海岸からの距離が5km以上の内陸部における電線腐食速度と海塩粒子飛来量の相関を調査した。図6に,内陸部における各粒子階級の海塩粒子飛来量と,渦流探傷法による推定引張強度を元に算出した当社送電線の電線腐食速度との関係を示す。腐食速度が速い領域で海塩粒子飛来量が多い傾向が現れており,全体でも0.53~0.72の相関係数が得られている。この結果から,本解析による海塩粒子飛来量が電線腐食推定の一要素として有意であるといえる。
図5 サンプル採取箇所と海塩粒子飛来量の関係(3粒子合計)
図6 海塩粒子飛来量と電線腐食速度との関係
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