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東レリサーチセンター The TRC News No.116(Mar.2013)・29

●高分子の分子量分布測定技術の進歩−GPCとその仲間たち−

1.はじめに

 高分子の分子量測定は、高分子科学のはじまりとともに、その歩みを開始した。時代の経過とともに、様々な測定手法が考案、適用され、現在、最も普及している手法の一つがゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)である。本稿では、GPCの進歩について、具体的事例を交えて紹介する。

2.GPC法の原理・進歩

2.1 原理 図₁にGPCの原理の模式図を示す。GPCは、分子サイズの差に基づいて分離を行なう液体クロマトグラフィー (LC)の一種であり、高分子の分子量分布、および平均分子量を測定する手法である。高分子鎖が希薄溶液中でとっている大きさと同じ位の大きさの細孔を有する粒状ゲルを充填したカラムに試料溶液を注入すると、分子量の高い分子、すなわち、溶液中における分子サイズの大きいものは、ゲル表面の細孔への浸透が少なく、分子量の低い分子よりも速くカラム中を移動して溶出する。なお、この分離機構から、GPCはSEC(Size Exclusion Chromatography)と総称される。

図1 GPCの原理

 通常、GPCにて測定可能な分子量は、分子量既知の標準品換算の相対値(相対分子量)である。そのため、知りたい試料の化学構造と、標準品に用いる試料の化学構造が異なる場合、実際の分子量を反映していない可能性がある。なお、後述の光散乱検出器を用いることで、絶対分子量の測定が可能となる。

2.2 GPCの進歩 GPCはLCの一種であるため、重要な構成要素として、

カラム、検出器が挙げられる。また、試料が溶媒に溶解しなければ分析できない。そのため、難溶解性高分子の溶解技術も重要である。ここでは、検出器、難溶解性高分子の溶解技術の進歩について述べていく。

︵1︶ 検出器 表1に、GPCに用いられる主な検出器の特徴と得られる情報についてまとめた。表1中の示差屈折率検出器、蒸発光散乱検出器、紫外-可視吸収(UV)検出器は、サイズ分離されて溶出してきた各成分の量を検出するために使われ、濃度検出器と呼ばれる。なお、UV検出器は、多波長型を使用すれば、分離された各分子量成分のUVスペクトルも同時に取得することができる。 表1に示した、粘度検出器、多角度光散乱検出器は、濃度検出器とは使用目的が異なる。いずれも濃度検出器との併用が基本となり、粘度検出器の場合は分離された各成分の極限粘度、多角度光散乱検出器については、絶対分子量、分子サイズ(回転半径)を得ることができる。これらの特性値を測定することで、長鎖分岐度の評価も可能となる。

表1 GPCに用いられる主な検出器

RI UV

UV RI UV

UV

RI

RI MALS

Mark-Houwink Plot

︵2︶ 難溶解性高分子のGPC測定技術 他の分子量測定手法を適用する場合にも高分子が溶媒に溶解することは必須であり、難溶解性のポリマーの分子量測定は難易度が高い。GPCに関しては、装置の進歩により、高温下でないと溶解しないポリマー(ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィンなど)については、高温専用機を用いることにより測定可能となっている。また、高結晶性のポリエーテルエーテルケトン、全芳香族型ポリエステル(液晶ポリマー ︶1︶、セルロース、なども難溶解性ポリマーとして知られるが、前処理や溶媒を工夫することでGPC測定が可能となっている。

3.分析事例

3.1 高分子の変色を伴う劣化への適用例 高分子材料は、熱、光、応力などの負荷の大きい環境

高分子の分子量分布測定技術の進歩−GPCとその仲間たち−

材料物性研究部 長谷川 博一

30・東レリサーチセンター The TRC News No.116(Mar.2013)

●高分子の分子量分布測定技術の進歩−GPCとその仲間たち−

下で長時間使用されることにより、本来有する機能の低下や変色などを生じる(高分子の劣化︶2︶。ここでは、ナイロン66を例にとって紹介する。 大気中、120℃で365日間放置したナイロン66について、図2に試料外観を示した。熱処理後は、試料表層が茶褐色に変色していることが分かる。本試料について、検出器に多波長型のUV検出器を用いてGPC測定を行った。測定は試料表層部を対象に、未処理品、熱処理品について行った。波長430 nmにおけるGPC-UV曲線と、ポリマー成分のUVスペクトルの試料間比較を図3に示す。図3から、未処理のナイロン66は可視光域に吸収を有する成分を含まないが、熱処理後ではポリマー成分が可視光域に吸収を有していることが分かる。本結果から、熱処理に伴う試料表層の変色は、ポリマーの化学構造の変化に起因していることが示唆される。

0 day 365 days

1 mm1 mm 1 mm

図2 熱処理前後のナイロン66外観

Mol

ecul

ar W

eigh

t

UV

Inte

nsity

(A.U

.)

0 days 365 days

(PMMA )

400nm

10

10 1

10 2

10 3

10 4

10 5

10 6

10 7

10 8

12 14 16 18 20 22 24 0

1

2

3

4

Retention time (min)

10

0 day 365 days

(PMMA )

400nm

UV

図3 GPC-UV(430 nm)曲線とUVスペクトル

3.2 GPC-MALS-VISCO GPCの検出器に粘度(VISCO)検出器を用いることで極限粘度、光散乱(LS)検出器を用いることで絶対分子量が得られる。ここでは、RI、VISCO、MALS(多角度光散乱)検出器を併用し、カラムにより分離された各成分の絶対分子量と極限粘度を同時に取得し、Mark-Houwinkプロットを作成した例を紹介する。Mark-Houwinkプロットは高分子種固有のものであり、その近似式の傾きから︵1︶式に示した粘度式の指数αを得ることができる。指数αから、高分子の屈曲性、溶媒との親和性、分岐度などを推察することができる3︶。

[η]=KMα   ︵1︶

 ここで、[η]:極限粘度、M:分子量、K,α:定数である。ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)について、溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用い、室温でGPC-MALS-VISCO測定を行った。各試料のMark-Houwinkプロットを図4に示す。

THF

Polystyrene PMMA Polycarbonate

図4  GPC-MALS-VISCO測定により得られたMark- Houwinkプロット

 これら三種はいずれも、良溶媒中における屈曲性高分子の系である。これらの系では、︵1︶式の指数αは0.7付近の値であることが多々報告されている。測定結果から得られたαの値はPS:0.72、PMMA:0.71、PC:0.68と予想とほぼ同等の値となり、本手法が、高分子の基礎特性解析に有用なツールであることが分かる。

4.まとめ

 本稿では、高分子の分子量測定の代表的な手法であるGPCの進歩と適用事例について、主に検出器の観点から紹介した。様々な検出器を用いることで、分子量のデータ取得に留まらず、変色の解析や、Mark-Houwinkプロットなど希薄溶液物性の評価が可能となる。皆様の研究開発の一助となれるよう、GPC測定の技術開発を継続して行っていく所存である。

5.参考文献

1) 絹川明男・黄瀬善嗣, 高分子論文集, 45, 531 (1988).2)The TRC NEWS, 97, 1(2006).3) Hiromi Yamakawa, “Modern Theory of Polymer

Solutions”(Harper & Row, 1971).

■ 長谷川 博一(はせがわ ひろかず) 材料物性研究部 材料物性第₁研究室

趣味:子供と遊ぶ

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