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質量分析データ集
目 次
はじめに 1
1.HS/GC/MSによる揮発性有機化合物の分析 2
2.Py/GC/MSによる高分子材料の分析 5
3.LC/MS測定 8
4.FD法による脂肪酸やポリマーの分析 11
5.構造解析 15
5-1 精密質量測定 15
5-2 MS/MS測定 18
はじめに
最近の質量分析法の発展は目覚しいものがあります。環境や薬物、裁判化学、工業材
料、天然物、生体高分子など様々な分野で使用されていたりITやゲノムなどの新技術の
分野でも注目されています。現在、話題のダイオキシンやPCBのGC/MS分析ではフェ
ムトグラム(10-15g)オーダーの超高感度で検出されています。また松本サリン事件を
例に挙げると池の水や周辺大気から微量の成分をGC/MSにより検出し猛毒のサリン
の存在を証明しました。裁判化学では1本の髪の毛から服用した覚醒剤や麻薬成分を検
出し、服用した履歴を予測し鑑定材料として評価されています。
このように質量分析法が多くの分野で使用され注目されるのは高感度であることと
物質の分子量から確実に成分が評価できるからです。またガスクロマトグラフィー
(GC)や液体クロマトグラフィー(LC)が接続でき、GC/MS や LC/MS として分析法が
確立されたこともあります。更にイオン化法として FAB、ESI、MALDI が導入され分
子量1万を超える物質が分析されています。現在の質量分析はすべての物質に対応でき
ると言っても過言でないでしょう。
弊社ではこのような分析に対応するために、高性能の装置とスタッフを揃えています。
また日本電子で培われた経験と多くのデータを蓄積しています。ここではその中から興
味深い分析例を紹介いたします。
1
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1.HS/GC/MSによる揮発性有機化合物の分析
★ヘッドスペース(HS)とは 揮発性有機化合物(VOC:トリハロメタンなど)分析用の濃縮前処理装置と言えます。試料を入れた HS用のバイアルびんを適度な温度で加熱保存し、ヘッドスペース部に移相した VOC成分を GCカラムに直接導入して測定します。
★HS/GC/MS 「水道法」(厚生・労働省)、「環境基準」(環境省)などに規制されている水質基準に
適合しているかどうかの検査方法のうち、VOCの検査方法として指定されている手
法です。
試料は液体、固形物、粉末でもバイアルびんに入れば前処理なしで分析できます。
例えば水道水10mlと多く採取することにより希薄濃度試料(0.1ppb以下)でも分析
が可能になります。
[水道水中 VOCの分析]
水道法で規制されている VOC、23成分について都市水道水を用いて分析し、その基準値との評価を行いました。
水道水中の VOC、23成分を定量するために、その標準混合溶液を HS/GC/MSにて測定しました。図1は VOC、23成分の標準混合溶液(10ppb)のトータルイオンクロマトグラムです。表1にピーク No.と成分名を示します。水道水を10ml採り VOCを評価したところ、トリハロメタンが顕著に出現しました。その結果を図2に示します。総トリハロメタン量は 24ppb と算出されました。内訳はクロロホル
ム(20ppb)、ブロモジクロロメタン(3.5ppb)、ジブロモクロロメタン(0.6ppb)、
ブロモホルム(0.1ppb)が検出されました。定量は標準混合溶液のクロマトグラム
強度の比較から評価しました。
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図1VOC、23成分の標準混合溶液(10ppb)のトータルイオンクロマトグラム
【HS条件】
試料量:10ml
加熱温度:60℃
加熱時間:20min
ミキサー:10min
サンプルループ:1ml
サンプルループ加熱温度:150℃
【GC条件】
カラム:AQUATIC
60m、0.25mmid、Film0.25um
オーブン:40℃-10℃/min-200℃(3min)
【MS条件】
イオン化電圧:70eV
イオン化電流:300uA
イオン源温度:210℃
測定質量範囲:m/z42~m/z210/300msec
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表1ピーク No.と成分名
No. 成分名 No. 成分名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1,1-ジクロロエチレン ジクロロメタン トランス-1,2ジクロロエチレン シス-1,2ジクロロエチレン クロロホルム 1,1,1-トリクロロエタン 四塩化炭素 1,2-ジクロロエタン ベンゼン トリクロロエチレン 1,2-ジクロロプロパン ブロモジクロロメタン
13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 IS
シス-1,3ジクロロプロペン トルエン トランス-1,3ジクロロプロペン 1,1,2-トリクロロエタン テトラクロロエチレン ジブロモクロロメタン m-キシレン p-キシレン o-キシレン ブロモホルム 1,4-ジクロロベンゼン フルオロベンゼン(内部標準)
図2水道水から検出されたトリハロメタンのマスクロマトグラム
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2.Py/GC/MSによる高分子材料の分析
★ 熱分解(Py)/GC/MSとは ポリマー、不溶性材料、混合材料などの物質を前処理なしに測定でき、得られた
クロマトグラムやマススペクトルからその成分の同定ができます。特にポリマーの
キャラクタリゼーションの有効な手法として用いられています。
★ ダブルショット法 ダブルショットパイロライザー(フロンティア・ラボ社)を用いて分析しました。
初めに 100℃~300℃程度の温度でポリマー中の揮発性成分を熱脱着法により分
析します。その後、残りの基質ポリマーを 500℃~700℃程度の高温の炉中で瞬時
に熱分解します。こりにより同一試料から異なった2種類の情報が得られるので迅
速かつ容易に解析ができ、ポリマーのキャラクタリゼーションとしていっそう有効
な分析手法です。更にポリマー全体の熱特性をみる発生ガス分析法(EGA Direct
MS および EGA/GC/MS)も出来ます。発生したガスをダイレクトに MS に導入
して測定する手法です。
[ポリスチレンの分析]
図3はダブルショット法によるポリスチレンのパイログラムです。ポリスチレンにパ
ルミチン酸メチルとステアリン酸メチルを添加した混合物(約2ug)を試料カップに
入れ、分析しました。(a)の熱脱着分析では添加物のパルミチン酸メチルとステアリン
酸メチルの他に添加剤のフタル酸エステルが検出されていることがわかります。(b)の
熱脱着後の熱分解分析ではスチレンのモノマー、ダイマー、トリマーが検出されていま
す。
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図3ポリスチレンのパイログラム
(a)熱脱着(b)熱分解
【Py(ダブルショットモード)条件】
試料量:約2ug
加熱炉温度:①熱脱着分析;100℃―30℃/min―200℃(3min)
②熱脱着後の熱分解分析;550℃
【GC条件】
カラム:UA-5
30m、0.25mmid, Film 0.25um
カラム温度:
70℃(1min)-20℃/min―320℃(1min)
注入口温度:300℃
キャリヤー流量:1ml/min
スプリット比:1/100
【MS条件】
イオン化電圧:70eV
イオン化電流:300uA
イオン源温度:230℃
測定質量範囲:m/z25~m/z500/400msec
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[ポリスチレンの発生ガス分析]
ダブルショット法と同様にポリスチレンを用いてその発生ガス分析を行いました。図
4はポリスチレンの発生ガス曲線です。この曲線から、90℃~200℃の加熱範囲で添
加物のパルミチン酸メチル、ステアリン酸メチルおよび添加剤のフタル酸エステル類が
観測されます。
また、380℃付近からポリスチレンの分解が始まり、500℃付近でその分解が終了し
ていることがわかります。
図4ポリスチレンの発生ガス曲線
8
3.LC/MS測定
★ESIと APCI ESI(Electrospray ionization)、APCI(Atmospheric pressure chemical
ionization)は LC/MSの代表的なインターフェースです。図5にそれぞれのイオ
ン源の概要を示します。大気圧の条件下で高電界の場に試料ガスとともに噴霧する
ことによりイオン化します。生成したイオンを効率よく高真空の質量分析計に導く
ためにロータリーポンプ(RP)とターボモレキュラーポンプ(TMP)で排気して
います。またイオンガイドを通すことにより、いっそうイオンの透過効率を上げて
います。
図5ESIと APCIのイオン源の概要
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[お茶の分析]
お茶の中にはカテキンが多く含まれています。カテキンはポリフェノールの構造を持
ち殺菌作用とガンの予防の観点から注目されている物質です。日本茶、紅茶、ウーロン
茶の分析を行いました。FAB、ESI、APCI のイオン化を検討した結果、APCI を用い
た場合に良好なスペクトルが得られました。
一例として日本茶の分析結果を示します。図6はその APCIによるマスクロマトグラ
ムです。スプーン一杯のお茶にお湯を注ぎ、飲める程度にしてからフィルターで濾した
後、20μLを APCIの LC/MSに導入しました。それぞれの成分を検討すると、Val、
Argなどのアミノ酸カテキン類、カフェイン、ルチンの存在を示す成分が確認できまし
ました。m/z139 はカテキンに特有なフラグメントイオンです。マスクロマトグラム
からカテキン成分の存在がモニターできます。図7に日本茶中から検出されたカテキン
類の APCIスペクトルを示します。
それぞれのお茶のマスクロマトグラムを比較するとアミノ酸は紅茶に多く、カテキン
はウーロン茶に多く存在していることがわかりました。
図6日本茶の APCIによるマスクロマトグラム
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EC R=H,R2=H エピカテキン
M.W.290 EGC R=OH,R2=H エピガロカテキン
M.W.306 ECg R=H,R2=galloyl エピカテキンガレート
M.W.442 EGCg R=H,R2=H エピガロカテキンガレート
M.W.458
図7日本茶中から検出されたカテキンのAPCIスペクトル
11
4.FD法による脂肪酸やポリマーの分析
★FD法とは?
FD(Field desorption)は電界脱離イオン化法です。タングステン線(約 10
μmφ)にカーボンのウィスカーを成長させたエミッター上に光学顕微鏡を用いて
試料を塗布し、電流プログラムを設定して測定します。エミッター表面やウィスカ
ー先端近傍に数 kVの高電界を印加することによりイオン化します。FAB、ESI法
の普及により FD法は検討されなくなりましたが無極性物質や工業材料の分析にま
だまだ使用されています。図8に FD測定の手順を示します。
★トリグリセリド、脂肪酸などの分子量関連イオンが強く現れる
M+、(M+H) +
約 10μmφ
kV
光学顕微鏡を使用しマイクロ
シリンジで試料をエミッター
に塗布します。
エミッター
イオン源に導入し高電界
をかけイオン化します。
図8FD測定の手順
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[ヤシ油の分析]
図9にヤシ油の FDスペクトルを示します。ヤシ油の主成分はトリグリセリドです。
無極性のため FAB や ESI 法ではイオン化されにくく分子量の情報が得られません。
このような分析は加水分解後、メチル化して GC/MS で測定すると脂肪酸組成が評
価できます。FD 法ではトリグリセリド(TG)の分子イオンが出現します。そのた
め成分評価に使用できます。ヤシ油の場合 C22~C54 まで飽和の脂肪酸から成る
TGが出現しています。また二重結合の異なる脂肪酸から成る TGも存在しているこ
とがわかります。
図9ヤシ油の FDスペクトル
【測定条件】
試料濃度:アセトン1%溶液
加速電圧:5kV
カソード電圧:3kV
エミッター電流:10mA~50mA 4mA/min
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★重合度の異なるポリマーに有効
[ポリエチレングリコールの分析]
図10にポリエチレングリコール(PEG)の FD スペクトルを示します。(a)は
PEG600、(b)は PEG1000の FDスペクトルです。(a)は質量数 600前後
に分子量分布を示すスペクトルパターンが明確に現れています。PEG300、400
のような比較的低質量の場合は FABイオン化法でも良好なスペクトルが得られま
すが鎖が長くなり重合度が大きくなるにつれ、高質量側のスペクトルは相対的に弱
くなり良好な分子量分布が得られません。FD法を用いると(a)、(b)のスペク
トルのように高質量側の分子量分布を示すきれいなスペクトルが得られます。スペ
クトル強度を計算することにより、このようなオリゴマーの平均分子量を求めるこ
とができます。
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図 10ポリエチレングリコール(PEG)の FDスペクトル
(a)PEG600(b)PEG1000
【測定条件】
試料濃度:メタノール1%溶液
加速電圧:5kV
カソード電圧:3kV
エミッター電流:10mA~50mA 4mA/min
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5.構造解析
5-1精密質量測定
★ 小数点3桁以下の正確な質量を求める 標準試料を導入しながらを測定を行います。標準試料と目的試料の混合スペク
ルを得てスキャン時間に対応する磁場あるいは電場強度のうねりを直線近似補正
します。既知の標準試料の質量から試料の精密質量が正確に求められます。
★構成元素の確認ができる 精密質量の値から試料の組成式を割り出し、構成元素を評価あるいは確認するこ
とができます。元素分析の代わりとして利用できます。
★ 高分子量化合物の質量決定に利用 精密質量測定は構造解析や構成元素の評価以外に分子量数千を超える高分子量
化合物の正確な質量決定にも利用できます。低分子量化合物の場合、質量を整数値
で取り扱っても問題は生じません。一方、高分子量化合物の場合、質量を整数値で
表わすと分子量決定を誤ってしまう恐れがあります。水素の質量は1.0078です。
水素数が多くなると質量が大きくシフトします。
元素組成 整数質量 精密質量 質量差
C246H377O76N65S6 m/z5863 m/z5865.5960 +2.596
(インシュリン)
C153H226O43N49S m/z3480 m/z3481.6235 +1.6235
(グルカゴン[M+H]+)
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[インシュリン B 鎖の測定]
図11はインシュリン B 鎖の低分解能 FABスペクトルです。フラグメントイ
オンが多く MH+ イオンが弱く出現していますが分子量を十分に判定できるスペ
クトルです。分子量を正確に求めるために目的スペクトルの精密質量を求めた結
果を図12に示します。
図 11インシュリン B 鎖の低分解能スペクトル
図 12インシュリン B 鎖の高分解能測定結果
(a)CsI(b)インシュリン B 鎖
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標準試料に CsIを用いて最も強い 13Cに由来するピークMH+の精密質量演算を行っ
た結果、図12に示すように実測値はそれぞれ m/z3495.6614、m/z3496.6438
となりました。測定精度は分子量の大きさから目安として 10ppmすなわち 35mmu
程度の誤差を考えていましたが1.6/6.7、-4.1/-14.2(mmu/ppm)という結果が得ら
れました。この結果から元素組成式が確定できます。また高分子量の正確な質量決定に
も十分に活用できます。
18
5-2MS/MS測定
★プロダクトイオン検出
構造情報を得る手法として MS/MS 法が用いられます。MS/MS 法は装置を2台接
続したタンデムやハイブリッド型などの装置を使用します。また、一台の二重収束型質
量分析計でMS/MS法を可能にした手法をリンクドスキャンと呼んでいます。
(1) はイオン分解の過程を示した式です。通常試料はイオン源でイオン化され、安定なイオンは分子イオンとして、過剰な内部エネルギーを持つ分子イオンは分解しフラ
グメントイオンとして加速され、電場、磁場を飛行し質量分離されます。
イオン源で生成されるm1+ や m2
+ のイオンのほかに飛行中に分解するイオンもあ
ります。イオン源と電場あるいは磁場との間の空間に生成するm1のイオンをプリカー
サイオン、m2のイオンをプロダクトイオンと呼んでいます。プロダクトイオンは低エ
ネルギーに分配されるため通常のスキャン法では電場、磁場を通過することができませ
ん。MS/MS法を用いると指定したプリカーサイオンから分解したプロダクトイオンの
みを検出することができます。
m1+ → m2
+ +(m1-m2) (1)
★MS/MS法+α
MS/MS 法を用いてプロダクトイオンを検出すると構造解析に有用な情報が得ら
れます。しかし期待に反して構造を反映するようなプロダクトイオンが検出されなか
ったり、重要なプロダクトイオンが検出されていてもイオン強度が弱いために断定す
るには不安感が残る場合もあります。
構造を解析するには信頼度を高めるために MS/MS 測定に加えて精密質量測定を
行なったり、場合によっては負イオン測定を行なうことも構造解析の重要な手掛かり
につながります。
19
[サイコサポニンーCの分析]
サイコサポニン-C は漢方薬に処方される柴胡(サイコ)に含まれる成分のひと
つです。ラムノースとグルコースが結合した構造を有しています。図13は市販
のサイコサポニン-C 分析結果です。(a)は負イオン FAB スペクトルです。サ
イコサポニン-Cの分子イオンを示す (M-H)- 925が得られています。
(M-H)- 925からのリンクドスキャンを行いました。そのスペクトルを(b)
に示します。(a)のスペクトルと比べバックグラウンドが少ないきれいなスペク
トルです。m/z 779とm/z 763はm/z 925からそれぞれ146、162差で
あることからラムノースとグルコースの存在を示しています。また(a)のスペ
クトルからは見られなかったm/z 455、617が得られています。それぞれm/z
925から 470、308の質量差があるためグルコース2個とラムノースが脱離し
たことが確認できます。3個の糖鎖を持っていることがわかります。通常のスキ
ャンでは確認できなかった情報が得られます。
図 13サイコサポニン-Cの分析結果
(a)負イオン FABスペクトル(b)リンクドスキャンスペクトル
OH
RO
O
R= Glc \6Rha /4 Glc-
925
925 779763
617
455
146146146146
162162162162
308308308308
444470707070
20
[観葉植物ポトス]
観葉植物として代表的なポトスの葉を分析しました。図14はポトス葉の FAB
スペクトルです。予想した通り緑色色素であるクロロフィル-a の分子イオンを示
す(M+H)+ 893が得られました。m/z 893と 14差で同族体を示す m/z 907
も検出されています。フラグメントイオンを確認するために m/z 893、907 の
リンクドスキャンを行いました。図15はクロロフィルのリンクドスキャンスペク
トルです。(a)はm/z 893から、(b)は 907からスキャンを行なった結果で
す。(a)はC20H39の側鎖の脱離を示すm/z 614が得られています。(b)は(a)
と同等なスペクトルが得られています。ほかに構造を反映するようなプロダクトイ
オンは検出されませんでした。
m/z 907はm/z 893と14差であることからメチル側鎖の異なる成分と考え
られます。確認のためミリマス測定を行いました。その結果を図16に示します。
標準試料に PEG1000を使用し精密質量を演算した結果、それぞれ 4.4 mmuの
精度で(M+H)+ 893.5388、3.4 mmuの精度で(M+H)+ 907.5190の値が得ら
れました。(M+H)+ 893.5388と(M+H)+ 907.5190の差が 13.9802のため
m/z 907のピークはメチレン側鎖の付加体ではないことがわかりました。組成演
算を行った結果、クロロフィルbに相当する C55H71O6N4Mgが得られました。末
端基の Rが CH3から CHOに置換したものです。
図14観葉植物ポトスの FABスペクトル
21
図 15 クロロフィルのリンクドスキャンスペクトル
(a)m/z 893 の B/Eスキャンスペクトル
(b)m/z 907の B/Eスキャンスペクトル
22
【測定条件】
標準試料:PEG1000
スキャン法:加速電圧スキャン
標準試料導入法:交互導入法
設定分解能:R=3000
【精密質量計算結果】
実測値 誤差(mmu/ppm) 組成式
m/z 893.5388 -4.4/-4.9 C55H73O5N4Mg
m/z 907.5190 -3.4/-3.8 C55H71O6N4Mg
図 16 ミリマス測定結果
(a)PEG1000(Na+添加) (b)クロロフィル
23
図14のポトス葉の FABスペクトルに強く出現しているm/z 430、460、613、
614、628、758のピークについて吟味しました。m/z 893と 907のリンクドス
キャンスペクトルから m/z 614、628 はそれらのフラグメントイオンであるとわか
りました。m/z 460、613はマトリックスとして使用した 3-ニトロベンジルアルコ
ールの3、4量体イオンです。残りの m/z 430、758 は何を示しているピークなの
かよくわかりません。そこでそれぞれについてリンクドスキャン法を用いて検討しまし
た。
図 17はm/z 430からの B/Eスキャンスペクトルです。(M+H)+ 430とプロダ
クトイオン m/z 165 が得られていることからビタミン E ではないかと判断しまし
た。確認のためビタミン E(α-トコフェロール)の標準品を用いて測定しました。
図 18はα-トコフェロールの B/Eスキャンスペクトルです。プロダクトイオンm/z
165 が顕著に得られています。標準品と同等なスペクトルが得られていることから
ポトス中にビタミン E が存在していることが確認できました。ビタミン E には動物
性食品に少なく植物性食品、油脂に多く存在し胚芽油、トウモロコシ、レタスなどに
含まれることで知られています。観葉植物中にも含まれていると考えられます。
図 17m/z 430からの B/Eスキャンスペクトル
図 18α-トコフェロールの B/Eスキャンスペクトル
O
CH3
CH3
H3C
HO
CH3CH3
CH3CH3CH3
165165165165
24
次にm/z 758についてリンクドスキャン測定を試みた結果を図19に示します。
m/z 758から B/Eスキャンを行いました。m/z 184が得られています。m/z 184
はレシチンやスフィンゴミエリンなどに特有に現れるフラグメントイオンです。m/z
184 はコリン部の質量数に相当することからレシチンの関連物質であると判断しま
した。さらに脂肪酸基を調べるために脂肪酸脱離のプロダクトイオンを検索しました
がスペクトル強度が弱く確認できません。そこで負イオン FAB 測定を行いました。
図 20 はポトスの負イオン FAB スペクトルです。m/z 255、277、279、281
にそれぞれパルミチン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸を示すピークが検出
されました。その結果、分子量とこれらの側鎖の組み合わせから (M+H)+ 758はパ
ルミチン酸とリノール酸を有するレシチンと推測しました。
図 19 m/z 758からの B/Eスキャンスペクトル
図 20ポトスの負イオン FABスペクトル
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