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シラス災害 鹿児島大学理学部地球環境科学科 岩松

シラス災害 - Kagoshima U...シラスの定義 (2) 岩松・他(1989)の定義 大規模火砕流堆積物の非溶結部に限る 全てシラスと一括するのは混乱のもと

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シラス災害

鹿児島大学理学部地球環境科学科

岩松 暉

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シラス災害講義もくじ

シラスの定義

火砕流堆積物

シラスとボラ

シラス災害史

社会の発展と災害

シラス災害の種類

シラス表層すべり

ボラすべり

剥落型崩壊

ボラすべり災害

シラス表層すべり

災害の予知予測

時間的予知

空間的予知

AIエキスパートシステム

シラス防災対策

防災戦略

ソフト的対応

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シラスの定義(1)

本来は白砂・白州

白色砂質堆積物を指す鹿児島の方言

庭にシラスを撒いて清め正月を迎える習慣

従来は火山起源白色砂質堆積物の総称

火砕流堆積物の非溶結部

降下軽石

白色凝灰質砂層(水成シラス)

上記の二次堆積物(二次シラス,成層シラス)

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正月どん迎え

しょがっどんむけ

年の暮れに庭にシラスを撒いて清め新年を迎える

鹿児島の古くからの風習

(写真は南日本新聞による)

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シラスかしらすか 土質工学会

しらすは日本語ゆえひらがな表示

シラスはウナギの稚魚を指す(九州だけ)

地理・地質

明治以来カナ書き

教科書もカナ

先取権尊重が学界のルール

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シラスの定義(2)

岩松・他(1989)の定義

大規模火砕流堆積物の非溶結部に限る

全てシラスと一括するのは混乱のもと

成因が異なれば存在する場所も異なる

災害に対しても異なった影響

苦い経験(1976年災害の翌年)

かつて降下軽石もシラスと呼ばれていた

降下軽石を垂直に切り作業員が3名犠牲

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竹迫団地造成工事での事故 ボラに対する無知の引き起こした労災事故

シラスを直に切っていった

ボラに突入したのに,そのまま直に切り進んだ

大雨で崩れた

生き埋めになって亡くなったパートの小母さんのヘルメット(1977.9.7)

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火砕流とは

Krakatau型(Crater Lake型)噴火

大規模火砕流

雲仙普賢岳の火砕流は極々小規模

流紋岩~デイサイト質

温度800℃±

2,000億トン以上

秒速20~200m

①初期噴火 ―降下軽石―

②破局的噴火 ―火砕流流出―

③後カルデラ火山成長

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雲仙普賢岳の火砕流

1991年6月3日死者43人を出した時の“大規模”火砕流

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姶良カルデラ(1)

MATUMOTO(1943)提唱

大型Krakatau型カルデラ

入戸火砕流を噴出(25Ka)

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姶良カルデラ(2)

2.5万年前,入戸火砕流を噴出した時に形成され,桜島は後カルデラ火山として誕生した

若御子カルデラ(真の噴出源?)

吉野台地

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入戸火砕流標識地

標識地の入戸火砕流は溶結凝灰岩

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入戸火砕流堆積物

入戸火砕流 (狭義のシラス)

亀割角礫(サージ)

妻屋火砕流

大隅降下軽石

[最上部に二次シラス]

[下部にサージもある]

人吉 宮崎

都城

鹿児島

出水

姶良カルデラ

桜島

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姶良Tn火山灰(AT)の分布 入戸火砕流の上部を占めていた多量の火山灰が偏西風に乗って各地に分布

丹沢パミス・山陰の黄粉などもこれ

旧石器編年に役立つ

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シラスとボラ(1)

シラス(土質工学会では“しらす”) 非溶結火砕流堆積物 pyroclastic flow deposits 入戸火砕流堆積物(24.5Ka)が代表的

比高100m前後の台地を形成

特徴…Flowに由来する性質

軽石・火山灰(火山ガラス)・本質礫・異質岩片からなる

淘汰不良→インターロッキング

基本的には低所に水平に堆積する

垂直崖自立←多少溶結またはインターロッキング

噴出源からの距離に応じて層相変化

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シラスの特徴(1)

淘汰不良

軽石・火山灰・岩片が混在

結構自立する

谷埋め堆積

低いところにほぼ水平に堆積

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シラスの特徴(2)

台地の形成

流水の浸食に弱い

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溶結凝灰岩の特徴

ユータキシティック構造

黒曜石ガラス

元来は軽石

柱状節理

六角柱状に割れる

転倒崩壊の原因

地下水の貯留

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シラスとボラ(2)

ボラ

厄介もの・困りものの意

降下軽石 pumice fall deposits 薩摩降下軽石(1.1Ka)が代表的

鹿児島市付近で層厚約100cm

特徴…Fallに由来する性質

淘汰良好→肥料保ち悪い→排土してから畑

良好な透水層=地下水の通路→粘土化

空から降る→地形に平行に堆積

斜面上にも堆積→表層すべりの原因

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薩摩降下軽石

1.1万年前

桜島火山が後カルデラ火山として誕生

その時の先駆活動として軽石噴出

薩摩半島方向に堆積

俗に桜島ボラという

農耕にとって厄介 →ボラおこし必要

成層シラスと誤解

12.5

25

100cm

50

25 12.5

小林(1987)

桜島

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ボラ層の特徴 淘汰良好

崩れやすい

地下水の通路

肥料持ちが悪い

→耕土として不適

地形に平行に堆積

斜面上にも堆積

安息角より緩い

→土地利用される

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ボラ起こし(ボラ排除)

農民は耕土として不適なボラをクワとモッコで排除する過酷な労働が強いられた。

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シラス災害は宿命か?

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シラス災害史

明治以前…災害と共存が基本

主としてシラス台地下の低台地や袋谷を利用

シラス台地上と違って水が得やすい

危険回避

崖下の崖錐は宅地や耕地として利用しない

土石流扇状地(洗出<あれだし>)は利用しない

危険分散 土地割替制度(門割<かどわり>制度)

危険地利用 天然の要塞として山城に利用(外城<とじょう>制度)

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シラス文化

[恒吉麓]

三 畝 制 (畑三畝・家三畝・田三畝)

危険な崖下は畑ないし竹薮 住宅は低台地に立地 氾濫原は水田

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明治以前の土地利用

崖下のなだらかな坂は崩土の堆積地形 西郷屋敷(左下隅)は山際の閑静な住宅

高度成長期に住宅が崖錐地まで進出→災害

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戦後のシラス災害

戦後二つのピーク 昭和20年代…農地災害←食糧増産で台地の開墾

昭和40年代以降…都市災害←高度成長で人口集中

25,000 3,000 1,500

崖崩れ発生数

畑地開墾面積

ha

ha

宅地面積

10,000 0 0

畑地開墾面積

崖崩れ発生数

宅地面積

1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975

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戦後のシラス災害の特徴

大戦直後の災害

農地被害多発

死者少ない

台風期に多発

大規模散発

崩壊のタイプ

落水型浸食

横洗掘型浸食

円弧すべり?

高度成長期の災害

都市型災害

死者多い

梅雨末期集中豪雨

小規模群発

崩壊タイプ

表層すべり

ボラすべり

剥落型→被害なし

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戦後災害の被害の変化

3 4

104

103

102

10

1 5 6 7x104

1945~1955

1956~1980

年降水量(mm)

農地被害面積(1万

当たり)

ha

3 4

10-1

10-2

10

1

5 6 7x104

1945~1955

1956~1980

年降水量(mm)

死者数(

万人当たり)

10

(春山・他,1981)

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シラス崩壊のタイプ

大戦直後の災害 高度成長期の災害

表層すべり 剥落 落水型侵食 洗掘型侵食

(春山,1974)

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大規模浸食災害

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シラスの浸食(1)

ガリ浸食の進行 ガリの崩壊

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シラスの浸食(2)

台地上の流水浸食 台地下の河川洗掘

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シラス浸食対策

台地上の流水対策

暗渠等で集水してパイプで流す

台地下の河川対策

流路工で洗掘防止

土木技術の勝利

昭和30年代は災害激減

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現在のシラス災害

ボラすべり 表層すべり

風化シラス

崩土量小

シラス

崩土量やや大

ボラ

シラス

古土壌

大規模侵食による災害はなくなったし, 剥落型崩壊は大きな被害を出さない。

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1976年6月25日“シラス”災害

報道では“シラス”崩れ

本当にシラスが崩れたか?

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鹿大生から犠牲者

学生下宿「野崎荘」の被災 学生4人と大家さん1人が死亡

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ボラすべり災害の典型例

鹿児島市内崖崩れ箇所

唐湊

宇宿

300mm 400mm

500mm

200mm

400mm

累計雨量

1976年6月22日9時~26日9時

300mm

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鹿児島市宇宿町の災害

6月25日早朝発生

死者9名

左下と中腹に黄褐色のボラ

中腹にコンクリート擁壁の残骸

最上端は盛土

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ボラすべりのメカニズム

陥没

パイピング

盛土 山腹擁壁

新期火山灰

薩摩降下軽石(ボラ)

古土壌

入戸火砕流堆積物 (シラス)

宇宿町崩壊地模式断面図

11Ka

25Ka

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崖下におけるボラ層露頭

最下部はシラス

黒褐色部は古土壌

不透水層の役割

ボラは空隙に富む

最下部は地下水の通路

10Aハロイサイト生成

粘土化して脱色

すべりの素因

災害の真犯人

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台地上下におけるボラ 台地上:ボラ層の陥没

ボラを排土して路盤や宅盤を造成

ボラ層の露頭が道路脇に残る

雨水の浸透口となる

台地下:パイピング

安息角以下の緩い斜面ゆえに,ベンチカットして土地利用

道路脇に露頭を作る

地下水の出口

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先入観にとらわれた見解

[某砂防専門家の論文]

ローム層

風化シラス

シラス

この線から切れた

[某地質学者の見解]

100m

[某土質工学の大家の談話]

100mの崖だったら崖っぷちを200mコンクリートで覆えば災害はなくなる 円弧すべりを想定?

浸透水

200m

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復旧工事はこれでよいか?

法面を整形してコンクリートを貼る

力で抑え込む発想

最近は景観に配慮して法枠工+植生工

何年もつか?

本当は不必要? “免疫性”獲得し,しば

らくは安全

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被害のなかった急傾斜地

地獄谷 切り立つ

一見危なそう

しかし無被害

ボラは台地上に水平に堆積 斜面上になし →滑るべきものない

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シラス台地地形発達史

① 25Ka…シラスの堆積

浅い谷と古土壌形成

② 11Ka…ボラの堆積

古い谷の下刻

③ 6Ka…縄文海進

新しい谷の形成

④ 現在…緩斜面の利用

古い谷におけるボラすべり災害

新しい谷 古い谷

←シラス

↓土壌形成

↓ボラ堆積

下刻→

不安定ボラの 存在と緩いが 故の土地利用

→災害!!

水平に堆積 斜面上になし

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浅い谷形成の理由

25Ka…ウルム氷期

冷温帯(=北海道)

少雨→浸食不活発

~6Ka…後氷期

海水準の急上昇

浸食基準面の上昇

浸食作用不活発

6Ka以降…海退

浸食作用活発化

新しい谷は深い谷

海水準変化 気温変化 植 生 九州有明海

二次林(アカマツ)

暖帯照葉樹林 (カシ,シイ)

冷温帯 落葉広葉樹林 (ブナ,ナラ)

亜寒帯 針葉樹林

砂層

粘土層

砂層

シルト層

砂礫層

有明粘土層

島原海湾層

森林ツンドラ

0℃ 0m

-8℃ -140m

5Ka

10

15

20

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シラス台地地形発達史

① 25Ka…シラスの堆積

浅い谷と古土壌形成

② 11Ka…ボラの堆積

古い谷の下刻

③ 6Ka…縄文海進

新しい谷の形成

④ 現在…緩斜面の利用

古い谷におけるボラすべり災害

新しい谷 古い谷

←シラス

↓土壌形成

↓ボラ堆積

下刻→

不安定ボラの 存在と緩いが 故の土地利用

→災害!!

水平に堆積 斜面上になし

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ボラすべり災害の予知

谷の新旧の識別とボラの有無の確認

古い谷で,かつボラがあるところが危険

川の本流のように,浸食が進んでボラが取り去られたところは,新しい谷同様安全

ボラの浸食し残しがある支流が危ない

予知の方法

堆積物の安息角以下の緩斜面

検土杖やオーガーでボラは確認できる

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シラス表層すべり災害

7・10災害(1986年)鹿児島市平之町の例

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シラス表層すべり災害

7・10災害(1986年)鹿児島市武地区

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1986年7月10日の災害

死者33名重軽傷15名

全半壊家屋94棟

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1986年7月10日の雨量

局地的豪雨(気象台198mm,現地は300mm以上)

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表層すべりによる住家被害

隣家が衝突(平之町) ガス漏れで大騒ぎ(武)

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表層すべりの実態 ごく薄い表層

せいぜい数10cm~1m

大木の繁った所 樹木の重量も影響?

7・10災害はたまたまボラ層のない所

縄文海進期の古い海食崖

浸食し去られた

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表層すべりの原因

1 2 3

間隙比 透水係数 (cm/sec)

指標硬度 (mm)

10-3 10-2 0 10 20 柱状図

1m

すべり面

0m

表土と新鮮シラスとの間に物性的に不連続がある

いわば物性的に異質な層が斜面を覆う

この境界がすべり面 透水性にも差→地下水

の通路

植物の根系もこれより下には入りにくい

火山ガラスのインターロッキングのためも

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植物遷移と崩壊輪廻

地上での植物遷移の進行と平行して, 地下では風化が進行し土壌が厚くなる

崩壊=裸地出現 → 草本侵入 → 陽樹侵入 → 樹木成長・陰樹侵入 → 崩壊発生

新鮮シラス露出 → 風化の進行 = 表土層の形成・層厚増大 → 崩壊

新鮮シラス

崩土

表土

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表層すべりの周期性

40

崖崩れ発生後の経過年数

表層土の厚さ

30

20

10

0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 年

cm

60-70 40-45 70< 今回

過去の崩壊地(武二丁目)

鹿児島市内のシラス崖では,表土の厚さが40~50cmになった頃,70~80年周期で崩壊する。

崩壊には免疫性があるから,崩壊箇所は入れ替わり,70~80年で全体として崖は後退する。 (下川,1987)

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現在の海食崖の崩壊

喜入町前之浜は現在の海食崖

平均傾斜70゚~80゚

平均土層厚20~30cm

平均20~30年に1回崩壊発生

斜面傾斜∝土層層厚∝崩壊周期

0

0

0 0 5-6

4-5

5

6-7

7-8

10

10

15

13

13

13 15

20-25年生

0

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埋もれ谷と崩壊(1)

鹿児島市武二丁目

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埋もれ谷と崩壊(2)

二筋崩れた理由=二筋の埋もれ谷およびボラ層の存在

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埋もれ谷と崩壊(3)

工事中,埋もれ谷出現 工事後,植生繁茂状況に注意

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平成5年8月豪雨

7月31日~8月2日,東シナ海方面から暖かく湿った空気が流れ込み,前線の活動が活発化して九州山口に大雨が降った。前線は,3日~5日には一時南岸に退いたが,6日~7日にかけて再度北上活発に活動し,鹿児島地方に大雨をもたらした。

この7月31日~8月7日にかけての大雨に対し,気象庁は8月7日「平成5年8月豪雨」と命名した。昭和58年7月豪雨以来の命名である。

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1993年の冷夏

夏がなかった

ピナツボ火山が原因

8月の月平均気温分布 太陽入射エネルギーの透過率

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鹿児島地方気象台の雨量記録

雨量記録 歴代順位 岩井法による確率年 間 総 雨 量 4022.0mm 1位 828年年 最 大 日 雨 量 259.5mm 2位  48年年最大時間雨量 63.5mm 9位  10年6 月 雨 量 775.0mm 7位  18年7 月 雨 量 1054.5mm 1位 213年8 月 雨 量 629.5mm 2位  87年9 月 雨 量 532.0mm 1位  66年

何はともあれ未曾有の雨量

先行雨量がべらぼう

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1993年鹿児島豪雨災害

姶良ニュータウンのシラス災害(1995.8.2)

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浮きシラス災害

思川流域で浮きシラス災害(シラス洪水)

崩土や崖錐が直接流れ込んだものではない

上流にある“浅い谷”の二次シラスから供給された

←五反田のシラス洪水

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災害の予知

何時発生するか?(時間的予知) 短期的…降雨量による予測

長期的…樹木年代学的予測(崩壊の周期性)

どこで発生するか?(空間的予知) 地形からみた危険斜面…水の集中しやすい谷型斜面

地質からみた危険斜面…風化の進行・ボラ層の存在

植生からみた危険斜面…馬蹄型をした壮齢陽樹群落

災害になるか?(社会現象としての災害) 被害発生…家屋・農地の存在(何もなかったら単なる自然現象)

いわゆる“人災”…人為的拡大要因の有無

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植生と表土層厚との関係

松や落葉樹のところは表土薄い

常緑広葉樹のところが表土厚い,60~100cm

ここが危険

植生

表土層厚

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数量化理論による崩壊予測

市販表計算ソフトによる崩壊予測

マクロ文でプログラム

欠点→全項目入力の必要

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人工知能による崩壊予測(1)

表計算ソフトは全質問に答える必要…わずらわしい

評価エキスパートシェルを用いて推論…途中でも判定

素人でも質問に答えるだけ…人海戦術が行える

コギトの推論のしくみ

A

B C

A

B C D

OR RULE

3.0 -5.0 -2.5 1.0 -2.0

AND OR OR RULE

NOT

-3.0 -1.0 3.0

LS=10 LN=0.1

LS=100 LN=0.01

LS=10 LN=0.1

Bの得点-2.0 Cの得点 3.5 Dの得点 3.0 Aの得点 3.5

Bの得点-1.0 Cの得点 1.42 Aの得点 0.98 -3.5

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人工知能による崩壊予測(2)

パソコンが質問

質問に答えていくと,得点をその都度表示

明らかに危険,ないし明らかに安全だと質問打ち切り→結論

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間接撮影による集団検診

地形・植生から判定

ノートパソコンに人工知能組み込む

非専門家に持たせる

広域ハザードマップ

要注意箇所の抽出

そこは地質調査実施 当時の最新型ラップトップ→古いねぇ

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広域ハザードマップ

植生分布図→

←傾斜区分図

地形区分図→

←危険度判定

結果

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シラス災害の防災戦略と成人病検診

地質精査

地形・植生調査

←外科手術

←内視鏡検査

←X線直接撮影

←集団検診

工事

地質踏査

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要注意箇所の直接撮影

表土の層厚測定・ボラの有無確認・埋もれ谷の発見 検土杖(ボーリングステッキ)・ハンドオーガー・簡易貫入試験

樹齢測定→生長錐で年輪計測

0 20 40 0

1

Nc値

すべり面

表土

シラス

H:L=1:1

コーン

ロッド

ヘッド

地表

0 5 10m

ボラ 表土

崖錐

新鮮シラス

(鹿児島市武2丁目)

Nc

Nc

Nc

Nc

Nc

S4

S3

S2

S1

ノッキング

2

3

4

5

0 8 20 50

S4 S3 S2 S1 シラスのNc値による風化分帯

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シラス崖の地形と安全圏

崖下のスロープは崩積土の堆積地形

崖の後退→

西郷屋敷

崩土の最大到達距離

危険範囲

崩積土

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鹿児島県宅地造成基準

シラス斜面

←崩積土

崖肩

35゚

30゚

宅 盤 可 宅造不可 道路 公園

① 崖肩を望んで仰角30゚までは宅地を 造成してもよい。 ② 35゚までは道路や公園にしてもよい。 ③ それ以上は宅造不可。

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時間的予知…警戒雨量

(1969,消防庁)

<注>降雪・融雪・地震・地すべり発生時等は別途考慮

前日までの連続雨量

>100㎜ 40~100mm 降雨なし

当日日雨量>100mm 当日日雨量>50mm 当日日雨量>80mm

当日日雨量>100mm

時間雨量>30mm

当日日雨量>80mm 当日日雨量>50mm

時間雨量>30mm 時間雨量>30mm

第 1 警戒体制

第 2 警戒体制

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雨量による災害発生予測

0

20

40

60

80 時間雨量(㎜)

累加雨量(㎜)

300

200

100

0 10 12 14 16 18 20 22 0h

3 5

5 2

1 2

災害発生時刻(死者数)

1986年7月10日 鹿児島合庁

シラス災害の場合,時間雨量50mm,累加雨量200mm程度で避難したほうがよい

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降雨による予測の問題点

先行降雨の状況が反映されない

晴天続きの後の大雨なら崩れない

長雨の後の小雨でも崩れる

降り始めをどこにするか

通常は無降雨が1時間あるとリセット

気象台の観測網が粗すぎる

地質の状況が反映されない

地下水理の状況が反映されない

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地下の乾湿状態の推定

降雨

降雨水の浸透状況?

比抵抗の連続測定

降雨水の浸透状況が

間接的に捉えられる

地下の比抵抗ρを測定する

土粒子

間隙(水)

ρdry

ρwet

ρdry>ρwet

間隙 (空気)

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電極配置と探査概要

10

20

30

40

50

60

70

80

87 90 97

0.5m間隔

2m間隔 精査領域(1570点)

概査領域(130点)

20m

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見かけ比抵抗値の変化Cv 電極

100 100 100 100 100

100 ρs (Ωm)

50 50 50 75 75

100

(Ωm) ρm

-50 -50 -50 -25 -25

0 Cv (%)

Cv=(ρm-ρs)/ρs×100 ρs:基準値の比抵抗値

ρs:基準値の比抵抗値

Cv:基準値に対する変化

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比抵抗変化率の経時変化

6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9月

‘95年 ‘96年

-20

-10

0%

10

20

30

-40

-30

このような経時変化曲線を精査領域1570点すべてについて描く

(計測点:4列50番)

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1995~1996年の日雨量

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9

‘95年 ‘96年

0

50

100

150

200 250

(mm/day)

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実効雨量

Dn = an-1r1 + an-2 r2+……+a1rn-1+rn ……(1)

Dn :降雨開始からn番目の時刻の実効雨量

rn : n番目の時刻の雨量

a : 逓減係数(0<a≦1)

一つ前の時刻の実効雨量Dn-1がわかっているとき,Dnは次式で求められる。

Dn=a Dn-1 + rn……(2)

t0 t2 t1 t

r D n-1

r1

Dn(a=1)

Dn(a=0.5)

(大滝1962)

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逓減係数と実効雨量

a=0.8

a=0.85

a=0.9

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ‘95年 ‘96年

Dn=aDn-1+rn

1000 1200 1400

0 200 400 600 800

Dn

rn

a=0.99

a=0.98

a=0.95

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比抵抗値の変化Cv

実効雨量と比抵抗変化率の相関

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ‘95年 ‘96年

0 200 400 600 800

1000 1200 1400

-20 -10 0 10 20 30

-40 -30

実効雨量Dn(a=0.99)

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相関係数の空間分布

10

20

30

40

50

60

70

80

87

-0.96~-1 -0.91~-0.95 -0.86~-0.9 -0.81~-0.85 -0.76~-0.8 -0.75以上

相関係数

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比抵抗シミュレーション

全計測点について 比抵抗変化率経時変化曲線を描く。

最も相関のよい実効雨量曲線を求め,逓減係数aを決定する。

これで電探機は撤去する。雨量計は残す。

雨量データとaから実効雨量を求める

全計測点について比抵抗値を計算する

比抵抗変化率断面図を描く

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1993年災害時実効雨量に基づく

比抵抗シミュレーション

0 50

100

150 200 250 300 350

400 450 500

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

mm/day Dn (a=0.99)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 月

斜面崩壊発生

白抜き部分は スケールアウト

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測定日数と相関係数

-1

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280

相関係数

測定日数

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シラス災害予知システム シラス斜面で3ヶ月間自動電探実施

逓減係数を決定

電探は撤去,移動

雨量計は測定継続

雨量データ集中管理

実効雨量を常時計算

常時比抵抗シミュレーション

閾値を越えたら警報

Danger

Danger

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災害の経済的影響 8・6豪雨の影響→

台風7号の影響→

200

400

600

800

t/日

20

0 0

40

60

80

t/日

青果物入荷量(鹿児島青果市場)

魚類取扱数量(鹿児島中央市場)

8/7 8/8 8/9 8/10 8/5 8/6 8/11

0

2,000

4,000

円/10kg

7/31 8/7 8/10 8/26 9/1

じゃがいも

レタス キャベツ

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シラス災害の社会的要因 高度経済成長政策

重化学工業化 原料輸入 貿易自由化

農産物輸入

都市人口集中

公共住宅不足

住宅難

土地需要増大

平場のマンションラッシュ

建築費増大

列島改造・乱開発

減反政策

労働力供給

土地投機

平場未利用地の温存

住宅適地の地価高

近郊シラス台地の開発

巨額の工事費

近郊団地の地価高

台地中央部の売り惜しみ

危険地帯への住宅進出

災害

周辺町村の開発 農地の宅地転用

通勤難

過疎

政策的背景

周辺町村

平場市街地

近郊団地

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続々造成される団地

スプロール現象

昭和30年代から始まる

最初に旧鹿児島市内

次に旧谷山市内

やがて,隣接町村がベッドタウン化

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宅地が逃げる!

シラス台地の開発

多額の工事費→地価押し上げ

平場の地価高騰

宅地地価,九州一

商用地は福岡

庶民は比較的地価の安い崖っぷちへ→災害発生!!

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被害者は庶民?

斜面を這い上る団地 郊外団地の開発

庶民は崖っぷちへ そして,災害!!

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シラス災害総合防災対策の提言

抜本的な土地対策 過疎と過密を解消し,都市への人口集中を抑える

土地投機を禁止し,安全で安価な土地を提供する

事前の防災対策 災害危険個所の発見に努める

危険個所には重点的に対策を講じる ハード・ソフト両面

崖崩れ防止の研究を強力に推進する 県立防災研究所を

豪雨時の緊急対策 災害の予知予測体制を確立する

避難誘導体制を確立する

迅速な救助活動を展開し,二次災害の防止に努める

被災者の救援 復旧工事は改良復旧を原則とし,災害の再発を防ぐ

被災者には代替土地を斡旋し,住宅建設資金を援助する

被災者の生活保障・医療保障を十分に行う

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The End 鹿児島のシラス災害という特殊事例についてお話しましたが,地質が違っても考え方は同じです。地質学が防災に具体的に貢献している例としてご紹介しました。