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家庭、技術・家庭部会
役に立つ喜びを感じる子どもの育成を目指して
~実践的・体験的な学習を通して、生活の実践力を高めるための学習指導の工夫~
城山小学校 教諭 宮﨑 紀子 三和中学校 教諭 吉田 真理 帯山中学校 教諭 豆塚 克博
要 約
少子高齢化や生活様式の多様化などの社会の変化に伴い、児童生徒の生活体験不足が生じて
いる。また、授業で身に付けた知識や技術が実生活で十分に生かされていないという課題があ
る。そこで、学習したことを「やってみよう」と思い、実生活の中でやってみることによって、
「やってよかった」と役に立つ喜びを感じ、「さらにやってみよう」と思える子どもの育成を目
指した。本研究を通して、実生活とのつながりを意図した実践的・体験的な学習指導の工夫を
行うことで生活の実践力が高まることが明らかになった。
1 主題設定の理由
教育課程企画特別部会より論点整理が示された。グ
ローバル化や情報化が進展する社会の中で、予測で
きない未来に対応するため、自立した人間として、
多様な人々と協働し、主体的に問題を解決に導き、
新たな価値を創造していく力が求められている。本
教科においても、これまでの目標である実践力の育
成がより一層重要である。 本教科では、「実践的・体験的な学習活動を通して、
基礎的・基本的な知識と技術を習得させることを重
視している」(「中学校学習指導要領解説技術・家庭
編」)。しかし、児童生徒の生活様式の多様化や生活
体験の不足により未習段階での個人差が大きく、児
童生徒が授業での既習事項を実生活に生かせていな
い。また、小学校の教師は、5・6年のみで家庭科
を指導するため、家庭科の授業の機会が不足し、教
材研究が不十分な場合が生じる。それに伴い、児童
そこで、本研究では、実生活に即した実践的・体験
的な学習を授業に取り入れることで、授業で身に付
けた力を実生活や将来の生活に生かそうとする態度
の育成を図ることをねらいとしている。また、小中
5年間を見通した指導計画の工夫・ワークシートな
どの教材を共有することで、より効果的に実践力を
高める手立てを考えた。
2 研究の仮説
実践的・体験的な学習を意図した授業づくりを行
えば、生活の実践力が高まり、児童生徒は、家庭や
社会生活の中で、役に立つ喜びを感じ取ることがで
きるであろう。 (1)「実践力」とは、 小学校・家庭科:家族の一員として生活をよりよ
くしようとする能力と態度 中学校・家庭分野:生活の自立を目指し、家庭生活
をよりよくしようとする能力と態度 中学校・技術分野:技術を適切に評価し活用する能
力と態度 (2)「役に立つ喜び」とは 授業で学んだことが「やってみよう」と思う意欲
につながり、その実践力が役に立った時の「やって
よかった」という喜びである。自分自身のためであ
ったり、他の誰かのためであったり、世の中のため
に役に立つ喜びである。授業後から将来にわたり、
すぐに役に立つ場合や、時間が経ち将来的に役に立
つ場合を想定し意義付けた。 3 研究の視点
本研究の仮説の検証にあたっては、次のように視
点を明確にして取り組んだ。 視点1 生活に即した実践的・体験的な学習を取り
入れた授業づくり
平成27年8月に新学習指導要領の改訂に向けて、
が身に付けた力にばらつきがあるという課題がある。
— 40 —
視点2 小中5年間を見通した教材・教具の開発と
活用の工夫 4 研究の構想
5 研究の実際
(1)視点1について ①小学校家庭科での取組 小学校6年「思いを形に 生活に役立つ物」 C快適な衣服と住まい(3)
ア 検証授業までの取組 児童の生活体験が不足している今日において、生
活経験や観察からの児童の気付きを大事にした授業
を展開するには、授業の中で多くの布製品に触れ、
観察できる環境をつくることが必要と考えた。そこ
で、児童が実際に手にとって観察できる実物の布製
品や観察標本を準備した。それも授業者から提示す
るのではなく、児童の視線に入るところに掲示して
おき、児童が必要に応じて手にとって観察できるよ
うに教室の環境整備に取り組んだ。 イ 検証授業 エプロン製作の授業においては、従来行ってきた
縫い方を考え試作する授業展開を行った。
布の裁断の経験から、布端の糸のほつれを防ぐ方法
を考えさせたりした。その後、実際にミニエプロン
を試作した。この体験的活動からの気付きを共有し
ながら、よりよい方法を探っていった。
ウ 実生活とのつながり 本題材の導入の場面で、児童全員が共通して経験
しているナップザックの製作体験を生かし、実際に
使用しての振り返りを行った。まず、昨年度製作し、
使用してきたナップザックを持ち寄り、ほころびや
すいところを観察した。「よくできたところ」や「も
っとこうすればよかった」という点を思い起こさせ、
そこから今回製作するエプロンは、「どんなエプロン
に仕上げたいか」また、そのためには、「どんな点に
気を付けたいか」を考えさせた。ここから明らかに
なった「丈夫で長く使いたい」という児童の思いを
大事にして、「丈夫に縫うためには」という明確な視
点をもって学習を進めていった。 ②中学校技術・家庭科(技術分野)での取組 中学校2年「掃除ロボットの評価・活用」 D情報に関する技術(3)、(1)-エ
ア 検証授業までの取組 これまでの実践では、センサーカーの制御と生活
の場面における計測・制御の学習が別々に行われた
り、技術の評価・活用について学習する際に取り扱
う題材とのつながりが弱くなったりする場合があっ
た。そこで、今回は、題材の導入段階から、センサ
ーカーを掃除ロボットと比較しながら、計測・制御
の基本的な仕組みを知り、その動きの簡単なプログ
ラムの作成を行い、実際の生活における活用場面に
おける情報処理の手順の工夫について学習し、より
実践的・体験的な学習活動にした。その後、掃除ロ
ボットという技術の評価・活用について考えるとい
う指導計画にした。また、計測・制御の題材では、
教材の準備に負担を感じている教師や複雑なプログ
ラムになりすぎる場合も多い。そのため、今回は、
センサーカーと掃除ロボットの実物かVTR、部屋
を想定した四角い空間のコース(図2)という比較
的簡単に準備できるものにした。プログラムもタッ
チセンサーを 1つ使用すれば課題が達成できるもの
とした。 イ 検証授業 学習目標を「掃除ロボットについて、社会的、環
図1 研究の構想図
縫い方や手順を教えることに重点を置くのではなく、
児童がこれまでの製作や生活体験を手掛かりにして、
ミニエプロンの見本から縫う手順を考えさせたり、
境的、経済的側面から検討することができる(工夫・
創造)」「世の中の自動化の技術について考えようと
— 41 —
している(関心・意欲・態度)」とした。前時までに
部屋全体を効率よく掃除できるプログラムについて
考えさせ、実際の掃除ロボットの動きを見せること
により、そのプログラムの工夫について知らせた。
本時では、まず、掃除ロボットと掃除機を比較して、
準備・製作、使用、廃棄、万が一という時間軸にお
いて、社会的、環境的、経済的側面の視点から評価
を行った。次に、その課題を解決するための活用方
法や新しい技術の開発について考えた。さらに、世
の中の自動化の技術について、どのように考えてい
くかという態度育成をねらった授業展開とした。 ウ 実生活とのつながり 実際に掃除ロボットの観察を行いながら、センサ
ーカーのプログラムを考えたり、センサーの役割や
利用方法を予測し
たりするなど、開
発者としての立場
で学習を進めた。
評価・活用する場
面では、掃除ロボ
ットのハード面の
工夫について知らせ、使用者として購入するか否か
検討した。このように一つの題材を通して、導入段
階から評価・活用について学習することにより、生
徒のスムーズな思考の流れと深まりをねらった。 ③中学校技術・家庭科(家庭分野)での取組 中学校2年 「生活を豊かにするために」
C衣生活・住生活と自立(3)-ア
ア 検証授業までの取組
衣生活の学習に入り、毎時間の授業開始10分を
「基礎縫い」の時間とした。晒さらし
の布を用意して、織
物の組織(たての布目、よこの布目、みみ)を確認
した後、手縫いでよこの布目方向に30㎝ほどのな
み縫いをさせた。最初はぬい針に糸を通す作業にも
時間がかかり、10分の予定時間を大幅にオーバー
することも多かったが、徐々に手際がよくなり、玉
結び、玉どめも短時間で丈夫にできるようになった。
布を用いた物の製作では、生活を豊かにするという
視点よりブックカバーという共通課題を生徒全員
に経験させた。ここでは、日常着の手入れの場面で
よく用いられる補修の技術(まつり縫い、スナップ
付け)や、小学校での既習事項(布はしの始末であ
る三つ折り、ミシンの取り扱い方)などを活用する
場面を設定し、基礎的・基本的事項の更なる定着を
図った。
イ 検証授業
完成したブックカバーを実際に使ってみた後に、
使い心地はどうか、生活が豊かになったかを確認す
る授業を行った。個人で考える時間を確保したり、
小集団での話合い活動を取り入れたりすることで、
発表の仕方を工夫しながら言語活動が充実するよ
う心がけた。自分が作ったブックカバーのまつり縫
いやスナップ付けなどを観察し、なぜ使い心地や見
栄えがよかったのか、また、使い心地が悪かった場
合はもっとどうしたらよかったのかを、根拠をもっ
て発表することで、思考力の向上を図った。
ウ 実生活とのつながり
完成したブックカバーは、朝読書の時に活用する
場面があることで、実生活で役に立つものとなった。
また、基礎縫いの練習で利用した晒さらし
の布は、丁寧に
仕上げて、自分の手縫いの上達が見える「花ふきん」
として家庭の食卓や台所等で活用させた。ブックカ
バー製作により身に付けた技能で、ボタン付けやほ
ころび直しを行う者もおり、中には家族全員分のブ
ックカバー製作に取り組んだ者もいた。
(2)視点2について ①ミシン縫いスキルアップシート ミシン操作の基礎的・基本的な技能の習得に向け
て「ミシン縫いスキルアップシート」を作成し活用
した。小学校におけるミシン操作の基礎的・基本的
な指導事項を明確にし、繰り返し活用することで、
確実な技能の習得を目指した。また、授業中には見
取りきれていない児童のつまずきや困り感を知るこ
ともでき、次時の指導に活用することができた。中
学校でも同じシートを使用することで、効率よく振
り返りを行うことができると考える。 ②衣生活の学習内容における個人カルテ
B4両面刷りの資料を作成し「個人カルテ」とし
て、衣生活の学習を行う期間、毎時間活用した。表
紙は、小・中学校の衣生活の内容における基礎的、
図2 部屋のコース
— 42 —
基本的な知識・技能について示し、1回目のチェッ
クは中学校で衣生活の内容を学ぶ1時間目に行い、
小学校で学んだことを振り返りつつ、これから学ぶ
中学校での内容を見通せる時間とした。2回目のチ
ェックは、衣生活の内容を学び終えてから行い、授
業を通してどれだけたくさんの知識・技能が理解で
き、身に付いたかを確認した。裏表紙には、前時に
学んだ内容から出題された問いに答える欄を設け、
専門的な用語や重要語句などを確認した。カルテ内
側のスペースには、その日の授業を振り返って感想
を書く欄と、学んだことを生かして家庭において実
践してみたいことを書く欄を設け、実践力の育成を
図った。家庭で実践してみた内容については、次時
に自己評価し、授業で学んだことを生かした内容を
家庭においてやってみるサイクルを繰り返しながら、
学習を深め実践力の向上を目指した。衣生活の学習
を終えてから、個人カルテを家庭に持ち帰ってもら
い、保護者にも、家庭での実践の様子等について記
入してもらった。
6 研究の成果と課題
(1)成果 ①視点1について ○これまでの学習体験の振り返りから、今回の製作
のめあてを明確にすることによって、製作意欲が高
まった。縫い方を教えるのではなく、観察、試作を
体験し、自分の製作に活用させることにより、エプ
ロンだけでなく、他の布製品の製作への興味関心の
高まりも感じられた。また、製作意欲だけでなく、
布製品の裏側や縫い目を観察するなど、これまでに
ないものを見る視点が養われた。 ○導入段階から評価・活用の学習まで、同じ題材で
学習することにより、学習時間の短縮が可能となっ
た。評価・活用の場面で、実習した内容から考え、
ソフト面とハード面の両方での工夫を検討する様子
が見られた。
○ブックカバーを完成させて終わりではなく、一定
期間使用したあとで作業の振り返りを行ったことで、
丈夫に縫うことや針目をそろえる事の重要性を実感
を伴って理解することができた。これから取り組ん
でみたいことを、具体的に述べた感想が多く、実践
力の高まりを感じられた。 ②視点2について ○小中連携の視点で、シートを活用したことにより、
小学校では、指導内容が明確になり授業の中で意識
して指導することができた。また、中学校での指導
事項も知ることができ先の見通しをもつことができ
た。中学校においては、慣れ親しんだシートを継続
して使用することで、振り返りが容易にできた。指
導者、児童生徒共に基礎的・基本的知識及び技能を
確実に把握して小中5年間を見通した学習ができた。 (2)課題 ①視点1について ○実生活で生かしていこうとする実践意欲の高まり
は感じられたが、実生活でどれだけ生かされたのか
についての見取りや評価の難しさを感じた。 ○掃除ロボットの題材は、評価・活用の場面で掃除
機との比較では、環境的側面の視点からの意見が出
にくい傾向がある。 ○生活の自立を目指し、家庭生活をよりよくしよう
とする能力や態度がさらに高められるよう、年間指
導計画において「生活の課題と実践」の効果的な配
置を工夫する必要がある。 ②視点2について ○衣生活の内容にとどまらず、今後は他の内容につ
いても小中5年間を見通した教材・教具を準備して
いきたい。また、それらを活用してもらうための手
立ても検討していきたい。 7 引用文献・参考文献
1)
2)
3)
保護者のコメント ・ブックカバーができて喜んでいました。布を選ぶ楽しさそれに合わせボタン選びと作る前から楽しそうでした。
・ブックカバーを作って、上手にできた事に自信がついたようで、作る楽しさを知ったようです。お金で買えば何でもそろう中、自分で作る大変さ、達成感を味わうことができてよかったと思います。
・前より手伝う量が増えて助かります。
整理』2015年
庭編』教育図書2008年
編』教育図書2008年
文部科学省『教育課程企画特別部会における論点
文部科学省『中学校学習指導要領解説 技術・家
文部科学省『小学校学習指導要領解説 家庭科
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