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胃腸薬の使い方 これであなたもプライマリーガストロエンテロロジスト!

消化器内科 柴峠光成

2017年度 高松赤十字病院

モーニングセミナー

2017. 4. 13

本日の予定

胃酸関連薬の進歩と現在

慢性胃炎を知ろう

便秘薬にも新たな流れ

下痢への対応を考える

胃腸薬の基本を抑えれば、8割の消化器患者さんを診

られる! かも…

H2受容体拮抗薬

(H2RA)

プロトンポンプ阻害剤

(PPI)

カリウムイオン競合型アシッドブロッカー

(P-CAB)

1981年

シメチジン(タガメット® )︎発売

*開発者のJames Whyte

Blackは、1988年ノーベル生理学・医学賞を受賞

手術例の減尐

難治例、再発例の存在

1991年

オメプラゾール(オメプラール® 、︎オメプラゾン® )︎発売

再発例の存在

2015年

ボノプラザン(タケキャブ® )︎発売

さらに強力な胃酸分泌抑制

H.pylori

除菌療法の導入

2000年保険適応承認

再発例の激減

胃癌抑制

急性胃炎

慢性胃炎の急性増悪

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

逆流性食道炎

重症逆流性食道炎

逆流性食道炎

維持療法

非びらん性胃食道逆流症

L

D

Aによる潰瘍再発抑制

N

S

A

I

D潰瘍再発抑制

H2RA半量 ○ ○

H2RA通常量 ○ ○ ○

PPI 半量 ◎ 4W ◎ ※

PPI 通常量 8W 6W 8W ○ 4W ○ ○

PPI 高用量(パリエット® の︎み) 8W 6W +8W

P-CAB半量 ◎ ◎ ◎

P-CAB通常量 8W 6W 4W +4W ○

パリエットは適応外

ネキシウムのみ通常量

H2RA

PPI

P-CAB

H2RAは短距離選手

効果の発現が早い→スタートダッシュが良い

連用により、効果が減弱することがある(特に

ピロリ菌未感染の場合)→持久力に不安

PPIよりも胃酸分泌抑制効果が弱い→一世代前のスター選手

高齢者に認知機能低下を起こす危険あり

処方例:比較的若い人の心窩部不快感や軽度の悪心

ガスター® (︎ファモチジン)1回10mgを1日2回(朝食後、夕食後)

または1回20mgを1日1回(就寝前)

PPIは長距離選手

効果発現がゆっくり(3日目くらいに最大効果)→

スロースターター

連用しても、効果の減弱はない→持久力あり

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎の第一選択薬→現役バリバリの中堅選手

安全性は高いが、たまに副作用(女性化乳房やcollagenous colitisなども)

処方例:強い心窩部痛や胸焼け ネキシウム® (︎エソメプラゾール)1回20mgを1日1回

内視鏡診断は必須!

P-CABは万能選手

効果の発現が早い

連用しても、効果の減弱はない

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎の高い治癒率、早い治癒が期待できる→新世代のスター選手

長期投与の影響は、未知数

処方例:非常に強い心窩部痛や胸焼け/内視鏡で大きな潰瘍

タケキャブ® (︎ボノプラザン)1回20mgを1日1回

P-CAB半量≒PPI通常量

胃酸関連薬の位置付け

H2RA

PPI

PPI/P-CAB半量

P-CAB

症状の強さ

治 療 期 間

急性胃炎

逆流性食道炎維持療法

逆流性食道炎

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

LDA/NSAIDs潰瘍抑制

慢性胃炎とは?

症状から診断する胃炎

内視鏡や透視検査で診断する胃炎 組織(顕微鏡)で

診断する胃炎

胃もたれで病院に行ったら「胃炎でしょう。」と言わ

れた。

胃カメラの時に生検をされた。後日、「良性です。胃炎です。」と言われた。

健診で胃カメラを受けたら「胃炎がありますね。」と言われた。

症状の胃炎

見た目の胃炎

萎縮性胃炎

胃の粘膜が薄くなる胃炎

加齢現象と思われていた

若い人にも見られることがある→「塩分の摂りすぎ」などと解釈されていた。

現在は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染によって胃に起きる変化と理解されている。

萎縮性胃炎は、胃癌の前癌状態

血液中のペプシノゲン値で萎縮性胃炎の程度を推定できる

見た目の胃炎

カップラーメンの食べすぎだぞ!

鉄欠乏性貧血

未分化型胃癌

慢性胃炎 (ヘリコバクターピロリ感染胃炎)

ピロリ菌感染

胃・十二指腸潰瘍

分化型胃癌

萎縮性胃炎

特発性血小板減尐性紫斑病(ITP)

胃過形成性ポリープ

機能性ディスペプシア(FD)

胃MALTリンパ腫

慢性蕁麻疹

2次発癌

ピロリ除菌適応

2000年

2010年 2013年

2010年

2010年

見た目の胃炎(組織学的胃炎)はピロリ除菌で治療

症状から診断する胃炎

内視鏡や透視検査で診断する胃炎 組織(顕微鏡)で

診断する胃炎

症状の胃炎

見た目の胃炎

症状の胃炎はどうする?

実は、多彩で決まった治療はない

「胃痛」「心窩部不快感」

ガスター® (︎ファモチジン)10〜20mg2錠/1日2回

症状に応じて、PPIやP-CABも検討

急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎として

補助的に「粘膜保護剤」

ムコスタ® (︎レバミピド)3錠/1日3回食後

セルベックス® (︎テプレノン)3カプセル/同上

急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍として

「胃もたれ」「腹部膨満感」

消化管運動促進薬

ガスモチン® (︎モサプリド)3錠/1日3回食前・食後

慢性胃炎として

ガスター® や︎PPIを試してみてもよい

急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎として

「食欲不振」「悪心」「嘔吐」

ナウゼリン® (︎ドンペリドン)3錠/1日3回食前

坐薬、ドライシロップあり

プリンペラン® (︎メトクロプラミド)2〜6錠/1日2〜3回食前

静注薬あり

ガスター® や︎PPIを試してみてもよい

急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎として

ザ・吐き気止め 錐体外路症状に注意

一般的な治療でスッキリしない時→

機能性ディスペプシア(FD)?

上部消化管内視鏡で器質的疾患否定後に

アコファイド® (︎アコチアミド)3錠/1日3回食前

抗不安薬/抗うつ薬等の追加を、専門家に相談

国際的診断基準で診断された機能性ディスペプシアに対する有効性を、プラセボとの比較試験で証明した世界初の機能性ディスペプシア治療薬

便秘の基本薬

マグミット® (︎酸化マグネシウム)1〜2g/1日3回食後または1日1回就寝前

プルゼニド® (︎センノシド)1〜2錠/就寝前

ラキソベロン® (︎ピコスルファート)10〜15滴/1日1回

新レシカルボン坐薬® ︎ 1〜2個

グリセリン浣腸 通常(30~)60mL

塩類下剤

刺激性下剤

高マグネシウム血症に注意

習慣性が生じやすい!長期連用を避けよう(特にセンノシド)

思い返せば

研修医の基本薬…

適宜調整

服薬指導が大事

新しい便秘薬が出た!

アミティーザ® (︎ルピプロストン)2錠/1日2回朝夕食

約30年ぶりの新薬 クロライドチャネルアクチベーター

リンゼス® (︎リナクロチド)2錠/1日1回

グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト

適応症は「便秘型過敏性腸症候群」

吐き気が出やすい印象 まずは1日1回夕食後からでも

妊婦さんには禁忌

粘膜上皮機能変容薬

不快な腹痛、腹部膨満感を伴う便秘の患者さんに

間も無く「慢性便秘症診療ガイドライン」(日本大腸肛門学会)が発表される予定

Red Flagに注意! 器質性疾患を疑うリスク徴候

1. 45歳未満で家族歴がある

2. 45歳以上で発症

3. 病悩期間が短く、症状が進行性

4. 異常な身体所見

5. 6か月以内の予期しない体重減尐(3kg以上)

6. 夜間の腹痛・下痢、持続性の強い腹痛

7. 発熱、嘔吐、粘血便、便潜血検査陽性

8. 尿、末梢血、血液生化学検査の異常

腹部X線、腹部エコー、腹部CT、大腸内視鏡等

での精査へ

One point advise

消化器画像検査計画のコツ① • 単純X線検査:胃拡張の有無、ニボーの有無。

• 超音波検査:肝胆膵のチェックのみならず、腹水の有無、消化管の拡張・壁肥厚、虫垂炎、憩室炎の診断にも有用。予定検査では絶食が望ましい(特に胆のうの描出のために)。最近は超音波検査用の造影剤も発達。

• CT検査:単純CTでも腹腔内全体の炎症や腫瘤の有無の拾い上げ、Free airの有無のチェックに有用。造影CTでは虚血部分の有無や出血部位の同定、腫瘍の質的診断に有用。造影検査は絶食が必要。

• MR検査:単純MRの応用であるMRCPで胆道、膵管のチェックができる。プリモビスト造影MRは肝腫瘍の精査に有用。絶食が必要。

• 消化器内視鏡検査:消化管内を直接観察し、生検もできる。止血術、ポリープ切除術などの治療もできる。絶食が必要。

• 消化管X線透視検査:消化管病変の位置、大きさ、狭窄や拡張の状況が分かりやすい。絶食が必要。

※緊急検査としては、超音波検査、CT検査が非常に有用

消化器画像検査計画のコツ②

同日に複数の検査を予定する場合、内視鏡検査、透視検査は、消化管内に送気・送水したり、造影剤を注入したりするので、後回しにする。

透視検査(バリウム)を行ったあと数日は、CT検査を行うとハレーションが起きて診断できないので、透視検査は日程の最後に予定する。

下痢への一般的な対応 まず原因検索 急性下痢の90%以上は感染症

重症度の把握と重篤な感染症(O-157等)の鑑別が重要

慢性下痢(3週間以上続く下痢)のほとんどは非感染性

分泌性(ホルモン産生腫瘍等)、浸透圧性(下剤、吸収不

良症候群等)、脂肪性(慢性膵炎等)、炎症性(潰瘍性大

腸炎等)、運動機能障害性(過敏性腸症候群等)

血液検査、糞便検査(抗菌薬投与前の培養検査)

超音波検査、CT検査が腸管の病変範囲や炎症範囲の把握に役立つ

高度な下痢や嘔吐に伴う循環血漿量の減尐や電解質異常がある場合には十分な輸液が必要

代表的な整腸薬 腸内菌叢の異常による諸症状の改善

ビフィズス菌 lactobacillus bifidus ラックビー®3~6g/1日3回 ※

酪酸菌 clostridium butyricum

ミヤBM®1.5~3.0g/1日3回

ラクトミン lactomin ビオフェルミン®3~9g/1日3回

ラクトミン・酪酸菌・糖化菌配合

ビオスリー® 1︎.5~3.0g/1日3回

耐性乳酸菌[抗菌性物質※投与時にもよく繁殖]

エンテロノンR®3g/1日3回 ※ ※ペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラ

サイクリン系、ナリジクス酸

※牛乳に対しアレルギーがある場合に禁忌

代表的な止痢薬 タンニン酸アルブミン

タンナルビン®3~4g/1日3〜4回

天然ケイ酸アルミニウム

アドソルビン®3~4g/1日3〜4回

ゲンノショウコ/ベルベリン塩化物水和物

フェロベリン錠®1回2錠/1日3回

ロペラミド塩酸塩

ロペミンカプセル®1~2カプセル/1日1〜2回

いずれも出血性大腸炎(O-157等)では禁忌。

細菌性下痢患者には原則禁忌。

抗菌薬 必ずしも必要ではないが、発熱、頻回の下痢、強い腹痛、下血などを伴う中等症~重症例については投与を考慮

赤痢菌、サルモネラ感染等で

レボフロキサシン水和物(クラビット錠500㎎®)1回500mg/1日1回 3~5日間

カンピロバクター感染等で

クラリスロマイシン(クラリス錠200®)1回200mg/1日2回 5日間

ホスホマイシン(ホスミシン錠500®)1日2~3g/1日3−4回 3~5日間

腸管出血性大腸菌(O-157等)

※抗菌薬投与の是非については慎重論が大勢。抗菌薬を用いるとHUSの発症率が高くなるとの報告あり。

※使用するなら発症2日以内にホスホマイシンを投与?

クロストリジウム・ディフィシル(抗菌薬関連性腸炎)

※抗菌薬中止で改善しない場合に投与

メトロニダゾール(フラジール内服錠250㎎®)1回2錠/1日3回または1回1錠/1日4回 10~14日間

バンコマイシン塩酸塩(塩酸バンコマイシン散0.5g®)1回0.125g/1日4回 10日間

!注射用の抗菌薬で「感染性腸炎」に保険適応がある抗菌薬は無いことに注

意!

下痢型過敏性腸症候群への対応

消化管に対する治療、抗うつ薬、抗不安薬、心理療法を段階に応じて適用する

代表的な薬

ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®)

トリメブチンマレイン酸塩(セレキノン®)

ラモセトロン塩酸塩(イリボー®)

+ロペミン®頓用、ブスコパン®頓用、乳酸菌製剤

まとめ

消化性潰瘍薬は劇的に進化しており、症状、病態に応じて、上手に使い分けよう。

便秘薬の使い方の今後の動向(新薬、ガイドライン)に注目しよう。

Red Flagに注意し、必要に応じて、検査を申し込もう。

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