色のユニバーサルデザインの普及と課題1...

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2014 年度(平成 26 年度)

東洋大学 社会学部

社会文化システム学科 卒業論文

色のユニバーサルデザインの普及と課題 ― 一見して不便さを持つかどうかわからない人への配慮に関して―

2014 年 12 月 19 日提出

社会学部 第一部 社会文化システム学科 1520110027

藤井 千尋

1

要 旨

近年、超高齢社会を迎えた日本では、高齢者・障害者に配慮する「ユニバーサルデザイ

ン」に注目が集まっている。本論文ではその中でも、「色覚異常」を持つ人に対する配慮「カ

ラーユニバーサルデザイン(色のユニバーサルデザイン)」をとりあげる。

本論文の目的は、現在の日本においてカラーユニバーサルデザインがどれほど普及して

いるのか、また現段階での課題はいかなるものであるのか明らかにしていくことである。

そして、一見して不便さを持つかどうかわからない人に対する配慮について、日本での現

状を実地調査に基づいて考察し、その上で日本の課題、つまり今後どうしていくべきなの

か考えることを目的とする。 本論文の調査は、カラーユニバーサルデザインの導入に取り組む組織の 1 つ「自治体(市

区町村)」を主な調査対象とした。第一に東京都、神奈川県、千葉県にある市区町村で、カ

ラーユニバーサルデザインの取り組みが行われているのか、また具体的にどのような動向

がみられるのか明らかにした。第二に東京都、神奈川県、千葉県にある市区町村を対象と

した調査を発展させたものとして、カラーユニバーサルデザインに先進的な東京都足立区

と筆者が居住している千葉県市川市に焦点を当て、2 つの自治体でカラーユニバーサルデザ

インに関する共通点・異なる点が存在するのかどうか比較した。 本論文の構成は、Ⅰ章で日本におけるカラーユニバーサルデザインの定義や歴史、カラ

ーユニバーサルデザインの主な対象者、カラーユニバーサルデザインの色使いの指針につ

いて述べる。Ⅱ章では、カラーユニバーサルデザインの普及に尽力している NPO 団体とカ

ラーユニバーサルデザインを製品に取り入れている民間企業の取り組みについて明らかに

する。Ⅲ章では、東京都、神奈川県、千葉県にある自治体において、カラーユニバーサル

デザインがどれほど普及しているのか、この点について焦点を当てる。Ⅳ章では、Ⅲ章の

調査をさらに掘り下げ、カラーユニバーサルデザインの先進的な自治体と筆者の身近な自

治体を比較し、2 つの自治体の施設などにどのような共通点・異なる点があるのか明らかに

する。Ⅴ章では、先行研究や筆者の実地調査をもとに、日本においてカラーユニバーサル

デザインがどれほど普及しているのか、またそこから見えた課題について考察していく。 結論として、東京都、神奈川県、千葉県ではカラーユニバーサルデザインの取り組みの

差が顕著に現れた。また、カラーユニバーサルデザインに関して先進的な足立区と、そう

ではない市川市では、カラーユニバーサルデザインの取り組みに大きな差が生じていた。

現在の日本では、まだカラーユニバーサルデザインは普及していないと筆者は分析する。

今後カラーユニバーサルデザインの普及をさらに進めていくには、その重要性について他

人に任せることなくわたしたち総員がこれまで以上に認識し実現に向けて努力していくこ

とが必要となってくるであろう。

2

目 次

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅰ カラーユニバーサルデザインとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1 日本での歴史

2 カラーユニバーサルデザインの主な対象者

3 カラーユニバーサルデザインの色使い

(1) カラーユニバーサルデザインに配慮したサインの作成

(2) カラーユニバーサルデザインに配慮した事例

Ⅱ 日本におけるカラーユニバーサルデザインの普及活動・・・・・・・・・・・・ 8

1 NPO法人の取り組み

2 民間企業の取り組み

Ⅲ 自治体とカラーユニバーサルデザイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

1 1都2県の市区町村とカラーユニバーサルデザイン

2 調査方法

3 調査報告

Ⅳ カラーユニバーサルデザインに基づく東京都足立区と千葉県市川市の比較・・・21

1 カラーユニバーサルデザインの先進的な自治体と筆者の身近な自治体

2 足立区とカラーユニバーサルデザイン

3 市川市とカラーユニバーサルデザイン

4 足立区と市川市の印刷物・施設の比較

Ⅴ 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

1 足立区と市川市の比較

2 カラーユニバーサルデザインの普及と課題

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

3

はじめに 近年、超高齢社会 1の到来に伴い、私たちの身の回りではできる限りすべての人にとって

利用しやすい「ユニバーサルデザイン 2」が施された製品が多数見られるようになってきた。

例えば、あらかじめ階段など段差があると先に進むことのできない人に配慮しスロープを

設置する、エレベーターの開閉ボタンの位置を車いすを使う人に配慮し通常より低く設置

するといった事例があげられる。このほかにもユニバーサルデザインが施されている製

品・施設は増加しており、ユニバーサルデザインという言葉自体に関しても、一般的認知

度は徐々に高くなってきている。 例にあげたようなユニバーサルデザインの恩恵を受ける人は、高齢者や障害者など日常

生活において何かしらの不便さを感じる人が主な対象となってくる。杖をついた高齢者や

車いす利用者のように、周りの人が一見しただけで不便さを持つように見える人に対する

配慮は、未だ多数の課題点は存在するものの様々な製品・施設において進みつつあるよう

に感じる。しかしながら、周りの人が一見しただけで不便さを持つように見えない人に対

する配慮は、配慮が必要であることに周りの人が気づかないことも多く、当事者たちの不

便さが解消されないケースが多い。 そこで本論文では、一見して不便さを持つかどうかわからない事例の 1 つである「色覚

異常」を持つ人に対する配慮「カラーユニバーサルデザイン」をとりあげる。色覚異常を

持つ人は日本全国に推定 300 万人以上いるといわれているが、彼らは障害者として認定さ

れているわけではないし、彼らに対する配慮がないことが大きな社会問題として扱われて

きたわけでもない。また、福祉の分野においても扱いは小さい。このように未だ配慮が行

き届いていない人たちについても、この先考えていく必要があるのではないだろうか。 本論文の目的は、現在の日本においてカラーユニバーサルデザインがどれほど普及して

いるのか、また現段階での課題はいかなるものであるのか明らかにしていくことである。

そして、一見して不便さを持つかどうかわからない人に対する配慮について、日本での現

状を実地調査に基づいて考察し、その上で日本の課題、つまり今後どうしていくべきなの

か考えることを目的とする。 本論文の構成は、Ⅰ章で日本におけるカラーユニバーサルデザインの定義や歴史、カラ

ーユニバーサルデザインの主な対象者、カラーユニバーサルデザインの色使いの指針につ

いて述べる。Ⅱ章では、カラーユニバーサルデザインの普及に尽力している NPO 団体とカ

ラーユニバーサルデザインを製品に取り入れている民間企業の取り組みについて明らかに

1 全人口に対する 65 歳以上の人口率において、高齢化率 7%以上 14%未満が「高齢化社会」、

14%以上 21%未満が「高齢社会」、21%以上が「超高齢社会」と定義されている。2013 年

9 月現在で、日本の高齢化率は 25.0%である。 2 ユニバーサルデザインは「製品や建物、環境を障害・年齢・性別・国籍など、人がもつそ

れぞれの違いを超えて、あらゆる人が利用できるようにはじめから考えたデザイン」と定

義されている。

4

する。Ⅲ章では、東京都、神奈川県、千葉県にある自治体において、カラーユニバーサル

デザインがどれほど普及しているのか、この点について焦点を当てる。Ⅳ章では、Ⅲ章の

調査をさらに掘り下げ、カラーユニバーサルデザインの先進的な自治体と筆者の身近な自

治体を比較し、2 つの自治体の施設などにどのような共通点・異なる点があるのか明らかに

する。Ⅴ章では、先行研究や筆者の実地調査をもとに、日本においてカラーユニバーサル

デザインがどれほど普及しているのか、またそこから見えた課題について考察していく。

Ⅰ カラーユニバーサルデザインとは

本章では、第一に日本でのカラーユニバーサルデザインの歴史について、第二にカラー

ユニバーサルデザインの恩恵を受ける主な対象者について、第三にカラーユニバーサルデ

ザインの色使いの指針について述べる。 1 日本での歴史 [齋藤・渡辺(2013)]によると、色は周囲との差異を際だたせて情報の差異や状態を伝

える機能を持ち、その情報が伝わるスピードは文字情報より速い。そのため、現代社会に

おいて色は重要かつ頻繁に用いられるコミュニケーション手段の 1 つになっている。また、

電子情報機器やインターネット、カラー印刷技術が発達し、電子ドキュメントや WEB サイ

トをはじめとした様々な媒体の使用で、誰でも容易に色を用いた情報発信ができるように

なった。しかし、従来よりも色による情報伝達の機会やカラフルなデザインの使用が増え

たため、かえって情報が読み取れずに不便を感じる人がいる[同上:363 頁]。 そこでこのような人に対する配慮として提唱されたのが、カラーユニバーサルデザイン

である。[齋藤・渡辺(2013)]によると、カラーユニバーサルデザインとは、「多様な色覚

特性を考慮し、なるべく多くの人に情報が伝わるようにする」という考え方のことである [同上:363 頁]。製品の色使いそのものを否定するのではなく、判別が難しいとされる特

定の色の組み合わせを避け、誰にとってもわかりやすい情報発信をする考え方のことだ。

近年、日本でも普及が進むユニバーサルデザインの中で、色に関するユニバーサルデザイ

ンにあたるものが、カラーユニバーサルデザインである。日本国内では、2000 年代前半に

NPO 法人「カラーユニバーサルデザイン機構 3(CUDO)」が提唱したことが始まりであり、

現在では様々な分野において普及しつつある。 しかし、カラーユニバーサルデザインという考え方はまだ歴史が浅い上、一般的認知度

は著しく低い。ユニバーサルデザインという言葉自体やその内容は聞いたことがあったと

3 カラーユニバーサルデザイン機構については、Ⅱ章 1 節で述べる。

5

しても、カラーユニバーサルデザインについて知っている人はあまりいないのが現状であ

る。[カラーユニバーサルデザイン機構(2009)]によると、色を認識するというヒトの感

覚の問題は、他の身体的に配慮すべき問題と比較して理解が難しくなる。しかも「文字を

大きく」「読みやすい文字で」といった配慮に比べ、カラーユニバーサルデザインは配慮の

方法が様々なものとなる。どれをどのように採用するかで、採用されたものの美しさが左

右される[同上:3 頁]。カラーユニバーサルデザインを施すことで、かえって製品の色合

いを損なうといったケースも生じてしまう。誰にとってもわかりやすい色使いをどの範囲

まで採用するのか、製品全体の色合いのバランスをとりながらカラーユニバーサルデザイ

ンを導入することが必要になる。 「カラーユニバーサルデザイン」の同義語には、「色覚バリアフリー」「カラーバリアフ

リー」などの言葉があるが、本論文では、これらの中で最も広く用いられている「カラー

ユニバーサルデザイン」という名称を使用し論じていく。 2 カラーユニバーサルデザインの主な対象者 カラーユニバーサルデザインはⅠ章 1 節で述べた通り、ある特定の配色を用いることで、

正確に情報を読み取ることがしやすくなるように配慮したデザインのことを指す。カラー

ユニバーサルデザインを製品・施設などに用いることで、多くの人が色の使われた情報を

読み取りやすくなる。一般の色覚を持つ人にとっても、また色の判別が難しくなる白内障

など眼の疾患を持つ人にとっても情報が読み取りやすくなるのがカラーユニバーサルデザ

インである。このように多くの人にとって恩恵のあるカラーユニバーサルデザインだが、

その中でも「色覚異常」を持つ人が最も恩恵を受ける対象者であろう。 [正岡・井上(2012)]によれば、「色覚異常」の同義語として広く一般に認知されてい

る言葉に「色弱」「色盲」があり、これらの言葉は長年にわたり使用されてきたが、誤解を

招きやすいという理由により名称の改訂が求められた。そのため日本眼科学会は 2005 年度

に眼科用語集と改訂し、「色盲」「色弱」「赤緑色盲」「赤緑色弱」などの言葉を使用しなく

なった。それら全ての総称として、現在、学術用語で使用されている「色覚異常」をいう

言葉が残っている。ただ「色覚異常」という言葉自体も「異常」という言葉に抵抗を感じ

る人も多く、さらに別の言葉を使用するのが好ましいとされている[同上:64 頁]。どの言

葉を使うべきかその見解は、それぞれの個人・団体で異なっているのが現状である。こう

した現状を踏まえた上で、本論文では、現在日本眼科学会が使用している「色覚異常」と

いう言葉を使用し、カラーユニバーサルデザインの恩恵を受ける人について論じていく。 [正岡・井上(2012)]は、色覚異常とは「色覚が正常な人と比べ、色の見え方が異なる

色覚を持つ人」だと定義している。視力に関しては色覚が正常な人と変わりはない。色は

太陽などの光が物にあたって反射・透過して眼に入る。眼の中に入った光は角膜と呼ばれ

る組織の中を通過し、瞳孔を通り抜けて水晶体を通過する。そして、網膜に到達したのち、

6

網膜の一番奥にある視神経を経て脳に送られる。視細胞には錐体という色を感じる細胞が

あるが、この眼の中の色を感じるしくみが異なることが色覚異常にあたる。多くの色覚異

常は先天性であり、先天性色覚異常は日本人男性の約 5%(およそ 20 人に 1 人)、日本人女

性の約 0.5%(およそ 500 人に 1 人)の割合で存在し、日本全体では約 300 万人以上いる

と推定される[同上:61-63 頁]。 色覚異常は、個人によって程度(強度・弱度)は異なる。色覚異常を持つ人が日常生活

で不便をこうむる場面としては、「色のコードの見分けがつかず接続に苦労する」「電源ラ

ンプの色がわからず、電源が入っているのか(緑色)入っていないのか(赤色)区別でき

ない」といったことが一例としてあげられる。日常生活を送る上で、経験を通して色の区

別をしなくてはならないが、それでも色の区別ができないことも多い。色覚異常を持たな

い人が全く意識することなくできていることが、色覚異常を持つ人はできないことがある。 色覚異常を持つ人が抱えるこうした不便な点は、色覚異常を持たない人はほとんど気づ

くことができない。そして、それ以前に色覚異常を持たない人は色覚異常を持つ人がどの

ような色覚を持っているのか正しく答えられない。[カラーユニバーサルデザイン機構

(2009)]によると、色の見え方が違っている人たちのことに関して聞いたとき、次のよう

な答えがかえってきたという。それは「色覚異常の人は白黒の世界に生きている」「色覚異

常の人の見え方は想像もできない」「色覚異常の人のためのデザインは色を無くすことだ」

「対策には多大なコストがかかる」「眼科で治療できる」といった返答だった。こうした考

え方はみな間違ったものである。このような誤解が長年日本を取り巻いてしまったが故に、

「色覚バリア社会」が生まれてしまった[同上:2 頁]。 色覚異常を持たない人が、日本に 300 万人以上存在すると推定されている色覚異常を持

つ人についての正しい知識を持たない、あるいは持とうとしないことが、カラーユニバー

サルデザインの広がりを阻んでいる要因となっているのではないかと筆者は考える。 3 カラーユニバーサルデザインの色使い 特定の色の使用や配色の組み合わせを避けることにより、色が含まれている情報という

のは一段と認知されやすいものとなる。そこで本節では、カラーユニバーサルデザインが

どのような色使いのことを指し、わかりやすい色使いとはどのようなものであるのか、こ

れらの点について具体的に述べていく。 以下は、2009 年 3 月に神奈川県保健福祉部が制定した「カラーバリアフリーサインマニ

ュアル」から一部情報を抜粋しまとめたものである。なお、神奈川県が作成したこのマニ

ュアルでは「カラーバリアフリー」という名称が使われているが、本論文ではⅠ章 1 節で

定義した通り「カラーユニバーサルデザイン」の名称を用いて、カラーユニバーサルデザ

インの色使いに関して論じていく。

7

(1)カラーユニバーサルデザインに配慮したサインの作成 1-1 サイン作成時に注意する点 案内板をはじめとした情報を伝える媒体を作成する場合には、①できる限り多くの人が

見分けやすい色の組み合わせを選ぶ、②文字を併記したり、斜体文字・下線などを併用し

たりして色に頼らないデザインを心がける、③色と色の境界に縁取りをとる、④サインの

色名を文字で併記する、こうした点を守る必要がある[同上:2 頁]。特定の色の組み合わ

せを変えることも必要ではあるが、色のみを変えるのではなく、線や文字を利用しわかり

やすい情報を伝えることもカラーユニバーサルデザインの考え方に含まれる。

1-2 色の組み合わせ 色覚のタイプによって見分けにくい色の組み合わせが存在するため、背景と文字の色を

はじめとし、複数の色を用いる場合には色の組み合わせに注意が必要になる。背景と文字

が見分けにくい色の組み合わせ・見分けやすい色の組み合わせは次のとおりである。 ① 背景と文字が見分けにくい色の組み合わせ

・白色背景と黄色文字、黄色背景と白色文字 ・赤色背景と黒色文字、黒色背景と赤色文字 ・赤色背景と緑色文字、緑色背景と赤色文字 ・赤色背景と紫色文字、紫色背景と赤色文字 ・緑色背景と茶色文字、茶色背景と緑色文字 ・濃い青色背景と黒色文字、黒色背景と濃い青色文字 図 1:背景と文字が見分けにくい色の組み合わせ(色見本) 出典:神奈川県「カラーバリアフリーサインマニュアル」

8

② 背景と文字が見分けやすい色の組み合わせ ・マンセル値 410YR7.5/6(薄橙のような色)の背景と黒色文字

・マンセル値 5Y9/2(くすんだ薄黄のような色)の背景と黒色文字 ・マンセル値 2.5GY8/8(くすんだ黄緑のような色)の背景を黒色文字 ・マンセル値 10B8/4(くすんだ青灰のような色)の背景と黒色文字

図 2:背景と文字が見分けやすい色の組み合わせ(色見本 5) 出典:神奈川県「カラーバリアフリーサインマニュアル」 背景と前景(文字など)の組み合わせは、明るさの差があるものを選ぶと文字が読みや

すいものになる。色相(色の種類)以外にも、明度(色の明るさ)や彩度(色の鮮やかさ)

を変えることで区別しやすくする方法もある。同じ色相(例えば茶色)であっても明度を

変える(薄茶色、濃い茶色など)ことも情報をわかりやすく伝えるには効果的である[同

上:2 頁]。

1-3 サイン案のチェック方法 作成したサインに正しくカラーユニバーサルデザインが施されているか確認するために

は、必要に応じて、①目視をする、②シミュレーションツールを使う、③白黒のコピーを

する、④色覚異常を持つ人に直接確認してもらうといったことを行う。地図中に文字や記

号を書きこんでいて、背景の色との区別がつきにくいことが想定されるなら、背景と文字

に明度差があるか、色と色の境目に縁取りがあるかを目視する。目視だけではカラーユニ

バーサルデザインが正しく施されているかわからないときには、東洋インキ製造株式会社

4 マンセル値とは、色を 3 つの要素(色相・明度・彩度)で数値化するもので、「色相 明度 / 彩度」の順番で表す。 5 印刷上、色見本で示した色とマンセル値が示す色は正確には異なる。

9

の「UDing シミュレーター6」や富士通株式会社の「カラードクター7」を使い確認作業を

行う。また、色差に頼った情報伝達になっていないか確かめるためには白黒のコピーをす

る。作成したサインが結果として見やすいものになっているか色覚異常を持つ人に確認し

てもらう[同上:3-5 頁]。このような様々な視点からみたチェック作業が、カラーユニバ

ーサルデザインを正しく導入する際には必要となる。これらのチェック作業を怠ると、カ

ラーユニバーサルデザインを取り入れたつもりだったが実は機能していなかったという事

態を招く。

(2)カラーユニバーサルデザインに配慮した事例 2-1 標識 図 3 は、医療機関の診察室や撮影室への誘導するための標識である。こうした標識の推

奨例は、色名を標識に明記することである[同上:8 頁]。この例では標識の左下に色名が

書かれている。これは「だいだい色のところへ行ってください」という言葉だけではどこ

に行けばよいかわからない人に対し配慮されたものである。色名が使われると想定される

コミュニケーションがある場合は、このような配慮は有効である。

図 3:標識として推奨される例

出典:神奈川県「カラーバリアフリーサインマニュアル」

6 UDing シミュレーターを使うと、コンピュータ上で作成したデザインが色覚タイプ別に

どう見えるのか確認できる。見分けにくい配色を自動検出する機能などがある。 7 カラードクターを使うと、コンピュータ上の表示内容をグレースケールや色覚タイプ別に

応じて表示させることができる。

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Ⅱ 日本におけるカラーユニバーサルデザインの普及活動 本章では、第一に日本でカラーユニバーサルデザインの普及に尽力してきた NPO 法人に

ついて、第二にカラーユニバーサルデザインを自社製品・施設に導入している日本の民間

企業について述べる。 1 NPO 法人の取り組み 日本でカラーユニバーサルデザインについてはじめて提唱したのは、NPO 法人「カラー

ユニバーサルデザイン機構(CUDO8)」である。民間企業や自治体がカラーユニバーサル

デザインを導入する際には、ほぼすべての事例においてこの団体が関わっている。 以下は、カラーユニバーサルデザイン機構公式ウェブサイトから抜粋した情報をまとめ

たものである。カラーユニバーサルデザイン機構の活動方針は「ヒトの色覚に多様性があ

ることがあまり知られてなかったことによって起こる社会の諸問題を解決するために活動

する」であり、設立目的は「一般市民や団体を対象として色使いに関する評価・改善提案

を行う。この活動を通じ実社会の色彩環境を人の多様な色覚に配慮したものに改善してゆ

くことによって、全ての人がより公平で文化的な生活ができる社会の実現に寄与していき

たい」とのことである。 Ⅰ章 2 節で述べたとおり、色覚を表す言葉には「色弱」「色盲」「色覚異常」など様々な

ものがある。カラーユニバーサルデザイン機構では、色の配慮の不十分な社会における弱

者として「色弱者」と呼ぶことを提唱している。また、ヒトの持つ色覚の 1 つを「正常」

とし、そのほかの色覚を「異常」とすることを避けるべきだと明記しており、これまでの

ように多様な色覚を「正常」と「異常」に線引きするのではなく C 型・P 型・D 型・T 型・

A 型 9の 5 種類で対等に扱うことも、「色弱者」の名称とともに提唱している。 このように、カラーユニバーサルデザイン機構公式ウェブサイトでは原則として「色弱

者」の名称が使用されていたが、本論文ではⅠ章 2 節で定義した通り「色覚異常」という

言葉を用いて、色の見え方が異なる人について論じていく。

8 CUDO とは、“Color Universal Design Organization”の略である。 9 色覚のタイプのうち、C 型は一般的な色覚特性、P 型は赤色の光を感じにくい色覚特性、

D 型は緑色の光を感じにくい色覚特性、T 型は青色の光を感じにくい色覚特性、A 型は色を

明暗でしか判別できない(モノトーンに見える)色覚特性である。

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表 1:色の見え方(色覚)のタイプと呼称

出典:カラーユニバーサルデザイン機構公式ウェブサイトより、筆者作成 (1)事業内容

カラーユニバーサルデザイン機構は、人に優しい社会づくりをする上でカラーユニバー

サルデザインを推進・普及・発展させるため、次の 6 つの事業をおこなっている。これら

の事業を行うことで、色覚異常を持つ人や老化により目の疾患や視力低下を抱える高齢者

にもやさしい社会を作ることを目指している。 ① モニター検証事業・CUD マークの許諾事業

眼科で精密検査を受け正確な色覚型の認定がされた多くの色覚異常を持つ人がモニター

協力者として多数登録しており、印刷物・機器類・施設・建築物・教材などに使用されて

いる色使いが誰にとっても分かりやすいかどうかを検証している。 検証は一般視覚 C 型と色覚異常 P 型・D 型の 3 タイプで検証が行われている。カラーユ

ニバーサルデザインを誰にとってもわかりやすいものにするためには、実際に色覚異常を

持つ人の眼を用いて検証し、デザイナーや設計者と対話しつつ案を練る作業が不可欠とな

る。同じ色覚異常を持つ人であっても P 型と D 型では色の見え方が大きく異なるため、例

えば P 型の人が不便を感じない色使いでも D 型の人にとっては非常に見えづらいというこ

とが起こりうる。そのため、検証する際には 1 人の色覚異常を持つ人のみで検証を行うの

ではなく、各タイプの色覚で検証することが大切である。 カラーユニバーサルデザイン機構の基準に合致した場合には、カラーユニバーサルデザ

インに配慮されたデザインがなされていると認められた証として「カラーユニバーサルデ

ザインマーク(CUD マーク)」の使用を許諾する。このマーク表示は、多くの人に情報が

伝わりやすく使いやすい配色がなされた証であるとともに、人にやさしい社会づくりに貢

献している姿勢を示すことにもなる。それにより、カラーユニバーサルデザインに対応さ

れていない製品に対して差別化を図ることができる。 ② 認証マーク(CUD マーク)の発行事業

CUD マーク表示の依頼があった場合、検証をおこなった上でカラーユニバーサルデザイ

ンに配慮されていると認められた証として、CUD マークを発行する。CUD マークの認証

品については、「CUD 取得実例一例」としてカラーユニバーサルデザイン機構の公式ウェ

C型 一般色覚者 3色型P型(強・弱) 第1 色盲・色弱D型(強・弱) 第2 色覚異常T型 第3 色覚障害 黄青色盲A型 1色型

色弱者

色覚正常CUDOの新呼称 従来の呼称

全色盲

赤緑色盲 2色型異常3色型

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ブサイトより閲覧することができる。CUD マークを表示しない検証合格品も多数存在する

が、CUD マーク発行数は毎年増加している。 CUD マークは、三角形の角を取った柔らかさを感じるおむすび型の黒の背景に、赤(左

下の丸い部分)、青(右下の丸い部分)、黄(上の丸い部分)の 3 原色の球が重なりあう(赤・

青・黄が重なると白になる)ことで、様々な展開を感じさせるイメージを表現している。

なお、マークに使われている赤・青・黄の 3 色は色覚異常を持つ人でも見分けやすいよう

に配慮された色使いが使用されており、このマーク自体がカラーユニバーサルデザインの

見本になっている。 図 4:CUD マーク(カラーユニバーサルデザインマーク)

出典:カラーユニバーサルデザイン機構公式ウェブサイト

③ 相談・助言事業

カラーユニバーサルデザインを実現するために既存の製品や施設の配色・デザインをど

のように改善すればよいか、新製品や新たに建設する施設をどのようにデザイン・設計す

ればよいか、こうした課題について相談を承っている。Ⅰ章 3 節で扱った神奈川県の「カ

ラーバリアフリーサインマニュアル」でも、カラーユニバーサルデザイン機構が監修とし

て作成に携わっていた。 また、色覚異常の当事者や家族からの相談も承り、カラーユニバーサルデザイン機構の

常勤スタッフ(数名の色覚異常を持つ人物)が経験をもとに答えられる範囲で話をしてい

るとのことである。 ④ 資料提供事業

人の色覚に関する科学的知識やそれに基づいた現在のカラーデザインの問題点、カラー

ユニバーサルデザイン化へのノウハウなど、カラーユニバーサルデザインに関する様々な

資料を提供している。

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⑤ 普及・啓発事業 企業や地方自治体・団体、教育関係者、学生を対象として、目的・要望に合わせた講演

会やセミナー、ワークショップを開催している。色覚異常を持つ人の色の感じ方や困って

いる事例(配色)について体験ツール用いてわかりやすく解説する。カラーユニバーサル

デザイン機構公式ウェブサイトには、2014 年 11 月 5 日現在で、2014 年 10 月から 2015年 1 月のイベント情報が掲載されていた。カラーユニバーサルデザイン機構主催のイベン

ト以外にもバリアフリーフェスタ、ビジネスフォーラム、福祉機器展への参加が明記され

ていた。 そのほか普及・啓発事業として、カラーユニバーサルデザインに必要な知識・手法・注

意点・改善例なども紹介している。 ⑥ 調査・研究事業

眼科や病院、大学、メーカーと協同して色覚に関する科学研究を促進し、科学的なカラ

ーユニバーサルデザインの設計手法の確立を目指す。また、カラーユニバーサルデザイン

の基礎となる色覚に関する科学研究に協力することで、最新の研究動向を反映した科学的

なカラーユニバーサルデザイン設計手法の確立に努めている。 色覚異常を持つ人の色の感じ方や特徴については解明が進んでいる。しかし、カラーユ

ニバーサルデザインを実践するにあたり、どのような色同士を組み合わせればできる限り

多くの人にとって見やすい配色になるのか、決定するのは経験に頼る部分が大きいのが現

状である。こうした状況を鑑みて、眼科や病院、大学、メーカーと協同し、より幅広い色

覚に対応する科学的ノウハウを確立するべく、研究作業をおこなっている。 (2)沿革

カラーユニバーサルデザイン機構の公式ウェブサイトによると、NPO 法人カラーユニバ

ーサルデザイン機構は、2004 年 10 月に「特定非営利活動法人 Color Universal Design Organization(略称 CUDO)」として設立された。2013 年に現在の名称である「特定非営

利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構」に改称された。設立者は自らも色覚異常を

持つ東京大学准教授の伊藤啓氏と東京慈恵会医科大学教授の岡部正隆氏である。両氏は、

カラーユニバーサルデザイン機構設立前も、科学者向けに色のバリアフリーに向けてのデ

ザインの配慮を啓発する活動をおこなっていた。この動きはやがて学会の外へと広がり、

色覚異常を持つ人や色彩学者、デザイナーなどが賛同し、カラーユニバーサルデザイン機

構は、企業・自治体などに対して、科学的で実用的な助言を行いはじめた。このような活

動を継続的に行う組織として充実を図るため、NPO 法人としての活動がはじまった。現在、

カラーユニバーサルデザイン機構の事務所は東京都千代田区外神田にあるが、設立当初は

東京都港区北青山にあった。 各界の賞も多く受賞している。2008 年には、日本デザイン振興会グッドデザイン賞を、

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2010 年には、内閣府バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰内閣総理大臣賞

を、2013 年にはキッズデザイン賞と公益財団法人国際ユニバーサルデザイン協議会銀賞を

それぞれ受賞している。 日本におけるカラーユニバーサルデザインの先駆けとなる団体に、多くの賞が授与され

ている。様々な分野からみて、カラーユニバーサルデザインが新たなデザインとして注目

され、将来を期待されていることがわかる。 2 民間企業の取り組み 本節では、カラーユニバーサルデザインを製品・施設に取り入れている日本の民間企業

について述べる。カラーユニバーサルデザインが施されていると一般の人がすぐにイメー

ジできる製品・施設はまだ少ないかもしれないが、わたしたちの身近なところでもカラー

ユニバーサルデザインを見かけることがある。こうしたカラーユニバーサルデザインが施

された製品・施設のごく一部をとりあげる。 (1)インフラ

交通機関の案内板やマスメディアの情報発信の場においても、長年にわたり色覚異常を 持つ人に対して配慮がなく、彼らが正確に情報を受け取れないことがあった。こうした状

況を減らす動きがある。 ① 横浜市営地下鉄

横浜市交通局によると、横浜市にある市営地下鉄では、交通案内図・運賃表・行き先案

内図・所要時間案内図・構内案内図・トイレ案内図の 6 種類のサインでカラーユニバーサ

ルデザインを採用している。NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構の協力のもと、路

線の色彩表現、線の表現、背景色のコントラストを工夫した。横浜市営地下鉄を運営する

横浜市交通局は、2008 年に内閣府が主催する「平成 20 年度バリアフリー・ユニバーサル

デザイン推進功労者表彰」にて「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞している。 図 5 は、交通案内図である。図 5 の中央にある市営地下鉄ブルーライン(太線)と他社 の路線の交差部分にふちどりをつけることで、それぞれの路線の混同を防いでいる。また、 路線と重なる駅名文字表記には白色のふちどりをつけ、交差している他社の路線との見分

けがつくようにし、さらに複数ある他社の路線と区別するため線の種類を変えるといった

工夫をしている。

15

図 5:横浜市営地下鉄「交通案内図」

出典:横浜市交通局公式ウェブサイト

② テレビの津波警報

テレビ放送での津波警報の表示にもカラーユニバーサルデザインが採用されている。

2011 年 8 月 18 日付の朝日新聞の記事によると、日本地図上に表す津波警報・注意報は、

各テレビ局によって色合いが異なっていた。しかし、色覚異常を持つ人にとって見分けの

つきにくい配色が使われていることもあり、色覚異常を持つ人に配慮し各テレビ局で統一

されることとなった。改善前の配色は、大津波警報・津波警報・津波注意報が赤色、黄色、

橙色、桃色、白色などバラバラの配色であり、色覚異常を持つ人から大津波警報と津波警

報が見分けられないと指摘もあった。こうした意見を踏まえ、改善後の配色は、大津波警

報は紫色、津波警報は赤色、津波注意報は黄色、背景の日本地図は灰色、海は濃い青色を

使用することとなった。2011 年 3 月に発生した東日本大震災には間に合わなかったが、同

年 5 月から 7 月にかけて各テレビ局で順次導入が進んでいる。 (2)工業製品

これまでわたしたちの身近なところに普及している製品にも、カラーユニバーサルデザ インが取り入れられているものがある。日常生活で気づかないだけで、実はカラーユニバ

ーサルデザインが施されている工業製品も存在する。以下、代表的な事例を 2 点あげる。

① テレビリモコン

主に家庭用電化製品を製造しているパナソニック株式会社では、2007 年から同社のテレ ビリモコンにカラーユニバーサルデザインが採用されている。パナソニックがテレビリモ

コンにカラーユニバーサルデザインを取り入れる際に NPO 法人カラーユニバーサルデザ

イン機構がかかわり、その後同法人から CUD マークが与えられた。 図 6 にあるように、青色・赤色・緑色・黄色の 4 色のボタンの上にそれぞれ色名を明記

16

した。赤色や緑色の見分けがつきにくい色覚異常を持つ人への配慮となっている。

図 6:パナソニック製のテレビリモコン

出典:自宅にて、筆者撮影 ② レーザーポインター

主に紙製品や文房具を製造しているコクヨ S&T 株式会社では、同社が製造するレーザー ポインターの一部製品にカラーユニバーサルデザインを導入している。従来のレーザーポ

インターはコストパフォーマンスの良い赤色光が使われてきたが、カラーユニバーサルデ

ザインを導入したレーザーポインターは視認性の高い緑色光を使っている。 (3)その他

カラーユニバーサルデザインが取り入れられている製品・施設以外でも、カラーユニバ ーサルデザインについて知る機会があった。実際に筆者が 2013 年 9 月 26 日に訪れた「カ

ラーハンティング展」での内容を次に述べる。 2013 年 6 月 21 日から同年 10 月 6 日まで、東京都港区赤坂の東京ミッドタウン内にある ギャラリーで行われていた「カラーハンティング展・色からはじめるデザイン」に筆者は 実際に足を運んだ。この展覧会の 1 コーナーで、カラーユニバーサルデザインが扱われて いた。

このコーナーでは、ヒトの色覚とはどういうものか、色覚異常を持つ人がどれだけいて どういう特性があるのかといった説明書きがあり、その近くに色のシミュレーター装置が

おいてあった。30 枚ぐらいの色画用紙が置いてあり、その紙をタブレット端末のカメラレ

ンズ部分に写すと一般色覚 C 型と色覚異常 P 型・D 型・T 型の 4 種類の色覚を体験できる

というものであった。図 7 はそのシミュレーターを筆者が実際に体験した写真である。明

るい緑色の色画用紙を持ち、左上にある一般色覚 C 型には明るい緑色の色画用紙が写って

いるが、右上の色覚異常 P 型ではくすんだ黄のような色に、左下の D 型ではベージュのよ

17

うな色に、右下の T 型では明るい水色のような色に写っている。 図 7:色覚のシミュレーター 出典:「カラーハンティング展」にて、筆者撮影

Ⅲ 自治体とカラーユニバーサルデザイン

本章では、第一に自治体がどれほどカラーユニバーサルデザインに取り組んでいるのか

を明らかにする上でまず、東京都、神奈川県、千葉県の 1 都 2 県の概要について述べる。

第二に自治体(市区町村)で、カラーユニバーサルデザインの取り組みがあるかどうか探

るための調査方法について記す。第三に調査結果について述べ、この調査を通して各都県

の自治体においてカラーユニバーサルデザインがどれほど普及しているのか探っていく。 1 1 都 2 県の市区町村とカラーユニバーサルデザイン Ⅱ章でも述べたとおり、カラーユニバーサルデザインに関係のある組織には NPO 法人や

民間企業があるが、もう 1 つ関係のある組織として「自治体」があげられる。本論文では

特に、この自治体に焦点を当て、現在の日本でどのくらいカラーユニバーサルデザインが

普及しているのか、またどれだけ課題があるのか論じていく。筆者がなぜ自治体に焦点を

当てるのかというと、自治体(都県ではなく市区町村)がおこなっている仕事の領域が不

18

特定多数の人に最も近しいものであると考えているからである。様々な人が行き交う場所

にどれだけカラーユニバーサルデザインが存在しているのだろうか。 ここでは、東京都、神奈川県、千葉県の 1 都 2 県にある市区町村が、カラーユニバーサ

ルデザインを採用しているのかどうか、またどのようなところでカラーユニバーサルデザ

インを使っているのかを調査する。居住人口が日本の都道府県の中で多い東京都と神奈川

県、そして筆者が居住している千葉県をとりあげ、それぞれの都県の自治体の動向につい

て明らかにする。 ここで、東京都、神奈川県、千葉県の概要について述べる。

東京都は日本の首都であり、人口 1300 万人を超える日本で最も居住者の多い都道府県 である。2014 年 11 月 19 日現在、東京都には、23 区・26 市・5 町・8 村計 62 自治体(島 しょ部を含む)がある。 東京都の次に日本で人口が多いのが神奈川県である。人口は 900 万人を超える都道府県

だ。2014 年 11 月 19 日現在、神奈川県には、横浜市(1 市+18 区)・川崎市(1 市+7 区)・

相模原市(1 市+3 区)に加え 16 市・13 町・1 村計 61 自治体がある。 そして、筆者が居住しているのが千葉県である。千葉県の人口は 620 万人ほどで、人口

の順位は全国第 6 位の都道府県である。2014 年 11 月 19 日現在、千葉県には、千葉市(1市+6 区)に加え 36 市・16 町・1 村計 60 自治体の自治体がある。 この 1 都 2 県は人口の集中している首都圏にあり、人口数も日本の中では上位に入る地

域ばかりだ。そして自治体数もほとんど変わらない。この 3 つの地域では、どのようなカ

ラーユニバーサルデザインの取り組みがみられるのだろうか。

2 調査方法 各自治体公式ウェブサイト上に設置されている検索バーに、①「カラーユニバーサルデ

ザイン」②「カラーバリアフリー」の語句を入れ検索するという調査方法をとった。Ⅰ章 3節でとりあげた神奈川県のガイドラインのように、「カラーバリアフリー」という言葉も使

われることがあるため、カラーバリアフリーも検索ワードに採用した。なお、例えばカラ

ーユニバーサルデザインと検索した際に、検索結果が「“カラー”印刷」「ユニバーサルデ

ザイン」のように、色のユニバーサルデザインと関連のないものについては検索結果の件

数から除外してある。 3 調査報告 表 2 は、東京都にある市区町村のうち、「カラーユニバーサルデザイン」または「カラー

バリアフリー」の語句をいれ、検索がヒットした自治体の一覧である。同様に、表 3 は神

奈川県の自治体の一覧、表 4 は千葉県の自治体の一覧を示す。

19

表 2:カラーユニバーサルデザインに関する動向のある東京都市区町村の一覧

(2014 年 11 月 19 日現在)

市区町村名 カラーユニバー

サルデザイン

カラーバリア

フリー 検索結果(一部抜粋)

千代田区 3 件 0 件

CUDに配慮した教科書の導入、広報紙をCUD

対応してほしい区民の意見、区の生活便利帳に

CUDを検討など

港区 0 件 24 件 「港区カラーバリアフリー・ガイドライン」の作成など

新宿区 1 件 0 件 2013 年 6 月定例会でCUD導入の可否に関して

言及(その後の動向不明)

墨田区 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

品川区 1 件 0 件 「しながわガイド」にCUDあり(CUDマークあり)

大田区 3 件 0 件 大田区保健所「愛犬手帳」にCUDあり、2014 年

大田区サイン基本計画にCUDの言及など

世田谷区 2 件 0 件 「世田谷区視覚情報のユニバーサルデザインガ

イドライン」の作成など

渋谷区 0 件 1 件 CUDに配慮した教科書の導入

豊島区 1 件 0 件 豊島区「新ホール要求水準書」にてCUD導入の言及

荒川区 1 件 0 件 「日暮里駅・西日暮里駅・三河島駅周辺地区バリ

アフリー基本構想」にてCUD導入の言及

練馬区 1 件 0 件 「建物サインづくりマニュアル」にてCUDの言及

足立区 2 件 0 件

「ユニバーサルデザインに配慮した印刷物ガイド

ライン」「カラーユニバーサルガイドライン」の作

成、防災マップにCUDあり

武蔵野市 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

府中市 0 件 1 件 「府中市福祉計画の考え方と施策の方向」にてC

UDの言及(今後CUDのガイドライン作成)

調布市 3 件 1 件 CUDに配慮した教科書の導入、市公式HPに「カラー

バリアフリーについてご存知ですか」のページあり

小金井市 1 件 0 件 「小金井市保健福祉総合計画(素案)に対する意

見及び検討結果について」にてCUDの言及

東大和市 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

多摩市 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

東村山市 3 件 1 件 CUDに配慮した教科書の導入、2003年 6月定例

20

会でCUDの話題(話題のみ)

福生市 0 件 1 件 「福生市公共サイン整備方針」にてCUDの言及

計 26 件 計 29 件

出典:筆者作成

表 3:カラーユニバーサルデザインに関する動向のある神奈川県市区町村の一覧 (2014 年 11 月 19 日現在)

市区町村名 カラーユニバー

サルデザイン

カラーバリア

フリー 検索結果(一部抜粋)

横浜市 22 件 24 件

2008 年「わかりやすい印刷物のつくり方(ガイドライ

ン)」の作成、「横浜市福祉のまちづくり推進指針」にて

CUDの言及、CUDに配慮した教科書の導入など

横浜市西区 0 件 2 件 2012 年「広報よこはま西区版」にCUD導入を検討

横浜市港北区 1 件 1 件 「港北区防災マップ」「港北区区民生活マップ」に

CUD導入を検討

横浜市都筑区 1 件 0 件 「都筑区南部水と緑の散策マップ」にCUDあり

横浜市栄区 0 件 1 件 2014 年「広報よこはま栄区版」にCUD導入を検討

川崎市 16 件 4 件

2011 年「公文書作成におけるカラーUD ガイドライ

ン」の作成(CUD マークあり)、市の刊行物でのC

UDのさらなる促進、宮前区役所と宮前市民館の

案内板にCUDありなど

川崎市中原区 1 件 0 件 「中原区ガイドマップ(安心マップ)」にCUD導入を検討

川崎市高津区 0 件 1 件 2012 年「高津区総合ガイドマップ」にCUDあり

川崎市宮前区 1 件 0 件

2010 年「宮前区ガイドマップ」作成において、川崎

市のガイドライン参照でCUD導入を検討(その後

の動向不明)

川崎市麻生区 1 件 0 件 麻生区役所こども支援室にてCUD導入を検討

横須賀市 1 件 7 件 CUDに配慮した教科書の導入、市公式HPに「C

UD相談事例のお知らせ」のページあり

鎌倉市 0 件 1 件 「CUDの相談事業の周知及び募集について」の実施

検討(実際に相談事業が行われているかは不明)

逗子市 0 件 2 件 「景観法に基づく景観重要公共施設整備・占用基

準の検討資料」にて CUDの言及など

相模原市 1 件 1 件 2014 年「相模原市公共サイン整備指針」にて神

奈川県のガイドライン参照でCUD導入を検討、C

21

UDに配慮した教科書の導入

大和市 0 件 8 件

2013 年「カラーバリアフリー講演会」の開催、神奈川県

「カラーバリアフリーで創る街づくりモデル事業」で鶴間

駅周辺がモデル地区に(CUD対応の案内板設置)

座間市 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

愛川町 0 件 1 件 2004 年 6 月定例会でCUDの話題あり(その後の

動向不明)

藤沢市 5 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

伊勢原市 0 件 1 件 2012~14 年「伊勢原市障害者計画・第 3 期障害

福祉計画」にて市公式HPにCUD導入を検討

小田原市 1 件 3 件 CUDに配慮した教科書の導入、2011 年市の刊

行物にてCUD(同時に啓発活動もする)

計 52 件 計 57 件

出典:筆者作成

表 4:カラーユニバーサルデザインに関する動向のある千葉県市区町村の一覧 (2014 年 11 月 19 日現在)

市区町村名 カラーユニバー

サルデザイン

カラーバリア

フリー 検索結果(一部抜粋)

佐倉市 1 件 0 件 CUDに配慮した教科書の導入

柏市 1 件 0 件 2012 年 6 月定例会で市発行の印刷物にCUD導

入の可否に関して言及(その後の動向不明)

計 2 件 計 0 件

出典:筆者作成 「カラーユニバーサルデザイン」または「カラーバリアフリー」の語句がヒットした自

治体数は、東京都では 62 の自治体のうちの 20 の自治体(東京都全自治体の 32%)、神奈

川県では 61 の自治体のうちの 20 の自治体(神奈川県全自治体の 33%)、千葉県では 60 の

自治体のうちの 2 の自治体(千葉県全自治体の 3%)であった。人口換算で受益者の数をみ

てみると、東京都の人口を 1300 万人とすると受益者は 604 万 8000 人(東京都総人口の

46.5%)、神奈川県の人口を 900 万人とすると受益者は 764 万 8000 人(神奈川県総人口の

84.9%)、千葉県の人口を 620 万人とすると受益者は 58 万人(千葉県総人口の 9.3%)であ

った。こうしてみると、東京都と神奈川県ではカラーユニバーサルデザインの取り組みを

している市区町村の割合はほぼ同じであったが、千葉県の市区町村での取り組みの少なさ

が露呈していることがわかる。また、人口換算で受益者の数をみてみると、東京都が 46.5%

22

と半数を割っているのに対し、神奈川県が 84.9%と数字に大きな差が生じた。神奈川県で

は、県民がカラーユニバーサルデザインを目にする機会が多いことがわかる。千葉県では

9.3%であり、県民がカラーユニバーサルデザインを目にする機会は少ない。 では、次にそれぞれの検索結果についてまとめてみる。1 都 2 県の市区町村のうち、現在

までにカラーユニバーサルデザインに関するガイドラインをその自治体独自で作成してい

るのは、東京都港区、世田谷区、足立区、神奈川県横浜市、川崎市の 5 つの自治体であっ

た。この 5 つの自治体のガイドラインは、そのガイドライン自体がカラーユニバーサルデ

ザインのみを扱っている。また、現在までにユニバーサルデザインのガイドラインの中で

カラーユニバーサルデザインについて言及するなど、他の項目とともにカラーユニバーサ

ルデザインを扱うガイドラインを作成しているのは、東京都大田区、練馬区、府中市、小

金井市、福生市、神奈川県逗子市の 6 つの自治体であった。神奈川県の市区町村は、カラ

ーユニバーサルデザインを導入する際に、Ⅰ章 3 節でもとりあげた神奈川県作成の「カラ

ーバリアフリーサインマニュアル」のガイドラインをそのまま参照することもあり、その

自治体独自としてガイドラインを作る必要がないと考える自治体があると推定できるため、

カラーユニバーサルデザインに取り組むわりに、その自治体独自のガイドラインが少ない。

反対に、東京都の市区町村は、2006 年 1 月に東京都が発行した「福祉のまちづくりをすす

めるためのユニバーサルデザインガイドライン」の中で、一部カラーユニバーサルデザイ

ンが触れている程度で、東京都として、カラーユニバーサルデザインだけのガイドライン

は作成されていないため(今後作成される予定)、その自治体独自のガイドラインが多数作

られているのではないかと考えられる。千葉県の市区町村に関しては、千葉県としてカラ

ーユニバーサルデザインに取り組む動向がみられないため、未だカラーユニバーサルデザ

インの認知度が低く、カラーユニバーサルデザインの取り組みが県内の市区町村にまで波

及しないのではないだろうか。 それぞれの市区町村が発行する印刷物にカラーユニバーサルデザインを使用しているの

は、東京都品川区、大田区、足立区、神奈川県横浜市都筑区、横浜市高津区、小田原市の 6つの自治体であった。ほとんどの自治体ではガイドマップにカラーユニバーサルデザイン

を用いていた。ガイドマップをはじめとした地図にカラーユニバーサルデザインを用いる

ことは非常に重要となってくる。なぜなら地図は多くの文字や様々な色分けがなされてい

るからである。色による情報が複雑に掲載されるため、色覚異常を持つ人にとっては見に

くいものが多い。この先、多くの人にとって読みやすいことを目指す地図を作成するため

には、カラーユニバーサルデザインは外せないものとなると筆者は考えている。 そのほか、多数の自治体でカラーユニバーサルデザインに配慮した教科書の導入の動き

があるが、この動きが自治体独自のガイドラインの作成やカラーユニバーサルデザインを

自治体の施設・印刷物などに取り入れるまでにはいたっていない場合が多く見られる。カ

ラーユニバーサルデザインを今後導入する予定のある自治体もいくつかあるが、その後の

動向が明らかとなっている自治体は現在のところ見受けられなかった。

23

Ⅳ カラーユニバーサルデザインに基づく東京都足立区と千葉県市川市の比較

本章では、第一にカラーユニバーサルデザインの先進的な自治体と筆者にとって身近な

居住している自治体の概要について述べる。第二にカラーユニバーサルデザインの先進的

な自治体である東京都足立区でのカラーユニバーサルデザインの動向について明らかにす

る。第三に筆者の居住している自治体である千葉県市川市ではカラーユニバーサルデザイ

ンの取り組みがあるのかどうか探る。そして第四に足立区と市川市の施設・印刷物に関し

てカラーユニバーサルデザインの観点から、共通点あるいは異なる点があるのか比較して

いく。 1 カラーユニバーサルデザインの先進的な自治体と筆者の身近な自治体 Ⅲ章 3 節で、カラーユニバーサルデザインが自治体(市区町村)でどれほど取り組みが

あるのかを明らかにした。しかしここで更なる調査として、カラーユニバーサルデザイン

の先進的な自治体と筆者の身近な自治体をとりあげ、2 つの自治体でカラーユニバーサルデ

ザインに関する共通点や異なる点が存在するのかどうか調査していく。 本論文では、カラーユニバーサルデザインの先進的な自治体として東京都足立区をとり

あげる。Ⅲ章 3 節で述べたとおり、カラーユニバーサルデザインの取り組みのある自治体

はほかにもあるが、筆者の居住する千葉県市川市と距離が近いため、カラーユニバーサル

デザインの先進的な自治体の中から足立区を選定し調査対象にした。図 8 は、足立区と市

川市の位置を示した図である。 ここで、東京都足立区と千葉県市川市の概要について述べる。

東京都足立区は、東京 23 区のうちの 1 区である。東京 23 区の最北端に位置し、東京都

北区、荒川区、墨田区、葛飾区、埼玉県川口市、草加市、八潮市に接している。総面積は

東京 23 区の中で、大田区、世田谷区に次ぐ第 3 位(53.20 平方キロメートル)である。人

口は、2014 年 11 月 1 日現在で、約 674000 人である。これは東京都にある市区町村の中で、

世田谷区、練馬区、大田区、江戸川区に続き第 5 位の多さである。 千葉県市川市は、千葉県の北西部に位置する市である。千葉県船橋市、鎌ヶ谷市、松戸

市、浦安市、東京都江戸川区、葛飾区に接している。総面積は千葉県内の市区町村の中で

第 32 位(56.39 平方キロメートル)である。人口は、2013 年 10 月 1 日現在で、約 470000人である。これは千葉県にある市区町村の中で、千葉市、船橋市、松戸市に続き第 4 位の

多さである。

24

図 8:東京都足立区と千葉県市川市の位置 出典:「白地図専門店」より、筆者作成

2 足立区とカラーユニバーサルデザイン (1)カラーユニバーサルデザインの導入から現在までの経緯 足立区は、東京都の中でもカラーユニバーサルデザインの先進的な地域であるが、どの

ような経緯をたどり現在の姿となったのだろうか。2014 年 11 月 23 日現在までの足立区議

会の会議録とカラーユニバーサルデザインを足立区に導入するきっかけを作った区議会議

員長谷川たかこ氏の公式ウェブサイトから、足立区のカラーユニバーサルデザインの歩み

をまとめる。 2007 年 12 月、足立区議会でカラーユニバーサルデザインの重要性について長谷川たか

こ氏が発言した。長谷川氏がカラーユニバーサルデザインの重要性を訴えたきっかけは、

色覚異常を持つ区民からの相談であった。それは、ハザードマップが非常に見づらいとい

う内容だった。それまで足立区には「ユニバーサルデザインに配慮した印刷物のガイドラ

イン」があり、このガイドラインの中でカラーユニバーサルデザインについて多少触れら

れてはいた。しかし、ただガイドラインがあるだけで実際に区として行動が起こされたわ

けではなく、何の意味を持たない状態であった。ハザードマップのような住民の命にかか

わる情報が、色の配慮がないがために読み取れない事態を危惧し、カラーユニバーサルデ

ザインを取り入れて欲しいと一議員が声をあげたことで足立区のカラーユニバーサルデザ

インの取り組みは動き出した。 それから足立区はすぐにカラーユニバーサルデザインを区内に採用しはじめた。2008 年

1 月には「あだち広報 2 月 5 日号」に、2 月には「日暮里・舎人ライナーの案内板」に、3月には「ゴミ分別マップ」に、12 月には「防災マップ」に、2009 年 4 月には「区役所色名

25

案内板」に、10 月には「区役所内の番号呼出機」に、それぞれカラーユニバーサルデザイ

ンを取り入れた。2008 年度の協働事業として、NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構

の助言をもとに防災マップは作られた。足立区では区民が目にするものに積極的にカラー

ユニバーサルデザインを施している。こうした取り組みは全国的にも先進的であり、評価

を受けている。2010 年 11 月には足立区のカラーユニバーサルデザインの取り組みのきっ

かけを作った長谷川氏に「第 5 回マニフェスト大賞の最優秀政策提言賞」が授与された。

この賞は足立区として初の受賞となった。 足立区では職員に意識づけをさせるために、カラーユニバーサルデザインに関する研修

も多数行われている。また、効果的にカラーユニバーサルデザインの取り組みを進めてい

くため、庁内に「ユニバーサルデザイン担当課」が設置された。 しかし、これほどカラーユニバーサルデザインに取り組んでいて、全国的にみてもカラ

ーユニバーサルデザイン先進地域の足立区であっても、未だ課題点は存在する。2013 年 3月の区議会では、カラーユニバーサルデザインが正しく施されていない印刷物が一部存在

するという話題があがった。長谷川氏が区民から非常に見づらいと相談を受けた「ハザー

ドマップ」についても、避難所と危険箇所の色が同じように見えるという指摘があった。

カラーユニバーサルデザインのガイドラインを自治体独自で作成している上に、数多くの

研修がなされている足立区が作成したものでも、色覚異常を持つ人が見たときに結果配慮

ができていなかったのである。ガイドラインを制定した足立区としてはこのガイドライン

に沿ってカラーユニバーサルデザインの取り組みを進めていくとのことであったが、長谷

川氏はカラーユニバーサルデザイン機構のような専門家に間に入ってもらい、CUD マーク

をつけてもらうことが必要だという見解を示した。実際、防災マップには CUD マークが入

っているが、ゴミ分別マップには入っていない。2014 年 8 月の区議会では、長井まさのり

氏が区の発行する印刷物の CUD マークの取り扱いについて言及している。区はガイドライ

ンに沿えば、CUD マークの認証はいらないという見解を示した。 こうした足立区の歩みをまとめた上で筆者の意見を示す。2007 年 12 月にはじめてカラ

ーユニバーサルデザインの重要性が話題にあがり、1 か月後に早くもカラーユニバーサルデ

ザインを足立区が実際に取り入れたことは評価できる点である。ガイドラインを作成した

だけの自治体と比べ、1 つのものに限らず様々なものにカラーユニバーサルデザインを取り

入れ、カラーユニバーサルデザインの取り組みを足立区が現在まで続けていることは素晴

らしいことである。また、数多くの研修も庁内でなされ、職員への意識づけに向け動いて

いる姿勢も良い。しかし、カラーユニバーサルデザインが成立していると考えたものが結

果として成立していないということがいくつかみられた。一般色覚の人では気づきにくい

ような色使いもあるので、筆者は長谷川氏と同様にカラーユニバーサルデザインのプロで

ある専門家の監修は未だ必要ではないかと考える。地図などの複雑に色が使われる者に関

しては特に専門家が間に入る必要があるだろう。また、Ⅰ章 3 節での神奈川県のガイドラ

インが示すように、カラーユニバーサルデザインを施したものを作成した場合は、世に出

26

す前に色覚異常を持つ人にチェックしてもらうようにするべきである。正しくカラーユニ

バーサルデザインを取り入れるためには必要なことであると筆者は考える。 (2)カラーユニバーサルデザインの具体的取り組み カラーユニバーサルデザインの先進的地域の足立区では、どのようなところにカラーユ

ニバーサルデザインを導入しているのだろうか。カラーユニバーサルデザインが施されて

いる具体例の一部を示していく。 ① 足立区が作成した、カラーユニバーサルデザインに言及したガイドライン 足立区には、2006 年に作成した「ユニバーサルデザインに配慮した印刷物ガイドライン」

と 2009 年 3 月に作成した「カラーユニバーサルデザインガイドライン」の 2 つがある。前

者は、区が発行する印刷物にユニバーサルデザインを取り入れようとするもので、カラー

ユニバーサルデザイン以外の項目(文字の大きさ・字体、外来語など)もある。一方後者

は、カラーユニバーサルデザインのみを取り上げたもので、ヒトの色を感じるしくみ、色

使いの現状と課題、色覚異常を持つ人の見え方、カラーユニバーサルデザインの実践例に

ついての項目がある。「ユニバーサルデザインに配慮した印刷物ガイドライン」だけでは印

刷物以外がまかないきれないので、それを補う形で「カラーユニバーサルデザインガイド

ライン」が制定された。 ② 足立区役所の番号呼出機 カラーユニバーサルデザイン導入前の番号呼出機は、黒色の背景に数字が赤色であった

ため、色覚異常を持つ人に配慮されたものではなかった。現在はカラーユニバーサルデザ

インが施された、黒色の背景に数字が白色の番号呼出機を使っている。筆者も実際に足立

区役所を訪ねこの番号呼出機を見てきたが、数字の色は赤色より白色の方がはっきりして

いて遠くからも見やすく、さらに数字のフォントも太いものであったので数字がより見や

すいようになっていると感じた。 ③ 足立区役所の案内表示 Ⅰ章 3 節でのカラーユニバーサルデザインに配慮した標識のように、足立区役所の一部

の案内表示板には色名の表記があった。筆者が実際に足立区役所に訪ねてみると、建物の

内部でテーマカラーが分けられ、北館が赤色、中央館が緑色、南館が青色となっていた。

そして、それぞれの館の場所を表す看板は全てテーマカラーで色分けされていた。こうし

た中、色名表記があればもしも「○色の館へ行ってください」と言われても問題がない。

ただ、全ての案内表示板に色名表記があるわけではなかったので、その点については今後

改善が必要となる。

27

④ 防災マップ カラーユニバーサルデザインに配慮され、CUD マークがついた防災マップは 2008 年 12月に作成された。この時点でカラーユニバーサルデザインのある防災マップは全国初であ

った。カラーユニバーサルデザインが入った防災マップということで、テレビ・新聞とい

ったマスメディアにも取り上げられた。どのような点が評価されているのかについては、

Ⅳ章 4 節で記述する。 ⑤ ゴミ分別マップ 2008 年 3 月に作成されたゴミ分別マップにカラーユニバーサルデザインを取り入れ、以

降も現在に至るまでカラーユニバーサルデザインを使い続けている。ゴミ分別マップのど

こにカラーユニバーサルデザインが使われているのかについても、Ⅳ章 4 節で記述する。 3 市川市とカラーユニバーサルデザイン (1)会議録からみる市川市とカラーユニバーサルデザイン 筆者とゆかりのある市川市には、カラーユニバーサルデザインに関する動向は見られる

のだろうか。市川市公式ウェブサイトの市議会会議録で検索をして、市川市としての見解

がどのようなものであるのか探った。 Ⅲ章での 1 都 2 県の市区町村に関する調査と同様に、「カラーユニバーサルデザイン」「カ

ラーバリアフリー」の語句を入れ検索をしたが、色のユニバーサルデザインについての情

報は 1 件もヒットしなかった。色の見え方が異なる人を表す「色覚異常」「色弱」「色盲」

といった語句でも、色のユニバーサルデザインについての情報は 1 件もヒットしなかった。

しかし「色・バリアフリー」と検索すると、ホームページのバリアフリーについての情報

がヒットした。文字の拡大と音声読み上げ機能とともに、色覚異常を持つ人に配慮し、文

字と背景の色を白黒にする機能を設けるとの内容であった。 この情報は、今から 7 年前の 2007 年 12 月 7 日の市議会での発言が出典である。そこで

7 年経った現在では、市川市公式ウェブサイト上で色のユニバーサルデザインは取り入れら

れているのかどうか確かめた。公式ウェブサイトの右上には、「文字を大きく・小さく」「音

声」「Foreign Language」のボタンがある。音声ボタンを押してみたところ、音声読み上げ

機能以外に様々な支援機能があった。その中に、「閲覧画面の配色を変える」という項目が

ある。ここに、①通常表示、②青色背景に黄色文字、③薄黄色背景に黒色文字、④黒色背

景に黄色文字の配色に変えられるという機能があった。こうした配色に関する機能がある

ことは良いことではあるが、他の自治体では公式ウェブサイトの「文字を大きく・小さく」

ボタンの隣に「配色」ボタンがあることも多く、①音声ボタンを押す、②他の支援機能ボ

タンを押す、③配色を変えるボタンを押すという手順を踏まなくてはいけないものだと、

こうした機能を必要とする人が気づかないかもしれない。

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(2)市の刊行物からみる市川市とカラーユニバーサルデザイン カラーユニバーサルデザインについて記述した刊行物を探すため、市川市の中央図書館

を訪ねた。レファレンスにて「カラーユニバーサルデザイン」「カラーバリアフリー」の語

句をもとに何らかの文献があるのか探してもらったが、完全にヒットする文献は見つから

なかった。レファレンスで対応してくれた職員も市川市でカラーユニバーサルデザインに

ついて聞いたことはないと言っていた。その後、市川市に関する文献のあるブースにて、

福祉やまちづくり関連の文献に目を通した。車いす利用者など日常生活になんらかの不便

を感じている人とともに、街のどこが不便でどう改善したらよいか調査したワークショッ

プの結果を示す文献は 2000 年代以降のものが多数見られたが、特にカラーユニバーサルデ

ザインに言及されたものはなかった。これまで市の刊行物ではカラーユニバーサルデザイ

ンが扱われていないようである。 4 足立区と市川市の印刷物・施設の比較 本節では、足立区と市川市の印刷物や施設について、カラーユニバーサルデザインの観

点から比較をしていく。筆者が実際に手に入れたり見たりした印刷物・施設について検証

していく。 (1)防災マップ 図 9 は足立区の「あだち防災マップ」の表紙であり、左下には CUD マークが書かれてい

る。図 10 はあだち防災マップの一部ページである。各地区の避難先がどこであるのか、地

区を橙色、黄色、黄緑色、水色で色分けして、1 つの地区に 1 つの避難所があるように示さ

れている。地区の色分けは、同じ色が隣り合わないよう工夫されている。図 10 の中央にあ

る避難所を示す「避」というマークは、赤色背景に白色文字である。また、避難所の名前

を表す赤色文字の周りには白い囲みがあり、背景が白色以外であるときにも非常に見やす

いものとなっている。図 10 のエリアは比較的文字情報が少ないため特に見にくさは感じな

いが、他のエリアでは文字が密集しているため、文字の周りに囲みがあると 1 つ 1 つの文

字が際立って見えて、見やすいと感じる。 図 11 は市川市の「市川市減災マップ」の一部ページである。図 11 の左下にある避難所

を示す「避」のマークは、背景が透明で字が濃い青色である。避難所の名前を表すのは黒

色文字で、文字の周りの囲みは特にない。「避」のマークは背景が透明であるので、場所に

よっては背景と前景の文字が近い色合いとなり、マーク自体が見えにくいところもあった。 足立区と市川市の地図を見比べると、足立区の地図の方が使われている色の種類・文字

情報が少ないため、すっきりとした印象を受ける。市川市の地図にはあるスーパー・信号

のマークがないこと、道路・電車の路線があまり目立たないことが理由としてあげられる

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と筆者は考える。地図の縮尺 10と地図自体のサイズ 11が異なるので一概には言えないが、

足立区の地図は防災マップとしての最低限の情報が示されていると考えられる。

図 9:「あだち防災マップ」表紙(2014 年 2 月発行分)

出典:筆者撮影 図 10:「あだち防災マップ」地図一例

出典:筆者撮影

10 足立区の地図は 1:15000、市川市の地図は 1:17500 の縮尺となっている。 11 足立区の地図はページを見開きにした状態で A4 サイズ、市川市の地図は縦 84cm 横

59cm のサイズとなっている。市川市の地図は市内全域を 1 ページで見ることができる。

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図 11:「市川市減災マップ」地図一例(2014 年 4 月発行分)

出典:筆者撮影

(2)ゴミ分別マップ 図 12 は足立区の「資源とごみの分け方・出し方」の表紙であり、右下に「この冊子はカ

ラーユニバーサルデザインに配慮しています」と黒色文字で記載がある。Ⅳ章 2 節でも言

及があったが、このゴミ分別マップには CUD マークは見当たらなかった。このゴミ分別マ

ップは、NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構が監修していないがカラーユニバーサ

ルデザインは施されている印刷物であると推測される。図 13 はゴミの出す頻度について記

載されたものである。この図の「朝 8 時」「『キケン』」「『資源』」は太字の赤色文字である

が、カラーユニバーサルデザインとして、それぞれの語句の下に傍線を施している。重要・

警告の意味合いで使われる赤色は色覚異常を持つ人では黒色に見えることもあるので、傍

線があることで重要な点だということをわかるように工夫されている。ほかにも足立区の

ゴミ分別マップでは、背景と前景の文字の色が近いときには間に白色の囲みを入れるとい

ったことがみられた。 図 14 は市川市の「資源物とごみの分別ガイドマップ」の中のゴミの分け方について記載

されたものである。図 14 の中央にある「容器包装とは」からはじまる文章とその右下の「プ

ラスチック製容器包装の」からはじまる文章は赤色文字で書かれているが、特に傍線はな

い。市川市のゴミ分別マップでは、赤色文字に傍線が引かれている箇所は他にもなかった。

色覚異常を持つ人から見ると、赤色で書いた意図は伝わらない場合がある。

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図 12:足立区「資源とごみの分け方・出し方」表紙(2014 年度版) 出典:筆者撮影

図 13:足立区「資源とごみの分け方・出し方」一部ページ

出典:筆者撮影

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図 14:市川市「資源物とごみの分別ガイドマップ」一部ページ(2014 年度版) 出典:筆者撮影

(3)本庁舎の番号呼出機 足立区役所はⅣ章 2 節で言及した通り、現在は白色の数字が表示される番号呼出機を使

用しており、遠くから見ても数字が目立っていた。一方、市川市役所の番号呼出機は、赤

色の数字が表示されるものであった。足立区がカラーユニバーサルデザインに対応する前

に使用していた番号呼出機と同じようなものであると思われる。市川市の番号呼出機は足

立区のものと比べ、番号呼出機自体の大きさも小さかった。この論文の調査とは全く関係

がなく、筆者が市川市役所で書類の手続きをしたときにも、この番号呼出機は数字が細く

て色が見にくいと感じた。

Ⅴ 考察

本章では、第一にカラーユニバーサルデザインに基づき東京都足立区と千葉県市川市に

ついて比較をしながら考察する。第二に、2 つの自治体の実地調査を含め、日本におけるカ

ラーユニバーサルデザインの現段階での普及とそこからみえてきた課題について考察して

いく。

1 足立区と市川市の比較 ここでまず、東京都足立区と千葉県市川市について、カラーユニバーサルデザインに基

づいて考察していく。

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カラーユニバーサルデザインに先進的な地域である足立区と、筆者が居住していて特に

カラーユニバーサルデザインの言及がなかった市川市では、もちろんカラーユニバーサル

デザインの取り組みは雲泥の差があった。カラーユニバーサルデザインを取り入れている

自治体と取り入れていない自治体では、色を使ったわかりやすい情報発信の配慮に非常に

大きな差がある。 足立区の議会では、かなりの頻度でカラーユニバーサルデザインの話題があがっている。

Ⅳ章 2 節でも述べたが、議会ではじめてカラーユニバーサルデザインの話題があがってす

ぐ、足立区としてカラーユニバーサルデザインを様々なところで取り入れており、現在も

全国的にみて先進地域の 1 つであることが明らかになった。専門家が間に入らず自分たち

だけで取り組んだ結果、カラーユニバーサルデザインが成り立っていなかったといった課

題点はあるものの、今後も先進的にカラーユニバーサルデザインの取り組みを行い、他の

自治体のモデルケースとして存在しつづけていくべきだろう。 市川市の議会では、カラーユニバーサルデザインの話題はほぼあがっておらず、市とし

てカラーユニバーサルデザインに取り組む姿勢はみえてこなかった。「広報いちかわ・2014年 10 月 11 日本庁舎建て替え特別号」によると、市川市は 2020 年度までに本庁舎の建て替

えを完了させると発表している。この広報紙の中で「人にやさしい庁舎」として「全ての

人に配慮したユニバーサルデザインを導入する」「直観的で分かりやすい案内表示を整備す

る」と宣言している。この「直観的で分かりやすい案内表示」にカラーユニバーサルデザ

インが関係しているのかは現時点ではわからないのだが、足立区役所の事例のように市川

市の新しい本庁舎内に何らかのカラーユニバーサルデザインを導入し、市としてのカラー

ユニバーサルデザインの先駆け的存在になれば良いのではないかと考える。 足立区と市川市の施設・印刷物を比較すると、足立区の刊行物は見やすいものが多い印

象であった。カラーユニバーサルデザインが施されたものは、一般色覚の人でも見やすい

ものとなる。足立区の防災マップは市川市のものと比べると、色の複雑さや文字情報の多

さにもかかわらず、すっと頭に入りやすい表記であったと考える。ゴミ分別マップにおい

ても、足立区の工夫は簡単なものでありながら、重要な点だと瞬時にわかるようなもので

あった。一方市川市は、足立区のカラーユニバーサルデザインの施された印刷物と比べる

と見やすさはやや低かった。しかし図書館での調査で明らかになったように、ユニバーサ

ルデザインに関するワークショップを市として多数開催していて、ユニバーサルデザイン

自体に対してはかなりの問題意識を抱えているようである。だから、この先はユニバーサ

ルデザインの配慮の中に色のユニバーサルデザインも取り込み、さらに広い意味でのユニ

バーサルデザインの配慮をしていくべきであると考える。 2 カラーユニバーサルデザインの普及と課題 次に、足立区と市川市のカラーユニバーサルデザインの普及と課題について踏まえた上

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で、現在の日本におけるカラーユニバーサルデザインの普及と課題について考察していく。 日本では、ある 1 つの NPO 法人がカラーユニバーサルデザインに関する取り組みの先駆

者であり、現在も他の組織がカラーユニバーサルデザインを取り入れる際にはほぼすべて

の案件にかかわり、カラーユニバーサルデザインを正しく運用するために監修にあたって

いる。この団体は日本でカラーユニバーサルデザインを導入する際には欠かせない存在と

なっている。この NPO 法人の尽力により、日本でカラーユニバーサルデザインという考え

方が取り入れられはじめたといえるだろう。カラーユニバーサルデザインの重要性につい

て発信する活動にも力を入れており、民間企業や自治体でも徐々にカラーユニバーサルデ

ザインの考え方が製品・施設などで採用されはじめている。カラーユニバーサルデザイン

に関する知識を持ち普段の生活でそうした点を意識しない限り気づかないような、さりげ

ない変化がわたしたちの周りで起きはじめている。近年、実はわたしたちの知らない場面

でカラーユニバーサルデザインの考え方は増えているのである。 しかし筆者は、カラーユニバーサルデザインという考え方はまだ出発点からほんの少し

進んだだけだと考えている。製品・施設などでの配慮(ハード面)も、それぞれの人が持

つ意識による配慮(ソフト面)も、カラーユニバーサルデザインにおいては普及していな

いのが現状ではないだろうか。例えば、段差解消のためにスロープを設置するなど、いわ

ゆる「ユニバーサルデザイン」の配慮というのは、ハード面でもソフト面でも徐々に進ん

でいると考える。しかし、Ⅰ章 1 節で言及したように、色を認識するというヒトの感覚が

もとになる特性への配慮の動きは、他の身体的に配慮すべきものに比べると、その存在に

周りの人々は気づかないものなのである。一見して不便さを持つかどうかわからない人に

対する配慮にまで、わたしたちはなかなか気づくことができていない。カラーユニバーサ

ルデザインの主な対象者である色覚異常を持つ人は日本で 300 万人以上存在すると推定さ

れているが、この対象者の多さの割に、わたしたちは彼らがどのような特性を持っていて

どのような面で不便を感じているのか知らないことが多い。こうした知識を持っていない

ことも、またカラーユニバーサルデザインの普及を阻害する要因の 1 つになっている。カ

ラーユニバーサルデザインを普及させていくためには、色の見え方が異なる人たちがいる

こと、そして彼らが普段の生活で不便さを感じていることがあること、こうした点をわた

したちが正しく認知していくことも必要であると考える。その上で、そうした人たちに配

慮する「カラーユニバーサルデザイン」がどうして重要なのか考えていくことが大切にな

ってくるだろう。 Ⅲ章での 1 都 2 県の自治体に関する調査では、それぞれの自治体におけるカラーユニバ

ーサルデザインの動向が様々なものであることが明らかになった。カラーユニバーサルデ

ザインに積極的に取り組んでいる自治体もあれば、全くカラーユニバーサルデザインに言

及していない自治体もある。文字の大きさを変えるといった配慮をしている自治体は数多

くあるが、色の組み合わせに注意するといった配慮をしている自治体はまだ少ないのが現

状だ。また、ガイドラインを作成し、カラーユニバーサルデザインを取り組む姿勢を見せ

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ている自治体もあるが、ガイドラインを作成しただけで今現在どこまでカラーユニバーサ

ルデザインが進んでいるのか定かではない自治体もあった。こうしてみると、積極的にカ

ラーユニバーサルデザインに取り組んでいる自治体はほんのわずかなものなのであろう。

足立区のゴミ分別マップでの赤色文字の下に傍線を引くといった簡単な工夫によって、カ

ラーユニバーサルデザインが成り立つ場合もある。これは、カラーユニバーサルデザイン

についての知識があればすぐにできることである。やはり、こうした配慮があることを多

くの人に知ってもらうことが、カラーユニバーサルデザインの普及の第一歩になってくる

と筆者は考える。 カラーユニバーサルデザインは、2000 年代前半に日本で提唱された考え方で、歴史はま

だ浅いものである。色のユニバーサルデザインは、まだわたしたちにとって身近な存在で

はないだろう。しかし、科学技術の発展はこの先も進んでいき色を使った情報発信の機会

が廃れることは考えにくい。だから、複雑な色使いがみられる今日の情報発信の機会に、

カラーユニバーサルデザインの考え方を取り入れはじめるべきであろう。今日では、誰に

でも色を使った情報発信の機会がある。わたしたち 1 人 1 人が色を使うときに、使う色の

組み合わせによっては不便さを抱えてしまう人が生まれることを意識し考えていくことが

必要になると考える。どのような色覚を持つ人であったとしても、正しく情報を読み取れ

るようになる社会を今後日本は目指すべきではないだろうか。 おわりに

今から 6 年後の 2020 年には、東京でオリンピック・パラリンピックが開催予定となって

いる。開催にあたり主に東京都内でユニバーサルデザインに配慮した施設が増えていくよ

うである。どのような人でも楽しく競技を観戦できるように、スロープやエレベーターの

設置といった近年では当たり前になりつつあるユニバーサルデザインとともに、どのよう

な人でも正しく情報が読み取れるように色のユニバーサルデザインが取り入れられること

を願う。オリンピック・パラリンピックのような非常に大きな影響力を持つイベントでカ

ラーユニバーサルデザインが取り入れられれば、その先の日本でそれまで以上にカラーユ

ニバーサルデザインが取り入れられるようになるのではないだろうか。 また、企業や自治体でも、今あるカラーユニバーサルデザインの取り組みをさらに広げ

つづけてもらいたい。企業や自治体がカラーユニバーサルデザインを導入する姿勢を見せ

たならば、まずは、カラーユニバーサルデザインを導入したはずが導入できていなかった

というミスをなくすため、社員や職員にカラーユニバーサルデザインの導入方法について

改めて正しく認識させていくべきである。カラーユニバーサルデザインを製品・施設に取

り入れている組織に属する人が、カラーユニバーサルデザインのエキスパートになるよう

にする状況を生み出すことが重要となるだろう。企業や自治体といったわたしたちの身近

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な組織が積極的にカラーユニバーサルデザインの取り組みを続けていけば、日本社会にお

いてカラーユニバーサルデザインの認知度が高まっていくはずだ。こうした組織には、カ

ラーユニバーサルデザインを製品に取り入れるとともに、是非誰もが暮らしやすい社会を

目指すためにカラーユニバーサルデザインの必要性を訴えてもらいたい。こうした取り組

みを経て、今後、ユニバーサルデザインの導入と同じくらいの頻度で、カラーユニバーサ

ルデザインが導入されるような社会になれればよいのではないだろうか。 参考文献 ① 論文・本 *井上滋樹『<ユニバーサル>を創る!―ソーシャル・インクルージョンへ―』東京:岩

波書店,2006 年。 *彼方始『考えよう 学校のカラーユニバーサルデザイン』東京:教育出版,2013 年。 *カラーユニバーサルデザイン機構『カラーユニバーサルデザイン』東京:ハート出版,

2009 年。 *栗田正樹、青木直史「カラーユニバーサルデザイン ―色覚異常者の見え方と今後の課

題、そしてカラーユニバーサルデザインへ」『電子情報通信学会技術研究報告.IE,画像

工学』105(610),2006 年,129-132 頁。 *齋藤晴美、渡辺昌洋「カラーユニバーサルデザイン」『システム/制御/情報:システム制

御情報学会誌』57(9),2013 年,363-367 頁。 *中村かおる「先天色覚異常の職業上の問題点」『東京女子医科大学雑誌』82(E1),2012

年,59-62 頁。 *正岡さち、井上麻穂「学校現場における色覚異常児への対応のための基礎的研究」『島根

大学教育臨床総合研究』11,2012 年,61-70 頁。 ② 公的パンフレット類 *足立区『あだち防災マップ』2014 年。 ※カラーユニバーサルデザイン採用初出は 2008 年。 *足立区『カラーユニバーサルデザインガイドライン』2009 年。 *足立区『資源とごみの分け方・出し方』2014 年。 ※カラーユニバーサルデザイン採用初出は 2008 年。 *足立区『ユニバーサルデザインに配慮した印刷物ガイドライン』2006 年。 *市川市『市川市減災マップ』2014 年。 *市川市『広報いちかわ』2014 年 10 月 11 日本庁舎建て替え特別号。 *市川市『資源物とごみの分別ガイドマップ』2014 年。

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*神奈川県『カラーバリアフリーサインマニュアル』2009 年。 *東京都『福祉のまちづくりをすすめるためのユニバーサルデザインガイドライン』2006年。

③ ウェブサイト *足立区『足立区議会会議録』

http://www.gikai-adachi.jp/kensaku/index.html(2014 年 11 月 23 日閲覧) *市川市『市川市公式 Web サイト』 http://www.city.ichikawa.lg.jp/index.html(2014 年 11 月 30 日閲覧) *市川市『市川市議会会議録』

http://www.city.ichikawa.lg.jp/cou01/1211000003.html(2014 年 11 月 27 日閲覧) *NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構

http://www.cudo.jp/(2014 年 11 月 5 日閲覧) *NPO 法人北海道カラーユニバーサルデザイン機構『色覚の仕組みと色弱者の呼称』 http://www.color.or.jp/construction.html(2014 年 11 月 7 日閲覧) *神奈川県『神奈川県の人口と世帯』

http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f10748/(2014 年 11 月 30 日閲覧) *神奈川県『市区町村一覧』

http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f211/p3681.html(2014 年 11 月 19 日閲覧) *神奈川県『ユニバーサルデザインとは』 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7390/p27516.html(2014 年 12 月 10 日閲覧) *カラーハンティング展『カラーハンティング展 色からはじめるデザイン』 http://www.2121designsight.jp/program/color_hunting/(2014 年 11 月 14 日閲覧) *厚生年金・国民年金増額対策室『老人社会になるってホント?』 http://www.office-onoduka.com/siru_nenkinseikatu/sn0712.html (2014 年 12 月 10 日閲覧)

*コクヨ S&T 株式会社『抜群の視認性 グリーンレーザー』 http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/lp/green/index.html(2014 年 11 月 14 日閲覧) *千葉県『市区町村別人口と世帯』

http://www.pref.chiba.lg.jp/toukei/toukeidata/joujuu/geppou/saishin/setai.html (2014 年 11 月 30 日閲覧)

*千葉県『市町村一覧』 http://www.pref.chiba.lg.jp/kouhou/ichiran.html(2014 年 11 月 19 日閲覧)

*DIC カラーデザイン株式会社『COLOR FOCUS』 http://www.dic-color.com/knowledge/080926.html(2014 年 12 月 10 日閲覧)

*東京都『住民基本台帳による東京都の世帯と人口』

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http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2014/jy14qa0100.xls(2014 年 11 月 30 日閲覧) *東京都『都内区町村』

http://www.metro.tokyo.jp/LINK/link1.htm(2014 年 11 月 19 日閲覧) *東洋インキ株式会社『UDing シミュレーター』 http://www.toyoink1050plus.com/tools/uding/pc/simulator.php (2014 年 12 月 10 日閲覧)

*白地図専門店『関東地方の地図』 http://www.freemap.jp/item/region/kantou.html(2014 年 11 月 21 日閲覧)

*長谷川たかこ『長谷川たかこ WebSite』 http://takahase.weblogs.jp/(2014 年 11 月 19 日閲覧)

*パナソニック株式会社『ユニバーサルデザインの取り組み』 http://panasonic.co.jp/design/ud/research/index.html#section04 (2014 年 11 月 14 日閲覧)

*富士通株式会社『ColorDoctor』 http://jp.fujitsu.com/about/design/ud/assistance/colordoctor/(2014 年 12 月 10 日閲覧)

*横浜市交通局『バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰で「内閣府特命担

当大臣表彰優良賞」を受賞!』 http://www.mtwa.or.jp/kaiindayori/09_01%20yokohama.pdf(2014 年 11 月 12 日閲覧)

④ 新聞 *朝日新聞デジタル『津波警報、テレビ各局が色を統一 色覚障害などに配慮』2013 年 8

月 28 日付 http://www.asahi.com/special/10005/TKY201108180171.html(2014 年 11 月 12 日閲覧)

*日本経済新聞『「色覚で問題」知らず困惑 小学校の検査中止 10 年』2014 年 1 月 27 日 付

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