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Human performance と医学
生体行動科学特論
野村照夫
応急手当と救命処置
• 応急手当:家庭や職場でできる手当で、病院に行くまでのけがや病気の悪化を防ぐ
• 救命処置:突然、心臓や呼吸が止まった人の命を救うために、居合わせた人ができる応急手当
Holmberg M et al. Effect of bystander
cardiopulmonary resuscitation in out-of-hospital
cardiac arrest patients in Sweden. Resuscitation
47:59-70, 2000. より、一部改変して引用
応急手当と救命曲線
•心臓・呼吸停止後10分
救命の可能性↓
•救急車到着:平均6分
救命処置の果たす役割大
心肺蘇生法
• 胸を強く圧迫したり、息を吹き込むことによって、止まってしまった心臓や呼吸の動きを助ける方法
平成17年度の総務省消防庁調査
救急車で病院に運ばれた人の生存率
•救急隊による心肺蘇生
3分以内に開始された場合に比べて、
10分以上経過してからでは4割まで低下
•市民による応急手当
受けなかった人に比べて、
応急手当を受けた人は1.4倍
突然の心停止→ 「心室細動」によって生じることが多い。
心臓がブルブルと細かくふるえる
処置:できるだけ早く心臓に電気ショックを与え、心臓の動きを取り戻す(除細動) AED(=自動体外式除細動器)を使用
救命のリレー
• 救命のリレーの4つの要素のうち二つは、居合わせた人の手にかかっている
突然死
• 成人の心臓や呼吸が突然止まる主な原因 – 心臓発作:冠動脈が詰まる→心臓血行不良→急性心筋梗塞→心筋の壊死→心臓の動きが弱まる、不整脈 症状:胸部中央に突然、持続する強い痛み (胸だけでなく肩、腕やあごにかけて痛むこともある。 胸が締め付けられる苦しさだけを訴えることもある。 重症の場合:痛み、息苦しさ、冷や汗、吐き気など)
– 脳卒中:脳血管が詰まったり、破れて出血→脳の血行不良→脳梗塞→脳神経細胞の壊死→昏睡、呼吸停止 症状:体の片側麻痺、しびれ、言語障害、視覚障害 (クモ膜下出血(脳の血管が破れて脳の表面に出血):非常に強い頭痛、繰り返して出血することが多く、その度に命の危険が増す。)
• 子どもの突然死の主な原因 – 外傷、溺水、窒息など→日常生活の中で十分に注意
救命処置の流れ
②助けを呼ぶ
119通報とAED手配
③気道の確保と④呼吸の確認
正常な呼吸?
①反応確認
⑤人工呼吸2回(省略可)
⑥⑦胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の
組み合わせを繰り返す
圧迫は強く速く(100回/分)連続する
圧迫解除は胸が充分戻るまで
回復体位で経過観察
⑧AED到着
電源ON、パッド装着
⑨心電図解析
⑩電気ショック1回
⑪胸骨圧迫と
人工呼吸を再開
5サイクル(2分間)
ショック必要 ショック不要 yes
no
反応確認
• 傷病者の耳もとで「大丈夫ですか」または「もしもし」と大声で呼びかけながら、肩を軽くたたき、反応の有無を見る。
ポイント
• 呼びかけなどに対して目を開けるか、 何等かの返答または目的のある仕草がなければ「反応なし」と判断。
• 反応(意識)があれば傷病者の訴えを聞き、必要な応急手当を行う。
両肩をたたく→片麻痺の場合がある
頭や首にけががある場合やその疑いがあるときは、体を揺すったり首を動かしてはならない。
助けを呼ぶ
• 反応がなければ、大きな声で「誰かきて! 人が倒れています!」と助けを求める。
• 協力者が来たら、「あなたは119番へ通報してください」「あなたはAED(自動体外式除細動器)を持ってきてください」と要請する。
ポイント
• 救助者が一人の場合や、協力者が誰もいない場合には、次の手順に移る前に、まず自分で119番通報することを優先する。
気道の確保
• 傷病者の喉の奥を広げて空気を肺に通しやすくする。
• 片手を額に当て、もう一方の手の人差指と中指の2本をあご先(骨のある硬い部分)に当てて、頭部後屈、あご先挙上。
ポイント
• 指で下あごの柔らかい部分を強く圧迫しない。
気道異物の除去:背部叩打法と腹部突き上げ法(妊婦、極端な肥満者の場合は
腹部突き上げ法に代えて胸部突き上げ法を行う。
呼吸の確認
• 傷病者が正常な呼吸をしているかどうかを確認。
• 気道を確保した状態で、自分の顔を傷病者の胸に向けながら、頬を傷病者の口・鼻に近づける。
• 10秒以内で、①胸や腹部の上下運動を見て、②呼吸音を聞いて、③頬で息を感じる。
ポイント
• 次のいずれかの場合には、「正常な呼吸なし」と判断
– 胸や腹部の動きがなく、呼吸音も聞こえず、吐く息も感じられない場合。
– 約10秒間確認しても呼吸の状態がよくわからない場合。
– しゃくりあげるような、途切れ途切れに起きる呼吸がみられる場合。
(死戦期呼吸(あえぎ呼吸)→心停止直後
人工呼吸
• 正常な呼吸がなければ、口対口人工呼吸により息を吹き込む。
• 気道を確保したまま、額に当てた 手の親指と人差指で傷病者の鼻をつまむ。
• 口を大きくあけて傷病者の口を覆い、 空気が漏れないように、息を約1秒かけて吹き込む。 傷病者の胸が上がるのを確認する。
• いったん口を離し、同じ要領でもう1回吹き込む。
ポイント
• 1回目の吹き込みで胸が上がらなかった場合: 気道確保をやり直し、吹き込みを試みる。 うまく胸が上がらない場合でも、 吹き込みは2回までとし、すぐに胸骨圧迫に進む。
• 簡易型の感染防護具を持っていると役立つ。
• 傷病者に出血がある場合や、感染防護具を 持っていないなどにより口対口人工呼吸が ためらわれる場合には、人工呼吸を省略し、 すぐに胸骨圧迫に進む。
500ml~800ml(10ml/体重1kg)吹き込む。
胸骨圧迫
• 胸の真ん中を、重ねた両手で「強く、速く、絶え間なく」圧迫する。
• 両乳頭を結ぶ線の中央に、片方の手の付け根を置く。
• 他方の手をその手の上に重ねる。
• 肘をまっすぐに伸ばして手の付け根に体重をかけ、傷病者の胸が4~5㎝沈むほど強く圧迫する。
• 1分間に100回の速いテンポで30回連続して絶え間なく圧迫する。
• 圧迫と圧迫の間は、胸がしっかり戻るまで充分に圧迫を解除する。
手の付け根で圧迫
乳児の場合:両乳頭を結ぶ線より少し足側(尾側)の胸骨を圧迫。
指2本で(一人法)、または胸郭包み込み両母指圧迫法で(二人法)で圧迫する。
心肺蘇生法の実施
• 胸骨圧迫を30回連続後、人工呼吸2回。
• 胸骨圧迫と人工呼吸の組み合わせを、救急隊に引き継ぐまで絶え間なく続ける。
ポイント
• 疲れるので、もし、救助者が複数いる場合は、2分間(5サイクル)程度を目安に交代して、絶え間なく続ける。
• 心肺蘇生法の中止: – ①心肺蘇生法中に傷病者がうめき声を出したり、普段どおりの息をし始めた場合。
– ②救急隊に心肺蘇生法を引き継いだ場合。 救急隊が到着して中止せず、救急隊の指示に従う。
回復体位
• 反応はないが正常な呼吸をしている場合
• 気道の確保を続けて救急隊の到着を待つ。
• 吐物等による窒息の危険があるか、やむを得ず傷病者のそばを離れるときには、傷病者を回復体位にする。
• 下あごを前に出し、上側の手の甲に傷病者の顔をのせる。さらに、上側の膝を約90度曲げて、傷病者が後ろに倒れないようにする。
AEDの使用
• 心肺蘇生法を行っている途中で、AEDが届いたらすぐにAEDを使う準備を始める。
• AEDには数種類があるが、どの機種も同じ手順で使えるように設計されている。 – 電源が入ると音声メッセージとランプで、実施すべきことが指示されるので、それに従う。
– 成人(約8歳以上)はもとより、小児(約1歳以上約8歳未満)にも使用できる。
– 1歳未満の乳児には、AEDは使用できない。
• AEDが使用できない場合:1回だけ前胸部叩打(拳で約20cmの高さから振り下ろし胸骨の下半分を鋭く叩く)
AEDの準備
① AEDを傷病者の頭の横に置く
–ケースから本体を取り出します。
② AEDの電源を入れる
– AEDのふたを開け、電源ボタンを押す。 ふたを開けると自動的に電源が入る機種もある。
–電源を入れたら、以降は音声メッセージとランプに従って操作する。
AEDの準備2
③ 電極パッドを貼る
• 傷病者の衣服を取り除き、胸をはだける。 (体が濡れている場合には、胸の水分を十分に拭き取る。胸毛が多いと電気抵抗が高くなることがあるので解析が進まなければ除毛する)
• 電極パッドの袋を開封し、粘着面を傷病者の胸部に密着貼付(位置は電極パッドに絵で表示されてる)。
• 機種によっては電極パッドのケーブルをAED本体の差込口(点滅している)に入れるものがある。
ポイント
• 電極パッドは、 右前胸部(右鎖骨の下で胸骨の右)および 左側胸部(脇の5~8cm下)の位置に貼付。
• 電極パッド貼付の際にも、胸骨圧迫を継続する。
• 電極パッドと肌を密着させる。 アクセサリーなどの上から貼らない。
• 成人用と小児用の2種類の電極パッドが入っている場合があるが、成人(約8歳以上)の傷病者に小児用を使用しない。
心電図の解析
• 電極パッドを貼り付けると「体に触れないでください」などと音声メッセージが流れ、自動的に心電図の解析が始まる。
• 「みなさん、離れて!!」と注意を促し、誰も傷病者に触れていないことを確認する。
• 一部の機種には、心電 図の解析を始めるために、 音声メッセージに従って 解析ボタンを押すことが 必要なものがある。
電気ショック
• AEDが電気ショックを加える必要があると判断すると「ショックが必要です」などの音声メッセージが流れ、自動的に充電が始まる。充電には数秒かかる。
• 充電が完了すると、「ショックボタンを押してください」などの音声メッセージが出て、ショックボタンが点灯し、充電完了の連続音が出る。
• 充電が完了したら、「ショックします。みんな離れて!!」と注意を促し、誰も傷病者に触れていないことを確認し、ショックボタンを押す。
ポイント
• ショックボタンを押す際は、必ず自分が傷病者から離れ、さらに誰も傷病者に触れていないことを確認する。
• 電気ショックが加わると、傷病者の腕や全身の筋肉が一瞬けいれんしたようにビクッと動く。
心肺蘇生法の再開
• 電気ショックが完了すると、「ただちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始してください」などの音声メッセージが流れるので、ただちに胸骨圧迫を再開する。
• 胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の組み合わせを続ける。
ポイント
• AEDを使用する場合でも、AEDによる心電図の解析や電気ショックなど、やむを得ない場合を除いて、胸骨圧迫と人工呼吸をできるだけ絶え間なく続けることが大切。
AEDと心肺蘇生法の繰り返し
• 心肺蘇生法を再開して2分(胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせを5サイクルほど)経ったら、AEDは自動的に心電図の解析を再び行う。音声メッセージに従って傷病者から手を離し、周りの人も傷病者から離れる。
• 以後は、<心電図の解析、電気ショック、心肺蘇生法の再開>の手順を、約2分間おきに繰り返す。
心肺蘇生法の中止
①救急隊に引き継いだとき。
• 救急隊が到着したら、傷病者の倒れていた状況、実施した応急手当(心肺蘇生法)、AEDによる電気ショックの回数などをできるだけ伝える。なお、AEDには自動的に心電図波形や加えたショックの回数等が記録されている。
② 傷病者が動き出す、うめき声を出す、あるいは正常な呼吸が出現した場合。
• ただし、気道確保が必要になるかもしれないため、慎重に傷病者を観察しながら救急隊を待つ。この場合でも、AEDの電極パッドは、はがさず電源も入れたままにしておく。
怪我の応急処置
• 創、擦過傷:創部は水道水で十分に洗い流す。明らかな異物が認められる場合は、それを認めなくなるまで洗浄する。
• 外出血:直接圧迫止血法により止血
• 熱傷:可及的速やかに冷水で疼痛が軽減するまで冷却。広範囲な熱傷では10分以上の冷却は避ける。水疱は潰さず、そのままにして被覆する。
• 筋骨格の損傷:そのままの肢位で四肢の固定を行ってよい。整復は行うべきではない。氷水などで冷却してよいが、20分以上の持続的な冷却は避ける。
• 歯牙損傷:歯槽からの出血は圧迫により止血。脱臼歯は牛乳内に保存し、歯科医へ搬送
• 毒物摂取・付着:毒物を摂取した(飲んだ)場合は、水や牛乳を飲ませる前に、専門施設へ連絡し、指示を仰ぐ。皮膚に付いた化学的毒物は大量の水で洗い流す。
RICE
• Rest 安静にする
• Ice 患部を冷やす
• Compression 圧迫する
• Elevation 患部を高く保つ
Rest
• 行動を一時中断して安静にする。→どんなケガにも共通。 – 腫れや炎症を抑え、出血を最小限に食い止める
– 固定には副木を利用するのが最適(ダンボールや板なども利用できる)
– 処置による患部の安静にはテーピングやギプス、松葉杖の補助を用いる。
– 障害個所を早く動かすと内出血などを増すだけでなく、機能障害も悪化させる恐れがあり、回復を長引かせる。
– ケガの状態を確認しないまま行動を続行するのは危険。
Ice
• 突き指や捻挫、靭帯の損傷、骨折、打撲などではほとんどの場合、内出血と腫れが見られる。これらを最小限に食い止めるもっとも有効な手段が冷却腫れ上がる前、つまりケガの直後に行う。
• 受傷後の冷却は組織の代謝を下げ、組織が必要とする酸素の量を減らす→組織の壊疽を防ぎ、周囲の正常な細胞を守る
• 長い間冷やしすぎると細胞もダメージを受ける。 – 氷を使ったアイスパックを皮膚に直接当てる。
– 凍らせたゲルパックはアイスパックよりも冷却温度が低いので、皮膚に直接当てない。
– アイスパックを当てている時間は最高20分にとどめる。
– 寝るまで1時間から1時間半ごとに冷却を繰り返す。
– 障害の程度や範囲によって24~72時間これを続ける。
– 冷却によって、痛い→暖かい→ぴりぴりしびれる→ 感覚がなくなるという四つの段階がある。これを通り 越して再び痛みが出始めたら、凍傷の危険性がある ので冷却を止める。基本的には感覚がなくなるまで 冷却する。
Compression
• 急性の障害では、すぐに圧迫を加えることは冷却と高挙とともに重要。腫れてくる前、つまり冷却と同時に行う。 – 患部の圧迫は、内出血と血腫の形成を軽減する。
– 圧迫で組織間に浸出液が浸透するのを防ぎ、その吸収を促進。
– 圧迫が強すぎると血液などの循環がわるくなる。
– 障害をうけたら、腫れが出そうな部分にパッドやフェルト、スポンジなどを当てて軽く圧迫する程度に包帯やテープを巻く。(水につけたパッドを冷凍室で冷やしておけば、圧迫と冷却を同時 にできる。)
– 締め付けず、パッドがずれない程度にやや強く巻く。
– 冷却は断続的に行うが、圧迫は一日中続ける。
– 脱臼直後は患部の腫れを想定し、関節の前面を あけるオープン・バスケット・ウェーブ法をとる。
Elevation
• エレベーション(高挙)とは、患部を心臓より高い位置に持ち上げること。
• 冷却・圧迫とともに高挙は内出血の軽減に役立つ。
– 患部に流れ込む血液やリンパ液の量が減り、出て行く量が増えるので、腫れを抑えて早く引かせることができる。
– 高挙の手法は、手ならば三角巾などでつり、足ならば横になって足の位置を高く保つ。特に足は腫れが出やすいので、応急処置後の何日間かは就寝時に高挙を保つようにする。
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