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序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

まえがき

 

21世紀へようこそ

︱。iアイパッド

Padは、我々が昔SFの映画や漫画で見ていたような

夢の未来に向けて踏み出したことを実感させてくれる製品だ。

 

iPadより前に登場した米アマゾン・ドットコム製のKキ

indleは、電子書籍

という未来を切り拓いてくれたが、ストイックな印象の白黒画面と物理ボタンには、

正直ワクワクする新しい未来を感じられなかった。米アップルのiア

Phoneは、ワ

クワクする「飛躍的進歩」を感じさせてくれたが、携帯電話端末という製品の特徴上

画面が小さいため、「ワクワクする未来」を伝えるには少し迫力不足なところがあっ

た。

 

これに対してiPadは、その大きさ、立ち位置、製品ジャンルといったすべての

面で新しい。私たちの日常風景の中に、これまでになかった日常を呼び込む道具

まさに未来への入口と言えるだろう。

 

こう書くと、「本当か?」「言いすぎだ」と疑う人もいるだろう。だが、未来は信じ

ることから生まれてくる。今日、我々が住まう建物や、道路を走るクルマ、そしてそ

の道を照らす電灯一つひとつも、どこかの誰かが「これが我々を豊かにする未来」と

信じて形にしたから実現したはずだ。

 

iPadの大きなポテンシャルを信じずに見捨てる人が多ければ、iPadも本書

も、5年後にはただのお笑い種ぐさ

になっていることだろう。他方、「やはり、これはす

ごい」と共鳴してiPadを使ったり、関連ビジネスに取り組んだりする人が増えれ

ば、5年後には、クルマや電灯とはいかないまでも、デジタルカメラや音楽プレイ

ヤーと同じくらいまで普及するかもしれない。

 

筆者がうれしいのは、既に多くの個人が、そして小規模から大規模まで多くの企業

がiPadという製品に共鳴し、この製品に関連して新しい取り組みを始めたことだ。

しかも、そうした取り組みの一つひとつが、iPad上で、さらに新しい可能性を切

り拓き、我々をさらにワクワクさせてくれている。本書は、そうしたiPadへの

様々な取り組みの事例や、これからの可能性をできるだけ広い分野にわたって紹介し

た。

 

コンピューターというものが、机の上に置けないくらい巨大だった時代に、子供た

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

ちを含む世界中の人々が一人一台持ち歩くパーソナルコンピューターを夢想したアラ

ン・ケイという人物がいる。その彼がこんなことを言っている。

「未来を予測する最良の方法は、それを発明してしまうことだ」

 

iPadがつくる未来の一端は、読者の皆さんの手の中にある。あなたがiPad

をきっかけに豊かな新時代を切り拓きたいと考えたとき、本書がその一助になってく

れれば幸いである。

目次

序 

iPhoneが築き、iPadが生む革命

7

スペックではわからない新しい体験

iPadが切り拓く21世紀のライフスタイル

アーティストを刺激するデバイス

宿命のタイミング

/iPad広告に人気が集まる

iPad革命はiPhoneから始まった

第1章

使ってわかるiPadの3つの魅力

��

画面が大きくなるだけで体験が様変わり

iPad画面は解像度が高くなくても美しい

ハード、ソフトの双方から追及した使い心地

ユーザーの色に染まるシンプルなつくり

iPadの核となる7つのライフスタイル

パソコンの代替にもなる

第2章

膨大なアプリを生むApp

Store

55

iPhoneの真の魅力はアプリに/Androidの6倍以上のアプリを揃える

アプリを買う気にさせるApp

Storeの工夫

アプリをつくりたくなるエコシステム

無料アプリでも広告で儲かる

大手ゲームメーカーが続々参入

国内のゲーム開発者も興味津々

App

Storeがもたらしたソフト産業の融合

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

競争激化で埋もれるアプリも

アップルの審査という関門

追加課金のしくみで大手が本腰を入れる

第3章

iPadは出版、ラジオ、テレビが融合するメディア

9�

現実となったデジタルコンバージェンス

メディアはなぜiPhone、iPadを選んだのか?

Kindleが火をつけ、iPadが広げる電子書籍市場

iPadに刺激を受けた出版社

/文字主体の本には「iBookstore」

当面は米国のみ展開のiBooks

/いち早く対応する新聞社が登場

放送メディアもiPhone、iPadへ

自動車業界やファッション業界も注目のiPad

大手企業がiPad向け広告に相次ぎ出稿

第4章

IT業界の勢力図を変える

���

ブラウザ勢力図で影響力を増すアップル

モバイル採用で広がるHTML5

Flashには大きな打撃/リアル×ソーシャルメディアの融合

iPadの登場でどんな変化が起きるのか

第5章

ビジネスシーンにも広がる

�59

iPodエコノミーからiPadエコノミーへ/シンクライアントとしてiPadを使う

パソコンとしても使えるiPad

充実したセキュリティ機能

製品の販売・プロモーションに使う企業も

顧客とのコミュニケーションツールとして使う

新聞やマニュアルとセットで配布する

第6章

教育市場にも広がる

�79

講義のポッドキャストをiPadで視聴

校内連絡システムとしてのiPad

講義中のコミュニケーションに活用

電子教科書向けの端末としても期待が高まる

第7章

巨大会社を手玉に通信業界を動かす

�9�

メーカー主導のものづくり

アップルの「選択と集中」戦略

iPadはアップル流の洗練の成果

厳しい条件でもキャリアが扱いたくなる

キャリアにうま味がないアプリ販売サイト

ソフトバンクのアグレッシブな作戦

携帯業界を襲った4つのiPadショック

アップルに袖にされたNTTドコモ

電波改善宣言でアピールしたソフトバンク

日本の通信業界はiPadショックから何を学ぶべきか?

あとがき  

��9

本書で紹介しているiPhone

iPadアプリ  

��7

参考記事・動画など  

��9

序章

iPhoneが築き、iPadが生む革命

 

今、一生の間に何度あるかわからないような「時代の変わり目」がやってきて、あ

なたの心の扉をノックしている。扉を開けるも開けないもあなた次第だが、開いた先

には興奮と感動に満ちた新しい日々があなたを待っているかもしれない。

「歴史では時折、革命的な製品が飛び出してすべての様相を一変させてしまう」

 

これは2007年1月、米アップルが携帯電話のiア

Phoneを発表したときに、

最高経営責任者(CEO)のスティーブ・ジョブズが放った言葉だ。実際にiPhone

の登場後、その影響で世界の電話業界も、ゲーム業界も、メディア業界も大きな変化

を迫られた。

 

だが、iPhoneが各業界を変えたこと以上に驚きなのは、それからわずか3年

で、再び、アップルがそのiPhoneに勝るとも劣らない革命的な製品を世に送り

出してきたことだ。

 

もちろん、iアイパッド

Padのことだ。

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

スペックではわからない新しい体験

 

筆者は2010年1月27日に米国サンフランシスコで開催された発表会に参加し、

iPadに触れられた数少ない幸運な一人として、その後の数カ月にわたって各地の

講演でiPadを紹介してきた。おもしろいのが、講演開始前のiPadの評価が2

つにキッパリ分かれることだ。

 

一方は、iPadのスペックシートだけを見て、「なんだ、ただのデカいiPhone

じゃないか」とガッカリしている人たち。もう一方が、「これはすごいことになりそ

うだ」と興奮している人たちだ。

 

確かにiPadの見た目は、B5サイズのノートのようなiPhoneだ。機能も

iPhoneと重複する。しかし、iPadを「ただのデカいiPhone」と言う人は、

スペックシート重視の文化や左脳的な発想にとらわれすぎているような気がする。ス

ペックシートでメモリーの容量や機能の多さなどを比較するだけでは、製品の実力を

見失うことになりかねない。スペックシートでは実力がわかりにくい製品として象徴

的なのが、アップルのiアイポッド

PodとiPhoneだ。

10

 

2003年以降にiPodが音楽プレイヤーでナンバー1になり、iPhoneは

人々を魅了して日本でもっとも売れている携帯電話端末になった。ところがiPod

もiPhoneもスペックシートだけを見たら、それほど素晴らしい製品とは思えない。

iPodやiPhoneよりも機能数や容量が上回る製品もある。それでもiPodや

iPhoneが売れているのは、スペックシートではわからない「体験」を提供し、

人々を感動させているからだ。

 

もっと言えば、新たに登場したiPadの実力を考える上で重要なのは、「何がで

きるか」ではない。「どんなふうにできるか

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

」だ。何ができるかということであれば、

iPadでできることのほとんどは、既にiPhoneでできる。タッチパネルでの操

作も、音楽の再生も、Webの閲覧も、アプリケーション(アプリ)の利用も、すべ

てiPhoneでも可能だ。

 

しかしiPadの体験とiPhoneの体験は大きく違う。例えば、画面が大きい

iPadなら、ただ次から次へときれいな写真を表示するだけのアプリを見ても、大

きな感動を得ることができる。絵はがきで見るのと大判の写真集で見るのを比べるく

らい絵の持つ迫力が全然違うのだ。

11

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

iPadが切り拓く21世紀のライフスタイル

 

iPadがアップルのもくろみ通りiPhone並みに大ブレイクしたとしよう。そ

して、様々な業界がその大波に乗れば、こうしたiPadの体験はさらに広がり、

我々のライフスタイルは大きく変わるはずだ。もしかしたら、10年後にはiPad以

前のライフスタイルがどうだったか思い出せないというくらいに激変しているかもし

れない。これこそが、「iPadショック」である。iPadショックを巻き起こす体

験のうち、現時点で見えている例をいくつか紹介しよう。

 

旅行中の手提げバッグにiPadを1台入れておけば、そこから何冊もの電子書籍

版の旅行ガイドを参照できる。道に迷っても地図機能を使って現在地から目的地まで

の道筋を表示させることもできる。

 

飛行機や列車に乗る前には、アップルのオンラインストア「iアイチューンズ

Tunes 

Sス

tore」

で気になっていた映画をレンタルしよう。飛行機内のスクリーンよりはるかに操作し

やすく、iPadのきれいな画面で映画を思う存分楽しめるはずだ。旅行に行かない

までも、見逃した前日のドラマをiTunes 

Storeで購入してお昼休みに見る

12

といった楽しみ方もできるだろう。

 

iPadで「映画のレンタルやテレビ番組を購入している人なんて周りにいない」

と言う人がいるかもしれない。その通りで、残念ながらこうしたサービスは、現時点

では日本ではまだスタートしていないが、米国では既に始まっている。

 

遊びだけではない、ビジネスの現場も変わる。外回りの仕事にはノートパソコンで

はなくiPadを1枚(台)持ち出せばいい。ノートパソコンよりも速く起動するし、

iPadだけで電車の中で電子メールの読み書きもできれば、訪問先の会社に関する

情報をWebブラウザで検索することもできる。商談先に着いたら、テーブルの真ん

中に置いたiPadに商品説明のスライドを表示させて説明を始める。先方の参加者

が思ったよりも大勢いるようなら、会議室のプロジェクターを借りてiPadとつな

げば、スライドを投影することだってできる。同じことはノートパソコンでもできる

が、テーブルの中央に置いて相手と同じようにのぞき込みながら操作できるiPadの

使い勝手は、ノートパソコンとは大きく違う。

 

教育現場も変わり出す。厚くて重たい紙の教科書を何冊も持ち歩く時代は終わりつ

つある。代わりに持ち歩くのが生徒一人に1台のiPadだ。iPadが発表される

前に、既に青山学院大学や横浜商科大学、京都大学、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパ

13

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

スなどではiPhoneの教育市場での利用を高く評価し、積極採用の姿勢を見せ始

めていた。青山学院大学と横浜商科大学では一部の生徒にiPhoneの配布も行っ

ている。同様の動きは海外でも非常に多い。iPhoneの教育利用で唯一の課題は

画面が小さいことだったが、iPadはこの問題を解決する。そればかりかiPad

は、教育へのデバイス導入を一気に加速させる可能性がある。

アーティストを刺激するデバイス

 

もう一つのiPadショックは、こうしたライフスタイルを変える使い方が草の根

でたくさん生まれていることだ。iPadに興味を持っているのはIT業界の人だけ

ではなく、様々な分野の人が、自分の分野ではこのように役立ちそうだという視点で

iPadに注目している。そうしたところから新しいアプリケーション(アプリ)が

生まれてくることもあるし、新しいサービスやムーブメントが生まれてくることもあ

る。

 

例えば、長崎県佐世保市の観光大使を務める音楽ユニット、SandyTripの

kazu氏がiPadでまず気になったのは、ドラムとしての使い心地だ。筆者の

14

iPadに入れた「D

rum M

eister

」というアプリを起動すると、「ドラムセットを叩

きやすい配置に並べ替えていいか」と聞き、並べ替えた後、すぐに見事なドラム・ソ

ロ演奏を披露してみせてくれた。「iPhone版は画面が小さい上に反応が遅くて苦

労したが、これなら使い物になる」という。

 

フュージョンバンド、カシオペアでの活躍で知られるキーボード奏者、向谷実氏が

iPadでまず試したのはキーボードの演奏し心地だが、こちらも合格点だったよう

だ。向谷氏は深夜に自宅から行っているインターネット生放送で、度々、iPadで

の演奏を披露している[1]。

 

シンガーソングライターの広瀬香美さんもアコーディオンのアプリを起動した

iPadを筆者が手渡したら、何の戸惑いもなく名演奏を披露してくれた。

 

DJやVJ(音楽に合わせた即興映像をつくりだすビジュアル・ジョッキー)も

iPadに注目している。実際、VJソフト「M

otion Dive

」で、世界的に有名なデ

ジタルステージ社では「M

otion Dive 5

」でiPadからの操作を実現するつもりだ。

 

このようにiPadは、音楽シーンを大きく変える可能性がある。ライブパフォー

マンスで使わないまでも、ミュージシャンが思いついたメロディーを、思い立った先

ですぐさま試してみるといった使い方も広まるだろう。

15

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

 

iPadにはアートシーンを大きく変える力もありそうだ。多くのカメラマンや

アーティストが、「iPadの美しい画面なら自分の作品をきれいに展示できる」と

興奮しているのを目の当たりにしてきた。実際、iPadで写真表示のインパクトは

大きい。私がiPadを見せるときに反響が大きいアプリ5本の中の1本に、

「theGuardian eyewitness

」というアプリがある。これは、フォトジャーナリストが

撮ったきれいな写真を次々と表示するだけのアプリだ。人々はiPad画面に浮かび

上がる写真のきれいさに固唾をのむのだ。

 

アーティストの中には、iPadを自分の作品を配る手段と見ている人も多い。あ

るアーティストはこう言った。

「iPadはホームボタンを使わないとアプリの切り替えができないので、額縁に収

めてホームボタンを隠してしまえば、自分の作品を展示する専用装置になる」

 

iPadは1台あたりの値段が5万前後からあり、それなりに高く売れる作品をつ

くっている作家なら、このコストはそれほど問題にならないというわけだ。

16

宿命のタイミング

 

今、iPadの登場で大きな変革が始まろうとしているのが、メディア業界だ。

iPadは、メディアを変えるという視点で考えるとこれ以上はないのではないかと

思えるほど、パーフェクトなタイミングに登場した。スティーブ・ジョブズ風を気

取って書かせてもらえば、

「歴史では時折、すべてのものごとが示し合わせたように足並みを揃え、一気に動き

出すことがある」

ということだ。実際、歴史を振り返ると、こう思えるタイミングがある。ベルリンの

壁崩壊からソ連崩壊における社会主義崩壊のときもそうだったし、最近で言えばロハ

スブームを経て、一気にCO2削減を目標にしたエコ・コンシャスな社会に先進国が

動き始めたのもそうだ。

 

では、iPadの登場は、どんな時代の動きとシンクロしているのか

︱。それは、

20世紀型メディアの終焉だ。

 

我々がこれまでマスメディアと呼んでいたものが今、一斉に変革期を迎えている。

17

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

 

まず、新聞社は広告の市場規模をインターネットに抜かれ、そろそろ何かを変えな

ければいけないと気づき始めた。数年続いている出版不況にリーマン・ショック以降

の不景気が加わり、雑誌をはじめとした出版業界は苦境にあえでいる。その5年以上

も前から、広告市場規模でインターネットに抜かれていたラジオ局の中には虫の息の

ところも多い。

 

長らくマスメディアの王として君臨してきたテレビも例外ではない。米国では、テ

レビはものすごい勢いでネット配信との併用や移行が始まっている。一方、日本では

地上波アナログ放送の終了を目前に控え、不安を抱えているところが多い。このまま、

視聴者はデジタル放送に移行してくれるのか。将来にも不安が募る。

 

こうした既存メディアは、これまで大きな広告費に支えられ、大きな費用をかけて

取材し、コンテンツを制作してきた。そうして生み出したコンテンツに広告を出稿し

てもらい、大ざっぱな効果測定に基づいて大きな広告料を獲得してきた。こうした20

世紀型メディアのあり方は、どこか大量生産・大量消費の文化にも似た無駄の多さを

感じさせる。

 

もっとも、こうした20世紀型メディアが苦しんでいる原因の一つであるインター

ネットメディアが安泰かというと、そうとも言えない。日本でも米国でも、従来の出

1�

版社が営む20世紀型Webニュース媒体は、それほど大きな収益を上げていない。効

果測定が正確にできるだけに、広告枠の値付けがかなりシビアで、他のメディアと比

べて安い広告も多いからだ。

 

最近ではこうしたメディアで、外部のライターに原稿を発注する資金も減ってきて

いる。それでもとにかく他に負けないように記事を増やし、ページビューを稼ぎ続け

なければならないという消耗合戦に突入している。記事を増やしたほうが、ページ

ビューを稼げる可能性が高いので、従業員の編集記者が私生活の時間を削って取材か

ら執筆まですべてこなさなければならず仕事が増え、彼らが疲へいし始めているのだ。

 

こちらも大量生産・大量消費の世界観を引きずっている

︱世の中は情報過多にな

り始めているのに……。つまり、既存のメディアはインターネットを使うかどうかに

かかわらず、苦境に苦しんでいる状態なのだ。一体、マスメディアの未来はどうなる

のか。誰もが疑問に思い始めていた。

 

その真っただ中の2010年1月、アップルが、そのヒントとなりえる製品、

iPadを発表した。

1�

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

iPad広告に人気が集まる

 

2010年4月3日、米国でのiPad発売日には、iPad用のAア

プpp 

Sス

tore

(アプリケーション販売サービス)にはウォールストリートジャーナルやニューヨー

クタイムズ、USAトゥデイといった主要な新聞社のiPadの画面サイズに最適化

されたアプリや、タイム、GQといった雑誌のiPad版、雑誌ジニオのiPad版、

テレビ局のabcの主要番組を無料で再生できる独自のアプリ、ラジオ局npr(ナ

ショナル・パブリック・ラジオ)などのラジオ系アプリが勢揃いした。さらに絵本か

ら未来の教科書のようなものまで、多種多彩な書籍アプリも非常に多く登場した。

 

米国では、iPadのメディアとしての可能性に大きな期待が集まっているのだ。

理由はいくつかあるが、その一つは、iPadの明るく発色がきれいでB5ノート程

度の大きな画面なら、ブランド商品などを抱える大手ナショナルクライアントが本気

で広告を出す気になるということだ。

 

実際、iPad対応の一番乗りを果たした雑誌では、スポット単価7万5000ド

ル〜30万ドルという広告費を稼いでいる。タイム誌は最初の8号について広告1ペー

20

ジに付き20万ドルを徴収している模様だし、ウォールストリートジャーナル紙は4カ

月の契約で40万ドルという広告枠をコカコーラ社やフェデックス社に販売している。

 

これらの広告は、新聞社や雑誌社のiPad用アプリが独自に展開しているものだが、

2010年夏にはアップル自身が独自の広告サービスの「iアイアド

Ad」を提供する。まず

はiPhoneで、そして秋頃までにiPadで展開する。iAdでは、HTML5と

いう最新Web技術を用いて既存のFフ

lash技術に負けないような滑らかなアニ

メーションや動画表現が可能で、アップルは大手ナショナルクライアントが、お金をか

けて凝った広告クリエイティブをつくってくれることを期待しているようだ。iAd

はこれまでのインターネット広告の問題点を研究した上で、iPhone、iPadな

どモバイルデバイスならではの効果的広告を追求したおもしろい取り組みになってい

る。i

Pad革命はiPhoneから始まった

 

このようにiPadは、様々な業界を巻き込んで人々のライフスタイルを変えつつ

ある衝撃的なデバイスだが、この革命は一朝一夕にして起こせるものではない。

21

序章 iPhoneが築き、iPadが生む革命

 

iPadの背景には、iPhoneによって、世界を変え続けてきた歴史がある。

アップルは2010年4月時点で、iPhoneの累計出荷台数が5000万台を超

え、App

Store上のiPhone向けアプリは18万5000タイトルを超え、累

計ダウンロード数が40億回を超えたと発表した。

 

iPhoneアプリは、安価なプログラマー登録を行い、アップルの審査を受けれ

ば、誰でもApp

Storeを通して世界約80カ国に向けて販売できる。iPhone

の出荷台数が多いので、成功すれば儲けも大きいため、携帯電話業界のプログラマー

も携帯型ゲーム機のプログラマーも、パソコン用ソフトのプログラマーも皆がここに

飛びついた。さらにこれらのプログラマーへの委託という形で、ファッション業界の

人たちも飛びつけば、スポーツ業界の人たちも、そのほか、様々な電子メディア系の

人たちも飛びついた。

 

アプリのバリエーションが増えることで、iPhoneユーザーもさらに増える、

それにより開発者の利益も増え、iPhoneの体験がさらに魅力的になる

︱そん

なプラスの循環が繰り返されてきた。

 

こうした中、アプリによっては「もっと大きな画面でこの写真や記事を見せたい」

「もっと操作しやすいように大きな画面が欲しい」というニーズがふくらみつつあっ

22

た。

 

そんな中、iPadはそれらの要望に応えるように登場したのだ。

 

アプリの例からもわかるように、本当にiPadの衝撃とこれから巻き起こる展開

を知ろうとするなら、iPhoneショックからさかのぼって理解する必要がある。

 

そこで本書ではこれまでiPhoneが起こした革命とともに、数々のiPad

ショックを紹介していきたい。まず第1章ではiPadがなぜ幅広いジャンルの人が

用途を考えずにはいられない魅力的なデバイスなのか、アップルの開発思想を含めて

その秘密を解き明かす。第2章以降では、アプリケーション分野、メディア、企業、

教育、通信などの分野に分けて、iPhoneが変え、これからiPadが変えようと

している世界を紹介したい。

第 1章

使ってわかるiPadの3つの魅力

24

 

2010年4月、日本でのiPadの発売を前に、大小あわせて10件近い講演会や

説明会に参加した。また、テレビ、ラジオ、雑誌などあわせて十数件の取材を受けた。

そのいずれにも米国で先行発売されたiPadを持って行き、おそらくその1カ月で

1000人の人たちにiPadを紹介し、そのうち少なくとも5分の1くらいの人た

ちにはiPadを実際に触ってもらった。iPadを体験した多くの人たちが、大き

な画面の便利さやきれいさ、快適な動きなどに驚く様子を目の当たりにしてきた。

 

そうした経験を通して、iPadは成功するのではないかという考えが強まった。

 

ただ、その成功がすぐに訪れるかというと確信が持てない。それは、序章でも触れ

たように、非常に多くの人々が実際にiPadに触れるまでは、それを「ただの大き

なiPhone」という理解で片付けようとしてしまっているからだ。

 

言葉だけで理解している人ほど、実物を前にしたときに、表情を変えて考えを新た

にすることが多い。これこそがiPadの本当の良さが伝わった瞬間だ。

 

そうやってiPadの良さを実感し購入した人は、自分が感じた喜びを他の人にも

共有してもらおうと同じ体験をさせる。iPadは、こうしてじわじわと少しずつ広

がっていくのではないかと筆者は考えている。

 

ちょうどiPhoneが、日本で成功を揺るぎないものにしたと認められるまでの

25

第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

1年半、ほぼ同じ道のりをたどった。タッチパネル式の携帯電話というだけで、他社

の製品と一緒くたに見られていたのだ。

 

人は本物を体験することなく、どうしても頭だけで理解したつもりになってしまう

ことが多い。同様のことは、おいしい料理などについても言えるかもしれない。

 

筆者自身も、せっかく誰かが熱心に「あそこの店で出す〜〜という料理は本当にお

いしいよ」と教えてくれても、その場では「ああ、〜〜なら食べたことがあるよ。ま

あ、今度、機会があったらその店にも行ってみるよ」といった具合に軽く話を受け流

してしまうことがある。

 

それから数カ月後、何かのきっかけでその店に行くことになって、食べてみると、

あまりのおいしさに腰を抜かす。後で、友だちが熱心に教えてくれた姿を思い出し、

何でもっと早く試さなかったんだろうと自己嫌悪に陥る。

頭で理解することと、体験することとはまったく別のことだ。

 

どんなに頭で理解したつもりでいても、そんな理解を一瞬で吹き飛ばしてしまう

「すごい体験」が世の中にはある。

26

 

iPadは、まさにそんな体験を与えてくれるデバイスだ。

 

実際、iPadを直に見せてきた数百人の人たちから「やはり、直にみるとぜんぜ

ん印象が違う」という言葉を繰り返し聞いてきた。本書の読者にも、もし、まだ実物

に触れていない人がいたら、ぜひ、わかった気にならずに実物に触れていただきたい

が、本章では、できる限り文章で、その魅力を紹介してみたい。

画面が大きくなるだけで体験が様変わり

 

iPadの第1の魅力は、その画面の大きさと美しさだ。iPhoneの約6倍の大

きさだ。まず、画面が大きくなることで、どのようにユーザー体験が変わるかを紹介

しよう。

 

例えば、iPhoneでもiPadでも同様に電子メールを利用できるが、iPhone

では画面が小さいため、メールの一覧表示のときは件名と本文の数行の一覧しか表示

されない。どれか1通のメールを選ぶと、今度はその中身だけが画面上に表示される。

前後のメールであれば、上下の三角アイコンをタップして表示できるが、間のメール

を飛ばしたいときには、一度、一覧画面に切り替えなければならない。

27

第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

 

これがiPadだと、画面が広いので画面の左端に受信メールの一覧を表示したま

ま、選択したメールの中身を、右側に同時表示できる。同じ電子メールでも、利用体

験がiPhoneとiPadとでは大きく変わるのだ。

 

またメールを書く際にも、iPhoneでは小さな画面に表示される小さなキーボー

ドで間違わないように集中して入力しなければならないが、iPadでは大きな画面

に表示されるノートパソコンと変わらないくらい大きなキーボードで文字を楽に入力

できる。

 

同様にカレンダー機能では、iPhoneの画面にして3画面分の情報を一度に表

示できる。

 

大リーグ機構が提供する「M

LB.com

」というアプリでは、米国大リーグの試合を

生で観られる。ただし、iPhone版では画面が狭いので試合の映像だけしか表示

されない。スコアが気になったら、画面を切り替えて確認しなければならない。

 

これが同じアプリでもiPad版では、試合の映像の上にスコアや選手のデータな

どを重ね合わせて表示できる。画面が大きいので、データを表示しても支障なくゲー

ムを楽しめるのだ。序章で紹介したように、楽器系のアプリの体験もまったく変わっ

てくる。

28

 

ここで紹介したiPadとiPhoneの画面の大きさによる「便利さ」「快適さ」

の違いは、言葉でも比較的伝えやすい。ところがiPadには、もっと言葉では伝え

にくい大きな魅力もある。それは、画面のきれいさによるユーザー体験だ。

iPad画面は解像度が高くなくても美しい

 

そもそもiPadという製品には、キーボードもマウスもない。液晶画面と下のほ

うにホームボタンがあるだけだ。画面こそが主役であり、製品の顔であり、売りとな

る部分である。それだけに、画面はアップルのこだわりがもっとも感じられる部分で

もあるはずだ。

 

実際、iPadできれいな映像を見せると、大抵の人はそれだけでこの製品に惚れ込

む。iPadでは720pと呼ばれるHD画質(日本で言うハイビジョンとほぼ同義)

の映像をほぼそのままの解像度で再生できる(正式な720pは1280×720

ドットだが、iPadは1024×768ドット)。米国のiTunes

Storeで販

売/レンタルされているHD画質のスポーツやドラマなどのテレビ番組をiPadで

見ると、迫力がある上にきれいなので楽しい。

29

第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

 

iTunes

Storeでテレビ番組や映画を購入して見ることはこれまでの米国の

iPhoneでもできたが、画面のサイズが6倍大きいiPadでは迫力も印象も断然

変わるのだ。

 

きれいな写真も、絵はがき大で見るのと大判の写真集サイズで見るのでは大違い。こ

れと同様に、iPhoneの画面サイズはストーリーを伝えるには十分だったが、

iPadの画面サイズなら映像に込められた情感や空気感、気配といったものを伝え

やすい。

 

iPadの画像が素晴らしいのは、画面の美しさにも理由がある。明るく、発色が

非常によいのだ。多くの人は、iPadの画面に映し出される映像が、とてもきれい

だと言って驚く。

 

筆者のお気に入りiPadアプリの一つに序章でも紹介した「theGuardian Eyew

tiness

がある。プロのフォトジャーナリストの写真を、次々と表示するだけのアプリだ。プ

ログラム技術的には単純で驚く要素はない。だが、プロの写真家の息を飲むような写

真が毎日、無料で追加される。見た人はその写真のきれいさに驚き、続いて、それを

きれいに映し出しているiPadの画面のきれいさに驚かされる。

 

おもしろいのは、ここで言うiPadの画面のきれいさというのが、いわゆる高

30

精細からくるきれいさとは別ものであるということだ。実は

iPadの画面の解像度はそれほど高くはない(表1︱

1)。

 

iPadの液晶画面は9・7インチに1024×768ドッ

トの解像度で、132

ppi(1平方インチあたり132ドッ

ト)という画面密度で映像を描写する。一方、アマゾンの電子

ブックリーダーの「Kindle 

DX」は同じ9・7インチ

の電子ペーパーという異なる白黒のディスプレイ技術ながら、

1200×824ドットの150ppiとより高解像度になっ

ている。

 

iPadより少しだけ大きい10・1インチワイド液晶搭載

ノートパソコンでは、1366×768ドットという解像度が

一般的だ。このときの画面密度もやはり155ppiとiPad

を大きく上回っている。

 

他のメーカーがiPadのような機器をつくったら、似た画

面サイズだとしても、もっと高解像度の液晶にしていたか、同

じ解像度でもっとコンパクトな画面にしていたかもれない。そ

製品 解像度 画面密度

iPad 1024×768(9.7インチ) 132ppi

Kindle DX 1200×824(9.7インチ) 150ppi

一般的なノートパソコン 1366×768(10.1インチ) 155ppi

表1-1:iPadの液晶画面の解像度は他製品と比べて高くない

31

第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

れにもかかわらず、iPadの画面に映し出される写真は、これら高精細なライバル

製品以上に人々の心を打つ。一体なぜだろうか?

 

その秘密は、画面の明るさや、色のきれいさ、そして視野角の広さ(どんな角度か

ら見てもきれいに見えるということ)にありそうだ。

 

人々が量販店などでパソコン用ディスプレイを選ぶときは、ついスペックシートの

解像度に目がいってしまうが、実際に人々の心を動かすのは、画面の大きさや明るさ、

発色の良さ、そして表示される映像のスピードの速さのほうなのだ。

 

iPhoneが発売されたときに、日本メーカーに勤める友人が、

「iPhoneでおもしろいのは、あれだけ画面の解像度が低いのに、誰もそれを話

題にしないことだ」

と言っていたのを思い出す。

 

iPhoneの画面は3・5インチで480×320ドットだ。163ppiとか

なり高解像度ではあるが、iPhone発売当時の日本メーカー製の携帯電話では、

それをはるかに超えていた。2・4インチで640×480ドット(333ppi)

の液晶を搭載した端末が登場し始めていた。

 

それなのに、実際にはそうした高解像度の日本製携帯電話端末よりもiPhone

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のほうが「画面がきれい」と評価が高かった。

 

例えば、宴会などの席で人に写真を見せたいときに、iPhoneならテーブルの

中央に置いて、周りから囲むようにして全員でのぞき込むことができる。ところが

iPhone以外の携帯電話では画面が小さすぎたり、視野角が狭かったりするため、

一人ひとり回して順番に写真を見てもらうことになる。

 

高解像度の日本製携帯電話のほうが、Webページもより広い範囲を表示できるは

ずだが、ストレスを感じながら目を凝らして、小さな画面にビッシリ埋め尽くされた

小さな文字を読むよりも、iPhoneで拡大縮小を繰り返しながら読むほうが快適

だと感じる人が多かった。

 

このように他メーカーがスペックシート上の優等生を目指す中、アップルは最上の

体験を追求するものづくりを行ってきたのだ。

 

iPadの画面は決して高密度ではないかもしれないが、それでも十分、HD画質

に近い品質の映像を表現できる解像度はある。アップルはそこからさらに高い解像度

を追求するよりも、全体のバランスを考えた。そして、実際に使う人がどう感じるか

を、十分に考察し、液晶の明るさや発色の良さ、そして斜めからのぞき込んでも色合

いが変わらない広視野角のほうが重要だと判断したのだ。

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

ハード、ソフトの双方から追求した使い心地

 

iPadの第2の魅力は、ユーザーの操作に自然に反応する快適さだ。この快適さ、

速さや反応の良さといったいくつかの要素によって織りなされている。

 

まずは動作速度からみてみよう。iPadはとにかく速い。画面いっぱいに表示さ

れた写真を瞬時に切り替え、HD画質の動画も小気味よく再生してくれる。電源を

切った状態からでも、すぐに起動するし、大抵のアプリは瞬く間に起動する。

 

エレクトロニック・アーツという会社がつくっている「ミラーズエッジ」という

ゲームがある。リアルな3Dのキャラクターがビルの上を次々と跳び越えていくゲー

ムで、銃撃してくるヘリコプターなどが現れる度に、サスペンス映画のように視点が

滑らかに切り替わる。そんな高度な3D表現もiPadはやすやすとこなす。ゲーム

プロムという企業が出している「The Pinball H

D

」というiPad専用のピンボール

ゲームがあるが、こちらもピンボール台の上を滑らかに転がるボールを追うように立

体的に視点が動く。凝った映像を、これだけ滑らかに表示できるのはiPadの動作

が速いからだ。

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アップルは、この速い動作を実現するために、CPU、つまりコンピューターでい

うところの頭脳まで自社開発してしまった。iPadは「A4」という、それまで誰

も聞いたことのなかった1ギガヘルツのCPUを搭載している。

 

パーソナルコンピューターという概念の生みの親、アラン・ケイは、

「ソフトウェアを真剣に捉える人々は、自らハードまでつくってしまうべきだ」

と言っているが、アップルは、まさにそれを実践している。もっとも、それだけ高度

なCPUを一朝一夕につくれるわけはない。アップルはどうやらイントリンシティ社

という米国の小さなCPUメーカーを買収し、その技術をiPad用に最適化したよ

うだ。

 

高速なCPUを搭載すると、その分、本体が熱くなったり、バッテリーの消費が激

しくなったりするものだが、アップルは、おそらくこの部分をOSとCPUの両方か

らうまく調整しているはずだ。コンピューター(iPad)側に、負荷がかかってい

ない間はCPUの電力消費を抑えるといった具合にハードウェアとソフトウェアの両

側から最適化しているのだろう。

 

同様のことは一部のパソコンでも行われているが、CPUをつくっているメーカー、

本体をつくっているメーカー、OSをつくっている会社、アプリケーションをつくっ

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

ている会社がバラバラのWindowsパソコンでは、なかなか微細な調整が難しい。

アップルは、すべてを自社でまかなっているので、極めて柔軟な調整ができるのだ。

 

例として、写真の切り替え操作の例を掘り下げてみよう。写真を指でフリックして

(はじいて)前後の写真を表示させるときはCPUの高速性をそのまま活かすことが

できるが、順番の離れた写真を飛ばして表示する場合はどうだろう。

 

iPadのアルバム機能で写真を表示後、画面の下のほうを指で触れると、そのア

ルバムに入っているすべての写真が小さく一覧表示される。この上で指を滑らせると、

写真が秒間60枚くらいの目にも止まらぬ速さで次々と切り替わる。指を左右に振ると、

ちゃんとその動きにあわせて写真が切り替わり、そのあまりの速さに度肝を抜かれる。

 

だが、この写真切り替えの速さはA4プロセッサーの恩恵だけによるものではない。

実はOS側でちゃんと工夫がしてあって、高速切り替え中の目に止まらない写真は、

かなり解像度を落とした画像になっているのだ。だが、動かしていた指を止めると、

その瞬間にその写真を読み込んできれいな画質で描き直している。どうせ高速に画像

を切り替えている最中は人間の目でも画像の粗さがわからないので、無駄にCPUに

負荷をかけない。それでいてユーザーの指が止まったら、CPUとメモリーの速さを

活かして瞬時にその写真を読み込む。こうしたハード、ソフトの両面からの最適化は

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いかにもアップルらしいやり方だ。

 

同様のことは、iPadの繊細さを備えたタッチ操作についても言える。機会があ

れば、iPadやiPhoneといったアップル製品と、タッチパネルを搭載した他社

製品の両方で、簡単な絵を描いてみてほしい。

 

あるタッチパネル携帯電話のエンジニアは、

「どう頑張ってもiPhoneのように滑らかな曲線を描かせることができない」

と漏らしていた。

 

iPhoneやiPadのお絵描きソフトでは、指を滑らせて曲線を描くと、指がな

ぞった通りのきれいで滑らかな曲線を描ける。一方、他のタッチパネル機器だと、と

ころどころ線がギザギザになったり、まっすぐな線になったりしてしまうというのだ。

 

アップル製品が滑らかな曲線を描かせることができるのは、画面の解像度やタッチ

操作をどれくらいの頻度で検出するかといった仕様部分や、OSを含むソフトウェア

の最適化まで、製品担当者がそれらすべてを監督して、最良の体験が得られるように

調整しているからだろうと、先ほど紹介したエンジニアは言う。対して多くの日本

メーカーでは、ハードの担当者がハードだけをつくり、ソフトの担当者はソフトだけ、

ユーザーインターフェースと呼ばれる操作画面は外注してしまうことも多く、それぞ

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

れバラバラの分業体制をつなぐのは、どれくらいの画面解像度、どれくらいの反応速

度といった要件を取り決めたスペックシートだけ。製品によっては、操作が快適でな

くとも、うちの部署はスペックシート通りにやったから問題はないと、罪のなすり付

け合いになることもあるという。

 

これでは良い体験は生み出せない。

 

これに対して、アップルは本体の大きさから重量バランス、持ったときの感触や、

反応速度(CPUが速いからといって反応が速すぎてもいけない)

︱そうしたもの

すべてを製品担当者がしっかりと監督し、スペックシートの上でなく、実際に手に触

れたときの感触として心地よいかを検証している。

 

これは製品の工業デザインについてもそうだ。日本メーカーでのデザイン経験もあ

るアップルの工業デザイナーの一人が京都で講演したことがある。そこで、こんな話

を披露していた。

 

アップルでは一つの製品をつくるにあたって、100個以上の実物大モデルをつく

るという。ここで1個のモデルをつくるのに100万円かかるとしたら、日本のメー

カーだと5個までしかつくる予算がない、といってそこでやめてしまうそうだ。しか

し、アップルはいいものをつくるためであれば、そうした部分の予算に制約は設けな

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いという。

 

製品の大きさが2ミリ変わればそれだけでも手触りは変わってくるとして、アップ

ルでは話し合いで仕様が2ミリ変わるごとに、1から実物大のモデルをつくり、その

手触りを確かめている、という。

 

そうした工業デザインのレベルから、液晶画面などを含む部材の吟味と選定、その

上で動くOSの開発/調整、さらにはそれを動かすCPUの開発/調整まで行ってい

るのがアップルの製品だ。

 

こうしたこだわりから生まれてくる製品の良さは、実際に製品の実物を見てもらっ

たり触れてもらわないと伝わらないという難しさがある。しかし、逆に実際に見たり

触れたりしてもらえれば、すぐに人間の感性に響いてくるという強さもある。

 

アップルは、同社が製品の体験をこのようにトータルでデザインをしていることに

誇りを持っており、今日では、すべての製品に「D

esigned by Apple in California

の刻印を押している。

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

ユーザーの色に染まるシンプルなつくり

 

iPadの第3の魅力は、製品に変な味付けがされていないという部分だろう。よ

く言えば大人のデザイン、悪く言えばそっけないシンプルさを持ち味としている。

 

他社製品では、本体正面にでかでかとロゴが入っていたり、楽器機能やソーシャル

ネットワーク連携機能などをあらかじめ組み込んだりして、それらの機能を「売り」

のポイントにすることが多い。アップルはそうした余計な演出を嫌う。本体の外観も、

ホーム画面に標準で用意された機能も極めてシンプルそのものだ。

 

きれいな映像表示や、自然な反応速度といった本質的な要件をきっちりと満たすが、

それだけ。そこにあえて余計な要素は加えないように注意を払っている。

 

だから、出版社の人がiPadを見ると、そこに電子出版の未来を夢見るし、

ミュージシャンの人が見ると「新しい楽器」だと言って歓迎する。アーティストの人

にとっては、新しいポートフォリオやキャンバスに見えるし、ゲーム業界の人には、

これまでになかったサイズの新型ゲーム機に見えてくるのだ。

 

iPadはまるで、鏡のようなデバイスだ。

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電源を切っている間は、ガラスコーティングされた液晶画面部分にユーザーの顔が

映り込んでまさに鏡のようだが、実は電源を入れている間も、画面に映し出されるア

プリなどが、まさにそのユーザーの趣味趣向を写す鏡となっているのだ。

 

これが、先ほど挙げたような最初から味付けされた製品の場合、実際にはもっと多

彩な用途に使えたとしても、使っている側が買ったときの印象で、「楽器機能が付い

たケータイ」「ソーシャルネットワーク端末」というように、製品の用途を限定的に

捉えて、発展性を狭めてしまう。

 

アップルはそうならないように、余計な機能を徹底的に減らしている。さらに当初

搭載してあるアプリの機能も、余計なものをあまり加えない非常にシンプルなものに

している。

 

例えば「メモ」というアプリがあるが、これはメモを書き込んだり、読んだりする、

ただそれだけのアプリだ。大量にたまったメモをフォルダごとに仕分けしたり、色分

けのラベルを付けたりといった、よく他の電子手帳で見かけるような機能はない。そ

の代わり、探しているメモがあれば、検索機能を使って瞬時に見つけ出すことができ

る。

 

やたらと機能を加えて複雑にするのではなく、最低限本当に必要なものは何かを見

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

極めて、その機能だけをしっかりとわかりやすく、使いやすく実装する

︱。これが

誰もがすぐに使い始められるiPadの簡単な操作の秘密でもあり、同製品にはたっ

た1枚の絵はがきのようなマニュアルしか付属しないのに、多くのユーザーが困らず

に使えている秘密でもある。

 

機能が増えれば増えるだけ、電子製品の操作は複雑になる。多くのメーカーは、使

い方をマニュアルに記すことで、その複雑さを解決する責任を果たしたつもりになっ

てしまうが、実はそうやってサポートも含めたコストを増やし、使われない機能を増

やしていることにはなかなか気づいていない。

 

ここでもう一度、考えてみたい。使われることのない機能がたくさん詰まっている

製品と、使いたい機能がしっかりつくり込まれている製品とでは、どちらがありがた

いかを。

 

iPhoneが登場して1年後に米国で行われた調査として、アップルはWWDC

(世界開発者会議)2008で、こんな結果を紹介した。iPhoneの顧客満足度は

90%、99%がWebブラウザを利用、94%が電子メール機能を利用、90%がSMS

(ショートメッセージサービス)を利用、そして80%の人が10以上の機能を使いこな

している、というものだ。

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アップルのワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏をイ

ンタビューしたとき、彼はこんなことを言っていた。

「我々が非常に誇りに思っているのは、顧客の気持ちになって勇気を振り絞り、難し

いトレードオフの中の最良のバランスを見つけていることです」

 

8割くらいの人が、しっかりと使いこなせて満足できる機能をつくる、それがアッ

プルのものづくりのアプローチであり、iPadでも、まさにそれが実践されている。

機械に詳しい1、2割の人は、多少物足りなさを感じる部分があるかもしれないが、

それは世界中のプログラマーが提供するアプリで補ってもらえばいい。

 

iPadはパソコン同様に、入れるアプリ次第で楽器にも、絵を描くキャンバスに

もなれば、ノートにも、ゲーム機にもなる汎用デバイスを目指しているのだ。

 

ちなみに、そうしたデジタルの汎用デバイスでは、画面こそが主役だから、iPad

では画面だけが際立つように、本体に対して十分な大きさをとっている。画面の周り

にあるのはiPadを持つ親指で画面が隠れないように用意された約2センチ幅のフ

レーム、そしてそのフレームの中にひっそり目立たないように配置された「ホームボ

タン」だけ。本体を両手で掴むと、目に飛び込んでくるのはiPadに映された映像

や写真、ゲームの画面であり、そこにしっかりと集中できる。

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

 

このように製品のカタチにおいても、余計な装飾を一切せず、要件だけを忠実に満

たすシンプルな仕上がりになっている。

 

この洗練されたシンプルさが、iPadをより幅広い層の人々が受け入れる理由な

のだ。

iPadの核となる7つのライフスタイル

 

さて、iPadはシンプルで余計な機能が付いていないと書いたが、最初からまっ

たく機能が用意されていないわけではない。アップルはiPadに余計な機能を加え

ないように議論を繰り返す一方で、すべてのユーザーが恩恵を受けられる万人向けの

機能が何かと議論し、そうした機能はしっかり残している。

 

ではアップルは、買ったばかりのiPadに、どんな機能を残したのか。これを紹

介する前に、アップルがそもそもどんな考えでiPadをつくったのかを紹介したい。

 

iPadが発表された2010年1月27日、アップルのスティーブ・ジョブズCEO

は、iPad誕生の背景をこんな具合に説明した(写真1︱

1)。

 「iPhoneのようなスマートフォンとノートパソコンとの間に何か新しい市場が

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ありそうだということは、IT業界で

も以前からよく言われていた。多くの

パソコンメーカーは、ここにネット

ブックと呼ぶ製品を投じてきた。だが、

我々はこれが答えだとは思わない」

 

ネットブックとは、見づらいディス

プレイや遅いCPUなど、古くて安く

なった部品を使った非力なノートパソ

コンであることが多く、その上で動作

するのもパソコン用ソフトだ。パソコ

ン用ソフトはインストールも大変なら、

一度入れたソフトをアンインストール

するのも大変だ。ソフトウェア産業に

被害をもたらす不正コピーの問題もあ

れば、それに対抗するために行われて

いる面倒なコピー防止機能など、ユー

写真1-1:発表イベントでiPadを紹介するスティーブ・ジョブズCEO

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

ザーの利便性にまったく関係ない機能も組み込まれている。ウィルスの心配もあれば、

互換性の心配もある。

 

それにネットブックと名乗りながら、大半の製品は通信機能を内蔵しているわけで

はない。普通のノートパソコンと同じように、鞄から取り出したら休止状態から復帰

するまでしばらく待ち、それから通信用のカードやスティックを本体に挿し、ダイヤ

ルアップという操作を行う。これでようやくインターネットが利用可能になる。

 

一方でiPhoneの流れを汲むiPadは画面が見やすく、CPUが速いばかりか、

iPhone用のアプリをそのまま使うことができる。つまり、アプリはAア

pp

Sス

toreというアップルがきちんと管理した販売サイトで売られるため、購入後の

インストールも全自動なら、削除も簡単に行える。アップルの審査を受けたアプリし

か売られないのでウィルスの心配はなく、ユーザーのApp

Storeのアカウント

と紐付けされて、それ以外のiPhone/iPadにコピーしても動かないので不正

コピーの心配もないし、互換性のないアプリは購入ができないしくみが用意されてい

る。

 

おまけにiPadはiPhone同様、休止状態から一瞬で使える状態になり、画面

が表示された瞬間には既に無線LANか携帯電話網を通してインターネットに接続し

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た状態になっている。

 

つまり、思い立ったらすぐにWebやGoogleマップの地図を確認できるのだ。

 

アップルのスティーブ・ジョブズCEOは、スマートフォンとノートパソコンの溝

を埋めるiPadを、別の製品とも比較した。

 

アマゾンの電子書籍リーダー「Kindle」だ。ジョブズ氏は、アマゾンがリス

クを背負って、電子書籍市場という新しい市場を切り拓き、しかも、成功を収めたこ

とを高く評価した。2007年頃から発売されていたKindleだが、2009年

からラインアップが増え、同年のクリスマス時期には、アマゾンの書籍販売サービス

で、電子書籍の売り上げが紙の書籍のそれを上回るという結果を出し、にわかに電子

書籍に注目が集まった。

 

だが、そこで黙って相手を褒めてばかりいるジョブズ氏ではない。彼はアマゾンの

成功を賞賛しつつも、

「我々は、彼らの肩の上に乗って、その先に進んでいく」

と宣言した。

 

もちろん、その布石となるのがiPadだ。

 

ジョブズ氏は、市場が求めているのはKindleのような電子書籍リーダー専用

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

デバイスではなく、今日のデジタルライフスタイルにおいて圧倒的な快適さを提供す

る汎用型デバイスだと説明した。そして、その圧倒的な快適さを提供するには、重要

な7つのキーポイントが欠かせないと言う。

 

7つのキーポイントとは、

・Webブラウジング

・電子メール

・写真

・動画

・音楽

・ゲーム

・電子書籍

 

余計な味付けを極力廃し、徹底的にシンプルを追求したiPadだが、備え付けの

機能で、ゲームと電子書籍を除く代表的なライフスタイルはしっかり押さえてある。

Webブラウジングにおいては、iPhoneでも定評がある高速で快適な操作のWeb

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ブラウザ「Sサ

afari」が標準で付いている。

 

iPhoneでは、画面が小さいため、頻繁にページの拡大・縮小操作を行う必要

があったが、iPadの画面サイズならパソコン用につくられた新聞社のニュースサ

イトなどでも、ほぼそのままの解像度で読むことができる。もちろん、文字が小さい

と思った人は、指でチョンチョンと2度つついたり、2本の指を広げるピンチインと

いう操作で拡大することも可能だ。

 

電子メールについては、既に記したが、受信メールの一覧と本文を同時に見渡せる

快適さと、ノートパソコン並みの大きなキーボードを使って返信を書けることが魅力

だ。

 

それからもう一つ、受信箱にある不要メールを、一覧表示状態で選択し、まとめて

ゴミ箱に捨てたり、別のフォルダに仕分けたりする操作が、非常によくできていて、

その際の画面のアニメーション表示も心地よい。メールを1件選択する度に、一覧か

らメールの中身が飛び出してくるので、それが本当に捨ててよいメールか確認できる

のだ。選択を解除すると、手前にあるメールがペラっとめくれてから、解除したメー

ルが一覧表の中に戻っていく。

 

このちょっとしたアニメーションのおかげで、メールを間違って捨てたり、間違っ

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

て仕分けしたりすることが防げるのと同時に、メールの仕分けという退屈な作業を、

ちょっとだけ楽しい作業に変えてしまっている。

 

写真についても、既に書いたように、9・7インチサイズいっぱいに大映しになる

写真を高速かつ快適に切り替えできる。旅行の写真、家族写真といった具合に写真を

種類別のアルバムと呼ばれる束に分けておき、その束を指で開いて、どんな写真が束

に入っているかのぞき込むこともできる。

 

変わったところでは、パソコンでの作業中など、iPadを使っていない間、これ

を電子フォトフレームとして使う機能もある。起動画面に表示される花のアイコンを

タップすると、あらかじめ選んでおいたアルバムの内容が、スライドショー形式で表

示されるのだ。

 

また、別売りのカメラコネクションキットを購入すれば、デジタルカメラからiPad

へ直接写真を取り込むこともできる。

 

一方、iPadの動画機能への印象は、日本のiPadユーザーとアメリカのiPad

ユーザーでは大きく異なりそうだ。というのも、米国ではiTunes

Storeでテ

レビ番組や映画といった動画が販売されているからだ。テレビ番組であれば1番組

200円ほど、あるいは1シーズンまとめて2500円ほどで購入できる。映画は

50

1000円以上のものが多いが、視聴し始めてから24時間後にデータが自動的に消滅す

るiTunes

Movie

Rentalというサービスがあり、こちらなら1本300円

くらいで見ることができる。

 

購入またはレンタルできるのは、アップルの専門部署がきれいにデジタル化した動

画だ。特に、HD画質のものを視聴すると、iPadの画質の美しさに改めて驚かさ

れる。

 

ところが、残念ながら日本にはこれらのサービスがなく、iTunes

Storeか

ら入手できる動画は、音楽ビデオかビデオポッドキャストに限られてしまう(ポッド

キャストの中にはいくつかHD画質のものがある)。このため日本でiPadの動画

を本格的に楽しもうとすると、動画サービスのYユ

ouTubeを通して見るか、ある

いは動画エンコードという作業をパソコンで行わなければならなくなる。もっとも

YouTubeの動画でも、iPadならかなりきれいな画質で楽しむことができるは

ずだ。

 

音楽で言えば、音楽プレイヤーのiPodや携帯電話のiPhoneと比べて、特段、

機能的に優れているところはない。ただし、本体が大きい分、内蔵スピーカーの出力

が少しだけ大きくなる。また、画面が大きいので曲を選択しやすくなった。

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

 

もう一つ言えば、任意の曲を選んで再生すると、そのアルバムカバーが巨大な

iPadの画面いっぱいに大映しで表示される。このときの大きさがちょうど昔のレ

コードで言うところの7インチシングルのような大きさ(CDよりもさらにひと回り

大きいサイズ)で、モノとしての存在感があるのだ。自分の好きなアーティストの好

きなアルバムジャケットだったりすると、なんだかそれを見ているだけで、うれしく

なってくる。

 

もちろん、標準の機能以外で言えば、早くからたくさんの楽器系アプリケーション

が揃っていることも、iPadがいかに音楽利用との親和性が高いかを物語っている。

 

アップルが重要とする6つ目のデジタルライフスタイルであるゲームについて言え

ば、実はアップルは標準のゲームを用意しているわけではない。ただし、既に

iPhoneで数々の大ヒットゲームが誕生していることもあり、早くから多くのゲー

ム開発者がiPadに注目している。実際にiPadでそうしたゲームをプレイして

みると、Nintendo

DSやソニー・コンピュータエンタテインメントのPSP

といったそれまでの携帯型ゲーム機よりもはるかに大きい画面に、迫力と新鮮味を感

じる。

 

米国ではパソコンでプレイする白兵戦や空中戦などのゲームの人気が高いが、臨場

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感を売りにしたこの手のゲームもNintendo

DSやPSP、iPhoneの小さ

な画面ではいまひとつ楽しめないが、iPadの画面サイズなら迫力もあって楽しそ

うだ。

 

7つめのライフスタイルである電子書籍は、まさにiPadの目玉と言えそうだ。

 

アップル自身が用意した電子書籍サービスのiBooks(当面は米国のみで展開)

も素晴らしいできだが、それに加えて米国の雑誌社や出版社が、iPadに良いイン

スピレーションを受けて今後の電子書籍の方向性を指し示すような質の高い本を、

iPad登場後すぐにアプリとして出し始めている。これについては第3章で、詳し

く紹介していきたい。

パソコンの代替にもなる

 

なお、iPadには、ここまでに紹介した機能以外にも、「カレンダー」「連絡先」

「メモ」「マップ」といった機能を標準で用意している。いずれもiPhone版を基

にしながらも、iPadの大きな画面サイズにあわせてつくり直し、より多くの情報

を快適に見通せるようになっている。

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第1章 使ってわかるiPadの3つの魅力

 

また、アップルはこれに加えて、ワープロソフトのPages、表計算ソフトの

Numbers、プレゼンテーションソフトのKeynoteの3つを各1200円で

発売する。いずれもマック用に提供されていて定評のあるソフトで、マイクロソフト

オフィスの代わりとして利用できる(オフィスの書類を読み込むこともできる)。

 

見栄えのする書類が簡単にでき上がるという、アップルらしい非常に斬新な方法で

つくられたソフトの操作も簡単だ。

 

起動すると、チラシや請求書といった、よくつくる書類のひな形がでてくる。この

ひな形が、アップルが厳選したトップクラスのデザイナーがデザインしているだけ

あって、かなり見栄えがするのだ。後はそこに書かれている会社名やロゴマーク、名

前、文章などを置き換え、自分で用意した写真を挿入すれば、まるでプロのデザイ

ナーに発注したかのようなかっこいい書類ができ上がる。

 

ひな形を見ると、「このかっこいい書類に自分の文章が入るのか」とそれだけでモ

チベーションが高まる人も多いだろう。なお、これら3アプリは、iPadがある程

度はノートパソコンの代用としても利用できることを示すものと言えよう。

 

書類に動画を入れたり、多彩なフォントを使って彩りを加えようとしたりすると、

パソコンを使うことになる。だが、メールで送られてきた書類をちょっと修正したり、

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急ぎで資料をつくったりする程度であれば、iPadで十分代替がきく。画面に映し

出された仮想キーボードで長文を打つのは、なかなか慣れないかもしれないが、アッ

プルはそんな人のために専用のキーボードも用意している。

 

どんな用途にはスマートフォンを使い、どんな用途にはパソコンを使い、どんな用

途にiPadを使うのか。その答えは、おそらくアップルも含め、まだ誰にもわから

ない。

 

だが、これからiPadユーザーが、スマートフォン、パソコン、iPadという

3つのデバイスを、クルマのギアをシフトするようにして使い分けていくことで、今

後のスマートフォンやパソコンの使い方にも大きな変化が出てきそうだ。

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