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7Vol.54(2013)No.11 SOKEIZAI
インドネシア鋳造産業集積地における新潮流と、専門家を輩出する教育機関について
2.インドネシア鋳造業の特徴
堀 琢 磨 前経済産業省素形材産業室
写真 1 パンチングスクラップ
写真 2 スクラップ
(1)生産を取り巻く背景①原材料・副資材について 輸入価格の高い銑鉄(Besi kasar pengecoran)を使用しない鋳造企業においては、スクラップの調達力が競争力の差となっている。スクラップの調達事情が悪い中、自社で発生した切削加工後の戻り屑は資源として重要である。溶解(Peleburan)については、鋳物用コークス(Kokas pengecoran)の輸入価格が高騰した後は、キュポラ(Kupola)から電炉(Tanur listrik)への転換が急速に進んだ。産地の経営者によれば、キュポラの管理面に加えて、連続操業を行うための最低限の受注量を確保することが難しかったことも背景にある。また、融点の低いアルミの重力鋳造では、軽油価格の高騰により、天然ガス(インドネシアでは安価)への転換が、産地の中小企業において進行中である。 鋳物砂(Pasir pengecoran)は、バンカ島の珪砂(Pasir silika)が広く知られている。ツバン(スラバヤ北西約100km)の山砂のように、水と練るだけで粘土の作用により固まる砂もある。砂はやや
1.はじめに
近年、ものづくりの良きカウンターパートとして、インドネシアに注目が集まっている。しかしながら、産業集積地におけるローカル企業の動向については、あまり知られていない。アセアンの首都は、空港(日本からの直行便)、海港、工業団地がそろう、非常に恵まれた場所であり、あらゆるセクターの工場、オフィス、物流が集中する。ジャカルタから 70km東方でさえも、工場用地やカウンターパートを探すことが容
易ではなく、地方に目を向けることで選択肢が広がる。そこで、本稿では、インドネシアにおけるローカル企業に焦点をあて、産業集積地における新たな潮流や教育機関について取り上げる。第一に、インドネシア鋳造業の特徴、第二に、鋳造産業集積地に見られる新たな取り組みについて、第三に、鋳造現場を支える教育機関について述べる。本稿のうち、意見にかかる部分は個人的意見であることをお断りする。
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3.鋳造産業集積地に見られる新たな取り組みについて
肌理が細かく、適度な粘土分を含み、ほくほくする感触である。また、鋳造現場では、込め砂(Pasir penehan)として、セメントを使用することがある。砂にセメントとモラセス(糖蜜)を配合する。②企業形態と産業集積地 伝統的産地は、チェペル(Ceper、ジャワ島中央部)とトゥガール(Tegal、ジャワ島中部北岸)である。チェペルに鉄鋳物工場が集積するのに対して、トゥガールには非鉄鋳物工場の集積が見られる。近年は、自動車メーカーが生産量を伸ばしていることから、ジャカルタ近郊の自動車部品を生産する鋳造
工場は、軒並み設備を増強させている。 企業形態については、規模を問わず、部品完成品や最終組立製品まで一貫生産を行う企業がほとんどである。鋳放品を出荷する独立系企業の成立を難しくしているのは、①企業ないし企業グループ内で工程を完結させているため、鋳放品のみの外注が発生しにくい、②ロボット、食品機械、工作機械のような、鋳造品を使用しながらも鋳造工程を持っていないメーカーがそもそも少ない、③生産量が変動する中、機械メーカーの鋳物部門が注文を受けるようになり、ますます鋳放品の注文獲得が難しい、という背景も一因にあろう。
(2)APLINDOについて 鋳造協会に相当するものは、APLINDO(Asosiasi Industri Pengecoran Logam Indonesia、インドネシア鋳造産業協会)である。加盟企業は、表1の通りである。メンバーの増減があり、過去には、PT. TOYOTA ASTRA MOTOR、PT. KOMATSU、PT. BOMA BISMA INDRA (Persero、国営企業)、PT. AGRINDO が加盟していた。APLINDO は、会員共通の問題を解決するための活動として、例えば、基準適合性、研修会の開催、展示会支援、情報提供を中心に活動を行っている。会長の下に、鉄系では、銑鉄鋳物、インベストメント鋳造、鍛造の部会が設置されている。非鉄に関しては、ダイキャスト、非鉄鋳物、非鉄精錬の部会がある。APLINDOを含む金属関係の 12 協会は、GAMMA(Gabungan Asosiasi Perusahaan Pengerjaan Logam dan Mesin、インドネシア金属機械工業協会連合)に加盟する。APLINDO の会長は、GAMMAの役員を兼ねている。アセンブラーに関しては、例えば、建機メーカーと部品メーカーは、HINABI(Asosiasi Industri Alat Berat Indonesia、インドネシア重機産業協会)を結成している。HINABI の事務所は、PT. KOMATSUにある。
写真 3 トゥガールの鋳物工場に残るキュポラ。 現在は使われていない。
写真 4 玄関の飾り。美術鋳物 (Coran Artistik)である。
写真5 セメントと糖蜜を混ぜたバッキングサンドを使用する。
工場現場にてインドネシア人経営者と意見交換を行った中から、8つの事例を紹介する。
(1)独立開業して工程を前後に拡張するケース トゥガールは、ものづくりの町である。町の中心部においても金属加工企業・販売企業の他、家具の製造・販売企業が目立つ。木型は家具職人が作るという。
古くは、銀食器、楽器、鍋、人形劇用の人形が作られ、その後は、中小造船メーカーに加えて、BARATA社やDWIKA社(当時)から小物の発注を受けて、産業の厚みが増した。トゥガールの中でも、鋳造企業が密集する地区は、クバスン村(KEBASEN)である。人口約 3,000 人の村に、金属加工メーカーが約100社あり、うち 50社が鋳造工程(全て非鉄鋳物)を持つ。
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
表 1 APLINDO加盟企業
工場 設立 鉄 鋳鋼 IC 非鉄 DC 備考
PT. Growth Asia Medan(スマトラ島北部)1989 ● ● 産業機械部品
PT. Bina Usaha Mandiri Mizusawa Tangerang(Jakarta の西) 1988 ● 自動車部品、ポンプ部品、
ディーゼルエンジン
PT. Shaprindo Dinamika Prima Tangerang(Jakarta の西) 1984 ● 空調部品
PT. Stainless Steel Primavalve Majubersama
Tangerang(Jakarta の西) 1992 ● 配管部品
PT. Sempana Jaya Agung Depok (Jakarta の北) 1985 ● 自動車部品、電気機械部品
PT. Daya Baru Agung Jakarta 1977 ● 自動車部品(二輪車)
PT. Geteka Founindo Jakarta 1990 ● ● ● 自動車部品、ポンプ部品、建機部品
PT. Metinca Prima Industrial Works Jakarta 1987 ● ● ● ポンプ部品、エンジン部品、建機部品
PT. Moradon Berlian Sakti Jakarta 1984 ● 自動車部品
PT. Pakarti Riken Indonesia Jakarta 1974 ● ● 自動車部品
PT. Pakoakuina Jakarta 2008 ● 自動車部品(ホイール)
PT. Trieka Aimex Bogor (Jakart の南) 1992 ● ● ポンプ部品、産業機械部品
PT. Wijaya Karya Intrade Bogor (Jakart の南) 1983 ● ● 自動車部品、配管部品
国営企業
PT. Bakrie Tosanjaya Bekasi(Jakart の東) 1976 ● ● 自動車部品、建機部品
鋳造企業を次々に買収。
PT. Chemco Harapan Nusantara Cikarang(Jakart の東) 1984 ● ● 自動車部品
PT. Astra Daihatsu Motor Casting Plant Karawang(Jakart の東) 1997 ● ● 自動車部品
PT. Yamaha Motor Parts Manufacturing Indonesia
Karawang(Jakart の東) 1996 ● ● 自動車部品(二輪車)
PT. Pindad (Persero) Bandung 1983 ● ● 産業機械部品国営企業、軍需~民需品
PT. Karya Hidup Sentosa Yogyakarta 1953 ● 農業機械部品農機メーカー
PT. Texmaco Perkasa Engineering Semarang 1979 ● ● 産業機械部品(織機、機械)プラントメーカー
PT. Tri Sinar Purnama Foundry Semarang 1987 ● 配管部品
PT. Jatim Taman Steel Surabaya 1970 ● ● 産業機械部品、棒材
PT. Barata Indonesia (Persero) Gresik(Surabaya の北) 1971 ● ● 産業機械、鉄道台車
国営のプラントメーカー
注)IC:Investment Casting,DC:Die-Casting.工場所在地は、近隣の大都市名を記している。精錬所、資材・副資材メーカーを除く。
PT. Bakrie Tosanjaya では、PT. Aneka Banusakti において鋳鋼を扱う。
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この鋳造産業集積地における主力製品は、①船のパーツ、②消火栓、ポンプ、③農機具(脱穀機、トラクター部品)、④自動 2輪用補修部品である。 UD. SETIA KAWAN社(従業員 16名)は、名前の通り、仲良いチームワークが自慢の会社である。社長は、以前は両親の会社(鋳造+機械加工)で仕事をしていた。ご両親が亡くなった後、兄弟は別々に独立した。開業は2011年である。両親の工場では、船の窓枠単品(鋳放品を旋盤で加工)を扱っていたが、独立開業後は、①最終製品への拡張(ゴム枠とガラス、蝶番を取り付けた窓枠セット品)、②製法の異なる製品への拡張(プレスによる船のドア枠の生産)を果たしている。アルミ製のドア枠を曲げる機械は、自社で設計を行い、町工場の協力を得て完成したものである。注文は、直接顧客から受ける。アフターマーケットの製品は、「これと同じものを何セット作ってください」という注文を受けるのである。取引先は、カリマンタン、スラバヤ、チルボン、ジャカルタなどにある。品質管理は、LIK 中小企業地域支援センターの指導を受けている。
(2) 複数の機械加工メーカーが、共同で鋳造工場を経営するケース
PT. PUTRA BUNGSU MAKMUR社は、2012年 5月に設立したばかりの鋳鉄鋳物企業である。MAKMUR
は繁栄の意味である。機械加工メーカー 4社が、設備費用とランニングコストがかかる鉄鋳物工場を、共同で所有することになった。 経緯については、もともと、FCの鋳造工場と機械加工工場を所有する企業があった。1社で所有していた鋳造工場の経営に、3社の機械加工専業メーカーが参画し、計 4社が 25%ずつの出資を行い、鋳造工場を独立させた。出資を得て、炉を増強するとともに、扱う素材を広げている。現在、溶解炉は、インダクトサーモ(500kg 炉)、高周波誘導炉(Tanur induksi listrik frekuensi tinggi)(2 t 炉、1 t 炉、250kg 炉)である。従来はFC(Besi cor kelabu)であったのに対して、現在の生産量は、半分が FCとFCD(Besi cor bergrafit bulat)、残りの半分が鋳鋼である。評価・計測装置については、フランス製のスペクトロメーターを導入し、また、1 t の焼き入れが可能な熱処理炉も持つ。自硬性鋳型(Cetakan mengeras sendiri)による生産であり、小物は水ガラス(Air kaca)、大物はフラン樹脂を用いる。
(3) 産地の組織形成に力を入れて、技術の向上と共同受注を進めるケース
PT. ANEKA ADHILOGAM KARYA(1970年設立)は、 配管・バルブを軸に、 様々な(Aneka)仕事(Karya)
写真 8 共同経営を行っている銑鉄鋳物工場。非鉄鋳物の産地であるトゥガールでは珍しい鉄鋳物の工場である。
写真 7 規模を問わず、機械加工工程を持つ。写真 9 鋳造工場の共同経営者が、他社の機械加工工場を見て、
檄を飛ばしている。お互いの技能を高めあっている。
写真 6 トゥガールの鋳造産業集積地。自宅を改造して工場をつくる。
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
に関する鋳造製品を扱っている。従業員は 120名で、年産 2,000t程度である。塗装・組立・試験を行った完成品を、県の水道局等に納める。同社の 2代目社長は、地域の世話役として、産地の活性化に力を注ぐ経営者である。鋳造品は、半分が生型で、残りはガス型とセメント型を使用して生産する。オーナーは、地域の経営者 5名とともに日本で研修を受けたことがある。オーナーは、京都で研修し、トヨタ、デンソー、カシオ等を見学したことがある。 チェペルのバトル村には鋳造企業 293社が集まる。ここは、インドネシア屈指の鋳造産業集積地である。大企業は 20社程度で残りは中小企業である。バトル村には、企業経営者からなる組合、BATUR JAYAがある。地域の商工会議所であるものの、実際は、ほぼ全てが鋳造企業である。BATUR JAYAの機能は、①交流機能、②人材育成機能、③共同受注機能へと、活動の幅を広げてきた。 POLMANチェペルが地場企業等によって設立されたように、ここチェペルは、人を育てる機運にあふれる地域である。各社従業員の鋳造技術向上については、主に POLMANチェペルの講師が研修を行う。QCや経営管理については、経営者が集まって、各地から講師を呼んで学ぶ。今後、人材育成研修を行いたい分野は、経営管理、従業員のモチベーション向上、国内外における鋳造業やユーザー産業の動向、鋳造産業の方向性(10年後のビジョン)である。新素形材ビジョンを紹介したところ、非常に関心を持っていた。
(4) スクラップ調達と低品位スクラップの対応を進めるケース
銑鉄の国内生産が無いインドネシアにおいては、良質のスクラップを炉に投入することが、優れた品質の製品をつくる鍵となる。資材・副資材の供給源(プレス工場等)と流通網が発達する日本とは、事情が大きく異なる。インドネシアのローカル企業に行き、スクラップ置場を見ると、調達力の違いは明らかになる。ユーザーによっては、プレスの打ち抜きを持ち込み、鋳造品をつくる流れが成り立っている。 アーク炉(Tanur busur listrik)の増強を進める企業もある。国営企業 BARATAは、インドネシア有数のプラント・産業機械メーカーであり、鋳造部門(FC、鋳鋼)はスラバヤに近いグレシックにある。鋳鋼(Baja cor)は、北米及び国内向け鉄道台車に特化している。車輪は生産していない。同工場では、アーク炉の増強が進む。あらゆるスクラップに対応する「雑食性」が競争力の鍵である。
(5) 海外の大学教員からの指導を得て、管理技術の向上と技術の高度化を進めるケース
工業省局長との会議で、鋳鋼を扱う優良企業として紹介を受け、その 2時間後に訪問した企業は、METAL CASTINDO INDUSTRI-TAMA社である。TAMAは Pertama(一番)を意味する。インドネ
写真 10 注湯の様子
写真 11 経営者と POLMANチェペルの先生方
写真 12 BARATA社の鋳造工場では、北米向けの台車を生産している。
写真 13 インベストメント鋳造法(ロストワックス)に よって生産された部品は、欧州に出荷される。
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シア大学で鋳造を学んだ、若手役員が切り盛りする。同社は、ドイツから、インベストメント鋳造(Cetakan invesmen)を導入して、欧州各国に輸入を拡大して事業を拡大させた。場内には、組み立てられたツリー(Saluran pohan)が並ぶ。ドイツ企業との取引があり、ドイツの大学教員が年に一か月ほど指導に来ている。最近では、砂型鋳造品(Coran cetakan pasir)の事業を拡大して、建機部品をはじめ、FCD及び鋳鋼品を手掛けている。
(6)定期的に需要が発生する消耗品を供給するケース セメント、パーム油、製糖、建設、鉱山(石炭、ニッケル)は、消耗品の需要が発生する分野である。CV PRIMA LOGAM社(PRIMAは重要、LOGAMは金属の意味)は、砕石に関わる企業である。ジョークラッシャーに、石、石灰とともに入れる、グラインディングボール(400gの鉄球)を生産する。クロームを調整して、注湯を行う。社長室には、JICA のQCセミナー修了証(於:バンドン)が飾られている。定期的に需要が発生する消耗品市場に関わり、生産を伸ばしている。
(7) 鋳造企業が同業企業を買収して、扱う素材と製品を広げるケース
バクリー・グループは、金属、石炭、農業、情報通信、石油・ガス等の企業を持つコングロマリットである。金属分野の PT. BAKRIE TOSANJAYA(バクリー・トサンジャヤ)は、現在 6つの鋳造企業(工場)、PT.BAKRIE TOSANJAYA(1975年設立)、PT. BRAJA MUKTI CAKRA(1985年設立、50%シェア)、PT.JIBUHIN BAKRIE INDONESIA(1996年設立、40%シェア)、 PT. BINA USAHA MIZUSAWA MANDIRI(2010年、99.99%シェア)、 PT. BAKRIE TOSANJAYA CAKUNG PLANT(2010年、100%シェア)、 PT. ANEKA BANUSAKTI(2011年、58%シェア)を保有する。バクリー・グループ内からの注文を柱とする一方で、最近は、グループ外からの注文が目立って増えている。ジャカルタ近郊のブカシにある PT. BAKRIE TOSANJAYAでは、鋳鉄製自動車部品(ドラム、ギアハウジング)を扱い、東ジャワにある PT.ANEKA BANUSAKTI では、鋳鋼(建機用、セメントプラント用、炭鉱用、採石用、パームオイルプラント用)や遠心鋳造(自動車エンジンのシリンダーライナー等)を扱うように、自動車部品から、建機部品、産業機械部品まで、幅広い製品を手がけている。世界をみると、ドイツの DIHAG Gruppe は、次々に買収を重ねて、12 社の鋳造企業において、100g から100t までの様々な素材から成る製品を扱う。同社の
戦略と共通点がある。 自動車は、拡大基調である。しかし、例えば、建機の需要には変動が生じる。建機部品(鋳鋼品)を扱っている企業は、①手込め、大物を行っている、②地方に立地する(ジャカルタ周辺企業は、自動車に目が行っている)、③軸足を複数持つ(受注変動と、アセンブラーの第三国調達により、注文量が変動するため、建機のみは難しい)、④質の安定したスクラップの調達ルートを持つ、⑤鋳鋼に不可欠な熱処理炉を持っている、⑥資金的余裕がある、という共通点があるように思える。
(8) 新しい鋳造ラインにより、生産効率の向上と品質の安定化を達成して、製品の幅を広げるケース
PT. BAJA KURNIA(1988年設立)の会長は、大学教授である。会社名は、鋼鉄川口の企業を訪問した縁で、川口の企業がチェペルに工場をつくる事例(PT. ITOKOH CEPERINDO)があったように、人の縁を大切にする経営陣である。従業員は 180名であり、チェペル最大手の工場である。かつては、石油ポンプ(0.1t ~ 8 t)を作っていたが、現在は、日本をはじめ各地の企業と提携し、海事関係の部品、肥料工場やパームオイル加工場の機械部品、カウン
写真 14 近代的な鋳造工場である。
写真 15 桟橋の係船柱(ビット)。 高さ 1.2m、重量 15tである。内外から、 多様な形状の鋳造品を受注する。
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
ターウエイト、マンホールの蓋、継手、建機用の爪等、製品の幅を広げている。鋼屑、パンチ屑はジャカルタから輸送している。日本メーカーのジョルトスクイーズタイプ造型機と砂処理設備を導入した。造型
は生型、CO2 型、フラン型、セメント型の 4種類あり、製品と数量によって使い分ける。日本人専門家が 1年間滞在して指導した。
写真 16 POLMANチェペルにおける座学の講義
写真 17 3セメスターで、シミュレーションと現実の違いを修正していく。
4.専門家を輩出する教育機関
POLMAN(Politeknik Manufakutur、技能高等専門学校)では、高校卒業生を対象に、3 年間の教育が行われている。実学を重視した教育が行われ、計9 か月間の企業実習が含まれる。鋳造講座を持つPOLMANは、チェペルとバンドンにある。4 学科を持つ POLMANバンドンは、大規模校であり、他学科との連携も強みとなる。また、鋳造ラインを持ち、製品の販売も行っている。これに対して、POLMANチェペルは、鋳造に特化した学校であり、産業集積地の鋳造企業群に囲まれ、地域密着型である。少数教育で、座学と実習を学び、産地で揉まれて育った学生の人気は非常に高い。
(1)POLMAN チェペル POLMANチェペルは、特別な経緯によって設立された。2003年、県と、チェペルの鋳造企業 13社が、鋳造に特化した POLMANをつくったのである。自ずと産学の連携が深まり、同校は、鋳造業をリードする人材を輩出させている。ジャカルタ近郊の大手企業経営者は「POLMANチェペルの生徒はよく頑張っている」、地方企業の経営者は「POLMANチェペルの学生を採用したいが就職してくれない」と話した。卒業生は、ジャカルタ、スラバヤ、バンドンに就職する人が多い。就職先は、ASTRA Group、BAKURIE Group、FEDERAL IZUMI、ZENITH、YAMAHA、SELAM BERSI 等である。チェペルの経営者は、「地元チェペルに就職して欲しいが、ジャカルタ近郊の自動車大手企業に流れている。外で技術を身につけて、いつか、地元に戻ってきてほしい」と述べた。 チェペル全体で年間 15万トンの鉄鋳物を生産している。もともとは、伝統工芸品、景観鋳物、鍋などを生産していた。砂糖黍を搾る設備の部品(消耗品)を扱う企業が広がり、機械鋳物にシフトしたのである。 同 POLMAN は、1 学年 35名× 3 年制の少人数教育が行われる。教員は、ガジャマダ大学、スマラン大学、バンドン工科大学等の出身者である。FC、FCD に加えて、アルミ鋳造も学ぶことができる。科目は、模型製作、溶解、成分調整、調砂、
検査等がある。カリキュラムの時間配分は、理論(Kuliah Teori)33.3%、実習(Kuliah Praktik)66.7%である。少人数で、実習を中心にしていることが特徴である。実習は、1年生は POLMANの施設で行うが、2 年生は近隣の鋳造工場、3 年制では大手企業(ジャカルタ近郊やスラバヤ)で実習を行う。実習は 4.5 か月× 2 回である。LSP‒LMI(Lembaga Sertifikasi Profesi‒Logam & Mesin Indonesia)より、インターンシップの証明書が発行される。研修の場合には企業から、寮や多少の生活費は支弁されるそうだ。
14 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.11
鋳造に特化している学校のため、鋳造に関する座学及び実習は充実しており、学生の真摯な態度に共感させられる。POLMANチェペルでは、①周辺の鋳造200社の協力を得て学生の実習が行われている、②鋳造企業の技術相談を常時受けて教員が理論と現場に即した高い指導力を持っている、③企業スタッフのトレーニングを行う等の理由により、人材育成拠点として重要である。2003 ~ 2007年、JICAのシニアエキスパートが派遣されている。
(2)POLMANバンドン 1976年、Institut Teknologi Bandung(バンドン技術専門学校)とスイス基金により、Politeknik Mekanik Swiss-ITB が設立された。その後、1998年、POLMAN バンドン(Politeknik Manufakutur Negeri Bandung)に改組される。スタッフ 140 名、3学年計 800名が在籍する。設計150名、鋳造100名、製造 250 名、自動化・メカトロ 300 名(いずれも 3学年合計の定員)が設置されている。全校において、スタッフの 3割が博士号取得者、2割が修士号取得者であり、実務経験を持つ専門家も活躍する。 シミュレーション~模型製作~砂型造型~鋳込み~仕上げ~機械加工までの工程を、校内に持つ。3学年の 2 学期制(計 6 セメスター、1セメスターは 21
週間)であり、最初の 3セメスターはキャンパス、2セメスター(On the Job Training)は工場、最後の1セメスターはキャンパスに戻って実習(週 4日)と理論(週 1 日)を学ぶ。2009年は、倍率 7 倍の狭き門であった。就職については、就職希望者の 3~ 5倍の求人が来ており、就職機会に恵まれている。ジャカルタ近郊の大手企業が、軒並み設備能力を増強させていることから、就職は大手に流れる傾向にある。最近は、就職希望者の半分が、自動車関連産業に就職している。近隣にある鋳造企業が極めて限られていることはハンデであるものの、①鋳造ラインがあること(製品を販売)、②機械加工等、最終製品に至るまでの学科が併設されていること、③工業省の公的研究機関MIDCの指導が得られることは、人材育成の大きな強みである。
(3)MIDC(金属工業開発センター) MIDC (Metal Industries Development Center)は、工業省の研究機関であり、バンドンにある。職員は 163 名(うち鋳造部門は 40名)であり、金属加工に関する試験(疲労試験、非破壊検査等)、研究(凝固シミュレーション、組織制御等)、製品開発(メダンにある GROWTH ASIA 社との提携による水力発電用の水車(Kincir Air)の開発)、人材育成を行う。写真 19 技術指導を受けて、工具を借りる。
写真 20 10枚セットのトークンと引き換えに作業道具を借りる。返却の際に、トークンが戻る。
写真 21 シラバスには共同作業を多く取り入れている。
写真 18 POLMANバンドン。学内に鋳造工場がある。
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
人材育成に関して、鋳造、溶接、加工のコースが設置されており、定員は各 40名である。1999年度~
2003年度に、JICA プロジェクトで整備された鋳造ラインが、大切に使われている。
5.まとめ
写真 22 MIDCの鋳造ライン 写真 23 MIDCでは学生教育も行う。
ローカル企業の新潮流について、8つの事例を報告するとともに、鋳造企業を支える教育機関について報告した。近々、人材育成を主眼においた建設機械に関する JICA プロジェクトが立ち上がる予定である。インドネシア政府は、「6 つの経済回廊」と「インドネシア経済開発加速 ・ 拡大マスタープラン」(Master Plan for the Acceleration and Expansion
of Indonesia Economic Development MP3EI)を発表した。2025年までに、GDP 規模で世界のトップ10 を目指すことを目標として掲げている。そして、道路、空港、港湾などのインフラ整備と鉱業分野に、マスタープラン実行予算の 7割を投資するとも言われており、鋳造品を使用する最終製品の需要が増えることは想像に難くない。
図 1 インドネシア経済回廊構想(IEDC ; Indonesia Economic Development Corridor)
①スマトラ�重点産業:パーム油、ゴム、石油化学、石炭、造船
③カリマンタン�重点産業:石油・天然ガス、パーム油、石炭、鉄鋼、アルミ
④スラウェシ�重点産業:ニッケル、農業、花卉園芸、漁業、石油・天然ガス
⑤バリーヌサ・トゥンガラ�重点産業:観光、漁業
⑥パプアーマルク�重点産業:農業、漁業、石油・天然ガス、銅
バンダ・アチェ空港~スカルノ・ハッタ空港~デンパサール空港~ジャヤプラ空港 5,663km
�重点産業:食品、輸送機械、セメント、繊維
(参考:関西空港~デンパサール空港 5,242km)
②ジャワ
バンダ・アチェ
メダン
プカンバルサマリンダ
ポンティアナク
マナドゴロンタロ
マノクワリ
ジャンビ
パレンバン
ランプン バンジャルマシン
パランカラヤ マムジュ
パルジャヤプラ
パプア
スラバヤ
デンパサール
マタラン
ジャカルタ
バンドン
スマランマッカサル
スラン