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JPEC レポート 1 平成 27 12 18 インドネシアで始まる大規模な製油所増強・近代化計画 インドネシアは、 2009 1 月 石油輸出国機構 OPEC)から一時脱退したが、 2015 12 月を もって同国は再び OPEC 加盟国となった。「産油 国と原油輸入国のパイプ役を果たす」という同国 公式のコメントもあるが、 OPEC に再加盟するこ とで、産油国との関係を密にして原油の安定確保 を図るとともに、産油国資本を同国製油所建設な ど石油および天然ガス産業への投資に呼び込むた めの道筋を作ることができるとみられている。 インドネシアは、国内油田の老朽化により原油 生産は最盛期の半分近くに落ち込んでいる。一方 自動車用燃料など石油製品需要の増加が著しく、 石油の純輸入国に転じて久しい。 2015 12 月に は、同国にとって久方ぶりとなる大型油田の生産 が開始されたことから、生産量は上昇する見込み である。しかしながら、既存油田の衰退により、 こうした増産も一時的なものに終わり、 2017 年以 降は再び減産基調に向かうものとみられている。 また、インドネシアは、世界有数の液化天然ガス( LNG)輸出国でもあるが、発電用燃 料や化学肥料生産用原料向けの天然ガス国内需要が急増する一方で、天然ガス生産の減退 が顕著になり始めている。同国では天然ガス資源の不足から一部の液化プラントは、 LNG 生産を停止して「 LNG 受入ターミナル」に業態転換し、近隣の発電所や肥料プラントに 供給するというケースも出てきている。同国では、すでに複数の LNG 受入ターミナルが 稼動しているが、今後 日本が協力して大規模な受入ターミナルを建設するという計画もあ る。また現時点では、これらのターミナルは、国内で生産された LNG を受入れているが、 すでに同国は海外 LNG の輸入契約にも調印しており、近く輸入を開始する見通しである。 同国の天然ガス貿易は、まだ輸出ポジションを維持しており、新規の LNG プロジェクト も複数計画が進められている。しかしながら、既存事業の生産減および国内ガス需要の増 加により、輸出余力は今後縮小していくと予測されている。 2015 年度 第 23 回 1 インドネシア経済 2 2 エネルギー資源と需給 3 2-1 石油 3 2-2 天然ガス 5 2-3 石炭 7 3 新政権誕生と製油所増強 8 3-1 新政権のエネルギー戦略 8 3-2 OPEC 再加盟と 連動する製油所増強 9 4 石油精製事業の現状と展望 10 4-1 製油所の現状 10 4-2 石油製品の現状 11 4-3 石油精製能力増強の基本方針 12 4-4 製油所増強・近代化計画 と外資の参加 13 4-5 新製油所建設計画 15 4-6 Pertamina の潤滑油戦略 15 5 まとめ 15

インドネシアで始まる大規模な製油所増強・近代化 …— Bukit Tua海上油田よる 2万BPDが加わる。これら新規油田が減少を続けるイン ドネシア原油生産を、一時的せよ上向かせるも

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平成27年12月18日

インドネシアで始まる大規模な製油所増強・近代化計画

インドネシアは、2009年1月 石油輸出国機構

(OPEC)から一時脱退したが、2015年12月を

もって同国は再びOPEC加盟国となった。「産油

国と原油輸入国のパイプ役を果たす」という同国

公式のコメントもあるが、OPECに再加盟するこ

とで、産油国との関係を密にして原油の安定確保

を図るとともに、産油国資本を同国製油所建設な

ど石油および天然ガス産業への投資に呼び込むた

めの道筋を作ることができるとみられている。

インドネシアは、国内油田の老朽化により原油

生産は最盛期の半分近くに落ち込んでいる。一方

自動車用燃料など石油製品需要の増加が著しく、

石油の純輸入国に転じて久しい。2015年12月に

は、同国にとって久方ぶりとなる大型油田の生産

が開始されたことから、生産量は上昇する見込み

である。しかしながら、既存油田の衰退により、

こうした増産も一時的なものに終わり、2017年以

降は再び減産基調に向かうものとみられている。

また、インドネシアは、世界有数の液化天然ガス(LNG)輸出国でもあるが、発電用燃

料や化学肥料生産用原料向けの天然ガス国内需要が急増する一方で、天然ガス生産の減退

が顕著になり始めている。同国では天然ガス資源の不足から一部の液化プラントは、LNG

生産を停止して「LNG 受入ターミナル」に業態転換し、近隣の発電所や肥料プラントに

供給するというケースも出てきている。同国では、すでに複数の LNG 受入ターミナルが

稼動しているが、今後 日本が協力して大規模な受入ターミナルを建設するという計画もあ

る。また現時点では、これらのターミナルは、国内で生産されたLNGを受入れているが、

すでに同国は海外LNGの輸入契約にも調印しており、近く輸入を開始する見通しである。

同国の天然ガス貿易は、まだ輸出ポジションを維持しており、新規の LNG プロジェクト

も複数計画が進められている。しかしながら、既存事業の生産減および国内ガス需要の増

加により、輸出余力は今後縮小していくと予測されている。

2015年度 第 23回

2 1 インドネシア経済 2

2 エネルギー資源と需給 3

2-1 石油 3

2-2 天然ガス 5

2-3 石炭 7

3 新政権誕生と製油所増強 8

3-1 新政権のエネルギー戦略 8

3-2 OPEC再加盟と

連動する製油所増強 9

4 石油精製事業の現状と展望 10

4-1 製油所の現状 10

4-2 石油製品の現状 11

4-3石油精製能力増強の基本方針 12

4-4 製油所増強・近代化計画

と外資の参加 13

4-5 新製油所建設計画 15

4-6 Pertaminaの潤滑油戦略 15

5 まとめ 15

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こうしたなか、2014 年 10 月 インドネシアでは、エネルギー行政における汚職撲滅や

国内エネルギー需要の充足などを掲げたJoko Widodo新大統領(以下 Joko大統領または

Joko政権と記載)が誕生している。同大統領は、石油分野でも汚職追放や透明性確保、懸

案となっていた燃料補助金の削減、製油所増強・近代化に向けた環境整備を進めようとし

ている。なお、同大統領の政策の詳細は後述する。

本稿では、OPEC再加盟を果たした「石油純輸入国」であるインドネシアの製油所増強・

近代化に向けた石油・天然ガス産業の現状と展望を紹介する。

1 インドネシア経済

インドネシアでは、1968~1998年まで 30年間続いたSoeharto独裁・長期政権下で工

業化が進められ、同国で豊富に産出する石油と天然ガスが経済発展の牽引役となった。し

かし、その裏側では、同大統領の親族や政府高官による企業との癒着やファミリービジネ

スが、国際問題にまで発展するほどの深刻な事態となった。1997年 アジア通貨危機を発

端に翌年 ジャカルタ暴動が勃発し、同政権はあっけなく崩壊した。

その後 インドネシアは、民主化とともに国営企業の民営化などの経済改革に乗りだし、

世界第 4 位の人口(約 2 億 5,000 万人)を背景にした個人消費の伸びで、2002 年以降の

経済成長率は 4~7%程度で推移している(図 1 参照)。これにより同国は、BRICs(*1)に

次ぐ、Next Eleven(*2)の一角を占めている。なお同国は、2014年 GDP 約8,890億米ド

ル、世界第16位の経済国家である。

(*1) BRICs:2000年代以降 著しい経済発展を遂げている(Brazil、Russia、India、China)4ヶ国の総称

(*2) Next Eleven:BRICsに次ぐ経済発展群11ヶ国の総称。構成国は、韓国、バングラディッシュ、エジ

プト、インドネシア、イラン、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、トルコ、ベトナム、メキシコ

図1 インドネシアの実質GDPの推移

(出所:IMF)

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しかしながら、インドネシアは、2011年より財政赤字とともに経常収支も赤字に転落し、

双子の赤字をかかえている。旺盛な国内需要は魅力だが、インフラ整備が立ち遅れており、

行政機関の腐敗や透明性の欠如など多くの課題もある。また、最大の貿易相手国である近

年の中国経済の減速が与える影響も無視できないとみられる。なお、2014年 同国の対中

国貿易額は、輸出12.4%(第2位)、輸入16.0%(第1位)となっている。

2 エネルギー資源と需給

2-1 石油

インドネシアは、OPEC設立から2年後の1962年に加盟したが、石油生産のピークは

1977年の約169万BPDであり、それ以降2001年頃までは130万〜160万BPDの生産

を維持していた。同国では、2002年頃から生産減が顕在化するようになり、2014年は約

85万BPDにまで落ちている(図2参照)。

これは同国では、長年 新規有望油田の開発がなく石油確認埋蔵量が大きく減少し、2014

年末には約 37 億 bbl まで急減したためである(図 3 参照)。1980 年の確認埋蔵量は 116

億 bblあったことから考えると、石油資源の減少は覆うべくもなく、石油生産がかつての

隆盛を取り戻すことは困難な状況である。なお、2014年の可採年数は約12年である。

図2 インドネシアの石油の生産・消費推移

(出所:BP統計2015)

0

20

40

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80

100

120

1980 1990 2000 2010 2014年

(単位:億bbl)

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60

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120

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180

1970 1980 1990 2000 2010 2014年

OPEC一時脱退

消費

生産

(単位:万BPD)

図3 インドネシアの石油確認埋蔵量の推移

(出所:BP統計2015)

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インドネシアの石油需要は、かつて過剰消費といわれるほどの右肩上がりの上昇を続け

てきたが、その背景には、経済成長とともに同国政府の燃料補助金政策があった。1980

年 約40万BPDであった同国の石油消費量は、2014年には、石油生産量の倍近い約164

万BPD に達した(図 2参照)。同国は、2003 年に石油消費量が石油生産量を上回り、石

油の純輸入国に転じている。

2015 年 12 月 ExxonMobil は、

Cepu 鉱区(東ジャワ州)の主力海

上油田であるBanyu Urip油田の生

産が開始されたと発表した。同油田

の可採埋蔵量は 4.5 億 bbl と見積も

られており、13万BPD以上の増産

が見込まれている。この生産量は、

インドネシアの2016年 生産目標量

の約 20%に相当する大規模な新規

油田の生産開始となる。

さらに、2015年5月 Petronas(マレーシア)がKetapang鉱区(東ジャワ州)で開発

したBukit Tua海上油田による2万BPDが加わる。これら新規油田が減少を続けるイン

ドネシアの原油生産を、一時的にせよ上向かせるものとみられる。しかしながら、既存油

田の減退は大きく、2017年以降は再び減産に向かうと予測されている(図4参照)。

Pertamina(インドネシア国有石油会社)は、1957年の設立以降 豊富な国内石油およ

び天然ガス資源の開発で大きな成長を遂げた。ちなみに 2014 年での同社売上金額は、約

706億米ドルである。隣国のPetronas(マレーシア国有石油会社)は、かつては同社を目

標に事業を進めたといわれている。しかし、その後 事業展開で両社のポジションは逆転し

ている。特に海外事業展開に関して、PetronasはPertaminaを大きく引き離している。

国内資源の枯渇を前に、2000年代に入

って Pertamina もようやく海外事業に

も目を向け始めている。特に、2014年に

契約したMurphy Oil(米国)のマレー

シア資産の30%を20億米ドルで買収し

たことが特筆される。Murphyは、同国

初の大水深油田である Kikeh 油田の開

発に続いて数多くの深海油ガス田開発に

成功している。しかしながら、同社の海

外での上流事業は、依然として出遅れ感

が否めない(図5参照)。

図5 Pertaminaの海外事業

図4 インドネシアの主要油田と石油関連設備 (出所:IEA)

図5 Pertaminaの海外事業

(出所:Pertamina)

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2014年 インドネシアは、約38万BPDの原油を輸出している。主要輸出先は、日本を

筆頭に、オーストラリア、タイなどである。なお、同国の主要原油には、Minas、Duri、

Cinta原油などがある。いすれも低硫黄原油であり、日本では石油精製用以外に石油火力

発電用燃料(生焚)としても使用されている。一方、同国の原油輸入は約44万BPDあり、

輸入先はサウジアラビアが最大となっている(図6参照)。

2-2 天然ガス

インドネシアでは、LNG プラントの建設によって輸出が可能となり天然ガスの生産が

増加した。1985 年に 300 億m3であったが、2010 年には 800 億m3と順調に生産を伸ば

してきた。しかしながら、2010年を境に過去4年間の生産は減少傾向に推移している。

これは、インドネシアの天然ガス埋蔵量に起因しており、天然ガスの確認埋蔵量は2008

年の 3.18 兆m3から下降に向かい、2014 年は 2.88 兆m3と減少している。可採年数は約

39年で、世界平均の約54年を下回っている。なお、同国の天然ガス消費量は、年を追う

ごとに増加し、2009年には400億m3を超えている(図7参照)。

図6 原油輸出入構成比(2014年)

(出所:EIA)

図 7 インドネシアの天然ガス生産と消費の推

0

200

400

600

800

1000

1980 1990 2000 2010 2014年

(単位:億m3)

消費

生産

図7 インドネシアの天然ガス生産量と消費量推移 (BP統計 2015)

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天然ガスは、LNG に変換されインドネシアの大型輸出産品となっている。しかしなが

ら、天然ガス生産の頭打ちと消費の拡大により、2003年以降のLNG輸出の減少傾向が顕

著になっている。2009年に完成したTangguh LNGプラントの本格稼働により、2010年

は増加したが、翌年から再び下降に転じている。現在 同国では複数の新規LNGプロジェ

クトが進行中であるが、国内需要(肥料生産用原料や発電用燃料等)を優先するために、

天然ガス供給を国内市場に振り向ける必要がでてきている。同時に既存 LNG プラント向

けガス田の生産が衰退に向かっているため、必すしも輸出余力が大幅に拡大するわけでは

ない。

【LNG受入ターミナル】

インドネシアでは、旺盛な国内需要を満たすためにLNG受入ターミナル3ヶ所が相次

いで操業を開始している(図8参照)。

・2014年10月 36年間にわたって

LNGを生産してきたArun LNG

プラントが、天然ガス産出量の低

下と国内ガス需要の増加を受けて

操業を停止した。同プラントは、

輸出ターミナルから一転 輸入タ

ーミナルへ転換された。2015年

2月から操業を開始し、PLN(イ

ンドネシア国営電力会社)が運営

する近隣の火力発電所や肥料プラ

ント向けに天然ガスを供給している。

・2014年 PGN(Perusahaan Gas Negara、

インドネシア国営天然ガス公社)がSumatra

島南端のLampungで浮体式LNG貯蔵・再

ガス化ターミナル(LNG-FSRU、LNGタン

カーを改造した浮体プラント)を操業してい

る(写真参照)。

・2012年 Nusantara Regas(PertaminaとPGN

の合弁会社)が西ジャワ州でLNG-FSRUを操業している。

開発計画としては、2014年6月 Engie(旧社名GDF Suez、フランス)は、PGNとの

間で Java 島北部沿岸の陸上 LNG ターミナル建設の事業化調査に関する協力協定に調印

した。Energy World Co(香港)も東ジャワ州にLNG受入ターミナルを建設することを

検討している。さらに2015年10月 東京ガスと Pertaminaは、Bojonegara(バンテン

州)にLNG受入ターミナルを建設する計画を発表していることなどが挙げられる。

図8 インドネシアの天然ガス関連設備

写真:LNG-FSRU(左側)

(Perusahaan Gas NegaraのHPより)

図8 インドネシアの天然ガス関連設備 (出所:IEA)

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また、現在稼動している3カ所のLNG受入ターミナルには、国内のTangguh LNGや

Bontang LNGからLNGが輸送されているが、将来的には輸入LNGも受け入れる方針で

ある。2013 年 12 月 Pertamina は、Cheniere Energy(米国)と年間 80 万トンの長期

LNG 売買契約に調印している。契約期間は 20 年間であり、2018 年からの輸入開始を予

定している。さらにNusantara Regasは、Pertaminaと協力して 2017年を目処に米国

から年間200万トン程度を輸入する方針で、米国側のサプライヤーと交渉を進めている。

2-3 石炭

インドネシアは、石炭資源に特徴があるため参考までに紹介する。同国では、石油や天

然ガス資源が減少に向かうのと対照的に急増しているのが石炭である。2014年 同国は、

石炭の埋蔵量 約280億トンが確認されており、可採年数は約61年となっている。

インドネシアの石炭生産は、第一次オイルショック(1973年)直前には年20万トンに

まで落ち込んでいたが、オイルショックを機に石炭政策が見直されて生産が急増し、2014

年には4億5,800万トンに達した。これは石油換算で2億8,170万 toeとなり、天然ガス

はおろか石油生産をも大幅に上回る量である。同国の石炭生産は、2000年代前半の時点で

石油と天然ガスの生産を逆転し、一次エネルギー生産の主力の座についている。

インドネシアの石炭内需は、火力発電用燃料などで消費も拡大しており、2013年で消費

量は7,900万トンであった。また、同国の石炭輸出は、2011年にオーストラリアを抜いて

世界最大の輸出国となっており、2014年は約4.5億トンをインド、中国および日本などに

輸出している。このように同国は、石油輸出国ではなくなっているが、石炭に関してはア

ジア諸国への一大供給国となっている(図 9 参照)。なお、今後同国の石炭火力発電所の

増強に伴い、発電用石炭需要は 2013 年の 5,900 万トンから 2022 年には 1 億 5,100 万ト

ンに増加する見込みで、今後は国内需要優先にため輸出を抑制する方針である。

(単位:百万トン)

図9 世界の石炭主要輸出国とインドネシアの輸出先(2014年)

(出所:EIA)

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3 新政権誕生と製油所増強

2014年10月 インドネシアでは、ジャカルタ特別州知事であったJoko 候補が第7代 新大統

領に就任した。「エリートでも軍人でもない初めての大統領」と形容される同大統領は、選

挙戦にあたって政策方針(汚職撲滅、政治改革、自立した海洋国家の実現、資源の国内加工、

内需優先および所得分配政策の重視等)を掲げた。

3-1 新政権のエネルギー戦略

「清廉な政権」を標榜するJoko大統領は、組閣にあたって汚職撲滅委員会に協力を依頼す

るとともに、「勤労内閣」を目指して閣僚に民間から各界の専門家19人を登用した。特に、

エネルギー鉱物資源相には、Pertamina勤務の経験がある民間人を起用した。この人事の狙

いは、これまで外国企業の投資にあたって不透明な行政や賄賂などが指摘されることの多か

った石油・ガス行政の抜本的な改革と現実に即した迅速な政策決定であるとされている。

2014年11月 Joko 大統領は、Sukarno大統領の時代からの「伝統」である燃料補助金の

削減を発表した。さらに2015年1月 レギュラーガソリンの補助金全廃も発表し、国際市場

の変動にあわせた価格へ移行することとなった。これにより、レギュラーガソリン価格は、

実質 3割以上の値上げとなった。また、軽油は、補助金を固定して売価を変動させる方式に

変更した。従来は売価を固定し市況に応じて補助金を出してきたが、この政策により財政負

担を軽減する狙いがある。

同補助金は、燃料消費量が増加するほど年々増加してインドネシア経済の成長路線への転

換を阻害していること、さらに本来なら補助が不要な富裕層の自家用車使用の援助(逆累進

性)になっているということは誰の目にも明らかであった。しかしながら、同補助金制度に

手をかけるということは、抗議デモや暴動を誘発し、政権崩壊に直結しかねない問題であっ

た。実際、Soeharto長期政権崩壊の直接的な原因は、IMFによる構造改革に沿って補助金を

カットしたことによるものであった。Joko 大統領が当選後、Yudhoyono前大統領に対して

任期終了前に補助金カット実施を打診し断られたたことからも、これがいかに困難な課題で

あったのかを物語っている。

こうしたインドネシアのエネルギー政策における歴史的な転換が順調に進んだ背景には、

下記2点があげられる。

・原油価格が急落していた時期に重なったため、国民の負担増にはならなかったこと

・事前に貧困層向け再分配政策(無償医療・無償教育プログラムと所得補償プログラム

を段階的に全国で実施)を発表していたこと

ともあれ、補助金カットで歳出に占める補助金割合は大幅に減少(14% ⇒ 4%)し、同国

財政は大きく改善することになった。

石油・ガスなどエネルギー部門に関して、Joko 政権は下記アクションプランを発表した。

・エネルギー行政の信頼回復と汚職追放

・石油ガス法の改正

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・国営石油会社Pertaminaの民営化検討

・海外からの投資呼び込み

・開発事業の妨げとなっていた許認可の簡素化(許認可項目を289 ⇒ 69へ削減)

・老朽油田への増進回収法(EOR)導入による油田寿命延長

・生産分与契約(PSC)の固定的な条項にとらわれないフレキシブルな運用

・石油精製設備増強や貯蔵・輸送施設の整備

・天然ガスの国内市場への振り分け

これまでインドネシアの製油所では、設備の部分的な改善・増強にとどまり、大規模な

増強・近代化プロジェクトや新規製油所計画が遅々として進まなかった。実行型の Joko

新政権誕生により、矢継ぎ早に打ち出された経済政策【OPEC再加盟によるサウジアラビ

アなどとの関係強化、日本企業に同国への投資増大要請(2013年の国際協力銀行調査で日

本企業の有望投資先第1位)、ASEAN経済共同体(AEC)発足(2015年12月)】などが

加わり、製油所新増設の流れが一気に形成されつつある。

3-2 OPEC再加盟と連動する製油所増強

Joko 政権のもう1つの大きな成果は、2015年12月のOPEC(1960年創設)への再加盟を

実現したことである。インドネシアは、前述したようにOPECの古参メンバーであり、アジ

ア唯一の加盟国でもあった。しかし、国内需要が拡大する一方、石油生産は徐々に減少し、

同国は2004年を境に原油の純輸入国へ転じた。かつては150万BPDを上回っていた生産も

100万BPDを下回るようになり、2009年1月をもって一時脱退した。当時の同国エネルギー

鉱物資源相は、「石油生産回復により純輸出国に復帰できればOPECに再加盟する」とコメ

ントしていたが、その後も意に反し同国の輸出入差はさらに拡大していった。

石油価格維持を目標とするOPECに、価格低下によって恩恵を受ける「輸入国」が加わ

るということは、根本的に相容れない動きであり、インドネシアのOPEC再加盟は異例の

動きとして受け止められた。2015年6月 再加盟承認にあたって、同国エネルギー鉱物資

源相は、「輸出国と輸入国との対話という意味で両者の懸け橋になる」とコメントしたが、

真っ向から対立する利害の調整役という意味であれば困難と推測される。

シェールオイルなどの増産で世界的に原油供給が過剰となるなか、OPECは2014年か

ら価格維持を犠牲にするのと引替えに市場シェアの維持を選択した。この方針に沿って、

OPEC(特にサウジアラビア)は、インドネシア原油市場への参入と石油精製部門への大

型投資を実施し、同国を通じて間接的にASEAN経済共同体(AEC)や豪州の石油製品市

場へ進出することも狙っているものとみられる。

一方、インドネシアが石油純輸出国へ復帰することは困難と推定される。同国としては、

下記項目を目指そうとしていると推測される。

・OPECとの関係を強化して原油を安定的に確保すること

・サウジアラビアを中心にOPECからの大型投資を呼び込み石油精製設備を増強し、

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増え続ける石油製品輸入量を削減していくこと

・石油精製設備の近代化を進め、高付加価値製品を生産すること

・環境負荷を低減(燃料の低硫黄化)すること

・国内産業を強化するとともに海外市場へも進出すること

世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシアと、イスラム教発祥の地であるサウジア

ラビアは歴史的にも結びつきが深い。2015 年 9 月 Joko 大統領は、サウジアラビアなど

中東諸国を歴訪し、石油精製事業への投資を呼びかけた。なお、これはイスラム開発銀行

会長とイスラム協力機構事務局長の表敬訪問を受けて実現したものである。

4 石油精製事業の現状と展望

4-1 製油所の現状

Pertamina は、6 製油所(Balikpapan、Balongan、Cilacap、Dumai、Plaju および

Kasim)を操業しており、原油処理能能力は合計約104万BPDである(図10参照)。こ

のほか小規模な製油所(Bojonegoro、Cepu)がある他、Tuban にはコンデンセートスプ

リッター設備がある。

上記 原油処理能能力に対し、インドネシアの国内石油需要は経済発展にともない増加傾

向が続いており、2014年には約170万BPDに達している。同国は、石油製品輸入削減に

向けて精製能力の増強が急務となっている。

Pertamina の既存製油所は、いすれも老朽化が進んでおり、同社は 10 年をかけて原油

処理能能力を168万BPDに引き上げる計画である。これにより、2025年までにガソリン

図9 Pertaminaの製油所立地

図10 Pertaminaの製油所立地

(出所:Pertamina年次報告書)

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生産(19万BPD ⇒ 63万BPD)、軽油(32万BPD ⇒ 77万BPD)およびジェット燃

料(5万BPD ⇒12万BPD)に引き上げようと計画している。特にCilacap、Balongan

およびBalikpapa製油所の増強を急いでいる。しかしながら、インドネシアでの原油の大

幅な増産は、現状の開発状況では困難であり安定した原油輸入が必要になる。

4-2 石油製品の現状

2000年以降 インドネシアの石油製品生産は、徐々に減少しており製品輸入が拡大して

いる。製品別では、軽油(輸送用燃料)の需要拡大に対して、灯油と重油の減少が顕著で

ある(図12参照)。以下に油種毎に紹介する。

ガソリンは、富裕層から中流家庭へも自動車の普及が進んでおり需要が拡大している。

ガソリンの生産能力(2014 年 生産量:約 6,600 万 bbl)が不足しているため、輸入は拡

大の一途を辿り年間約1億bblに達している。

インドネシアでは、バイオエタノール混合燃料製造設備が未整備で、これまで生産さ

れたエタノールは輸出に回されてきた。Joko 政権は、バイオエタノール混合ガソリン導

入促進策を打ち出し、従来のガソリン補助金制度に代わって、バイオエタノール製造

や混合製造設備建設に補助を与えることで、バイオエタノール混合ガソリンの普及を

進めようとしている。すでに車両テストを実施済であり、5% バイオエタノール混合ガソ

リン(E5)を使用して問題のないことが確認されている。

軽油も輸送用の需要が拡大し、生産量としては最大の石油製品になっており、2014年は

約1億3,030万bblの生産している。同国エネルギー鉱物資源省は、軽油の需要拡大に対

し輸入削減を図るため、バイオディーセルの混合を義務付けている。2013年9月 自動

車用軽油のバイオ燃料混合率は、それまでの 7.5%から 10%に引き上げられていたが、

図10 インドネシアの石油製品生産推移

図12 インドネシアの石油製品生産推移

(出所:BPS-Statistics Indonesia)

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2015 年 4 月からはさらに上げ 15%にした。同省によれば、今後も段階的に混合率を引き

上げ、最終的には20%とする計画だという。

灯油は、政府によるLPGへの燃料転換政策もあって、需要が大幅に減少し2014年の生

産は 842 万 bbl にまで減少した。また ジェット燃料は、格安航空会社(LCC)の登場で

拡大基調にあり、2014年の生産量は2,030万bblとなっている。重油は、火力発電用燃料

の石炭への転換や環境問題で減少しており、2014 年の生産量は前年より約 1 割減って

1,064万bblとなった。

4-3 石油精製能力増強の基本方針

ASEAN最大の人口を抱えるインドネシアは、内需主導型の経済で安定した成長を示し

ているが、人口の増加と所得水準の向上に伴い、自動車保有台数も増加してきている。し

かしながら、2013年 自動車普及率は1,000人あたり約77台で、周辺国のマレーシア(約

397 台)、タイ(約 209 台)などと比べ大幅に低く、同国はさらに成長するポテンシャル

を有している。このため今後も石油製品の需要が拡大するものとみられ、同国政府および

Pertaminaは、石油製品の国内需要に応えていくことを最大の課題としてあげている。

Pertaminaは、石油精製事業に関する戦略的課題として以下のような問題に対処してい

く必要があると分析している。

1)原油供給

・国内原油生産は、2012~2020年にかけて最大27%減少する

2020年 国産原油の製油所向け供給量は、44.9万BPDで精製能力の50%以下になる

・2020年 輸入原油に占める高硫黄原油の比率は最大77%となる

・石油製品の競争力維持のため、高硫黄原油の脱硫処理の必要性が高まる

2)石油製品市場

・ガソリン需要は、2012~2025年まで年率8%、軽油需要は同5%の伸びを示す

・石油製品の品質は、今後5~10年でさらに高いスペックが求められる

3)エネルギー安全保障

・今後もガソリンと軽油の純輸入状態が継続する(ASEAN全体でも純輸入となる)

ASEAN域外からの石油製品輸入が必要になる

・ガソリンと軽油の輸入削減のため、国内生産に対する政府の支援がある

4)精製装置構成

・製品の競争力強化のため、製油所のNelson指数(*)を高める(2013年 5 ⇒ 2025年 9)

ため脱硫処理能力を増強していく必要がある (*)Nelson指数(Nelson Complexity Index): 米国の石油学者Wilbur L.Nelsonが1960年 Oil & Gas Journal誌で初めて提唱した原油常圧蒸留装置(CDU)

の能力と比した製油所の2次転換装置(SCU)の能力を計る指標。CDUの複雑度指数を1.0と置き、建設コスト等を基に各SCUの指数を評価。この指数にCDUの処理能力と比べたSCUの通油能力の比率を掛け合わせ、得られた指数の合計にCDUの数値も含めて製油所全体の複雑度を表す。

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5)内部課題

・各製油所は、精製マージン(GRM)を引き上げていく必要がある

・2025年までに石油製品需要の成長シナリオ(GDP成長率を5%とし、燃料補助金50%

削減、B10バイオ燃料車導入)は、ガソリンと軽油の需要は、105万BPD(2012年)

⇒ 194.8万BPD(2020年)へ年率平均4.9%の増加率を示す

・ガソリンと軽油の供給能力は52.9万BPDで、Cilacap製油所で完成した残油流動接触

分解装置(RFCC)を加えても供給能力は54.1万BPDとなり、現状のままでは両油種

だけでも140万BPDの能力が不足することになる

Pertamina は、前述した大幅な需給ギャップに対応するため、既存製油所増強計画

(RDMP、Refining Development Master Plan)と新規製油所建設計画(GRR、Grass Root

Refinery)の3本立てで石油精製能力増強を進める方針である。

・ガソリンと軽油の供給能力:52.9万BPD(2013年)⇒139.3万BPD(2020年)へ

・西部地区の供給能力:94.8万BPD(RDMP)+19万BPD(GRR)= 113.6万BPD

2025年時点の需要127.3BPDの約90%を賄うことが可能になる

・東部地区の供給能力:44.7万BPD(RDMP)+19万BPD(GRR)= 63.7万BPD

2025年時点の需要67.5BPDの約95%を賄うことが可能になる(参照:図13)

4-4 製油所増強・近代化計画と外資の参加

前述したように Joko 政権は、本格的な石油精製設備増強に向けた環境整備に取り組ん

でいる。2014 年 12 月には、主要製油所 5 ヶ所の増強・近代化プロジェクトに、Saudi

Aramco(サウジアラビア)との間では、Dumai製油所(17万BPD)、Cilacap製油所(34.8

図13 インドネシアの東西地区分け

(出所:Pertamina)

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万BPD)およびBalongan製油所(12.5万BPD)の増強・近代化に関するMOUに調印

した。また、JX日鉱日石エネルギー(以下JXと記載)および中国石油化工股份有限公司

(以下Sinopecと記載)も後述するが、それぞれPertaminaとの間で覚書(MOU)に調

印した。Pertaminaは、原油処理能力を168万BPDへ増強して石油製品の国内需要拡大

に対応し、輸入依存の低減を図る計画である。

【Cilacap製油所の増強計画】

2015年11月 Pertaminaは、Cilacap製油所の増強・近代化計画マスタープランを進め

るため、Saudi Aramcoとの間で基本合意書(HoA)に署名した。事業規模は55億米ドル

で、竣工予定は2021年、合弁事業の出資比率はPertaminaが55%程度を確保している。

原油常圧蒸留装置(CDU)を34.8万BPDから37万BPDに増強し、二次処理装置の

新増設で製油所のNelson指数を3 ⇒ 9に引き上げ、Euro IV対応の高品質石油製品と潤

滑油ベースオイル(基油)および石油化学原料を生産する。また、処理原油の硫黄含有率

を、これまでの 0.2~0.3%から最大 2%にまで対応可能とし、サウジアラビア産原油を問

題なく処理できるように改造した。それを受けてPertaminaは、Aramcoとサウジアラビ

ア産原油の長期供給にも合意し、処理原油の70%をAramco供給することになった。

具体的な精製ユニットの増強・近代化としては、CDU Iの能力最適化とCDU IIの改造、

二次処理設備では、残油流動接触分解装置(RFCC)の増強(6.2万BPD ⇒ 8.1万BPD)、

水素化分解装置(4.3万BPD)新設、石油化学部門では、パラキシレン生産能力の増強(28

万BPD ⇒ 48.5万BPD)、新規ポリプロピレン・プラント(15.3万トン)建設による増強

などが含まれる。

同製油所は、すでに部分的な増強計画も進められており、2015年11月には残油流動接触

分解装置(RFCCU)が正式操業を開始している。CDU II から供給される6.2万BPDの低

硫黄残渣油(LSWR)を処理する能力があり、年間35.2万トンのLPG、14.2万トンのプロピ

レン、3.7万BPDのガソリン・オクタン価向上基材(HOMC)を生産することが出来る。プ

レミアムガソリン生産能力は、現在6.1万BPDだが、これにより9.1万BPDまで増産すること

が可能になる。

日揮(JGC)は、JGC Indonesiaおよび現地Encona Inti Industriと共同で、同製油所の

既設の固定床接触改質装置を連続触媒再生式接触改質装置への改造、ナフサ水素化脱硫装置、

軽質ナフサ異性化装置およびユーテリティー設備の新設に関するEPC業務(Engineering、

Procurement & Construction)を受注した。またPertaminaは、同製油所で環境負荷の低

い高品質製品を生産するBlue Sky Projectを進めており、RON 92(オクタン価)ガソリン

の生産を9.1万BPDに倍増する。

【Balikpapan製油所の増強計画】

2014 年 12 月 JXは、Balikpapan製油所(22 万BPD)の改修プロジェクト推進に向

けて共同検討を進めるとの覚書を締結した。同製油所を36万BPDへの増強とともに、国

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際競争力のある製油所への近代化プロジェクトが実施される予定である。JX は、

Pertaminaと共同で製油所の合弁会社化、経済性および製品の販売方法を含め検討してい

くことになった。

【Plaju製油所の増強計画】

Sinopecは、Plaju製油所(13.4万BPD)の近代化・増強を検討していくことになった。

4-5 新製油所建設計画

Pertaminaは、既存製油所の増強・近代化とともにTubanやBontangで30万BPD規模の新

規製油所建設を計画している。前述したが、TubanにはTrans Pacific Petrochemical

Indotama(TPPI)のコンデンセート・スプリッターがあり、2020年をメドに製油所を建設

する。Pertaminaは、同新製油所の建設のパートナーを2016年2月までに選定を完了する予

定である。

4-6 Pertaminaの潤滑油戦略

Pertaminaの当面の目標は、国内の燃料需要の充足である。一方 同社では、2015年12月

のASEAN経済共同体(AEC)発足を視野に海外市場への本格的な進出も計画している。ま

す同社では、潤滑油事業をタイ、ベトナムおよびカンボジアなど自動車産業の発展が見込ま

れるインドシナ半島で展開する方針である。

同社は、Pertamina Lubricants(子会社)を通じて潤滑油事業を展開しており、2010年

以降、国際市場にも進出している。特に、2014年12月 AMACO Production(タイの潤滑油

メーカー)を買収して、Pertamina Lubricants Thailandに名称変更し、タイおよびインド

シナ地域諸国の潤滑油市場開拓を進める計画である。これまで同社では、インドシナ市場向

け潤滑油製品はインドネシアから供給していた。今回の買収により、2016年からはタイで潤

滑油を生産し、2020年までに販売量を現在の年間4,000kℓから1万2,000kℓに引き上げる計画

である。

さらに、Pertamina Lubricantsは、インドネシアやインドシナ半島に加えて、マレーシ

アやフィリピン、中国、日本、オーストラリアなど東南アジア・オセアニア地域、さらに南

アフリカやナイジェリア、イエメンなどアフリカ・中東地域への進出も計画している。また、

Pertaminaの潤滑油ベースオイル供給能力は、国内3ヶ所とタイ1ヶ所の計4ヶ所で年間合計

46万kℓである。同社は、潤滑油ベースオイルについてもアジア・オセアニア地域で販売を強

化していく方針である。

5 まとめ

1990年代から何度も語られてきたインドネシアの製油所計画が、いよいよ具体化に向けて

動き出そうとしている。これまで認可を受けた製油所案件は数十件あり、いすれも消滅して

いった。しかしながら、今回の新政権下では、計画の阻害要因を徹底的に取り除きながら、

戦略的に動いているものとみられ実現の可能性が高まっている。

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これは、インドネシアを石油製品の一大市場とみていた韓国やシンガポールなどアジア

の石油精製事業者にとっては、域内の巨大市場を失う可能性が出てきたことを意味する。

中国の経済成長が鈍化するなか、中国の石油製品市場が飽和状態になり、やがては中国産

石油製品がアジア市場に大量流出してくる可能性が高いだけに、これに同国の石油精製設

備増強が加わることは、域内製品市場に大きな影響を与えることになる。

インドネシアの製油所増強・近代化計画と新設を合わせれば、100 万 BPD 規模の精製

能力が加わり、現状に比べ倍増することになる。日本国内の精製事業が縮小基調にあるな

か、精製、流通、販売など多くの分野で日本の石油企業にもビジネスチャンスをもたらす

可能性がある。さらに、プロジェクト実施にあたって、EPCコントラクターを始めプラン

トベンダーや金融など、日本のエンジニアリング企業および金融機関にもビジネスチャン

スが用意されているため、今後 同国の動向に注視が必要である。

<参考資料>

・BP Statistical Review of World Energy 2015(BP)

・Statistical Yearbook of Indonesia 2015(BPS - Statistics Indonesia)

・INSPIRING INDONESIA TO THE WORLD(PERTAMINA)

・Pertamina Energy Outlook 2015 “Building world-class refining capacity for

Indonesia’s energy needs”

・Handbook of Energy & Economic Statistics of Indonesia(Indonesia's Ministry of

Energy and Natural Resources)

・ENERGY SUPPLY SECURITY INDONESIA(International Energy Agency)

・Indonesia:

http://www.eia.gov/beta/international/analysis_includes/countries_long/Indonesia/indonesia.pdf

・東アジアの石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)

・East & West Report各号(東西貿易通信社)

本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析

したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]

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次回のJPECレポート(2015年度 第24回)は、「欧州のバイオディーセル燃料の最新動

向」を予定しています。