Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
作成日: 2010/11/11
石油企画調査部: 伊原 賢
公開可
メキシコ:原油生産減への一考察
(JOGMEC 石油企画調査部、JOGMEC 石油・天然ガスレビュー、PEMEX 資料ほか)
・ 原油生産量の減少(345 万バレル/日@2003 年 12 月->258 万バレル/日@2010 年 9 月、25%
減)について、 もインパクトがあるのはメキシコ財政への影響ですが、近年の原油価格の上昇・
高値安定により、メキシコの原油生産量の減少を十分オフセットしています。従って、原油輸出へ
の依存政策に変化の力が働きませんでした。
・ 現状、生産量の 60%は EOR(Enhanced Oil Recovery:採油増進法)を伴う成熟油田からのもので
す。減産の穴を埋めるだけの規模の新規の油田発見はありません。新規の開発エリアは大水深、
低浸透性の油層、重質油、EOR 適用と技術難度が高まります。PEMEX は油田開発のビジネスモ
デルの変更を迫られています。財政への影響は、見込みに対して 2015 年までに 500 億ドル、
2020 年までに 970 億ドルを超えるギャップ(収入減)として認識されるでしょう。現在計画中のイン
センティブ付きサービス契約も、原油生産量の減少や国家収入減を食い止める効果は低いでしょ
う。
・ 1938 年より 72 年間も化石燃料資源の国家所有をうたってきたメキシコにとって、現実的に取るべ
き対策は次の 3 つ(①税の対象範囲の拡大、②市場自由化の拡大、③石油産業への外資開放)
に絞られ、それらをどのように組み合わせるかが、政府関係者や国営石油会社 PEMEX にとって
重要になると思います。
1. メキシコの原油生産減少
(1)原油生産の減少問題の本質
345 万バレル/日@2003 年 12 月->258 万バレル/日@2010 年 9 月と 25%もの急激な原油生産
量の減少について、 もインパクトがあるのはメキシコ財政への影響ですが、近年の原油価格の上
昇・高値安定により、メキシコの原油生産量の減少を十分オフセットしています。従って原油輸出への
依存政策に変化の力が働きませんでした。メキシコ専門家の分析では、さらに 2015 年までに 49 万バ
レル/日、2020 年までに 113 万バレル/日もの減産レートを見込んでいます。現状、生産量の 60%は
1/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
EOR を伴う成熟油田からのものです。減産の穴を埋めるだけの規模の新規の油田発見はありません。
新規の開発エリアは大水深、低浸透性の油層、重質油、EOR 適用と技術難度が高まります。PEMEX
は油田開発のビジネスモデルの変更を迫られています。財政への影響は、見込みに対して 2015 年
までに 500 億ドル、2020 年までに 970 億ドルを超えるギャップ(収入減)として認識されるでしょう。そ
の対策として、付加価値税(VAT)の税率を 2015 年に 8.63%にまで上げる必要に迫られると、予測さ
れます。また、税の対象範囲が広がらないとすると、所得税率が現在の 30%から 47.66%にまで上昇
すると見ます。だが、どちらの対策もうまくいきそうには思えません。現在計画中のインセンティブ付き
サービス契約も、原油生産量の減少や国家収入減を食い止める効果は低いでしょう。72 年間も化石
燃料資源の国家所有をうたってきたメキシコにとって、現実的に取るべき対策は次の 3 つ(①税の対
象範囲の拡大、②市場自由化の拡大、③石油産業への外資開放)に絞られ、それらをどのように組
み合わせるかが政府関係者や PEMEX にとって重要になると思います。
上記問題の本質に迫る「具体的な数字」を示します。
図1 カンタレル油田の地質断面図 図2 カンタレル油田の地質断面図
(生産開始前 1979年) (減衰期 2010年)
カンタレル油田の主力構造Akalの減衰:ピーク214万バレル/日@2003年12月->34万バレル/日@2010
年9 月(図1、図2)。
原油輸出額はメキシコの全輸出額の 15%程度(図3)、国家収入の約30%(図4)。原油輸出額は過去5 年間安
定。しかし、その国家収入に占める割合は減少傾向にあります(図 4 2005 年の 41.56%から 2009 年の
27.32%)。
2/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
* 2010 年は傾向から推定
(出所: メキシコ国立統計地理情報院INEGI) 図3 メキシコの原油輸出額と全輸出額
(出所: PEMEX)
図4 メキシコ国家収入に占める PEMEX 納税額とその割合
3/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
近年のメキシコ原油のバスケット価格の上昇・高値安定もそれをサポートしています。図 5 に示すよ
うに近年、バスケット価格と原油生産量はオフセットの関係にあります。それが主因で、原油輸出額が
過去 5 年間安定しており、原油輸出への依存政策に変化の力を働かせる必要が生じなかった幸運な
背景となっているのです。
* 2010 年は 1 月~9 月データからの推定
(出所: PEMEX) 図5 メキシコ原油のバスケット価格と原油生産量の関係(オフセットの関係)
しかし、原油生産の減少という問題の本質は地下で悪化しています。減産の穴を埋めるだけの規
模の新規の油田発見はがないと、事態は深刻化します。それはポスト・カルデロン政権で顕在化する
でしょう。PEMEXのスアレス総裁は 近、原油生産の減少傾向は底を打ったと述べました。しかし、現
状の生産量の57%(148万バレル/日)がEORを用いた減退傾向にある16油田からのものである事実
は、その発言の説得材料にはなりにくいと思います。16油田へのEORは、表1に示す様に水圧入や
窒素圧入が計15油田構造と大半を占めます。窒素圧入は主力のカンタレル油田やク・マロブ・サップ
油田に適用されています。因みにカンタレル油田への窒素圧入は 2000 年5 月にスタートしました。
4/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
表1 PEMEX の EOR 適用16 油田 (出所: PEMEX)
表 1 に示すように、自噴ではない回収法に依存するのは 2009 年生産量の 56.92%です。2000~
2009 年は 68.38%と、カンタレル油田への窒素圧入効果が出て高い数字でした。
これら既存油田の減産の穴を埋めるには、PEMEX は次の 3 タイプの探鉱開発プロジェクトに注力
する必要があるでしょう。それは、①低収益性の油ガス田(小規模油田や非随伴ガス田)への第三者
参入、②技術集中プロジェクト(EOR、大水深)、③投資集中プロジェクト(大水深)、になると思います。
PEMEX の将来の生産ポートフォリオは、図6 および図7 に示すように、大水深探鉱、新規開発、急激
に成熟化する油ガス田に依存するので、組織構造の変革を早急に行わないと(現行の組織:問題先
送り体質)、増油・探鉱の成功、埋蔵量確保に関して組織の機動性は次第に失われるでしょう。将来の
生産ポートフォリオを明るくするには、PEMEX が外資から投資や操業の支援を受けるのが必定なの
5/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
ですが、外資にとって魅力ある環境作りが必要です。
(出所: PEMEX)
図6 PEMEX 油ガス田の探鉱開発状態
(2)外資開放への行方
主力油田カンタレルの生産減退がどの程度進んでいるかと言うと、2006 年 12 月は 149 万バレル/
日、2008 年9 月は 94 万バレル/日(2004 年ピーク時の半分未満)、2010 年4 月には 52 万バレル/日
と、2006 年2 月に PEMEX が発表した 悪ケース「2008 年平均52 万バレル/日」のレベルが現実とな
りました。原油生産量や埋蔵量の維持回復にメキシコ湾の未発見資源量に期待するところ大ですが、
開発には水深 500m 以深での掘削技術や地震探査技術が不可欠です。その知見・ノウハウが不足し
ているPEMEXは、海外から技術導入を図る必要があると言われます。72年前から石油資源の国有化
をうたうメキシコ憲法上の制限がありますが、政府予算の 30%強も PEMEX の売り上げに頼るメキシコ
にとって、石油開発への外資開放をどの程度、また、いつ認めるのかが、探鉱密度の低いメキシコ湾
大水深の探鉱開発のスピードを決定することになると考えられます(図7)。
6/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
大水深
(出所: JOGMEC 石油企画調査部資料) 図7 メキシコの主要堆積盆地と油田位置
2. 生産減の経済的影響
(1)原油生産量の減少 → 国家収入減?
原油輸出額は過去5 年間安定しています。しかし、その国家収入に占める割合は、図4 に示したよ
うに減少傾向(2005 年の 41.56%から 2009 年の 27.32%)にあります。税収割合が減少した理由は 2 つ
で、①PEMEX の生産マージン/余裕分(油価-採算コスト)減と②2005 年から 4 度に亘る PEMEX へ
の炭化水素税の税率引き下げです。税率引き下げも PEMEX 経営の健全性にはあまり効をなさず、
2010年6月末にはPEMEXのnegative equity(マイナスの財産正味価額)は65億ドルにも達しました。
炭化水素税の税率引き下げが 2005 年より 4 度もなされましたが、油価の高値傾向により、PEMEX の
マイナスの財産正味価額は高いままです(図8)。
7/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
(出所: PEMEX) 図8 原油生産量、原油収入、輸出バスケット価格、納税額と税率引き下げ年
因みに2000年~2009年までの税収と油価との相関は83.5%と高い関連性を示しています(図9)。
これは、PEMEX の生産マージン/余裕分が減ると、キャッシュフローも減り、税収減少につながること
を示唆しています。
注) 横軸の年は油価の低い方から高い方へ並べ替え
(出所: PEMEX) 図9 2000 年~2009 年までの税収と油価との相関
8/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
さて、次に生産シナリオを 2 つ立てて、今後の見通しを考えてみましょう。
9/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
PEMEXの生産シナリオ: 表2
シナリオ 1: PEMEX プランの低生産シナリオ
シナリオ 2: PEMEX プランに含まれる根本的な変更は組み入れず
期間は 2020 年まで: 10 年間を次期政権までの 2 年、次期政権の 6 年、その後の 2 年。
シナリオ1の特徴: 2020まで年率1.16%減。
シナリオ2の特徴: ①チコンテペックの増産は期待薄(毎年5,000バレル/日程度の増産)、②先10年に新規
の大発見なし(2003年9月から2007年9月の期間でク・マロブ・サップやカンタレルのAkal構造外からの増産は
約37.6万バレル/日程度。この現象の再来は現状のポートフォリオを鑑みるに期待薄で、毎年2.5万バレル/
日程度の増産。)、③大水深開発成功の遅れ(2020年まで生産されず)、④ク・マロブ・サップ(KMZ)の生産
プラトー期間はPEMEX予想(2013年まで続く)より短い(ク構造は2010年5月に35.5万バレル/日のピーク。マ
ロブ・サップ両構造のピークは2011年6月に現れるとした。マロブ・サップ両構造の毎月の減退率はク構造の
それと同じとした)、⑤カンタレルの減退スピードは緩やか(2010年データから、減退スピードはPEMEX予想
より緩やか。2010年は50万バレル/日で年率10%減とした)。
表2 PEMEXの生産シナリオ (出所: PEMEX)
シナリオ1 シナリオ2 (単位 千バレル/日)
図 10 より明らかなように、シナリオ 2 では、2015 年より急激に減退傾向に入ります。両シナリオとも
現状より減産状態であり、新プロジェクトが現れない限り、政府収入は下がります。
(出所: PEMEX)
図10 シナリオ1とシナリオ 2 の生産減退比較
(2)生産減の経済的影響
2010 年~2020 年のメキシコ原油のバスケット価格は WTI の 90.59%(2010 年1 月~9 月の両者比
較:70.20 ドル/バレル÷77.49 ドル/バレル)。2009 年 PEMEX への炭化水素税の税率は 74.2%でし
た。現在国会で議論されている税制システム改革は小規模油田に対するものです。2009 年にはチコ
ンテペックと大水深に対して税率が下げられました。シナリオ 2 でも 2017 年まで 2009 年の税収を下
回ることはありませんが、徐々にその国家収入への貢献は下がります(図11)。
(出所: PEMEX)
図11 PEMEX からの税収:過去と、シナリオ1及びシナリオ 2 による見通し比較
10/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
国の歳出は上がるので、前述したように PEMEX への炭化水素税の国家収入に占める割合は減少
し続けます。
3. 待ち受ける困難
次の政権において、組織構造の変革を早急に行わないと(現行の組織:問題先送り体質)、増油・
探鉱の成功、埋蔵量確保に関して組織の機動性は次第に失われるでしょう。将来の生産ポートフォリ
オを明るくするには、PEMEX が外資から投資や操業の支援を受けるのが必定なのですが、外資にと
って魅力ある環境作りが必要となります。現実的に取るべき対策は次の 3 つ(①税の対象範囲の拡大、
②市場自由化の拡大、③エネルギー産業への外資開放)に絞られるでしょうが、下に記した分析から、
①と③が現実的な対策と見ます。しかし、その実現には過去の経験からも困難が伴うでしょう。
<分析>
①メキシコの税収のGDPに占める割合は9.5%と、他のOECD諸国の平均36.6%に比べると低い。こ
のことから、税の対象範囲の拡大余裕のあることが判り、それは税収増にもつながります。もしメキ
シコがOECD諸国の中で2番目に低いチリのGDP比18.9%に増加させる目標を建てるならば、現状
のGDPベースで単純に950億ドルの税収増となります。950億ドルの税収増は、2015年の正味歳出
(Net Expenditures)とシナリオ2に基づく歳入の差503.3億ドルを大きく上回り、2010年時点の差額
969.4億ドルに近づく数字となります(図12)。しかし、税率アップに関して、(世論の抵抗が強く予想
され)メキシコ政界のコンセンサスが得られるかどうかは大いに疑問が残ります。
(出所: PEMEX)
図12 メキシコの正味歳出とシナリオ 1 及びシナリオ 2 による歳入の比較見通し
11/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
12/12 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は
本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたもの
であり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の
結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお
願い申し上げます。
②メキシコ経済は独占や寡占が長く続いています。これは自由化を制限し税制の抜け道を作らせま
した。国家税収もその動きを享受しました。更に競争がないと経済成長を生み出すプレイヤーや市
場がほとんどいなくなります。市場自由化は長い目で見ると国家歳入増のけん引役となりますが、
その種の構造改革への動きは、税の対象範囲を広げるより政治的にセンシティブな問題でしょう。
GDPや雇用率、歳入増の助けにはなろうが、現在の政局が3極化(3大政党:PAN, PRD, PRI)して
いる現状では、そのような動きは起こらないと見るのが妥当でしょう。
③政治的抵抗は①や②よりも小さいと見ます。外資開放は原油生産減を食い止めるだけでなく、投
資、サインボーナス、税、ロイヤルティと歳入増をもたらすでしょう。世界の利権契約や生産物分与
契約を見てみると、政府の取り分は80%から95%に達するものも見受けられます。従って、適切に
外資開放がなされたなら、歳入増のオプションが増える可能性があります。税やロイヤルティは原
油生産が軌道に乗ると増えます。しかし、そのインパクトを感じるには時間がかかります。その意味
では発見から生産開始までの時間が短い陸上油田からの生産増が注目されます。因みに、ブラジ
ルは石油生産にかかるボーナス・税・ロイヤルティほかで年400億ドルの収入を得ており、外資開
放、生産増の暁にはメキシコでもブラジルと同様な収入増が期待されます。
以上
<参考資料>
・ JOGMEC石油・天然ガスレビュー「石油大国メキシコのジレンマ ― カルデロン政権の石油政策
改革の第一歩 ―」、2009年5月 伊原賢
・ JOGMEC ホームページ 石油・天然ガス資源情報「米国メキシコ湾の原油流出事故がメキシコの
大水深開発に与える影響」、2009 年9 月10 日 伊原賢