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0 平成28年度 サービス業の生産性向上推進調査 「小売業の生産性向上に関するモデル事業の創出と展開」 経済産業省 小売業 生産性向上マニュアル ~モデル事業から得られたノウハウ集~

小売業 生産性向上マニュアル - Minister of …...1 日本における小売業の労働生産性は、全業種平均と比 べて約3割、製造業と比べると4割以上低くなっています

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平成28年度 サービス業の生産性向上推進調査「小売業の生産性向上に関するモデル事業の創出と展開」

経済産業省

小売業生産性向上マニュアル

~モデル事業から得られたノウハウ集~

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日本における小売業の労働生産性は、全業種平均と比べて約3割、製造業と比べると4割以上低くなっています*1。また、海外における小売業の労働生産性と比べても1~2割程度低くなっており*2、生産性の改善が望まれます。

日本の小売業の生産性が低い原因としては、市場における事業者数が多く、競争環境が激しいこと、及び、収入が見込めない時間帯(主に深夜)に至るまで長時間営業を行っていることなどが挙げられます。

働き手不足が加速している近年、従来の多くの従業員の投下を前提としたビジネスモデルを継続することは困難になると考えられます。

そのため、今後は、従業員の業務・作業の負担を軽減し、労働時間を効率化することで生産性を高めるなど、職場環境を改善していくことが求められます。

本マニュアルは、小売業の中でも4割以上を占める小規模事業者の皆様を中心に、生産性の向上に関する経営課題を解決する際の参考にしていただくことを期待して、取組の方向性や、実際に小売事業者に適用した具体的手法をご紹介するものです。

本マニュアルが1社でも多くの小売業の皆様のお役に立つことを願っています。

はじめに

*1. 総務省・経済産業省「平成24年経済センサス‐活動調査」公表データより野村総合研究所算出(データはP.129ご参照)(※労働生産性=付加価値額/従業者数)*2. EU KLEMS、World KLEMS、OECD(いずれも2009年)より野村総合研究所算出(データはP.129ご参照)(※マンアワーベース。簡便的に国全体の生産性を国際比較する際に用いられる購買力平価を用いた)

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目次

はじめに 1

目次 2

マニュアルの使い方 3

【導入編】 5

(1)職場の環境整備 7

(2)業務効率化 15

(3)接客・サービス力の底上げ 20

~コラム 優先的に見直すべき作業工程を見つけるための手法~ 25

【事例編】 29

ケース1. マイヤ(食品スーパー) 30

~コラム ITを活用した業務負荷の把握方法~ 37

ケース2. マルイ(食品スーパー) 38

ケース3. 片浜屋(食品スーパー) 51

~コラム 食品スーパーにおけるAIを活用した需要予測の実証実験~ 62

ケース4. リビンズ(家具専門店) 66

~コラム 小売業への部門別採算制度の適用~ 73

ケース5. 菅田(宝飾品専門店) 75

ケース6. 薬日本堂(漢方専門店) 84

ケース7. 西川産業(寝具専門店) 93

~コラム 外国人スタッフを戦力化するには?~ 106

【トピックページ~小売業の生産性向上に向けたヒント集~】 109

トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上 110

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例 114

トピック3. 消費者動向の変化に見る生産性向上へのヒント 125

公募採択されたモデル事業者一覧 127

コンサルティング企業/法人一覧 128

参考資料 129

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マニュアルの使い方

全体構成:生産性向上の視点

👉実践例をまとめたノウハウページとトピックページをご用意

独自のノウハウを活用した3つのモデル事業

+3つのトピック(業界標準化、

先進企業の事例、消費者動向)

接客・サービス力

の底上げ

業務効率化

個店レベル 業界レベル

小 大

取組規模

生産性向上の検討項目

職場環境の

整備

企業レベル

すぐに実践できるノウハウを選定した

「導入編」

1

2

3

ノウハウと実践例ストーリー

さらに広い視点を持つためのトピック

ノウハウページ トピックページ

7モデル事業での実践ストーリーをまとめた

「事例編」

※モデル事業:小売事業者とコンサルタントによる生産性向上の取組

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導入編

小売業の生産性向上における検討項目

(1)職場の環境整備(5S)

(2)業務効率化

(3)接客・サービス力の底上げ

• はじめに:取組体制の組成

• 「5S」と「視える化」の実施 整理 整頓 視える化 活動の継続と習慣づけ

• 生産性向上に取り組む土台ができる• 職場環境に起因する作業のムダをなくすことができる

手順

期待成果

• 従業員へのアンケートなどによる業務負荷の把握

• 負荷が大きい業務における「手待ち」「運搬」「動作」のムダ特定

• 改善策の検討(多能工化、ワークスケジューリング)

• 改善策の実行、効果検証

• 作業工程のムダ排除により、業務時間を削減できる

手順

期待成果

• 「ハイパフォーマー」の定義づけ

• ハイパフォーマーの行動特性の抽出(例:インタビューによる聞き出し、映像撮影と再生によるハイパフォーマーと一般販売員の比較)

• 抽出した行動特性のスクリーニングと具体化・明文化

• 横展開可能な形(マニュアル、チェックリスト)に整理

• 全販売員の接客・サービスレベルの底上げができる

手順

期待成果

マニュアルの使い方

ノウハウページの構成:「導入編」と「事例編」

👉事例編では、具体的な施策と実際の効果を明示

9

導入編(1)職場環境の整備

“5S”と“視える化”の実施~整理~

いるモノといらないモノをはっきり区別する

• 「整理」とは、いるモノといらないモノをはっきり区別し、いらないモノを即刻処分することである

• 「いらないモノ」と「いつか使うモノ」はほぼ同義である。したがって、期限を設けて処分する基準を明確にするとよい

• 例)季節性がない商材の場合、1年以上使っていないモノ• 例)季節商材の場合、3か月以上使っていないモノ

• また、他のモノで代替できるモノも、いらないモノの一種として定義する• もし判断に迷った場合は、1か月間など期限を区切って仮置きし、使わなかった場合

は即刻処分する

いらないモノは即刻処分する

• 「いらないモノ」は、例外なく即刻処分する

• 一次的には仕入金額がムダになるように感じるが、いらないモノを保管するためにかかっているコストの方が割高であると考える

• いらないモノを処分することで、新たにモノを整頓するスペースができたり、モノを置く以外の用途(朝礼用スペース等)でスペースを有効活用することができる

👉ポイント:上記の基準を参考に、まずは「いらないモノ」を明らかにしましょう

👉ポイント:「いつかは使うかもしれない」という考えは捨て、いらないモノは即刻処分しましょう

整理の実践例(マイヤの例)

長年使われないものが山積み 創出されたスペース

導入編:生産性向上における検討項目の概要とその解説

小売業の生産性向上における検討項目の概要

各項目の解説

事例編:モデル事業での具体的な施策と実際の効果を明示

30

事例編

ケース1.マルイ

👉トレー棚の整理、整頓の実施

不要なモノを定義し、捨てる(整理)

3定(定位、定品、定量)を定義し、札を付けて明示する(整頓)

• 3か月以上使っていないモノなど、基準を超えたモノは即刻処分する(実際の未使用期間の基準は、各社ごとの事情を踏まえて検討する)

• 1か月以上使っていないモノは、倉庫などに一時保管することも有効である

• トレー棚を集約して“3定”を実施し、棚番号(番地)を決めた上で棚札を付けた• マルイの場合、「惣菜あげあげ一丁目」など、覚えやすい名前を付けた

改善前

改善後

ノウハウ

ノウハウ

棚札の例

「定位」を棚番号で明示

「定品」を明示

「定量」を1日平均使用数と発注単位の2項目で明示

マルイでの取組結果

トレーの在庫金額 前年同月比22%減

事前事後の変化をビジュアルに説明

できるだけ具体的なやり方・考え方を提示

モデル事業で得られた効果を数値で提示

※効果はあくまでもモデル事業の対象企業の取組で得られた数値

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導入編

導入編

(1)職場の環境整備

(2)業務効率化

(3)接客・サービス力の底上げ

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導入編

小売業の生産性向上における検討項目

(1)職場の環境整備(5S)

(2)業務効率化

(3)接客・サービス力の底上げ

• はじめに:取組体制の組成

• 「5S」と「視える化」の実施 整理 整頓 視える化 活動の継続と習慣づけ

• 生産性向上に取り組む土台ができる• 職場環境に起因する作業のムダをなくすことができる

手順

期待成果

• 従業員へのアンケートなどによる業務負荷の把握

• 負荷が大きい業務における「手待ち」「運搬」「動作」のムダ特定

• 改善策の検討(多能工化、ワークスケジューリング)

• 改善策の実行、効果検証

• 作業工程のムダ排除により、業務時間を削減できる

手順

期待成果

• 「ハイパフォーマー」の定義づけ

• ハイパフォーマーの行動特性の抽出(例:インタビューによる聞き出し、映像撮影と再生によるハイパフォーマーと一般販売員の比較)

• 抽出した行動特性のスクリーニングと具体化・明文化

• 横展開可能な形(マニュアル、チェックリスト)に整理

• 全販売員の接客・サービスレベルの底上げができる

手順

期待成果

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導入編

導入編(1)職場環境の整備

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導入編(1)職場環境の整備

はじめに:取組体制の組成

生産性向上に取り組むためには、経営者自らが旗振り役となることが必要

• 生産性向上活動は、最終的には現場の従業員が中心となって行うものである• しかし、実際に活動を推進し成果を上げるためには、従業員だけでは難しい部分も

存在する• 例えば、経営者が関わることで、ヒト・モノ・カネを費やす取組が必要になった場合に

も、すぐに決裁を行って実行に移すことができる• また、生産性向上活動をいずれ他店舗に横展開する際にも、経営者の指示のもと、

円滑に進めることが可能になる• 加えて、経営者が活動に関わる従業員に動機付けを行うことも重要である(後述)

👉ポイント:実際に活動を行うのは現場の従業員ですが、経営者自らの覚悟を見せることが重要です

生産性向上活動に関わる従業員に、経営者から強い動機付けを行うことが必要

活動の期限を区切って、集中した取組を行うことが必要

👉ポイント:現業を抱えながら取組を行う従業員に、経営者が直接意義を伝えることが重要です

👉ポイント:期限を区切ることで、活動のゴールを明確にしましょう

• 本来は、生産性向上に関する指標(人時売上高、総労働時間など)を目標に掲げて活動を推進することが望ましい

• しかし、成果が上がるまでには時間がかかるため、従業員が目標達成に向かっている実感を得られず、活動のモチベーションが低下する可能性がある

• そこで、生産性向上活動の第一歩としては、半年(6か月)間を活動期限として設定し、その間集中して取り組めるようにすることが必要である

• 成果が上がった際に、再度、指標を目標値として設定することを検討すればよい

• 従業員は現業が非常に多忙であり、現業以外の活動を行う動機をなかなか保ちにくい現状にある

• しかし、生産性向上の活動を具体的に行うのは現場の従業員であり、活動に取り組む動機付けを行うことが必要である

• そのためには、経営者から活動に関わる現場の従業員に対し、活動の意義を直接伝えることが重要である(その際には、自社の経営課題と結びつけるとよい)

• 例えば、社長から活動に関わる従業員に対して委嘱状を手渡したり、期待の言葉を直接伝えることなども有効である

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導入編(1)職場環境の整備

(参考)取組の目的・意義のヒント

①スペースのムダ

②時間のムダ

③間違えるムダ

④とりに行くムダ

職場環境の整備によってなくせる4つのムダ

出所)オージェイティー・ソリューションズ「トヨタの片づけ」中経出版

「5S」によって「4つのムダ」をなくすことができ、生産性を向上できる

• 5Sを実践しないと、作業をするスペースや在庫を置くスペースが確保できない(スペースは無料ではない)

• 何がどこにあるかを決め、そのルールを守らないと、モノを探すために時間を浪費してしまう

• 5Sが実践されていない結果、品質の劣化した商品を提供してしまったり、それがお客様からのクレームになったりといった問題が生じかねない

• 頻繁に使用するにも関わらず遠くに置いてあるとその分だけ移動する時間が発生してしまう(単なる移動は価値を生み出さない)

• 5Sとは、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の頭文字をとったもので、職場環境を改善するための手法である

• 5Sを実践し、職場環境を整備することで、下記の4つのムダを削減することができる

👉ポイント:5Sは単なる片づけではなく、生産性向上に直接的に貢献します

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導入編(1)職場環境の整備

取組の目的・意義の体験

出所)日産自動車

Step0. 「なぜ5Sが必要なのか」をゲーム形式で体験させる

👉ポイント:身近な例に基づくことで、取組の意義をご理解頂きやすくなります

• 経営者から従業員に対して、言葉で取組の目的や意義を伝えることは重要である• それに加えて、従業員に対して、5Sに取り組む目的や意義をゲームを通して体験さ

せることで、5Sが生産性向上につながることを実感してもらうとよい

例1.筆箱の中に普通のペンとインクの切れたペン、普通のはさみと壊れたはさみを混ぜて入れておく。その際、不具合のあるものを手前に入れておく。その中から、指定のものを取り出し、指定の作業を行ってもらう(例:はさみを取り出して半分に切って下さい、紙に赤ペンで名前を書いて下さい、など)→なかなか指定の道具を取り出すことができないため、不要なものを捨てることの意義や、使いやすいように配置することの重要性を体験することができる

例2.紙に8×10のマス目を作り、1~40までの数字と任意の文字をランダムに配置した用紙を作成する(下図ご参照)。その中から1~40の順に赤ペンではみ出さないように丸をつけて行く作業を行ってもらう→ランダムに並んだ中から数字を探すことが難しいため、決められた位置にモノを配置することの意義を体験することができる

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導入編(1)職場環境の整備

「5S」と「視える化」の実施~整理~

Step1. いるモノといらないモノをはっきり区別する

• 「整理」とは、いるモノといらないモノをはっきり区別し、いらないモノを即刻処分することである

• 「いらないモノ」と「いつか使うモノ」はほぼ同義である。したがって、期限を設けて処分する基準を明確にするとよい

例)季節性がない商材の場合、1年以上使っていないモノ 例)季節商材の場合、3か月以上使っていないモノ

• また、他のモノで代替できるモノも、いらないモノの一種として定義する• もし判断に迷った場合は、1か月間など期限を区切って仮置きし、使わなかった場合

は即刻処分する

Step2. いらないモノは即刻処分する

• 「いらないモノ」は、例外なく即刻処分する• 一次的には仕入金額がムダになるように感じるが、いらないモノを保管するためにか

かっているコストの方が割高であると考える• いらないモノを処分することで、新たにモノを整頓するスペースができたり、モノを置く

以外の用途(朝礼用スペースなど)でスペースを有効活用することができる

👉ポイント:上記の基準を参考に、まずは「いらないモノ」を明らかにしましょう

👉ポイント:「いつかは使うかもしれない」という考えは捨て、いらないモノは即刻処分しましょう

整理の実践例(マイヤの例)

長年使われないものが山積み 創出されたスペース

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導入編(1)職場環境の整備

「5S」と「視える化」の実施~整頓~

Step3. 3定(定位、定品、定量)を決める

Step4. 決めたルールを誰にでもわかるように明示する

定位

定品

定量

• 置く場所を明示する(例:地図を作る、独自の番地をつけるなど)

• 置いてあるモノが何かを明示する(例:名札を貼るなど)

• 置くべき量を明示する(例:最大量または最小量を札に記載するなど)

• 「整頓」とは、いるモノを使いやすいように置き場所を決め、誰にでもわかるように明示することである

• 具体的には、下記の「3定」を決めることが必要である• 特に、置く場所については、従業員の動作(使う場所の近くに置く)やモノの使用頻度

(頻繁に使うモノは手前に置く)を考慮するとよい

👉ポイント:単にきれいに並べるだけでなく、定位、定品、定量を明示するようにしましょう

カップ麺置き場であることを明示

(定品)

カートを置く場所を白線で明示

(定位)

整頓の実践例(マイヤの例)

• 初めて見た人でもわかるように定位、定品、定量のルールを明示する• 具体的には、棚の場合は名札を貼る、床に置く場合はテープで線を引くなどして、

いつ誰が見てもわかるようにしておく

👉ポイント:ルールをわかりやすく明示することが、整頓の定着につながります

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導入編(1)職場環境の整備

「5S」と「視える化」の実施~視える化~

Step6. いる情報(掲示物)は、定位、定品、定量を決めた上で、わかりやすく明示する

店長の方針 部門毎の掲示板 重点管理項目(クレーム)の明示

視える化の実践例(マルイの例)

Step5. いらない情報(掲示物)は即刻処分する

• 視える化とは、誰が見てもわかるように表示して運用することである• 例えば、バックヤードの掲示板、発注指示書、作業指示書など、情報が掲載されてい

るものが視える化の対象である• 視える化を推進することで、作業指示や企業・店舗の目標が共有され、生産性向上

につながる• モノと同様、情報(掲示物)についても、いる情報といらない情報をはっきり区別し、

いらない情報を即刻処分することが第一歩である• 「いらない情報」とは、そもそも不要な情報(掲示物)と、重要度の低い情報(掲示物)

である• 具体的には下記のようなものが該当する

例)掲示期限が切れた情報(掲示物) 例)他の情報(掲示物)と重なって隠れてしまっている情報(掲示物)

• また、人間が認知できる情報量には限りがあるため、店長などが掲示すべき重点項目を絞り込むことも必要である

👉ポイント:情報の整理整頓も生産性向上につながる重要な取組です

• モノと同様、情報(掲示物)についても、3定(定位、定品、定量)を決め、明示することが重要である

👉ポイント:コミュニケーションの活性化によって生産性を向上しましょう

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Step7. チェックシートを活用し、複数人で職場(売場、バックヤード)の状態を確認する

• 下記のチェックシート例を参考に、整理、整頓、清潔の定着度を客観的に確認する• できれば複数人(例:経営者、本部社員、店長、現場従業員など)で定期的に(原則

月1回)チェックし、定着度を定量的に確認する

5Sチェックシートの例(オージェイティー・ソリューションズより提供)

導入編(1)職場環境の整備

「5S」と「視える化」の実施~活動の継続と習慣づけ~

👉ポイント:チェックシートに基づいて複数人で確認することで、自社・自店舗の現状の問題点を客観的に洗い出すことができます

Step8. 活動の継続と習慣づけに向けて、専任化や活動の全社共有ができると望ましい

• 生産性向上活動を継続・習慣化するために、可能であれば下記のような体制を構築することが望ましい

高い意欲を持つリーダーを選定(できれば専任化が望ましい)→兼務では、活動にかけられる時間に限界があるため

部門横断でのメンバーの選定→リーダー1人に任せるのではなく、チームで取り組むことが重要であるため

最終的な生産性向上目標とスケジュールの明確化→目標の達成度や達成時期を明らかにすることで、活動の進捗を把握できるようにするため

活動の全社への情報共有→いずれ全社への横展開を図る土台を作るため

👉ポイント:生産性向上の活動を継続させるため、会社として可能な限りのバックアップを行いましょう

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導入編

導入編(2)業務効率化

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導入編(2)業務効率化

従業員へのアンケートなどによる業務負荷の把握

アンケート設問項目①どちらの部門ですか?②シフトに入ることが多い時間帯はいつですか?③忙しいと感じる曜日・時間帯はいつですか?当てはまるマスを塗りつぶして下さい。

Step1. 従業員の負荷が高い業務を従業員アンケートから特定する

• 業務効率化を図るためには、まず時間的な負荷の高い業務を特定することが必要である

• 製造業の場合、業務フローを描いて繰り返し行われている業務を特定したり(※P.25

ご参照)、ストップウォッチを使った動作分析を行ったり、5分に1回実施している作業を観測するワークサンプリング分析などを行って、効率化すべき業務を特定している

• しかし、小売事業者が、現業を行いながら上記のような分析を行う時間を確保することは現実的には難しい

• そこで、分析の詳細さはやや劣るものの、簡便的かつ定量的に業務負荷を把握する方法として、従業員へのアンケートが挙げられる

• 部門別、曜日別、時間帯別に、忙しいと感じている従業員数を集計することで、負荷が集中している日時を把握することができる

• 負荷が集中している日時に当該部門が行っている業務が、負荷の高い業務であると判断する

従業員アンケートの例(マイヤの例)

👉ポイント:従業員の声をアンケートで集め、業務負荷の高い部門・曜日・日時を特定しましょう

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導入編(2)業務効率化

負荷が大きい業務における「手待ち」「運搬」「動作」のムダ特定

小売業で見られがちなムダ

定義(小売業での具体例)

手待ちのムダ作業者が次の作業に進みたくても進めず待っている状態(例:行うべき作業が明確でなく、始業時・作業途中で指示を待っているだけの時間が発生する)

運搬のムダ最小限必要な運搬以外の仮置き・積み替え・小出し・移し替えなどの作業(例:一時的にモノを仮置場へ運ぶ)

動作のムダ生産活動で付加価値を生まない人の動き(例:余分なものが置いてあるため、作業者の余分な動作が増える)

Step2. 負荷が高い業務に潜むムダな作業を探索する

• 一般に、作業は付加価値を高める「正味作業」、付加価値はないがなくせない「付随作業」、付加価値を高めない「ムダ」の3つに大別される

• 前頁で負荷が高いと判断された業務について、小売業に見られがちな3つのムダ(手待ちのムダ、運搬のムダ、動作のムダ)がないかを従業員同士でチェックする

• その際、経験豊富な従業員と経験の浅い従業員の作業をそれぞれビデオに撮影し、複数人でその様子を見比べると、客観的な立場でムダに気づきやすくなる

付加価値を高めない作業・手待ち・ただの移動 など

付加価値はないがなくせない作業・材料を取りに行く・商品を運ぶ など

付加価値を高める作業・調理する・盛付ける など

👉ポイント:日常的に行っている作業の中にも改善可能なムダが存在している可能性があります

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導入編(2)業務効率化

改善策の検討(多能工化、ワークスケジューリング)

Step3. 3つのムダをなくす取組を検討する

• 前頁で3つのムダが発見されたら、それをなくすための具体的な施策を検討する まずは、そもそもその作業を行う必要があるのかを考える。なくてもよい作業

なのであれば、作業をやめる 作業をやめられないのであれば、他の作業と一緒に行うことはできないか、

他の作業と順序を入れ替えたり、作業方法を簡易化することで負荷を軽減できないかを考える

※具体的なアイディアの事例は、本マニュアルの「事例編」ご参照

Step4. 多能工化による業務の平準化を検討する

• 多能工化とは、1人の従業員が複数の職務を遂行できる状態にすることである• 食品スーパーを例にとると、レジ業務、惣菜部門の業務、青果部門の業務、精肉部

門の業務を1人の従業員が行えることである• 従業員を多能工化することで、他部門が忙しい時間帯に別部門の従業員が業務を

支援することができるため、負荷の高い従業員の業務を軽減することができる

👉ポイント:現場を最も理解している従業員同士で、ムダをなくすためのアイディアを出し合いましょう

👉ポイント:事前に作業計画を立てておくことで、手待ちのムダを削減できます

ワークスケジューリングの一種である「作業指示書」の作成例(マルイの例)

時間帯(午前)各従業員が各時間帯において

行うべき作業を明記主な役割分担

時間帯(午後)各従業員が各時間帯において

行うべき作業を明記

従業員

「作業指示書」の作成方法例

1. 当該日に出勤する従業員を書き出す

2. 主な役割分担を決める3. 時間帯別(30分ごとなど)に

誰が何を行うかを明記する(休憩なども記述)

Step5. ワークスケジューリングによる「手待ちのムダ」の削減を検討する

• また、予め部門間の繁閑差が予想できる場合には、いつ誰が何の作業を行うべきかを予め定める「ワークスケジューリング」を行っておくことで、発生すると予測される手待ち時間を、別部門の業務の支援に活用することができる

👉ポイント:総業務時間を削減するために、部門間の壁を取り払って多能工化を進めましょう

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導入編(2)業務効率化

改善策の実行、効果検証

Step6. 施策を実行したら、必ず効果を検証する

• 検討した取組を関係者に周知し、実行する• 実行から1か月後を目安に、再度従業員にアンケートを行い、改善を試みた業務の

負荷が軽減されたかどうかを検証する

Step7. 効果が見られた場合は、できるだけルールを文書に残す

• 業務効率化に効果が見られた場合は、改善後の作業方法を誰でも再現できるように、可能な限り文書に残すことが望ましい

目的1. ルールの形骸化を避けるため

目的2. 新たに加わった従業員に周知できるようにするため

• 文書に残す際は、守るべきルールやその理由を写真とともに端的にまとめた「作業ガイド」の体裁にすることが望ましい

• 「作業ガイド」は、必要なときにその場で読んで活用できるよう、できれば作業を行う場所に掲示することが望ましい

• 更なる作業方法の改善を行った場合には、「作業ガイド」を更新する

番号 03

 陳列棚の半分以下になったら商品を補充する。

原則・ルール

棚に商品が十分あるのに補充をすることは、

バックヤードと棚との歩行のムダや

前出し作業の効率の悪さとなるため。

店舗作業ガイド

作業名 商品の補充タイミング

部門

対象

グロサリー

ドライ品、飲料、日配品

理由

補充直後半分以下

(この状態になったら補充)

例①

とうふ

例②

納豆

例③

牛乳

作業ガイドの作成例(マイヤの例)

👉ポイント:単なる効果の有無ではなく、何時間(分)くらい効率化の効果があったかを確認しましょう

👉ポイント:新しい従業員にも適切な作業方法を伝えられるよう、作業ガイドを作りましょう

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導入編

導入編(3)接客・サービス力の底上げ

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導入編(3)接客・サービス力の底上げ

「ハイパフォーマー」の定義づけ

Step1. 会社としての理想状態を明確化し、ハイパフォーマーを選定する

• ハイパフォーマーの定義にあたっては、会社として理想とする従業員の属性を規定し、その属性の中で高い成果を上げている従業員を選定する

声掛け数 体感数 成約数 体感率 成約率

( a ) ( b ) ( c ) (b/a) (c/b)

店長 Aさん 4 3 2 75% 67%

販売スタッフ Bさん 5 3 3 60% 100%

販売スタッフ Cさん 6 6 6 100% 100%

販売スタッフ Dさん 4 2 0 50% 0%

販売スタッフ Eさん 5 3 1 60% 33%

店舗X計 24 17 12 71% 71%

ハイパフォーマー

体感率と成約率の高いハイパフォーマーの例(西川産業の例)

会社として目指すべき方向性の分析の例(薬日本堂の例)

👉ポイント:どのような従業員になってほしいのか、明確にイメージしましょう

48%(平均)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

¥0 ¥1,000,000 ¥2,000,000 ¥3,000,000 ¥4,000,000

グループ② (16名)

顧客単価:中顧客数:少リピート率:低

グループ① (24名)

顧客単価:高顧客数:多リピート率:高

グループ④ (18名)

顧客単価:中顧客数:多リピート率:高

グループ③ (26名)

顧客単価:低顧客数:少リピート率:低

重点品目構成比率

リピート率を向上させ、顧客数を増加

重点品目構成比率を高め、顧客単価を向上リピート率を向上させ、顧客数を増加

重点品目構成比率を高め、顧客単価を向上

ハイパフォーマー

従業員一人あたり売上高(円)

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導入編(3)接客・サービス力の底上げ

ハイパフォーマーの行動特性の抽出

Step2. 方法(1)インタビューによるハイパフォーマーの行動把握

Step2. 方法(2)映像撮影と再生によってハイパフォーマーと一般の従業員を比較する

• ハイパフォーマーとそうではない一般の従業員の接客を撮影・録音し、両者を比較する

• 映像撮影による分析や会話分析をすることにより、ヒアリングやアンケートだけでは表面化しない自分たちが意識していない、当たり前になった言動を顕在化させることができるというメリットがある

• ただし、分析にかかる作業負荷は相対的に高い

• ハイパフォーマーに対して、普段心がけていることをインタビューすることにより、ハイパフォーマーの行動を明文化する

• 特に、当たり前であると思っていることについても、ハイパフォーマーに言語化してもらうように心がける

• 作業負荷は相対的に低いというメリットがあるものの、言語化できない特性(しぐさ、立ち位置など)を引き出すのは難しいというデメリットがある

画像と会話による把握の例(西川産業の例)

会話の書き起こし

👉ポイント:ハイパフォーマーが何を行っているのか、注意深く観察しましょう複数のハイパフォーマーを比較することも効果的です

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導入編(3)接客・サービス力の底上げ

抽出した行動特性のスクリーニングと具体化・明文化

Step3. 行動特性のスクリーニング

• 抽出した行動特性のうち、複数のハイパフォーマーが共通して挙げた事項を選定する

• さらに、会社の方針と合致する事項を選定することにより、スクリーニングを行う

Step4. 行動特性の具体化と明文化

• ハイパフォーマーの行動特性を明文化する• 明文化にあたっては、どの販売員でも再現できるように、なるべく具体的に記載する

可能な限り数値を入れることが望ましい

【行動規範チェックリストの記載例】(薬日本堂の例)

「お客様に信用していただけるように心がける」とするのではなく、「お客様の笑顔を引き出す」ことにポイントをおく。いきなり漢方の話題ではなく、世間話や雑談を通じて初期の関係づくりをはかる。自分が感じたことをストレートに言うことで、友達のように何でも話してもらえる雰囲気を作り、お客様から信頼を得る。※笑顔はお客様の「話を聞いてみよう」というサイン。雑談の目安は10%ほど。

ハイパフォーマー 行動

Aさん -----

-----

-----

-----

・・・

Bさん -----

-----

-----

-----

・・・

Cさん -----

-----

-----

-----

・・・

Dさん -----

-----

-----

-----

・・・

Eさん -----

-----

-----

-----

・・・

・・・ ・・・

共通した行動

-----

-----

-----

-----

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最終項目

-----

-----

・・・・・・・・・・・・3

名以上が共通して挙げた行動を選定

会社の方針と合致する事項を本社で議論

スクリーニングの手順(薬日本堂の例)

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導入編(3)接客・サービス力の底上げ

横展開可能な形(マニュアル、チェックリスト)に整理

Step5. マニュアルや研修による周知

• ハイパフォーマーの行動特性をマニュアル化して、従業員に配布するとともに、マニュアルの内容について研修を行う

• マニュアルの定着度について、アンケートなどにより、取組状況を把握することも効果的である

Step6. チェックリストによる行動の定着化

• ハイパフォーマーの行動をチェックリストに落とし込み、各々の従業員へ展開する• 定期的(例:月1回)にリストの内容のセルフチェック及び上司(店長など)によるチェッ

クを行い、行動の定着を図る

研修実施後のアンケートの例(西川産業の例)

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👉業務フロー図の作成による繰り返し作業の発見(1)

コラム 優先的に見直すべき作業工程を見つけるための手法

業務の効率化には関心があるが、具体的にどの作業を見直すべきか判断がつかない場合、①業務フロー図を作成し、②繰り返し行われている作業を再確認することで、見直すべき作業工程を見つけ出すことができる。

繰り返し行われている作業は、一連の業務の中で、多くの時間と労力が費やされている作業工程である。それを優先的に見直すことで、業務全体の生産性を効果的に高めることにつながる。

業務フロー図作成のための整理

• 業務フロー図を作成する前に、以下の表を活用して、各作業工程の流れと必要な情報を整理しておくと、業務フロー図を作成しやすくなる

FROM TO 必要なもの 必要なとき 必要なだけ 誰が どの様に

在庫置き場

売場 ペットボトル 毎朝 その日売れる量だけ

売場担当 在庫置き場のカゴ台車から長台車に載せ換えて持って行く

・・・ ・・・ ・・・・・・ ・・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・

・・・ ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・

仕入れ先 荷下ろし カゴ台車載せて保管

長台車載せ換え

商品出し

製造会社 契約先物流会社

搬入車両駐車場

在庫置き場 在庫置き場 売場

ペットボトル ① ② ③ ④ ⑤ ⑥

・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・

・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・・ ・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・

作業工程の流れの整理表(ペットボトルの仕入れから商品出しまでの作業の流れの記入例)

作業工程に必要な情報の整理表(ペットボトルの商品出し作業に必要な情報の記入例)

手順①

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👉業務フロー図の作成による繰り返し作業の発見(2)

コラム 優先的に見直すべき作業工程を見つけるための手法

繰り返し行われている作業を再確認する

• 業務フロー図から繰り返し行われている作業を再確認する• 繰り返し行われている作業が、優先的に見直す対象となる

(※一連の作業工程を熟知している経営者でも、その作業工程が1日の間にどのくらい行われているのか、定量的に把握できていないこともある)

• 作業回数は、作業見直しをする際の重要な判断材料になるため、業務担当者へのヒアリングや、ビデオ撮影を行うことで、実際にどのくらいの作業回数が発生しているのか確認する

業務フロー図(ペットボトルの仕入れから商品出しまでの作業の流れと

商品出し作業の情報の記入例)

• 表に整理した作業工程の流れを基に業務フロー図を書き起こし、各作業工程に必要な情報を追記する

整理表を基に業務フロー図を作成

カゴ台車に載せて保管(在庫置き場④)

契約先物流会社

店舗

【商品出し作業の情報】●ペットボトルを●毎朝●その日売れる量だけ●売場担当が●売場に●在庫置き場のカゴ台車

から長台車に載せ換えて持って行く

荷下ろし(搬入車両駐車場③)製造会社

長台車載せ換え(在庫置き場⑤)

商品出し(売場⑥)

在庫置き場

手順②

手順③

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さえきの事例(1)在庫置き場と補充ルールの見直し

コラム 優先的に見直すべき作業工程を見つけるための手法

• 食品スーパーさえきのグロサリー部門を対象に、実際に業務フローを作成したところ、 バックヤードで滞留している商品が店棚に置けないか確認に行く 置けるスペースがあれば商品を再度運ぶ

という作業の繰り返しがあることがわかった• 同時に在庫をこれ以上絞ると欠品になることも判明した• これに対し、バックヤードの徹底した整理整頓を実施した上で、

小物商品:店棚にすべて送り込みバックヤードで在庫は持たないそのために店棚にストック棚を追加する

飲料などの大物商品:バックヤードに置場を構え、店棚に定期的に補充することをルール化した

改善前の在庫置き場 改善後の在庫置き場の様子

店棚にストック棚を追加しバックヤードに小物を置かない

徹底した整理、整頓の実施飲料などの大物商品の置場決定・補充に際し先入れ先出しができるよう通路を確保・店への補充のための歩行を最小限にするため台車を横方向に配置

バックヤードレイアウト 売場へ

売場への補充ルート通路の確保、横方向の配置

さえきでの取組結果

バックヤードの在庫量 56%削減バックヤードからの品出し作業時間100時間/年 減少

(費用換算で15万円/年 減少)

バックヤードと売場を往復する繰り返しの削減

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さえきの事例(2)一個流しの導入による仮置き動作のムダ排除

コラム 優先的に見直すべき作業工程を見つけるための手法

改善前の作業手順(まとめ加工) 改善後の作業手順(一個流し)

標準作業組合せ表(各工程にかかる時間の分析)

A.キャベツかごから取り出し

B.包丁で半分にカットし、半キャベツを作業台の奥に仮置き

C.半キャベツにラップをかける

D.商品運搬カゴに入れる

B.包丁で半分にカット

C.半キャベツに1個ずつラップをかける

D.商品運搬カゴに入れる

A.キャベツかごから取り出し

A. キャベツをカゴから取り出しまな板に置く 1個目B. 包丁で半分にカットするB. カットしたキャベツを机の奥に仮置きするA. キャベツをカゴから取り出しまな板に置く 2~5個目B. 包丁で半分にカットするB. カットしたキャベツを机の奥に仮置きするC. 作業台奥から半キャベツをラップ機に置くC. 半キャベツにラップを掛ける        1個目D. ラップ掛けしたキャベツを運搬カゴに入れるC. 作業台奥から半キャベツをラップ機に置くC. 半キャベツにラップを掛ける      2~10個目D. ラップ掛けしたキャベツを運搬カゴに入れる作業台の野菜屑を掃除する 18秒キャベツ加工前後のカゴの載せ替え 24秒

187秒

A. キャベツをカゴから取り出しまな板に置く ①個目B. 包丁で半分にカットするC. 半キャベツにラップを掛ける        半分1個目D. ラップ掛けしたキャベツを運搬カゴに入れるC. 半キャベツにラップを掛ける        半分2個目D. ラップ掛けしたキャベツを運搬カゴに入れる

キャベツカット2個目 ⇒ラップ掛け X 2回 ⇒ カゴ入れ X 2回 30秒

キャベツカット3個目 ⇒ラップ掛け X 2回 ⇒ カゴ入れ X 2回 31秒

キャベツカット4個目 ⇒ラップ掛け X 2回 ⇒ カゴ入れ X 2回 26秒

キャベツカット5個目 ⇒ラップ掛け X 2回 ⇒ カゴ入れ X 2回 27秒

前後作業 作業台の野菜屑を掃除する 5秒

146秒

経過時間作 業 動 作

キャ

ベツ5個まとめ加工

18秒前後作業

78秒

ラップ掛作業①~⑩

12秒

47秒 2~5個目:47秒

8秒

12秒カット作業

1~5

8秒

合計作業時間

合計作業時間24秒

27秒

一個流し加工

27秒

30秒

31秒

26秒

キャベツ1個目目

カット~

ラップ掛けカゴ入れ

キャベツ2個目

~5個目

ラップ掛けカゴ入れ

27秒

86秒

作業時間差

41秒(22%)の削減

まとめ加工

一個流し加工

さえきでの取組結果

作業時間 22%削減

• 食品スーパーさえきでは、キャベツを切ってラップに包む作業をまとめ加工(5個まとめて切って、5個まとめてラップで包む)にて行っていた

• しかし、カット後のキャベツがラップされずに仮置きされるムダが発生していた• そこで、一個流し(1個切ったら1個包む)を導入し、ムダを排除することとした• 実際に、両作業をビデオに撮影し、所要時間を分析したところ、効果を確認できた

「まとめ加工」から「一個流し」への変更による仮置き動作の繰り返しを削減

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事例編

事例編

ケース1. マイヤ(食品スーパー)

ケース2. マルイ(食品スーパー)

ケース3. 片浜屋(食品スーパー)

ケース4. リビンズ(家具専門店)

ケース5. 菅田(宝飾品専門店)

ケース6. 薬日本堂(漢方専門店)

ケース7. 西川産業(寝具専門店)

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事例編

ケース1.マイヤ

👉企業概要と課題背景

(株)マイヤは、岩手県大船渡市に本社のある食品スーパーであり、岩手県と宮城県

に15店舗を展開している。東日本大震災直後においては、被災がなかった店舗で地域

住民を支えるために物資を供給し続けるなど、地域密着を志向している。

しかしながら震災以降、同地域では慢性的な人手不足が続いている。同社においても

人手不足は深刻であり、最小の人員で店舗を運営することが必要となっている。特に、

バックヤード業務は商品の受け入れ、保管、商品作り、陳列と多くの工数を費やしてお

り、その生産性向上は急務であった。

そこで、まずは5Sの実践によりバックヤードの保管エリアを整備し、次に業務効率化

を行った。

企業名 (株)マイヤ

設立 昭和36年6月

本社所在地 岩手県大船渡市

資本金 5,000万円

店舗数 15店舗(岩手県内)

売上高 220億円(平成28年)

従業員数 1,050名(パート・アルバイト含む)

企業概要

取組実施対象店舗(モデル店舗)のプロファイル

店舗名 A店

営業時間 9:30~21:30

従業員数 65名(パート・アルバイト含む)

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👉整理、整頓の実施

マイヤでの取組結果

総労働時間 4時間/日 削減(※後述の業務効率化の成果も含む)

整理による不要なモノの廃却

• 必要なモノを決めてそれ以外は廃却する• 必要・不必要の定義を決める

マイヤにおける定義:1年に一度も使っていない、他のモノで代替できるモノなどは不必要とみなす迷ったら期間を決めて仮置きし、期間内に必要かどうか判断する

ノウハウ:整頓によるレイアウトの見直し

• 動線のムダを排除し、使用頻度の高いモノを優先的に取り出せるように考慮し、店舗の商品レイアウトに合わせて在庫を配置する

マイヤにおける改善例マイヤにおける問題点

同じモノが2ヶ所に分かれて保管

【整頓】種類毎に置き場を決め、札表示と白線表示

【動線改善】動線を整え、在庫の品出し時の歩行削減

店舗の陳列棚から離れたところに保管

【整頓】業者が引き取る箱(使用頻度高)

【整頓】特売陳列用テーブル

(使用頻度高)

食品以外も使用頻度で整頓

【整頓】予備台車(使用頻度低)

事例編

ケース1.マイヤ

ノウハウ

ノウハウ

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👉現状分析:アンケートによる業務ピークの把握

5Sの実践によりバックヤードの保管エリアを整備したマイヤの次なる課題は業務効率

化である。マイヤでは、部門別、時間帯別の業務負荷を把握するために、従業員にアン

ケートを行い、下記のグラフのように集計した。

その結果、青果・グロサリーの業務のピークが17時頃に集中することがわかった。

また、業務実態を把握するためのITツールである「スマートロガー」(※P.37ご参照)に

よって、業務量の把握も行った。

アンケート設問項目

①どちらの部門ですか?

②シフトに入ることが多い時間帯はいつですか?

③忙しいと感じる曜日・時間帯はいつですか?当てはまるマスを塗りつぶして下さい。

事例編

ケース1.マイヤ

(1週間の平均回答数)

鮮魚・精肉・惣菜のピーク

青果・グロサリーのピーク開店準備・

開店直後

従業員数(パート含む)青 果 :7名鮮 魚 :9名精 肉 :6名惣 菜 :11名グロサリー:14名

営業時間9:30~21:30

部門別時間帯別の業務負荷に関する従業員アンケート結果

平均回答数

アンケートによる部門別・時間帯別の業務負荷の見える化

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👉業務負荷の把握から明らかになった課題

アンケートの結果、青果・グロサリーの

業務のピークが17時頃に集中することが

わかったが、人手不足により、この時間帯に

従業員を増員することは難しい。

そこで、業務負荷のピークを過ぎている

鮮魚・精肉・惣菜の従業員に青果・

グロサリー業務を支援してもらう、

「部門間応援体制」の確立を解決策として検討した。

また、夕方のグロサリー部門の業務負荷の原因をさらに深掘りすると、同時間帯に到

着するトラック便の荷物は、全てグロサリー部門の商品であることがわかった。グロサ

リー部門は同時間帯に商品仕分け作業や陳列作業が集中しており、その作業方法に

は従業員ごとにばらつきがあり、作業効率向上の余地があることがわかった。

①トラック便で商品が配送される

1 2 3

②コンテナは種々の商品が混載

③店舗内へ品出しするときの仕分けルールが無く、属人的に作業を実施

マイヤにおけるグロサリー部門の商品の到着から仕分け・品出しまでの現状

陳列時の歩行のムダが発生

事例編

ケース1.マイヤ

従業員の増員を行わずに業務負荷のピークを平準化すること

モデル店舗における適正人員と実人員

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👉多能工化と柔軟性を持たせた作業編成による労働時間削減

多能工化の推進

• 多能工化とは、従業員が、担当部門のみでなく、担当ではない部門の業務も支援できるスキルを身につけることである

• そのために、支援すべき作業(例:グロサリー部門の前出しなど)を明確に指示する

食品加工は経験が必要であり、支援すべき業務に向かない

補充・前出し、片付け・掃除などは比較的誰でも支援がしやすい

• 他部門の従業員でも支援の仕方が具体的にわかりやするように、「作業ガイド」を作成する

柔軟性を持たせた作業編成

• 店舗の状況は日によって変化するため、他部門支援を開始する時刻を固定してしまうのではなく、店舗の状況によって、支援すべき時間に柔軟性を持たせることが必要である

• そのため、店舗の状況を店長やマネージャーが判断し、音楽などの店内放送によって、支援開始の合図とする

マイヤが作成した作業ガイド例

店内放送が流れたら青果部門の従業員がグロサリー部門を手伝う

マイヤでの他部門支援の例

事例編

ケース1.マイヤ

ノウハウ

ノウハウ

番号 03

 陳列棚の半分以下になったら商品を補充する。

原則・ルール

棚に商品が十分あるのに補充をすることは、

バックヤードと棚との歩行のムダや

前出し作業の効率の悪さとなるため。

店舗作業ガイド

作業名 商品の補充タイミング

部門

対象

グロサリー

ドライ品、飲料、日配品

理由

補充直後半分以下

(この状態になったら補充)

例①

とうふ

例②

納豆

例③

牛乳

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👉店舗の商品レイアウトに準じた仕分けによる作業効率化

経験豊富な従業員のノウハウを基にした商品仕分けのルール化

• 商品レイアウトに合わせ、受入コンテナから台車への仕分け方法をルール化する 経験豊富な従業員が、自ずとそういった作業を行っている可能性が高いため、

ノウハウをヒアリングするとよい• 仕分けと陳列の作業分担を明確にする• これらにより、歩行のムダや、都度仕分けの仕方を考える時間のムダを排除できる

ルール徹底のための作業ガイド作成

• 設定したルールを周知徹底するため、「作業ガイド」を作成する

• 作業ガイドには、作業名、対象商品、作業時のルールやその理由を明記する

マイヤにおける問題点と改善策

③①トラック便で

商品が配送される②コンテナは種々の

商品が混載③店舗内へ品出し

するときの仕分けルールが無く、属人的に作業を実施

Step1.飲料、インスタント麺、菓子、和日配を基本に配送コンテナから台車に仕分け

Step2.店舗内レイアウトを考慮した仕分け

マイヤでの取組結果

総労働時間 4時間/日 削減(※前述の整理、整頓の成果も含む)

ルール:乾麺→鍋スープ→つゆ →醤油→みりん→酢・ポン酢の順に台車に積み込む。

理由①陳列する順番に台車に積み込むことで、陳列時のムダな移動をなくす。理由②ただし、作業負荷軽減のため、重いものは台車下段、軽いものは上段に載せる。

作業ガイドの例

事例編

ケース1.マイヤ

ノウハウ

ノウハウ

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事例編

ケース1.マイヤ

👉あとがき

深刻な人手不足という問題から出発し、現状の人員で効率的に店舗を運営するため

に、5S、作業効率化に取り組んだマイヤ。当初は半信半疑であった現場スタッフも、

数々の取組を通して、生産性向上を実感することができた。

モデル事業者の担当役員にとっても、今回の取組は、大きな驚きの連続であった。例

えば、これまでは、顧客満足度のように、外部へ目を向けたアンケートを行った経験は

あったものの、内部に向けたアンケートによって繁閑状況を把握するという発想はな

かった。こうした取組を通して、現場スタッフの意識も変わり始めたという手ごたえを感じ

ている。

一方で、活動を継続させることの大変さも痛感している。今回の事業では、12月の年

末商戦で、活動を中断せざるを得ず、1月に再度スタートを切るといった経験もしている。

これからも、エネルギー高く活動を推進していきたいと決意を新たにした。

今後は、店長会議を設定し、モデル店舗のみならず、全店舗に取組を展開できるよう、

活動を推進する予定である。

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コラム ITを活用した業務負荷の把握方法

スマートロガ-TMを活用した作業分析

• スマートロガーとは、スマートウォッチとセンサーで、作業情報、位置情報、時間情報を記録することができるITツールである

• ITツールによる作業の現状把握を行うことで、作業時間の測定や分析にかかる人的負担を軽減できるとともに、広範囲・長期間で作業分析を行うことが可能になる

• これにより、作業のムダの発見や改善の効果検証をより精緻に行うことができる

スマートロガーとは

位置センサー

作業センサー

スマートウォッチとセンサーで、作業情報、位置情報、時間情報を記録

スマートウォッチに記録された情報をパソコンにダウンロード。

スマートロガーで把握できることの例

滞在場所ヒートマップ(誰がどこにいる時間が長いかを見える化)個人別日々の作業内容別時間

• 誰がいつどの作業を行っているかをグラフ化できる⇒非稼働時間の発見や効率の悪い作業の発見ができる

• 誰がどの場所にいる時間が長いかを見える化できる⇒売場や倉庫のレイアウト再考に活用できる

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事例編

ケース2. マルイ

👉企業概要と課題背景

(株)マルイは、岡山県津山市に本社のある食品スーパーであり、岡山県と鳥取県に

23店舗を展開している。

同社の強みは、取り扱いSKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位)の多さである。豊

富な品揃えを武器に、地域になくてはならないスーパーマーケットを目指している。

しかし、豊富な品揃えの裏返しでバックヤードの商品数が多く、在庫が山積みになり

がちであった。また、 明確な作業標準などが整備されていなかったり、作業標準があっ

ても徹底されておらず、経験や勘に依存した管理が日常的になっていた。

今回のケースは、製造業のノウハウである「5S」、「3定」、「視える化」を中心に、モデ

ル店舗に選ばれたA店のバックヤード業務の効率を高めるとともに、将来的な他店舗

への展開を見据えた取組である。

企業名 (株)マルイ

設立 昭和33年8月

本社所在地 岡山県津山市

資本金 1億円

店舗数 23店舗(岡山県内、鳥取県内)

売上高 485億円(平成28年。グループ全体)

従業員数 約2,800名(グループ全体。パート・アルバイト含む)

企業概要

取組実施対象店舗(モデル店舗)のプロファイル

店舗名 A店

開店 平成9年

営業時間 9:00~22:00

従業員数 87名

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事例編

ケース2. マルイ

👉現状分析:製造業のノウハウを持つトレーナーによる視察

現場視察による職場環境の問題把握

問題点①バックヤードの通路• モノが無造作に積まれていて、取りたいものを

すぐに取れない

• モノが溢れていて通路が狭く、動線効率が悪化している

問題点②バックヤードの棚• モノが多く、どこに何があるか

わかりにくい

• どこに何があるかが決められておらず、探しにくい

問題点③バックヤードの掲示板• 掲示物が重なっており、そもそも何が書いて

あるのか読めない

• 掲示物が多く、何が重要な情報なのかがわからない

• 発注に関する情報を見逃してしまい、お客様に迷惑をかけることも起きている

コンサルタントとA店のプロジェクトメンバーが現場視察を行い、職場環境に関する問

題把握を行った。その結果、バックヤードの通路、棚、掲示板に問題点があることがわ

かった。

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事例編

ケース2. マルイ

👉従業員の判断による取り組むべき課題の特定

課題1.不要な在庫を減らすこと

課題2.情報伝達の不備に起因する作業ミスを減らすこと

バックヤードにおいて、不要なモノが多く、通路をふさいだりモノが積み上がったりする原因になっている。また、モノを置く位置や置く量が定まっていないため、どこに何がどれだけあるかがわかりにくくなっている。これらにより、動線効率の悪化や作業のムダ、ムダな在庫が発生している。

これを解決するためには、まずは不要な在庫を低減することが必要である。

次に、必要なモノを必要な場所に必要なだけ配置することが必要である。これには、製造業のノウハウである「5S」、「3定」を推進することが有効であると判断した。あらゆる部門において5Sの推進は課題であったが、店長を始め、メンバーの総意として、特にモノの使用量が多いことに加えて、他部門にも横展開しやすいという観点で、惣菜部門のトレー棚から着手することとした。

情報を伝達するために掲示版が存在しているものの、掲示物が重ねて貼られていたり、期日が過ぎているものが残っているなど、何が重要な情報なのかがわかりにくくなっていた。また、掲示板ではない場所(冷蔵庫など)にも掲示物が貼られており、情報が分散していた。これらにより、正しく情報が伝わらず、作業ミスの原因になっていた。

これを解決するためには、モノと同様、不要な情報を減らすとともに、必要な情報をわかりやすく明示することが必要である。そこで、製造業のノウハウである 「視える化」を推進することが有効であると判断した。

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事例編

ケース2. マルイ

👉トレー棚の整理、整頓の実施

不要なモノを定義し、捨てる(整理)

3定(定位、定品、定量)を定義し、札を付けて明示する(整頓)

• 3か月以上使っていないモノなど、基準を超えたモノは即刻処分する(実際の未使用期間の基準は、各社ごとの事情を踏まえて検討する)

• 1か月以上使っていないモノは、倉庫などに一時保管することも有効である

• トレー棚を集約して「3定」を実施し、棚番号(番地)を決めた上で棚札を付ける マルイの場合、「惣菜あげあげ一丁目」など、覚えやすい名前を付けた

改善前

改善後

ノウハウ

ノウハウ

棚札の例

「定位」を棚番号で明示

「定品」を明示

「定量」を1日平均使用数と発注単位の2項目で明示

マルイでの取組結果

トレーの在庫金額 前年同月比22%減

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事例編

ケース2. マルイ

👉視える化の実施

マルイでの取組結果

別注品の発注漏れ件数2件/月 → 0件/月

掲示板に貼るべき情報を絞り込む

作業ミス防止のために、発注指示を「視える化」する

モノをなくし、発注指示を整然と掲示→発注漏れが起きにくい

モノが溢れ、発注指示が無造作に掲示→発注漏れが発生しやすい

• マルイの場合、重点管理項目(別注品の発注指示、クレーム管理など)や各部門における活動計画などを、誰からでも見える場所に常に掲示することとした

• 重点管理項目の中でも、発注漏れが発生していた別注品の発注指示については、視える化を行うことでミスの防止を達成することができた

ノウハウ

ノウハウ

店長の方針 部門毎の掲示板重点管理項目

(クレーム)の明示

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事例編

ケース2. マルイ

👉清潔、しつけの仕組みづくり

チェックシートを活用した定期的なチェックのルール化

• 清潔(=整理、整頓、清掃の維持)については、その定着度合いを現地現物で確認できるチェックシートにて確認を行う

• しつけ(=決められたことをいつも正しく守る習慣づけ)については、ルールを守らせる仕組み、従業員に習慣づけるためのマネジメント、各従業員の意識・行動が重要であるため、それらについて確認するチェックシートを活用する

• これらを定期的に(月1回)3名でチェックし、5Sの定着度を定量的に確認している

清潔・しつけチェックシートの例(オージェイティー・ソリューションズより提供)

マルイでの取組結果

5Sチェックシートの点数が導入時より漸増中

ノウハウ

整理・整頓・清潔チェックシートの例(※P.14の再掲)

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事例編

経営者自身が決意を持って取り組むこと

(例1)活動キックオフミーティング

(上段)社長からメンバーに対して期待の言葉(下段)プロジェクトメンバーへ委嘱状交付

(例2)経営の積極的な活動支援

副社長自ら5S活動に参加

マルイにおける実施事項

マルイでの取組結果

プロジェクトメンバーの活動参加率開始時:50% → 2か月目以降:95%以上

ノウハウ

担当者の設定と管理体制の整備

• チェックシートの結果に基づき、5Sを推進していく担当者をエリアごとなどに決める• 担当者は任されたエリアに責任を持つ一方で、改善実施について店長やマネー

ジャーといった上長に上申できるなどの権限を与えるなど、経営者の判断で管理体制を整備する

ノウハウ

ケース2. マルイ

👉清潔、しつけの仕組みづくり

• メンバーに対して強い動機付けを行うために、社長から直接プロジェクトメンバーに対して期待の言葉を述べた(例1上段参照)

• プロジェクトメンバーを選任し、取組意欲を高めるために、社長から委嘱状を交付した(例1下段参照)

• また、副社長自らが5S活動に参加し、メンバーとともに汗を流した(例2参照)

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事例編

ケース2. マルイ

👉次なる取組の背景

無事にバックヤードの「5S」、「3定」と「視える化」を実践したマルイ。次なる課題はい

よいよ業務の効率化である。

コンサルタントは、従業員メンバーに対し、まずはムダがより多く発生していると思わ

れる業務を部門別に洗い出すように指示した。その結果、下記のような業務が挙げら

れた。

次に、メンバーの話し合いにより、特にその中でも業務の実施頻度や負荷が大きいも

のを選定した。その結果、「動作のムダ」が多いトレーの発注業務と、「手待ちのムダ」

が多い朝の青果部門の品出し業務を改善対象業務とすることに決定した。

これらの業務にムダが発生している原因について、分析を行った。

惣菜部門におけるトレーの発注業務

惣菜部門における巻き寿司づくり業務

青果部門における開店時の品出し業務

青果部門におけるカットフルーツアソートづくり業務

畜産部門における鶏の成形業務

水産部門における刺身の盛合せ業務

・・・

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👉現状分析:改善対象となった業務のムダの原因分析

従業員自ら改善すべき業務を列挙し、ムダの原因を特定

事例編

ケース2. マルイ

①惣菜部門におけるトレーの発注作業• トレー棚の5Sと3定を実現し、在庫金額を削減

することができたが、トレーの発注業務は依然として煩雑であった

• 具体的には、1. トレー棚と棚札を見て、発注すべきトレーを特定する2. トレーのオーダーブック(十数ページ)から該当するトレーを見つける3. 発注を行うという手順であった

• しかしながら、オーダーブックから該当するトレーを見つけるという「動作のムダ」が生じていた

トレー定番オーダーブック

5S、3定を実現したトレー棚

口頭指示(各自へ対応)

青果マネージャー

開店時の青果部門における品出し作業の指示出し方法

②青果部門における開店時の品出し業務• 開店時の青果部門は、作業負荷が高い• 各従業員の実施する作業は、都度青果部門

マネージャーの指示を仰ぐ必要があるため、マネージャーが別の業務に従事していると、その間は「手待ちのムダ」が生じてしまう

• かつ、マネージャー不在時には作業進捗が遅れがちになってしまう

• 結果として、品揃えが開店時に間に合わない場合も散見された

実際の指示出しの様子

業務の実施頻度や負荷の大きさといった観点から、改善すべき業務と判断された「①

トレーの発注作業」と「②開店時の青果部門の品出し作業」について、ムダの原因を分

析した。

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👉分析結果から発見した課題

課題1.作業負荷の大きいオーダーブックでの発注を見直すこと

課題2.手待ちのムダが大きい口頭による指示を見直すこと

トレー棚は整理整頓が徹底されたものの、トレーの発注作業は依然として作業負荷が高いままであった。原因は、オーダーブックから当該トレーを探す際に生じるムダであった。

そこで、オーダーブックを使わずにトレーの発注を行う方法を検討することとした。

具体的には「3定」の成果である棚札を活用した発注方法を検討した。

青果部門の朝の品出し作業は、そもそも日常的に業務量が多い状態であった。そのような中で、都度口頭でマネージャーから作業指示を受けるため、マネージャーが他の業務に従事している場合や、別の従業員に指示をしている間などは、手待ち時間が発生していた。

そこで、マネージャーからの指示待ち時間が発生しないような指示出しの方法を検討することとした。

事例編

ケース2. マルイ

口頭指示(各自へ対応)

青果マネージャー

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事例編

ケース2. マルイ

👉「3定」の応用による発注作業の作業効率化

「3定」を明示した棚札の応用による発注作業の効率化

マルイでの取組結果

トレー発注にかかる作業時間 50%削減(10分/回→5分/回)

• 従来、トレーの発注は十数ページのオーダーブックをめくり、該当するトレーを見つけて発注していた

• しかし、トレー棚の「3定」実践後は、各トレーの棚の前に貼っている棚札にバーコードを貼付しておき、発注時にはそれをスキャンする方法に変更した

• これにより、そもそもトレーを発注すべきなのかを判断する工数と、発注すべきトレーを探す工数を削減することができた

改善前

改善後

棚札

十数ページにも渡る中から該当商品を見つけ出すだけでムダな時間を要していた。

トレー定番オーダーブック

そもそもトレー棚を見れば、どの商品を発注すべきなのかを実物を見て確認できる。加えて、棚札のバーコードをスキャンすれば発注が可能になるように工夫した。

ノウハウ

発注判断

商品探索

発注在庫確認

発注判断

商品探索

発注在庫確認

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事例編

ケース2. マルイ

👉作業指示書や加工指示書の活用による指示待ち時間の削減

マルイでの取組結果

開店時品出し作業時間 29.4%削減(※推計値)

17時間/5人 → 12時間/5人

作業指示書、加工指示書の活用による指示待ち時間の削減

• 従来はマネージャーが各作業員に口頭で作業指示を出していた• 作業指示書や加工指示書といった文書による指示に変更することで、指示の伝達漏

れや手待ち時間が削減される

口頭指示(各自へ対応)

青果マネージャー 青果マネージャー

作業指示書

加工指示書

※前日中に作成

• 朝イチの段階で作業内容が明確なので、段取りがスムーズ

• マネージャー不在でも作業の遅れが生じない

• 都度マネージャーの指示を仰ぐため、手待ちが生じている

• マネージャー不在時の作業進捗が遅れがち

改善前 改善後マルイにおける改善例

作業指示書の例(※導入編P.18の再掲) 加工指示書の例

ノウハウ

加工すべき

品目

作業時間目安

作業量

加工すべき

品目

作業時間目安

作業量

時間帯(午前)各従業員が各時間帯において

行うべき作業を明記主な役割分担

時間帯(午後)各従業員が各時間帯において

行うべき作業を明記

従業員

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事例編

ケース2. マルイ

👉あとがき

5S、視える化、作業効率化に取り組んだマルイ。今後は、1年間という期限を定め、ま

ずは後戻りさせないことを第一の目標に設定した。そのために中期的なスケジュールを

設定し、従業員全員参加で取組を進化させていく予定である。

モデル店舗の店長は、これまでは顧客の安心・安全を第一に考えていた。しかし、コ

ンサルタントから指摘された「上に立つ者は、顧客だけでなく従業員の安全・安心も考え

なければならない。だから5Sを徹底すべきなのだ」という言葉が記憶に残っている。大

切な従業員を守るためにも、生産性向上活動を徹底していく決意を固めた。

今回のプロジェクトに参加した従業員も、一様に成長を実感していた。今後も継続的

に生産性向上に取り組んでいく。

「作業指示書を通じて、若い従業員に段取りを作り上げて示し、働きやすい環境を作ってあげたい。よりよい店作りをしていきたい」

「通常業務をしながらのプロジェクト活動であり、大変厳しかったが良い経験になった。このような機会を得られて良かった。計画ありきで進めていくことが重要であることがよくわかった。きっちりルール作りをして、維持と進化をしていきたい」

「来期は、引き出しを広げる意味でも他社の見学をしてみたい。同業種だけでなく、異業種も見てみたい。そこからヒントを見つけて改善していきたい」

参加して頂いた同社メンバーの方々の声(抜粋)

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👉企業概要と課題背景

(株)片浜屋は、宮城県に本社のある食品スーパーであり、3店舗を展開している。東

日本大震災で店舗が被災したものの、翌日から店頭販売を実施するなど、地域の食を

支える役割を担ってきた。

しかしながら震災以降、同地域では慢性的な人手不足が続いている。同社において

も人手不足は深刻であり、最小の人員で店舗を運営することが必要となっている。特に、

バックヤードの主要業務の一つである生鮮食品の加工業務は、人材の欠員補充がで

きていないなどその対応は急務であった。

今回の取組では、モデル店舗2店を対象にバックヤード業務の効率化課題を明らか

にするとともに、生産性向上に向けた改善施策を展開することを目指した。

事例編

ケース3. 片浜屋

企業名 (株)片浜屋

設立 昭和43年

本社所在地 宮城県気仙沼市

資本金 2,000万円

店舗数 3店舗(気仙沼市)

従業員数 102名(平成29年2月現在)

企業概要

取組実施対象店舗(モデル店舗)のプロファイル

店舗名 B店

バックヤード面積60坪以上、精肉・鮮魚・青果

営業時間 9:00~20:30

従業員数 23名(パート含む)

店舗名 A店

バックヤード面積60坪以上、精肉・鮮魚・青果・惣菜

営業時間 9:00~20:30

従業員数 28名(パート含む)

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👉現状分析:稼働時間、不稼動時間の見える化

事例編

ケース3. 片浜屋

バックヤード業務の現状把握にあたっては、稼げる作業と稼げない作業を分析し、ど

れだけの時間をかけているかを定量的に測定する手法、ワークサンプリング分析を実

施した。具体的には、下表のような業務区分をもとに、どの業務をどれだけ実施してい

るのかを、コンサルタントが5分に1回各従業員の行っている業務を観測し、集計するも

のである。

また、バックヤード業務だけでなく、売場業務も合わせて把握し、店舗全体としての

業務および人員の効率化、最適化のための施策を検討できるようにした。

分類 定義 観測項目(一部)

稼動

基本機能

作業

○付加価値を直接生み出す作業

○お客様に商品を提供するために、絶対に欠くことができない作業(もしその動きをなくしてしまうと、お客様への価値提供ができなくなってしまう作業)

●接客・レジフォロー

●加工調理

●盛り付け・包装・値付け

補助機能

作業

○基本機能を円滑に行うために必要な作業(機能)

※不要であったり、ムダなものという意味ではない

●納品・検品対応

●歩行・運搬

●売場での商品陳列・前陳

●販促物準備、セット

●売場/バックヤード清掃

●各種書類作業

●発注関連作業

●消耗品補充 など

不稼動

付加価値創出に寄与しない作業

アイドル・

手待ち

○職場におけるちょっとした待ち

○作業を全く行っていない状態(レジでの待機含む)

●アイドリング・手待ち

打合せ・

会話

○職場における作業指示・雑談など ●打合せ・会話

不在 ○従業員が担当職場にいない

※今回は分析対象から除外している

●トイレ

●休憩 など

ワークサンプリング観測項目の定義と観測項目(一部)

ワークサンプリングによる稼働・不稼働の実態把握

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👉現状分析:稼働時間、不稼動時間の見える化

事例編

ケース3. 片浜屋

結果、バックヤード業務には不稼働が6.9%と非常に低い一方で、売場業務には

20.5%という一定の不稼働時間が存在しており、部門間における繁閑差が大きいこと

がわかった。

また個別業務では、バックヤード業務における売場への品出し(4.歩行・運搬)の負

担が大きいこと、売場での不稼動時間拡大の原因であるレジ待機(24.手待ち・レジ待

機)が問題になっていることも明らかになった。

バックヤード 売場

片浜屋におけるワークサンプリング結果

観測日時 :平成28年10月23日(日)、30日(日)、11月2日(水)、4日(金) 各7:00~20:30

対象職場 :モデル店舗2店総サンプル数 :5,756サンプル

①:加工調理、②:盛り付け・包装・値付け、③:接客・レジフォロー、④:歩行・運搬、⑤:売場品出し・前陳、⑥:バックヤード清掃・整理整頓、⑦:販売許容確認(鮮度確認)・売価変更処理、⑧:伝票処理・書類作業、⑨:ピッキング、⑩:販促物準備/セット、売価確認、⑪:発注、⑫:商品手直し、⑬:納品・検品、⑭:レジ点検・精算・送金、⑮:その他(特別注文対応)、⑯:売場清掃(床・什器)、⑰:ストコン操作、⑱:配送、⑲:消耗品補充、⑳:設備・器具メンテナンス、21:その他(店内アナウンス・お客様対応)、22:温度チェック、23:切替作業(セッティング変更など)、24:手待ち・レジ待機、25:打合せ・会話、26:アイドリング・手待ち、27:故障修理対応

売場業務で特に高い不稼動

歩行・運搬

手待ち・レジ待機

レジ待機や売場への品出し時における歩行・運搬の比率が高い

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👉現状分析:稼働時間、不稼動時間の見える化

事例編

ケース3. 片浜屋

次に、1日の時間帯別の業務の状況を集計した。まず、バックヤードでは10-11時台

に基本業務(図中青)のピークを迎え、以降その比率が低下していく。逆に売場では午

後に基本業務のピークが存在している。店舗立地による山のでき方の違いはあるが、A

店、B店とも基本的な構造は同様である。

その中で注目すべきは、A店は売場業務における不稼動(図中橙)が終日20%前後

発生しており、B店と比較して非効率が生じていることである。

バックヤード業務

売場業務

A店 B店

B店と比較して不稼動率が高い

ワークサンプリング結果(モデル店別)

バックヤード業務は午前、売場業務は午後にピーク

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👉現状分析:稼働時間、不稼動時間の見える化

事例編

ケース3. 片浜屋

さらに部門別、時間帯別データをA店とB店とで比較すると、特に青果、精肉の各部

門での差が顕著であった。具体的にはピーク時の業務量において、A店がB店の1.5~

2倍近くに達していた。実は、売上規模ではB店の方が大きく、A店では基本機能作業で

のロスが大きい、ということになる。一連のデータから、A店で生産性向上の余地がより

大きいと考えられた。

(A店) (B店)

店舗別、部門別のワークサンプリング結果

ピーク時業務量:2.97M/H ピーク時業務量:

1.93M/H

総発生工数:1,130(分) 総発生工数:800(分)

総発生工数:1,249(分) 総発生工数:1,055(分)

ピーク時業務量:3.00M/H

ピーク時業務量:2.00M/H

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

7時

8時

9時

10時

11時

12時

13時

14時

15時

16時

17時

18時

基本機能作業 補助機能作業

保有工数

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

7時

8時

9時

10時

11時

12時

13時

14時

15時

16時

17時

18時

基本機能作業 補助機能作業

保有工数

青果部門

(A店) (B店)精肉部門

約2倍

約1.5倍

店舗ごとの生産性のばらつきが大きい

※M/H:人/時間

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👉取組方針の決定

事例編

ケース3. 片浜屋

ワークサンプリング分析結果を踏まえ、特に効率化余地の大きいと考えられるA店を

中心として、次の2つの取組方針により、具体的な生産性向上の施策を検討することと

した。

【方針1】 バックヤードの品出し作業改善

特に、売場への品出しに時間を要しており、そのやり方を見直すことで、忙しいバックヤード業務の負担軽減を図る

【方針2】 バックヤードと売場の部門間の仕事量の差の解消

不稼動時間の多い売場業務、特にレジ待ち時間が多いことが、バックヤード業務の忙しさと対照的となっている。店舗全体での業務の平準化を目指す

分析結果から、2つの取組方針を決定

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👉カートの積載効率アップによる運搬時間の削減

片浜屋での取組結果

バックヤードと売場との往復回数 約25%削減71回→53回

• すぐに上記対応ができなかったことから、箱やザルの積み重ねにより、カートの積載率を向上させ、運搬回数の削減を図った

改善前

事例編

ケース3. 片浜屋

カートの2段使用による積載効率向上ノウハウ

品出し業務の改善にあたっては、他の部門と比較して、売場との往復回数が多い青

果部門に着目した。青果部門で回数が多くなるのは、商品を傷つけないためであるが、

使用するカートに必要以上の余裕がある状態で品出しを行っていた。

改善後

• 理想的には、カートに脱着式の蓋をつけることで2段使用を可能として積載量を増やせることを目指した

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58

👉台車を活用した売場変更作業の効率化

片浜屋での取組結果

売場変更業務時間 約17%削減約1時間→約50分

事例編

ケース3. 片浜屋

台車による品出し効率化と手すきの時間帯での準備ノウハウ

売場変更業務は開店準備中に行っているが、売場作りから行っており開店準備の約

2割を費やしていた。そして、開店までに品出しが終わらない場合も見受けられた。

• コンテナを直置きしている売場については、台車を活用し台車ごと売場に出すだけで完了するようにした

• また、開店時の忙しい時間帯に比して、夜の手が空いている時間帯に着目。前日までにバックヤードにコンテナに並べた状態で保管し、翌朝は交換するだけの状態にすることで、あわただしい開店時の売場変更を効率的に行う

前日にバックヤードに準備

売場のコンテナの上部だけを交換

売場にあったコンテナは回収する

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👉部門間応援によるバックヤード業務の効率化

• 不稼動時間の多いチェッカー専任者を1名削減(4名→3名)• 代わりに、売場業務であるレジ、日配売場、グロサリー売場を横断的にフォローする

マルチフォロワー(多能工)を1名追加• また、バックヤード部門の品出しは午前中が中心となるため、マルチフォロアーを含

めた売場担当者が応援にあたる

事例編

ケース3. 片浜屋

前段のデータで見た通り、A店での売場業務ではレジ待機による不稼動時間が多く

なっていた。これは一定人数(4名)のチェッカー(レジ担当者)がいながら、売場周りの

業務のみを行っていることに起因したものであった。

慢性的な人手不足の解消、という当初の問題意識もあり、バックヤードだけではなく

店舗全体を見渡してスタッフの最適化を図ろう、という視点で具体策を検討した。そし

て、その具体策を実現した場合の人員最適化のシミュレーションを行った。

部門間応援(多能工化)による不稼働時間の活用ノウハウ

(単位:人時、右軸は累計の人時)

上記人員の稼動条件でのA店の人・時間のシミュレーション結果

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店舗名 市立病院前店 ▼各曜日の直下の空所に当日勤務する従業員名を記入。作業指示をする相手に“○”を付け、担当者実施後に"●"にする

時刻 作業項目計画工数

(分)月曜 火曜 水曜

④ ⑤ ⑥ ①

④ ⑤ ⑥ ①

7時 食材加工・盛り付け 32 ●7時 食材加工・盛り付けのための準備 15 ●7時 清掃・洗浄 12 ●

7時 店頭商品状況確認 30 ●7時 指示書作成 3 ○

7時 POP作成 2 ○7時 値引き処理 3 ○7時

7時

7時

7時

8時 食材加工・盛り付け 61 ○

8時 食材加工・盛り付けのための準備 14 ○ ○

8時 清掃・洗浄 28 ○ ○ ○

8時 包装・ラベリング 0 ○

8時 店頭商品状況確認 0 ○

8時 指示書作成 0 ○

8時 POP作成 1 ○

8時 値引き処理 0 ○

8時

8時

作業内容

作業時間

時刻

担当者名

曜日

作業分担

👉部門間応援によるバックヤード業務の効率化

• ワークスケジューリングは、当日やるべき作業、作業すべきタイミング、作業時間、担当者を指示するものである

• 売場担当者によるバックヤード業務の応援などをワークスケジューリングに盛り込むことで部門間応援体制を円滑に進めることができる

片浜屋でのワークスケジューリング作成例

事例編

ケース3. 片浜屋

先の条件をもとでのシミュレーション結果は、1日あたり14人時の工数低減見通し

(12%の人的生産性向上)となった。

しかし、シミュレーションを実現するためには、取り組むべき課題が数多くある。例え

ば、マルチフォロアーを導入する際の教育や売場担当者がバックヤードを応援する際

の役割分担などである。今回はその第一歩として、誰が、何を、いつ、どの程度やるの

かを示すワークスケジューリングの作成を手がけた。

ワークスケジューリングの作成ノウハウ

○で指示、実施したら●にすることで進捗も管理可能

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事例編

ケース3. 片浜屋

👉あとがき

【モデル店B・店長】「解決すべき問題が数値で見える化され、合わせて取り組むべき課題も明確になった」

【モデル店B・鮮魚】「他店の作業方法との比較があり、普段は他店舗のやり方を見ることはなく自分なりでやっているので新鮮だった」

「毎日仕込量が変わるので、(店頭確認)標準化は無理だと思っていたが、やってみるとできた。やってみることが大事だと感じた」

【モデル店A・青果】「例えば品出しを売場側の業務に移管するなどのアイディアは、今まで考えたこともない新しい視点だった」

「売場との往復回数など、感覚的にやってきたために改めて数字にすると多いことがわかった」

【モデル店B・青果】「改善の効果は理解、実感できたが、それを現場で定着させるためには、これからも継続的な努力が必要」

限られた時間ではあったが、人手不足に対応するための課題を明確にし、いくつか

の具体策をトライアルで進めてきた。その取組を通じ、モデル店舗の参加メンバーは多

くの気付きを獲得し、新たな取組へのマインドセットを持つことができた。同社では引き

続き、今回の活動の定着と、次なる課題への対応を進めていく方針である。

参加して頂いた同社メンバーの方々の声(抜粋)

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コラム 食品スーパーにおけるAIを活用した需要予測の実証実験

ケース.三越伊勢丹フードサービスの企業概要と課題背景

• 「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」技術とは、「学習」「認識・理解」「予測・推論」「計画・最適化」など、人間の知的活動をコンピュータによって実現するもの、と定義されている

• 銀行や保険会社のコールセンターにおけるオペレーションサポート、航空運賃や電力料金など需給状況に合わせて価格を変動させるダイナミックプライシング、インターネットの検索エンジンの効率化、金融業界の高速トレードなどに活用されているほか、今後幅広い分野への貢献が期待されている

AI(人工知能)とは?

出所)日本電気(NEC)ホームページhttp://jpn.nec.com/rd/crl/ai/aboutai.html

三越伊勢丹フードサービスの課題背景

(株)三越伊勢丹フードサービスは、東京近郊を中心に31店舗を展開する食品スー

パーである。同社では、生鮮品や日配品の発注精度を向上することで、廃棄ロスや機

会ロスを削減することを検討していた。生鮮品や日配品は、加工食品などと比べて鮮度

が重要であるため、日別、店舗別に高い精度の発注が求められるからである。

しかしながら、日々の発注数は各店舗の担当者が判断しているため、店舗別、担当

者別に精度にばらつきが生じてしまっていた。加えて、近年の人手不足に伴う採用難に

起因して、発注担当者を育成、維持することも難しくなっていた。

そこで、AI(人工知能※詳細は下記参照)技術を用いて、日別、店舗別の需要を予測

することができれば、店舗担当者の経験やスキルに依存することなく、精度の高い発注

を行うことができるのではないかと考えた。

日本電気(NEC)(株)は、三越伊勢丹フードサービスの問題意識を踏まえ、まずは第

一歩として日配品の一部アイテムについてAI技術による需要予測を試行し、精度や特

性を検証することを提案した。その際、まずは対象店舗への来店客数を予測し、その予

測値を基に対象商品の需要予測を行うこととした。また、将来的に自動発注システムを

実現するにあたり、実際に在庫水準が改善する可能性があるかを考察することとした。

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事例(1)AIを活用した客数予測

• 店舗における来店客数は、AIの活用により精度高く予測することができる• 来店客数を決める主な要因は、曜日、天候、販促(ポイント5倍)などが挙げられる• ただし、台風の影響や、店舗周辺におけるイベント開催時など、特異日に関しては誤

差が大きくなる傾向が見られる

AIの活用により、客数は概ね精度高く予測することができる

三越伊勢丹フードサービスでの取組結果

平均客数予測誤差(※天候不順などの特異日含む)

6.5%/日

三越伊勢丹フードサービスにおけるAIを用いた来店客数実績値と予測値

コラム 食品スーパーにおけるAIを活用した需要予測の実証実験

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事例(2)AIを活用した商品の需要予測

• 日販数の多い商品(概ね15個以上売れるもの)については、需要予測の誤差が概ね30%未満に収まった

• 日販数の少ない商品については、数量が少ないため誤差率は高いが、誤差数は大きくない(概ね日販数10個以下の商品で誤差率 30~70%、誤差数 1~4個)

• また、下記の商品は予測誤差が大きくなった 日によって在庫量が大きく変わる商品(お客様からの注文による大量納品/販

売や店舗の意思による意図的な陳列変更などが主要因) 値付けが大きく変更された商品

⇒需要予測による自動発注からは除外することが望ましい

日販数が多い(概ね15個以上)ものは、 AIによる需要予測に適合しやすい

三越伊勢丹フードサービスでの取組結果

日販数が多い商品の需要予測誤差率約30%未満

三越伊勢丹フードサービスにおける日配品の平均販売数とAIを用いた予測と実績の誤差率の関係

(※あるカテゴリーの商品30品目について、3か月間の販売数を予測)

コラム 食品スーパーにおけるAIを活用した需要予測の実証実験

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事例(2) 補足 自動発注による在庫最適化シミュレーション

• 需要予測誤差が22%の商品において、自動発注シミュレーションを行い、実運用と比較したところ、在庫水準の改善が確認された

• このことから、廃棄ロスや機会ロスの削減が期待できる

(参考)需要予測に基づいて自動発注を行う場合を想定すると、在庫水準が改善

平均販売数(実績値)

在庫評価項目

平均在庫数 欠品日数 平均ロス数

実運用35.5個/日

51.2個 2日 18.1個/日

自動発注 43.8個 0日 12.5個/日

販売数

在庫数(実運用)

在庫数(自動発注)

【表の説明】• 平均販売数は実績値• 実運用は納品実績を基に在庫推移を算出し、欠品/ロスの発生を推定した• 自動発注は需要予測から算出した自動発注数を基に在庫推移を算出し、欠品/ロスの発生

を推定した

コラム 食品スーパーにおけるAIを活用した需要予測の実証実験

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事例編

ケース4. リビンズ

👉企業概要と課題背景

リビンズ(株)は、広島県広島市に本社のある家具のボランタリーチェーンであり、123

店舗が加盟している。同社は、家具の産地の近郊に4,000坪の「A物流センター」を構え

ている。従来、A物流センターはTC(通過型商品の物流センター)として建設された。し

かし、近年の商品政策の変更により海外調達品が増えたことから、商品を保管するDC

(在庫型商品の物流センター)としての機能とオペレーションが求められるようになって

いた。しかし、元々DCとして活用されることを前提としていないため、在庫を置くスペー

スを十分に確保していなかった。そのため、海外調達品の在庫が保管スペースを圧迫

し始めていた。加えて、動線を十分に確保することが難しくなっており、作業のムダも発

生していた。

今回のケースは、製造業のノウハウである「5S」などの考え方を応用して、在庫型セ

ンターにおける作業のムダ低減を図るノウハウを整理することを目指したものである。

企業名 リビンズ(株)

設立 昭和45年4月

本社所在地 広島県広島市

資本金 2億5,734万円

加盟店数 123店舗

売上高 66億円(平成27年度)

従業員数 54名

企業概要

取組実施対象となった物流センターのプロファイル

店舗名 A物流センター

開設 平成6年

倉庫面積 4,000坪(13,200m2)

従業員数 24名(パート・アルバイト含む)

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事例編

ケース4. リビンズ

👉現状分析:「着眼点」に基づく問題点の把握

「着眼点」に基づき問題点を把握

コンサルタントは、在庫型センターにおける一般的な生産性向上の着眼点(下表参

照)に基づき、A物流センターの初期診断として、現場資料の分析、現場視察、関係者

へのヒアリング、在庫回転分析を行った。その結果、発注、入荷・入庫、保管、出荷・出

庫の各プロセスにおいて現状の問題点が明らかになった。

発注

入荷入庫

保管

出荷出庫

• 適正な発注が行われているか?• 商品はランク付けされ、ランクごとに発注の

仕方を変えているか?• 売上予測にもとづき、発注量を調整している

か?

• 作業動線は長くないか?• 作業にムダはないか?• 受入数が間違えないような作業のやり方と

なっているか?

• スペースを有効に活用できているか?• 入庫・出庫しやすい置き方をしているか?

• 作業動線は長くないか?• 作業にムダはないか?• 誤出荷を防ぐ作業のやり方となっているか?

在庫型センターにおける生産性向上の主な着眼点

• 海外商材の在庫量が過剰(発注量が過大)

• イレギュラーな受注が全体の10%

• 業務の平準化ができていない

• 「3定」管理の精度が低い• 床への直置きのため保管効率

が低い

• ピッキング作業の効率が低い• 出荷作業の効率が低い

コンサルタントが気づいたリビンズにおける現状

出所)日本生産性本部

明らかになった現状の問題点のうち、大きな投資をせずに短期間で比較的高い効果

が出ると考えられる「『3定』管理の精度が低い」、及び「ピッキング作業の効率が低

い」、「出荷作業の効率が低い」という3点の問題解決に取り組むこととした。

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👉分析結果から発見した課題

課題1.在庫を置く場所の管理を精緻化すること

課題2.繰り返し発生する「移動のムダ」を削減すること

倉庫において、商品の「3定」(どの場所にどの商品が保管されているかを管理すること)ができておらず、作業者がどこに何があるかを覚えていない場合に商品を探すムダな時間が発生していた。加えて、商品を置く場所を決めていないがゆえに、本来は通路として確保されている場所にも商品が置かれてしまっていた。

これらを解決するためには、倉庫の5Sを行うとともに「3定」を徹底することが必要である。

作業時間を計測したところ、商品のピッキング作業のうち、単なる「移動」にかかる時間が4割近く存在していることがわかった(※詳細は後述)。「移動」を極力削減することが必要である。

事例編

ケース4. リビンズ

課題3.出荷前日に配送先別の振り分けを予め行うこと

リビンズでは、出荷前日にDC品のトータルピッキングを行って仮置きし、出荷当日にシングルピッキングを行って配送先別に荷物を振り分け、かつ、近くに仮置きしてあるTC品と合わせてトラックに積んでいた。

集荷部門の作業員は、トラックが来るたびに翌日向けのピッキング作業を中断してトラックへの積み込み作業を行っていたため、トラックが来るたびに移動のムダが発生していた。

これを排除するためには、出荷前日に配送先別の振り分けを予め行うことで作業中断による移動のムダを排除することが必要である。

リビンズにおける出荷作業の問題点

出荷業務プロセス 【現状と問題点】

配送

部門

集荷

部門

出荷当日出荷前日

「配送先別ピッキングリスト」に基づきトータルピッ

キング

コンベアにより翌日出荷のス

パンまで運搬

翌日出荷のスパンの端にま

とめて保管

ピッキングリストに基づく検

品(全員)

出荷トラック

商品に仕向地をマジックで

記入する

ハンディによる通過型商品

の出荷検品

プラットフォー

ムまで運搬

ハンディによる在庫商品の

出荷検品

プラットフォー

ムまで運搬

集荷担当者の

作業が必要

出荷トラックの入りに作業が制約

される

プラットフォームに多くの向け先の品物を仮置きするため誤出荷の原因

となっている

追加型商品と在庫商品の集約が必要なためプラットフォームまでの仮置き運搬

が生じている

※トータルピッキング:複数の加盟店から受注した商品のピッキングをまとめて行うこと※シングルピッキング:受注した商品を加盟店毎にピッキングすること

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事例編

ケース4. リビンズ

👉通路の確保と番地の設定

リビンズでの取組結果

不慣れな作業者の商品探索時間51%短縮

作業通路を明確にし、区画線を引く

• まず初めに作業通路を確保することで、ムダな作業をなくす(作業通路に在庫が置かれ、作業中に在庫を移動させるなど)

• 在庫置き場、通路を分け、床に線を引く• 商品は、出入口手前によく売れるもの(運搬頻度が高いもの)、奥にあまり売れない

もの(運搬頻度が低いもの)を配置するようにロケーションを決定する

在庫置き場に「番地」を付ける

• 在庫置き場を区画に区切り、番地を設定する• 加えて、ピッキングリスト(ピッキングすべき

商品の一覧表)と番地(各商品の所在地)を連携させることで、どこに何があるかを覚える必要がなくなるため、経験の浅い作業員でもピッキング時間を短縮できる

リビンズにおける通路確保例

リビンズにおける番地設定例

改善前 改善後

ノウハウ

ノウハウ

区切り線

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👉移動のムダ排除によるピッキング作業の効率化

リビンズでの取組結果

ピッキング作業時間 2人時/日短縮(※推計値)

単純な移動のムダは極力排除

• ピッキング作業をビデオに撮影し、繰り返し行われている作業を分割するとともに、それぞれの作業にかかる時間を計測することで、平均的な1サイクルを分析した

• その結果、単なる「移動」にかかる時間が全体の約4割に上ることがわかった• リビンズの場合、コンベアでの移動を手動から自動に変更することを検討し、人間の

移動時間を排除することとした

改善前:ローラーコンベアでの移動 改善案:自動コンベアでの移動

事例編

ケース4. リビンズ

ノウハウ

ピッキングのサイクルタイムの現状分析

出荷場への配置 152秒 39%

コンベアでの移動 119秒 30% ←物を移動させるだけの単純工程だが作業者の工数の30%を要している

ピッキングしてコンベア上へ 76秒 19%

在庫置場へ戻る 30秒 8% ←「コンベアでの移動」作業によって生じるムダな歩行が8%を占める

ピッキングの探し 14秒 4% ←ロケーション管理の要改善(探しのムダをなくす)

計 391秒 100%

トータルピッキングのサイクルタイム 6分31秒

※上記3項目を排除するとCTは 228秒 になり 71% の生産性向上になる。

コンベアでの移動 在庫置場へ戻る ピッキングの探し

ピッキングのサイクルタイムの現状分析

出荷場への配置 152秒 39%

コンベアでの移動 119秒 30% ←物を移動させるだけの単純工程だが作業者の工数の30%を要している

ピッキングしてコンベア上へ 76秒 19%

在庫置場へ戻る 30秒 8% ←「コンベアでの移動」作業によって生じるムダな歩行が8%を占める

ピッキングの探し 14秒 4% ←ロケーション管理の要改善(探しのムダをなくす)

計 391秒 100%

トータルピッキングのサイクルタイム 6分31秒

※上記3項目を排除するとCTは 228秒 になり 71% の生産性向上になる。

コンベアでの移動 在庫置場へ戻る ピッキングの探し

リビンズにおける改善案の検討

在庫保管場所から出荷場へ各作業者が商品を運ぶため、戻る「移動」が発生

自動ローラーコンベアの設置により、在庫保管場所と出荷場での作業分担が可能になり、移動時間を削減

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👉業務プロセスの全体最適化による出荷作業時間の削減

リビンズでの取組結果

出荷作業時間 3人時/日短縮

全体最適になるように業務を再設計

• 作業の中断の原因となっている、出荷当日におけるトラック到着時のシングルピッキングがどうすれば発生しないかを検討した

• その結果、シングルピッキングを前日に行うこと、出荷前の検品を配送担当に移管することを考案した

• 実際に試行してみたところ、前日に行う作業は増加するものの、トータルでの作業時間は削減できることがわかった

事例編

ケース4. リビンズ

ノウハウ

トータルピッキング

検品シングル

ピッキング

トータルピッキング

検品 検品

積込・出荷

積込・出荷

出荷前日 出荷当日

トラックが到着するごとに、翌日向けのトータル

ピッキングを中断していた

改善前

改善後

シングルピッキングを前日に行っておくことで

作業の中断やムダな歩行を防止できる

リビンズにおける業務プロセスの改善案

検品

シングルピッキング

集荷担当

配送担当

集荷担当

配送担当

保管

保管

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事例編

ケース4. リビンズ

👉あとがき

リビンズは、「3定」の徹底、移動のムダ削減、出荷作業の効率化により物流センター

の効率向上を果たした。

実は、活動開始前、あまりにも物流量が拡大していたため、経営層は物流センターの

増設をも検討に入れていた。しかしながら今回の取組を経て、一旦は現行の体制で事

業を継続していくこととなった。業務効率化による定量的な効果に加え、物流センター

への投資の抑制という目に見えない成果も得ることができた。

A物流センターでは、5Sを始めとする改善活動が自発的に継続されている。今後は、

策定した改善実行計画に基づき、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回しなが

ら、課題解決型の活動も行っていく。

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コラム 小売業への部門別採算制度の適用

部門別採算制度とは?

部門別採算制度とナカザワへの適用結果(1)

ナカザワの企業概要と課題背景

ナカザワは、滋賀県湖南市に本社を構える時計の専門店であり、全国に約100店舗を展開している。取り扱っている商品は他社も取り扱っているものであり差別化しにくく、価格競争が激化して利益が確保しにくい状況となっていた。

かつ、従業員への採算性に関する情報提供が十分でなく、全従業員に利益意識を共有しきれていない状況であった。

そこで、部門別採算制度の適用を試行し、従業員の採算意識を高めることで利益を確保するための仕組み・体制づくりに取り組んだ。

• 部門別採算制度とは、組織を小集団に分割し、すべての組織構成員が採算を意識して経営に参加する制度である(※詳細は京セラコミュニケーションシステムHP:http://amc.kccs.co.jp/consulting/amoeba/index.html をご参照)

• 部門別採算制度には、3つのプロセス(下図)が存在する• 今回は、まず最初のプロセスである「Ⅰ導入」及び「Ⅱ運用」に着目する

プロセス Ⅲ定着

ステップ ①可視化 ②周知 ③認知 ④理解

内容・自発的なPDCAサイクルの運用(=運用定着の判断基準)

Ⅰ導入 Ⅱ運用

⑤行動          ⑥横展開

・制度の運用による意識と行動の変化①意識の変化:リーダーの経営者意識、メンバー(リーダー以外)の経営参加意識の向上。②行動の変化:会社の利益向上を軸とした小集団組織内のPDCAサイクルの運用と、組織内外のコミュニケーション活性化。

・経営理念、経営方針の共有・小集団部門別採算制度の構築・制度と運用の周知(発信)と認知(受信)

まずは収益向上の着眼点を明確化し、データをとって定量化する

№ 利益計算過程

1 売上 ○ ・販売数の増加×販売単価の向上

2 原価 △・仕入原価の低減 (店舗独自でコントロールしにくい)

3 粗利 ○・販売数の増加×販売単価の向上×粗利率の向上

4販管費および一般管理費

×・費用発生する店舗づくりや販促は本社主導のため、店舗の裁量で発生する費用は少ない。

5 営業利益 -

収支構造

• 経営の方針と店舗の収支構造(右図)を踏まえ、収支向上の着眼点を定めるナカザワにおける着眼点の例着眼点①販売数の増加 : 売上と粗利の絶対額増加着眼点②粗利率の向上 :高粗利商品の増加

• 販売に至るまでの着眼点(下図)を可視化、周知し、メールと掲示で全スタッフに認知させる

ナカザワにおける販売プロセスの可視化例

来店客数 接客数商品

試着数販売

決定数

着眼点の選定理由

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コラム 小売業への部門別採算制度の適用

部門別採算制度とナカザワへの適用結果(2)

具体的な数字で「やるべきこと」を理解させることで、従業員の行動を変えることができた

• 収支向上へ必要な取組とその数値を定め、「やるべきこと」を理解させる• 前頁で定めた「着眼点」となった指標(接客数など)を個人の目標へ落とし込む

(例:本日の接客目標10名、など) この際、動機付けが重要であり、店長から一方的に押し付けない また、個人にスキル差があるため、店舗の目標数字を単純に人数で割

ることは望ましくない• 店舗内で、個人別に月次/週次/日次の達成確認の場を設け、行動を促す

ナカザワの取組例

取組の結果

ナカザワでの取組結果

売上・粗利の確認頻度39.6%増加

店長以外のスタッフは売上や粗利をあまり確認しない

全従業員が売上・粗利の確認頻度を向上

高粗利品の売上シェアは月次で集計

高粗利品の売上シェアを日次で集計

販売プロセス指標(試着率など)を意識していない

販売プロセスの重点指標を意識した行動の実施

事前

+89.2%

事後 事前 事後

+39.6%

試着数 売上確認頻度

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ケース5. 菅田

👉企業概要と課題背景

菅田(株)は、岡山県津山市に本社を構える、ジュエリーや時計の小売事業者であ

る。関西や中四国、東海エリアにある郊外型ショッピングセンターを中心にジュエリー専

門店や時計専門店を展開しており、店舗数は56店、売上高は35億円(平成28年1月

期)である。

同社は、お客様との良好なコミュニケーションを重要視しており、商品だけでなく「喜

び」も売れるような専門店を目指している。

しかしながら、人手不足によって、接客業務の時間を十分に確保できていない店舗

もある。取組実施対象店舗となったA店は、同社の適正販売員数より2名少ない、販売

員3名で営業しているため、各販売員に多くのバックヤード業務負荷が集中し、接客に

時間を確保できていない状態であった。

今回のケースでは、お客様対応時間の比率を高めることを目標に、他店舗にも展開

できるような、バックヤード業務の効率化・改善ノウハウ作りを目指した。

企業名 菅田(株)

設立 昭和42年12月

本社所在地 岡山県津山市

資本金 4,700万円

店舗数 56店舗(関西エリア38店舗、中四国エリア11店舗、東海エリア7店舗)

売上高 35億円(平成28年1月期)

従業員数 240名

企業概要

取組実施対象店舗のプロファイル

店舗名 A店

営業時間 10:00~21:00

お取扱い ジュエリー、時計

販売員数 3名(パート含む)

事例編

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👉現状分析:業務分類別の時間を測定

A店の店長は、日頃から「お客様対応時間が十分に取れていない」と感じながら、業

務に臨んでいた。 そこで、A店の業務時間比率を可視化するために、連続稼働分析を

実施した。連続稼働分析とは、作業や状態を連続的に観測し、時間比率を把握する手

法である。

コンサルタントは A店の業務内容を7つに分類し、各販売員がどの業務を、1日あた

り、どれだけ行っているのか、ストップウォッチで時間計測した。その結果、A店平均の

お客様対応時間比率が、約40%であることが明らかになった。

業務内容 Aさん Bさん Cさん 店舗平均

大分類 中分類業務時間(時:分)

比率(%)

業務時間(時:分)

比率(%)

業務時間(時:分)

比率(%)

比率(%)

お客様対応

接客 0:21 6.6 1:16 16.8 0:36 9.7 11.0

接客待機・準備 0:56 17.6 2:23 31.6 3:11 51.2 33.5

バックヤード

帳票記入・確認 1:04 20.1 0:17 3.8 0:04 1.1 8.3

商品受入 1:06 20.7 0:00 0.0 0:03 0.8 7.2

電池交換 0:00 0.0 0:44 9.7 0:31 8.3 6.0

個数確認 0:03 0.9 0:17 3.8 0:17 4.6 3.1

その他 その他 1:49 34.2 2:35 34.3 1:31 24.4 31.0

A店における業務時間比率

6.616.8

9.7

17.6

31.6 51.220.1

3.81.1

20.7

0.8

9.7

8.30.9 3.8

4.6

34.2 34.324.4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

Aさん Bさん Cさん

接客

接客待機・準備

帳票記入・確認

商品受入

電池交換

個数確認

その他

10月5日(水)9:30~14:50

10月4日(火)13:00~20:50

10月4日(火)13:00~19:40実測日

ケース5. 菅田

事例編

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👉現状分析:業務分類別の時間を測定

その後、A店にスマートロガー(※P.37ご参照)を導入し、10月22日(土)から11月4

日(金)までの2週間、各販売員の業務時間を計測した。

A店における業務時間比率(10月22日~11月4日)

連続稼働分析とスマートロガーによって、A店のお客様対応時間比率が約40%であ

る実態が掴めたため、この比率を更に高めることを目的に、バックヤード業務の効率

化・改善を図る方針を立てた。

連続稼働分析の結果から、バックヤード業務のうち、時間比率が高い「帳票業務」と

「商品受入業務」にまず着目し、これらの業務時間の短縮を目指した。

ケース5. 菅田

事例編

10月22日(土) 10月23日(日) 10月24日(月) 10月25日(火) 10月26日(水) 10月27日(木) 10月28日(金) 週平均

お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他

Aさん 60% 40% 44% 56% 2% 98% 14% 86% 47% 53% 46% 54% 39% 61% 36% 64%

Bさん 35% 65% 休み 休み 34% 66% 休み 休み 休み 休み 休み 休み 31% 69% 33% 67%

Cさん 27% 74% 27% 73% 休み 休み 6% 94% 43% 57% 64% 36% 80% 20% 41% 59%

A店平均

41% 59% 36% 64% 19% 81% 10% 90% 45% 55% 54% 46% 51% 49% 38% 62%

10月29日(土) 10月30日(日) 10月31日(月) 11月1日(火) 11月2日(水) 11月3日(木) 11月4日(金) 週平均

お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他お客様対応

その他

Aさん 64% 36% 36% 65% 4% 96% 2% 98% 43% 58% 0% 100% 49% 51% 30% 70%

Bさん 36% 64% 休み 休み 休み 休み 45% 55% 78% 22% 24% 76% 48% 52% 46% 54%

Cさん 59% 41% 60% 40% 31% 70% 休み 休み 休み 休み 33% 67% 休み 休み 45% 55%

A店平均

53% 47% 44% 56% 15% 85% 24% 76% 59% 41% 21% 79% 48% 52% 39% 61%

41%

59%

36%

64%

19%

81%

10%

90%

45%55% 54%

46% 51% 49%38%

62%

53% 47% 44%56%

15%

85%

24%

76%59%

41%21%

79%

48% 52%39%

61%

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👉発見した課題:帳票業務の負荷軽減

帳票業務の量や作業方法の見直しによるお客様対応時間の確保

A店の手書き帳票

A店では、8項目の帳票業務が存在しており、それらは全てノートへの手書きで行わ

れていた。帳票業務の中には、記帳が重なっている内容や、記入後、何のために使用

するのか、記録の目的があいまいな業務がいくつか見受けられた。また、売上数や前

年比、達成率などを計算する帳票もあるが、これらも全て手計算で記入されているた

め、計算ミスのリスクを抱えながら帳票業務を行っている状況であった。

ケース5. 菅田

事例編

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👉帳票業務の廃止、及び手順の簡素化

各業務の実施頻度や時間、目的を整理するノウハウ

帳票業務 実施頻度 時間 目的 改善方針

送り状(送付)管理ノート 1回 / 2日 5分 送付物の記録ノートを廃止(宛先伝票を保管)

送り状(受領)管理ノート 1回 / 2日 5分 受領物の記録ノートを廃止(受領伝票を保管)

鑑別書ノート 1回 / 1週間 10分鑑別書付きの品物管理客先引渡忘時のリスク対応

記載内容の削減

修理ノート 1回 / 3日 20分 修理伝票内容をノートに転記 パソコン化(手書き廃止)

売上管理表 1回 / 1日 10分 日々の個人別売上や累計記録、意識付け パソコン化(手書き廃止)

改善した帳票業務

販売員へのヒアリングを通じて、それぞれの帳票業務の実施頻度や業務1回あたり

の時間、目的を整理した。また帳票業務が誰のために、何のために必要なのかを考

え、それぞれに重要度をつけた。例えば、本社や上司への報告やお客様への対応に必

要な帳票業務の重要度は高いが、伝票内容の転記をするだけの業務の重要度は低い

と考えられる。各帳票業務の目的がわかったことで、重要度を把握することが可能とな

り、次のように帳票業務の改善方針を立てた。

1日に2回発生している送り状管理ノートには送付物や受領物が記録されていたが、

これらは保管している伝票の記録付けをしているに過ぎないことから、ノート自体を廃

止した。鑑別書ノートの目的は鑑別書付き商品の管理や客先引渡し時のリスク対応で

あり、ノートには商品名やスペック、連番や定価など商品毎に様々な内容が記載されて

いた。しかし、管理やリスク対応時に必要となる情報は連番とバーコード番号のみであ

ることから、記載内容もその2つに留めることとした。修理ノートと売上管理に関しては

手書きからレジPCへの打ち込みに切り替え、記入時間の短縮と計算ミス防止につなげ

る改善方針を立てた。

ケース5. 菅田

事例編

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👉帳票業務の廃止、及び手順の簡素化

菅田での取組結果

1日あたりの帳票業務時間 25分削減

廃止

簡略化

伝票に書かれている内容を送り状管理ノートに転記しているため、二重管理となっている

ノートを廃止し、伝票のみを保管することで、記入時間の短縮を実現

累計売上数や前年比、達成率など、全て手計算で記入しているため、時間がかかっており、また計算ミスも発生している

レジのパソコンで、累計売上数や前年比、達成率などを管理することで、記入時間を短縮、計算ミスを防止

ケース5. 菅田

事例編

送り状管理ノートの廃止

売上管理表のPC入力

改善前 改善後

送り状記録ノート 20分/日 → 0分/日

売上管理表 10分/日 → 5分/日

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👉発見した課題:ムダな作業の排除

「商品受入業務」は、毎週水曜日と金曜日に発生する業務である。A店では、毎回30

~40個に及ぶ商品を伝票と照合した後に、伝票をファイリングし、商品は袋に入れたま

ま保管している。この受入作業には、1時間~1時間半程度の時間が必要となってい

た。

ムダな作業の排除によるお客様対応時間の確保

商品受入作業を観察し、手順を図式化した。商品と伝票は同じ袋に入って届くため、

照合確認する際には、袋から伝票を取り出す作業が発生している。商品あたり6ステッ

プの手順が存在する商品受入作業は、届いた商品の数だけ発生するため、作業手順

の中にムダがないか確認した。

店舗に届く商品

ケース5. 菅田

事例編

作業手順

商品Aの受入

1.袋Aのチャックを開ける

2.商品Aの伝票を取り出す

3.商品Aの伝票と商品Aを照合

4.袋Aのチャックを閉める

5.袋Aの伝票をファイリング

6.袋Aに入った商品Aを保管

商品Bの受入

7.袋Bのチャックを開ける

8.商品Bの伝票を取り出す

9.商品Bの伝票と商品Aを照合

10.袋Bのチャックを閉める

11.袋Bの伝票をファイリング

12.袋Bに入った商品Aを保管

商品Cの受入

商品ごとに発生する受入作業

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👉作業手順の簡略化

商品毎の受入作業を手順毎にリストアップし、動作回数を減らせる手順がないか確

認した。全ての商品で「袋のチャックを開ける作業」と「チャックを閉める作業」が繰り返

し行われていたため、チャック袋をポケット付チャック袋に変えることで、 伝票を取り出

すための「袋の開閉作業」を除くことに成功した。

菅田での取組結果

1袋あたりの作業時間 10秒削減

チャック開閉10秒 → チャック開閉なし0秒

ムダな作業を簡略化し、作業手順を減らすノウハウ

改善前 改善後

作業手順 (4ステップ)

① 伝票をポケットから取り出す

② 伝票と商品を照合

③ 伝票をファイリング

④ 商品を保管

作業手順 (6ステップ)

① 袋のチャックを開ける

② 伝票を取り出す

③ 伝票と商品を照合

④ 袋のチャックを閉める

⑤ 伝票をファイリング

⑥ 商品を保管

チャック袋 ポケット付チャック袋

ケース5. 菅田

事例編

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👉あとがき

ケース5. 菅田

事例編

38% 39%

31%37% 37%

44%41%

60%

51%55%

68% 68%62%

75%

0%

20%

40%

60%

80%

0

200

400

600

800

1,000

1,200

お客様対応時間(分/日) お客様対応時間比率(%)

お客

様対

応時

間(分

/日)

お客

様対

応時

間比

率(%

平成28年 平成29年

今回の取組を経て、バックヤード業務の効率化・改善が進んだA店のお客様対応時

間比率は向上している。平成28年10月のお客様対応時間比率は約40%であったが、

平成29年1月のお客様対応時間比率は月平均68%であった。

今後は、バックヤード業務の負荷軽減によって生まれた時間を活用して、さらに接客

の質を高めていく。

「ひとつひとつの作業をするときに、今まで当たり前にやっていた事を、何のためにやっているのか(仕事の目的)を考えるようになった。作業を効率よくやるという事を考えるきっかけになった。やめられないか、繰り返しになってないか、楽にできないか、考えながら仕事をしている」

「整理整頓することで不要なモノが減って、モノの配置が良くなって仕事がスムーズになった。仕事がスムーズになった事で現場のストレスが減った」

「販売員一人一人にはまだ改善という意識は浸透していないと思う。自分が言い続けて意識づけして、販売員の背中を押していきたいと思う。みんなで(改善を)考える時間を月に1度は作っていきたい」

参加して頂いたモデル店舗店長の声(抜粋)

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ケース6. 薬日本堂

👉企業概要と課題背景

薬日本堂(株)は、東京都品川区に本社のある漢方相談薬局である。直営店24店を

展開、売上高は26億9,200万円である。

同社は、一般的なドラッグストアとは異なり、お客様と対面で1時間程度のカウンセリ

ングを実施し、漢方薬を提供している。漢方薬の店舗や販売スタッフによって、売上や

粗利率、リピート率などに差が生じているが、その差が何に起因しているかは、明らか

になっていない。

今回のケースは、店舗間の生産性のばらつきの原因を究明し、生産性のボトムアッ

プを図るとともに、成果を上げているハイパフォーマーのノウハウを横展開することを目

指したものである。

企業名 薬日本堂(株)

設立 昭和47年4月

本社所在地 東京都品川区

資本金 1億円

店舗数 24店舗

売上高 26億9,200万円(平成27年)

従業員数 約256名

企業概要

事例編

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85

👉現状分析:優良店舗は売場業務時間比率が高い

今回、店内スタッフの業務実態を把握するために、ワークサンプリング(※P.52をご

参照)の手法を用いた。

予め、現場で実施している業務と従業員を全てリストアップし、対象とするある1日を

定めて、観察を行った。観察の最中は、5分ごとに、誰がどこで何をしているのかを表に

記録した。そして、1日の結果を統合して、店舗全体でみたときに、どの業務にどの程度

時間を充てているのかを可視化した。

ワークサンプリングを行った結果、優良店舗における全業務時間に対する売場での

業務時間(売場業務時間比率)が50%であるのに対して、そうでない店舗は、売場業務

時間比率は36%にとどまっていた。さらに細かく業務内容を確認すると、手待ち時間な

どにも一定の業務時間が割かれていることが明らかになった。

ワークサンプリングによる実態把握

ケース6. 薬日本堂

事例編

レジ・カウンター16%

バック48%

売場36%

接客

処方

在庫管理・発注・物流

販売・顧客管理

店舗マネジメント

精算

優良店ではない店舗におけるワークサンプリング結果

レジ・カウンターで行っている業務

バックルームで行っている業務

売場で行っている業務

ワークサンプリングによって把握した業務実態を合計し、1時間ごとに比率をグラフで示して可視化した

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👉ワークスケジューリングの作成による売場業務時間比率向上

売場業務時間比率を延ばすには、単に「売場に立て」と言われても、個々の従業員

がどのくらいの水準を求められているのかが判然としないため、目標とする売場業務時

間比率を数値で示す必要がある。モデル店舗では、業務時間のうちの半分は売場に立

つようにと、数値で目標を示した。

しかし、後方業務が減らなければ、売場に立つ時間を増やすことは難しい。そのた

め、全従業員がどの時間にどの業務を行うのかについてのスケジュール(ワークスケ

ジュール)を策定した。ワークスケジューリングは、製造業では一般的なノウハウである

が、サービス業では、突発的な顧客対応が生じることが多いため、業務が計画通りに

進まないこともある。そこで、「決まる時間」と「決める時間」を峻別してワークスケジュー

リングを実施した。まずは、予約相談や納品受付といった、外部環境によって決められ

てしまう時間を「決まる時間」としてスケジュールに落とし込む。次に売場作りや在庫管

理といった自分で決められる時間を「決める時間」として、スケジューリングを行う。この

ようにして、ワークスケジュールに従って、意識的に店舗に立ち、売場業務時間比率を

高めることに成功した。

決まる時間 決める時間

A 売場業務 ①予約相談 ②売場接客

③売場づくり

⑩清掃

B 後方業務 ④納品受付・品出し ⑤在庫管理・発注

⑥顧客管理

⑦実績管理・報告書類

⑧ミーティング

⑪DT(顧客電話、メール)

⑫休憩

C レジカウンター   ⑨精算待機・精算

ケース6. 薬日本堂

事例編

モデル店舗における「決まる時間」の業務内容と「決める時間」の業務内容

ワークスケジューリングの作成

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薬日本堂での取組結果

モデル店舗における売場業務時間比率36% → 50%以上(理論値)

👉ワークスケジューリングの作成による売場業務時間比率向上

「決める時間」に焦点をあてたワークスケジュール

• 現状の水準を勘案し、優良店舗と同水準の売場業務時間比率を目標として、日々のワークスケジュールを作成し、時間ごとに実施する業務を計画する

• 従業員は、スケジュールに沿って業務に取り組む

• 1日の業務時間のうち、お客様の予約や業者による荷物の搬入など、外部要因によって「決まる時間」と、自らが「決める(主体的に決められる)時間」に分ける

• 「決まる時間」に行う業務時間を確保した上で、 「決める時間」の実施時間帯を割り当てる

業務スケジュール目標

21時

00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分 00分 30分

1 計画 ⑦ ⑧ ② ⑥⑧

教育⑪ ⑦ ⑫ ⑤ ⑦

店長 実績チェック

2 計画 ④ ⑧ ⑥ ⑦ ⑤ ⑫ ⑥

副店長 実績チェック

3 計画 ④⑩ ⑧ ⑤ ②⑧

教育⑪ ⑫ ④⑤ ⑨ ⑥

実績チェック

4 計画 ④⑩ ⑧⑧

教育⑪ ② ④⑤ ⑫ ②

実績チェック

5 計画 ⑦ ⑥ ⑫ ⑨ ⑪ ② ⑩

実績チェック

6 計画

実績チェック

7 計画

実績チェック

8 計画

実績チェック

1)

2)

3)

4)

5)

A 売場業務 ①予約相談 ②売場接客  ③売場づくり ⑩清掃

B 後方業務 ④納品・品出し  ⑤在庫管理・発注  ⑥顧客管理  ⑦実績管理・報告書類作成 ⑧ミーティング

C レジカウンター ⑨精算業務

①予約相談比率    4)÷1)

人時

人時

人時

稼動延人時

A売場業務人時

A売場業務時間比率 2)÷1)

①予約相談人時

①②

① ①① ③

① ②

① ①

① ② ①③ ①

① ①

① ⑫

⑫①

① ① ①

②⑫

法定管理

    年   月   日 (   )

業務項目 ⑪DT

⑫休憩

⑬その他 〔                〕

9時

16時 17時 18時 19時 20時

千円

10時 11時 12時 13時 14時 15時

売場業務時間比率の数値目標の提示ノウハウ

ノウハウ

ケース6. 薬日本堂

事例編

従業員名

時間

実施する業務(上段が予定、下段が実績)

ワークスケジュールのサンプル

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👉現状分析:ハイパフォーマーへの聞き取りによる現状分析

次に、ハイパフォーマー(成果を上げているスタッフ)への聞き取りによって、彼らの

心がけを把握することとした。

薬日本堂では、売上、粗利率が共に高水準にある状態を目指すこととし、その中で

も、顧客単価が高く、顧客数が多く、リピート率も高いスタッフを「ハイパフォーマー」と定

義した。そして、全店舗から、選りすぐりのハイパフォーマー9人に対して、普段心がけ

ている点について聞き取りを実施した。

聞き取りにあたっては、漫然と話を聞いたとしても、ハイパフォーマーの行動様式を

体系的に理解することは困難である。そこで、

①新規獲得

②長期関係形成

③粗利の高い商品購入の促進

④自己時間管理

について、「日頃とっている行動、工夫していること、心がけていること」を中心に聞き取

りを行った。また、ハイパフォーマーが無意識に行っている行動も可視化するために、

例えば、「お客様の来店時には『いらっしゃいませ』と挨拶する」といった、当たり前に思

われるような行動も言語化するように、ハイパフォーマーへ促した。

ハイパフォーマーの行動特性を可視化する

ケース6. 薬日本堂

事例編

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👉「行動規範チェックリスト」の作成

ハイパフォーマーに聞き取りを行った結果から、行動を箇条書きにして、行動の中か

ら、3人以上のハイパフォーマーが共通して実践している行動のみをリスト化した。こう

することで、ハイパフォーマーに共通する行動を抽出した。

次に、こうしてできた仮のリストの精査を行った。現場のハイパフォーマーではなく、

経営層も含めた本社のメンバーで検討を行い、仮のリストの中から、会社の方針に照ら

して、会社として浸透させたい行動のみを選定し、リストに残した。(※P.91をご参照)

ケース6. 薬日本堂

事例編

【段階1】 ハイパフォーマーへの聞き取り

成果を上げているハイパフォーマーに対して、普段心がけていることを聞き取り、箇条書きにする

【段階2】 ハイパフォーマーに共通する行動の抽出

ハイパフォーマー3人以上が実施している行動のみをリスト化する

ハイパフォーマーの行動の精査における段階

【段階3】 会社として浸透させたい行動の選定

ハイパフォーマーの行動リストの中から、会社として浸透させたい行動を選定する

ハイパフォーマーの行動特性の精査

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「マニュアル」ではなく「行動規範チェックリスト」としてとりまとめ

👉「行動規範チェックリスト」の作成

薬日本堂では、ハイパフォーマーのノウハウを抽出し、現場に浸透させるために、マ

ニュアルとして社内に展開することも検討した。しかし、仮に、守るべき行動を記載した

マニュアルとして配布したとしても、現場のスタッフが本当に目を通したのかどうかがわ

からない。そこで、マニュアルではなく、「行動規範チェックリスト」として、リストに上がっ

た行動ができているかどうかセルフチェックできるように工夫した。

行動規範チェックリストを作成する際には、抽象的ではなく、可能な限り具体的に項

目を記載することが重要である。

早速モデル店舗でこのチェックリストを導入したところ、店長の指導により、3回目に

は概ねチェックリストの記載に従った行動を取ることができるようになった。

ケース6. 薬日本堂

事例編

【行動規範チェックリストの記載例】

「お客様に信用していただけるように心がける」とするのではなく、「お客様の笑顔を引き出す」ことにポイントをおく。いきなり漢方の話題ではなく、世間話や雑談を通じて初期の関係づくりをはかる。自分が感じたことをストレートに言うことで、友達のように何でも話してもらえる雰囲気を作り、お客様から信頼を得る。※笑顔はお客様の「話を聞いてみよう」というサイン。雑談の目安は10%ほど。

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91

薬日本堂での取組結果

モデル店舗における相談員1人あたり新規売上18%以上アップ

行動規範チェックリストによるハイパフォーマーの行動の周知・定着化

• 接客業における接客スキルそのものは、マニュアル化が難しいため、ハイパフォーマーの行動を行動規範チェックリストに落とし込み、現場での定着を目指す

• 行動規範を販売員自ら確認することにより、気づきを促し、創意工夫を引き出す体質を作る

👉ハイパフォーマーの行動特性の浸透

行動規範チェックリスト

お客様前面の姿勢による業務を徹底し、お客様への目配り・気配りを欠かさない

お客様の会話のスピードにあわせて(同調して)応対する 店舗の立地・店舗の客層にあわせたニーズがある。店舗が変わ

るたびにお客様に質問する内容を見直す。後から後悔しないように、初対面であっても伝えるべきことを伝え、提案するべきことを提案することに躊躇がない

相談でお客様がお試しした商品はパンフレットに印をつける。印をつけたパンフレットは、お客様に必ず持ち帰っていただき、帰宅してからも購入検討を促す

ノウハウ

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

□--------

行動規範チェックリストの一例

ケース6. 薬日本堂

事例編

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92

👉あとがき

ケース6. 薬日本堂

事例編

今回のモデル店舗の取組では、行動規範チェックリストを活用して、1か月に3回、

各々の従業員が自らの行動をチェックした結果、チェックリストの9割の行動について

は、実施できるようになった。

今後は、課題と感じていた店長のマネジメント力を向上することで、機会損失の解消

や相談員の生産性向上に引き続き取り組んでいく。

【担当役員】

「今回は店頭で起きていることの可視化をはかることを重視したが、相談員が売場に

立てていない実態など、 想定していた悪さが定量的に把握できた。まだ多くの機会

損失が店頭に埋もれていることを確信できた」

【店長】

「行動チェックリストを3回繰り返すことで、意識が薄れることなく、メンバーのモチベー

ションアップにつなげることができた」

【店長】

「売場にこれほど出れていないとは認識できていなかった。相談員1人あたりの販売

額の格差はわかっていたつもりでも数字で示されると問題の大きさを改めて理解で

きた。今後の店舗運営で改善していきたい」

参加して頂いた同社メンバーの方々の声(抜粋)

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93

事例編

ケース7.西川産業

👉企業概要と課題背景

西川産業(株)は、東京都中央区に本社のある老舗ふとんメーカーである。日本全国

にボランタリーチェーン(西川チェーン)の運営他、直営店は約25店以上を展開してお

り、売上高は340億円(平成27年度現在)である。

日本人の3人に2人は眠りに対して何らかの不満を抱えているという。そうした問題を

解決すべく、同社では、しっかりとしたバックデータに基づいた商品作りを行っている。

そして直営店では、そうした情報をいち早く、正確にお客様にお伝えし、単なる寝具販

売ではない「快眠のための環境作りや、お客様一人ひとりに合わせたパーソナルな寝

具選びと眠りのアドバイスができる店」を目指している。

しかしながら、販売スタッフの経験や熟練度によりお客様への応対状況にばらつき

が存在しており、特に新規の出店店舗では商品価値のポイントを的確に伝えることがで

きる人とできない人、売れる人と売れない人のばらつきがあることがはっきりしている。

そして、個人販売上位の販売員が店舗を移ると店舗の売上が変わってしまう。そうした

状況を改善したいと考えている。

今回のケースは、直営店を対象に、開店後8年を経過した運営力がある店舗のス

タッフと、昨年開店したばかりの新店のスタッフとの比較を通じ、接客応対の差がどこに

あるのかを明確にし、今後展開していく新店に適用できる標準的なノウハウをつくること

を目指した。

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👉企業概要と課題背景

企業名 西川産業(株)

設立 昭和22年

本社所在地 東京都中央区

資本金 9億150万円

店舗数 直営店舗25店

売上高 340億円(平成27年度)

従業員数 970名

企業概要

取組実施対象店舗(モデル店舗)のプロファイル

店舗名 B店(8年目)

開店 平成20年

店舗面積 約65坪

営業時間 10:00~21:00

従業員数 7名(パート含む)

店舗名 A店(新店)

開店 平成28年

店舗面積 約17坪

営業時間 10:00~21:00

従業員数 4名(パート含む)

事例編

ケース7.西川産業

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👉現状分析:接客場面のビデオ撮影によるデータ収集、分析

属人化した接客応対を明らかにし、スタッフの応対の違いを把握するために、実際

の接客場面をビデオ撮影した。平成28年10月の週末を選び、対象2店舗の店内にビデ

オレコーダー、ボイスレコーダーを設置、各店舗で7~8時間に渡りデータを収集した。

調査概要

手段・設置場所

ビデオによる動画撮影(以下の動画が撮れる場所)

①店舗全体②レジ前③ベッド

ボイスレコーダーによる会話の録音(以下の音声が録れる場所)

①店員の胸元②ベッド横③カウンター前

対象店舗・対象者・データ収集結果

5名(うちパート2名)

3名(うちパート2名)

約7時間、24組の接客を録画、録音(平成28年10月週末)

約8時間、51組の接客を録画、録音(平成28年10月週末)

A店

B店

調査イメージ(画像、会話)

事例編

ケース7.西川産業

8年目

新店

接客場面のビデオ撮影によるデータ収集

右図は、 InqScribeというソフトを利用したもの。会話を書き起こすには、メディアプレーヤーなどで再生し、ワードなどに書き起こすことでも対応可能。

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👉現状分析:接客場面のビデオ撮影によるデータ収集、分析

接客時に管理している重要指標(KPI)

販売スタッフ各自が接客を行いながら、自身の声掛け数、体感数をカウントし、退勤時に日報に記入している

データ分析にあたっては、同社で日頃から営業の管理指標としている「声掛け数」お

よび「体感数」をカウント。最終的な「成約数」との関係を分析した。

事例編

ケース7.西川産業

重要指標の設定とカウント

声掛け数・重点項目商品を紹介した時点でカウントする・重点項目商品とは、販売拡大をしていきたい主力商品を指す(調査時点では「エアー」 と呼ばれる敷布団やオーダー枕など9アイテム)

体感数・重点項目商品に寝てもらうか、触ってもらった時点でカウントする

接客シーンのカウント、会話の書き起こし

さらに、撮影した動画、録音した音声につい

て、お客様と販売スタッフの方の会話を全て書

き起こした。1顧客1接客シーンとしてカウント、

全体で75件のデータを収集することができた。

このデータを対象として、その内容を分析した。

接客シーン(件数)

A店 26

B店 49

合計 75

8年目

新店

本調査で収集した接客シーンの件数

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👉取り組むべき課題の明確化

まず、重要指標である「声掛け数」、「体感数・率」、「成約数・率」の関係を分析した。

結果は、当初の想定とは異なる意外なものだった。それは、 「声掛け数」 、 「体感

数・率」の高い人が、必ずしも「成約率」が高くはない、ということである。

サンプル数は計8名と限られた条件下であるが、A店、B店ともに体感率は全体で

70%程度と、販売スタッフごとのばらつきはあるものの同程度の水準となっている。一

方、成約率でみるとA店では0%、B店では約70%と、体感率の高さが成約につながって

いない状況が伺える。特に、A店・K店長では体感率で8割を超えており、これは全対象

者の中で2番目の体感率であるが、成約数は0となっている。

声掛け数 体感数 成約数 体感率 成約率

( a ) ( b ) ( c ) (b/a) (c/b)

店長 Kさん 6 5 0 83% 0%

販売スタッフ Sさん 2 1 0 50% 0%

販売スタッフ Oさん 2 1 0 50% 0%

店舗A計 10 7 0 70% 0%

声掛け数 体感数 成約数 体感率 成約率

( a ) ( b ) ( c ) (b/a) (c/b)

店長 Fさん 4 3 2 75% 67%

販売スタッフ Nさん 5 3 3 60% 100%

販売スタッフ Hさん 6 6 6 100% 100%

販売スタッフ Sさん 4 2 0 50% 0%

販売スタッフ Mさん 5 3 1 60% 33%

店舗B計 24 17 12 71% 71%

A店

B店

モデル店舗2店調査時の重要指標の結果

事例編

ケース7.西川産業

8年目

新店

ハイパフォーマー

注)調査時に対象とならなかったパートの方が存在。 A店で1名、B店で2名の計3名。

分析からわかったこと:やみくもに声掛けをしても成約には至らない

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👉取り組むべき課題の明確化

成果指標としての成約率や売上だけをみるのではく、そこに至る一連のプロセス(声

掛け、体感)を指標化してみる、というのはひとつの管理手法である。しかしながら、単

にプロセス指標を設定し、その多い少ないを評価することは必ずしも結果につながらな

い、ということである。当然、接客の取っ掛かりである声掛けがないとはじまらない。しか

し、データでも見たように「やみくもに数をこなすだけの声掛けをしても成約には至らな

い」のである。

では、結果につながる「効果的なやり方」 とは何か。次頁以降では、成果を上げて

いる人=ハイパフォーマー、今回はB店のHさんに注目し、接客時の言動の特徴を分析

する。その上で、成約につながった接客と照らし合わせ、ハイパフォーマーと同様の接

客を行っているケースから、結果の出ている接客時の会話の特徴をあぶり出す。

事例編

ケース7.西川産業

結果につながる「効果的なやり方」を明らかにすること

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👉ハイパフォーマーは「お試し」のハードルを下げる

ハイパフォーマーであるHさんは、最初の声掛けの段階で、「お試しできる」ことをお

客様に案内している。

アパレルや時計、家具など接客が重視される小売業では、 「お試し」が購入への第

一歩となるが、そのハードルを下げるちょっとした声がけのタイミングが存在していた。

今回のケースでは、寝具に横になり枕の高さや体圧を測定することが「お試し」である。

具体的に、Hさんの接客場面を見てみよう。Hさんは、お客様への最初の声掛け場

面で、先に「測定できる」と伝えた上で商品説明を行っている。

最初の声掛けの際に、「お試しできます」と言ってから商品説明を行うノウハウ

【最初の声掛け場面】

店員 : お試しもできるので、よかったら測定して。

【しばらく接客、商品説明。お客様(女性)が枕を触っている】

店員 :試してみますか?よかったら。測りますよ、測定もね簡単にできるので。

お客様 : じゃあやろうかな。

ハイパフォーマーHさんの接客例(1)

事例編

ケース7.西川産業

商品説明(枕)の前に「測定できます」と伝えること

で、お客様はその後の体感の申し出を行いやすくな

る。この事前の声掛けを行っているのは、全接客シー

ンを分析した中でHさんだけであった。逆に、接客中に

「測定できる」ことを伝えていない人もいる状態であっ

た。

実際の測定場面

右写真)後頭部のでっぱりと首のカーブを専用の測定器で測

定する。測定器にできた隙間から合う枕をみている

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👉ハイパフォーマーは「お試し」のハードルを下げる

さらに、ハイパフォーマーは、お客様のお試しを促すために、事前の声掛けだけでな

く、「実際にやってみせて」いる。今回の場合は、寝具に触ってみることで、最終的な体

感の状態である「寝っころがる」へのハードルを下げている。

アパレルであれば、試着室に入る前に、販売スタッフが、お客様に袖丈を合わせて

みたり、トップスとボトムスのコーディネートを見せたり、といったイメージである。

ハイパフォーマーのHさんは、商品説明を行いながら、商品に触ってみることによっ

て、お客様が触ることを誘う。さらに、単に触るだけではなく、「気持ちいい」「柔らかい」

などの言葉で、触ってどう感じるのかを伝えている。それにより、お客様のお試しへの段

階的な導入を心がけている。

お客様のお試しを促すために、 「実際にやってみせる」ノウハウ

販売スタッフが触る お客様が触る ベッドで体感

移動

ハイパフォーマーHさんの接客例(2)

事例編

ケース7.西川産業

すっごい気持ちいいですよ 本当だ!

寝た方が分かります

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👉ハイパフォーマーは「お試し」のハードルを下げる

体感数 成約数 体感数 成約数

22.2%38.5%

先に販売スタッフが体感してみせていない場合

先に販売スタッフが体感してみせた場合

こうした取組は他の販売スタッフの接客シーンでも見られ、実施の有無による成約率

の違いを定量的に観測することができた。具体的には、全75の接客シーンのうち、販売

スタッフが体感してみせた場合の方が、そうでない場合と比較して、15ポイント以上も成

約率が高かった。

単に体感率という指標を高めるのではなく、成約につながるお試しを実践できている

かどうかが、接客プロセス上、重要であることが浮き彫りになった。

15ポイント以上の差

事例編

ケース7.西川産業

体感の有無による成約率の差分の検証

販売スタッフの体感の有無でみた、成約数の差(全75接客シーンを対象)

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👉ハイパフォーマーは「パーソナルな質問」を投げかける

一般に高額商品の買い物は、お客様が購入を検討する背景や事情に、よりマッチし

たものであることが求められる。アパレルであれば、デートなのか、パーティなのか、と

いった具合である。

寝具の購入の場合、眠りが浅い・腰が痛いといった解決したい問題や、枕が高すぎ

る・マットが柔らかすぎるといった個別の仕様など、お客様の事情が背景にある。

今回、成約につながったケースを分析すると、お客様にそうしたパーソナルな話を投

げかけているケースが多かった。具体的な会話例を見ると、左は失敗例であり、販売ス

タッフによる一方的な商品説明に終始している。対して右は、パーソナルな問いかけか

ら悩み・ニーズの引き出しが、うまくいっている例である。

パーソナルな質問により、お客様のニーズを引き出しその実現をサポートするノウハウ

店員 :色々あのー、お試しはできるので、これが○○っていうタイプで・・・・

お客様:・・・・・

店員 :天日干しも不要なので、朝起きた時に丸めて立てておけば・・・

お客様:・・・・・

店員 :体格から言ってー、この身長と体重でこの固さになってるんですけど・・・

お客様:・・・・・

【成功例】 成約に至ったHさんの接客

店員 : いつも低いの使ってます?

お客様:んー、というかね、ストレートネックって、言われて。

店員 :ああ、うん、その通り。あんまりカーブがないんですよ。

お客様:そう。んで枕が何か合わなくて。

店員 :整形外科か何かで言われた?

お客様:うん、そうです。

【失敗例】 成約に至らなかった接客

× ○

事例編

ケース7.西川産業

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👉ハイパフォーマーは「パーソナルな質問」を投げかける

パーソナルな質問を投げかけない場合 パーソナルな質問を投げかけた場合

声掛け数 体感数 成約数 声掛け数 体感数 成約数

50.0%

80.7%

20.0%42.9%

一方的あるいは画一的な商品説明ではなく、ハイパフォーマーはまずお客様の悩

み・ニーズに応えるというステップを踏んでいる。そのためのパーソナルな質問の投げ

かけであり、お客様自らがニーズを発信できる機会を用意している。

今回得られたデータからも、パーソナルな質問を投げかけた場合とそうでない場合と

で、20ポイント以上もの成約率の差が生じていた。

20ポイント以上の差

事例編

ケース7.西川産業

パーソナルな質問の投げかけの有無でみた成約数の差(全75接客シーンを対象)

パーソナルな質問の投げかけの有無による成約率の差分の検証

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👉ビデオを活用した研修による接客スキルの向上

一連の取組から得られたハイパフォーマーの接客の方法について、A店(新規店)を

対象に研修を実施した。研修は、接客調査時に撮影した動画を用いて、参加者に実際

のハイパフォーマーの接客上のポイントを理解してもらった。

そして、研修前後での約3週間での成約率を比較したところ、一連の取組に参加して

もらった全4名の販売スタッフのうち、販売経験の浅い販売スタッフ3名の成約率が10~

20ポイントアップした。

事例編

ケース7.西川産業

接客動画を活用した勉強会による接客スキルの向上ノウハウ

西川産業での取組結果

勉強会対象者の成約率 10~20ポイント前後上昇10~20ポイント→30~40ポイント

研修後(平成29年1月12日~2月5日)

研修前(平成28年12月1日~12月25日)

KさんSさんOさん

A店(新規店)の販売スタッフに対する研修前後での成約率

注)研修実施は平成29年1月11日、年末年始を避けて前後を集計

A店(新規店)での研修実施概要

1 )販売スタッフ4名を、2名ずつ2グループに分ける2 )研修は1時間半。営業時間中に、各グループで時間をずらして実施3 )場所は、入店しているテナントが借りることのできる貸会議室4)接客調査時に撮影した動画をプロジェクターで映し、ポイントを理解した

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👉あとがき

事例編

ケース7.西川産業

今後、同社では自社内他店舗へのノウハウの横展開を検討している。スタート時の

課題認識である「販売スタッフのお客様への応対状況のばらつき解消」に向け、今回の

取組はその布石とすることができた。

「自分たちがどのように働いているのかを客観的に見てもらう機会になったことはイ

ンパクトもあり良かった」

「分析結果は、新店や入りたての販売スタッフには特に有効であると感じた」

「勉強会を経て、販売スタッフの意識が変わった様に思う。長期的に続けていけるよ

うにしたい」

「実際の成約を上げていくためには、お客様との接客場面だけでなく他の問題もある

とは思うが、今回の取組を通して改めて自分たちの仕事を見つめ直すことができ、

大変勉強になった」

「接客に効果的な方法があるということを知ったので、実践につなげていきたい」

参加して頂いた同社メンバーの方々の声(抜粋)

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コラム 外国人スタッフを戦力化するには?

ケース.サッポロドラッグストアーの企業概要と課題背景

サッポロドラッグストアーの課題背景

(株)サッポロドラッグストアーは、北海道を中心に全国で190店舗を展開するドラッグ

ストアーである。近年、増加傾向にある外国人観光客に対応するため、同社はインバウ

ンド向け店舗を出店しており、外国人スタッフの雇い入れを進めている。

しかしながら、外国人スタッフに合わせた採用方法や処遇、評価制度、研修制度など

は店舗運営しながら整備を進めており、現状、日本人スタッフ向けの評価制度やマニュ

アルを軸に教育している。また、外国人スタッフのマネジメント方法なども、現場で試行

錯誤されている状態であった。

今回のケースでは、長期的な外国人スタッフの定着化、戦力化に向けた施策として、

インバウンド向け店舗として出店されたA店における、中国人スタッフの就業定着・戦力

化に向けた就業マニュアルの作成を目指す。

企業名 (株)サッポロドラッグストアー

設立 昭和58年4月

本社所在地 北海道札幌市

資本金 1億円

店舗数 190店舗(ドラッグストア180店、調剤薬局10店、平成29年3月)

売上高 627億円(平成28年2月期)

従業員数 682人(平成28年2月)

取組実施対象店舗(A店)のプロファイル

店舗名 A店

開店 平成27年6月

営業時間 10:00~23:00

従業員数60名強(パート含む)※約8割が外国人

企業概要

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コラム 外国人スタッフを戦力化するには?

事例(1)外国人スタッフは就業規則に納得感を求める

A店(マニュアル導入)とB店(マニュアル未導入)で覆面調査を実施した結果

身だしなみの達成度 : A店の方が 11ポイント高い

• 外国人スタッフの就業観に配慮した就業マニュアルを作成し、業務のルールを伝える必要がある

• 就業マニュアルには、どこまでが許容範囲なのかを、写真などを用いて具体的に示し、あいまいさを取り除くことが重要である

• また、外国人スタッフの納得感を高めるため、作業やルールの理由・背景、更にはルールを守れていない場合の対応についても明記する

就業マニュアルに許容範囲や理由、背景を明示し、外国人スタッフの納得感を高める

サッポロドラッグストアーにおける取組成果

頭髪の色

爪の長さ

[ルール]手のひらから見えない長さ

[理由]長い爪は、商品や人を傷つける可能性があり、また爪が割れる可能性もあるため

[ルールを守れていない場合の対応]直ちに、休憩室で手のひらから見えない長さまで、爪を切ること

[ルール]髪色見本の4G~7Gまで

[理由]清潔感があり、落ち着いた印象にするため[ルールを守れていない場合の対応]次回出勤までに、頭髪を4G~7Gの色に染め直すこと

サッポロドラッグストアーの外国人スタッフ向け就業マニュアル(例)

4G 5G 6G 7G

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コラム 外国人スタッフを戦力化するには?

事例(2)繰り返し実践することで、接客ルールの定着を図る

A店(マニュアル導入)とB店(マニュアル未導入)で覆面調査を実施した結果

言葉遣いや話し方の達成度 : A店の方が 31ポイント高い

• 店舗が外国人スタッフに求める接客ルールは、文書化しておくことが重要である• 外国人スタッフが接客ルールを勉強した後は、実際にロールプレイングを実施し、

接客ルールが意識付いているか、身に付いているかの確認を行う• ロールプレイング後、できている部分は褒め、できていない部分は「このようにすれば

更に良くなる」とポジティブフィードバックを行い、外国人スタッフの接客ルール定着・スキル向上につなげる

店舗の接客ルールは文書化し、ロールプレイング、フィードバックを繰り返して定着を図る

サッポロドラッグストアーにおける取組成果

お客様に商品を尋ねられた際の接客ルール

1.お客様から商品を尋ねられる

2.商品の陳列棚まで案内する

3.お客様のペースに合わせて歩く

4.商品に手を添えて、「こちらでございます」と商品を紹介する

Good

Good

Good

商品の方向を指で指し、その場で答える

Bad

自分のペースで、先に商品棚へ向かう

Bad

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トピックページ

トピックページ

~小売業の生産性向上に向けたヒント集~

個社・個店の改善にとどまらず、企業や業界を横断した

生産性向上の取組事例は?

生産性向上を実現している小売事業者の取組事例は?

お客様の消費価値観変化や小売業の営業体制に対する

考え方は?

トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

トピック3. 消費者動向の変化に見る生産性向上へのヒント

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トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上

トピック1. 業界横断での

標準化による生産性向上

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1. 標準クレート

トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上

取組の概要

導入の効果

• 従来、商品の流通に用いるクレートのサイズが会社や商品によって異なっており、種別ごとにクレートの保管スペースが必要となったり、クレート仕分けの手間が発生していた

• クレート流通において、「製・配・販でクレートを仕分けせずに共同利用すること」を大原則とし、物流クレート標準化協議会が規格を統一した

• クレートを標準化することにより、食品メーカーから物流センター、物流センターから小売店舗に到着した商品を積み替えることなく、店内に搬入し、場合によっては、そのまま商品を陳列することも可能となる

• 標準クレートは、複数事業者の間で共有化されるため、epalと呼ばれるシステムによって流通しているクレートの数量を管理する

• 平成28年12月現在、29チェーン、600メーカーが標準クレートを導入している

• 小売事業所側における効果としては、作業効率の向上、保管スペースの削減、ダンボールによるゴミの発生抑制とリサイクル費用の低減、数量管理システムによる紛失低減が挙げられる

• 取引先における効果としては、作業効率の向上やクレート保管スペースの削減、クレート管理費・回収費の削減、クレート購入費・洗浄機などのインフラ費用の削減が挙げられる

• 物流における効果としては、配送効率の向上、センター内の作業効率の向上、事故の防止、品質維持・管理が挙げられる

食品スーパーA社における効果の例

• ダンボール削減による年間CO2排出量:5.4トン削減

• 和日配積載効率:20%向上

• カゴ車の1日あたり輸送:80台分削減

• 商品の1点あたり陳列時間:1.7秒削減

標準クレート 運用の流れ

食品メーカー

小売センター

小売店舗

商品配送

(洗浄)

空容器回収

出所)日本パレットレンタル

出所)物流クレート標準化協議会

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2. スマクラ

取組の概要

導入の効果

• 流通BMS(※)対応を中心としたクラウド型の統合EDIサービスを利用することで、システムを介した取引が可能となる

※流通BMS・・・流通ビジネスメッセージ標準(Business Message Standards)の略語

• 製・配・販で統一のシステムを利用することにより、起票や紙伝票の管理が不要となり、業務効率化を図ることができる

• 共同利用型のシステムであるため、システム構築に必要な費用や期間を抑えることができるほか、システムを管理する専門の人員を配置する必要がない

• 取引先における効果としては、標準納品明細書による帳票の統一化、売上計上までのリードタイムの短縮、出荷伝票の入力ミスの減少、受領データの違算の減少、月末請求や支払いの照合作業及び違算の減少が挙げられる

• 小売事業者側における効果としては、出荷伝票入力作業の減少、標準納品明細書による帳票の統一化、売上計上までのリードタイムの短縮、出荷データのリアルタイム把握、出荷伝票の入力ミスの減少、受領データの違算の減少、月末請求や支払いの照合作業及び違算の減少が挙げられる

出所)SCSK株式会社作成

スマクラの概念図

トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上

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3. 共同利用型電子マネー

取組の概要

導入の効果

• 近年、電子マネーの導入によって、顧客の囲い込みに成功している小売事業者が存在している一方で、独自の電子マネーを導入することの難しい事業者にとっては機会損失につながっている

• 日本スーパーマーケット協会(略称:JSA)では、複数社で共有の電子マネーである「JSAマネー(仮称)」を導入する

• 磁気型・IC型のカード種類の選択や、自社のポイントシステムとの連動、既存の電子マネーとの接続も可能である

• 共同利用型の電子マネーとすることで、供託金やシステム構築などの負担を軽減することができるほか、運用にあたっても、システムを管理する専門の人員を配置する必要がない

• 小売事業者側における効果としては、レジで扱う現金の削減、顧客単価の増加、顧客の囲い込みが挙げられる

• また、共同利用とすることにより、サービス利用・資金管理手数料を抑えることが可能となる

項目 内容

カード 種類 非接触IC/磁気から選択可能

記名/無記名 無記名式(発行後、Web会員サービスによる個人情報の登録は可能)

券面デザイン 各社自由(法令要件など最低ルールあり)

残高の有効期限 無期限

発行 発行方法 店頭での交付

入金 入金方法 POSレジもしくはチャージ機での現金によるチャージ

1回あたりの入金限度額 1,000円以上

1枚あたりの残高上限額 原則、50,000円。ハウス型の場合は各社設定

残高の払戻 不可

支払 返品時の対応 電子マネーによる返金

他社のJSA共同利用型電子マネーでの支払

不可(グループ会社などで利用できる設定も可能)

照会 利用履歴の照会方法 Web会員サービス画面(デザインはカスタマイズ可能)

残高の照会方法 レシート、チャージ機、web会員サービス画面

紛失・盗難時の対応

カード紛失・盗難時 店頭もしくは本部にて、カード利用の停止処理

カード破損時 店頭もしくは本部にて、再発行処理

JSAマネー(仮称)の標準仕様

出所)日本電気株式会社作成

トピック1. 業界横断での標準化による生産性向上

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トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

企業名 (株)いちやまマート

設立 昭和39年7月

本社所在地 山梨県中央市

資本金 4,900万円

展開店舗 スーパーマーケット

店舗数 13店舗(山梨県11店舗、長野県2店舗)

売上高 225億円(平成27年2月期)

従業員数 1,100名

企業名 (株)エブリイ

設立 平成元年4月

本社所在地 広島県福山市

資本金 3,000万円

展開店舗 スーパーマーケット

店舗数 直営38店舗

売上高 683億円(平成28年6月期)

従業員数 3,487名(平成29年2月)

企業名 角上魚類ホールディングス(株)

設立 昭和51年5月

本社所在地 新潟県長岡市

資本金 3億5,400万円

展開店舗 鮮魚店

店舗数 22店舗

売上高 306億円(平成28年3月期)

従業員数 916名(正社員476名、パート440名、平成28年3月)

テーマ1~4における調査対象企業概要

1. 商品価値の向上 2. 廃棄ロスの抑制 3. 人材 4. 業務効率化

取り上げた生産性向上テーマ

5. サービス向上

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1. 商品価値の向上

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

「丸ごと買い」による、鮮度の高い食品ラインナップ

• エブリイは、取組の一部として契約農家の「全量買取」・契約漁船の「一艘買い」を行っている。特に一艘買いでは、朝獲れの水産品を、昼前には店舗の鮮魚売場に並べ、お客様に提供している

エブリイ

契約農家 契約漁船

農産品・水産品の全量販売

・お客様からの声の共有・鮮魚コーナー映像の中継

・売れ行き情報の提供・お客様からの声の共有

エブリイ店頭

加工業者グループ

飲食店など

規格品は店頭で販売規格外品は惣菜に加工して販売

また、一部の規格外品や高級魚種は、同グループ外食・料亭にて利用

惣菜として販売

規格外品は、惣菜用に加工

珍しい魚も店頭に並べ、買い物の楽しさ・面白さを提供

• 角上魚類の店頭に並ぶ水産品は、毎朝、築地と新潟の両市場にいるバイヤーの目利きによって、決まっている

• バイヤーは、揚がった水産品の中から、お客様に、高鮮度・低価格で提供できる商品を選んでおり、必ずしも、サンマやアジなどのポピュラーな魚だけを選ばない

• その結果、角上魚類の店頭には多種多様な水産品が陳列されている。珍しい水産品であっても、調理方法などを詳しく説明することから、平日も毎日、お客様は新たな魚との出会いを求めて行列を作っている

店頭に並ぶ水産品の数々。ポピュラーな魚は、全体仕入の30%程度であり、毎朝、新たな魚との出会いが待っている

エブリイ独自の生鮮食品仕入れの方法の一例

漁師にとって、自分の獲った魚が実際に売れていく姿を見る機会は少ない。

エブリイは、鮮魚売場に設定したwebカ

メラを通して、漁師に、お客様が購入する様子をリアルタイムで届けている。

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1. 商品価値の向上

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

生鮮食品は鮮度が命、店内加工に拘りあり

プライベートブランド(PB)商品を通じて、健康志向スーパーのイメージを確立

• いちやまマートは、精肉などの鮮度重視商品は店内で加工するなど、商品に応じて、効率を重視するプロセスセンターと、鮮度を重視する店内加工を使い分けている

• 角上魚類は、生鮮食品のみならず、惣菜などの加工食品も全て、バックヤードで行っている。そのため、労働分配率は高くなるが、会社として、鮮度重視の方針を立てている

• また角上魚類では、店内で魚を捌くサービスも無料で行っており、旬の魚や調理方法など水産品に関するお客様の質問・疑問に答える「親切係」と呼ばれる従業員を店内に配置している

• いちやまマートは、食品添加物を使用しないPB商品「美味安心」を開発し、高付加・高価格商品を幅広く展開している。お客様の中には、健康を損なわないために、「美味安心」を買い求めている人もいる

• また、いちやまマートは、お客様向けに健康に係る講演会なども開いており、食の安全性を啓発している。有識者も登壇する、いちやまマートの講演会はすぐに定員に達するほどの人気ぶりである

精肉は、プロセスセンターで加工すると、店頭に並ぶまでに、冷凍と解凍を繰り返すため、味が落ちてしまう。

いちやまマートでは、お客様に高品質の精肉を提供するため、全ての加工をバックヤードで行っている。

いちやまマートのPBブランドである「美味安心」は、産地や味、また安全に、こだわった品質の高い素材を用い、何度もテストを繰り返して辿り着いた独自の「製造方法」で、作られている。

平成29年1月現在、美味安心の商品数は、約400品に及び、全国、約80社のスーパーに卸されている。

親切係の従業員(入社10年目)

産地直送の魚屋専門店として、新潟の地魚やお客様が召し上がった事のない魚の味や美味しい食べ方をお伝えしています。

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2. 廃棄ロスの抑制

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

売り切れ御免の企業風土

• 角上魚類は、社長が「新鮮な魚が、夕方になっても十分に陳列されているのはおかしい。本来、魚は売り切れる商品だ」といった方針を持っており、売り切れ御免の企業風土となっている

• 角上魚類は、廃棄ロス削減のための値引き販売は、お客様の公平性を欠く(夕方の値引き販売は、夕方のお客様を優遇になる)と考えており、製造数を抑えることで、廃棄率や値引率を抑える方針を取っている

• エブリイは、圧倒的な鮮度の追求をビジネスモデルの1つとしているため、生鮮食品の欠品を恐れない方針を立てている

• エブリイは、新鮮な食品を、新鮮なまま売り切る方針であるため、生鮮食品の過剰な在庫は抱えない。また、生鮮食品を毎朝地元市場で買い付けるため、年末年始の様に市場が休業し、鮮度の高い商品の仕入れが難しい時はエブリイも休業する方針を取っている(平成28年12月31日は18時閉店、平成29年1月5日より営業開始)

角上魚類の鮮魚コーナー

開店時 閉店直前

開店時には、様々な水産品が並ぶ鮮魚コーナーも、閉店間際には、数匹の魚と数個の貝のみとなる。

新鮮な水産品のみを販売し、また「売り切る」企業風土が根ざしている、角上魚類ならではの光景である。

エブリイの野菜売場

開店時 閉店直前

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商品の加工や調理工夫で、廃棄ロスを削減

規格外品などに「価値」を与えて、売上拡大・廃棄費用削減

• 角上魚類では、POSデータを用いて、全商品の売上数量を毎時間確認しており、商品残量から、魚の加工・調理の判断をしている製造数を抑える方針や、毎時間、売上数を確認して加工・調理する取組を進めている結果、角上魚類の廃棄率は、わずか0.05%程度となっている

• エブリイでは、午前中に一匹売りしていた魚を、昼には切り身として販売し、夕方からは刺身や寿司として販売するなど、時間帯ごとのお客様ニーズに応じた加工・陳列をしている

• エブリイは、生産・流通で発生する規格外品に価値を与えることで、廃棄費用の削減と売上拡大を、同時に実現している

開店時 14:00~ 17:00~

夕方以降であれば、お客様のニーズに合わせて、調理の手間を省いた刺身や寿司として売られる魚が多くなっている。

エブリイの大人気商品の1つ、明太フランス

規格外の明太子を加工した明太ペーストを使用し、

高品質・低価格な明太フランスの提供を実現している。

規格外品のフルーツを贅沢に使用したタルト

時間帯のニーズに応じて、売場を変化させる取組

2. 廃棄ロスの抑制

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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3. 人材

パート従業員の戦力化

• いちやまマートは、パート従業員の採用に性格検査を導入している。社員のみならず、パート従業員にも、企業風土や方針に合った人材を採用することで、パート従業員の定着率向上と戦力化を図っている

• 角上魚類は、フルタイムに近い時間で働けるパート従業員を採用する傾向にある。そのため、パート従業員への教育に集中できるため、1人1人の戦力化につながっている

動画カリキュラム導入による、人材育成サポート

• いちやまマートは、動画カリキュラムを導入し、新入社員や新人パート従業員に対する指導時間の削減や早期戦力化を実現し、また、離職率の改善にもつながっている

新入社員や新人パート従業員の悩み

• 動画カリキュラムの導入は、既存社員の能力向上や業務効率の改善にもつながっている。また、担当部門以外の作業を、映像を通して、いつでも、どこでも、誰でも学ぶことができ、企業全体として多能工化の実現・部門間協力体制の構築が進んでいる

• 本部発信が主体であった販売成功事例も、各店舗から発信することが可能となり、スピード感を持って、横展開が可能となった。さらに、商品POPや手配りチラシなども共有することで、今まで店舗別に発生していたPOP作成の労力と時間の削減に成功している

• 先輩社員が忙しそうで、質問できない

• 作業が覚えられなくて、不安である

• 作業方法を、何度も聞きづらい

• 叱られるのが怖い

もう辞めたい・・・

動画カリキュラム用いた、自主学習

仕事を楽しく続けられる!

成長して褒められる

動画を見て、何度でも実践できるため、安心して作業を覚えられる。また能力の向上も図れる。

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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「類人猿分類法」の導入で、人材が活きる職場作り

• エブリイは、独自の研修制度である「類人猿分類法」を、トップダウン方式で、会社全体で実践している

• 社長からパート従業員まで、全員が4種類の類人猿に分類されており、個々のモチベーションが最も高まるコミュニケーションをお互いが理解し、働きやすい環境づくりに努めている

• 「類人猿分類法」に基づいたコミュニケーション法を導入したところ、レジ誤差が20件以上あった店舗において、レジ誤差が3件まで減った

感情を表に・・・

出す 出さない

人生において大事なのは

保守・安定

ボノボ ゴリラ

追求・達成

チンパンジー オランウータン

類人猿ボノボタイプ

ゴリラタイプ

チンパンジータイプ

オランウータンタイプ

他のタイプから見た長所

愛情豊か 協調的 チャンレンジャー 論理的

他のタイプから見た短所

依存的 ポリシーがない 攻撃的 理屈っぽい

響く声掛け私も手伝うから、一緒に頑張ろう!

あなたがサポートしてくれるから、チームが円滑に仕事ができているよ!

あなただから頼みたい!

あなたでなければ、できないと思う!

(仕事・成果に対して)

○○がポイントなんだね!

3. 人材

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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セルフ精算レジの導入

• いちやまマートでは、全店に、セルフ精算レジを導入している。セルフ精算レジ導入前後で、年間10~15%の人件費削減に成功している

• セルフ精算レジの導入は、スーパーに「業務効率化」というメリットをもたらし、また、お客様には「レジ待ち時間の短縮」というメリットをもたらす

老若男女問わず、お客様はセルフ精算レジを使用している。

• 通常、セルフ精算レジは有人レジと異なり、液晶画面に映ったボタンを押す手間や、現金投入口に紙幣や硬貨を入れる手間が発生するため、ご年配のお客様は利用を敬遠しがちである

• いちやまマートでは、セルフ精算レジを導入する際、お客様の利用定着に向けて、人と時間を投資した。導入後1か月間、セルフ精算レジの廻りには、従業員やレジメーカーの担当者が立ち、全てのお客様に、利用方法を丁寧に説明を行った結果、セルフ精算レジの運用に成功している

2

2

お客様が、お買い求めになった商品は、レジ担当がレジでスキャンする。

お客様は、お会計専用レジへ移動し、会計を行う。

いちやまマートに並ぶセルフ精算レジ

4. 業務効率化

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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• 移動スーパーの「とくし丸」は、外出が困難な高齢者など「買い物難民」を対象に、自宅近くまで商品を届けることで、「買い物の楽しみ」を提供している

• 移動販売に伴う業務は、三者によって役割分担されており、とくし丸本部とスーパーマーケット、そして販売パートナーと呼ばれる個人事業主が関わっている

• スーパーマーケットは、とくし丸本部と提携し、契約金と手数料(月額3万円 / トラック1

台・定額制)を支払うことで、とくし丸ブランドとノウハウを受け取る

• 移動販売は、販売パートナーへの委託業務となっており、スーパーマーケットには移動スーパー用トラック購入などの初期投資が発生しない仕組みとなっている(移動スーパー用トラックは、販売パートナーが購入)

• 移動スーパーで売れ残った生鮮食品や加工食品は、提携スーパーマーケットが引き取り、店舗で割引販売する仕組みとしており、販売パートナーの収益が、一方的に圧迫されないようになっている

とくし丸本部

スーパーマーケット販売パートナー(個人事業主)

お客様(買い物難民)

販売

(+10円ルール)

購入

商品提供(仕入はゼロ)

売れ残りの引渡し

販売研修・ノウハウ提供お客様開拓サポート(販売ルートの構築)

ノウハウ提供

手数料収益は

3者で分配

とくし丸の事業イメージ

移動スーパー用トラックには、生鮮食品や日用品など、300~400種類の商品が積まれている。

企業名 (株)とくし丸

設立 平成24年1月

本社所在地 徳島県徳島市

資本金 1,000万円

事業内容 移動スーパーとくし丸の運営、プロデュース

5. サービス向上

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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とくし丸の独自性 : 移動スーパーとしての工夫

移動販売に留まらない効果

• とくし丸本部と販売パートナーは、事前に戸別訪問を実施し、移動スーパーのニーズを把握した上で、買い物難民の元へとトラックを週2回程、走らせている。その結果、トラック1台あたり150~200人のお客様を確保しており、収益も1日あたり約7~8万円に上るなど、効率化が図られている

• とくし丸は、お客様も移動スーパーを支える協力者と位置づけているため、商品1

点あたり10円を負担してもらうルールを定めている。その内、5円は販売パートナーの収益となるため、移動スーパーの走る地域社会と販売パートナーの共栄共存を実現している

• 週2回程度、定期的に、同じ販売パートナーが移動スーパーで赴くため、顔なじみとなり、販売パートナーとお客様の間に信頼関係が築かれる。更に、信頼関係が醸成される中で、「生鮮食品がもっと食べたい」「日用品が切れそう」といったニーズや、小さな困りごとへ対応、また場合によっては買い過ぎを止めるなど、「おばあちゃんのコンシェルジュ」を目指している

• 年々、とくし丸の取扱商品・サービスは増えており、住居関連品や衣料品の販売に加えて、眼鏡の販売や修理請負いサービスも手掛けるなど、必要とするお客様に、必要な商品・サービスを提供する窓口となっている

• 移動スーパーとして、定期的に高齢者などの住宅を巡回しているため、体調などの異変に気付きやすく、生活上の相談に応じるなど、地域社会を見守る役割も担っている

• とくし丸は、販売パートナーとなる個人事業主の募集をしており、U・I・Jターン希望者などに対して、雇用機会の創出や新規事業に挑戦できる環境の提供をしている

「おばあちゃんのコンシェルジュ」として、必要な商品・サービスをこれからも提供していく。

5. サービス向上

トピック2. 先進的な生産性向上取組事例

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トピック3. 消費者動向の変化に見る生産性向上へのヒント

トピック3. 消費者動向の変化に見る生産性向上へのヒント

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39.5%

43.1%

19.2%

23.4%

23.6%

28.2%

19.1%

28.3%

25.4%

31.7%

21.8%

30.3%

25.8%

30.1%

25.4%

31.7%

25.5%

22.7%

23.8%

26.0%

25.7%

25.8%

24.0%

26.1%

25.3%

26.2%

24.8%

26.0%

25.7%

27.3%

26.7%

26.5%

10.8%

10.3%

27.7%

23.0%

23.5%

20.4%

29.3%

20.9%

23.0%

17.8%

27.3%

19.8%

22.4%

17.9%

21.7%

17.8%

2.4%

2.1%

8.2%

6.7%

5.8%

4.4%

6.7%

3.8%

5.1%

3.1%

5.7%

3.3%

5.3%

3.9%

5.8%

3.7%

21.8%

21.8%

21.2%

20.9%

21.4%

21.2%

21.0%

21.0%

21.3%

21.2%

20.3%

20.6%

20.8%

20.8%

20.4%

20.2%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

都市部の百貨店の休業日導入

地方の百貨店の休業日導入

都市部のコンビニエンスストアの休業日導入

都市部のコンビニエンスストアの深夜営業廃止

地方のコンビニエンスストアの休業日導入

地方のコンビニエンスストアの深夜営業廃止

都市部の食品スーパーの休業日導入

都市部の食品スーパーの深夜営業廃止

地方の食品スーパーの休業日導入

地方の食品スーパーの深夜営業廃止

ドラッグストアの休業日導入

ドラッグストアの深夜営業廃止

ファストフード(ハンバーガーチェーン、牛丼チェーンなど)の休業日導入

ファストフード(ハンバーガーチェーン、牛丼チェーンなど)の深夜営業廃止

ファミリーレストランの休業日導入

ファミリーレストランの深夜営業廃止

自分が不便さを感じることはまったくないと思う 自分が不便さを感じることはほとんどないと思う

自分にとっては不便であるが、企業側の事情は理解できる 自分にとって不便であり、企業側の事情も理解できない

わからない

トピック3. 消費者動向の変化に見る生産性向上へのヒント

動向①中長期的に、多少価格が高くても付加価値や利便性を重視する消費者が増加

• 安さを重視する消費者は、中長期的に減少傾向にある• 一方で、多少高くても付加価値や利便性を重視する消費者が増加傾向にある

動向②多くの消費者は、年中無休や深夜営業の見直しを許容

• 百貨店業態においては、消費者が年中無休の見直しを許容する割合(不便を感じることはまったくない+ほとんどない)が6割を上回る

• またいずれの業態においても、年中無休や深夜営業の見直しを許容する割合に「不便だが、企業側の事情は理解できる」まで加えると、7割を上回る

出所)NRI「生活に関するアンケート」(2017年1月)(首都圏N=2,501)

出所)NRI「生活者1万人アンケート調査」(2000年、2003年、2006年、2009年、2012年、2015年)

近年の消費価値観変化

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先行事例事業者一覧/公募採択されたモデル事業者一覧

No. 業態 事業者名本社

所在地資本金

(百万円)店舗数 当初の問題意識

1食品スーパー

(株)片浜屋宮城県気仙沼市

20 3・慢性的な人手不足・特に食品の加工を担当する人材が不足している

2食品スーパー

(株)マイヤ岩手県大船渡市

50 15・慢性的な人手不足・現状の作業のやり方にムダが多い

3食品スーパー

(株)マルイ岡山県津山市

100 23・慢性的な人手不足・豊富な品揃えの店舗であり、更なる作業の効率化が必要

4食品スーパー

(株)三越伊勢丹フードサービス

東京都中央区

100 21

・特定のカテゴリー(洋生菓子)に廃棄ロスが多い・将来的にはある程度の精度で発注を自動化したい

5ドラッグストア

(株)サッポロドラッグストアー

北海道札幌市

100 189・外国人従業員の受け入れ・育成の仕組みを整備できていない

6専門店(宝飾品)

菅田(株)岡山県津山市

80※グループ計

104・慢性的な人手不足・販売員の接客以外の業務負担が大きい

7専門店(漢方)

薬日本堂(株)

東京都品川区

100 25・販売員一人あたり売上高の格差が大きい

8専門店(時計)

(株)ナカザワ

滋賀県湖南市

50 100※FC含む

・従業員の多くが店舗の採算性(利益)を意識できていない

9専門店(寝具)

西川産業(株)

東京都中央区

901 18※直営店

・接客販売ノウハウが属人化している

10専門店(家具)

リビンズ(株)広島県広島市

257 123※加盟店

・事業規模拡大に伴い、物流センター内の保管スペースが逼迫・適正な保管位置を確保できないため、作業にムダが多い

※資本金、店舗数は平成29年1月時点で各社ホームページに掲載されている数値を掲載

• モデル事業者とは、全国の小売事業者の中から公募採択された法人である• モデル事業者は、異業種のコンサルタントとのマッチングによって、生産性向上のコ

ンサルティングに取り組んだ

• 先行事例事業者は、本取組のトライアルにご協力頂いた法人である

• いずれも、キヤノン(株)と生産性向上に取り組んだ

No. 業態 事業者名本社

所在地資本金

(百万円)店舗数

1ボランタリーチェーン

コスモス・ベリーズ(株)

愛知県名古屋市

100 10,424※加盟店数

2食品スーパー

(株)さえき東京都国立市

174 14

先行事例事業者一覧(※社名五十音順)

公募採択されたモデル事業者一覧(※業態別、社名五十音順)

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コンサルティング企業/法人一覧

No.コンサルティング

企業/法人本事業における取組テーマ 担当事業者

1(株)MS&Consulting ・外国人スタッフの戦力化・サッポロドラッグストアー

2(株)オージェイティー・ソリューションズ

・バックヤード業務の生産性向上 ・マルイ

3京セラコミュニケーションシステム(株)

・部門別採算制度の適用・接客・サービス力の底上げ

・ナカザワ・西川産業

4日産自動車(株) ・バックヤード業務の生産性向上・マイヤ・菅田

5(公財)日本生産性本部 ・物流センターの業務効率化 ・リビンズ

6日本電気(株) ・AIを活用した需要予測・三越伊勢丹フードサービス

7(株)日本能率協会コンサルティング

・バックヤード業務の生産性向上・接客・サービス力の底上げ

・片浜屋・薬日本堂

※社名五十音順

1キヤノン(株) ・先行事例にご協力・コスモス・ベリーズ・さえき

先行事例 生産性向上協力企業

コンサルティング企業/法人一覧

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参考資料

参考データ1. 労働生産性と従業者数構成比の面積図 全産業(業種大分類、流通業)

参考データ2. 小売業の労働生産性の国際比較(マンアワーベース)

出所)総務省・経済産業省「平成24年経済センサス‐活動調査」公表データより野村総合研究所算出※労働生産性=付加価値額÷従業者数

出所)EU KLEMS、World KLEMS、OECD(いずれも2009年)より野村総合研究所算出※マンアワーベース。簡便的に国全体の生産性を国際比較する際に用いられる購買力平価を用いた

41

32 30 33

15

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

韓国英国独国日本米国

29

21 22 24

6

0

10

20

30

40

50

60

韓国英国独国日本米国

労働生産性(2009年、従業者数ベース) 労働生産性(2009年、マンアワーベース)

(千ドル) (ドル)

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企画 経済産業省 商務情報政策局商務流通保安グループ 流通政策課

事務局 (株)野村総合研究所

協力 (株)MS&Consulting

(五十音順) (株)オージェイティー・ソリューションズキヤノン(株)京セラコミュニケーションシステム(株)日産自動車(株)(公財)日本生産性本部日本電気(株)(株)日本能率協会コンサルティング

発行 平成29年2月