4
目黒寄生虫館月報 昭和36 5 10 日発行 ・毎月 1 10 日発行 27昭和 36 5南方の寄生虫( 4 ) 民度が低いためにいろいろな面で困難にぶつっか っているが,非常な勇気と忍耐をもって着 点効果を あげておられる様子がみられた。 人口推定1800 万の中で1000 万ものマラリア患者を かかえて,僅かにエチオピア人の医席は 8 人という のであるから,当然助手となる技術員の設成を行わ ねばならね。そのために全国から学生を募集 したと ころが, 450人もの志願者が現われた。その中から 25 人を選抜して訓練をしたのである。 土着人は無知からくる恐怖や反感から,当初は大 瀬氏らにも危険が感せ・られたが,その真意がわかっ てからは,かえって非常に協力的になったという。 だが,防疫を行うと ,す ぐ効果が現われて,マラ リアによる死亡がぐんとへる。昔十二マラリアのため に全滅した部落などもあったがそんな事件も少なく なった。 ところが,死亡山へるとこんどは人口過剰 となり,それが経済的のパラ y スを破壊 し,新しい 社会問題 を呈供するようになったという。つまり土 清人は今まで呑気に暮 していたのが,かえって忙し く働かねばならぬようになった a ちっとも生活はよ くならないとこぼす。文明人の普:怠じかえって現地 人を苦しめるような結果になったのである。 (以下次号(亀谷)

可 目黒寄生虫館月報kiseichu.la.coocan.jp/news/mpmnews27.pdf目黒寄生虫館月報 昭和36年5月10 日発行・毎月1回10 日発行 第 27 号 昭和36 年5月 南方の寄生虫(4

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 可 目黒寄生虫館月報kiseichu.la.coocan.jp/news/mpmnews27.pdf目黒寄生虫館月報 昭和36年5月10 日発行・毎月1回10 日発行 第 27 号 昭和36 年5月 南方の寄生虫(4

目黒寄生虫館月報昭和36年 5月10日発行 ・毎月 1回10日発行

第 27号 昭和 36年 5月

南方 の 寄生虫(4 )

民度が低いためにいろいろな面で困難にぶつっか

っているが,非常な勇気と忍耐をもって着点効果を

あげておられる様子がみられた。

人口推定1800万の中で1000万ものマラリア患者を

かかえて,僅かにエチオピア人の医席は 8人という

のであるから,当然助手となる技術員の設成を行わ

ねばならね。そのために全国から学生を募集したと

ころが, 450人もの志願者が現われた。その中から

25人を選抜して訓練をしたのである。

土着人は無知からくる恐怖や反感から,当初は大

瀬氏らにも危険が感せ・られたが,その真意がわかっ

てからは,かえって非常に協力的になったという。

だが,防疫を行うと,す ぐ効果が現われて,マラ

リアによる死亡がぐんとへる。昔十二マラリアのため

に全滅した部落などもあったがそんな事件も少なく

なった。ところが,死亡山へるとこんどは人口過剰

となり,それが経済的のパラ yスを破壊 し,新しい

社会問題を呈供するようになったという。つまり土

清人は今まで呑気に暮していたのが,かえって忙し

く働かねばならぬようになったa ちっとも生活はよ

くならないとこぼす。文明人の普:怠じかえって現地

人を苦しめるような結果になったのである。

(以下次号(亀谷)

Page 2: 可 目黒寄生虫館月報kiseichu.la.coocan.jp/news/mpmnews27.pdf目黒寄生虫館月報 昭和36年5月10 日発行・毎月1回10 日発行 第 27 号 昭和36 年5月 南方の寄生虫(4

--

-1- 目黒寄生虫館月報

「日本における寄生虫学の研究j

第 1巻に関する書評

発刊以来,今日まで第 1巻に寄せられた書評は次の

通りである。

阪大名誉教授吉田貞雄博士は ト ・英国ケシブリ y

ジ大学の博物学叢書,米国のシカゴ大学,コロ γピア

大学からでた生物学に関する叢書に匹過するものー.J

(6月10日発行,日本医事新報)

東京寄生虫予防協会理事国;Jキ長次郎氏は 「ー…寄生

虫予防会にアカデミックな柱をうちとおすことは日本

寄生虫予防運動の重要な課題であるが,各支部,準支

部は,日常の仕事の上からもぜひこの本をそろえて,

活動の根元とすべきものである。 J(寄生虫予防 3

月25日号)

東大教授佐ノゼ学博士は 「…・ -日本における寄生虫学

者の業績は,一般にはあまり知られていないが,これ

までいくつかの学士院賞,ことによったらノーベノレ賞

に値したものがある。日本{主血吸虫の発見やその発育

史の究明,肝吸虫や!1m吸虫の発育史の解明などは,そ

の代表的な古典である。本書には各脊生虫種別に,こ

うしたこれまでの日本入学者の業績が整理紹介され,

各著者独自の批判をふくめてその分野の学問の現状が

分かりやすく解説されている。 したがって,専門家た

ちにとって大へん便利なモノグラフであるばかりでな

く,一般医学者,生物学者,衛生技術者にとっても教

養書としてまことに有益で,興味深い読み物にちがい

ない…・ J (5月12日,朝日新聞読書棚)

朝日ジャーナノレ5月28日号 「・ ・そして日本の寄生

虫学の蓄積の偉大さを今さら見直す。世界の寄生虫相

の北端にあって南北にのびる日本の地形と湿った気候

が寄生虫相をゆたかにし,それが学問の隆盛をうなが

したのであろうが,多くの先達や現役陣の研究成果を

みると,近い将来,東南アジア方面にこの成果を生か

すことが日本のっとめではないか,という感じが強

い。この出版は後進国の援助に力を注ぐアメリカにと

っては,貴重な資料になり得るのだろう。 .....J

読売新聞 3月30日読書i悶「日本人の食生活は肉食よ

り菜食にかたよりがちなので,世界のどの国よりも寄

生虫病患者が多いといわれている。ところが以後,ガ

ソ,高血圧等死亡率の高い成人病の研究に医学の重点

がおかれたため,寄生虫病の研究は自然とおろそかに

され,基礎,臨床の両面に大きなブランクができてい

たo 目黒寄生虫館の亀谷了氏は早くから寄生虫学の集

大成を計画していたが, 20有余年の努力が突ったわけ

である。執筆者は第一線に活躍する学者… .0 J

館長亀谷博士日本笥:生虫予防会

評議員に

当館は従来寄生虫予防会とは緊密な連絡をとりなが

ら事業を進めてをたが,今回評議員に推選されたので

一層努力を強めたいとおもう。

標木および文献の寄贈

5. 1. 兵庫幾科大学久葉昇博士より 「兵庫農科大学

紀要」第3巻第 3号

5. 5. 二瓶英二郎氏より 「衛生局月執J(1960) No

1 ~No 12

!).12. 議目前i受氏より烏の標本

5.13 江ノ島水族館中島将行氏よりハナゴンドウに

附着したベジネラの写真

5.18 金沢文庫より 「金沢文庫研究」第7巻第 4号

5.29. 徳島大学山口富雄博士より「肝吸虫症の免疫

学的研究Jf也7篇

短 信

5. 7. 1"臼本における寄生虫学の研究」第2巻の編

集開始。

5.12. 日本寄生虫予防会常務理事宇治守正氏告別式

(棋浜市保|お葬祭場)へ野点部理事参列。

5.17. 目黒区中学校生物担当の先生 1行30名

5.21. 宮前小学校より見学11名

5.25. 日本天然色映画 杉森氏来訪

5.26. 森下首防士出版打合のため来館

5.27. 品川区立第四日野小学校より見学42名

生物 同 好会

5月23日午後71!寺。当館で日目.fili。当ft自の鈴木研究員

より「魚の剥製標本の作り方」について実習と税義を

行う。興味める話と実技に参加者一|司,時間のたつの

も忘れて有意義な一夜を過した。

Page 3: 可 目黒寄生虫館月報kiseichu.la.coocan.jp/news/mpmnews27.pdf目黒寄生虫館月報 昭和36年5月10 日発行・毎月1回10 日発行 第 27 号 昭和36 年5月 南方の寄生虫(4

目黒寄生虫館月報 -2-

カ.ラパコ'ス島のウミトカゲ,アシ

カ及び 2.3野鳥,海産魚の寄生虫

印字子了,木原緑,亀谷俊也,野A郁容壬l,鈴木俊郎

(目黒寄生虫館〉

Parasites of Amblyrhnchus, Zalophus, some

wild birds and marin巴 fishes in Galapagos

1slancl.

by

KA!VIEGA1 S., KIHARA M., KAMEGA1 S.

NONOBE H., SUZUK1 T.

(Meguro ParasitologicaI MUSeU111)

昭和35年度のガラパゴス島学術調査団が持ち帰った

諸IDMi7Jの一部について解剖をゆるされたので,われわ

れは多数の貴重な寄生虫を採集することができた。そ

の各k については後日記載したいとおもうが,今回は

その宿主と寄生虫名のみを記録しておく。

l アシカ Zaloρhus lobatus (GRAY)

食道から Anisa/us (Anisalus) similis (BA-

IRD. 1853) BAYLIS, 1920

胃から Anisalus sp.の若虫

2. ハシプトコ・イサギ

I[jlli,閤から Synhimantus invaginata

(LINSTOW, 1901) SKR]ABIN, 1924

3 ササゴイ(?) Butorides st1'iatus amurensis

(SCHRENCK)

2 (13 m m)

胃から TetramC1'es sp.

4. カモメ Larus canus lwmtschatsc1zensis

(BONAPARTE)

食道,胃から Echinuria sp.

5. ウミツノ〈メ Oceanodroma sp.

食道,胃から Seω'atia ρrocellariae (DIE-

SING, 1851) CRAM, 1927

6. カツオドリ

腸から Aρorchi massiliensis TIMON-DA-

OID. 1955 (Fig. 1)及び Filω..asp.

胃から Seumtia shiρleyi (STOSSICH,

1900) SKR]ABIN, 1916 (Fig. 4)

7 ウミトカゲ Amblyrhynchusι1'istatus BELL

jj若から Pyelosomu1n amblyrhynchus Ru-

1Z, 1946 (Fig. 3)及び Cetiosaccω gala-

tagoellsis GILBERT, 1938 (Fig. 2)

8. ハタ科 Epin巴phelinae

脅から Cuwllmws sp. (o)

n警から Anisakis sp.の幼若型及び Rh日din-

orhYl/.chus sp.

なおカツオドリの胃から採れた Seuratiashiρleyi

はこの寄主からは世界で初めて発見されたのである。

この同定にご援助をいただいた北大山下次郎教授に

感謝します。

これらの標本は本年 4月久留米で聞かれた第30回日

本寄虫学総会で展示した。

1 (40 111111)

3 (4111111)

lAρorchis massiliel1sis TIMON-DAOID, 1955

2 Cetiosaccus ga!ajうagensisG1LBERT, 1938

園-園周睡掴町田町四 ヨ 町 古屋句司罵耳哩"

r--r-ー「

I (;.1ii.

3 Pye!osolll1tm amblyrhynchi RUIZ, 1946

4 Sellralia shi戸leyi(STOSSICH, 1900)

SKRJAsIN, 1916

Page 4: 可 目黒寄生虫館月報kiseichu.la.coocan.jp/news/mpmnews27.pdf目黒寄生虫館月報 昭和36年5月10 日発行・毎月1回10 日発行 第 27 号 昭和36 年5月 南方の寄生虫(4

- 3一 ¥. 10 目 黒寄生 虫 館 月 報 昭和36年5月10日発行(毎月1回10日発行)

ニューオjレリンズ通信 ( 23 )

ワシント γ滞在(2 ) 大 島 421夫

N. 1. H 訪門,山口佐仲博士に合う,

10月6日かねて,打合せをしておいた時間に,N.

1. H.に Scantlebery博士を訪門 した。米国の N

1. H.は日本の予研より,はるかに,規模が大きく ,文

部省,厚生省の桜i霧中,最大の組織を持っ ています。

日本の予研は米国の N.1. H.の数多い研究所の一つ

の NationalInstitute for Infections Diseases and

Allergyに相当する もので,このほかに癌,精神衛生

l渇科,心臓血管,内分泌等kが,独立の同様の研究所

をj守ち,このほかに1影プミな Clinical Centerと Re

search Grant の部門と Administrationの部があ

り, 全体と して National Institutes of Health

を構成しています。

Scantleb巴ry博士は ResearchGrant の For

eign Grantの主任であり ,私は, ここから Fellow_

shipを得て Tulaneに行ったわけです。初老の温

顔をたたえた同博士は私が無事に Beaver博士の所

で研究を終えた事を,心から喜んでくれ,N. I. H.

の私えの援助が,今後又長く実を結んで欲しい旨を希

望されました。 私に以前,厚生省を通じて 2,3回

WHO, スタック ,其の他の海外視察,留学の話があ

ったのですが,その街にあたる役人一何んとか参事官

ーの,如何にも尽を売るごとき,行かせてやる, 有雑

く,思へ,という態度に不愉快なおもいをした経験が思

ひ出されました。結核の視察の名目で, WHOから金

をもらって出かけて,帰国して性病の担当に転ずるな

どという,馬鹿らしい話が,こういう 留学機構から生

れるのは当然であります。何も,アメリカが良いとほ

めるのではありませんが,Scantlebry博士にはその

恩着せがま しさは,全くありませんでした。 「貴君は,

白からの力で,この Awardをかちとったのだから,

Ccngatulation に値する。誰にもお干しを云う 必要は

ない」この先方の態度に,日本人のおちいり勝な卑屈

さ,当事者への誇大な感謝の表現等を しないで 1年

を過す事ができたわけです。 N.1. H.はワシ γ トン

の郊外 Betherdaにあり,自動車がないと,なかなか

簡単にはゆけません。慣れね外国旅行は,この近いと

思はれる 2地点問の距離がよくのみこめないので,よ

く失敗しました。私はうっかりワシントンから タクシ

ーにのり ,えらく料金をとられて冷汗を流しました。

同研究所の寄生虫部門の見学をさせてもらいました。

Clinicalは巨大な最新式の建造物ですが,研究部門

は古い質素な建物に入っており,アメリカ流のモダγ

な,能率的な研究室を予想していた目には,ちょっと

まごつきま した。 rこれが研究所ですか, まるで外観

は,大学の寄宿舎みたいですね」昔 「この研究所を,

たてた人が,そういう趣味を,持っていたんじゃない

かねJなど と案内の人がいっていました。

しかし,この中に, Von Brand, Jocobe, Vveinstein

等の,一流の寄生虫学者が,ひしめきあって研究を し

ているのです。部屋もせまく ,機械も雑然とおかれ,

お世辞にも modern とはいいかねる状態ですが,や

はり研究の中心は,設備より人にあるのだ,とい う気

がしました。 rよく仕事をしている研究室は汚ない

よ」とは同じく N.1.H.を見られた常松助教授の感

想で した。 rどうです,帰国をのばして,もう 1年こ

こで研究をしませんか,家族を呼んでもよいから」と

思いがけない勧誘を受け, :J:灯角だが,そういう訳にゆ

かないと, お|折り しなければならなかりたのは,全く

残念でした。

中の見学をおへ,若い研究者逮と, 卓を囲んで,t.rJt

虫類の幼虫の発育について, 経験を語りあったのも,

楽しい想ひ出の一つです。

あと特に希望 して,Animal productionの部門を

見せてもらいました。マ ウス月産 1万6千匹その他ラ

ッ1" 兎,純系動物等 N.I.H.で消費する実験動物

を,ここでは生産しています。 値段は,必しも,市販

のものより, 安くなる訳ではないが, 品質が保証され

ている点,安心して{史えるのだといっていました。

Contamination を防ぐため,密閉 した部屋の中で

無菌送風をして,外来者を入れずに飼育している。 一

見,大工場のような飼育室はま ことに壮観でありま し

fこ。

10月7日は 「日本における寄生虫学の研究」の英文

版に関する用務で, Beaver教授に紹介していただい

た NationalScience Foundatin の Feinstein

博士に,お自に掛り,同財団の協力を惜しまない語、志

表示を確認して, 重荷を下ろしました。

(この項つづく)(公衆衛生院)

東京都目黒区下目黒3ノ557・電話 (712)4432 財団法人 ・目 黒寄生虫館・ 発行

開館 ・午前 11時~午後 4時 ・月曜 ・祭日休館 館長 ・医 憾 亀 谷 了, 編集 ![JO/{部春登