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腎細胞癌の疫学
日本における推定罹患率は人口10万人当たり 男性12.9人、女性6.2人(2001年) 高齢になるほど頻度が高く70歳台がピーク 危険因子として、肥満、高血圧、喫煙、長期透析、 カドミウムやトリクロロエチレンへの暴露、遺伝 腎細胞癌の種類:淡明細胞癌(80-85%)、乳頭癌(10- 15%)、嫌色素癌(約5%)、集合管癌(約0.5%)
腎癌の治療
■腎癌は放射線治療や抗癌剤に対する感受性が低い。 ■外科的摘除による腫瘍容量の減少が生存期間を 有意に延長。 ■腫瘍容積の減少により補助サイトカイン療法の効果 を高めることが期待できる。 ■転移巣の自然消退も知られている。
転移を有する腎癌でも積極的に腎摘除を行う。 切除可能な孤立性転移巣は積極的に摘除する。
転移性腎癌の治療(免疫療法)
腎癌は宿主による免疫応答が腫瘍増殖に大きく影響 を及ぼしていると考えられ、免疫療法が手術療法に 次ぐ治療としてこれまで位置付けられてきた。 奏効率は15%程度 IFN-α:マクロファージの貪食作用増強、MHC Class I 分子発現増強、腫瘍細胞への直接作用 IL-2:T細胞の増殖、他のサイトカインの分泌誘導
転移性腎癌の治療(分子標的薬)
分子標的薬 腫瘍細胞の増殖や血管内皮細胞の増殖に関わる 細胞内シグナル伝達を阻害することにより、 腫瘍の増殖を抑える薬
国内で使用可能な分子標的薬 ●VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬 Sorafenib(ネクサバール、2008年4月発売) Sunitinib(スーテント、2008年7月発売) Axitinib(インライタ、2012年10月発売) ●mTOR阻害薬 Everolimus(アフィニトール、2010年1月発売) Temsirolimus(トーリセル、2010年9月発売)
免疫療法の可能性 Sunitinib, Temsirolimus はRCTにおいてIFNと比較し 有意にPFSを延長→IFNが1st lineの地位を失う。 しかし、アジア人のデータはほとんどない! 本邦の免疫療法施行例1463例を用いた多施設共同研究 では、OSが21.4ヶ月と海外報告の約2倍であった。 →日本人には免疫療法は有効と考えられる。 免疫療法が効きやすい肺転移のみの症例に対しては まず試してみる価値あり。
MSKCCのリスク分類
リスク因子 ① Karnofsky PS <80% ② LDH >正常値上限×1.5 ③ Hb <正常値下限 ④ 補正Ca値 >10mg/dl ⑤ RCC診断後治療開始までの期間 <1年 favorable risk : 0個 intermediate risk : 1-2個 poor risk : 3-5個
①IFNα ②IL-2 ③Sorafenib ④Sunitinib ⑤Everolimus ⑥Temsirolimus 肺転移のみの場合:①→②→③→④→⑤ 肺外転移を認める場合:④→⑤→③(+①)→⑥ or ④ Non-clear:⑥→④→③(+①)→⑤
Therapy for metastatic RCC 当院治療コンセンサス(2011)より
⑦Axitinibは?
恐らく③Sorafenibの 位置に入ると思われる。
Sorafenib(ネクサバール)
海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験(TARGETs)
腎細胞癌患者903例 ●根治切除不能又は転移性腎細胞癌 ●全身抗癌療法1レジメンの治療歴 ●PS:0または1 ●Motzerの低または中リスク群
無作為化
ネクサバール投与群
プラセボ投与群
評価 全生存期間 無増悪生存期間
Sorafenib(ネクサバール) 海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験(TARGETs)
ネクサバールはプラセボに対して有意にPFSを延長
サイトカイン治療後の進行例に対しネクサバールの投与が推奨される。
Sorafenib(ネクサバール)
国内第Ⅱ相臨床試験
副作用 HFS(55.0%)、脱毛(38.9%)、発疹(37.4%)、下痢 (33.6%)、HT(27.5%)、疲労(16.0%)、食欲不振 (13.7%)、嗄声(12.2%)、そう痒(10.7%)
海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験(TARGETs) 副作用 発疹(38.1%)、下痢(37.7%)、HFS(28.8%)、脱毛 (26.2%)、疲労(24.2%)、悪心(16.2%)、HT(12.6%)
Sunitinib(スーテント)
選択基準 • 腎淡明細胞がん • 前治療なし • 測定可能病変あり • ECOG PS 0 ,1 • 正常主要臓器機能
スーテント群 50mg/日 経口投与 4週投与2週休薬(4/2スケジュール)
IFN-α群 第1週:3MU×3回 第2週:6MU×3回 第3週以降:9MU×3回/週 皮下注射
(n=375)
(n=375)
無作為化
(n=750)
海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験
★ poor risk の患者は6-7%
Sunitinib(スーテント) 海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験
スーテント:
IFN-α:
375 240 156 54 10 1
375 124 46 15 4 0
100
80
60
40
20
0.0
無増悪生存率
(%)
0 5 10 15 20 25 30 期 間
スーテント 中央値 : 11.0ヵ月 (95% CI : 10.7-13.4)
IFN-α 中央値 : 5.1ヵ月 (95% CI : 3.9-5.6)
(効果判定委員会評価)
ハザード比=0.538 95% CI (0.439, 0.658) p<0.000001, log-rank検定
No. at risk
Sunitinib(スーテント) 海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験
スーテントはIFN-αに対して有意にPFSを延長
First line therapy としてスーテントの投与が 推奨される(favorable or intermediate risk)
Sunitinib(スーテント) 海外第Ⅲ相無作為化比較臨床試験
副作用 貧血(78%)、好中球減少(77%)、血小板減少(68%) 下痢(60%)、疲労(54%)、悪心(52%)、HT(30%)、 HFS(29%)、心駆出率低下(13%)
国内第Ⅱ相臨床試験
副作用 血小板減少(92%)、好中球減少(78%)、Hb減少 (43%)、皮膚変色(73%)、食欲不振(61%)、疲労 (59%)、味覚異常(51%)、HFS(47%)、HT(47%)、 悪心(45%)、下痢(43%)
Everolimus(アフィニトール) 第Ⅲ相国際共同臨床試験(RECORD-1)
アフィニトールはプラセボに対して有意にPFSを延長
VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(スーテント またはネクサバール)治療後の進行例に対し アフィニトールの投与が推奨される。
Everolimus(アフィニトール) 第Ⅲ相国際共同臨床試験(RECORD-1)
副作用 口内炎(44%)、発疹(30%)、貧血(28%)、疲労(25%) 下痢(24%)、食欲減退(21%)、高コレステロール血症 (20%)、悪心(19%)、間質性肺疾患(12%)、高血糖(8%)
国内第Ⅱ相臨床試験
副作用 口内炎(72%)、食欲不振(47%)、発疹(43%)、疲労 (42%)、悪心(25%)、味覚異常(17%)、間質性肺疾患 (15%)、高血糖(9%)
Temsirolimus(トーリセル) 海外第Ⅲ相臨床試験
以下6因子※のうち、3因子以上に該当する症例
無作為化
poor riskの 未治療進行性腎細胞癌(n=626)
①Karnofsky performance score
(60~70%)
②LDH値>基準値上限の1.5倍
③ヘモグロビン値<基準値下限
④アルブミン値補正後のカルシウム値
>10mg/dL
⑤腎細胞癌診断から本試験の無作為
化までが1年未満
⑥転移巣数>1
※MSKCCリスク分類の5因子を基に「転移巣数>1」を追加
テムシロリムス単独群(n=209) 25mg×1回/週 (30~60分間静脈内投与)
IFN-α単独群(n=207) 300万~1,800万U×3回/週 (皮下投与)
テムシロリムス+IFN-α併用群(n=210) ・テムシロリムス15mg×1回/週 (30~60分間静脈内投与) ・IFN-α300万~600万U×3回/週 (皮下投与)
poor riskの未治療進行性腎細胞癌患者を対象とし、テムシロリムス単独またはテムシロリムス+IFN-α併用投与による有効性および安全性について、IFN-α単独投与と比較検討する。
Temsirolimus(トーリセル) 海外第Ⅲ相臨床試験(全生存率)
テムシロリムス単独群はIFN-α単独群に比べてOS中央値の有意な延長を示しました。
0 5 10 15 20 25 30 (月)
209 207 210
159 126 135
110 80 93
56 42 50
19 15 17
3 3 7
0 0 2
生存期間
0
0.25
0.50
0.75
1.00
生存率
:10.9ヵ月 : 7.3ヵ月 : 8.4ヵ月
p=0.0083
p=0.6956
(log-rank test)
OS中央値
テムシロリムス単独群(n=209) IFN-α単独群(n=207) テムシロリムス+IFN-α併用群(n=210)
No.at risk テムシロリムス単独群
IFN-α単独群 テムシロリムス+IFN-α併用群
Temsirolimus(トーリセル) 海外第Ⅲ相臨床試験
トーリセルはIFN-αに対して有意にOSを延長
First line therapy としてトーリセルの投与が 推奨される(poor risk)
★非淡明細胞癌に対しても有意にOSを延長した
Temsirolimus(トーリセル) 海外第Ⅲ相臨床試験
副作用 無力症(40%)、発疹(34%)、食欲不振(23%)、 高コレステロール血症(21%)、口内炎(20%)、 高血糖(18%)、下痢(17%)、間質性肺炎(2%)
アジア第Ⅱ相臨床試験 副作用 発疹(59%)、口内炎(58%)、高コレステロール血症 (43%)、食欲不振(37%)、高血糖(32%)、下痢(22%) 間質性肺炎(17%)
Axitinib(インライタ) 国際共同第Ⅲ相臨床試験(AXIS)
無作為割付
アキシチニブ1回5mg 1日2回投与 (n=358)
ソラフェニブ400mg 1日2回投与 (n=357)
n=715
層別化: ・前治療レジメン ・ECOG PS(0 vs1)
1:1
選択基準: ●転移性腎細胞癌(淡明細胞癌)患者 ●測定可能病変を有する患者 ●一次治療に治療抵抗性を示した患者 ●十分な骨髄機能、腎機能、肝機能(血算、 生化学的検査)などを有する患者 など
腫瘍の進行、忍容できない毒性の発現または患者の同意撤回まで投与
一次治療(全身療法)に治療抵抗性を示した転移性腎細胞癌患者を対象として、アキシチニブとソラフェニブの有効性および安全性について比較検討
アキシチニブ群 ソラフェニブ
群 ハザード比
[95%信頼区間] p値
無増悪生存期間(PFS) n=358 n=357
PFS中央値、月 [95%信頼区間]
6.8 [6.3-8.6]
4.7 [4.6-6.3]
0.664 [0.543-0.813] <0.0001
前治療レジメン別のPFS
スニチニブ治療抵抗性 n=192 n=193
PFS中央値、月 [95%信頼区間]
4.8 [4.5-6.5]
3.4 [2.8-4.7]
0.735 [0.567-0.952] 0.0097
サイトカイン治療抵抗性 n=126 n=125
PFS中央値、月 [95%信頼区間]
12.1 [10.1-13.9]
6.5 [6.3-8.3]
0.464 [0.318-0.676] <0.0001
Axitinib(インライタ) 国際共同第Ⅲ相臨床試験(AXIS)
Axitinib(インライタ) 国際共同第Ⅲ相臨床試験(AXIS)
インライタはネクサバールに対して有意にPFSを延長
転移性腎細胞癌患者のセカンドライン治療におけるインライタの有用性が示された。
これまでは…、 サイトカイン治療後の進行例に対しネクサバールの投与が推奨 されていた
サイトカイン→インライタ > サイトカイン→ネクサバール
Axitinib(インライタ)
国際共同第Ⅲ相臨床試験(AXIS)
副作用 下痢(51%)、HT(39%)、疲労(35%)、悪心(28%)、 食欲減退(28%)、発声障害(28%)、HFS(27%)、 甲状腺機能低下症(18%)、蛋白尿(10%)
国内第Ⅱ相臨床試験
副作用 HT(84%)、HFS(75%)、下痢(64%)、蛋白尿(58%) 発声障害(53%)、甲状腺機能低下症(48%)、疲労 (48%)、食欲減退(36%)、
まとめ
注意すべき副作用(私見) 【VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(VEGF)(TKI)】 ネクサバール:HT、HFS、下痢 スーテント :血小板減少、HT、HFS、下痢 インライタ :HT、HFS、下痢、蛋白尿、発声障害 【mTOR阻害剤(mTOR)】 アフィニトール:口内炎、間質性肺炎、高血糖 トーリセル :口内炎、間質性肺炎、高血糖
まとめ
ネクサバール:サイトカイン治療後の投与が推奨される。 スーテント : favorable or intermediate risk の症例において 一次治療としての投与が推奨される。 インライタ :サイトカインあるいはスーテント治療後 二次治療としての投与が推奨される。
アフィニトール:ネクサバールあるいはスーテント治療後 二次治療としての投与が推奨される。 トーリセル :poor risk の症例において一次治療としての 投与が推奨される。
【VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤(VEGF)(TKI)】
【mTOR阻害剤(mTOR)】
一次治療 二次治療 三次治療 四次治療
肺転移のみ サイトカイン インライタ (TKI) ? ?
favorable or intermediate
risk スーテント
(TKI)
インライタ (TKI) ? ?
アフィニトール (mTOR) ? ?
poor risk 非淡明細胞癌
トーリセル (mTOR) ? ? ?
転移性腎癌の治療
国内で使用可能な分子標的薬は現在5種類あるが…、 三(二)次治療以降エビデンスがない! 今後も新薬が承認予定!
■作用機序が異なる薬剤に変えてみる (例:インライタ→アフィニトール)
■同じ作用機序の薬でも微妙に作用点が違うので同様 の薬剤を使用してみる(例:インライタ→ネクサバール)
三次(二次)治療をどうするか?
今のところ答えはないが、使用可能な薬剤をすべて 使用することが肝要。 同一薬剤の再投与で再び効果を発揮することがある。 (リチャレンジの可能性)
分子標的薬治療:87例
薬剤名 症例数
平均年齢
平均投薬期間 主な副作用
スーテント 35 64.9 253日
HFS:13例、HT:8例、 PLT低下:14例、下痢:3例
ネクサバール 33 68.8 361日
HFS:28例、HT:13例、 PLT低下:1例、下痢13例
アフィニトール 15 64.3 182日 口内炎:8例、IP:5例、
高血糖:3例
トーリセル 4 60.3 153日
口内炎:1例、鼻出血:1例、下痢:1例、味覚異常:1例
(2008年4月~2012年3月)
患者背景 性別:男12例、女5例
開始時年齢:40代1例、50代4例、60代7例、 70代4例、80代1例
組織型:clear cell : 16例、chromophobe:1例
前治療:TKI→TKI:1例 TKI単独:5例 IFN→TKI→TKI:5例 IFN単独:1例 IFN→TKI:3例 IFN→IL2→TKI:1例 TKI→Temsirolims:1例
年齢/ 性別
TNM 前治療 (投薬月数)
転移巣 投薬期間
転帰 中止理由
副作用
症例1
60/F T1bN0M1
Su(14)-So(3)
肺・LN・骨・脾臓
3M 癌死 癌死
口内炎
症例2
76/M T3aN0M0
IFN-So(10)-Su(3)
肺・局所 14M (5M)
PD IP IP(G3)
症例3
54/M T3aN0M0
IFN-So(4)-Su(7)
肺・LN・骨・副腎
5M
癌死 癌死 口内炎、 鼻出血
症例4
57/M T3aN0M0
Su(3)-Temsiro(1)
肝・骨 15M
PD PD 口内炎、下痢
症例5
63/F T2aN0M0
IFN-IL2-Su(28)
肝・骨・胸膜
6M (1M)
SD IP
IP(G4)、高血糖、下肢浮腫
症例6
77/M T3aN0M0
IFN-So(28)-Su(1)
肺・LN・骨・肝
1M SD AE
口内炎、 腎機能低下
症例7
63/M T3aN0M0
IFN-So(16) 肺・胸壁 17M 継続
SD ------ なし
年齢:エベロリムス投与時年齢 投薬期間:( )内は休薬期間を示す
Su : Sunitinib So : Sorafenib Temsiro : Temsirolimus AE : Adverse Effects
年齢/ 性別
TNM 前治療 (投薬月数)
転移巣 投薬期間
転帰 中止理由
副作用
症例8
67/M T3aN0M1
IFN-So(8)-Su(13)
骨 9M PD PD 口角炎
症例 9
63/F T3aN0M0
IFN-Su(17) 肺・骨 8M 継続
SD ------ 口内炎、眩暈
症例10
85/M T3aN0M0
IFN 肺 10M 継続
SD ------ 無し
症例11
74/M T3aN0M1
So(35) 骨 3M
PD IP
口内炎、高血糖、IP(G1)
症例12
67/F T1bN1M1
IFN-So(29) LN・肺・腎
1M
PD AE
嘔気、下痢、 浮腫
症例13
59/M T3aN0M1
Su(5) LN・肺 5M
PD IP
口内炎、高血糖、IP(G3)
症例14
58/F T1bN0M0
IFN-So(14)-Su(8)
肺・骨 4M SD IP
口内炎、IP(G3)
Su : Sunitinib So : Sorafenib Temsiro : Temsirolimus AE : Adverse Effects
年齢:エベロリムス投与時年齢 投薬期間:( )内は休薬期間を示す
年齢/ 性別
TNM 前治療 (投薬月数)
転移巣 投薬期間
転帰 中止理由
副作用
症例 15
41/M T3aN1M1
Su(10)
肺・リンパ節
2M
PD PD 口内炎
症例16
69/M T4N0M0
Su(1) 局所 1M PD PD 無し
症例17
74/M T1aN0M1
Su(3) 肝、肺、後腹膜
1M
PD AE
口内炎、 骨髄抑制
平均投薬期間:6.2ヶ月(休薬期間含む)
主な副作用:口内炎;10例、 IP;5例
SDにも関わらず副作用の為投与中止した症例:3例(うちIP:2例)
Su : Sunitinib So : Sorafenib Temsiro : Temsirolimus AE : Adverse Effects
年齢:エベロリムス投与時年齢 投薬期間:( )内は休薬期間を示す
因みに…、エベロリムス投与前のTKI平均投薬期間は16.3ヶ月
症例5(IP : Grade 4)
63歳女性 1995年12月、右腎癌にて腎摘術施行。(pT2aN0M0) 術後IFN投与。 2006年4月以降、甲状腺・膵・肺・骨・軟部組織転移に対し 手術及び放射線治療歴多数。 2008年1月、肝転移出現。 2008年3月、IL2開始。 2008年8月、スニチニブ開始。 2010年11月、エベロリムス開始。 2011年2月、下肢浮腫出現の為エベロリムス休薬。 高血糖の為インスリン導入。 2011年3月、エベロリムス半量再開。 2011年6月、発熱・食欲減退・喀痰・下肢浮腫増強認め入院。
症例5(IP : Grade 4)
63歳女性 1995年12月、右腎癌にて腎摘術施行。(pT2aN0M0) 術後IFN投与。 2006年4月以降、甲状腺・膵・肺・骨・軟部組織転移に対し 手術及び放射線治療歴多数。 2008年1月、肝転移出現。 2008年3月、IL2開始。 2008年8月、スニチニブ開始。 2010年11月、エベロリムス開始。 2011年2月、下肢浮腫出現の為エベロリムス休薬。 高血糖の為インスリン導入。 2011年3月、エベロリムス半量再開。 2011年6月、発熱・食欲減退・喀痰・下肢浮腫増強認め入院。
入院後経過
入院翌日エベロリムス中止。SpO2低下認め酸素投与開始。 IP疑いにてステロイドパルス及び抗生剤投与開始。 呼吸状態の悪化を認めエンドキサンパルス開始。 更に呼吸状態悪化しNIPPV導入、ステロイドパルス施行。 以後徐々に呼吸状態改善し退院(61日目)。ステロイドは中止。
基準値 3日目 12日目 24日目 36日目
KL-6 <500 U/ml 2774 3927 2916 1651
SP-D <110 ng/ml 895 1950 737 297
その後
2011年8月、退院。 2011年9月、ソラフェニブ開始。 2012年3月、甲状腺転移手術。 2012年4月、PDにてソラフェニブ中止。スニチニブ再投与。 2012年5月、CT上SD(やや縮小)。 2012年6月6日、デノスマブ投与。 2012年6月26日、低カルシウム血症にて緊急入院。 2012年8月9日、癌死される。
症例2(IP : Grade 3、再投与例)
76歳男性 既往症:DM、HT、LK、慢性腎不全 2007年8月、右腎癌にて腎部分切除術施行。 (pT3aN0M0、切除断端陽性) 2008年8月、局所再発にて腫瘍摘出施行。(断端陽性) 2008年11月、IFN開始。 2009年2月、肺転移出現。 2009年6月、ソラフェニブ開始。 2010年4月、スニチニブ開始。 2010年8月、エベロリムス開始。 2010年9月、発熱・咳嗽・喀痰認め入院
経過
転移巣はSDを維持
休薬
肝転移出現
(<500 U/ml)
(<110 ng/ml)
ステロイド投与
入院後14日間 酸素投与
1T
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
KL-6
SP-D
2T ステロイド投与
エベロリムス 1T/day 1T
IPにて入院
入院後5日間O2 0.5L投与
心不全、腎不全 にて入院
透析開始
IPにて入院
エベロリムス休薬 休薬
その後
2011年10月26日、退院。 2011年11月15日、スニチニブ再投与。 2012年1月23日、喀血にて入院。 2012年1月24日、スニチニブ中止。CT上転移巣はNC 以後積極的加療を希望されずBSCとなる。 現在AWD
アフィニトール適正使用ガイドより改変
Grade 3 症状があり、日常生活に支障あり;酸素吸入を要する
Grade 4 生命を脅かす;人工呼吸を
要する
投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤による治療を考慮。
投与開始時のレベルに回復するまで投与を控える。 再投与は不可。
有益性が危険性を上回ると判断された場合、1日1回
5mgの投与とする。
間質性肺疾患の際の治療指針
結語
エベロリムスは分子標的薬治療の2nd. lineに位置付けられて おり、投与開始時に高度に進行している症例が多い。 前治療に不応性でも比較的長期間SDを維持できている症例も あり、投与切り替え時期に関して検討する必要がある。 治療効果があるにもかかわらず副作用、特に間質性肺炎で 投与中止を余儀なくされている症例もあり、重症化する前に コントロールすることが重要と考える。
症例 [患者] 83歳 男性
[主訴] 胃重感、食思不振
[既往歴] 特記事項なし
[現病歴] 上記主訴にて当院消化器内科を受
診。腹部エコーにて下大静脈腫瘍血栓を伴う
左腎腫瘍を指摘され当科に紹介受診。
検査所見 [CBC] WBC 5500 RBC 515万
Hb 14.2 Ht 44.0 Plt 8.2万
[生化学] TP 6.2 Alb 3.5 GOT 71 GPT 64 LDH 264 T-Bil 1.7 ALP 451 BUN 24 Cre 1.64
[尿所見] 比重 1.028 pH 5.5 タンパク 1+50 白血球 5-9 赤血球 10-19
/μl /μl
g/dl % /μl
g/dl g/dl
IU IU IU
mg/dl IU
mg/dl mg/dl
Na 142 K 4.1 Cl 107 Ca 9.0 CRP 1.8
mEq/dl mEq/dl mEq/dl mEq/dl mg/dl
診断と治療方針 腎癌 cT3cN0M0
(右心房に進展する腫瘍血栓)
・高齢である ・開胸術が必要
腫瘍縮小効果を期待し、術前分子標的薬投与
診断
治療 根治的腎摘除+腫瘍血栓摘除術
Karnofsky PS:100%
経過 Sunitinib
手術
8weeks 3weeks
血小板 食思不振
全身倦怠感
1week
腫瘍径 9cm 腫瘍血栓 右房内
MRI MRI
Sorafeneb
MRI
7cm 横隔膜下
7cm 横隔膜下
腫瘍縮小効果と副作用 薬剤 患者背景 縮小した
患者割合 原発巣縮小率 副作用
Sunitinib1) T1b-T3b 85% 11.8% なし
Sorafenib2) T1-T4 78% 9.6% なし
Bevacizumab3) Metastatic RCC 52% 12% 創傷治癒
遅延
1) J Urol 2010;184:859 Cowey 2)J Clin Oncol2010;28:1502 Hellenthal 3)J Clin Oncol 2009;27:4076 Jonasch
腫瘍血栓症例 年齢・性 病期 使用薬剤 腫瘍血栓
縮小効果
Karakiewicz1) 75F T3cN0M0 Sunitinib 心房→IVC
Shuch2) 59M T3bN1M0 Sunitinib IVC→腎静脈
Harshman3) 57F T3bN0M1 Sunitinib IVC→腎静脈
Di Silverio4) 71M T3bN1M0 Sorafenib IVC→腎静脈
自験例 83M T3cN0M0 Sorafenib 心房→IVC
1) Eur Urol.2008;53(4):845 2)BJU int.2008;102(6):692 3)Nat Rev Urol.2009;6(6):338 4)Urol Int.2008;80(4):451
投与期間と中止時期 • 投与期間は約1~3ヵ月
薬剤 半減期 中止時期
Sunitinib 24-48時間 2-3日前
Sorafenib 24時間 2-3日前
Bevacizumab 2週間 4週間前
症例
患者:65歳男性
主訴:肉眼的血尿、右背部痛
現病歴:2008年1月、肉眼的血尿を認め受診。CT上右腎癌 認めた(cT1bN0M0)。2008年3月、後腹膜鏡下右腎摘除術 施行。病理結果:multilocular cystic RCC pT2 2009年1月、CT上局所再発、リンパ節転移確認。骨シンチ上 肋骨、上腕骨転移認めた。2009年2月、ネクサバール開始。 2009年3月、上腕骨に放射線治療施行。2009年5月、転移巣 PR. 以後ネクサバール減量。2010年6月、CTにて新規病変 出現。ネクサバール増量したところ2011年6月のCTにて 転移巣縮小。以後ロストフォローとなっていたが2012年3月 再診。CT上腫瘍縮小したまま。ネクサバールは再開せず。 2012年10月CTでも腫瘍縮小した状態を維持。
症例
患者:65歳男性
主訴:肉眼的血尿、右背部痛
現病歴:2008年1月、肉眼的血尿を認め受診。CT上右腎癌 認めた(cT1bN0M0)。2008年3月、後腹膜鏡下右腎摘除術 施行。病理結果:multilocular cystic RCC pT2 2009年1月、CT上局所再発、リンパ節転移確認。骨シンチ上 肋骨、上腕骨転移認めた。2009年2月、ネクサバール開始。 2009年3月、上腕骨に放射線治療施行。2009年5月、転移巣 PR. 以後ネクサバール減量。2010年6月、CTにて新規病変 出現。ネクサバール増量したところ2011年6月のCTにて 転移巣縮小。以後ロストフォローとなっていたが2012年3月 再診。CT上腫瘍縮小したまま。ネクサバールは再開せず。 2012年10月CTでも腫瘍縮小した状態を維持。
症例
患者:65歳男性
主訴:右背部痛
現病歴:2012年2月、右背部痛精査の過程で左腎腫瘍指摘 され、当院紹介受診。画像上左腎上極に50mm大のRCC、 坐骨、胸椎、肋骨に骨転移認めた。3月、腎生検にて淡明 腎細胞癌と診断(cT1bN0M1)。3月22日よりスーテント4Cap 2投1休開始。4月26日C6~Th5の後方固定術施行。腸骨、 大腿骨に転移出現し疼痛緩和目的で5月に放射線治療及び ゾメタ投与。6月のCTにて腎病変縮小し7月5日後腹膜鏡下 左腎摘除術施行。
症例
患者:65歳男性
主訴:右背部痛
現病歴:2012年2月、右背部痛精査の過程で左腎腫瘍指摘 され、当院紹介受診。画像上左腎上極に50mm大のRCC、 坐骨、胸椎、肋骨に骨転移認めた。3月、腎生検にて淡明 腎細胞癌と診断(cT1bN0M1)。3月22日よりスーテント4Cap 2投1休開始。4月26日C6~Th5の後方固定術施行。腸骨、 大腿骨に転移出現し疼痛緩和目的で5月に放射線治療及び ゾメタ投与。6月のCTにて腎病変縮小し7月5日後腹膜鏡下 左腎摘除術施行。
病理結果
割面最大径15mmの腫瘤、一部腎被膜に突出。 病変部では線維性瘢痕を認め明らかな viable cell 認めず。
その後
術後1ヶ月からスーテント4Cap2投2休開始。 骨転移に対してはゾメタ継続。
まとめ
分子標的薬の出現により生存期間が延長したが、 多彩な副作用を呈し、それぞれの薬剤で特徴が 異なる。副作用のコントロールが非常に重要。 腫瘍縮小を期待して術前投与を施行するという 選択肢が増えた。 新規発売されたインライタや今後発売される薬剤 をどう使用していくか検討課題である。