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- 1- 58 回日本図書館報学会研究大会 (2010/10/9- 10) 大学図書館における 文献複写依頼件数の変化に関わる要因の整理 鶴見大学図書館 長谷川豊祐

長谷川豊祐 Final

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-1-

第 58回日本図書館報学会研究大会 (2010/10/9-10)

大学図書館における文献複写依頼件数の変化に関わる要因の整理

鶴見大学図書館長谷川豊祐

Page 2: 長谷川豊祐 Final

-2-

背景 (1):大学と図書館の拡大傾向・大学の規模と数の拡大

・学生数,教員数の増加

・大学図書館の施設,人員,蔵書の拡大

•しかし,相互協力 (文献複写,現物貸借 )の増加

  - 資料の利用要求の拡大が原因

Page 3: 長谷川豊祐 Final

-3-

背景 (2):文献複写サービス•文献複写:図書館間相互協力の大半を占める

•手順:要求の論文掲載雑誌の未所蔵図書館↓      

    雑誌の所蔵図書館への複写依頼↓      

    コピーで取り寄せた論文を利用者へ

•本調査の対象   - 受付件数:大学以外の機関からの要求も含む   - 依頼件数:大学からの要求

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背景 (3):文献複写依頼件数の推移

2) 『学術情報基盤実態調査結果報告』

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2000年~

減少期

1990年~

急増期

1970年~

増加期

それ以前

黎明期

• 1972年から 2001 →年ピーク 減少に転換

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-5-

目的•文献複写依頼における変化

   - 1970年以前の黎明期   - 1970年以降の増加期   - 1990年以降の急増期   - 2000年以降の減少期

•文献複写依頼における変化の要因を整理   - 相互協力と大学図書館サービスの全体像   俯瞰するための予備的調査

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2000年~

減少期

1990年~

急増期

1970年~

増加期

それ以前

黎明期

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方法 (1):要因の抽出と分析• 要因の抽出:大学図書館員へのインタビュー [ 計 7回

]

  - 質問「依頼件数への影響要因」   * ベテラン (勤務経験 30年前後 )の図書館員 6 名 [6回

]

   * 最近の動向に敏感な    若手図書館員 7 名でのグループ討議 [1 回 ]

•分析:依頼件数の変化を個々の要因と対比

  - 大学図書館における運用の状況 (インタビューのデータ )

  - 統計データ (『学術情報基盤実態調査結果報告』など )

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-7-

方法 (2):抽出した要因を 3区分•3区分  - 増加要因:11要因  - 減少要因: 3要因  - 変動要因: 5要因

•3カテゴリー  - 技術:図書館外の技術的発展:5要因  - 運用:図書館内の運用:  7要因  - 利用:利用者や利用動向:7要因

•表1:依頼件数の変化の要因

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結果:分析対象とした 10の要因

1) 複写機の普及 2) DBの普及 3) DBの利用形態の発展 4) 相互協力システムの整備 5) 契約雑誌数の減少 6) 電子ジャーナルの増加 7) 参考業務担当者の減少 8) 研究者数の変化 9) 分野による文献利用の変化10) 一論文の引用文献数

分析の根拠

- 運用状況

- 統計データ

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1) 複写機の普及• 1960 年:乾式複写機 Xerox914 の発売• 1960年代後半:複写機の大学図書館への普及

•それ以前:  - 大規模館:写真・マイクロ撮影の技師が館内に  - それ以外:直接来館による資料の閲覧が主流

•複写機普及~ 1990年:依頼件数は 3倍に増加

• 1960年後半の複写機の普及は増加要因

 退職者 (1951年国立大学,大規模図書館勤務開始 )へのインタビュー

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-10-

2-1) DBの普及•国内のオンライン情報サービスにおける契約者数

3) 「国内のオンライン情報サービス契約者数」『日経ニューメディア』 No.45-No.786, 1985-2000.

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DB契約数

右目盛

文献複写

依頼件数

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2-2) DBの普及•国内のオンライン情報サービス契約者数  - 1985 年: 10,452件  - 1990 年: 50,529件  - 1995年: 114,110件• DB 契約数: 10年間で 10倍に増加•大学図書館のDB普及も増加

• DBの普及:増加要因 依頼件数の 90年までの増加 その後の急増に符合 

3) 「国内のオンライン情報サービス契約者数」『日経ニューメディア』 No.45-No.786, 1985-2000.

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2008万

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303540

4550

DB契約数

右目盛

文献複写

依頼件数

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3) DBの利用形態の発展  1970年代後半 オンラインでの利用   従量課金 (従量制 )で図書館員が代行検索   冊子より検索機能が向上

  1990年代後半 インターネットでの利用   データ更新の即時性,操作性が向上

  1980年代後半 CD-ROMでの利用   固定料金 (定額制 )で利用者自身が検索   学内 LANによる非来館・複数利用が実現

→ ・利用形態の発展 利用者自身の網羅的検索  → →   検索の普及 依頼件数の増加要因

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-13-

4) 相互協力システムの整備•大学図書館ネットワークの構築

  1975 :学術雑誌総合目録事業コンピュータ化  1985.4:NACSIS-CAT運用開始   → 増加期に重なる

  1992.4:NACSIS- ILLシステム運用開始   → 急増期に重なる

  1997.4:Webcat試行サービス開始  2004.4: ILL文献複写等料金相殺サービス開始

4 ) 「目録所在情報サービス (NACSIS-CAT/ILL) の沿革」

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5-1) 契約雑誌数の減少•学総目データ,外国雑誌の重複なし総購読誌数 

5 ) 日本学術会議情報学研究連絡委員会学術文献情報専門委員会

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4.5

外国雑誌数

右目盛

文献複写

依頼件数

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5-2) 契約雑誌数の減少•学総目データ,外国雑誌の重複なし総購読誌数

  - 1988年: 38,477 →タイトル,ピーク 減少  - 1996年: 21,034タイトル,

       1960 年 23,495タイトルを下回る

•契約雑誌数の減少↓  

•文献複写件数の増加に作用

5 ) 日本学術会議情報学研究連絡委員会学術文献情報専門委員会

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1972197419761978198019821984198619881990199219941996199820002002200420062008万

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4.5

外国雑誌数

右目盛

文献複写

依頼件数

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6-1) 電子ジャーナルの増加•依頼件数減少と EJ契約数の増加: 2001 年

2) 『学術情報基盤実態調査結果報告』

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全体

EJ

右目盛

文献複写

依頼件数

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6-2) 電子ジャーナルの増加•電子ジャーナルの増加  - 2001 年: 32万タイトル  - 2008年: 250万タイトル        (約 8倍 )

•複写依頼件数の減少に作用  - しかし,国公私による大学種別では不一致  - 学部数による規模の差  - 看護系の増加,和洋の差   米田奈穂ほか .

    ビッグ・ディール後の ILL:千葉大学附属図書館亥鼻分館における調査 .     大学図書館研究 . 2006, No.76, p.74-81. 

2) 『学術情報基盤実態調査結果報告』

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全体

EJ

右目盛

文献複写

依頼件数

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6-3) 国立•依頼件数の減少が 1 年ほど先行

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国立

EJ

右目盛

文献複写

依頼件数

Page 19: 長谷川豊祐 Final

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6-4) 公立•絶対量が少なく,傾向不明

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公立

EJ

右目盛

文献複写

依頼件数

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6-5) 私立• 依頼件数の減少が遅延 (国立では先行 )

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200

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私立

EJ

右目盛

文献複写

依頼件数

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7-1) 参考業務担当者の減少•館員全体に占める参考業務担当者の割合:一致

2) 『学術情報基盤実態調査結果報告』

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2008万

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5

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6

参考担当

割合(%)

右目盛

文献複写

依頼件数

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7-2) 参考業務担当者の減少•館員全体に占める参考業務担当者の割合  - 70年代前半: 3.7%  - 2002年: 5.7 % ピーク  - 2008年: 4.9 % に低下

•相互作用:原因より依頼件数の結果  - 参考業務担当の 減員 ⇔ 依頼件数の減少

グループ討議によるインタビュー

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参考担当

割合(%)

右目盛

文献複写

依頼件数

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7-3) 担当者の詳細• →図書館全体の担当者数の推移 今後の調査課題

2) 『学術情報基盤実態調査結果報告』

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管理職

庶務会計

×情報処理

受入

閲覧

◆参考

○複写

- その他

事務全般

整理

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8-1) 研究者数の変化•教員,学生: 2倍以下,大学院生: 5倍以上 

6 ) 政府統計の総合窓口『学校基本調査 年次統計』

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□:学生

左目盛

◆:複写依頼

左目盛

△:教員(本務)

右目盛

○:大学院生

右目盛

Page 25: 長谷川豊祐 Final

-25-

8-2) 研究者数の変化•大学院生数:教員数と学生数の増加より大きい  - 院生が文献複写依頼の主体 (インタビューより )

•院生の増加 →  依頼件数の増加に作用  - 2000年代後半に鈍る  依頼件数の急減を説明できない

6 ) 政府統計の総合窓口『学校基本調査 年次統計』

0

50

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02002

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62008万

0

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20

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□:学生

左目盛

◆:複写依頼

左目盛

△:教員(本務)

右目盛

○:大学院生

右目盛

Page 26: 長谷川豊祐 Final

-26-

9-1) 分野による文献利用の変化•日本医学図書館協会加盟館 (JMLA) の影響 = 医学分野 

7 ) 日本医学図書館協会『 NPO 法人日本医学図書館協会加盟館統計』

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2008万

文献複写

依頼件数

大学-

JM LA

JM LA

加盟館

Page 27: 長谷川豊祐 Final

-27-

9-2) 分野による文献利用の変化•日本医学図書館協会加盟館 (JMLA)の影響  - 医学分野の動向を反映

•医学分野も同様の傾向 →   分野による変化は

          少ない

7 ) 日本医学図書館協会『 NPO 法人日本医学図書館協会加盟館統計』

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20

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1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008万

文献複写

依頼件数

大学-

JM LA

JM LA

加盟館

Page 28: 長谷川豊祐 Final

-28-

10-1) 一論文の引用文献数・ Journal of Biological Chemistry(JBC) の引用文献数

0

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1972

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1996

1998

2000

2002

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2010万

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1論文の

引用文献数

右目盛

文献複写

依頼件数

Page 29: 長谷川豊祐 Final

-29-

10-2) 一論文の引用文献数• “Journal of Biological Chemistry”  - Web of Science より  日本人の論文  1論文当たりの引用文献数の年間平均数    * 1980 年 31.4点    * 2005 年 44.6点

•増加傾向は符合•急増期と減少期とは不一致

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2000

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2008

2010万

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1論文の

引用文献数

右目盛

文献複写

依頼件数

Page 30: 長谷川豊祐 Final

-30-

結論: 要因の整理 (複写依頼件数との関係から )

適応* 複写機の普及 (技術 )

* 図書館ネットワークの整備 (運用 )

変動* 研究者数 (利用 )* 複写料金 (運用 )

増加* DBの発展 (技術 )

* 契約雑誌数の減少 (運用 )

減少* 電子ジャーナルの増加 (技術 )

* オープンアクセスの拡大 (技術 )

結果•参考業務担当者の割合 (運用 )

* 青字:インタビュー による

Page 31: 長谷川豊祐 Final

-31-

考察:複写件数と要員の因果関係• 因果関係の範囲外で,増加への図書館の適応を支えた要因   - 複写機やDBなどの新技術   - 図書館ネットワークの整備による運用面での改善

•不明確な因果関係   - 増加:複数の要因の反映    要因と依頼件数の因果関係は不明確    要因 (容疑者 )はすべて「白」   - 減少:不十分な説明    図書館業務へのインターネットの大きな影響

    文献の実質利用は増加 v.s, 図書館からの供給減少                          (研究者への簡単な聞き取り

)

   - 技術革新と利用者の変化が大きく作用

Page 32: 長谷川豊祐 Final
Page 33: 長谷川豊祐 Final

-33-

現場の課題:現物貸借•増加を続ける現物貸借:相互協力の新たな課題

0

20

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1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008万

0

2

4

6

8

10

12

14

16

現物貸借

依頼件数

右目盛

文献複写

依頼件数

Page 34: 長谷川豊祐 Final

-34-

背景 (2):相互協力の諸形態•収集  - 外国雑誌センターや JMLAによる分担収集

•目録作業  - NACSIS-CAT/ILLによる共同分担目録

•利用  - 文献複写,現物貸借,相互利用

•保存,研修など

1) 浅野次郎「相互協力とネットワーク」『大学図書館の管理と運営』日本図書館協会 , 1992, p.126-141.