8
伊達政宗像(騎馬像) 共催:第101回 日本消化器病学会総会 大倉ダム 大崎八幡宮 第101回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー13 第101回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー13 潰瘍性大腸炎の 免疫修飾療法時代における GMAの今後の展開 The 101st General Meeting of the Japanese Society of Gastroenterology Date. 2015.4.24.FRI 11:45-12:35 Venue. 第5会場 仙台国際センター会議棟2F 桜1 講演1: GMA療法の効果をいかに引き出すか? ~daily vs intensive~ 演者: 加藤 真吾 先生 埼玉医科大学総合医療センター 消化器・肝臓内科 講演2: 非薬物療法GMAのUC治療における位置付けと 今後の展開 演者: 渡辺 憲治 先生 大阪市立総合医療センター 消化器内科 潰瘍性大腸炎(UC)の内科的治療は血球成分除去療法(CAP)、免疫調 節薬、生物学的製剤などの新しい治療法の登場により大きく変貌しつつ ある。なかでも注目されているのは日本で開発された CAPの有望なデータ が 蓄積していることである。本セミナーでは CAP のひとつである顆粒球吸 着療法(GMA)の最適化を試みた研究、寛解維持療法におけるGMAの 有用性を検討した結果をお示しいただく。UCの臨床に携わる方々にとって 参考となる知見が得られるものと期待している。 光山 慶一 先生 久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門・炎症性腸疾患センター

潰瘍性大腸炎の 免疫修飾療法時代における GMAの今 … · 2 白血球は血流に乗って全身を循環しているが、 正常な腸管では 白血球が粘膜に浸潤して炎症を惹起することはない。

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伊達政宗像(騎馬像)

共催:第101回 日本消化器病学会総会

大倉ダム 大崎八幡宮

第101回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー13第101回 日本消化器病学会総会 ランチョンセミナー13

潰瘍性大腸炎の免疫修飾療法時代におけるGMAの今後の展開

The 101st General Meeting of the Japanese Society of Gastroenterology

〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-41-12 富ヶ谷小川ビルTEL 0120-677-170(フリーダイヤル)FAX 03-3469-9352URL http://www.jimro.co.jp

AD201508KSCS2015年8月作成

Date. 2015.4.24.FRI 11:45-12:35Venue. 第5会場 仙台国際センター会議棟2F 桜1

講演1:GMA療法の効果をいかに引き出すか? ~daily vs intensive~

演者:加藤 真吾 先生 埼玉医科大学総合医療センター 消化器・肝臓内科

講演2:非薬物療法GMAのUC治療における位置付けと今後の展開

演者:渡辺 憲治 先生 大阪市立総合医療センター 消化器内科

 潰瘍性大腸炎(UC)の内科的治療は血球成分除去療法(CAP)、免疫調節薬、生物学的製剤などの新しい治療法の登場により大きく変貌しつつある。なかでも注目されているのは日本で開発されたCAPの有望なデータが蓄積していることである。本セミナーではCAPのひとつである顆粒球吸着療法(GMA)の最適化を試みた研究、寛解維持療法におけるGMAの有用性を検討した結果をお示しいただく。UCの臨床に携わる方々にとって参考となる知見が得られるものと期待している。

光山 慶一 先生久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門・炎症性腸疾患センター

座 長

挨 拶

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2

白血球は血流に乗って全身を循環しているが、正常な腸管では白血球が粘膜に浸潤して炎症を惹起することはない。ところがUCでは、粘膜固有層の毛細血管側静脈の内皮細胞がTNF-αなどの炎症性サイトカインの刺激により高円柱状の内皮に変化し、接着分子を発現するようになる。白血球はこの接着分子に捕捉され内皮細胞間 から血管外組織へ侵入する。一般的な接着分子としてはICAM-1、ICAM-2、VCAM-1などが知られるが、UCではこれらに加え、腸管特異的なMAdCAM-1の発現が亢進することが明らかになっている【図1】。接着分子の発現亢進は白血球による粘膜の炎症を促進し、組織破壊が進むにつれて

近年、UCの薬物療法では炎症性サイトカインの作用や白血球の接着を阻害する薬物の開発が進められてきたが、病変部位に浸潤する白血球を減らして炎症を抑制するというユニークな機序で効果を発揮するのがGMAであり、薬物療法に劣らぬ有効性が報告されている。そのGMAは、UCのみならずCDに

なぜ、炎症細胞は粘膜下層に浸潤するのか

炎症性サイトカインにより

粘膜・粘膜下層の静脈の内皮細胞が高円柱状の内皮に変化して、

接着分子の発現が増加

Kobayashi M, et al. Inflamm Bowel Dis. 2009; 15(5): 697-706

活動期

HE CD34 MAdCAM-1

寛解期

HE:ヘマトキシリン・エオジン染色CD34,MAdCAM-1:血管内皮細胞の標識

講 演 1

GMA療法の効果をいかに引き出すか? ~daily vs intensive~

演 者

加藤 真吾 先生埼玉医科大学総合医療センター 消化器・肝臓内科

潰瘍性大腸炎(UC)は白血球が大腸粘膜下層にまで浸潤し、炎症と組織破壊を引き起こす疾患である。これまでの研究から、白血球の浸潤には粘膜下層で高発現するMAdCAM-1などの

接着分子が関与することが明らかになっている。顆粒球吸着療法(GMA)は白血球の中の顆粒球・単球を除去することにより大腸粘膜の炎症を抑制するというユニークな作用機序をもつ治療法であり、UC、クローン病(CD)に対する有効性が認められている。最近、その効果をより引き出すレジメンとして週5回施行するdaily GMAの有効性、安全性を週2回法(intensive GMA)と比較し、有望な成績を得たので紹介する。

血便、血性下痢といったUCに特徴的な症状を呈することになる【図2】。

Intensive GMAはIFX/AZA未投与例、IFX効果減弱例で有効

図1 UCの粘膜血管におけるMAdCAM-1の発現

埼玉医科大学総合医療センター

粘血便

粘 膜

粘膜下層

血便(粘膜の剥離)

白血球 血性下痢(粘膜下層の剥離)

図2 白血球浸潤による粘膜破壊

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3

IFX/AZA 未投与

CDAI

(n=7コース) (n=2コース) (n=20コース)

IFX/AZA 不耐 IFX 効果減弱

350

300

250

200

150

100

50

0

前 後

400

350

300

250

200

150

100

50

0前 後

400

350

300

250

200

150

100

50

0前 後

埼玉医科大学総合医療センター*P<0.001(Mann-Whitney test)

Kato S, et al. Intern Med. 2011; 50(15): 1591-1593

:GMA450

400

350

300

250

200

150

100

50

0

intensive(週 2回)weekly(週 1回)

最終施行1週後

CDAI

対しても有効性が認められている。CD患者におけるGMAのデータを【図3】に示す。当院でCD患者14例に対しGMAを29コース(1コースあたりGMAを1~10回施行)施行したが、インフリキシマブ(IFX)/アザチオプリン(AZA)未投与例、IFX効果減弱例においてクローン病活動指数 (CDAI)を有意に低下させた。GMAについては適正な施行頻度を模索する研究が続けられており、当院での検討においては、週1回法(weekly GMA)ではCDAIの低下が思わしくなかったが、週2回法(in-tensive GMA)に変更した結果、改善がみられた。後者により著効を得たIFX/AZA未投与例とIFX効果減弱例の経過を

図4 IFX/AZA未投与例におけるGMAの効果   weekly(週1回) vs intensive(週2回)

Kato S, et al. Intern Med. 2011; 50(15): 1591-1593

350

300

250

200

150

100

50

0

4thIFX+GMA3rdIFX+GMA 5th IFX+GMA

IFXIFX IFX

intensiveweekly intensiveweekly

CDAI

:GMA

図5 IFX効果減弱例におけるGMAの効果   weekly(週1回) vs intensive(週2回)

図3 クローン病に対するGMAの効果(14例29コース(1コースあたりGMAを1~10回施行))

上述の成績はCDにおいてintensive GMAのweekly GMAに対する優位性を示唆するが、UCでは既に多施設共同無作為化試験によってはっきり証明されている1)。このようなエビデンスをふまえ、UC治療ではintensive GMAが標準的方法となっているが、はたして週2回の施行頻度がベストであるかどうかは不明である。GMAの効果を高めるには、体外循環血流速度を上げる、もしくは循環時間を延長する、吸着担体と血球との反応性を上げるため循環時の温度を上げるといった方法も

GMAの有用性改善をめざして

【図4、5】に示す。Intensive GMA施行後、CDAIの低下に歩調を合わせるように内視鏡所見も改善した。

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埼玉医科大学総合医療センター

主要評価項目:寛解導入率

CAI評価UC(n=50)(CAI≧6)

無作為割付

試験方法

潰瘍性大腸炎患者を無作為に1週目毎日連続5回GMA療法群(n=25)および1週目週2回GMA療法群(n=25)に割り振り、2週目以降は週2回GMA療法を施行した。

W4W3W2W1W0▼▼▼▼

W4W3W2W1W0▼▼▼▼

Daily群

Intensive群

▼▼

Yamamoto T, et al. J Gastroenterol. 2011; 46(8): 1003-1009

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0(回目)54321

GMA

排便回数スコア 

直腸出血スコア 

平均値±標準誤差

**

***

**

***

2.0

1.5

1.0

0.5

0(回目)54321

GMA

平均値±標準誤差

**

***

**

***

*P<0.05 vs at entry(Chi-Square test)

● Prospective feasibility and safety study● 中等症以上の30例のUC患者● 毎日連続5回の治療後の評価● 寛解率:23%(7/30)● 改善率:70%(21/30) ● 有害事象発生率:53%(16/30): 頭痛・倦怠感・発熱など

0:正常回数(寛解時の排便回数 /日)1:正常回数より1~2回 /日多い2:正常回数より3~4回 /日多い3:正常回数より5回 /日以上多い

0:なし1:血液混入2:顕出血3:血性下痢

継続した。有効性評価のための主要評価項目はW0の治療終了後(W1)における寛解導入率(CAI≦4)とした。各治療群には同数の25例が割付けられたが、性、年齢、罹病期間、病型、重症度、喫煙歴などの背景因子に有意差は認められなかった。最終的な有効性評価はdaily GMA群22例、intensive GMA群23例のデータにもとづいて行った。治療の結果をみると、W1における寛解導入率はdaily GMA群54.5%、intensive GMA群13.0%であり、前者で有意に高かった。その後、両群の寛解導入率は週を重ねるごとに上昇したが、全期間を通じてdaily GMA群がintensive GMA群に優っていた(P=0.0340, Log-rank test)。有害事象はdaily GMA群でアレルギー1例、intensive GMA群で深部静脈血栓症1例の発現をみたが、前者は使用中の抗凝固薬が原因の可能性があり、後者についてもGMAとの関連性は認められず、GMAの優れた安全性が確認された。現在、炎症性腸疾患の治療では免疫修飾作用をもつ生物学的製剤が主流となっているが、GMAはそれらの薬物とは異なる機序で腸の炎症を抑制する。このため薬物の効果が減弱した症例でも有効性が期待でき、薬物療法を補完する重要な役割を担いうると考えられる。GMAの施行法についても検討が進められてきたが、我々の研究から、週5回行うdaily GMAでは、標準的方法とされているintensive GMAに比べ寛解導入を早期化できるかもしれない。

1)Sakuraba A, et al. Am J Gastroenterol. 2009; 104: 2990-2995

考えられるが、臨床的に妥当と考えられるのは、現行の循環条件で施行頻度を上げることであろう。そこで考案したのが週5回法、ほぼ毎日施行することからdaily GMAと呼ぶレジメンである。【図6】に示すのは、中等症以上のUC患者30例を対象にdaily GMAの安全性を検討した前向き研究の成績だが、5回施行後のSutherlandのDAI Scoreでの寛解率は23%、改善率は70%と効果は良好であり、重篤な副作用は認められなかった。

そこで当院ではこの成績をふまえ、daily GMAの有効性をin-tensive GMAと比較する前向き無作為化試験を行った。試験デザインを【図7】に示す。Lichtigerの臨床活動性指数(CAI)6以上のUC患者50例をdaily GMAまたはintensive GMAによる治療に無作為割付した。Daily GMA群に対しては最初の週(W0)にGMAを5回施行、intensive GMA群は週2回施行し、両群ともその後3週(W1-3)にわたり、週1~2回の頻度で治療を

Daily GMAはintensive GMAに優る――無作為化試験で有望な結果

図6 Daily GMAの安全性検証試験の結果

図7 Daily GMAとintensive GMAを比較した   無作為化比較試験のデザイン

4

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5

寛解導入療法

手 術

5-ASA(メサラジン/サラゾピリン)

AZA/6-MP

ステロイド

タクロリムス/シクロスポリン

インフリキシマブ/アダリムマブ

血球成分除去療法(CAP)

非薬物療法としての独自性

渡辺 憲治 Yokoyama Y, et al. Cytotherapy, 2015; 17(5): 680-688

*log-rank test

100

80

60

40

20

0.0350300250200150100500

GMA10回施行後の観察期間(日)

寛解維持率(%)

AZA投与群 vs AZA非投与群 P=0.079*

100

80

60

40

20

0.0350300250200150100500

GMA10回施行後の観察期間(日)

n=31

n=44

寛解維持率(%)

n=54

ステロイド抵抗性群 vs ステロイド依存性群 P<0.001*

ステロイド有効群 vs ステロイド依存性群 P<0.001*

AZA投与群AZA非投与群

ステロイド抵抗性群ステロイド有効群ステロイド依存性群

n=109

n=20

現在UCの寛解導入療法では【図1】に示すような治療が段階的に行われている。多くの治療法が利用可能となっているなかで新しい治療薬が注目されがちだが、寛解導入療法で第一に重視すべきは、基本治療薬の5-ASAを適正に使用することである。具体的には十分量の5-ASAを長期に用いてその効果を最大限に引き出したうえで、必要に応じ他の治療法を併用またはそれに移行することが求められる。この原則は寛解維持療法にもあてはまる。5-ASAは安全性の高い薬剤であるから、早期から高用量で治療を行うことが望ましく、寛解導入後も高用量を維持することが再燃に対する予防効果を高めると考える。問題は高用量の5-ASAを用いても寛解維持が難しい場合だが、現在使用できるのは免疫調節薬のアザチオプリン(AZA)/メルカプトプリン(6-MP)、または抗TNF-αモノクローナル抗体のインフリキシマブ(IFX)/アダリムマブ(ADA)だけであり、寛解導入療法と異なり治療選択肢が限られている。これらの薬剤は有効性が認められているものの、白血球減少、感染症などの

副作用もあり得る。より有効で安全性の高い選択肢を増やすとともに、患者のリスクを考慮した治療の選択・方法を探求していくことも重要である。

最近、GMA施行後の長期予後を観察した多施設共同研究の成績が報告された【図2】。GMAにて寛解に至ったUC患者の

治療の基本原則は5-ASAの適正使用

GMAの寛解維持効果はAZAに劣らない

講 演 2

非薬物療法GMAのUC治療における位置付けと今後の展開

演 者

渡辺 憲治 先生大阪市立総合医療センター消化器内科

潰瘍性大腸炎(UC)の治療は生物学的製剤の登場により大きく進歩したが、治療の前提は基本治療薬である5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)を適正に使用することであり、それを

おろそかにして安易に他の治療を行うべきではない。このことは寛解導入療法のみならず、寛解維持療法にもあてはまるが、ここでは主に寛解維持療法に焦点をあて、その現状と課題について述べるとともに、非薬物療法として注目される顆粒球吸着療法(GMA)の可能性を論じる。

図1 UCの段階的治療法

図2 GMA治療後の潰瘍性大腸炎の長期予後と   その予測因子の検討:関西多施設前向き研究

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6

経過を約1年間追跡した結果、寛解維持率はステロイド抵抗性群とステロイド有効群では約60%であり、ステロイド依存性群よりも高かった。この結果は、薬物療法の状況など患者の背景因子によってはGMA施行後、高率に寛解を維持し得ることを示唆している。では、GMAによる寛解維持療法を行った場合はどうか。

まず我々が行った研究について述べる。対象は他の方法による寛解維持療法施行中に再燃し、GMAの追加により寛解導入に成功したUC患者である。【表1】に示す方法で3年以上経過を追跡したが、GMA群の累積寛解維持率は1年で85.9%、2年で66.2%であった。この数値はAZA群とほぼ同等であった。さらに、GMA群ではAZA群に比べ合併症や薬剤副作用歴を

Sakuraba A, et al. Ther Apher Dial. 2012; 16(3): 213-218

累積寛解維持率(%)

再燃率(人/年)

観察期間(月) GMA群 メルカプトプリン群

GMA群

メルカプトプリン群

100

80

60

40

20

0.02520151050

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0前 後

前 後

累積寛解維持率 寛解維持療法前後の再燃率

*P<0.05(Fisher's exact test)

有する例が多かったことを考えると、高齢者を含め免疫抑制的治療を行いにくい患者でも安全に施行できるという意味でGMAは有用といえる。

前述の成績は約3年前にまとめたものだが、ほぼ同時期にGMAによる寛解維持療法の可能性を検証した研究結果が2つ報告された。ひとつはSakurabaらによるパイロット研究で、初期治療で寛解導入に成功したUC患者21例をGMAまたはメルカプトプリンによる寛解維持療法に無作為割付けし、2年間経過を観察した。この研究ではGMAを1回/2週の頻度で施行している。その結果を【図3】に示す。2年間の累積寛解維持率はGMA群70.0%、メルカプトプリン群63.6%であり、両群間に有意差は認められなかった。再燃率は両群とも寛解維持療法施行前後で有意に低下したが、これについても有意な群間差は生じなかった。有害事象による脱落はメルカプトプリン群で1例発生したが、GMA群では皆無であった。もう一方は、ステロイド抵抗性のUCでGMAにより寛解導入療法を行った33例を対象にGMAによる寛解維持療法の有用性を検証したFukunagaらの成績である。この研究では被験者を1回/4週の頻度でGMAを施行する群、同じ頻度で体外循環のみを行う群(シャムアフェレシス)、治療をAZA、ステロイドのみに限定する群(対照)に無作為割付けし、二重盲検法により経過を観察した(各群11例)。その結果、1年間の寛解維持率はGMA群40.0%、シャムアフェレシス群9.1%、対照群18.2%であり、GMA群が他の2群に比べ高かったが少数例での解析のため統計学的有意差は認められなかった。そこで次に、寛解導入療法でステロイド(プレドニゾロン)投与量を20mg/日未満に

GMA寛解維持療法の無作為化試験でも有望な結果

表1 UCに対するGMA寛解維持療法

図3 寛解維持療法におけるGMAとメルカプトプリンの有効性比較:パイロット研究

Study Design:Nested matched case-control study

AZA群:同期間にAZAで寛解維持治療された症例 GMA群と年齢、性別を1:1でmatch(各群30例)

一次エンドポイント:累積寛解維持率(GMA群:AZA群)

二次エンドポイント:内視鏡的寛解維持率

寛解:Mayo≦2、内視鏡的寛解:Mayoサブスコア≦1

他の寛解維持療法中に再燃し、GMA寛解導入療法追加にて寛解導入成功(Mayo≦2)した症例

1回/月でGMA施行、開始時と1回/年で内視鏡的にも評価

2005年7月~2012年2月

対 象

方 法

期 間

渡辺 憲治

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7

or

CAP2回/月

外来診療1回以上/月

※寛解導入時の最後のCAPから 4週間以内に寛解維持の最初の CAPを行う。

CAP上乗せ群<100例> GMA50例+LCAP50例

対照群(CAP上乗せ無し)<100例>

 目 的潰瘍性大腸炎の寛解維持に対するCAP療法の有効性および安全性を検討し、維持療法に関する新たな治療戦略の構築を試みる。

■ 再燃の定義:partial Mayoスコア 3点以上の上昇■ 主要評価項目:1年間の寛解維持率

実施期間: 2013年2月1日から

5-ASA・AZA(6-MP)等CAPによる寛 解 導 入

オープン形式の層別無作為割付による多施設共同非盲検群間比較試験

試験開始同意取得

4週間以内※

or or or or or …

再燃

「潰瘍性大腸炎の寛解維持に対するCAP療法の有効性の検討」 臨床研究実施計画書

減量できた症例を対象にサブ解析を行ったところ、【図4】に示すように、GMA群の寛解維持率は他の2群のそれを有意に凌駕した。

Fukunaga K, et al. Gut Liver. 2012; 6(4): 427-433

累積寛解維持率(%)

観察期間(日)

GMA群

対照群p=0.0439

p=0.0219

Log-Rank test P=0.0443

シャムアフェレシス群

100

75

50

25

0

3653002001000

寛解導入療法でプレドニゾロン投与量を20mg/日未満に減量できた群のサブ解析

今後、新規薬剤の登場が見込まれるなかで、非薬物療法のオプションとしCAPに期待

5-ASA

AZA/6-MP

インフリキシマブ/アダリムマブ

血球成分除去療法(CAP)

渡辺 憲治

以上の成績は小規模なパイロット研究によるものだが、寛解維持療法においてGMAが薬物に劣らない効果を発揮しうることをそれぞれ示唆した。そこでこの知見に確証を得るべく、現在、薬物療法にGMAを含む血球成分除去療法(CAP)を追加する寛解維持療法の有用性を検討する多施設共同無作為化比較試験(CAPTAIN Study)が進行中である。試験デザインを【図5】

寛解維持療法におけるGMAのエビデンスを求めて

に示すが、CAPとしての効果、並びに安全性を評価する予定である。この試験でCAPの有用性が証明され、保険適用が認められれば、現在認められている3つの寛解維持療法に第4の選択肢が加わることになるが【図6】、その意義は選択可能な治療法が増えることに留まらない。高齢UC患者の増加に伴い、免疫調節薬や生物学的製剤の使用困難な症例が多くなるなかで、優れた安全性を有するGMAによる寛解維持療法が可能になれば、UC治療の質は大きく改善するにちがいない。

UCの診療では正確な診断、精度の高いモニタリングにもとづき、従来治療を最適化したうえで有効な新規治療を組合せていく必要があるが、GMAが寛解維持療法の新たなオプションとして力を発揮すれば、UC患者の長期予後は更に改善するであろう【表2】。

表2 結論図5 CAPの多施設共同試験概略(CAPTAIN Study)

図6 UCの寛解維持療法における新たな選択肢

図4 UCの寛解維持療法におけるGMAの有効性:    前向き無作為化二重盲検シャムコントロール臨床試験

★世界最多とも言えるUC寛解導入療法を有する本邦であるが、寛解維持療法は3種に留まっている。

★GMA寛解維持療法は、UC寛解維持の新たなオプションとして、安全性が高く、有効である。

★正確な診断や精度の高いモニタリングで、従来治療の最適化と新規治療の組合せにより、UC患者の更なる予後改善を図りたい。

渡辺 憲治

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