8
*立命館大学建築都市デザイン学科 3 回生 購買意欲を増すパン屋の商品陳列分析 CUSTOMER’S PSYCHOLOGY INSPIRE COSTOMER TO BUY 松永 梢 * ,門田 梨沙 * Kozue MATSUNAGA and Risa MONTA It investigated by using the conjoint analysis of the commodity exhibition of the bakery and visitor person's buying intention. 1.The buying intention between the right and left doesn't have the difference. 2.The buying intention increases because it sets it up in both right and left by analyzing conjoint of four item three level when the emphasized factor is set up. When flatly emphasizing it, it is large not to set anything up from right and left one, and moreover, the effect of the emphasis is large the installation only in right and left one when emphasizing it in large, and the vertical and the effect of the emphasis is large. 3.It is a form that the most suitable commodity exhibition is not stuck to "Height of the piling of bread", and set up in both "Height of the showcase" and "Curtain" "POP" right and left. Keywords : Customers Psychology, Display Of Merchandise, Display Cases, Conjoint Analysis 購買意欲、商品陳列、陳列棚、コンジョイント分析 1. はじめに 洋食化が進んだ近年、日本の食文化は多様化している。日本食以 外に、世界各国の食文化が日本に導入されている。終戦直後は食糧 難に悩まされたが、戦後復興途中はアメリカからの物資援助により 欧米文化が豊かさの象徴となっていたため、ライフスタイルの洋食 化が進み、パン食も日本の暮らしの中に浸透していった 1)。今日、 ほとんどの日本人の朝食はお米かパンのどちらかに限られると言っ ても過言ではないだろう。それほど、日本人のパン食が生活に浸透 している。生活へ浸透したパン食に対応して、現在日本には一つの ビジネスとしてパン屋が多く点在している。多くは量販店であり、 同じような規格の陳列棚に並べ、様々な商品が陳列・販売されてい る。どの陳列方法をとると、来客者が購入するかについてはまだ明 らかにされていない。陳列方法に応じて異なる購買意欲に基づいた、 より効果的な商品陳列が重要である 2)。 2. 研究の位置づけ 宗本他はベイジアンネットワーク注 1)を行動分析に用い、衣料 品店を対象とした陳列棚の前での来客者の購買行動と陳列方法との 間の関係を明らかにし 2)、また次編では来客者の属性、商品配置の 属性と購買行動の関係を調べている 3)。岸本他は店舗データ分析結 果に基づいて店舗内行動分析エージェント・ベース・シミュレータ ー(ABISS)を構築することを研究目的とし、販売の促進策について 研究を行っている 4)。また増田他は、店舗レイアウトと店内購買行 動との関連に着目し、購買意欲を誘い売り上げの向上を見込める店 舗レイアウトをマルチエージェントシミュレーション(MAS)注 2) により分析し、検証している 5)。 これらの成果をふまえ本研究は、商品販売に重要なことは、どれ だけ多くのパンを来客者に購入してもらい、売り上げを伸ばすこと が出来るかであると考える。例えあるひとつの商品だけが多く購入 されたとしても、どれだけ多くの商品を購入してもらい、売り上げ を伸ばすことができるかが最重要であるという前提で考えるため、 売り上げを伸ばす方法として、特定のパンを強調的に売る商品陳列 方法と、総売り上げが高い商品陳列方法という 2 点を視点に考える。 また、陳列棚前での来客者の行動(「商品の視認」「手に取る」)の 連続は直接的に購買行動に関係するものとは言い切れないとも考え、 購買意欲が増す・増さないという観点から検証を行う。本論では、 パンの商品陳列をコンジョイント分析注 3)を用いてパターン化し たものに対して購買意欲が増す陳列方法を抽出し、陳列棚の前での 来客者の購買意欲と陳列方法との関係を明らかにすることを目的と する。 3. 調査内容 3.1 予備調査

購買意欲を増すパン屋の商品陳列分析 investigated by using the conjoint analysis of the commodity exhibition of the bakery and visitor person's buying intention. 1.The

  • Upload
    vodat

  • View
    251

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

*立命館大学建築都市デザイン学科 3 回生

購買意欲を増すパン屋の商品陳列分析

CUSTOMER’S PSYCHOLOGY INSPIRE COSTOMER TO BUY

松永 梢*,門田 梨沙*

Kozue MATSUNAGA and Risa MONTA

It investigated by using the conjoint analysis of the commodity exhibition of the bakery and visitor person's buying intention.

1.The buying intention between the right and left doesn't have the difference.

2.The buying intention increases because it sets it up in both right and left by analyzing conjoint of four item three level when the

emphasized factor is set up. When flatly emphasizing it, it is large not to set anything up from right and left one, and moreover, the

effect of the emphasis is large the installation only in right and left one when emphasizing it in large, and the vertical and the effect of

the emphasis is large.

3.It is a form that the most suitable commodity exhibition is not stuck to "Height of the piling of bread", and set up in both "Height of

the showcase" and "Curtain" "POP" right and left.

Keywords : Customer’s Psychology, Display Of Merchandise, Display Cases, Conjoint Analysis

購買意欲、商品陳列、陳列棚、コンジョイント分析

1. はじめに

洋食化が進んだ近年、日本の食文化は多様化している。日本食以

外に、世界各国の食文化が日本に導入されている。終戦直後は食糧

難に悩まされたが、戦後復興途中はアメリカからの物資援助により

欧米文化が豊かさの象徴となっていたため、ライフスタイルの洋食

化が進み、パン食も日本の暮らしの中に浸透していった 1)。今日、

ほとんどの日本人の朝食はお米かパンのどちらかに限られると言っ

ても過言ではないだろう。それほど、日本人のパン食が生活に浸透

している。生活へ浸透したパン食に対応して、現在日本には一つの

ビジネスとしてパン屋が多く点在している。多くは量販店であり、

同じような規格の陳列棚に並べ、様々な商品が陳列・販売されてい

る。どの陳列方法をとると、来客者が購入するかについてはまだ明

らかにされていない。陳列方法に応じて異なる購買意欲に基づいた、

より効果的な商品陳列が重要である 2)。

2. 研究の位置づけ

宗本他はベイジアンネットワーク注 1)を行動分析に用い、衣料

品店を対象とした陳列棚の前での来客者の購買行動と陳列方法との

間の関係を明らかにし 2)、また次編では来客者の属性、商品配置の

属性と購買行動の関係を調べている 3)。岸本他は店舗データ分析結

果に基づいて店舗内行動分析エージェント・ベース・シミュレータ

ー(ABISS)を構築することを研究目的とし、販売の促進策について

研究を行っている 4)。また増田他は、店舗レイアウトと店内購買行

動との関連に着目し、購買意欲を誘い売り上げの向上を見込める店

舗レイアウトをマルチエージェントシミュレーション(MAS)注 2)

により分析し、検証している 5)。

これらの成果をふまえ本研究は、商品販売に重要なことは、どれ

だけ多くのパンを来客者に購入してもらい、売り上げを伸ばすこと

が出来るかであると考える。例えあるひとつの商品だけが多く購入

されたとしても、どれだけ多くの商品を購入してもらい、売り上げ

を伸ばすことができるかが最重要であるという前提で考えるため、

売り上げを伸ばす方法として、特定のパンを強調的に売る商品陳列

方法と、総売り上げが高い商品陳列方法という 2 点を視点に考える。

また、陳列棚前での来客者の行動(「商品の視認」「手に取る」)の

連続は直接的に購買行動に関係するものとは言い切れないとも考え、

購買意欲が増す・増さないという観点から検証を行う。本論では、

パンの商品陳列をコンジョイント分析注 3)を用いてパターン化し

たものに対して購買意欲が増す陳列方法を抽出し、陳列棚の前での

来客者の購買意欲と陳列方法との関係を明らかにすることを目的と

する。

3. 調査内容

3.1 予備調査

(1)目的

購買意欲について左右間に差異がないか把握調査するため。

(2)方法

被験者にアンケートを実施する。

【使用物】

・アンケートカード(以下 AC とする。)

作成した 13 枚の AC をリングに通し、ひとつにまとめたもの。

・アンケート冊子

3 枚構成で、1~2 枚目は AC の回答方法を、3 枚目は被験者自

身に関するアンケートを記載したもの。

実際に使用したアンケート冊子を末尾に添付する。(付録 1~3)

【AC 回答方法】

各 AC に対し、購入したいと思う種類の商品に“とても欲しいも

のには◎、欲しいものには○”をつけてもらう。回答段階は二段階

で、第一段階は、リングに通された AC をめくりながら、一枚ずつ

ペンで丸をつける。第二段階は、リングを外した AC を一様に並べ

たあと、修正を加えたい部分があれば第一段階で使用したペンとは

別のものを使って丸をつける。段階を分けた理由としては、第一段

階では直感で丸をつけてもらい、第二段階で AC 同士を比較し、陳

列変化を見逃さないようにしてもらうためである。

3.2 本調査

(1)目的

どのような商品陳列が購買意欲を増す陳列であるか調査するため。

(2)方法

予備調査と同じアンケート冊子を使い、同じ方法で行う。ただし AC

は本調査用に新しく作成し、9 枚とする。

4. アンケート作成

4.1 項目の抽出

予備調査と本調査に用いる項目抽出にあたり、実験対象地で用い

られている商品を強調しているものを参考に、パンの陳列でありう

る項目であり、かつ平面的パターン、立面的パターンとして 2 項目

ずつ挙げた。

【項目】

平面的パターン:パンの積み上げ、陳列棚の高さ

立面的パターン:垂れ幕、POP

【注意点】

アンケート時に、すべての商品陳列パターンが公平な条件で調査が

できるように次の点に注意した。

・陳列棚は写真撮影時に同じ角度から撮影した。

・パンの種類や質の違いによって差が出ないように、パンの形や大

きさに差がでないパンを撮影し、また全ての商品陳列パターンに同

種類のパンを合成した。

4.2 AC 作成

AC を作成するにあたり、実験対象地にて背景と陳列棚上の陳列

時に用いる台や POP などの配置を移動して撮影し、陳列した市販

のパン 4 種類を合成した。棚や POP、垂れ幕は対象地域で実際に使

用しているものである。それぞれの寸法を図 1 に、POP を図 2 に記

す。

【対象地域】京都市西京区 洛西高島屋 1 階 DONQ

店内のひとつの島状陳列棚を対象とする。

図 1 寸法

図 2 POP

【記載内容】

・写真

・名称

・値段

名称と値段部分は AC ではわか

らないように編集を加えた。

(1)予備調査

4 項目と 3 水準(表 1)より、13 枚の AC(表 2)を作成した。実

際に使用した AC の一部を図 3~図 6 に示す。カード 1 を基準とす

る。

表 1 予備調査の4項目3水準

項目 水準 1 水準 2 水準 3

パンの積み上げ高さ 左 右 両方

陳列棚の高さ 左 右 両方

垂れ幕 左 右 両方

POP 左 右 両方

表 2 予備調査の AC

カード名 項目 水準

カード 1(基準) なし

カード 2 パンの積み上げ高さ 左

カード 3 パンの積み上げ高さ 右

カード 4 パンの積み上げ高さ 両方

カード 5 陳列棚の高さ 左

カード 6 陳列棚の高さ 右

カード 7 陳列棚の高さ 両方

カード 8 垂れ幕 左

カード 9 垂れ幕 右

カード 10 垂れ幕 両方

カード 11 POP 左

カード 12 POP 右

カード 13 POP 両方

(2)本調査

予備調査より購買意欲は左右の違いによって影響を受けないこと

がわかった。よって本調査では 4 項目と 3 水準(表 3)とし、これ

らを PC に入力し 9 枚のコンジョイントカード(表 4)を作成した。

これらを AC として使用した。カード1を基準とする。実際に使用

した AC の一部を図 7~図 8 に示す。

※ソフトは「excel コンジョイント分析注 3)/AHP ver.1.0」を使用

した。

表 3 本調査の4項目3水準

要因 水準1 水準2 水準3

パンの積み上げ高さ なし 片方 両方

陳列棚の高さ なし 片方 両方

垂れ幕 なし 片方 両方

POP なし 片方 両方

※片方の場合は全て左側に寄せるものとする。

表 4 コンジョイントカード

カード No.

パンの積み

上げ高さ

陳列棚の高

さ 垂れ幕 POP

(基準)1 無し 無し 無し 無し

2 無し 片方 片方 片方

3 無し 両方 両方 両方

4 片方 無し 片方 両方

5 片方 片方 両方 無し

6 片方 両方 無し 片方

7 両方 無し 両方 片方

8 両方 片方 無し 両方

9 両方 両方 片方 無し

4.3 アンケート冊子作成

予備調査、本調査とも同じアンケート冊子を使用した。

【3枚目のアンケート内容】

・利き手

利き手によって購買意欲に差異がないか調べる。

・好みのパン

商品陳列ではなく個人の嗜好で購買意欲に変化があらわれていな

いか調べる。

・回答基準

被験者が何を基準にアンケートに回答したか調べる。

5.調査の実施

5.1 予備調査

(1)概要

被験者数:立命館大学理工学部建築都市デザイン学科に属する 9 人

有効サンプル数:8 人

(2)分析対象の選出

アンケート結果に個人的嗜好が含まれていることを考慮し、分析対

象の選出を行った。

a) AC の基準から判断した好みのパンと、アンケート用紙で答え

てもらった好みのパンが一致する人を選出した。

b) a)の人の中から、パン a~d(パンの位置は図 9 参照。)それぞれ

の全 AC の合計を比べて、最小値の 400%より最大値が大きい

場合、個人の嗜好に偏りすぎていると判断し、分析対象より除

外した。

c) c)以外の人の中でも、アンケート用紙 Q3 について⑨⑩または

⑪のみを選んでいる人は、今回の調査目的から外れていると判

断し、除外した。⑪の除外基準としては、実験の前提に反する

ものとする。例として「個数の尐ないパンを売れているパンだ

と判断した」という内容は、「パンが積み上がっていることで購

買意欲を上げようとする」という前提に反する。

(3)分析方法

a) 項目によって購買意欲が高まると仮定した a~d のパンの内、つ

けられた丸の数が、各 AC 内で最も多い場合○、そうでない場

合×、パン a~d 全て無記入だった場合△とした。記号○×△を

図 3 カード 2 図 4 カード 5

図 5 カード 8 図 6 カード 11

図 7 カード 2 図 8 カード 5

各指標について左右で比較し、表 5 のルールに従い、左右対称・

非対称を判断した。

※項目がついているパンを購買意欲が高いと仮定する。図○で

あればパンが積み上げられているcが購買意欲が高まると仮定

する。

b) 全組み合わせ数のうち、左右対称の組み合わせがいくつあるか

で判断した。

図 9 パンの位置

5.2 本調査

(1)概要

被験者数:立命館大学理工学部建築都市デザイン学科に属する 27

有効サンプル数:22 人

(2)分析対象の選出

予備調査と同じとする。

(3)分析方法

丸の数を得点とし、コンジョイント分析の単一評価「評価得点」を

用いてデータ入力した。

6.分析結果

以下の分析において、丸が多いほど購買意欲が高いと判断する。

利き手による購買意欲の分析は、左利きのデータが尐なかったため

今回は行わなかった。

6.1 予備調査

分析する際は左右対称を明確に見極めるため水準 3 のカードを省

いた。省いた結果、基準を含んでカードは 9 枚になり、基準以外の

8 枚の左右対象同士のカードごとに分析を行った(表 6)。各々の人

に基づいて、カード 2 と 3、5 と 6、8 と 9、11 と 12 のそれぞれを

1 組と数え、「5.調査の実施」で述べた調査方法を用いて 1 組ごと

に比較を行い、同様に総組数 28 組全てを比較する。左右対称であ

ると求められた組は 21 組/28 組(=75.0%)だった。総組数の内、左右

対称である組が7割を超えために、今回は左右対称という前提で本

調査を行った。

表 6 分析結果(予備調査)

表 7 分析結果(本調査)

6.2本調査

分析対象の選出を行ったものを表 7 に示す。以下のグラフ数値は、

購買意欲が高いほど高く評価されており、低いほど低く評価されて

いるものである。

(1)分析1 カード評価

カード(組み合わせ)の評価(図 10)は、カード 3 が最も評価が高

い 2.6818 で、カード 1 と 2 が最も評価が低い 1.5909 であった。

表5 分析のルール

左右対称 左右非対称

○-○ ○-×

×-×

○-△

△-×

※左右の順序は関係ないものとする。

c d

a b

図 10 カード評価

(2)分析2 部分効用値

各水準の効用を表す部分効用値(図 11)に着目すると、「パンの

積み上げ高さ」「陳列棚の高さ」「垂れ幕」「POP」の全項目に関し

て水準 3 の「両方」が最も高くなっている。「パンの積み上げ高さ」

「陳列棚の高さ」は、水準 2 の「片方」が最も低くなっている。「垂

れ幕」「POP」は、水準 1 の「無し」が最も低くなっている。

図 11 部分効用値

(3)分析3 重要度

次に重要度(図 12)に着目する。この値は、4つの項目の中で相

対的にどの要因が重要視されているかを示す指標である。最も重要

視されているのは「垂れ幕」で重要度の値は「37.5%」となっていた。

次いで「陳列棚の高さ」が「31.8%」で 2番目となり、「POP」が「27.3%」

で 3番目となり、「パンの積み上げ高さ」が「3.4%」で 4番目となった。

図 12 重要度

(4)分析4 各カード内の評価

各カードにつき使用している項目(「パンの積み上げ高さ」「陳列

棚の高さ」「垂れ幕」「POP」)のうち、パンの a~d の内、丸の数が

多いものを図 13 の赤ラインで示し、その赤ラインで示したパンの

丸の数と各カードにおける丸の合計数における割合に注目した。※

※例)カード 1-a:13÷(13+7+3+12)×100=37.1%

各カードにおける赤ラインの引いている割合に対して、棒グラフ化

したものが図 14 である。

各カードにおける赤ラインを引いているパン種において、最も高

い割合を得たのはカード 7-a の 43.8%。次いで、カード 3-d の 42.5%、

カード 6-c の 39.0%であった。また、最も低い割合を得たのは、カ

ード 5-b の 33.3%であった。

図 13 各カード内の評価

図 14 各カードの割合の高いパン

7.考察

7.1 考察 1(分析 1 より)

カード評価の平均得点が高いもの程、パンの総丸数が多いことを

表すので、総売り上げが高い商品陳列であることが分かる。つまり、

カード 3 が最も総売り上げが高い商品陳列であり、カード 1 と 2 が

最も総売り上げが低い商品陳列であることが分かる。

7.2 考察 2(分析 2 より)

「パンの積み上げ高さ」「陳列棚の高さ」「垂れ幕」「POP」の有

無に関しては「両方」が、消費者の購買意欲を増すという、直感的

にも整合的な結果が得られた。また、「パンの積み上げ高さ」や「陳

列棚の高さ」の有無に関しては「片方」よりも「無し」の方が消費

者の購買意欲は増すという結果が出たのにも関わらず、「垂れ幕」と

「POP」の有無に関しては反対に、「無し」よりも「片方」の方が

消費者の購買意欲は増すという結果が出た。

7.3 考察 3(分析 3 より)

「垂れ幕」を最重要視しているという結果となるが、「垂れ幕」「陳列

棚の高さ」「POP」はあまり大きな差はない。「パンの積み上げ高さ」

は上の 3 つの項目に比べて大きく差が開き、重要視されていないと

いう結果になった。

7.4 考察 4(分析 2・3 より)

ここで、それぞれの項目の水準に着目してみる。平面的パターン

である「パンの積み上げ高さ」「陳列棚の高さ」は水準の「無し」より

「片方」の方が部分効用値は低く、立面的パターンである「垂れ幕」

「POP」は水準の「片方」より「無し」の方が部分効用値は低いことが

分かった(分析 2)。平面的パターンは立面的パターンに比べて、「片

方」よりも「無し」の方が高く評価していることが言える。また、

重要度の最も低い「パンの積み上げ高さ」(分析 3)の水準である「無

し」「片方」「両方」にける部分効用値において、同項目内における相対

的な水準差が低くいため、水準によって評価されにくいことが分か

る(分析 2)。つまり、「パンの積み上げ高さ」において、重要度は「垂

れ幕」「陳列棚の高さ」「POP」の 3 つの項目に比べて大きく差が開い

ての最低値を獲得しており(考察 3)、かつ水準によって評価されにく

いため(考察 4)、以下は「パンの積み上げ高さ」は効果がないと考え

る。

7.5 考察 5(考察 1・4 と分析 4 より)

以下は考察 4 より「パンの積み上げ高さ」を考慮せずに考える。

カード内の a~d の各パンにおける丸の数を比較して、赤ラインで

示したパンの丸の数の割合が高い程、そのカードは赤ラインで示し

たパンの購買意欲が高いことになる(分析 4)。つまり、そのカードは

特定のパンを強調的に売る際に適した商品陳列であるということに

なる。また、考察 1 で示した総売り上げが高い商品陳列、低い商品

陳列という観点も交えて分析を行う。

カード 1~9 において特定のパンの購買意欲を最も高める商品陳

列はカード 7である(分析 4)。次いでカード 3、カード 6の順である。

特定のパンの購買意欲を最も高める商品陳列であるカード 7(分析

4)は、総売り上げが高い商品陳列としてはカード 3 に次いだカード

評価を獲得している(考察 1)。つまり、カード 7 は総売り上げが高

い商品陳列でもあり、かつ特定のパンを強調的に売る商品陳列でも

あるということが言える。最も総売り上げが高い商品陳列であるカ

ード 3(考察 1)は左右対称に「陳列棚の高さ」「垂れ幕」「POP」の 3

つの項目を配置し、前後両方の商品を強調出来るように項目を配置

しているので、特定のパンを強調的に売る商品陳列としては、尐し

ではあるがカード 7 より劣っている(分析 4)。しかし、カード 7 と

の差もわずかであり、カード 3 もカード 7 と同様に、総売り上げが

高い商品陳列であり、かつ特定のパンを強調的に売る配置でもある

ということが言える。

また、特定のパンを強調的に売る際に最も適さない商品陳列は、

カード 5 である(分析 4)。つまり、カード 5 は総売り上げが高い商

品陳列としてはカード 1~9 の内、5 位のカード評価を獲得している

が(考察 1)、特定のパンを強調的に売る際には適さない商品陳列であ

ることが分かる。カード 6 は、上記に示した特定のパンを強調的に

売る際に最も適さない商品陳列であるカード 5 と総売り上げが高い

商品陳列としては同得点のカード評価を取得しているにも関わらず

(考察 1)、特定のパンを強調的に売る際に適した商品陳列としては 3

位の得点を獲得している(分析 4)。つまり、カード6は特定のパンを

強調的に売る際にのみ適している商品陳列であることが分かる。

逆に総売り上げが高い商品陳列としてのみ適している商品陳列は

カード 5 とカード 6 の比較により、カード 5 であると言える。

7.6 考察 6(考察 2・3・4・5 より)

考察 5 を踏まえ、各カードが購買意欲を高める商品陳列である理

由を述べる。以下は考察 4 より「パンの積み上げ高さ」を考慮せず

に考える。また、最も重要度の高い「垂れ幕」(考察 3)は 3 水準の

うち、「両方」が最も高い購買意欲を示していることを前提とする(考

察 2)。

まず、カード 3 と 7 が総売り上げが高い商品陳列であり、かつ特

定のパンを強調的に売る商品陳列である理由を述べる。「陳列棚の高

さ」「POP」の水準は「垂れ幕」と同様に、「両方」が最も購買意欲

を高め、次に互いに「無し」「片方」が購買意欲を高める(考察 2)。

上の 3 つの水準全てが「両方」であるカード 3 が、最も購買意欲を

高める商品陳列であることに繋がり、続いて購買意欲を高める商品

陳列は、「垂れ幕」が「両方」、「陳列棚の高さ」は「無し」、「POP」

は「片方」であるカード 7 の商品陳列であると考えられる。

また、総売り上げのみが高い商品陳列はカード 5 である。ここで

は、総売り上げが高い商品陳列としても、特定のパンを強調的に売

る商品陳列としても適しているカード 7 と比較する。考慮すべき 2

項目「陳列棚の高さ」「POP」の水準はカード 7 では「無し」「片方」

となっており、カード 5 では次に購買意欲を高めるとされている「片

方」「無し」となっている。つまり、水準の「片方」に注目すると、

「陳列棚の高さ」の「片方」は総売り上げが高い商品陳列として、

かつ特定のパンを強調的に売る商品陳列としても適し、それに比べ

「POP」の「片方」は総売り上げのみを高める際のみ適する商品陳

列である可能性がある。

逆に、特定のパンを強調的に売る商品陳列としてのみ適している

のはカード 6 である。上記で記していたカード 3・7・5 は最も重要

度の高い「垂れ幕」(考察 3)は 3 水準のうち、「両方」が最も高い購

買意欲を示していることを前提としていたが、カード 6 では「無し」

となっている(考察 2)。つまり、「垂れ幕」は重要度が高いが(考察

3)、特定のパンを強調的に売る商品陳列としてのみ適するとは言い

難い。また、垂れ幕の水準が「無し」であることを前提に考え、カ

ード 1・6・7 で比較すると、考慮すべき「陳列棚の高さ」「POP」

の水準はカード 6 では「両方」「片方」となっており、カード 1 と 7

に比べて購買意欲が高まることが考察出来る(考察 2・3)。

7.7 考察 7(考察 2・4・6 より)

「パンの積み上げ高さ」においての水準は「無し」「両方」「片方」

全てにおいてはこだわらず(考察 4)、かつ「陳列棚の高さ」「垂れ幕」

「POP」は水準のうち「両方」が最も高いため(考察 2)、上の 3 つ

の水準が「両方」である配置が最も適している可能性がある。つま

り、カード 3 がそれのうちの一つである(考察 6)。

8.まとめ(考察より)

本研究では、コンジョイント分析によって購買意欲を増すパン屋

の商品陳列を求める調査と分析考察を通じて、以下のような結果を

得た。以下は考察 4 より「パンの積み上げ高さ」を考慮せずに考え

る。また、最も重要度の高い「垂れ幕」は 3 水準のうち、「両方」

が最も高い購買意欲を示していることを前提とする。

①「パンの積み上げ高さ」「陳列棚の高さ」「垂れ幕」「POP」の有

無に関しては「両方」が、消費者の購買意欲を増すことが分かった。

②「垂れ幕」を最重要視されており、「パンの積み上げ高さ」は重要視

されていないことが分かった。

③平面的パターンである「パンの積み上げ高さ」「陳列棚の高さ」は

水準の「無し」より「片方」の方が部分効用値は低く、立面的パターン

である「垂れ幕」「POP」は水準の「片方」より「無し」の方が部分効用

値は低いことが分かった。また、「パンの積み上げ高さ」は水準によ

って評価されにくいことが分かった。

④総売り上げが高い商品陳列であり、かつ特定のパンを強調的に

売る配置はカード 3 と 7 であった。考慮すべき「陳列棚の高さ」

「POP」の水準が購買意欲を高めるとされるものであるからだと考

えた。また、特定のパンを強調的に売る配置はカード 6 であった。

カード 7 と比較をし水準の「片方」に注目すると、「陳列棚の高さ」

の「片方」は総売り上げが高い商品陳列として、かつ特定のパンを

強調的に売る商品陳列としても適し、それに比べ「POP」の「片方」

は総売り上げのみを高める際のみ適する商品陳列である可能性があ

った。逆に、総売り上げのみが高い商品陳列はカード 5 であった。

「垂れ幕」は重要度が高いが、特定のパンを強調的に売る商品陳列

としてのみ適するとは言い難いと考えた。カード 1・6・7 で比較あ

すると考慮すべき「陳列棚の高さ」「POP」の水準はカード 6 では

「両方」「片方」となっており、カード 1 と 7 に比べて購買意欲が

高まることが考察出来た。

⑤購買意欲を増す上で最も適した商品陳列は「パンの積み上げ高

さ」においてはこだわらず、かつ「陳列棚の高さ」「垂れ幕」「POP」

の水準が「両方」である配置であった。つまり、カード 3 がそれの

うちの一つであった。

9.おわりに

ここまで、パンの商品陳列について陳列棚の前での来客者の購買

意欲と陳列方法との間の関係を調査し、分析考察した。コンジョイ

ント分析を用いたことで、多様な評価基準があり膨大な量となりか

けた本調査での AC を 13 枚に絞ることができ、さらに被験者の意識

を定量的に把握することができた。

しかし、商品陳列の左右対称性を調べる予備調査では 75%が左右

対称であるという結果だった。今回は被験者の負担軽減のため極力

簡潔に AC を作成することを意図したため、再調査せず本調査に進ん

だが、水準設定の厳密性に欠けていたことも否めない。今後、左右

の違いも水準に含めたうえでの調査分析を行う必要がある。また、

予備調査、本調査ともに使用した AC の作成について、実際にパン

を購入する視線・雰囲気に近づけることは極めて困難で、正確に被

験者が状況を判断することができたか疑わしい。既往論文に基づい

た調査方法に近づくためにアンケートという方法をとったが、現地

にて調査を行うことも有効であったと考える。さらに、分析 4 の図

13 より、カード 1~9 において以上の分析・考察が正しく成り立っ

ているかの確認を行った。すると、基準より、パン a と d の割合が

近い値で高い傾向にあることから、個人的嗜好に伴いパン a と d が

人気のパンであることが分かった。今回の調査では分析対象の選出

を行ったが、個人的嗜好がまだ取り除けていない部分があり、分析

結果に多尐影響したと言える。今後はサンプル数を増やし、個人的

嗜好が加味されないようにしていくべきである。

付録 1 アンケート冊子 1 ページ

付録 2 アンケート冊子 2 ページ

付録 3 アンケート冊子 3 ページ

参考文献

1) パンのすべてがわかるポータブルサイト おいしいパン.net

http://www.oishii-pan.net/knowledge/history_japan.html

2) 立岡恵介、吉田 哲、宗本順三:購買行動と商品陳列方法のベイジアン

ネットワーク分析,日本建築学会計画系論文集 第 73 巻 第 633

号,pp2349-2354, 日本建築学会,2008 年 11 月

3) 立岡恵介、吉田 哲、宗本順三:店舗内の購買行動のベイジアンネット

ワーク分析,日本建築学会計画系論文集 第 73 巻 第 634 号,pp2633-2638,

日本建築学会,2008 年 12 月

4) 岸本有之、高橋 徹、高橋雅和、山田 隆志、津田 和彦、寺野 隆雄:

エージェント・シミュレーションによる店舗内顧客行動と販売促進策の分

析,電子情報通信学会技術研究報告,pp87-92,社団法人日本経営工学会,2009

年 2 月

5) 増田浩通、菊池晋矢、新井 健:エージェントベースシミュレーション

による小売店舖レイアウトの効果分析,日本経営工学会論文誌, pp128-144,

社団法人日本経営工学会,2009 年 8 月

・藤村純平、近藤加代子:太陽光発電普及拡大のための補助金制度に関する

消費者調査研究,日本建築学会報告九州支部第 48 号,pp669-672,日本建築

学会, 2009 年 3 月

・渡邉賢太: 3 次元映像を用いたコンジョイント分析による景観評価手法に

関する研究,立命館大学修士論文集,pp239-242,2009 年

・川島祐介、長澤夏子、渡辺仁史:コンジョイント分析を用いた腰部疾患者

の経路選択要因に関する調査,研究報告集Ⅱ,pp57-60,日本建築学会, 2006

年 2 月

注 1)依存関係のある変数の間を向きを持ったリンクで結び、リンクをたどっ

たパスが循環しないような非循環有向グラフで表せられる確率モデル。

注 2)複雑適応系解析手法の一つ

注 3)消費者が複数の商品から1つを選ぶ場合、それぞれの評価項目がどの程

度目的変数(購入度合)に影響を与えているかを明らかにする分析手法。