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合同シンポジウム 一緒にやろうや!「住」開催報告 一般社団法人 日本リハビリテーション工学協会 関西支部 幹事 NPO 法人 ケアリフォームシステム研究会 平成27 年全国大会実行委員長 川村義肢株式会社 建築工房かわむら 林 威智郎 1.はじめに 初の試みのシンポジウムを今年 3 月 21日に大阪の 川村義肢株式会社 大東本社で開催致しました。 初の試みとは頸損者を中心とした住環境整備につい て、当事者を含め多職種・多団体が一緒に開催する ということです。 これまで、頸損連でも住環境に関するディスカッ ションや勉強会はあったと伺っており、いくつかの NPO 団体などにおいても、高齢者を中心とした住環 境勉強会を開催されています。 そんな中、ある住環境を考える団体は、介護保険 に伴い住環境整備の認知度も上がり安定期に入った ため、今後何について議論していこうか…と悩まれ ているとのこと。 本当に問題はないのでしょうか?日本に住む人々が 笑顔で暮らせているのでしょうか? 一団体のみが集まり研鑽しても、無限ループに陥る だけで本当の問題点がみえてこないのではないかと 感じています。 今回、全国頸髄損傷者連絡会・日本リハビリテー ション工学協会が主催、日本福祉のまちづくり学会 関西支部と NPO ケアリフォームシステム研究会が共 催となり、頸損者の住環境整備を中心としたシンポ ジウムの開催ができたことは、それだけでとても意 味あるものだったのではないでしょうか。 ここではお手伝いをさせていただいたこのシンポ ジウムの主催側の目線と、実際に住環境整備に携わ っている観点から報告させていただきます。 2.NPO ケアリフォームシステム研究会について 聞き慣れない団体ではないでしょうか。でも実は 10 年以上前から活動している団体です。 「手すりを取り付ける、段差をなくす… 確かにそ れらは必要だが、それだけが福祉住環境に必要なリ フォームではない。対象者一人一人の身体状況や家 屋の条件によって、必要な整備・福祉機器は様々で あり、どのような方でも自立(律)できる環境をつ くることが重要。どうしても介護が必要な場合でも、 家族や介助者が介助しやすい環境をつくることでお 互いの負担を減らすことが大切」との考えのもと活 動しているのです。 自立(律)することを諦めなければ、人生はもっ と豊かになります。そんな能動的な自立(律)への 想いから、介護リフォーム(福祉住環境整備)を「ケ アリフォーム」と呼んでいます。 ケアリフォームシステム研究会の会員はその様な 教育を受けた工務店からなります。全国に展開して おり、当事者に合わせた住環境の相談を各地で受け られる体制づくりを目指しています。 今回のシンポジウムをみんなで共有し現場へ落と し込み、反映するためには必要不可欠な団体といえ ます。 3.シンポジウムについて 当日は終 日天候にも 恵まれ、関 西だけでは なく、九 州・中国・ 関東地域な どから 82 名のご参加を頂き、ボランティア、スタッフ、介助 者を含めると 120 名程の方々にお集まりいただけま した。 内容としては、日本リハビリテーション工学協会 より日本の住居取得施策の変遷や諸外国との比較な ど、障がい者の住まいに対し国の施策が追いついて SSKA頸損 No.116 2015 8 4 日発行 21

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合同シンポジウム 一緒にやろうや!「住」開催報告

一般社団法人 日本リハビリテーション工学協会 関西支部 幹事

NPO法人 ケアリフォームシステム研究会 平成27年全国大会実行委員長

川村義肢株式会社 建築工房かわむら 林 威智郎

1.はじめに

初の試みのシンポジウムを今年3月21日に大阪の

川村義肢株式会社 大東本社で開催致しました。

初の試みとは頸損者を中心とした住環境整備につい

て、当事者を含め多職種・多団体が一緒に開催する

ということです。

これまで、頸損連でも住環境に関するディスカッ

ションや勉強会はあったと伺っており、いくつかの

NPO 団体などにおいても、高齢者を中心とした住環

境勉強会を開催されています。

そんな中、ある住環境を考える団体は、介護保険

に伴い住環境整備の認知度も上がり安定期に入った

ため、今後何について議論していこうか…と悩まれ

ているとのこと。

本当に問題はないのでしょうか?日本に住む人々が

笑顔で暮らせているのでしょうか?

一団体のみが集まり研鑽しても、無限ループに陥る

だけで本当の問題点がみえてこないのではないかと

感じています。

今回、全国頸髄損傷者連絡会・日本リハビリテー

ション工学協会が主催、日本福祉のまちづくり学会

関西支部と NPOケアリフォームシステム研究会が共

催となり、頸損者の住環境整備を中心としたシンポ

ジウムの開催ができたことは、それだけでとても意

味あるものだったのではないでしょうか。

ここではお手伝いをさせていただいたこのシンポ

ジウムの主催側の目線と、実際に住環境整備に携わ

っている観点から報告させていただきます。

2.NPOケアリフォームシステム研究会について

聞き慣れない団体ではないでしょうか。でも実は

10年以上前から活動している団体です。

「手すりを取り付ける、段差をなくす… 確かにそ

れらは必要だが、それだけが福祉住環境に必要なリ

フォームではない。対象者一人一人の身体状況や家

屋の条件によって、必要な整備・福祉機器は様々で

あり、どのような方でも自立(律)できる環境をつ

くることが重要。どうしても介護が必要な場合でも、

家族や介助者が介助しやすい環境をつくることでお

互いの負担を減らすことが大切」との考えのもと活

動しているのです。

自立(律)することを諦めなければ、人生はもっ

と豊かになります。そんな能動的な自立(律)への

想いから、介護リフォーム(福祉住環境整備)を「ケ

アリフォーム」と呼んでいます。

ケアリフォームシステム研究会の会員はその様な

教育を受けた工務店からなります。全国に展開して

おり、当事者に合わせた住環境の相談を各地で受け

られる体制づくりを目指しています。

今回のシンポジウムをみんなで共有し現場へ落と

し込み、反映するためには必要不可欠な団体といえ

ます。

3.シンポジウムについて

当日は終

日天候にも

恵まれ、関

西だけでは

な く 、 九

州・中国・

関東地域な

どから 82

名のご参加を頂き、ボランティア、スタッフ、介助

者を含めると 120名程の方々にお集まりいただけま

した。

内容としては、日本リハビリテーション工学協会

より日本の住居取得施策の変遷や諸外国との比較な

ど、障がい者の住まいに対し国の施策が追いついて

SSKA頸損 No.116 2015年 8月 4日発行

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いない実情が発表されました。次に課題提供として

兵庫頸損連から衝撃的な発表がありました。それは

思い出のつまった住み慣れたマンションを手放し新

築を建てたという実体験でした。バリアフリー設計

ではなかったマンションは電動車椅子ではそのまま

暮らすことができず、震災時の津波や非常時のエレ

ベーターの緊急停止などから身を守ること、家族と

幸せに暮らすことなどから、意を決して新築を検討

されたとのことでした。夢にまで描いた新築が完成

し生活を始めると、実は浴室に入れず、家族とも一

緒に食事ができないものになってしまっていたとい

う事例です。この発表では以下のポイントが挙げら

れていました。

① 福祉住環境に詳しい専門家に相談すること

② 相談できる相談窓口が少ないこと

③ 設計者と頸損者の家に行き、確認すること

④ 動作シミュレーションを行うこと

実体験から得られたこれらのポイントは、新築を含

めた住環境整備と向き合う上で、核心をついたポイ

ントばかりだと感じました。最後に発表者は心の叫

びにも似た願いでしめくくってくださいました。

① 身障者の要望に応えてくれる家づくりをお願い

したい

② 建築のプロとしての知識を最大限に発揮しても

らいたい

③ 身障者の目線に立って考えてもらいたい

それに応えるかのように、ケアリフォームシステ

ム研究会からの発表では、事故直後の将来に希望も

持てなかった頚損のお客様に対し、同じ境遇で暮ら

している方を

紹介すること

で、「環境が笑

顔で生きる自

信を与える」

ことを伝えて

くれる事例で

した。福祉用

具を含めた住環境整備の提案だけではなく、保険の

相談も受け、心にそっと寄り添う発表者の活動は、

正に前者の発表に応えたものだったと感じました。

今回のシンポジウムで現状の問題と答えが浮き彫り

になったのではないでしょうか。

4・さいごに

今回のシンポジウムを通して、当事者の思い、福

祉住環境整備に携わる建築側のあるべき姿をしっか

りと確認することができました。

大切なことは受傷(発症)直後の錯乱期において、

何をどうしていいか分からない、どこに聞いていい

かもわからない、そんな時期をどう乗り越えていく

か。そんな大変な時期に住まいづくり(環境整備)を

強いられる状況下において、適正な工務店を探す事

の難しさ。それを解消するためには、多職種が連携

する事が大切。しかし、それを言い続けて何年も経

っている現状があり、そんなことは絵空事ではない

か。では、今後どうすべきなのか・・・

心に残ったのは、パネルディスカッションでの会

場からの一言です。

「対象者をキッチリとコーディネートする人が必要

であり、それはソーシャルワーカーでもセラピスト

など『職種』ではなく誰でもいい。建築士であろう

が福祉用具専門相談員であろうが、きちんと対象者

のロードマップが描ける人が旗振り役となってサポ

ートする事が大切」

本来、社会福祉士がそうなるべき資格かもしれま

せんが、その仕組みが生かされていない現状におい

て、問題を解決するためにはそれしかないのだと…。

今回のシンポジウムでこれらの核心的な問題点や、

あるべき姿を参加いただいた多職種の方々と共に、

共通の認識として捉えられたことが、とても大きな

成果だったのではないかと私は思います。今回で終

わりではなく、今後もこの 4団体で協力し、働きか

けることこそが日本に住む全ての人が笑顔で暮らせ

る鍵なのだと考えます。

<第 13回ケアリフォームシステム研究会全国大会 in 大阪>

開催日:2015年 9月 12日(土)

会 場:大阪府大東市御領 1‐12‐1

川村義肢株式会社 大東本社 ホール

SSKA頸損 No.116 2015年 8月 4日発行

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