6
大学院 固体物理学 自由電子フェルミ気体からエネルギーバンドまで 担当:山崎 Ver.2 1回目:自由電子ガスと状態密度 2回目:FD分布関数と電子気体の比熱 3回目: 電気伝導率とホール効果 バンド構造とエネルギーギャップ 4回目: ブロッホの定理 とクローニッヒ・ペニー模型 5回目: 1電子近似の波動方程式と空格子近似 [電子の取り扱いに関して] 正確な(または適切な近似による)取り扱いは,固体中での正しい 電子構造を導く. ・遍歴モデル ポテンシャルを感じない自由電子 原子核や他の電子,その他もろもろによる静的な周期ポテ ンシャル(平均場)を感じる電子 静的平均場に加えて,格子点上で電子間のクーロン反発力 を感じる電子 動的な平均場を感じる電子 ・局在モデル 原子核による中心ポテンシャルを感じる(内殻)電子 格子点上に局在しているか,摂動的に隣の格子点にも移動 できる電子 ・その他 他の構成原子との間で分子軌道をつくる スピン軌道相互作用などをとりいれる [自由電子ガス] 自由電子モデルとは 金属の中を自由に動き回る電子のモデル. 金属中の原子の価電子は,伝導電子になっており, これを自由電子と見なすことで, 金属の多くの物理的性質(比熱,電気伝導率,熱伝導率など)を 理解できる. 一般には,「自由電子ガス」と呼ぶ. パウリの原理に従う自由電子気体. [パウリの原理] 「2個の電子が全ての量子数について同じ値をとることは出来ない.」 :主量子数 (    の整数) :軌道量子数 (        の整数) :磁気量子数 ( の整数) :スピン磁気量子数 ( 0 n - 1 n, `,m ` ,m s n ` m ` m s -` m ` ` m s = ± 1 2 n 1

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大学院

固体物理学自由電子フェルミ気体からエネルギーバンドまで

担当:山崎

Ver.2

1回目:自由電子ガスと状態密度

2回目:FD分布関数と電子気体の比熱

3回目: 電気伝導率とホール効果    バンド構造とエネルギーギャップ    4回目: ブロッホの定理 とクローニッヒ・ペニー模型    5回目: 1電子近似の波動方程式と空格子近似

[電子の取り扱いに関して]正確な(または適切な近似による)取り扱いは,固体中での正しい電子構造を導く.

・遍歴モデル•ポテンシャルを感じない自由電子•原子核や他の電子,その他もろもろによる静的な周期ポテンシャル(平均場)を感じる電子•静的平均場に加えて,格子点上で電子間のクーロン反発力を感じる電子•動的な平均場を感じる電子

・局在モデル•原子核による中心ポテンシャルを感じる(内殻)電子•格子点上に局在しているか,摂動的に隣の格子点にも移動できる電子

・その他•他の構成原子との間で分子軌道をつくる•スピン軌道相互作用などをとりいれる

[自由電子ガス]自由電子モデルとは金属の中を自由に動き回る電子のモデル.

金属中の原子の価電子は,伝導電子になっており,これを自由電子と見なすことで,金属の多くの物理的性質(比熱,電気伝導率,熱伝導率など)を理解できる.

一般には,「自由電子ガス」と呼ぶ.パウリの原理に従う自由電子気体.

[パウリの原理]「2個の電子が全ての量子数について同じ値をとることは出来ない.」

          :主量子数 (    の整数)

          :軌道量子数 (        の整数)

          :磁気量子数 (        の整数)

          :スピン磁気量子数 (      )

0 � � � n� 1

n, `, m`, ms

n

`

m`

ms

�` m` `

ms = ±1

2

n � 1

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アルカリ金属(Li, Na, K, Rb, Cs)アルカリ土類金属(Be, Ca, Sr, Ba, Ra)貴金属(Cu, Ag, Au)の伝導電子は,自由電子に近い振る舞いを示す.

ナトリウム金属結晶(BCC):[Ne]3s1(伝導電子)

「伝導電子の海」伝導電子の低温での平均自由行程は,1cm以上(原子間距離の108倍)                古典的には考えにくい(1)周期的な配列のイオン殻には散乱されない.(2)他の伝導電子に散乱される(散乱過程に,波数に関する厳しい制限が付く).

        電子間相互作用   なし            あり             自由電子ガス        フェルミ液体        (フェルミ気体)      (フェルミ流体)   電子        電子間相互作用が             質量に繰り込まれた                準粒子

[一次元自由電子ガス]

両端が無限大のエネルギー障壁によって長さLの線上に束縛されている.井戸の中のポテンシャルエネルギーはゼロとする.

Schrödinger方程式は,

       n番目の電子の波動関数       n番目の軌道にいる電子のエネルギー

※ これは1電子に対する波動方程式であり,  多電子系では電子間に相互作用が無い場合にのみ厳密に成り立つ.

境界条件は,

これを満たすには,...

0L

H⇥n = � �2

2m

d2⇥n

dx2= �n⇥n

�n

�n

· · ·(1)

�n(0) = �n(L) = 0

0

E

�n =2n

L

境界条件は,

これを満たすには,先に示したような正弦波であればよい.

従って,

Aは規格化定数.nは正の整数.

[演習](1)に(2)’をいれてエネルギー固有値を求めてみよう.    また,規格化定数Aを求めてみよう.

�n(0) = �n(L) = 0

⇤n = A sin�2⇥

�nx⇥

�n =2n

L

⇥n = A sin�n�

Lx⇥

· · ·(2)

· · ·(2)�

H⇥n = � �2

2m

d2⇥n

dx2= �n⇥n · · ·(1)

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n番目の準位には,2個の電子(up-spinとdown-spinの電子)が入ることが出来る.すなわち,この系の量子状態はnとms(±1/2)で決まる.

N電子系では,N=2nFとなるnFまで準位は占められる.(基底状態)この時の最高準位のエネルギー(フェルミエネルギー)は,

                            ↑個々の準位が二重に                  (一次元)      縮退しているため.

[フェルミエネルギー]基底状態(絶対零度)において,電子によって占められたうちで最高の準位(軌道またはバンド)のエネルギー

�F =�2

2m

�nF ⇥

L

⇥2

nF =N

2

=�2

2m

�N�

2L

⇥2

[三次元の自由電子気体]三次元の自由電子気体についての Schrödinger方程式は,

電子が一辺Lの箱に閉じこめられている時,               と書けるとすると,

が得られる.ここで,nx, ny, nzは正の整数.箱の中に閉じこめられた定在波に対して以下の境界条件を考えると,

自由な電子が作る進行波

を考えることができる.これは,(6)を満たすので固有関数である.[演習](6),(8),(9)から,エネルギー固有値とkの取り得る値をだしてみよう.    (       の各成分ごとに考える)

�(x + L, y, z) = �(x, y + L, z) = �(x, y, z + L) = �(x, y, z)

· · ·(6)

· · ·(7)

· · ·(8)

�k (r) = eik ·r · · ·(9)

kx, ky, kz

� ~22m

r2 (r) = ✏k (r)

(r) = (x) (y) (z)

n

(r) = A

3 sin⇣n

x

L

x

⌘sin

⇣n

y

L

y

⌘sin

⇣n

z

L

z

[補足]運動量と粒子の速度[演習](9)式の波動関数ψk(r) が固有関数である運動量pの固有値を求めよう.

�k (r) = eik ·r · · ·(9)

三次元の場合,電子によって占められた状態はk空間の球の内部に収まっている.この球をフェルミ球とよび,この時の半径をフェルミ波数 kF と書く.球の表面のエネルギーはフェルミエネルギーに対応する,

kx,ky,kzはとびとびの値           をとる.即ち,ある1点が体積     のなかに存在している. 

フェルミ球内     にあるk点の数は,     個.       

この1点には2つの状態(spin upとspin down)があるので,結局,状態の総数N は,

となる.

�2�

L

⇥3

(L3 = V )

N =2 · 4

3�k3F�

2�L

⇥3

=k3

F L3

3�2

=V

3�2k3

F

�43�k3

F

� 43�k3

F�2�L

�3

· · ·(10)

2ni⇡

L(i = x, y, z)

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kx

ky

kz

02�

L4�

L

2�

L4�

L

�2�

L

�2�

L

2�

L

4�

L

�2�

L

�2�

L

⇥3 各k点には2つの状態(spin up, spin down)

体積要素

kF =�3�2N

V

⇥ 13

従って,フェルミ球の半径は状態数N に依存する.

· · · (10�)

先のエネルギー固有値を求める演習からわかるように,フェルミエネルギーはフェルミ波数を用いて表すと,

となり,ここで,先に求めたフェルミ波数((10’)式)を代入すると,

となり,フェルミエネルギーは電子密度に依存することがわかる.Nを,系の決まった電子数ではなく,変数と考えると,(10)式,(11)式は一般的なエネルギーと波数でも書くことができるので,

これらから,Nはエネルギーの関数になり,

となる.さらに,状態密度を        と定義すると,              が得られる.

�F =�2

2mk2

F

=�2

2m

�3�2 N

V

⇥ 23

· · ·(11)

N =(2m) 3

2

�3

V

3⇥2�

32

D(�) � dN

d�D(�) =

V

2⇥2

(2m) 32

�3�

12

�F · · · (12)

N =V

3�2k3 · · · (10��) � =

�2

2mk2 · · · (11)

N =(2m) 3

2

�3

V

3�2�

32

lnN = ln�

(2m) 32

�3

V

3�2�

32

=32

ln � + ln�

(2m) 32

�3

V

3�2

=32

ln � + const.

d lnN

d�=

32

d ln �

d�d lnN

dN

dN

d�=

32

· 1�

dN

N=

32

d�

D(�) � dN

d�=

23

N

�� �

32

�= �

12

D(�F ) =32

N

�F

また,          から

両辺を微分して,

もともと     なのでN � �32

← 結局,依存性は同じ.

となる.

つまり,フェルミエネルギーにおける状態密度は,伝導電子の数をフェルミエネルギーで割ったものとだいたい等しい.

� �12

三次元の場合

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ちなみに,先に求めた電子の速度と波数の関係から,

フェルミ波数をもつ電子の速度(フェルミ速度)は

と求まる.つまり実験から,         を求めると,

電子密度に関する知見が得られる.

Cui et al., Phys. Rev. B 82, 195132 (2010)

Fe薄膜

vg =�k

m

vF

�=

1�

dE

dk

����k=kF

dE

dk

vF =~kFm

=~m

⇣3⇡2N

V

⌘ 13

kx

ky

kz

02�

L4�

L

2�

L4�

L

�2�

L

�2�

L

2�

L

4�

L

�2�

L

�2�

L

⇥3

kx

ky

02�

L4�

L

2�

L4�

L

�2�

L

�2�

L

�2�

L

⇥3

kx

02�

L4�

L

電子によって占められる領域

1つのk点が占める要素

3次元 2次元 1次元

43�k3

F

面内方向

面内方向

面間方向

チェーン方向

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