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夏のうだるような暑さとは打って変わり、心地よいさわやかな空気が 楽しめる高原地域。そうした気持ちよさに加え、高原は夏に撮影す るのに最適な舞台。本特集では、5 名の写真家の作品を東北か ら四国までの撮影地別に紹介する。この夏はぜひ高原に行き、肌 で感じた空気感を写真で表現してみよう。 特集 爽やかな風に誘われて 東北から四国までの 撮影地別! 空気感 でとらえる 高原風景 写真:宮武健仁 標高約 2000m の美ヶ原高原。1/25 秒のスローシャッターで風に揺れる爽 やかな夏草を表現。ハイポジション で奥行き感も演出しました。

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夏のうだるような暑さとは打って変わり、心地よいさわやかな空気が楽しめる高原地域。そうした気持ちよさに加え、高原は夏に撮影するのに最適な舞台。本特集では、5 名の写真家の作品を東北から四国までの撮影地別に紹介する。この夏はぜひ高原に行き、肌で感じた空気感を写真で表現してみよう。

特集爽やかな風に誘われて

東北から四国までの

撮影地別!

空気感でとらえる夏の高原風景

写真:宮武健仁

標高約 2000m の美ヶ原高原。1/25秒のスローシャッターで風に揺れる爽やかな夏草を表現。ハイポジションで奥行き感も演出しました。

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EOS 5D Mark III・EF28mm F2.8 IS USMF8・1/10 秒・ISO200

古市智之

駒止湿原(福島県)

東北の高原

日本の夏は高温多湿。地上

の猛暑を逃れて高原に撮

影に出掛けるのが楽しみの一つ

ですが、広い高原を何も考えず

に撮影してしまうと、ただ広い

だけの散漫な写真になってしま

います。また、多くの人が高原

といって思い浮かぶのは広い草

原に青い空、そこにぽっかりと

浮かぶ白い雲というイメージで

しょう。しかし、日本は南北に

長く、同じ高原でも北海道と九

州では表情がまるで違ってきま

す。大事なのは、その土地の特

色を生かし、既成のイメージに

とらわれないこと。

 

駒止湿原は7月中旬から見事

なワタスゲ群落が撮影できます。

そして同時期に、ニッコウキス

ゲやヒオウギアヤメなども咲き

競い、小規模な湿原ながら被写

体が豊富です。主役となるポイ

ントは花をはじめ、水や樹など

視覚的に印象に残るものを選び、

それを取り巻く環境を適度に見

せることが大事になってきます。

天候が急変することも珍しくな

いので、防寒対策などしっかり

と準備をしていきましょう。

ふるいち・ともゆき1967 年、東京都生まれ。写真家、竹内敏信氏に師事。新聞社の嘱託カメラマンを経て、フリーランスとなる。2013 年版キヤノンカレンダー写真作家選出を機に風景写真家宣言。同カレンダーにて第64回全国カレンダー展日本印刷産業連合会会長賞を受賞。主な写真集に『原始 小笠原』。日本写真家協会会員。

ワタスゲ群落など被写体が豊富主役と周囲の環境を意識すること

雨天の霧に包まれた幻想的な駒止湿原この年はワタスゲの当たり年だと聞き撮影に向かいましたが、折悪しく雨。一面のワタスゲ群落はあきらめ、シラカバをポイントに構図を決め、霧に包まれた湿原の静寂感を表現。

撮影地◎駒止湿原

EOS 5Ds R・EF24-70mm F2.8L II USMF2.8・1/1250 秒・ISO200

主役を明確に決めひまわりの気高さを表現夏は広大なひまわり畑となる三ノ倉高原。眼前に広がるひまわりの中から、畑の端っこで雑草に囲まれて立つひまわりをポイントに決め、人知れず咲く気高さを狙いました。

撮影地◎三ノ倉高原

南会津町

喜多方市

駒止湿原

三ノ倉高原

館平岳▲

家老山▲

▲唐倉山

大博多山▲

高曽根山▲▲高森山

▲高山

▲立石山

▲長峯

中荒井

会津田島400

289401

121

459

13 2016年7月号

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EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F8・1/50 秒・ISO100

工藤智道

渋峠(群馬~長野県)

関東・甲信越の高原

群馬県から長野県へとつな

がる、国道292号線。

標高2172mと日本の国道と

しては最高地点を通る道路であ

り、車で一気に2000mを超

える場所に行けるのが魅力的で

す。国道沿いには草原地帯や森

林限界に近い変化に富んだ景色

を見ることができ、夏の暑い時

期でも涼しく快適に撮影が行え

ます。ただ、朝晩は寒え込むこ

ともあるため、防寒対策が必要

です。

 

渋峠は標高が高いため雲の流

れなど気象の変化に富んでお

り、朝夕にはドラマチックな雲

や、濃い緑が魅せる山々の表情

も楽しめます。夏の強い日差し

に浮かぶ山の風景ではPLフィ

ルターを使い、葉の表面の反射

を除去して濃い緑を引き出すと

夏らしい表情を撮ることができ

ます。日中のトップライトより

も朝夕の斜光線の時間帯に撮影

すると、陰影ができ、立体感の

ある表情に。ここでは広大な風

景を見ることができますが、広

角で広く撮るのではなく望遠レ

ンズの圧縮効果を生かし、迫力

を引き出すことが大切です。

くどう・ともみち1969年、神奈川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信氏のアシスタントを経て独立。日本の四季折 の々風景を独自の視点で見つめ、写真専門誌などで多くの作品を発表。フォトコンテストの審査員、写真教室の講師も多く務める。日本写真家協会会員。EOS学園東京校講師。

気象の変化が生む山のさまざまな表情が魅力の高原地帯

太陽と雲がつくり出す一瞬の表情一面の濃い緑に覆われた山の斜面に、点在する木々。夏の強い日差しがつくり出す影が、立体感のある風景を演出してくれます。

撮影地◎渋峠

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USMF13・1/13 秒・ISO100

森林限界に立つ独特の樹形は恰好の被写体標高が上がるにつれ木 は々少なくなり森林限界に。独特の樹形をした木 を々、刻 と々変化する山の表情とともに撮影しました。

撮影地◎渋峠

白砂山▲岩菅山▲

四阿山▲

渋峠405

292

292

406

406403

18

145

長野市

北陸新幹線

上信越自動車道

羽根尾

中之条町山ノ内町

吾妻線

万座・鹿沢口

15 142016年7月号

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EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USMF10・1/320 秒・ISO250

安念余志子

立山(富山県)

北陸の高原

実は「立山」という山はな

く、雄山、大汝山、富士

ノ折立など、3000m級の

山々を合わせて「立山連峰」と

呼んでいます。アクセスがいい

のが特徴で、室堂まではケーブ

ルカーや高原バスを乗り継いで

簡単に行くことが可能。その先

もトロリーバス、ロープウェイ、

ケーブルカーを乗り継げば黒部

ダムまでも足を延ばせます。

 

立山の魅力は何といっても四

季折々の景色。数えきれないほ

どの被写体に溢れ、高山植物や

山並み、池、美女平付近に広が

るブナ林。夜になれば、満天の

星空、そして、朝焼けに夕焼け

――。撮影の狙い目はやはり、

斜光の光が美しい朝夕です。遊

歩道からの撮影になるためレン

ズは中望遠、それにエクステン

ションチューブ(接写リング)

を用意していくとよいでしょう。

 

立山の夏は短く、雪の大谷が

まだ残っているうちに夏になり、

あっという間に紅葉の秋が駆け

足でやってきます。登山靴にダ

ウンジャケットなど準備万端で

撮影に臨みましょう。

あんねん・よしこ富山県生まれ。東京写真大学短期大学部(現東京工芸大学)卒業。高岡市・砺波市にてスタジオを経営しながら作家活動を行い、竹内敏信氏に師事する。2005年、第52回JPC全国展にて内閣総理大臣賞受賞。2008年、第15回前田真三賞受賞。写真集に『古寺愛歌井波瑞泉寺の四季』、『春はめぐりて となみ野古寺愛歌』、『光のどけき』。日本写真家協会会員。

朝夕の時間帯の光が魅せる夏のドラマチックな高山風景

真っ青な空にのびるハクサンボウフウ真っ青な空に夏の雲。寝転びながらハクサンボウフウと一緒に空を狙います。間延びしないよう雲と花の隙間を空けないのがポイント。

撮影地◎立山

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USMF6.3・1/250 秒・ISO400

風に揺れながら踊るチングルマの綿毛チングルマは花と綿毛の 2 度楽しめます。私が好きなのはチングルマの実である綿毛。風に揺れ踊るかわいらしい姿を狙いました。

撮影地◎立山

上市町

立山町

▲劔岳

▲鷲岳

上市

岩峅寺

横江

有峰口

北陸自動車道

富山地鉄立山線

本宮山麓

黒部ダム山頂

寺田

▲早乙女岳▲大辻山

6

17067

168

67

333

立山

17 162016年7月号

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辰野 清

高ボッチ高原(長野県)

甲信越の高原

たつの・きよし1959年、長野県生まれ。2003年、第11回前田真三賞受賞。2004年よりフリーランスとなり幅広く活躍中。

「一枚の写真の中に物語を描く」をモットーに日本の自然美を追い続けている。実践的な指導をもとに多くのアマチュア写真家を育成。写真集に『凛の瞬』。日本写真協会会員。日本風景写真協会指導会員。自然奏フォトアカデミーを主宰。

EOS 5D Mark II・EF24-105mm F4L IS USMF16・1/200 秒・ISO400

青空と雲の広がりによる気持ちのいい高原風景高原の夏を代表する花シシウドをポイントに、背後の雲による空間の広がりを意識。青空を際立たせる PL フィルターは欠かせません。

撮影地◎霧ヶ峰高原

EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USMF16・1/30 秒・ISO400

高原に漂う霧を生かし朝の臨場感を描く

天候が回復する朝。霧が濃いとレンゲツツジの描写が眠くなるため風向きによる霧の変化を待ち、うっすらと見える背景で朝の臨場感を表現。

撮影地◎高ボッチ高原

高ボッチ高原は信州の中央

に位置し、標高約160

0~1900mの山々からの眺

望は写真愛好家に人気がありま

す。諏訪湖を前景にした富士山

の雄姿は日本有数の絶景ですが、

反対側の北アルプスの夕景にも

隠れた人気スポットが多いです。

高原の爽やかな開放感もさるこ

とながら、閑静な佇まいからな

る心地よい清涼感が魅力。被写

体としては夏のレンゲツツジが

有名で、高原全体では6月中旬

~月末に最盛期を迎えます。特

に天候が崩れる前後では霧の演

出が期待でき、紅色とのマッチ

ングが美しいです。また、朝夕

の光線を狙う場合、下界は曇り

でも高原は晴れていることもあ

るので、とにかく足を運ぶこと

が出合いの近道といえます。朝

夕のアドバイスとして、地上を

描写するためのハーフNDフィ

ルター(ND8、ハードタイプ)

が必需品です。

 

稜線続きの霧ヶ峰高原も同じ

くレンゲツツジが咲きますが、

こちらは視界の開けた丘陵地の

ため、高原ならではの爽快な夏

風景を楽しむことができます。

雨天時に発生する霧と夏に咲くレンゲツツジとのマッチング

高ボッチ高原

長野自動車道

篠ノ井線

美ヶ原▲19

20

142

152

153 中央本線

諏訪湖

霧ヶ峰高原

岡谷市

諏訪市

▲鉢状山

19 2016年7月号

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宮武健仁四国カルスト

(愛媛~高知県)

四国の高原

みやたけ・たけひと1966 年、大阪府生まれ。幼少のころより徳島市に育つ。1988 年、東京工芸大学工学部写真工学科卒業。スタジオカメラマンを経て、1995 年、郷里の徳島に「宮武写真工房」設立。主な写真集に『四季紀伊』、『清流吉野川』、『桜島 生きている大地』など。日経ナショナル ジオグラフィック写真賞 2013グランプリ受賞。

夏らしい爽やかな景色が広がる石灰岩で有名なカルスト台地

EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USMF14・1/100 秒・ISO400

カルスト地形の牧歌的な光景を順光・広角で撮影奥行き感を意識して石灰岩の列を撮っていたら、9 時前に霧が晴れ清 し々い夏色の光景が現れたので、PL フィルターで色彩を強調。

撮影地◎四国カルスト

EOS 5D Mark III・EF20mm F2.8 USMF7.1・30 秒・ISO2000

夏の星座が輝く夜空を背景に霧の流れる夜の高原を撮る夜空に浮かぶ星と月に照らされうっすらと浮かび上がる石灰岩。午前 2 時半、運よく流れてきた霧が魔法のフィルターをかけてくれました。

撮影地◎四国カルスト

丸石山▲

▲五段城

正木の森▲

440

36

52

48

304

304

四国カルスト

東西約25

kmに帯状に広がる

四国カルストは、清流で

知られる四万十川と仁淀川の源

流に位置する高知県梼原町と愛

媛県久万高原町などの県境に位

置しています。サンゴなど太古

の海洋生物が元になってできた

石灰岩が、白い羊たちのように

点在しているカルスト地形で、

山口県の秋吉台や福岡県の平尾

台と並び「日本三大カルスト」

とも呼ばれています。1000

mを超える高山地帯にあり、夏

でも涼しく、星もよく見えます。

 

被写体としては何よりも黄緑

の草原の中に浮かぶ白い石灰岩

の群れの光景。加えて、放牧さ

れている黒い牛や大きな風力発

電のプロペラ群もアクセントと

して生きてきます。夏の高原風

景を狙う上で大切にしたいのは

「涼しそう」に撮ること。夜露に

濡れた草の生命感や早朝に湧く

霧や雲も生かしたいところ。朝

方、現地に早く着けたら天の川

や月の光が描く世界が見えるか

もしれません。訪れる際、出発

前後に靴の裏を洗って土を落と

し、伝染病や植物の種の運び屋

にならないよう注意が必要です。

久万高原町

梼原町

21 202016年7月号

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高原の広がりとボケを同時に表現できる広角単焦点レンズ単焦点レンズはズームよりも最短撮影距離が短く、「広角マクロ」のような使い方もできます。マクロレンズを使うという選択肢もありますが、高原の広がりとボケの表現が同時にほしいとき、広角単焦点レンズが 1 本あるととても心強いです。

使いやすい焦点距離とIS 搭載の機動力は、限られた撮影場所や三脚が使えない状況で重宝します。風景写真で広角ズームを使うときは、F 値を開放にしてボケを生かすより、絞って全体をシャープに見せる使い方が有効です。このレンズは設計が新しいため、描写力も高く、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれます。高原のみならず風景を撮る上で欠かせない鉄板レンズの一つ。

高原の撮影では歩くことが基本となるため、小型・軽量で取り回しがいい機材を選択するのも一つの方法です。このレンズ 1本あれば、高原では望遠系のほとんどをカバーできます。F2.8レンズにボケの大きさは一歩譲るものの、少し絞ったときの描写は良好。重さは約 760g。IS 搭載と軽さが相まって、スローシャッターにも手持ちで対応可能です。

標準ズームの場合、EF24-70mm F4L IS USM か EF24-105mm F4L IS USMとIS 搭載が通常かもしれませんが、私はあえて F2.8 のレンズをセレクトしています。標準域でボケを生かした撮影をしたいときは開放にするのが一番効果的です。それに、多く使用する焦点域をカバーする標準ズームなだけに、たとえ一絞りでも明るいほうが表現の幅は広がると考えているからです。

EF28mm F2.8 IS USM

広角から望遠までどんな被写体にも対応できる!

シャープな描写が主役を引き立てる小型・軽量で遠くから狙い通りに撮影

標準域で表現の幅を広げる「F2.8」

陽暮れ時の奥日光。倒木を葬送するように咲く白い花が印象的で、広角で寄って画面を構成。

御岳山のレンゲショウマ。ロープで区切られた場所から、望遠ズームで切り撮りました。

被写体が豊富な裏磐梯で撮影したツリガネニンジン。ボケ描写が紫色の花を引き立てます。

EOS 5D Mark IIIEF16-35mm F4L IS USMF11・20 秒・ISO100

EOS 5D Mark IIEF70-200mm F4L IS USMF4・1/80 秒・ISO200

EOS 5Ds R・EF24-70mm F2.8L II USMF2.8・1/100 秒・ISO400

高原撮影に持っていきたいEFレンズ5本!高原撮影へ行く際に大切なレンズ選び。さまざまなレンズがある中でどれをセレクトするべきか、レンズ選びのポイントを写真家、古市智之氏に解説していただきます。

広角

望遠

標準

EF16-35mm F4L IS USMEF70-200mm F4L IS USM

EF24-70mm F2.8L II USM

数多くの EFレンズ群にあってトップクラスの描写力。何より一番の魅力は最短撮影距離が約 0.98mとなり、400mmまでの焦点距離を生かした「望遠マクロ」のような使い方もできるところ。少し重いレンズではありますが、IS の効きも素晴らしく、EOS の高感度性能を考えれば十分手持ちでも撮影できます。使い勝手のいい頼れるレンズといえます。

使い勝手のよい頼れる望遠レンズ

天城高原に向かう途中、立ち寄った初景滝での夏の清冽な流れ。望遠で額縁構図をつくって撮影。EOS 5Ds REF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF8・4 秒・ISO100

EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

高原撮影に行く際は「ルールとマナー」を忘れずに

駒止湿原へ撮影に行った際、入り口にマナーの悪さに対する注意書きが書かれていました。風景写真を愛する者にとって、耳の痛い話です。少しでもいい写真を撮りたいという気持ちは分かりますが、写真は被

写体があって初めて成立するもの。高原でもどこでも、写真を撮る一人一人が「撮らせてもらっている」という謙虚な気持ちを忘れず、撮影に臨むことが大切です。

 

高原というと広大な風景を撮

るためにレンズは広角と思いが

ちですが、実際の撮影では狭い

木道や遊歩道からの撮影になる

ことが多く、またロープや杭な

ども点在しているため、望遠レ

ンズも必要になってきます。撮

影距離が自由なポートレートや、

構図よりも瞬間を大事にするス

ナップなら使うレンズはある程

度予想できますが、風景写真で

はそうはいきません。どのよう

な状況で被写体と出合えるか分

からず、撮影場所の制約も多い

となると、基本は広角から望遠

までのズームレンズが必須にな

ります。さらに言えば、植生保

護の観点や一般観光客の通行の

妨げになるようなら三脚の使用

も極力控えたほうがいいでしょ

う。そのため、手持ち撮影で威

力を発揮するIS搭載のズーム

レンズがあるとうれしいところ。

それに加え、ボケを生かした撮

影も考慮し、F2・8クラスの

標準ズームや単焦点レンズを組

み込めればベストな準備といえ

るでしょう。

IS搭載や開放F2・8

高原撮影に必須レンズ

解説:古市智之

23 222016年7月号

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Light Scape

風景写真にとって光は非常に重要な要素で、光の扱い方一つが写真の出来栄えを左右するといっても過言ではないでしょう。本特集では、3 人の写真家による光を意識した風景写真(= Light Scape)を掲載します。美しい風景を前にしながら、同時にその場にある光を見極める。晩秋から冬にかけての低い光は風景を立体的に浮かび上がらせてくれるため、光を生かした撮影にうってつけの季節。本特集を参考にぜひ挑戦してみましょう。

光で写す風景写真

特集

写真:GOTO AKI

富士山の 5 合目からの眺めです。雲間から太陽が顔を出し、フラットだった世界が急に立体的に見え、思わずシャッターを切りました。

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GOTO

AKI

福島県の五色沼で撮影した一枚。水面に反射する光を見つけ、前ボケで枯れた花の色みを入れながら上下に枯れ木を配し、水面の光を引き立てています。EOS 5Ds R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・F5.6・1/80 秒・ISO640

1972年、神奈川県生まれ。上智大学、東京綜合写真専門学校卒業。1993年の世界一周の旅をはじめ、旅をベースに、地球的な時間の流れをテーマとした作品に取り組んでいる。写真集に『LAND E S C A P E S 』、『 L A N D E S C A P E S -FACE-』。2015年版キヤノンカレンダー写真作家。EOS学園東京校講師。

GOTO AKI

光をつぶさに観察しながら

二次元の写真で表現する

Light Scape 1Light & Color空の光、反射する光

7 62017年11月号

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解釈を広げることで

さまざまな光が見えてくる

 

光というと、多くの人は太陽

の光――中でも晴れの日の太陽

の光を思い浮かべる人が多いの

ではないでしょうか。しかし実

際は、いつでも、どこにでも光

は存在しています。快晴の日は

もちろん、曇りや雨の日にも柔

らかな光があり、月光まで考え

たら夜でも光を感じることがで

きるでしょう。また、太陽のほ

かにも水や植物などに反射した

光があり、さらにはさまざまな

色彩も光の反射によって生まれ

ています。そうやって光の解釈

を拡げ、光を大きくとらえるこ

とが写真にとって大切です。

 

曇天の薄暗い日に空を見上げ

れば、その雲の中にハイライト

からシャドウまで豊かな光の階

調があることに気付きます。細

やかに光を見つめことで、自ず

と視点も広がり、今まで見えて

こなかったものが目に飛び込ん

でくるようになるでしょう。周

囲を見回し、そこにどんな光が

あるのかを考える。すると、世

界はあらゆる光に彩られている

ことに気付き、今まで以上に自

然の豊かな表情が見えてくると

思います。

光を意識することが

多くの出合いをもたらす

 

撮影に出掛けると、私は常に

さまざまな光を探し、いつも辺

りを見回しています。空から降

り注ぐ光だけでなく、足元でほ

のかに輝く光も、写真にすると

驚くほどきれいになる場合があ

ります。写真は、肉眼で見た世

界をありのままに写すことがで

きますが、目に入る光景から受

け取ったイメージをより豊かに

表現することも可能です。例え

ば、光が生み出す影を効果的に

取り入れることで、光の存在を

より強調させた世界を写し撮る

こともできるのです。

 

また、シャッターを切るとき、

私はそのときに抱いた感情を大

切にしています。美しい風景を

前にして、そこに自分が何を見

いだしたのか。美しいと思った

のか、もしくは怖さを感じたの

か、そうした感情をレイヤーと

して重ねていきたいのです。そ

して、光はそのレイヤーをつく

る上で重要な要素になります。

 

光の解釈を広げ、自然のさま

ざまな表情に目を向ける。時に

はカメラの眼を意識し、目の前

の景色から、写真にしたときの

表情をイメージする。すると、

ありふれた風景が光によって、

美しい写真を生み出す光景へと

変化してくるのが分かります。

 

晴れの日でも雨の日でも、自

然の中でも都会でも、光を意識

するだけで出合えるものが増え、

今まで見過ごしていたものが美

しいと思えるようになる。そう

した発見を繰り返すことで、光

にさらに敏感になり、自然を隈

なくとらえて、写真の幅を広げ

ることができるでしょう。

上:山道のカーブを抜けると遠くの空だけ晴れた光景が目に飛び込んできました。光がありふれた風景をドラマチックに変えています。EOS 5Ds R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF11・1/800 秒・ISO400

上:飛行機から見た珍しい光景です。光が作り出した美しいグラデーションの海に落ちる雲の影が、なんだかかわいらしく見えました。EOS 5Ds R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF14・1/2000 秒・ISO400

下:熊本県阿蘇の草千里。光を遮る厚い雲の陰が地面のススキなどの表情を隠し、光を受けた水面がひときわ美しく輝いていました。EOS 5D Mark IV・EF24-70mm F4L IS USMF11・1/2500 秒・ISO400

下:曇天の光でも、枯れ草を照らし明るい映り込みを作ってくれます。五色沼の色と相まって、爽やかな印象の作品になりました。EOS 5Ds R・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF5.6・1/160 秒・ISO400

カメラの眼で風景を眺めれば

写真的に美しい光景が立ち上がる

9 82017年11月号

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中西敏貴

山の尾根を紅葉が駆け下りてくるようなシーンでした。午後の低い光を利用して、尾根だけに光が当たるように撮影しています。EOS 5D Mark IV・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・F11・1/80 秒・ISO400

1971年、大阪府生まれ。独学で写真を学び、2012年より撮影拠点である北海道美瑛町に移住。光を強く意識した風景写真、自然の中に造形美を見いだす表現に挑戦している。主な写真集に『美瑛 光の旅』、『ORDINARY』ほか。最新写真集に『Design』。日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2016優秀賞受賞。

Toshiki Nakanishi

晩秋の低い太陽の光が

風景を印象的に魅せる

Light Scape 2Light Shapes光と陰影の造形美

11 102017年11月号

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風景にとって唯一の光源である

太陽の光を意識する

 

写真にとって、光はその根源

といえます。約180年前に初

めて写真術が生み出されてから

今日に至るまで、光がなければ

写真という表現は成立し得ませ

んでした。そもそも、写真は英

語で「Photograph

」と言いま

すが、この言葉は光で描くとい

う意味を持ちます。つまり、写

真は「光で描く芸術」であり、

撮影するうえで光を意識するこ

とは非常に大切なのです。

 

私のメインステージである風

景写真においても同様に、光の

扱いが非常に重要になってきま

す。ライティングが自在に行え

るスタジオとは異なり、自然の

中の光源は太陽のみ。ただ一つ

の、そしてとても強いこの光を

常に意識して撮影に臨まなけれ

ば、やはりいい写真を撮ること

はできません。

 

夜明け前の青から紫、オレン

ジへと徐々に変化していく世界

は、直接的な光は届かないもの

の、上空に届いた太陽の光が演

出してくれたものです。

 

また、朝夕の赤みがかった光

は、風景を非常にドラマチック

に演出してくれるうえ、低いラ

イティングのため陰影がつき、

写真にしたときにより印象的に

なります。撮影するときに目の

前の風景だけでなく、どんな光

なのかに意識を向ければ、自然

と風景を撮る視点にも変化が生

まれるでしょう。

常に光の角度を読み

風景と光を組み合わせる

 

秋から冬にかけてのこの時期

は、太陽の角度が低くなるため

朝夕を問わず斜めからのライ

ティングで撮ることができ、と

てもフォトジェニックな光を感

じられる季節だといえるでしょ

う。この低い光を利用して、早

朝から夕方まで光を意識した撮

影を行うのに、うってつけの時

期といえます。また、秋は天気

が変わりやすいため、雲間から

突然スポットライトが照らし始

めたり、時雨と組み合わせて虹

が撮影できたりと、劇的なシー

ンに出合えるチャンスも増えて

きます。

 

そうした光の一瞬の演出を的

確にとらえるためには、日ごろ

から常に光の角度を意識し、逆

光や順光といった光の向きをイ

メージして、風景とどのように

組み合わせるかを考え続けるこ

とが重要でしょう。そして、狙っ

た光に出合ったら、あれこれ考

えずに素早く撮ること。当たり

前ですが、シャッターを切らな

ければ、どんなにいい光でも写

真にはなりません。イメージを

豊かに、いつも臨戦態勢で撮影

の準備をし、どんな状況でも決

して撮り逃さないという心構え

が、風景写真でいい光をとらえ

るためのただ一つのコツといえ

るでしょう。

上:まもなく散ってしまう白樺の黄葉を、日没間際の光を使って浮かび上がらせました。背景を黒く落とすことで光の印象を強調しています。EOS 5D Mark IV・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF11・1/320 秒・ISO1600

上:日没近くに標高の高い場所から西を向いて撮影しています。わずかな雲の隙間から日が差し、天使の梯子が降りてきました。EOS 5D Mark IV・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF11・1/60 秒・ISO800

下:深く丘を覆っていた朝霧を見下ろせる高台に移動してとらえた一枚。霧を上から見下ろし、日の出の光と組み合わせれば、このようにゴールドに輝きます。EOS 5D Mark IV・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMF11・1/160 秒・ISO200

下:霧が丘を漂う朝に狙って撮影した作品。猫じゃらしが群生する畑に光芒を降らせようと、時間と霧の動きを読んで撮影しています。EOS 5D Mark IV・EF24-105mm F4L IS II USMF11・1/200 秒・ISO200

一瞬の鮮烈な光がつくる

劇的なシーンを逃さない

13 122017年11月号

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米 美知子

雪が散らつく中、一瞬だけ雲がひらけ、カラマツの木 に々光が差しました。その瞬間、寂しげだった晩秋の情景が華やかになりました。EOS 5Ds・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F16・1/50 秒・ISO400

1967年、東京都生まれ。1996年から写真を始め、アマチュア時代には全国規模のコンテストで数 の々賞を受賞。日本の自然をモチーフにして「夢のある表情豊かな作品」を精力的に撮り続けている。写真集

『桜はな

もよう』、『森に流れる時間』をはじめ、『素敵な自己表現』、『素敵なタイトルの付け方』、『情景探し』などの著書がある。ワイ.ワン フォト 米 美知子写真事務所http://www.y-onephoto.com

Michiko Yone

常に光の状態を観察し

目の前の自然を鮮やかに写す

Light Scape 3Fee l Light光の気配に導かれて

15 142017年11月号

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「使える光」が風景を

劇的に変化させる

 

写真を撮る上でなくてはなら

ない光。光と影を使うことで平

面的な写真を立体的に見せたり、

その場の臨場感がより伝えられ

るようになったり、表現の上で

も光は重要な役割を果たします。

ただ、光にも種類があり、「使

える光」と「使えない光」を見

極めなければなりません。

 

例えば、日差しの強い夏の日

に森の中で撮影しているとき、

木々の間から差し込む光が強す

ぎると画面を整理するのが難し

くなってしまいます。また、強

い光は暗い影を生み、そのコン

トラストが強すぎると、影の部

分が潰れたり、光の当たってい

るところが白く飛んだりしてし

まいます。肉眼では暗部のディ

テールが見えても写真にすると

潰れる場合もあり、たとえきれ

いな光に見えても、写真には「使

えない光」もあるのです。

 

しかし、しっかりと「使える

光」を選べば、その光によって

目の前の自然をより鮮やかに表

現することも可能です。晩秋や

初冬になると、自然から徐々に

色がなくなっていきます。鮮や

かな紅葉もピークを過ぎればく

すんだ色になり、それをそのま

まとらえれば、寂しげな情景し

か切り撮れません。けれど、そ

んな寂しげな晩秋の景色も、朝

日や夕日が一面を照らせば鮮や

かな情景へと劇的に変化します。

光の反射である水面の映り込み

をとらえれば実像よりも鮮やか

な世界を写し出し、冬に見られ

る霧氷も光を浴びることでキラ

キラ輝くなど、「使える光」は

目の前に広がる世界をより華や

かに演出してくれるのです。

光の気配を感じ

美しい光を待ち構える

 

自然風景を撮影するとき、光

が景色をどのように変化させる

のか常に意識しています。その

ために、こまめに空を見ては雲

の動きを観察し、光の気配を探

るのです。そして予測を立てて

フレーミングを決め、ピントを

合わせて光が来るのを待ち構え

ます。時に予想と違う場所に光

が差し込むこともありますが、

予想以上に自然を華やかにして

くれることもあり、そうして光

に翻弄されながら撮影するのも、

実は風景写真の楽しみです。

 

ただ、光を待つことはできて

も、光が待ってくれることはあ

りません。一度上った太陽がす

ぐに落ちることはなく、赤みが

消えた光が再び赤みを帯びるに

は1日待たなければなりません。

しかも、同じ場所でも、翌日ま

た同じ光景が見られる保証はな

いのです。だからこそ、光を逃

さないためには光の気配を感

じることが大事で、予測を立て

しっかり準備することが、光が

演出する華やかな風景を写すた

めに最も大切なことなのです。

上:水中の落ち葉に付く気泡が目に止まって写した一枚。その落ち葉をポイントにしながら、水の揺らぎで落書きのような線を描く光を添えています。EOS 5Ds・EF70-200mm F2.8L IS II USMエクステンダー EF1.4×II・F22・1/8 秒・ISO400

左:朝の光によって輝く霧氷をとらえた作品です。水面から上がる霧や手前に残る黄色い葉にも光が当たり、魅力的な表情を見せてくれました。EOS 5Ds・EF70-200mm F2.8L IS II USMF16・1/60 秒・ISO400

夕日が葉を落とした木 を々照らし、まだ青が残る空とともに水面に映り込んでいました。手前に配した赤い実で晩秋の季節感をより印象付けています。EOS 5Ds・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F16・1/8 秒・ISO400

世界を華やかに演出する光は

風景表現にとってとても重要

162017年11月号

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51 写真:福田健太郎

もうすぐ紅葉の季節がやって来ます。黄色から赤へと移りゆく錦秋の紅葉は肉眼でも美しいですが、写真にするときは美しさをそのまま撮るのではなく、構図や光などをうまく使いながら二次元へと落とし込むことが大切です。本特集では、そんな写真的なポイントと合わせて紅葉絶景をお届けします。

紅葉絶景肉 眼よりも美しい 紅 葉 写 真 に

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5253

1973年、埼玉県生まれ。幼少期から自然に魅かれ、18歳から写真家を志す。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信氏のアシスタントを経てフリーランスの写真家として活動を開始。日本を主なフィールドに、「森は魚を育てる」をキーワードとした生命の営みを見つめ続けている。写真集に『泉の森』がある。

美しい紅葉の中で自分が惹かれた部分が引き立つ構図を考える

写真に仕上げるPOINT福田健太郎

エリア:福島県奥会津

下郷町にある観音沼。紅葉の名所で多くの人が訪れる場所ですが、このときはピークを終え、晩秋の寂しげな空気に包まれていました。対岸に残った紅葉を引き立てるため、前ボケを入れて奥に視線を誘導しています。

EOS 5Ds R・EF50mm F1.8 STMF2.2・1/250秒・ISO200

福島県の南西部に位置する奥会

津。尾瀬の入り口である檜枝岐村

や只見川、矢ノ原湿原など豊かな

自然が広がり、毎年必ず撮影に訪

れているエリアです。この地域は

標高差があるため、紅葉の見ごろ

は10月上旬から11月上旬と長く、

標高の違いによって錦秋の風景と

晩秋のしっとりした風景を同時に

楽しむこともできます。

この地に向かうとき、私はよく

被写体を探して水辺を歩きます。

清らかな渓谷や小さな湖沼を巡

り、心を揺らす風景との出合いを

求めるのです。場所によっては、

すでに紅葉のピークを過ぎている

こともあります。それでも、紅葉が

終わってしまったとあきらめるの

ではなく、その中でも出合いはき

っとあると信じ、歩き回るのです。

そして美しい風景と出合えたと

き、自分が何に惹かれたのかを表

現するために構図を考えます。ポ

イントは主題を明確にすること。

漠然と撮ったのでは、彩りがきれ

いなだけで終わってしまうかもし

れません。そうならないためにも、

自分が惹かれたところが浮き立つ

構図が重要です。そのときの光や

レンズ効果を生かし、いかに主題

を引き立てるか。それを考えるこ

とで、その風景と出合った感動が

伝わる一枚が生まれるのです。

錦秋・晩秋ともに楽しみ

構図で紅葉を目立たせる

矢ノ原湿原の小さな沼で見つけた光景です。色とりどりの対岸をストレートに写すのではなく、水面の彩りだけで華やかな秋を表現しました。水面に広がる波紋によって画面にリズムを与え、左下の前ボケで右上への広がりを強調させています。

EOS 5Ds R・EF70-200mm F4L IS USM・F4.5・1/50秒・ISO200

昭和村の矢ノ原湿原で撮影した一枚。手前にある赤いモミジと対岸の黄葉を、対角線を意識して交互に並べました。周囲を暗くして光の当たる葉だけを浮かび上がらせながら、赤と黄色が繰り返すように配したことで画面にリズムが生まれています。

EOS 5Ds R・EF70-200mm F4L IS USMF4・1/800秒・ISO200

平面的な写真で奥行きを出すのに効果的なのが前ボケを入れること。さらに主題が奥にある場合は視線誘導になり、余分なものや空間を隠すこともできます。立ち枯れた木を前ボケにしたら寂しげな雰囲気が演出できるなど、どんな被写体を手前に置くかで作品の印象も変えられます。

広角~標準の画角を使い前ボケで奥行きを描く

構図テクニック❶

構図を決めるとき、色の配置を考えたり、水の波紋のような規則的な動きを取り入れたりすることで画面にリズムが生まれます。色の美しさだけではなく、リズムというプラスαの魅力が写真に加わることで、フレームの外をも想像させ、その場の臨場感が表現できるのです。

被写体や色の配置で写真にリズムを加える

構図テクニック❷

Kentaro Fukuda

2018年10月号

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5455

1969年、神奈川県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家の竹内敏信氏に師事。4年間のアシスタントを経て独立。日本の自然風景、都市風景のほか、夜景や花火の撮影もこなす。写真専門誌、デジタルカメラ専門誌などで撮影・執筆。日本写真家協会会員。EOS学園東京校講師。

葉のアップを狙うときは逆光で、広く撮るときは順光で紅葉を鮮やかに写す

写真に仕上げるPOINT工藤智道

エリア:埼玉県・神奈川県

Tomomichi Kudo

横浜・三渓園で撮影した作品です。真っ赤に色づくモミジの低い枝に着目し、広角レンズで見上げながら広がりを意識して撮影。ハイキーにしたことで空が白くなり、紅葉の葉の大小の形が引き立ちました。上

モミジの葉が木の幹に影を落としていました。-2 1/3補正をして、影を濃く強調して撮影。紅葉はその色に目がいきがちですが、木漏れ日の光がつくり出す景色も面白いので、よく観察することが大切です。下

EOS 5D Mark IV・EF17-40mm F4L USM・F5.6・1/30秒・ISO800

EOS 5D Mark IV・EF70-200mm F2.8L USM・F5.6・1/1600秒・ISO800

紅葉をアップで撮る場合は、遠

くの撮影地に行かなくとも、近場

の公園などで撮影できるので、よ

く狙う手法の一つです。今回掲載

したP.

54の2点は、横浜・三渓園

で撮影しました。寄って撮ると背

景に余分なものが写らないので、

自宅付近で紅葉を探してみるのも

よいでしょう。また、反対に広く

風景を撮るのにおすすめなのが、

関東近辺だと埼玉の城峯公園で

す。ここは冬桜が咲くことで有名

で、桜と紅葉の見事なコントラス

トを描いてくれます。

写真を撮る上で光は重要です

が、こうした色鮮やかな紅葉を撮

るときも同じように光を意識する

ことが大切です。紅葉の葉をアッ

プで撮る場合には逆光で透過光を

使うと葉が透けてきれいに見え、

広く紅葉の木々を撮る場合は順光

で狙うと色鮮やかに写ります。こ

れを基本で覚えておき、あとは状

況を見ながら調整しましょう。

また、紅葉の色を引き出すには、

PLフィルターを使うこと。葉の

表面に反射した光を除去すること

で、紅葉本来の色を引き出すこと

ができます。ただし、紅葉の葉以

外の反射を消してしまう場合があ

るので、効果の度合いを調整しな

がら撮ることをおすすめします。

天候とその場の光を生かし

近場の紅葉を劇的に撮る

光を生かすテクニック❷

広く紅葉風景を撮る場合、マイナス補正で撮ることが多いです。順光で狙いつつマイナス補正をすることで、紅葉の色がより濃く鮮やかになるなど色を引き出しやすいメリットがあります。撮影前にあらかじめ太陽の位置を確認し、光が当たる時間帯を見計らって狙うようにしましょう。

広い風景を撮るときはマイナス補正で色を鮮やかに

光を生かすテクニック❶

紅葉した葉をアップで撮るときは逆光が基本です。曇っていた場合、空を背景に大きくプラス補正すると真っ白にとんで白いキャンバスのようになり、紅葉した葉を浮かび上がらせることができます。また、影を狙う場合は反対にマイナス補正です。光を生かす手段として、露出補正はとても大切です。

紅葉をアップで狙う場合は逆光&露出補正を使う

埼玉・城峯公園で撮影した紅葉と冬桜。風が非常に強く、霧が激しく流れては消える状況です。光は弱いながら霧の中に紅葉を浮かび上がらせ、桜とのコントラストを描いてくれました。このときもPLフィルターを使い、葉の表面の光の反射を除去しています。

EOS 5D Mark IVEF70-200mm F2.8L USMF11・1/25秒・ISO100

2018年10月号

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5657

1975年、東京都生まれ。1999年ころより「自然美」をテーマに全国をまわって撮影し、雑誌や書籍、ポスター、カレンダーなどに多数作品を提供。近年は、奄美での作品づくりを精力的に続けている。主な写真展に『沖縄』。

イメージに合う色彩やコントラストを構図や光を利用して描く

写真に仕上げるPOINT館野二朗

エリア:秋田県~岩手県

Jiro Tateno

秋の東北といえば、紅葉スポッ

トが数多く点在し、撮影には事欠

きません。特に北東北は、私のお

気に入りの場所も多く、秋には毎

年必ず足を運んでいます。

標高の高いところから紅葉が始

まるため、まずは秋田〜岩手に広

がる八幡平などの高地へ出向きま

す。高地の紅葉はひときわ鮮やか

に色づくので、明るい秋のイメー

ジにはぴったり。そして、徐々に

標高を下げ、平地では晩秋を連想

させるような枯葉や葉の落ちた

木々を撮影することが多いです。

そうしたイメージは、画面の中

の色やトーンによって印象付けら

れることがあるので、色彩の表現

には気を配っています。例えば、

構図の中の配色や割合を調整した

り、光がもたらすコントラストを

利用したり。紅葉には同系色の微

妙に異なるグラデーションがある

ので、奥行きを表現するのに適し

た素材です。

そして、時間帯による光の変化

にも気を配り、効果的に利用する

こと。太陽の低い時間帯の光を使

えば、赤みを帯び、写真の印象が

変わります。色には人の感情を動

かすような心理効果があるので、

作品づくりにおいてとても重要な

ポイントになります。

撮影ポイントの多い東北で

色彩よく紅葉を切り撮る

鳥海山の麓にある元滝伏流水。秋も深まっていたためすでに落葉が始まり、鮮やかな苔のグリーンの上に枯葉が落ち、そのギャップが面白く感じました。晩秋の寂しさを表現するため、光が当たらない時間を選んで撮影。

冷え込んだ朝に訪れた御在所園地。湿地帯ということもあり、低い草には霜が降り、日が当たり出すとうっすらと靄も発生しました。奥には色づいた白樺があり、逆光で葉を透過させると、さらに色が強調されます。

EOS 5D Mark III・EF16-35mm F4L IS USMF9・13秒・ISO160

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USMF11・1/8秒・ISO125

色彩テクニック❷

色の組み合わせや写真全体のトーンが、見る人の心に影響を与えます。色はそれぞれ特徴があり、効果的に使えば撮影者の心象風景を反映できます。例えば、赤は活気が、黄色やオレンジからは温かさが感じられます。また、枯れた葉の色にはどこか寂しさを抱きます。自分の心情を色で表現してみるのも面白いでしょう。

色彩が持つ心理効果を存分に生かして撮影する

色彩テクニック❶

透明感と明るい色を引き出すため、透過光を使うこと。紅葉を逆光で見ると、順光よりも明るく発色するので、色づいた葉を強調して表現できます。その上、背景に光が届かず暗く落ちた場所であればその効果は増し、より印象が強くなります。また、朝夕など赤みを帯びた光を使えば、ひと味違う紅葉写真に仕上げられます。

逆光で紅葉の葉を透過させ淡い色彩を引き出す

八幡平の数種類の落葉樹が密集したエリアで、色が一つ一つ異なり錦秋らしい風景が広がっていました。なるべくさまざまな色が重なり合う場所を探し、望遠レンズで画面いっぱいに紅葉が入るよう撮影しました。

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F11・0.8秒・ISO100

2018年10月号

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5859

1969年、広島県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科を卒業。同写真学科の研究室で勤務した後、井上博道写真事務所を経てフリーランスの写真家となる。現在は、国内を中心に活動。EOS学園名古屋校・大阪校講師。

広角で遠近感を、望遠で切り撮り効果を使って寺と紅葉を狙う

写真に仕上げるPOINT三島 淳

エリア:兵庫県丹波市

Atsushi Mishima

兵庫県丹波市には見事な紅葉を

望むことができるいくつものお寺

があります。その中の高源寺は、

入り口の惣門をくぐると多くの紅

葉が見られます。時代を感じさせ

る石段や建物と色鮮やかな紅葉の

組み合わせを狙うのもよいでしょ

う。望遠ズームを使い、画面内に

多くの要素を取り込まないよう構

図を決め、紅葉によって彩られた

美しい光景を切り撮ります。

境内を進むと多宝塔が見え、こ

の周囲でも紅葉と建物との組み合

わせが狙えます。そこから坂道を

下りていくと少し広くなった場所

がありますので、そこから見上げ

ると、周囲を紅葉に彩られた多宝

塔を望むことができるでしょう。

中望遠の画角で、紅葉と塔、常緑

の山とのバランスを考えながら画

面構成します。中望遠レンズの適

度な圧縮効果で紅葉の密度が上が

って見えます。

同じく丹波市にある高山寺で

は、朱塗りの山門の先の参道周囲

にたくさんの紅葉が連なり、整然

と並んだ石灯籠と紅葉によって見

事な光景が広がります。広角レン

ズで遠近感を強調したり、標準レ

ンズで奥行きを誇張せず、自然な

遠近感でその場でゆったりと眺め

ているような撮影もよいでしょう。

紅葉が見事な寺社で

広角と望遠を使い分ける

高源寺にて、多宝塔から少し下り、紅葉と塔が見える場所から中望遠で紅葉の密度が上がって見えるよう狙いました。雨に煙る山も画面上部に入るように構図を決めました。

EOS 5D Mark IIIEF70-300mm F4-5.6L IS USMF8・1/20秒・ISO400

高山寺の本堂までの参道で、石畳・石灯籠と紅葉を遠近感を誇張しないように標準レンズで切り撮りました。画面に奥行きを出すため、遠景がわずかにぼけるよう絞らないで撮影しています。

EOS 5D Mark IIIEF24-105mm F3.5-5.6 IS STMF5.6・1/60秒・ISO640

高山寺には、弱い雨が降っていました。水たまりの中の落ち葉と雨粒によってできる波紋の形を望遠レンズで狙い、その部分が強調されるよう絞りを開けてほかの落ち葉をぼかしています。

EOS 5D Mark IIIEF70-300mm F4-5.6L IS USMF5.6・1/50秒・ISO1600

レンズワークテクニック❷

望遠レンズを使うと、圧縮効果により、遠近感を少なく被写体の密度感を増した撮影ができます。例えば紅葉撮影では、被写体から離れて望遠レンズで切り撮ると、山肌の紅葉などのボリューム感が上がります。また、浅い被写界深度を利用すれば、主題以外をぼかした撮影も可能です。

望遠レンズは圧縮効果により紅葉など被写体の密度が増す

レンズワークテクニック❶

広角レンズは広く写すだけではなく、被写体に近づいて撮影すると遠近感が強調された画づくりができます。また、より見ために近い遠近感で撮影したい場合は標準レンズがおすすめです。レンズによって写る範囲や遠近感などが変わるので、撮影目的にあったレンズを選ぶことが大切です。

広角と標準を使い分けて遠近感を調整する

2018年10月号

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特集

写真:地蔵ゆかり

光に溢れる夜の街。

街灯の光やビルの明かり、自動車の光跡、夜空の月など、

周囲が暗くなる分、都市を照らす光がより印象的になり、

それをどう写し撮るかが都市夜景の撮影の楽しみです。

本特集では、「スナップ」「空撮」「長時間露光」の

3つのテーマのもと撮影した写真家の作品を紹介します。

写真の本質である「光の魅力」をぜひ堪能してください。

魅惑の

 都市夜景

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日経ナショナル ジオグラフィック写真賞、JPSなどで最優秀賞、欧米の有名写真賞で上位入賞するほか、2016年には STEIDL BOOK AWARDで優勝、独シュタイデル社から写真集『ZAIDO

(祭堂)』を出版予定。『LIVING AT KILLING FIELDS ~キリングフィールドに生きて~』、『祭堂』(キヤノンギャラリー)など個展多数開催。4月号よりマンスリーフォトコン イメージクリエイトクラス選者を務める。

Yukari Chikura

地蔵ゆかり多重露出で写真にちりばめられた都市のキラメキ

都市夜景×スナップ

EOS 5D Mark IV・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F8・3.2 秒・ISO100

オレンジ色の街灯の光で埋め尽くされた光の世界。展望台から望遠で撮影した一枚ですが、形が変わる観覧車の光の模様を多重露出で画面に散りばめることで、華やかさをプラスしています。 Rom

antic Light

写真家、地蔵ゆかり氏は、カメラのさまざまな機能を使い、目の前の

光景を独自の写真世界へと昇華させながら作品を撮影してきました。

そんな氏が東京の街で見つけた、都市夜景。そこには、さまざまな光

が満ち溢れています。

6

2018年2月号

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多重露出で写し出す

写真の中だけの物語

 

昔、モルディブを訪れたとき

に、街の明かりが届かない真っ

暗闇の中で見た、波間に光る夜

光虫の幻想的な光──生まれて

初めて見たその輝きが印象的で、

今でも脳裏にしっかりと残って

います。そして、そのときに、

夜の光は闇の中のかすかな希望

であることを感じました。

 

今回撮影した都市夜景でも、

そうした光の性質は一緒です。

都市の夜景には昼とは異なる表

情があり、昼間は鮮明だった無

機質なビルの形が不鮮明になり、

そこから漏れてくる光がより際

立ってきます。夜の光が持つ輝

きと色彩が、無機質な都市の造

形を幻想的に浮かび上がらせて

くれるのです。それはある種、

SFの世界のようで、そこに入

り込んだようなワクワク感や興

奮を抱きながら、夜の撮影を楽

しむことができます。

 

夜の撮影は、言い換えれば光

をとらえること。その光をより

華やかに描く方法の一つが、「多

重露出撮影」です。何枚も重ね

ることで光がどんどん拡張され、

現実とは違う夢のような光景を

描くことができます。また、意

外なものを組み合わせたり、カ

ラフルな色同士を重ねれば、多

重露出によって光が増えるだけ

でなく、1枚の写真の中に現実

とは別の物語を表現することも

できるのです。それが夜景を多

重露出で撮影する魅力といえる

でしょう。

 

夜の撮影に限らず、写真を撮

るときに大切なのは、何か自分

なりのエッセンスを加えること。

今の時代は手持ちでも気軽に夜

の撮影を楽しめますし、いくら

でも撮り直しがききます。さま

ざまな機能を使い、ぜひいろい

ろな表現にチャレンジしてみて

ください。

EOS 5D Mark IV・EF70-200mm F2.8L IS II USMF8・1/4 秒・ISO800

P.8:横位置で撮影したレインボーブリッジを縦位置にし、その上にスローシャッターで撮影したカラフルな光跡をまんべんなく配置。光により、アブストラクトな画を描きました。EOS 5D Mark IV・EF70-200mm F2.8L IS II USMF8・2.5 秒・ISO800

まず普通に 1 枚撮影し、同じ位置で今度はピントを外したアウトフォーカスの写真を撮り、多重露出で重ねました。丸ボケにより光が強調され、不思議な画面をつくり出すことができます。

多重によってどんどん拡張され、

画面から溢れ出る夜の光。

2018年2月号

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1963年、神奈川県生まれ。カンダスタジオでコマーシャルフォトを学びフリーランスとなる。空の厳しい世界へ入り航空風景写真家の道を歩む。キヤノンギャラリーにて、『空に魅せられて』(2006年)、『日本の空から』(2009年)、『空から伝える目撃者』(2016年)を開催。空撮時間は8700時間を超え、年間250日以上を飛ぶ。空から伝える目撃者として、まだ見ぬ日本の素晴らしい風景を求め撮り続けている。

Kenji Kato

加藤健志夜の温かな光で彩られた都市の鳥瞰図

都市夜景×空撮N

ight sky view

晴れている日はもれなく空を飛び、空撮により日本列島のさ

まざまな姿を写し撮ってきた、写真家、加藤健志氏。その

独自の鳥の眼を使い、今度は東京・大阪の夜景を撮影。日

本の大都市がさまざまな色彩の光で色づき、夜の時間帯なら

ではの幻想的な姿となって浮かび上がります。

EOS 5Ds REF28-300mm F3.5-5.6L IS USMF5.6・1/125 秒・ISO12800

P.10:日が沈んでまだ明るさの残る、薄暮の大阪湾です。中央左には天保山大観覧車の緑の輝きを、左下には USJの遊園地ならではの光を配置。

EOS 5DsEF24-70mm F4L IS USMF4・1/160 秒・ISO6400

P.11:オレンジの光はとても明るく、東京タワーは日本で最も明るい被写体。タワーのように見える道路の光跡を背景にし、東京タワーと対比させています。

2018年2月号

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はるか上空から眺める

人々の暮らし

 

空撮の魅力は普段見られない

景色を写し撮れる点です。20年

以上前、高層ビルから街を見た

とき、もっと高い位置から眺め

たいという感情が芽生えました。

それをきっかけに空撮を始め、

今ではビルよりもさらに高い空

から世界を眺めています。

 

地上からとは異なる光景が目

の前に広がるのが空撮の魅力で

す。中には人が立ち入れない場

所を眺められる場合もあります。

はるか遠くの水平線まで広がる

流氷や人が入ったことのないよ

うな無人島を写したときは、空

撮をしていてよかったと心から

思いました。

 

今回掲載した夜景が空撮でき

るようになったのは、間違いな

くデジタルカメラの進化のおか

げです。時速100㎞の速度で

旋回し、揺れる機内でも夜景を

しっかり写し止められる。それ

だけで空撮の楽しみが何倍にも

拡がりました。

 

空から夜景を撮るとき、私は

よく地上で暮らす人々の生活に

思いを馳せることがあります。

冬の時期、家に明かりが灯って

いれば、「家族で鍋を囲んでい

るのかな」と考えたり、高層ビ

ルへと続く渋滞した車のテール

ランプを見ると、「たくさんの

家族や恋人たちがあそこに集

まっていくのかな」と感じたり、

光から人々の暮らしが想像でき

ます。

 

昼間の空撮も十分に魅力的で

すが、夜には人の営みを感じさ

せる温かさがあるのです。オレ

ンジ色に輝く東京タワーや神戸

ポートタワーがまるでろうそく

の灯火のように見え、優しく街

を照らしている。そして、はる

か上空から眺める明かりの一つ

一つに、たくさんの人たちが織

り成す物語を想像しながら撮影

する。それが夜景を空撮する大

きな楽しみなのです。

EOS 5Ds・EF24-70mm F4L IS USMF4・1/60 秒・ISO6400

P.13:夜景も季節によって表情を変え、レインボーブリッジが虹色に輝くのは 12月を過ぎてから。満月の映り込みも意識して構図を決めました。

EOS 5Ds R・EF28-300mm F3.5-5.6L IS USM・F5.6・1/250 秒・ISO12800

大阪の象徴・あべのハルカスですが、日曜日のため平日に比べると明かりが灯っていません。周囲の道路の色づきを入れて構図を決めることで光の強さを演出しています。

夜空から見た地上のさまざまな光に

人々の日常の生活や物語がある

撮影協力:谷 公郎(パイロット) 122018年2月号

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1968年、東京都生まれ。1991年、日本大学生産工学部卒業。1993年よりフリーランスとして活動。東京の風景をスローシャッターでとらえた「溶游する都市」、数十人の肖像を暗室で多重露光し一枚に焼き付ける「our face」など、独自の表現方法で都市と人間を撮り続けている。昨年、太陽の光跡を長時間露光で写す「光を集めるプロジェクト」を発表。2007年に日本写真協会賞新人賞、2011年に東川賞新人作家賞を受賞。

Ken Kitano

北野 謙ピンとブレが交じり合う満月の不可思議な光景

都市夜景×長時間露光

ビーチの奥から出る満月を撮るために桟橋の上から撮影。ビーチにいる人の姿が溶けながらも写り、天体と人の営みを一枚にまとめました。 W

atching the moon

長時間露光によるさまざまな作品群を制作する写真家、北野謙氏。

氏は1年間、米ロサンゼルスへ滞在し、赤道儀を使った満月の撮影を敢

行。月の移動に合わせて1分程度露光させることで、ピントの合った月

とブレた地上の景色という不可思議な作品を生み出しました。

14

2018年2月号

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写真の偶然性により

新たに生まれた満月の世界

 

写真を始めたばかりのころか

ら、写真には宇宙的な要素が少

なからず入っていると思ってい

ました。写真を撮るために欠か

せない光。その光が太陽から地

球に届くまで、実は8分19秒も

かかり、私たちは8分前の光し

か見ることができません。けれ

ど、その光のおかげで写真が撮

れ、しかも、その瞬間を自分が

いなくなった後まで残しておけ

るのです。宇宙を介して地上に

触れる。それが写真という装置

が持つ一番の魅力だと感じてい

ます。

 

そうした思いがあったからか、

これまで光をモチーフにした作

品を多く撮ってきました。カリ

フォルニアに1年滞在したとき

も、日の出から日没までを長時

間露光で撮影し、太陽の光跡を

一枚に収める作品を撮影しまし

た。今回掲載したのは、その太

陽と対になるシリーズです。

 

地上の風景に1本の光跡が入

る太陽のシリーズに対し、これ

らの作品は満月を赤道儀で追い、

月が動いた分だけ地上が流れて

います。撮れるチャンスは月に

一度しかなく、晴れなければい

けない。ただ、条件は厳しいも

のの、撮れたときは肉眼では見

られない世界が表現できます。

 

写真は、特に長時間露光の場

合は、多くの偶然が入り込み、

目に見えない人の想像を超えた

世界が表れます。世界は整って

いるように思えて実は曖昧で、

1秒ごとに形を変える。人間が

コントロールできない偶然に

よって、そうした新しい世界の

見方を写真で知れたとき、私は

この上なく幸福な気持ちになり

ます。そして、それが写真でし

か味わえない楽しみであり、そ

の楽しみを感じ続ける限り、写

真はやめられないでしょう。

P.16 上:真っ赤に燃える満月と、縦に伸びたハイウェイの明かり。同じ月でも、その日の気象条件によって形や色などの見え方は変わります。この日は偶然、赤く歪んだ姿をしていました。

P.16 下:変わらない月と変わり続ける人工物の対比を意識した一枚。100 軒以上回り、月とのバランスのいいお店を見つけ出しました。マクドナルドの看板はデザイン的にも優れていると思います。

アメリカに滞在して気付いたのは、至る所に星条旗が掲げられているということ。風で揺れる星条旗の奥に、満月を写し出しました。月面上にも同じ旗があることを考えると、感慨深いものがあります。

長時間露光による多くの偶然性が

人の想像を超えた世界を作り出す

17 2018年2月号

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特集

写真:福田健太郎

多くの写真家が撮影する有名な桜。名もないけれど何度も通ってしまう桜。

写真家には誰しも、それぞれに惹きつけられる桜があります。

そして、その桜を前に、「天候」「時間」「光」など

そのときの状況を意識して、一つの作品をつくり上げています。

本特集では、そんな写真家を惹きつけてやまなない名桜の数々を紹介します。

日本の名桜

写真家を惹きつけてやまない

塩ノ崎の大桜(福島県本宮市)

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1973年、埼玉県生まれ。幼少期から自然に魅かれ、18歳から写真家を志す。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信氏のアシスタントを経てフリーランスの写真家として活動を開始。日本を主なフィールドに、「森は魚を育てる」をキーワードとした生命の営みを見つめ続けている。写真集に『泉の森』がある。

Kentaro Fukuda

弘前公園の桜(青森県弘前市)

平堂壇の桜(福島県三春町)

弘前城の春の代名詞お濠を流れる花筏の幽玄な世界

三春町の小高い丘の上に立つ孤高のエドヒガンザクラ

EOS 5Ds R・EF24-70mm F4L IS USM・F11・30 秒・ISO100

速い動きに見える花筏の描写ですが、実際はかなりゆっくりです。現場に合わせ、適度なシャッター速度を選ぶことがポイントです。

EOS 5Ds R・EF70-200mm F4L IS USM・F8・0.6 秒・ISO200

空バックにすることで一本桜が浮かび上がり、画面中央の空と桜の境目でAF によるピント合わせ。三脚使用でシャープに再現しました。

福田健太郎

がすすめる名桜

光量の少ない夕方を選び

スローシャッターで花筏を写す

 

青森県弘前公園は、数千本の

桜が咲き誇り、華やかな桜風景

を愛でにたくさんの人が訪れま

す。満開時はもちろん、花吹雪

で舞い散った花がお濠をピンク

の桜色に染める、花筏と呼ばれ

る風景もフォトジェニックです。

撮りごろは花の盛りを過ぎたと

きなので、非常に難しいタイミ

ングといえます。ただ、昼間

の光で鮮やかな花筏の色を再現

するほか、絶対的な光量が弱い

朝夕の薄暗い時間帯などを選び、

スローシャッターで撮影すると、

肉眼では見ることができない写

真ならではのブレ描写による世

界が待っています。

 

掲載写真は、水草が浮かぶ外

濠エリアで、水面に風が走り、

花筏が微かに動いた瞬間を待っ

て30秒のシャッター速度で撮影

しています。夕暮れのかなり暗

い状況でしたから、色温度が高

く、ホワイトバランスを「太陽

光」にセットして、青みを帯び

た色調で再現。桜の儚さと、静

かに移ろいゆく春の季節を表現

できたと思います。

華やかな色を想像させる

桜のシルエット描写

 

日本三大桜の一つと称される

三春町の「滝桜」がある福島県

中通り地方は名木・古木、桜の

宝庫。今回紹介する三春町の平

堂壇の桜は、周囲に田畑が広が

り、小高い丘の上に立つ、孤高

のエドヒガンザクラです。

 

この一本桜の存在感を出した

くて、私が選んだ時間帯は夕暮

れ時。ライトアップする桜では

ないため、空に露出を合わせる

と、桜は完全なシルエットで再

現されます。ただ、色がないこ

とで逆に、写真を鑑賞する人が

想像を膨らませてくれることが

期待できます。

 

夜の桜は艶やかで、チャンス

があれば向き合いたい桜風景で

す。星や月が浮かぶ空との組み

合わせもよく、画質に優れるデ

ジタルカメラの長所が生かされ

る場面といえます。気を配るポ

イントはピント合わせです。コ

ントラストのある桜と空の境目、

ライトを照らすなど、そのとき

の状況に合わせてピントを合わ

せましょう。

7 6

2018年4月号

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1946年、大阪府生まれ。1975年にフリーの写真家として独立し、エムオーフォトスを開設。日本の四季彩豊かな自然風景に魅せられ、50年にわたって日本の大自然を撮影。中でも国立公園と一本桜の撮影には特に力を入れ、関連写真集も多数発売されている。主な写真集に、『一本桜』、『棚田百選』、『日本の国立公園・国定公園』、『日本の原風景 城』ほか多数。日本写真家協会会員。

Toshitaka Morita

姫路城の桜(兵庫県姫路市)

白壁と青空と桜のピンクという華やかな色彩で描く構成美

EOS 5Ds R・EF24-105mm F4L IS II USMF11・1/90 秒・ISO100(PLフィルター使用)

桜が密集する入城口付近で桜のトンネル越しに狙いました。白壁土塀や櫓、姫路城の大天守、小天守の華やかな構成美を、青空を背景にトップライトで撮影。

森田敏隆

がすすめる名桜

快晴のトップライトで写す

桜満開の城風景

 

国宝姫路城は日本最初の世界

文化遺産。平成の大修理後2年

目の春、澄み切った青空と桜の

満開が重なり、絶好の桜日和を

迎えました。

 「日本さくら名所100選」

の姫路城内は、三の丸や動物園

付近などに桜の木が多くありま

す。桜が密集する入城口付近は

観光客と花見客で混雑しますが、

しかし、桜の花を近景に白漆喰

の土塀や櫓の白壁、大天守と3

つの小天守の連立式天守が望め

ます。別名「白鷺城」を仰ぐ春

爛漫の桜絵巻が堪能できる撮影

ポイントです。

 

レンズは24~105㎜の標準

ズーム一本でほとんどの撮影が

できるでしょう。広角すぎると

混雑する観光客が写ってしまい、

天守閣も小さくなるので望遠側

を使うこと。また、西側からの

撮影となるため、トップライト

から午後を回った時間帯がベス

トです。しかし、日が傾くと順

光となりPLフィルターの効果

が薄れ、白壁に光も入り陰影の

ない城風景となりがちなので注

意。真っ白な姫路城と満開の桜

の撮影は、快晴の青空が最大の

条件です。

 

花見の季節は混雑し、三脚使

用禁止の場所が多いので、撮影

には注意してください。

9 82018年4月号

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向野のエドヒガンザクラ(富山県南砺市)

眉山の桜(徳島県徳島市)

残雪の山を背に端正な姿で立つ北陸地方屈指の一本桜

徳島市民の憩いの場人 に々愛され続ける桜名所

EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USM・F14・1.3 秒・ISO400

一本桜と春の田に映る水鏡とを対照的に写した一枚です。ライトアップと夜明けの明るさの色のバランスがよいタイミングを狙っています。

EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USM・F4・1/400 秒・ISO800

西日と春霞により柔らかな色合いに染まる眉山。沈む夕日をアクセントに、背景をぼかしピントの合った花を立体的に描きました。

宮武健仁

がすすめる名桜

桜と水鏡の両方を

一枚の画で写し出す

 

樹齢100年以上と言われる

エドヒガンザクラの一本桜。川

岸に生えていて、枝張りも形が

よく勢いがあるので堂々とした

存在感があります。水を張った

田に映る姿は、背景の杉林に引

き立てられ水墨画の世界のよう

で素晴らしいです。北陸らしく

背後にはまだ残雪の積もる山が

そびえ、春の訪れの画にメリハ

リを加えてくれます。

 

周辺には、雪融けの水を集め

て恐ろしいほどの勢いで流れる

用水路があるので、特に夜景撮

影時は注意が必要です。地元の

有志の方々により夜間はライト

アップされているので、人工照

明を計算に入れた画面構成を心

掛けたいところ。水鏡を狙うに

は水田を挟み距離があるので、

標準から望遠レンズがあると便

利。長めのレンズを使えば背景

が整理され残雪の山もバランス

よく取り込めるうえ、主役の桜

が引き立てられるのでおすすめ

です。広角で寄りたいときは、

背後から狙っている人への気遣

いやマナーを忘れずに。

ピントとボケを生かし

広角でその場の雰囲気ごと写す

 

徳島市の中心部にある標高

290mの眉山は市民のオアシ

スとして親しまれており、春に

は桜が鮮やかに彩ります。特に、

山頂付近の眉山公園や西側にあ

る西武公園などが、桜の名所と

して知られています。市街地に

囲まれるような立地のため、見

晴らしのいい場所から広角レン

ズで狙うと街が写り込んでしま

うこともあるので、望遠レンズ

を持って登りたいところ。

 

この写真は、西部公園に向か

う西側の斜面から沈む夕日を

アクセントに撮影した一枚で

す。焦点距離35㎜の広角側で桜

に寄って撮影し、絞りは開放F

4でぼかしつつ背景でその広が

りも見せるよう意識しています。

画面下の方にぼんやりと花見提

灯も写り、夜の花見の宴も予感

させそうな日本ならではの「和」

の雰囲気になったと思います。

 

眉山の桜は太陽の角度と場所

を選べばいつでも狙える名所で

あり、徳島駅前の通りからロー

プウェイで気軽に登れるためお

すすめの桜撮影地です。

11 2018年4月号

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1966年、大阪府生まれ。幼少のころより徳島市に育つ。1988年、東京工芸大学工学部写真工学科卒業。スタジオカメラマンを経て、1995年、郷里の徳島に「宮武写真工房」設立。主な写真集に『四季紀伊』、『清流吉野川』、

『桜島 生きている大地』など。日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2013グランプリ受賞。

Takehito Miyatake

吉野山の桜(奈良県吉野郡吉野町)

古来多くの日本人が愛でてきた春の桜の代名詞

EOS 5D Mark III・EF24-105mm F4L IS USMF11・1/40 秒・ISO400

吉野山の中千本あたり。偶然出合った「桜吹雪」の花びらを半逆光と背景の緑色で浮かび上がらせ、スローシャッターを使いこの場で感じた風を写し撮りました。

強風で舞い散る桜吹雪を

スローシャッターで写す

 

下千本、中千本、上千本、さ

らに奥千本と春には全山が桜色

に染まり、古来「花は吉野」と

詠まれてきた吉野山の桜は、日

本人にとっては特別です。朝か

ら夕方まで車両通行止めになる

ため、夜明け前に麓の駐車場に

車を預け、機材を担ぎ上千本に

向けて撮影しながら歩きました。

 

中千本にさしかかった午前10

時ごろ、暖かな春の日差しに照

らされ花びらがひらひらと舞い

始めました。満開の瞬間です。

新緑と桜の混じる方向にレンズ

を向けていると風が強くなり、

峰が幾重にも重なる山には谷か

ら複雑な流れの風が流れ込み、

舞い落ちる花びらが渦を描いて

再び空に舞い上がります。私は

桜吹雪に出合うと「日本に生ま

れたことの幸福感」に満たされ

ます。半逆光の光が花びらを鮮

やかに照らし、やや遅い1/40

秒のシャッター速度は複雑に渦

巻く桜吹雪を、動感とともに描

いてくれました。

 

吉野山は撮影ポイントが多く

長時間歩くことになるので、広

角から望遠までをカバーする

ズームレンズを組み合わせたい

ところ。夜明け前から日中はも

ちろん、夕方や夜も画になるの

で、時間と体力との勝負です。

13 122018年4月号

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中綱湖の桜(長野県大町市)

相野の桜(愛媛県喜多郡内子町)

満開の桜が湖面を美しく彩るオオヤマザクラの群生

小さな池の畔にひっそりと咲く樹齢約60年のしだれ桜

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F4L IS USM・F11・1/250 秒・ISO200

濃いピンク色の花が湖面に映る姿を狙うため、満開の情報を聞いた夜中に出発。花はすでに散り気味でしたが高速シャッターでその情景を写し撮りました。

EOS 5D Mark III・EF24-70mm F2.8L USM・F2.8・1/1600 秒・ISO200

夕方の光が池に写り込む位置と菜の花とのバランスを意識して撮影した一枚です。前ボケと背景ボケによりファンタジックな姿を写し撮りました。

桐野伴秋

がすすめる名桜

風が止む一瞬を待って

湖面の桜風景を撮影する

 

長野県大町市にある中綱湖の

桜は、桜の中でも濃いピンク色

を持つオオヤマザクラの群生で

す。湖面に映る姿はたとえよう

もなく美しく、全国からこの時

季を待って多くの写真愛好家が

訪れます。

 

桜が湖面に映る姿を狙いに来

るのですが、しかし風が止まる

のは一瞬です。その一瞬を粘り

強く構えて待たなければなりま

せん。湖面の桜を撮るときは

シャッター速度を上げ、鮮明に

その姿を写すのがポイントです。

 

狙い目の時間帯は、朝一番の

光が当たる時間帯から午前あた

り。標準から中望遠のレンズを

持って行くといいでしょう。

 

中網湖の桜は、新緑の田んぼ

と組み合わせた風景や、お地蔵

さんと一緒に山里らしい風景も

撮影できます。ただし、オオヤ

マザクラの満開のときは非常に

短く、2~3日ほどです。例年

は4月下旬から5月上旬あたり

に満開を迎えます。その満開の

時季に撮影できるよう、常に情

報収集をしましょう。

夕方の逆光線を使い

儚げな桜の姿を写し出す

 

相野の桜は、愛媛県喜多郡内

子町立石にある個人所有のしだ

れ桜です。地主さんが20歳のこ

ろに植えられたもので、樹齢は

約60年。夫人との金婚を記念し

て「相野の花」と名付けられ、

近年、一般にも開放されました。

 

しだれ桜の下を通り抜ける

と、そこには小さな池がありま

す。大枝から無数の薄紅色の花

が垂れ下がり、水面にその姿を

映します。周囲には菜の花があ

り、黄色とピンクの彩り豊かな

コントラストを狙うことも可能

です。夜にはライトアップされ、

夜の闇の中で光る満開の桜は夢

のようで幻想的。この夜のライ

トアップのほか、夕方の逆光が

おすすめの時間帯です。

 

夕方から夜を狙う場合は周囲

が暗くなるため、開放F1.4やF

2.8の明るいレンズを使うとよい

でしょう。超広角や魚眼レンズ

があれば、桜の中に入り込み全

体を撮影するのも一興です。

 

なお、あくまでもここは個人

所有の庭です。マナーを守って

撮影することを心掛けましょう。

高知県生まれ。1985年に音楽デビュー。その後、独学で写真を学び、「一瞬の中に永遠を宿す」をテーマに美しい地球の姿や日本の情景を後世に伝えようと写真作家としての活動を始める。近年はイタリアのフィレンツェ「メディチ・リッカルディー宮殿」やミラノ万博など、世界へ活動の場を広げている。2013年キヤノン企業カレンダー世界版に起用。写真集に『セドナ:奇跡の大地へ』、『日本 美の幻風景』。

Tomoaki Kirino

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2018年4月号

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牛代の水目桜(静岡県島田市)

紫雲出山の桜(香川県三豊市)

しっとりと幻想的に写し出された茶畑に立つ素朴な桜

広大な瀬戸内海を望む桜並木という絶好のロケーション

EOS 5D Mark III・EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM・F11・30 秒・ISO100

明け方のまだ暗い時間帯から撮影するのが理想的です。狙い目は霧が発生しやすい雨の日。雨対策をしっかりとして、ベストな瞬間を撮影します。

EOS 5Ds・EF24-70mm F4L IS USM・F13・1/40 秒・ISO200

日本全体を覆うほどの高気圧に恵まれて、快晴となった瀬戸内海。沈む夕日に照らされて輝く桜並木を、見た目の印象通りに撮影しました。

早見紀章

がすすめる名桜

霧がかかった桜の情景を

望遠で切り撮る

 

日本人に生まれてよかったと、

毎年感じる季節があります。そ

れが春の桜の時季です。沖縄か

ら北海道までを桜前線が走り抜

け、日本人だけではなく、今や

日本を訪れる世界各地の観光客

が日本の桜を心待ちにしていま

す。そんな多くの方を魅了する

桜ですが、撮影する被写体の背

景によって見え方が異なります。

 

掲載した桜は静岡県の島田市

にある一本桜です。枝ぶりが見

事なだけでなく、茶畑の中に一

本だけ立っている姿がなんとも

日本的なロケーションといえま

す。また、深い山に囲まれてい

る山里なので、特に明け方に霧

が出やすい環境もこの撮影地が

魅力的に見える要因でしょう。

 

ロケーションを生かす場合は、

広めの広角レンズがあると周辺

の環境と一緒に桜を撮影するこ

とができます。また、桜と霧を

撮影する場合は200㎜程度の

望遠レンズがあると便利です。

 

この桜は4月上旬が見ごろで

す。大雨が降った翌日に行くと、

幻想的な瞬間に出合えます。

夕日で美しく染まる桜を

見た目の感動そのままに

 

近年、SNSの流行により人

気になった、紫雲出山の桜。香

川県三豊市の荘内半島に位置し、

展望台からは、瀬戸内海に浮か

ぶいくつもの島が見渡せます。

 

ここは背景のロケーションが

素晴らしく、晴れの日に行けば

海や空と桜並木とのコントラス

トが堪能できます。僕のおすす

めは、晴れた日の夕方です。瀬

戸内海に沈む夕日や夕日に輝く

海とともに桜を撮影することが

でき、その光景は幻想的です。

 

レンズは広角から標準を用意

すること。50㎜前後だと見ため

に近い印象で撮影できるので、

現地で感じた感動をそのままの

イメージで写せるでしょう。

 

桜撮影では天候によって印象

が大きく変わります。背景が開

けた場所では、晴れているとロ

ケーションとの対比により桜が

強調されます。また、木々に囲

まれた背景では、霧や雨などの

しっとりとした状況で撮影した

方が、情緒的な作品に仕上がり

ます。桜に合った天候や時間を

イメージすることが大切です。

1984年、石川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家、林明輝氏の助手を務める。2010年、キヤノンカレンダー写真作家選出を機に独立。現在は「日本の光」をテーマに全国を撮影している。写真集に『-Water Color-水彩紀』『Various Colors of IRIOMOTE ISLAND 西表島』などがある。日本広告写真家協会正会員。

Kisho Hayami

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2018年4月号