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【免責条項】本レポートで提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任にお いてご使用ください。ジェトロでは、できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりま すが、本レポートで提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態 が生じたとしても、ジェトロ及び執筆者は一切の責任を負いかねますので、ご了承く ださい。 「適切なインボイスの発行義務について」 2015 12 ジェトロプノンペン事務所

「適切なインボイスの発行義務について」 · PDF file課税事業者は各課税取引についてTax InvoiceまたはCommercial Invoiceを発行する必要があります。詳細は第2節、第3節、第4

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【免責条項】本レポートで提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任にお

いてご使用ください。ジェトロでは、できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりま

すが、本レポートで提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態

が生じたとしても、ジェトロ及び執筆者は一切の責任を負いかねますので、ご了承く

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「適切なインボイスの発行義務について」

2015年 12月

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適切なインボイスの発行義務について

2015年 12月

i

目次

ご利用上の注意

免責条項

要約 1

1 導入 2

2 VAT登録の概要 3

3 適切なインボイスの発行義務 4

4 適切なインボイスの要件 4

5 適切なインボイスのサンプル 5

6 適切なインボイスを発行しなかった場合の税務への影響・リ

スク 6

7 不適切なインボイスを受領した場合の税務への影響・リスク 7

8 インボイスの記載事項に関連する税務コスト・税務リスクの

軽減策 8

9 インボイス日付と税務申告対象月 9

10 その他の留意事項 9

付録 A 税務当局の通達に示された Tax Invoiceと Commercial invoice

のサンプル 12

付録 B 国際運送業向けのインボイスのサンプル 14

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ご利用上の注意

1. 本冊子では、事業活動に基づき実態課税制度(申告納税制度)下の納税者に分

類される事業者向けに、VATに関する規定や納税義務、実務的な論点について

取り扱っています。

2. 本冊子の目的は、カンボジアにおける課税事業者による適切なTax Invoice

(VAT Invoice)の発行に関する事項や納税者に適用される納税義務について、

基本的な理解と情報を読者に提供することです。

3. 本冊子の内容や本冊子に関連して提供される文書の正確性と完全性について、

表明や保証を示すあるいは含意するものではありません。

4. 本冊子で取り扱われている事項について行動を起こす際には、事前に外部専門

家のアドバイスを得ることをお勧めします。

免責条項

本冊子に記載されたアドバイスは、本冊子の作成時点でのカンボジアの法令と実務に

基づいて提供されています。法令は将来においてあるいは遡及的に改正されることが

あります。さらに、法令は関連当局によって不統一な解釈あるいは適用がなされるこ

とがあります。

特別な手配がなされない限り、将来の法令改正や規制当局の実務の変更は本冊子には

反映されません。最新の状況はその都度、専門家にご確認ください。

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要約

VATはカンボジアにおける物品・サービスの提供と物品の輸入に対し幅広く課

税されます。VATは最終消費者が負担します。

VATの標準税率は10%です。0%のVATは物品やサービスの輸出および一定の料

金に適用されます。詳細は第1節を参照してください。

課税対象となる物品販売やサービス提供を行なう者はVAT登録を行なう必要が

あります。課税事業者は各課税取引についてTax InvoiceまたはCommercial

Invoiceを発行する必要があります。詳細は第2節、第3節、第4節を参照してくだ

さい。

適切なインボイスには税法に定められた事項を記載しなければなりません。ま

た標準的なインボイスのサンプルが税務当局から提供されています。付録 A/B

を参照してください。

課税取引について適切なインボイスを発行しなかった課税事業者には、過少申

告に対する税金の再査定と当該追徴税金の10%、25%、40%のいずれかの加算

税、月利2%(上限なし)の延滞税、上限1,000万リエル(約2,500 USD)の罰金が科

されるリスクがあります。詳細は第6節と第10.5節を参照してください。

不適切なインボイスを受領した課税事業者には、15%の源泉徴収税のリスクと

支払VATの控除の否認のリスクが生じます。詳細は第7節を参照してください。

交際費、娯楽費、レクリエーション費、石油製品、乗用車、携帯電話の購入に

関する支払VATは控除できません。詳細は第10.1節を参照してください。

課税事業者は支払VATの超過額がある(課税仕入にかかる支払VATが課税売上

にかかる受取VATを上回る)場合、VATの還付を要請することができます。実

務上は、VAT還付のプロセスには時間がかかります。詳細は第10.2節を参照し

てください。

課税事業者はVAT取引に関するインボイスと適切な会計帳簿、記録、情報を10

年間保管しなければなりません。詳細は第10.3節を参照してください。

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2

1. 導入

VAT はカンボジアにおける物品・サービスの提供と物品の輸入に対し幅広く課税され

ます。製造と流通の各段階で課税し、同時に各供給者が支払った VAT を納税額から控

除することを認めることで、最終消費者に VAT を負担させることが VAT の基本的な

原則です。

以下の課税取引は 10%(標準税率)または 0%の VATの対象となります。

カンボジア国内での課税事業者による物品販売およびサービス提供

課税事業者による物品の自家消費

課税事業者による無償または原価を下回る価額での物品およびサービスの提供

カンボジアの関税地域への物品の輸入

物品やサービスの輸出および旅客・貨物の国際運送に関係する一定の料金には 0%課税

が適用されます。また、裾野産業型の適格投資プロジェクト(QIP)や特定の輸出産業

向けのコントラクターによる物品やサービスの提供にも 0%課税が適用されます。

「サービスの輸出」についての税務当局による法令の適用や運用は明確でなく、確実

性を欠くため留意が必要です。

さらに、特定の取引や特定の農産品の輸入に対する VAT は免税(政府により負担)さ

れます。

以下の取引は VAT非課税となっています。

公共郵便サービス

病院、診療所、医療、歯科サービスおよびこれらのサービスに付随する医療品

及び歯科製品の販売

完全国有の公共交通機関による旅客運送サービス

保険サービス

主要な金融サービス

関税が免税される個人使用目的の物品の輸入

経済財務省が認めた公共の利益のための非営利活動

公衆の消費のための電力や水道の供給

大使館、領事館、国際機関、外国政府の技術協力機関に関連する物品の輸入

納税者が非課税の物品またはサービスを供給する場合、それらの購入時に支払った

VAT は納税額から控除できません。これに対し、0%課税の場合は販売が(VAT 税率

は 0%にもかかわらず)VAT の制度の枠内で行なわれるため、支払った VAT は控除で

きます。納税者が課税取引と非課税取引の両方を行なう場合には、支払った VAT のう

ち課税取引に対応する部分のみ控除することができます。

租税総局への VAT申告書の提出と納税は翌月の 20日までに行なう必要があります。

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2. VAT登録の概要

税法に基づき、申告納税方式の対象となり上述の課税取引を行なうすべての者は VAT

に関して課税事業者とみなされます。さらに、下記の a.に該当する場合は事業活動の

開始に先立ち VAT 登録を申請する必要があります。その他に該当する場合は課税事業

者となってから 30日以内に VAT登録を申請する必要があります。

a. 事業会社、輸入業者、輸出業者、投資会社

b. 連続する最近 3ヶ月間または今後 3ヶ月間の物品の売上金額が 1億 2,500万リ

エル(約 31,250 USD)超の納税者

c. 連続する最近 3ヶ月間または今後 3ヶ月間のサービス提供の売上金額が 6,000

万リエル(約 15,000 USD)超の納税者

d. 総額 3,000万リエル(約 7,500 USD)超の政府契約を請け負う納税者

物品販売とサービス提供の両方を行なう者は上記 b. c. d.に示された課税の基準額のい

ずれかを超える売上金額がある場合は VAT 登録を申請する必要があります。また、事

業活動の一部として物品販売やサービス提供を行なうが上記の登録要件に該当しない

者でも租税総局に VAT登録を申請することはできます。

VAT 登録のためには租税総局が定める登録申請書を租税総局に提出し審査と承認を受

けなければなりません。また、申請者は租税総局が要請する情報を提供しなければな

りません。

その後、租税総局は申請者について審査し登録します。承認後、租税総局は申請者に

Tax Identification Numberを記載した登録証(VAT Certificate)を発行します。ただし、

租税総局が申請者に上記の要件による登録義務がないことに満足する場合や以下の場

合を除きます。

申請者が特定の居住地や事業所を有さない場合

租税総局が、申請者が自ら行なう事業活動に関して適切な会計記録を保持

しないあるいは正常かつ信頼できる所要の税務申告書を提出しないと信じ

る合理的な根拠を有する場合

VAT 登録の完了後、課税事業者は VAT Certificate に記載された登録の効力発生日以降、

上述の期日(翌月 20日)までに租税総局に VAT申告書を提出し VATを納付(納付額

がある場合)しなければなりません。また、課税事業者は VAT Certificate を主要な事

業所に掲示する必要があります。

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3. 適切なインボイスの発行義務

税法第 98条に従って、VAT登録納税者とその他の者との間の各取引に対しインボイス

が発行されます。

税務当局で申告納税方式の納税者(VAT 登録納税者)として登録している課税事業者

が上述の課税対象である物品やサービスの提供を行なう場合を除き、物品やサービス

に対する税額を表示したインボイスやその他の書類を発行することはできません。

VAT 登録事業者が他の VAT 登録事業者である買い手と課税取引を行なう場合には

VAT Invoice(Tax Invoice)を発行しなければなりません。

同様に、VAT 登録事業者が一般消費者または非 VAT 登録事業者に対して物品販売や

サービス提供を行なう場合には、買い手に Commercial Invoice を発行しなければなり

ません。VAT 登録事業者向けの売上がほとんどない小売業の場合には、売り手が詳

細なキャッシュレジスターのレシートまたは政令で定めるその他の書類を発行してい

れば、所要のインボイスは充足されているとみなされます。ただし、現時点において

当該政令は発行されていないようです。

Tax Invoiceや Commercial Invoiceは通し番号を付して原本を 2部発行し、片方は買い手

の分とし、もう一方は納税者が税務年度末から 10年間保管しなければなりません。

VAT の規則において、物品やサービスの課税時点は、売り手がインボイスを発行すべ

き時点またはそれより早くインボイスが発行されている場合はインボイスが発行され

た時点とされます。Tax Invoice は物品の出荷日またはサービスの提供日と代金の支払

日のいずれか早い方から 7日以内に発行する必要があります。

毎月、(販売と購買の)すべての Tax Invoice は月次の Sales Record と Purchase Record

に記載し、受取 VAT と支払 VAT を税務署に申告しなければなりません。納税者は課

税売上にかかる受取 VAT から課税仕入にかかる支払 VAT を控除した残額を翌月の 20

日までに税務署に納税します。受取 VAT より支払 VAT の方が大きい場合には、差額

を VAT Creditとして繰り越します。

4. 適切なインボイスの要件

4.1 VAT Invoiceの要件

VAT 登録事業者が他の VAT 登録事業者である買い手と課税取引を行なう場合には

VAT Invoice(Tax Invoice)を発行しなければなりません。

この際に、適切な Tax Invoiceであるためには「VAT Invoice」または「Tax Invoice」と

いう表題を付し以下の内容を含まなければなりません。

a. 売り手の名前および VAT登録番号

b. インボイスの発行日

c. 買い手または買い手の従業員、買い手の代理人の名前

d. 買い手の VAT登録番号

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e. 売り手と買い手の住所

f. 物品またはサービスの数量、内容、販売価格

g. 特定商品サービス税と VATを除く合計金額

h. 課税標準合計額(上記 gの合計金額と異なる場合のみ)

i. VATの金額

j. 物品またはサービスが提供された日付(インボイスの発行日と異なる場合のみ)

k. VAT Invoiceの通し番号

さらに、何らかの理由によりインボイスを取消す場合には、税法の規定に従って取消

しの適切な根拠書類を用意し保存しておくことが求められます。このことは将来の税

務調査への備えにもなります。

4.2 Commercial Invoiceの要件

非 VAT 登録事業者および課税取引を行なう VAT 登録事業者は一般消費者または非

VAT登録事業者に対して Commercial Invoiceを発行しなければなりません。

本体価格と VAT を区分する必要はありません。ただし、Commercial Invoice に含まれ

る 10%の VATは支払 VATとして控除することはできません。

Commercial Invoiceには「Commercial Invoice」という表題を付し以下の内容を含まなけ

ればなりません。

a. 売り手の名前および VAT登録番号

b. インボイスの発行日

c. 買い手または買い手の従業員、買い手の代理人の名前

d. 売り手と買い手の住所

e. 物品またはサービスの数量、内容、販売価格

f. 合計金額(取引の種類により 10%または 0%の VATを含む)

g. 物品またはサービスが提供された日付(インボイスの発行日と異なる場合のみ)

h. Commercial Invoiceの通し番号

さらに、何らかの理由によりインボイスを取消す場合には、税法の規定に従って取消

しの適切な根拠書類を用意し保存しておくことが求められます。このことは将来の税

務調査への備えにもなります。

5. 適切なインボイスのサンプル

税務当局はインボイスの使用方法に関して納税者に対する通達を発行しており、VAT

Invoice と Commercial Invoice の標準的なサンプルも提供しています。納税者はそれら

の標準サンプルに準拠することができます。または、上述のすべての必要項目を含む

限り独自のフォーマットをデザインすることもできます。

税務当局の通達で示された VAT Invoiceと Commercial Invoiceのサンプルは付録 Aを参

照してください。ただし、旅客・貨物の国際運送の事業者向けには別の適切なインボ

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イスのサンプルが同様に税務当局の通達で示されていますので、付録 B を参照してく

ださい。

一般に、税法規定には付録 Aにある VAT Invoiceと Commercial Invoiceの2つのインボ

イスのサンプルがあります(国際運送の事業者向け除く)。納税者は 10%または 0%の

課税取引にも非課税取引にもこれらの適切なインボイスのサンプルを利用することが

できます。

例えば、納税者が VAT 登録事業者である顧客に対し 10%VAT の課税対象とすべき物

品販売またはサービス提供(非課税取引に該当しない取引)を行なう場合には、当該

顧客に VAT Invoice(VAT Invoice のサンプルに準拠したものまたはすべての必要項目

を含む独自にデザインしたもの)を発行しなければなりません。これにより、当該顧

客は支払 VAT を控除することができます。あるいは、顧客が非 VAT 登録事業者であ

る場合は Commercial Invoiceを発行します。

物品またはサービスの輸出取引で 0%VAT が適用される場合には、顧客はカンボジア

を拠点としておらず VAT 登録していないため、納税者は 0%VAT が適用されているこ

とを示した Commercial Invoiceを発行しなければなりません。

非課税取引については、保険会社など非課税取引の要件に該当する納税者は、顧客が

VAT 登録している場合は VAT Invoice を、VAT 登録していない場合は Commercial

Invoice を使う必要があります。ただし、いずれの場合もインボイスに VAT(10%また

は 0%)は表示されません。

6. 適切なインボイスを発行しなかった場合の税務への影響・リスク

課税取引について VAT なしのインボイスを発行したあるいは適切でないインボイス

(通し番号を付さない)を発行した納税者には以下のような税務上の影響が生じ得ま

す。

VATなしの不適切なインボイスのケース

課税事業者が顧客との課税取引について VATを請求していなかった場合、税務

当局による税務調査が実施された際に、課税取引額の 10%にあたる VATの追

徴を受けることがあります。また、追加税額に対し加算税(過失の程度により

10%、25%または 40%のいずれか)と延滞税(月利 2%、上限なし)も科されま

す。

すでに代金を支払い済みである顧客から 10%の VAT を事後的に徴収するのは

困難であるため、適切な VAT Invoice を発行しなかった課税事業者にとって、

上記のすべての追徴税は追加的な費用となります。さらに、この費用は法人税

の計算上損金に算入できないため、VAT の過少申告による追徴税に対して 20%

の法人税が余分にかかることになります。

通し番号のないインボイスのケース

最近、課税事業者が税法違反について十分な裏付書類や理由を有さない場合に、

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税務調査官はみなし収益やみなし費用といった積極的な手法による追徴課税を

行っています。この点、税務調査官が発行済みインボイスの通し番号を確認し、

抜けている番号があればその期間に課税取引があったとみなして、みなし収益

の 10%の VAT、1%の前払法人税および法人税を加算税と延滞税と合わせて追

徴するという事例が見られます。

このみなし課税により VATを追徴するという税務調査官の手法は、必ずしも正

しいものではないかもしれません。しかし、みなし課税の可能性を軽減するた

めには、課税事業者は税務当局に対してインボイスの通し番号の抜けや欠落、

不連続の理由を説明できるようにしておく必要があります。課税事業者が通し

番号付きのインボイスを発行することができない場合には、上述の問題を避け

るため事前に税務当局に状況を説明し確認を求めるレターを提出することが望

ましいでしょう。

また、VAT Invoice の不発行や不適切なインボイスの発行は税法第 128 条に規定される

税法の執行妨害とみなされ、税法第 133 条と第 136 条に規定される 1,000 万リエル(約

2,500 USD)を上限とする罰金または 1 ヶ月から 1 年の禁固刑あるいはその両方を含む

罰則の対象となります。

さらに、他の課税事業者に対して適切なインボイスを発行しなかった課税事業者は税

法第 78条による以下の罰則の対象になります。

i. 税務当局は課税事業者の事業拠点が必要なインボイスを発行していないことを

2 度に渡り発見した場合には、その他の罰則に影響を及ぼすことなく、その事

業拠点を 7日を超えない一定期間閉鎖することができる。

ii. 上記の規定により閉鎖された事業拠点が再度違反した場合には、その事業拠点

は再度 7日を超えない一定期間閉鎖されることがある。

7. 不適切なインボイスを受領した場合の税務への影響・リスク

税法上、税務当局は VAT の有効な管理と徴税を目的として、課税事業者に対し他の課

税事業者との取引に際して適切なインボイスを入手するよう協力を求めています。た

だし、他の課税事業者から不適切なインボイスを受領した課税事業者に適用される税

法上の明確な罰則はありません。たとえ罰則が課されることはなくても、課税事業者

にとって不適切なインボイスを受領することは、不適切なインボイスの性質に応じて

以下のような他の税務への影響があります。

VATの請求がないケース

課税事業者が他の課税事業者からサービス提供を受けても、不適切なインボイ

ス(VAT の請求がないインボイス)を受領した場合には、そのサービスは個人

または VAT非登録事業者によって提供されたとみなされることがあります。そ

の結果、そのサービス料の支払いは 15%の源泉徴収税に繋がるかもしれません。

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この点について、税法では居住者へのサービス料の支払いは、「適切なインボ

イス」に基づいた申告納税制度の対象となる納税者(VAT 登録事業者)に対す

る支払いである場合を除き、15%の源泉徴収税の対象とされていることに留意

が必要です。

すなわち、サービス料について VAT が請求されていない場合、15%の源泉徴収

税は免除されないため、納税者はサプライヤへの支払額から 15%を源泉徴収す

る必要があります。サプライヤが源泉徴収に同意せず納税者がサプライヤの代

わりに 15%の源泉徴収税を負担する場合は、当該負担額は法人税の計算上損金

に算入できないため、納税者にとってはその負担額の 20%の法人税という追加

コストも生じます。

部分的に要件を満たしているケース

10%の VAT を含む請求金額の記載はあるものの VAT 登録番号の記載がないあ

るいは買い手の住所が誤っているなどの不備のあるインボイスを受領した場合

も、納税者にとっては税務リスクがあります。実務上、税法に規定された取扱

いではないものの、税務当局は VAT Invoice に軽微な不備があっても支払 VAT

の控除を柔軟に容認することがあります。また、インボイス上 10%の VAT が

請求されていれば上述の 15%の源泉徴収税の問題は生じないようです。しかし

ながら、税務当局が将来に渡ってそのような実務を継続するとは限りません。

リスクを軽減するためには、定められた要件を満たす適切なインボイスを入手

することが重要です。

支払 VATを控除できるようにし、また源泉徴収税の負担を最小化するためには、納税

者は VAT登録事業者と取引することを検討したほうがよいでしょう。それによって支

払 VATを納税する受取 VATから控除できます。

非 VAT 登録事業者と取引する場合には、15%の源泉徴収税の対象となるサービス料の

支払いに先立って、当該サプライヤと源泉徴収することについて事前に交渉したほう

がよいでしょう。

8. インボイスの記載事項に関連する税務コスト・税務リスクの軽減

税法において、非 VAT登録事業者からの物品購入に対する支払いは 15%の源泉徴収税

の対象にはなりませんが、上述の通りサービスに対する支払いは 15%の源泉徴収税の

対象になります。よって、非 VAT 登録事業者向けの支払いを行なうときには、インボ

イスの記載と価格を物品部分とサービス部分に区分してもらうことが重要です。そし

て、サービスの支払分から 15%を源泉徴収して税務当局に納税します。

物品部分とサービス部分に区分されていない場合には、税務当局はおそらくインボイ

ス総額あるいはみなしサービス料に対して 15%の源泉徴収税を課すでしょう。

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9. インボイス日付と税務申告対象月

受取 VAT

課税取引を行なう納税者はインボイスを発行した月に顧客に VAT を請求し受取 VAT

を税務当局に申告する必要があります。

VAT の遅延申告および遅延納税は税務当局による罰金の対象となります。ほとんどの

場合、罰金は VAT遅延申告額の 10%に月 2%の延滞税を加算した金額となります。

支払 VAT

支払 VAT を控除できるようにするためには、国内仕入に関する支払 VAT であれば適

切な VAT Invoice(適切な VAT Invoiceであるための要件は上述を参照)を、輸入に関

する支払 VATであれば通関書類を保存しておくことが必要です。

上記の受取 VAT と同様に、支払 VAT はインボイスの発行月に控除する必要がありま

す(つまり、2015年 10月付けの VAT Invoiceは 2015年 10月分の VAT申告書において

控除します)。税務当局はインボイス発行月と異なる月において控除された支払 VAT

は否認します(例えば、2015年 10月付けの VAT Invoiceを 2015年 9月や 2015年 11月

分の VAT申告書において控除した場合)。

10. その他の留意事項

10.1 控除できない支払 VAT

税法上、売り手が適切なインボイスを発行したかどうかに関わらず、以下の一定の課

税取引についての支払 VATは控除することができません。

交際費、娯楽費、レクリエーション費に関するもの(それらを事業として行ってい

る場合を除く)。この「交際費」はあらゆる形態の飲食、タバコ、宿泊、歓待の提

供を指します。

一定の石油製品の購入および輸入に関するもの(それらの石油製品の供給を事業と

して行っている場合を除く)。この「石油製品」はレギュラーガソリン、スーパー

ガソリン、潤滑油およびディーゼルオイルを指します。

乗用車の購入および輸入に関するもの(それらの乗用車の販売または賃貸を事業と

して行っている場合を除く)。この「乗用車」は 10 人乗り以下の旅客用に設計さ

れたあらゆる自動車を指します。

携帯電話に関する支払 VATは控除できません。固定電話に関する支払 VATのみが

控除できます。

10.2 VAT還付

税法において、税務当局は以下の納税者に対し VATの還付を認めています。

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2015年 12月

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輸出を主な事業とする課税事業者。税務当局は課税事業者からの要請に応じて月次

の支払 VAT超過額を還付します。

輸出者以外の課税事業者であり、3ヶ月以上支払 VAT超過額を有するもの。

大使館、領事館、国際機関、外国政府の技術協力機関

VATの還付に関して、税務当局は VAT還付の対象となる納税者に対する手順を発行し、

納税者を VAT 還付を目的として Gold、Silver、Normality のカテゴリーに分類していま

す。VAT 還付を受けるための期間は納税者の状況や VAT の金額、適切な VAT Invoice

などの適切な根拠書類が保存されているかどうかによります。しかしながら、実務上

は VAT 還付の手続きは上記の手順に従わないことがあり、また非常に時間がかかりま

す。それにもかかわらず、納税者が税務当局による税務調査の前に VAT 還付のための

適切な根拠書類を保持しており、税務当局や経済財務省に承認され満額の VAT 還付を

受けているケースもあります。

10.3 会計帳簿と記録、情報

VATに関する会計帳簿と記録、情報についての原則は以下の通りです。

課税事業者は発行したすべてのインボイスの控えと受け取ったすべてのインボ

イスを保管しなければなりません。

課税事業者は売上に関して徴収した税額、仕入に関して支払った税額と売上金

額や税額の調整を示す勘定と合わせ個々の取引を適切に記録し、会計帳簿と記

録を保存しなければなりません。

上記の取引は日々保存され、毎月末に合計されます。課税事業者は税務当局に

より規定された月次 VAT申告書を作成しなければなりません。

インボイスと記録および税金に関係するその他の書類は、関係する最後の取引

の完了後少なくとも 10年間、発生順に税務当局により規定された方法および場

所で保管する必要があります。

保管する必要のあるすべての書類と記録および課税事業者の事業に関係するそ

の他の書類や記録は、税務当局からの要求があり次第、調査のために提出しな

ければなりません。

10.4 税務調査

税法では、税務当局に対し納税者の活動について税務調査を実施し、納税者が税法の

規定に従っていない場合には税金を再査定する権限を与えています。税務当局は月次

または年次の税務申告書の提出から 3 年間、税金の再査定を行なうことができます。

しかし、納税者が税法の執行を妨害した証拠がある場合には、当該期間は 10 年間に延

長されます。妨害の定義は非常に広く、税務申告書を期限から 30 日以内に提出しなか

ったことも含まれます。そのため、ほとんどの状況において 10 年間の再査定期間が適

用され得ると言えます。

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税務当局が提起する税金の再査定は納税者が提出した月次および年次の税務申告書に

基づきます。加えて、税務当局は納税者が提出したその他の申告書や情報およびその

他の情報源から税務当局が受け取った情報に依拠できます。再査定は恣意的に提起さ

れることがあり、実際の収益や費用に基づかなかったり、管理会計や財務会計と一致

しなかったりすることがあります。

税務当局が提起した再査定に関連した論争が生じた場合には、立証責任は納税者側に

あります。

10.5 罰則

税法規制の違反に対しては罰金が科されます。加算税の水準は違反の種類に応じて以

下のように定められています。

納税者に過失があるときの加算税は追加税額の 10%です。納税不足額が税法規定に

従った税額の 10%未満である場合または納税者が税務申告書の提出あるいは納税を

期限までに行わなかった場合に過失があるとみなされます。

納税者に重過失があるときの加算税は追加税額の 25%です。納税不足額が税法規定

に従った税額の 10%を超える場合または納税者が税務当局からの督促状の受領後

15日以内に納税しなかった場合に重過失があるとみなされます

納税者が一方的な税金査定を受けたときの加算税は追加税額の 40%です。納税者が

カンボジア税法に基づいた適切な会計記録や書類を保管していない場合には、税務

当局は納税者に対し一方的な税金査定を行なうことがあります。

また、税金の納付遅れおよび申告書の提出遅れに対して月利 2%(上限なし)の延滞税

を含む罰金がかかります。

さらに、脱税を含む一定の行為は企業の取締役や管理職、株主に対する刑事上の手続

きに繋がることがあります。

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付録 A – 税務当局の通達に示された VAT Invoiceと Commercial Invoiceのサンプル

TAX INVOICE MODEL

Date of Dispatch of goods or completion of services .........................................

( Printer’s Name ) ............................................. Original: Buyer, Copy: Seller.

Name of Enterprise : ........................................... Invoice Number 000001

Address : ............................................................. Dated .......... / ......... / ..........

.............................................................................

Fax ............................... Phone ...........................

VAT TIN ...........................................................

Name of Buyer : ..................................................

Address : ..............................................................

..............................................................................

Fax ............................... Phone ............................

VAT TIN ............................................................

Terms of Sale .......................................................................................................................................

No Description of Goods or Services Quantity Unit Price Total

Sub-Total

VAT 10%

TOTAL

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付録 A (続き)

COMMERCIAL INVOICE MODEL

Name of Enterprise : ........................................... Invoice Number 000001

Address : ............................................................. Dated .......... / ......... / ..........

.............................................................................

Fax ............................... Phone ...........................

VAT TIN ...........................................................

Name of Buyer : ..................................................

Terms of Sale .......................................................................................................................................

No Description of Goods or Services Quantity Unit Price Total

TOTAL

PRICE INCLUDES VAT ........................................

( Printer’s Name ) ............................................... Original: Buyer, Copy: Seller.

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付録 B – 国際運送業向けのインボイスのサンプル

A社は貨物をB国からシハヌークビルまで船で運びさらにプノンペンまでトラックで運びます。A社は貨物の荷主であるC社への請求額を1件のインボイスに以下のように記

載します。

Enterprise A

Address: .................... Monivong Blvd

No. Description Price Tax

Rate

Tax

Amount

Price inclusive

of Tax

1 Shipping 800 0% 0 800

2 Packages 100 10% 10 110

3 Lift on, Lift off (La La) 40 10% 4 44

4 Customs Clearance 200 10% 20 220

5 Domestic Transport 300 10% 30 330

6 Other services 50 10% 5 55

7 SGS 80 80

8 CamControl 20 20

9 Customs Duties and Other Taxes 400 400

Total 1,990 69 2,059

Customer: Enterprise C VTOl.1067777

Address: No .................. Sihanouk Blvd VTO1.1043333

or

No. Description Price

1 SGS 80

2 CamControl 20

3 Customs Duties and Other Taxes 400

500

4 Shipping 800

800

5 Packages 100

6 Lift on, Lift off (LOLa) 40

7 Customs Clearance 200

8 Domestic Transport 300

9 Other services 50

690

VAT 10% 69

759

Total 2,059

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「適切なインボイスの発行義務について」

2015年 12月作成

作成者 ジェトロ(日本貿易振興機構)プノンペン事務所

2F, Phnom Penh Tower, #445, Monivong Blvd (St.93/232), Sangkat Boeung Pralit, Khan 7

Makara, Phnom Penh, Cambodia.

Tel:855-23-966-253