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1 土木計画におけるナショナリズムの役割に 関する研究―東海道新幹線を事例として― 梶原 大督 1 ・中野 剛志 2 ・藤井 3 1 非会員 京都大学大学院工学研究科(〒615-8540 京都府京都市西京区京都大学桂4E-mail:[email protected] 2 正会員 京都大学大学院工学研究科准教授(〒615-8540 京都府京都市西京区京都大学桂4E-mail:[email protected] 3 正会員 京都大学大学院工学研究科教授(〒615-8540 京都府京都市西京区京都大学桂4E-mail:[email protected] 土木計画がより善い社会へ漸進していこうとする社会的営みである以上,計画組織は「善き社会を志す」 というナショナリズムをその中核に本質的に携えているはずである.また計画は,国民の支持を取り付け て初めて円滑な推進が期待できるが,計画が本来的に社会的ジレンマを内包する以上,国民各人を説得し ていくのは困難である.そこで有効と考えられるのが,人々が集団として知覚するイメージや物語を喚起 し,彼らの「国民社会の一員である」という意識(ナショナル・アイデンティティ)を呼び覚まし,国民 の一員としての賛同(ナショナリズム)を取り付けるという方法である. 本研究ではこのナショナリズムの役割を質的に明らかにすべく「東海道新幹線整備事業」を対象に,こ れが如何に進展したかを描写し解釈することを通じて検証を行った. Key Words : nationalism, national identity, Tokaido Shinkansen 1. はじめに 土木計画とは,我々の社会に存在する様々な土木施設 を「整備」し,そしてそれを「運用」していくことを通 じて,我々の社会をより善い社会へと少しずつ改善して いこうとする社会的営みを行うにあたっての方法・手順 を企てること,また,その企ての内容を意味する(p.24) 1) つまりこの方法・手順の企ては「善き社会を志す」とい う「意志」を中核としてなされるべきものである.そし てこの「善き社会に対する志向性」を携えていることで, 大局的な観点からプランニング活動を評価することが可 能となり,そこでの試行錯誤を通じてはじめて「善き社 会」へと漸進していくことが可能となるのである.それ ゆえ計画に携わるものは,常にこの最上位の計画目的を 考え,その実現を目指す強固な意志を持ち続けることが 不可欠であると考えられるのである(p.7-74)1 ) .そして, ここでいうところの社会を国民,国家とするとき,計画 の実施主体である計画組織が,この善き国民国家社会を 志すということは,定義上ナショナリズム(Nationalismをその中核に据えることにほかならないだろう(ナショ ナリズムの定義については研究者の間でも必ずしも明確 な一致をみているわけではないが,本稿ではイギリスの 社会学者アントニー・D・スミス(1991) 2 の定義「ある人 間集団のために,自治,統一,アイデンティティを獲得 し維持しようとして,現に『ネイション』を構成してい るか,将来構成する可能性のある集団の成員の一部によ るイデオロギー運動」(p.135) に従う). しかしながら,いくら計画組織が「善き社会に対する 志向性」を携えていたとしても,そこから導かれた計画 を進めていく上では,国民の理解と支持が必要になるだ ろう.なぜなら民主国家においては,国民が政治的意志 決定を行うもの(国民主権)と考えられているからであ る.そのため,計画組織が国民に対して,彼らの暮らす 社会にとっての必要性を訴え,支持を取り付けることで はじめて計画に正当性が与えられ,大きな成果を挙げる ことが期待できるのである(p.60) 3) .しかし計画が本質的 に社会的ジレンマを内包している以上,各人を逐次説得 していくことは非常な困難を要する.そこで有効と考え られるのが,人々が集団として知覚するイメージや物語 を喚起することで,彼らの「国民社会の一員である」と いう意識(ナショナル・アイデンティティ(National Identity ))を呼び覚まし,ネイションの一員としての賛 土木計画学研究・講演集,CD-ROM, 452012

土木計画におけるナショナリズムの役割に ...trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/institute_paper/... · 関する研究―東海道新幹線 ... を「整備」し,そしてそれを「運用

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Key Words : nationalism, national identity, Tokaido Shinkansen

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Nationalism

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National

Identity

CD-ROM, 452012

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Daisuke KAJIHARA, Takeshi NAKANO and Satoshi FUJII