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60 西40 20 30 10 30 10 70 20 28 15 18 高校魅力化プロデューサー 岩本  悠 Iwamoto You (写真上) 派遣社会教育主事 浜板 健一 Hamaita Kenichi (写真下) ●役場所在地 島根県隠岐郡海士町 大字海士1490 TEL 08514-2-0111 http://www.town.ama.shimane.jp/ ●人口 2,581人(平成17年国勢調査) ●面積 33.51㎢ 島根県 人材育成 確保とは ・キャリア教育推進連携表彰(文部科学省、経済産業省) ・地域資源活用新事業展開支援事業(経済産業省) ・農商工連携 88 選(農林水産省、経済産業省) 海士町 教育委員会 海士町概要 ★関連施策★

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●⑩●⑪

 島前地域は、島根県の北60㎞、隠岐諸島の中の

3島(西ノ島町、海士町、知夫村)で、世界的な景勝

地や名勝があり、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が遷幸

された地としても有名です。

 しかし、島の若者の多くは進学・就職のために

都市部へ流出しており、1965年には12,000

人を超えていた人口も今では6,000人程度と

半減、高齢化率は約40%、20代〜30代の若者が少

ないためこの10年間の平均出生数も年30人程度と

なっています。

 この島前地域唯一の高校が、島根県立隠岐島前

高校(以下、島前高校)です。平成10年頃には70人

程度いた島前高校の入学生は、平成20年度には半

分以下の28人まで激減し、正に統廃合の危機に直

面していました。島前高校を失う事態になれば、島

前3町村の子どもたちは中学卒業とともに島を離

れなければならなくなりますから、島から15〜18

歳の若者がいなくなります。また、島外の高校に通

〜魅力ある学校づくりからの地域づくり、教育の魅力化による地域活性化〜

海士町教育委員会

う仕送り等で家計は圧迫され、経済的にゆとりの

ない家庭や、子供の数が多い家庭の島外流出が進

み、さらには、UIターンが激減します。

 新たな雇用創出と教育・子育て支援の充実に

より、若者のUIターンや出生数を増やし、持続可

能なまちづくりを進めていた島の生き残りをかけ

た挑戦は、高校消滅により水泡に帰すことになり

ます。従って、島前地域にとって高校の存続は、地域

の存続と直結する問題なのです。

 このような学校と地域の危機に対して、「ピンチ

は変革と飛躍へのチャンス」という発想に転換し、高

校と島前3町村の町村長、議長、教育長、中学校長

らによる高校改革の推進母体「島前高校魅力化の

会」が発足しました。この会の下部組織としてワー

キンググループが結成され、学校存続の意義を島民

に伝え、一方で学校や教育への期待を聴き、地域内

での魅力ある学校づくりへの島を挙げた意識共有

を行いました。また、生徒・保護者・教員へのヒア

リング・アンケートを行い、議会との意見交換、県・

国との協議を重ね、1年かけて島前高校のビジョン

を策定、県知事と県教育長に提言しました。同時

に、高校の教職員、地域住民有志による構想実現の

ための協議会も立ち上げ、さらに島前高校内に海

士町が雇用する地元出身の社会教育主事と都市

部出身の民間企業経験者(=学校と地域を結ぶ

コーディネーター)を常駐させ、「島前高校魅力化プ

ロジェクト」が始動しました。

 島前地域の自立存立のため、島前高校卒業生が

将来島に帰ってくるための愛郷心を育むことが重

要と考え、当時中学校までは地域と連携して行わ

れていた「ふるさと教育」を拡充したキャリア教育の

展開を目指しました。

 具体的には、地域資源が豊富な島の地域特性を

活かし、「島全体が学校」「地域の人も先生」という

コンセプトの下に、「現場で多様な人との交流、体

験、実践からの学習」を導入することとし、生徒た

高校魅力化プロデューサー岩本  悠 氏Iwamoto You(写真上)

派遣社会教育主事浜板 健一 氏Hamaita Kenichi(写真下)

●役場所在地島根県隠岐郡海士町大字海士1490TEL 08514-2-0111http://www.town.ama.shimane.jp/●人口2,581人(平成17年国勢調査)●面積33.51㎢

島根県人材育成・確保とは

・キャリア教育推進連携表彰(文部科学省、経済産業省)・地域資源活用新事業展開支援事業(経済産業省)・農商工連携88選(農林水産省、経済産業省)

〜学校と地域の危機への対応〜

〜島前高校魅力化プロジェクトの取り組み〜

〜取り組みの成果について〜

〜島前地域と島前高校の状況〜

海士町教育委員会

海 士 町 概 要

ちが実際のまちづくりや商品開発などを行うこと

で、創造力・主体性・コミュニケーション能力など地

域社会で活躍するための総合的な人間力育成カリ

キュラムを柱に、地域の未来を切り開く人材を育て

る「地域創造コース」を新設しました。このコースで

究極的に目指すものは、「田舎には仕事がないから

帰れない」ではなく、「自分のまちに仕事をつくりに

帰りたい」という若者、「地域の課題を解決する仕

事をしたい」といった地域起業家的な意識を持った

人財の育成になります。

 また、離島であっても学力が伸び、島外に出なく

ても国公立大学や難関大学などへの進学希望を実

現できる教育環境づくりを進める必要があり、充

実した個別指導で一人ひとりの学力を最大限に伸

ばすための地域・高校連携型公営塾「隠岐國学習

センター」を設立。さらに、地域の大人も巻き込んだ

ゼミ形式で各自の興味や問題意識から生まれた課

題に取り組む「夢ゼミ」では、必要に応じてスカイプ

等ICTも利用し、地理的ハンディキャップを克服し

ながら、全国のプロフェッショナルとの対話の場や東

京の高校生との議論の場もつくっています。

 島の少数の生徒だけでは生まれや育ちが似た均

質的集団になりやすく、狭い人間関係の中で関係性

が固定化・序列化し、価値観も同質化しやすくな

ります。そこで、異文化・多様性を学校内に取り込

み活性化を図るため、県と協議し、県外からも生徒

の受入れを可能にし、全国から意欲・能力の高い入

学生を受け入れる「島留学」にも取り組んでいます。

 条件を満たした島留学生には、海士町から入寮

費の全額、寮費・食費の半額(毎月2万円)、里帰り

交通費の半額等の補助を行う島留学生支援制度

も整備しました。

 島の子と島外から来た生徒の相互作用の中で生

まれた企画「ヒトツナギ」(観光企画)は、高校生によ

る地域観光プランコンテストである第1回「観光甲

子園」で日本一(文部科学大臣賞)を獲得しました。

これは、島留学なしには起こり得なかった快挙です。

 平成24年1月には「キャリア教育推進連携表彰」

(文部科学省、経済産業省)優秀賞を学校としては

全国唯一受賞しました。

 島前高校魅力化プロジェクトを開始して後、入学

希望者数はV字回復を果たし、島根県の県立高校

全体の募集定員が過去最少となる中で、島前高校へ

の入学者数は増え続けており、平成24年度からは、

僻地の高校としては異例の学級増(1クラス↓2ク

ラス)が実現しました。

 雇用の場をつくるだけでは優秀な人材は定着し

ません。これからは、豊かな自然と文化に囲まれ、人

のつながりが深く、安心安全な地域であるとともに、

学力も人間力も伸びる教育環境を整え、「子育て、

教育の島」としての教育ブランドを築くことで子育

て世代の若者の流出を食い止め、逆に子連れ家族の

UIターンを呼び込むことができると考えています。

 人をつくらねば過疎の町や村は生き残れません。

これは島前をはじめとする多くの地域が直面してい

る状況であり、今後の日本が直面する課題です。こ

こ島前での試行錯誤から見えてきたものを、今後は

同じような課題を抱える他の地域や学校に少しで

も還元していければと考えています。

 

海士町の

その他の

取り組み

▶第4次海士町総合振興計画「島の幸福論」

▶子ども議会

海士町 町長山内 道雄 氏Yamauchi Michio

 海士町は

離島で、過

疎化、高齢

化が全国に

先駆けて進

み、10年前

(平成15年

頃)には極めて厳しい状況でした。この難局に「自分

たちの島を自ら守り、島の未来は自ら築く」との思

いを持って、住民、町職員一丸となって単独町政で挑

みました。

 町職員人件費のカット、町職員数・町議会議員

定数の見直し等徹底した行財政改革を行いつつ、町

の地域資源を活かし、島に産業を創り、島に人(雇

用の場)を増やし、外貨を獲得して島を活性化する

こと(産業振興のための商品開発から販売までを

手がける第3セクター「株式会社ふるさと海士」の

設立など)に努めています。地域ブランド化の取り組

みは、「農商工連携88選」(農林水産省、経済産業

省)に選定されるなど各方面で評価をいただいてい

ます。

 平成17年には、「人間力溢れる海士人」の育成を

目指し、「人間力推進プロジェクト」を立ち上げ、都

市との交流、国際交流を進めています。この流れの中

で生まれたのが「島前高校魅力化プロジェクト」です。

 地域活性化の源は「交流」だと思います。「若者」

「よそ者」「馬鹿者」が島興しの原動力になるのです。

地域づくり、まちづくりの原点は「人

づくり」にあり、「モノづくり」と「人づ

くり」の両輪によって、はじめて持続可

能な地域になると考えます。海士町

は、島国日本が直面する問題を先取

りしており、「最後尾から最先端へ」、日

本の新しい道を最先端で切り開いてい

こうと取り組んでいるところです。

★関連施策★

「地域ぐるみで子供を育て地域の未来を担う人づくり!

『島前高校魅力化プロジェクト』による挑戦」

●⑩●⑪

 島前地域は、島根県の北60㎞、隠岐諸島の中の

3島(西ノ島町、海士町、知夫村)で、世界的な景勝

地や名勝があり、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が遷幸

された地としても有名です。

 しかし、島の若者の多くは進学・就職のために

都市部へ流出しており、1965年には12,000

人を超えていた人口も今では6,000人程度と

半減、高齢化率は約40%、20代〜30代の若者が少

ないためこの10年間の平均出生数も年30人程度と

なっています。

 この島前地域唯一の高校が、島根県立隠岐島前

高校(以下、島前高校)です。平成10年頃には70人

程度いた島前高校の入学生は、平成20年度には半

分以下の28人まで激減し、正に統廃合の危機に直

面していました。島前高校を失う事態になれば、島

前3町村の子どもたちは中学卒業とともに島を離

れなければならなくなりますから、島から15〜18

歳の若者がいなくなります。また、島外の高校に通

〜魅力ある学校づくりからの地域づくり、教育の魅力化による地域活性化〜

海士町教育委員会

う仕送り等で家計は圧迫され、経済的にゆとりの

ない家庭や、子供の数が多い家庭の島外流出が進

み、さらには、UIターンが激減します。

 新たな雇用創出と教育・子育て支援の充実に

より、若者のUIターンや出生数を増やし、持続可

能なまちづくりを進めていた島の生き残りをかけ

た挑戦は、高校消滅により水泡に帰すことになり

ます。従って、島前地域にとって高校の存続は、地域

の存続と直結する問題なのです。

 このような学校と地域の危機に対して、「ピンチ

は変革と飛躍へのチャンス」という発想に転換し、高

校と島前3町村の町村長、議長、教育長、中学校長

らによる高校改革の推進母体「島前高校魅力化の

会」が発足しました。この会の下部組織としてワー

キンググループが結成され、学校存続の意義を島民

に伝え、一方で学校や教育への期待を聴き、地域内

での魅力ある学校づくりへの島を挙げた意識共有

を行いました。また、生徒・保護者・教員へのヒア

リング・アンケートを行い、議会との意見交換、県・

国との協議を重ね、1年かけて島前高校のビジョン

を策定、県知事と県教育長に提言しました。同時

に、高校の教職員、地域住民有志による構想実現の

ための協議会も立ち上げ、さらに島前高校内に海

士町が雇用する地元出身の社会教育主事と都市

部出身の民間企業経験者(=学校と地域を結ぶ

コーディネーター)を常駐させ、「島前高校魅力化プ

ロジェクト」が始動しました。

 島前地域の自立存立のため、島前高校卒業生が

将来島に帰ってくるための愛郷心を育むことが重

要と考え、当時中学校までは地域と連携して行わ

れていた「ふるさと教育」を拡充したキャリア教育の

展開を目指しました。

 具体的には、地域資源が豊富な島の地域特性を

活かし、「島全体が学校」「地域の人も先生」という

コンセプトの下に、「現場で多様な人との交流、体

験、実践からの学習」を導入することとし、生徒た

高校魅力化プロデューサー岩本  悠 氏Iwamoto You(写真上)

派遣社会教育主事浜板 健一 氏Hamaita Kenichi(写真下)

●役場所在地島根県隠岐郡海士町大字海士1490TEL 08514-2-0111http://www.town.ama.shimane.jp/●人口2,581人(平成17年国勢調査)●面積33.51㎢

島根県人材育成・確保とは

・キャリア教育推進連携表彰(文部科学省、経済産業省)・地域資源活用新事業展開支援事業(経済産業省)・農商工連携88選(農林水産省、経済産業省)

〜学校と地域の危機への対応〜

〜島前高校魅力化プロジェクトの取り組み〜

〜取り組みの成果について〜

〜島前地域と島前高校の状況〜

海士町教育委員会

海 士 町 概 要

ちが実際のまちづくりや商品開発などを行うこと

で、創造力・主体性・コミュニケーション能力など地

域社会で活躍するための総合的な人間力育成カリ

キュラムを柱に、地域の未来を切り開く人材を育て

る「地域創造コース」を新設しました。このコースで

究極的に目指すものは、「田舎には仕事がないから

帰れない」ではなく、「自分のまちに仕事をつくりに

帰りたい」という若者、「地域の課題を解決する仕

事をしたい」といった地域起業家的な意識を持った

人財の育成になります。

 また、離島であっても学力が伸び、島外に出なく

ても国公立大学や難関大学などへの進学希望を実

現できる教育環境づくりを進める必要があり、充

実した個別指導で一人ひとりの学力を最大限に伸

ばすための地域・高校連携型公営塾「隠岐國学習

センター」を設立。さらに、地域の大人も巻き込んだ

ゼミ形式で各自の興味や問題意識から生まれた課

題に取り組む「夢ゼミ」では、必要に応じてスカイプ

等ICTも利用し、地理的ハンディキャップを克服し

ながら、全国のプロフェッショナルとの対話の場や東

京の高校生との議論の場もつくっています。

 島の少数の生徒だけでは生まれや育ちが似た均

質的集団になりやすく、狭い人間関係の中で関係性

が固定化・序列化し、価値観も同質化しやすくな

ります。そこで、異文化・多様性を学校内に取り込

み活性化を図るため、県と協議し、県外からも生徒

の受入れを可能にし、全国から意欲・能力の高い入

学生を受け入れる「島留学」にも取り組んでいます。

 条件を満たした島留学生には、海士町から入寮

費の全額、寮費・食費の半額(毎月2万円)、里帰り

交通費の半額等の補助を行う島留学生支援制度

も整備しました。

 島の子と島外から来た生徒の相互作用の中で生

まれた企画「ヒトツナギ」(観光企画)は、高校生によ

る地域観光プランコンテストである第1回「観光甲

子園」で日本一(文部科学大臣賞)を獲得しました。

これは、島留学なしには起こり得なかった快挙です。

 平成24年1月には「キャリア教育推進連携表彰」

(文部科学省、経済産業省)優秀賞を学校としては

全国唯一受賞しました。

 島前高校魅力化プロジェクトを開始して後、入学

希望者数はV字回復を果たし、島根県の県立高校

全体の募集定員が過去最少となる中で、島前高校へ

の入学者数は増え続けており、平成24年度からは、

僻地の高校としては異例の学級増(1クラス↓2ク

ラス)が実現しました。

 雇用の場をつくるだけでは優秀な人材は定着し

ません。これからは、豊かな自然と文化に囲まれ、人

のつながりが深く、安心安全な地域であるとともに、

学力も人間力も伸びる教育環境を整え、「子育て、

教育の島」としての教育ブランドを築くことで子育

て世代の若者の流出を食い止め、逆に子連れ家族の

UIターンを呼び込むことができると考えています。

 人をつくらねば過疎の町や村は生き残れません。

これは島前をはじめとする多くの地域が直面してい

る状況であり、今後の日本が直面する課題です。こ

こ島前での試行錯誤から見えてきたものを、今後は

同じような課題を抱える他の地域や学校に少しで

も還元していければと考えています。

 

海士町の

その他の

取り組み

▶第4次海士町総合振興計画「島の幸福論」

▶子ども議会

海士町 町長山内 道雄 氏Yamauchi Michio

 海士町は

離島で、過

疎化、高齢

化が全国に

先駆けて進

み、10年前

(平成15年

頃)には極めて厳しい状況でした。この難局に「自分

たちの島を自ら守り、島の未来は自ら築く」との思

いを持って、住民、町職員一丸となって単独町政で挑

みました。

 町職員人件費のカット、町職員数・町議会議員

定数の見直し等徹底した行財政改革を行いつつ、町

の地域資源を活かし、島に産業を創り、島に人(雇

用の場)を増やし、外貨を獲得して島を活性化する

こと(産業振興のための商品開発から販売までを

手がける第3セクター「株式会社ふるさと海士」の

設立など)に努めています。地域ブランド化の取り組

みは、「農商工連携88選」(農林水産省、経済産業

省)に選定されるなど各方面で評価をいただいてい

ます。

 平成17年には、「人間力溢れる海士人」の育成を

目指し、「人間力推進プロジェクト」を立ち上げ、都

市との交流、国際交流を進めています。この流れの中

で生まれたのが「島前高校魅力化プロジェクト」です。

 地域活性化の源は「交流」だと思います。「若者」

「よそ者」「馬鹿者」が島興しの原動力になるのです。

地域づくり、まちづくりの原点は「人

づくり」にあり、「モノづくり」と「人づ

くり」の両輪によって、はじめて持続可

能な地域になると考えます。海士町

は、島国日本が直面する問題を先取

りしており、「最後尾から最先端へ」、日

本の新しい道を最先端で切り開いてい

こうと取り組んでいるところです。

★関連施策★

「地域ぐるみで子供を育て地域の未来を担う人づくり!

『島前高校魅力化プロジェクト』による挑戦」