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NTT 技術ジャーナル 2015.10 67 はじめに 過去 ₅ 年間(2₀₁₀~2₀₁₄年度)にNTT東日本技術協力 センタに寄せられたアクセス系設備に関する調査依頼 (技術協力依頼:約₅₀₀件)のうち₁₃%が生物被害に関す る依頼であり,内訳としては多い順に昆虫類(クマゼ ミ ・ アリ ・ コウモリガの幼虫等),げっ歯類(リス ・ ム ササビ ・ ネズミ等),鳥類(カラス ・ キツツキ等)でし た(図₁ ).これらの生物は全国に存在しており多くの 生物由来による故障が発生しています. 被害の特徴と対策 鳥類による被害としては,「カラスによるドロップケー ブルのついばみ」「キツツキなどによる架空ケーブルの 突っつき」が挙げられます.カラスによるドロップケー ブルのついばみを防ぐにはPVC電線防護カバーをド ロップケーブルに巻きつけることが有効です.キツツキ などによる架空ケーブルの突っつきには,鳥獣害対策 ケーブルのHS(High Strength)ケーブル(図₂ )への 更改,局所的であれば防リスシートまたは防リステープ 図₃ )による防護が有効です. げっ歯類による被害としては「リス ・ ムササビなどに よる架空ケーブルや端子かんのかじり」「ネズミなどに よるMH(マンホール)内等の地下ケーブルのかじり」 が挙げられます.リス ・ ムササビなどによる架空ケーブ ルのかじりに対してはHSケーブルや防リスシート・ 昆虫類 52%(29件) 生物被害関連 13%(56件) 生物被害以外 87%(428件) 鳥類 5 %( 3 件) その他 4 %( 2 件) げっ歯類 39%(22件) 図 ₁  2₀₁₀~2₀₁₄年度技術協力依頼 通信アクセス設備における生物被害事例と対策 通信サービスを支えているアクセス系設備は,全国各地に広く張り巡らされており,そのほとんどが屋外環境下に 置かれています.そのため,自然の中で暮らす生物によって引き起こされる故障が毎年発生しています.ここでは, NTT東日本技術協力センタに寄せられたアクセス系設備で発生する生物被害について,各生物別の被害の特徴と対策, および最近の被害事例について紹介します.

10 32 テクニカルソリューション - NTTNTT技術ジャーナル 2015.10 67 はじめに 過去₅年間(2₀₁₀~2₀₁₄年度)にNTT東日本技術協力 センタに寄せられたアクセス系設備に関する調査依頼

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  • NTT技術ジャーナル 2015.10 67

    は じ め に

    過去 ₅ 年間(2₀₁₀~2₀₁₄年度)にNTT東日本技術協力センタに寄せられたアクセス系設備に関する調査依頼

    (技術協力依頼:約₅₀₀件)のうち₁₃%が生物被害に関する依頼であり,内訳としては多い順に昆虫類(クマゼミ ・ アリ ・ コウモリガの幼虫等),げっ歯類(リス ・ ムササビ ・ ネズミ等),鳥類(カラス ・ キツツキ等)でした(図 ₁).これらの生物は全国に存在しており多くの生物由来による故障が発生しています.

    被害の特徴と対策

    鳥類による被害としては,「カラスによるドロップケー

    ブルのついばみ」「キツツキなどによる架空ケーブルの突っつき」が挙げられます.カラスによるドロップケーブルのついばみを防ぐにはPVC電線防護カバーをドロップケーブルに巻きつけることが有効です.キツツキなどによる架空ケーブルの突っつきには,鳥獣害対策ケーブルのHS(High Strength)ケーブル(図 ₂)への更改,局所的であれば防リスシートまたは防リステープ

    (図 ₃)による防護が有効です.げっ歯類による被害としては「リス ・ ムササビなどに

    よる架空ケーブルや端子かんのかじり」「ネズミなどによるMH(マンホール)内等の地下ケーブルのかじり」が挙げられます.リス ・ ムササビなどによる架空ケーブルのかじりに対してはHSケーブルや防リスシート ・

    は じ め に

    被害の特徴と対策

    昆虫類52%(29件)

    生物被害関連13%(56件)

    生物被害以外87%(428件)

    鳥類5%( 3件)

    その他4%( 2件)

    げっ歯類39%(22件)

    図 ₁  2₀₁₀~2₀₁₄年度技術協力依頼

    通信アクセス設備における生物被害事例と対策通信サービスを支えているアクセス系設備は,全国各地に広く張り巡らされており,そのほとんどが屋外環境下に置かれています.そのため,自然の中で暮らす生物によって引き起こされる故障が毎年発生しています.ここでは,NTT東日本技術協力センタに寄せられたアクセス系設備で発生する生物被害について,各生物別の被害の特徴と対策,および最近の被害事例について紹介します.

  • NTT技術ジャーナル 2015.1068

    テープが有効であり,端子かんのかじり対策には市販品の端子かん防護カバー(図 4)が有効ですが,リス ・ ムササビなどは樹木を伝って架空ケーブルに来るため,設備周辺の樹木伐採も有効な対策となり,対策を検討するときは設備周辺の樹木を伐採できるかどうかを最初に検討することがポイントとなります.また,ネズミなどによるMH内などの地下ケーブルのかじりに対しては,まず侵入経路の特定が必要になります.侵入経路を特定して,補修 ・ 閉塞を行い,MHなどの配管ダクト口を止水栓等で閉塞するとともに,露出しているケーブル類を防リスシート ・ テープにて保護をする方法が有効です.

    昆虫類による被害としては「セミによるドロップケーブル心線の断線」「アリによるクロージャ内の光ファイバケーブル心線の断線」「コウモリガの幼虫による架空ケーブルへの穿孔および心線の断線」が挙げられます.セミによるドロップケーブルの断線は,当初は西日本特有の故障でしたが今では東日本でも見られるようになってきました.対策としてはセミ対策ドロップケーブル

    (VCドロップケーブル)への張替えが有効です.アリによるクロージャ内の光ファイバケーブル心線の断線は,アリがクロージャの隙間から内部に侵入(図 5)し被害が起こるため,隙間をふさぐことが有効です.シリコンシール材をクロージャのフタを閉じる前に,かん合部に塗布(図 6)することにより隙間をふさぐことができま

    す.コウモリガの幼虫による架空ケーブルへの穿孔については,HSケーブルへのルート全体の更改や局所的であれば防リスシート ・ テープによる保護が有効となります.また,コウモリガの幼虫は樹木やツタを伝って架空ケーブルに到達するため,樹木やツタの伐採,また支線に絡まるツタにはツタ防止ガードなどを支線に取付け侵入経路を断つことも有効となります.

    以上,生物被害対策について記述してきましたが,どの生物も「侵入経路を断つこと」「対策防護品を使うこと」の 2 点がポイントとなります.

    ケーブル内部がステンレスにより防護されている

    図 2  HSケーブル

    防リスシート・テープによる保護(出来形)

    粘着テープ ステンレスシート

    防リスシート(直線部に適用)

    防リステープ(曲部に適用)

    ステンレスメッシュ 粘着テープ

    防リステープ

    防リスシート

    図 3  防リスシート・テープ

  • NTT技術ジャーナル 2015.10 69

    マイマイガによる通信設備(電柱 ・クロージャ)への卵塊産みつけ被害

    ここ数年,春先に東北や信越,東海でマイマイガの幼虫(図 ₇)が大量発生しており,樹木の葉を食害し枯らしてしまったり,農作物にも被害を与えたりする事象が発生しています.また幼虫が原因で電車が停止 ・ 運休する(₁),夏場のサッカーJリーグの試合時に大量の蛾が照明に集まり,競技に影響が出ることを懸念して,開始時間を早める(2)など,社会的にも影響を与えており,各自治体からも注意喚起が行われています.この大量発生した幼虫が ₇ 月から ₈ 月にかけて成虫となり,樹木や住宅の壁,電柱やクロージャの通信設備に大量に卵塊を産みつけます(図 ₈).卵塊は₃₀₀~₅₀₀個程度の卵の塊で鱗毛に覆われており,鱗毛は触れたり,吸い込んだり,目

    に入ったりすると人体に影響を及ぼす場合があります.現在のところ,卵塊により断線などの故障を引き起こすことはなく,通信に直接影響はないと考えられますが,柱上作業者への影響が懸念されたり,その見た目からお客さま苦情となったりします.また,そのまま翌年春に孵化し幼虫になってしまうと,樹木や農作物などに影響が出てしまいます.

    幼虫時は殺虫剤などが効き難く,素手で触れると炎症を起こしてしまうため,発生を抑えるためには,卵塊時での除去が求められます.

    卵塊の除去には半分に切ったペットボトルなどでそぎ落とすように剥がしていくことが有効ですが,作業を行うには雨具やマスク,ゴーグルなどで防備することが重要です(図 ₉).

    昨年度の現地調査から,マイマイガは街灯に寄ってく

    マイマイガによる通信設備(電柱 ・クロージャ)への卵塊産みつけ被害

    シリコンシール材

    図 ₆  シリコンシール材を用いた施工例

    図 ₄  端子かん防護カバー 図 ₅  クロージャへ侵入したアリ

  • NTT技術ジャーナル 2015.1070

    ると考えられるため,街灯の消灯や誘虫性の低いLED灯へ交換することにより効果があると考えられます.ただし,街灯を管理する自治体との調整や消灯の場合は防犯についても考える必要があります.

    また,技術協力センタではマイマイガが電柱に卵塊を産みつけない対策の検討(例:忌避剤の塗布)を行っており,導入に向けて取り組んでいます.

    お わ り に

    ここでは,生物被害に対する代表的な対策方法,最近の被害事例について紹介しました.生物被害に対する完全な対策は難しいことですが,紹介した対策 ・ 事例等により被害の削減に役立てていただければ幸いです.技術協力センタは,前身組織である技術協力部を含めると₅₀年を超えた技術協力活動となりました.これからも今までに蓄積された知識と経験を基に,引き続きアクセス設備の信頼性向上,故障低減に向けた取り組みを進めてい

    きます.

    ■参考文献(1) http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/social/2₀₁₅₀₅₀₄₀₀₀₁₀2(2) http://parceiro.co.jp/news/top/2₀₁₅₀₆₁₉₃₆₁₈.html

    ◆問い合わせ先NTT東日本 ネットワーク事業推進本部

    サービス運営部 技術協力センタTEL ₀3-₅₄₈₀-3₇₀₁FAX ₀3-₅₇₁3-₉₁2₅E-mail gikyo ml.east.ntt.co.jp

    お わ り に

    Lymantria dispar.開張はオス48 mm,メス77 mmで,北海道のものは小型.オスは不規則に飛翔し,ダンスをしているような感から「舞舞蛾」といわれる.分布は北海道,本州,四国,九州,対馬,国外では朝鮮半島からヨーロッパまでユーラシア大陸に広く分布する. 7~ 8 月に出現する.卵で越冬する(日本産蛾類標準図鑑 2,学習研究社).幼虫はブランコケムシ・ハンノキケムシと呼ばれる害虫で,各種の果樹やヤナギ・クヌギなど雑食性.本種の発生は全国的だが,特に北海道から関西にかけて,時々異常に大発生し,樹木に大害を与えることがある(原色昆虫大図鑑 第 1 巻(蝶蛾篇),北隆館).

    図 ₇  マイマイガの幼虫

    図 ₉  除去作業例と除去した卵塊図 ₈  電柱への卵塊付着例