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― 147 ― P15- 5 【 目的 】 今回、発症から 20 年以上経過している転倒頻度が多 い、脳卒中片麻痺患者を担当する機会を得た。障害像を把握 し、身体機能に応じて下肢装具(Gait Solution 付短下肢装 具:以下 GS)を再作製したことにより、立位・歩行能力に 改善がみられた症例を経験したため報告する。 【 症例紹介 】 80 代、女性。平成 6 年 7 月に脳梗塞と診断され、 左片麻痺を呈し、約 3 ヶ月間入院加療していた。自宅に退院 後、約 3 年間外来リハビリを受けていたが、以降は掃除や洗 濯等自分で出来る事を行いながら、夫と二人暮らししていた。 自宅内での転倒頻度が多くなってきた事から、平成 27 年 10 月 8 日より、訪問リハビリ開始に至る。 【 説明と同意 】本報告にあたり、症例・ご家族に症例報告の 意義を説明し同意を得た。 【 経過 】本症例は HDS-R は 20 点と、記銘力低下が伺えたが、 意識清明でコミュニケーション良好であった。運動機能は Brunnstrom recovery stage 上肢Ⅳ、手指Ⅴ、下肢Ⅴであり、 感覚機能は下肢深部感覚は正常であったが、表在感覚に中等 度鈍麻がみられた。左下腿から足部に浮腫がみられ、関節可 動域は左股関節伸展・外転、膝関節伸展、足関節背屈に制限 がみられた。基本動作はベッド上起居動作や立ち上がりは、 支持物を使い自立。移動は T-cane 歩行や伝い歩きで屋内移 動していたが、週に 1 回以上の転倒報告があり、動作時筋緊 張の亢進による麻痺側下肢振り出し時の内反尖足が、転倒要 因の一つとして考えられた。外来通院時期にプラスチック短 下肢装具を作製していたが、訪問時には使用していない状況 であった。訪問初期時の立位バランスは、閉脚位・ステップ 位を20秒以上保持できたが、継ぎ足位保持は10秒未満で あった。5 m 歩行は、30 歩 20.3 秒(装具無し)、28 歩 18.8 秒 (装具あり)であった。平成 28年 2月に装具再作製後、立位 バランスは、装具あり・無し共に継ぎ足位保持 20 秒以上可 能となり、5 m 歩行は、26 歩 16.4 秒(装具無し)、21 歩 13.4 秒(装具あり)と改善がみられ、転倒報告は4月以降0回と なった。 【考察】麻痺側立脚期の安定性低下や麻痺側遊脚期の toe clearance 低下対し、下肢関節可動域拡大に努めると共に GS を作製し、立位でのステップ練習等を通じ、立位バラン スや歩行能力の向上を図った。GS 作製前と比較し、立位バ ランスや歩行スピードに改善がみられ、自宅内での転倒回数 は大幅に減少した。脳卒中ガイドラインにおいて、歩行障害 に対するリハでは、内反尖足がある脳中片麻痺患者への短下 肢装具の使用が勧められている(グレードB)。今回麻痺側 下肢に荷重時の膝折れが無いことや、麻痺側足関節の可動域 が5°以上みられたこと、下肢分離運動が比較的良かったこ とが、GS の適応になったと考える。また維持期リハは獲得 した機能をできるだけ長期に維持するために実施するものと して推奨されており(グレード B)、今後 GS 装着下でのス テップ練習や歩行練習等のリハ継続が、本症例の機能維持に 有用と思われる。 【 理学療法研究としての意義 】脳卒中維持期患者が有する身 体機能や動作能力を高め、維持していくための一方法として、 下肢装具の適合を随時検討することの重要性を実感できた。 発症から約 20 年経過した脳卒中患者に対し、装具再作製を行い、 立位・歩行能力に改善がみられた一症例 ○宮本 栄一 ( みやもと えいいち ) ,西川 典男 介護老人保健施設 リバティ博愛 Key word:脳卒中維持期,装具療法,立位歩行能力 ポスター第 15 セッション  [ 神経 2( 症例報告 )

15 [ 神経2(症例報告) ] P15 5 20年経過した脳卒中患者に対 …kinki56.umin.jp/pdf/abstract/P15-5.pdf― 147 ― P15-5 【目的】 今回、発症から20年以上経過している転倒頻度が多

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Page 1: 15 [ 神経2(症例報告) ] P15 5 20年経過した脳卒中患者に対 …kinki56.umin.jp/pdf/abstract/P15-5.pdf― 147 ― P15-5 【目的】 今回、発症から20年以上経過している転倒頻度が多

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【目的】 今回、発症から20年以上経過している転倒頻度が多い、脳卒中片麻痺患者を担当する機会を得た。障害像を把握し、身体機能に応じて下肢装具(Gait Solution 付短下肢装具:以下GS)を再作製したことにより、立位・歩行能力に改善がみられた症例を経験したため報告する。 【症例紹介】 80代、女性。平成6年7月に脳梗塞と診断され、左片麻痺を呈し、約3ヶ月間入院加療していた。自宅に退院後、約3年間外来リハビリを受けていたが、以降は掃除や洗濯等自分で出来る事を行いながら、夫と二人暮らししていた。自宅内での転倒頻度が多くなってきた事から、平成27年10月8日より、訪問リハビリ開始に至る。 【説明と同意】 本報告にあたり、症例・ご家族に症例報告の意義を説明し同意を得た。 【経過】 本症例はHDS-Rは20点と、記銘力低下が伺えたが、意識清明でコミュニケーション良好であった。運動機能はBrunnstrom recovery stage上肢Ⅳ、手指Ⅴ、下肢Ⅴであり、感覚機能は下肢深部感覚は正常であったが、表在感覚に中等度鈍麻がみられた。左下腿から足部に浮腫がみられ、関節可動域は左股関節伸展・外転、膝関節伸展、足関節背屈に制限がみられた。基本動作はベッド上起居動作や立ち上がりは、支持物を使い自立。移動はT-cane歩行や伝い歩きで屋内移動していたが、週に1回以上の転倒報告があり、動作時筋緊張の亢進による麻痺側下肢振り出し時の内反尖足が、転倒要因の一つとして考えられた。外来通院時期にプラスチック短下肢装具を作製していたが、訪問時には使用していない状況であった。訪問初期時の立位バランスは、閉脚位・ステップ位を20秒以上保持できたが、継ぎ足位保持は10秒未満であった。5 m歩行は、30歩20.3秒(装具無し)、28歩18.8秒(装具あり)であった。平成28年2月に装具再作製後、立位バランスは、装具あり・無し共に継ぎ足位保持20秒以上可能となり、5 m歩行は、26歩16.4秒(装具無し)、21歩13.4秒(装具あり)と改善がみられ、転倒報告は4月以降0回となった。 【考察】 麻痺側立脚期の安定性低下や麻痺側遊脚期の toe clearance 低下対し、下肢関節可動域拡大に努めると共にGSを作製し、立位でのステップ練習等を通じ、立位バランスや歩行能力の向上を図った。GS作製前と比較し、立位バランスや歩行スピードに改善がみられ、自宅内での転倒回数

は大幅に減少した。脳卒中ガイドラインにおいて、歩行障害に対するリハでは、内反尖足がある脳中片麻痺患者への短下肢装具の使用が勧められている(グレードB)。今回麻痺側下肢に荷重時の膝折れが無いことや、麻痺側足関節の可動域が5°以上みられたこと、下肢分離運動が比較的良かったことが、GSの適応になったと考える。また維持期リハは獲得した機能をできるだけ長期に維持するために実施するものとして推奨されており(グレードB)、今後GS装着下でのステップ練習や歩行練習等のリハ継続が、本症例の機能維持に有用と思われる。【理学療法研究としての意義】 脳卒中維持期患者が有する身体機能や動作能力を高め、維持していくための一方法として、下肢装具の適合を随時検討することの重要性を実感できた。

発症から約20年経過した脳卒中患者に対し、装具再作製を行い、 立位・歩行能力に改善がみられた一症例

○宮本 栄一 (みやもと えいいち) ,西川 典男 介護老人保健施設 リバティ博愛

Key word:脳卒中維持期,装具療法,立位歩行能力

ポスター第15セッション [ 神経2(症例報告) ]