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● 3 ●日本緩和医療学会 NL Vol.21 May 2016
1.がん悪液質によって家族介護者はどのような影響を受けているか:質的研究のシステマティックレビュー
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 佐藤 一樹
Wheelwright S, Darlington AS, Hopkinson JB, Fitzsimmons D, Johnson C. A systematic review and thematic synthesis of quality of life in the infor-mal carers of cancer patients with cachexia. Palliat Med. 2016 Feb;30(2):149-60.
【目的】悪液質を有するがん患者の家族介護者の QOL の
影響を同定する。【方法】
「がん」「悪液質・体重減少・食欲・栄養など」「QOL」「介護者・家族」などをキーワードに、1980年~ 2015 年の質的研究をシステマティックレビューし、テーマを統合した。PRISMA ガイドラインに従ってシステマティックレビューを行い、Thomasらの提唱した方法によりテーマ統合を行った。
【結果】システマティックレビューにより 16 研究からが
ん悪液質患者の家族の QOL に関する 57 のコードが抽出され、質的内容分析により 5 つのカテゴリーが同定された。
「日々の生活への影響」は、家族介護者が患者の食事摂取低下とその影響に日々直面し、患者の栄養摂取について責任感を抱き、食事について思い悩み、場合によっては家族自身の食事摂取にも影響を受けてしまうことである。
「患者の世話」は、家族介護者が患者の栄養摂取について抱く責任感を肯定的にとらえ、家族から見て適切な栄養摂取を与えることで患者を守っているという感覚を得る。患者を守るために食事に関する会話を避けることもある。
「外部支援の必要性」は、家族介護者は在宅医療者による支援を必要としており、在宅医療者が体重減少を問題としてとらえていなかったり適切なケアが提供できなかったりする場合に家族は怒りや孤独感を感じてしまうことである。
「患者との対立」は、家族介護者が患者に健康的で適切な量の食事摂取を期待するため、必要以上に
食べさせようとしてしまったり食事の内容で意見があわなかったりすることである。
「情緒的反応」は、患者が悪液質となることで引き起こされる家族介護者の陰性感情で、怒り、心配、恐れ、悲しみなどがある。
【結論】がん悪液質は家族介護者にも様々な影響を与えて
いる。がん悪液質による家族介護者への影響を同定することで、患者・家族の QOL 向上につながりうる。
【コメント】終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン
2013 年版に「精神面・生活への影響」として経口摂取低下時の家族のつらさについて記載があるが、本研究により経口摂取低下による家族の QOL に対する影響がより詳細に記述された。食欲低下は終末期特有の問題ではなく、中等度以上の食欲不振は進行がん患者の半数にみられると報告されている。家族は患者の食欲不振に対し在宅で長期間直面することとなり、医療者が認識している以上に家族は困難を感じているのかもしれない。栄養摂取に関する家族ケアがより早期から必要である可能性が示唆された。
2.フェンタニル舌下錠の吸収に及ぼす唾液分泌不良の影響
岩手医科大学薬学部 臨床薬剤学講座岩手医科大学附属病院 薬剤部 佐藤 淳也
Davies A, Mundin G, Vriens J, Webber K, Buchanan A, Waghorn M. The Influence of Low Salivary Flow Rates on the Absorption of a Sublingual Fentanyl Citrate Formulation for Breakthrough Cancer Pain. J Pain Symptom Manage. 2016 Mar;51(3):538-45.
【目的】がん性疼痛における突出痛に対してフェンタニル
口腔吸収剤は、効果発現が早くその対処に有効な製剤である。しかし、フェンタニル口腔吸収剤は、吸収される過程で唾液による溶解が必要である。従って、唾液分泌が不十分な患者においてフェンタニル口腔吸収剤の効果が不良となる可能性があり、本研究は、薬物動態の側面からその影響を検証した。
【方法】対象は、経口モルヒネ換算 60mg/ 日以上のオピ
オイドを使用中で、唾液分泌量が 0.1mL/ 分未満と通常の0.3~0.4mL/分より少ない9名の固形癌患者。これら患者には、介入なし(Phase1)→水を口に含
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んだ後(Phase2)→ 5 ~ 10mg のピロカルピン塩酸塩を服薬し、唾液分泌量が >0.1mL/ 分に増えた後
(Phase3)の 3 条件において、200 μ g のフェンタニル舌下錠(Abstral)を口腔内投与し、180 分までの経時的採血から血中フェンタニル濃度を測定した。
【結果】Phase1 ~ 3 の最高血中濃度到達時間の中央値は、
それぞれ 0.83 および 0.50、0.67 時間と唾液分泌が少ない Phase1 では、血中濃度上昇までの時間が延長した。Phase2 および Phase3 の最高血中濃度は、Phase1 の 139% および 155%まで有意に増加した。同様にフェンタニルの血中吸収量を示す AUC0-30は、150% および 207% と同様に有意に増加したが、AUC0-180 の有意差はなかった。
【結論】唾液分泌が少ない場合、フェンタニル口腔吸収
剤の最高血中濃度到達時間は遅延し、30 分までのAUC も著しく減少した。口に水を含むこととピロカルピン塩酸塩内服との差は、いずれの指標とも認められなかった。これらの結果は、唾液分泌機能に関わらず口腔内の保湿度がフェンタニル口腔吸収製剤の薬物動態に影響することを立証したものである。
【コメント】レスキュー麻薬に求められる特徴は、突出痛に対
処するような即効性と副作用に繋がらないよう短時間の効果があることである。フェンタニル口腔粘膜吸収剤は、これらの点でレスキュー麻薬として理想的な薬剤である。今回の報告は、フェンタニル口腔粘膜吸収剤の効果に口腔内の保湿度が影響する可能性を示した論文である。終末期がん患者においては、唾液分泌減少や口腔乾燥を生じている患者は非常に多い。このように唾液分泌が少ない場合にもフェンタニル口腔粘膜吸収剤を効果的に使用するためには、水で含嗽あるいは飲水後に使用するなど口腔内の保湿にも目を向けて使用することが重要であると思われた。
3.ICUを除く入院患者におけるせん妄の予防的介入効果:コクランレビュー
東北大学大学院 医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 菅野 雄介
国立がん研究センター東病院先端医療開発センター 精神腫瘍学開発分野 小川 朝生
Siddiqi N, Harrison JK, Clegg A, Teale EA, Young J,
Taylor J, Simpkins SA. Interventions for preventing delirium in hospitalised non-ICU patients. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Mar 11;3:CD005563. [Epub ahead of print]
【目的】せん妄は入院中に起こり得る精神症状の一つであ
り、患者と家族の苦痛を伴う。本研究では、ICU を除く入院患者のせん妄に対する予防的介入効果を系統的レビューにより明らかにすることである。
【方法】2015 年 12 月までにデーターベースに発表された、
せん妄に対する予防的介入でランダム化比較試験を行なった論文を抽出した。
【結果】3,383 本抽出され、そのうち適格基準に該当した
論文は 39 本であった。非薬物療法では、通常ケア群よりも複合的介入群でせん妄の予防効果を認めたが(リスク比 0.69, 95% 信頼区間 0.59-0.81)、サブグループ解析では、認知症患者を対象とした場合、せん妄の予防効果は認められなかった ( リスク比 0.90, 95% 信頼区間 0.59-1.36)。薬物療法では、コリンエステラーゼ阻害薬、抗精神病薬全体としてせん妄の予防効果が認められなかった(リスク比 0.68, 95%信頼区間 0.17-2.62;リスク比 0.73, 95% 信頼区間 0.33-1.59)。メラトニン・アゴニストでは、プラセボ群との比較でせん妄の予防効果は認められなかった(リスク比 0.41, 95% 信頼区間 0.09-1.89)。また、Bispectral Index(BIS)による麻酔管理では、BISを用いない、または臨床判断による麻酔管理よりも術後せん妄の予防効果が認められた(リスク比 0.71, 95% 信頼区間 0.60-0.85)。
【結論】ICU を除く入院患者のせん妄に対する予防的介入
効果として、非薬物療法でエビデンスが強く支持され、薬物療法(コリンエステラーゼ阻害薬、抗精神病薬、メラトニン・アゴニスト)でエビデンスは支持されなかった。術後せん妄への予防効果としては、BIS による麻酔管理でエビデンスは支持された。
【コメント】せん妄は、治療的介入と予防的介入に大別され、
本研究はせん妄の予防的介入効果に関するエビデンスの 2007 年からのアップデートである。わが国で実証された、メラトニン・アゴニストであるラメルテオンは、本研究ではエビデンスが支持されなかったが、Hatta らの行った二次解析では認知症患者で予防効果を認めており今後エビデンスの集積が期
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待される(Hatta K. et al. JAMA Psychiatry. 2014; JAMA. 2015)。一方、非薬物療法においては一定のエビデンスが支持されている。Inouye らによるThe Hospital Elder Life Program (HELP program) では、多職種チームによる複合的介入によりせん妄の発症だけでなく、在院日数、身体機能や認知機能の変化などの介入効果を認めている(Inouye, SK. et al. J Am Geriatr. 2000; Hshieh TT. et al. JAMA Intern Med. 2015)。わが国では、共著者らがせん妄に対する非薬物療法として多職種協働介入によるプ ロ グ ラ ム(Delirium Team Approach Program: DELTA Program)の開発を進めている。
4.前立腺がん患者における心理的ストレスや短期的な益を優先することの緩和ケアに対する選好との関連
東北大学大学院医学系研究科 地域保健学分野青山 真帆
Gerhart J, Asvat Y, Lattie E, O'Mahony S, Duber-stein P, Hoerger M. Distress, delay of gratification and preference for palliative care in men with pros-tate cancer. Psychooncology. 2016 Jan;25(1):91-6.
【目的】意思決定に関する先行研究において、心理的スト
レスが強い時には、長期的な益よりも、短期的な益を優先させる傾向にあることが明らかとなっている。したがって、ストレスを抱えている患者は、緩和ケアによって心理社会的なストレスが軽減されうるにも関わらず、将来的な Quality of Life (QOL) の改善という長期的な問題よりも、現在緩和ケアに関する話し合いを避けることを優先させるかもしれない。本研究の目標は、前立腺がん患者における心理社会的ストレスや短期的な益を優先することと緩和ケアに対する選好との関連を明らかにすることである。
【方法】前立腺がん患者 212 名を対象とし、自記式質問
紙調査を実施した。心理社会的ストレスは、短期的な益を優先する度合いを媒介とし、緩和ケアの選好と関連しているという仮説を明らかにするため、調査内容には、抑うつ・不安に関する尺度(the depression anxiety stress scales anxiety and depression symptoms)、短期的な益の優先度を評価
する尺度 (the delay of gratification inventory)、緩和ケアに対する選好に関する項目 ( 化学療法の効果が期待できない際には医師に告げられたいと思うかどうか ) が含まれた。
【結果】対象者の平均年齢±標準偏差は 62 ± 8 歳、94%
が白人、27% が進行がんであった。単変量解析の結果、抑うつが強い群はそうでない群と比較して緩和ケアに対して 2.7 倍消極的であり有意な差が認められた (p=0.019)。不安については有意な差は認められなかったが、不安が強いと 2.1 倍緩和ケアに対して消極的であった (p=0.106)。多変量解析による媒介分析の結果、単変量解析の結果、有意差がみとめられた抑うつと緩和ケアの選好の関連も、短期的な益の優先度を媒介しない場合には有意差は認められなかった。
【結論】はじめに立てた仮説のとおり、心理社会的ストレ
スは、短期的な益を優先する度合いを媒介とし、緩和ケアの選好と関連していた。
【コメント】本研究では、心理的なストレスの軽減が緩和ケア
の導入や意思決定支援につながる可能性を示している。早期からの緩和ケアの効果は、近年 Temel らや Bakitas らによって明らかにされているが、臨床的には患者がそれを望まないまたは、緩和ケアについての話し合いを避けるような場合には導入が難しいことがある。患者の意思決定支援は心理社会的なストレスを軽減することとともに行うことの重要性を本研究では改めて示唆している。
5.中程度がん疼痛に対する低用量モルヒネと弱オピオイドのランダマイズ比較試験
名古屋大学病院 薬剤部 宮崎 雅之
Bandieri E, Romero M, Ripamonti CI, Artioli F, Si-chetti D, Fanizza C, Santini D, Cavanna L, Melotti B, Conte PF, Roila F, Cascinu S, Bruera E, Tognoni G, Luppi M. Randomized Trial of Low-Dose Morphine Versus Weak Opioids in Moderate Cancer Pain. J Clin Oncol. 2016 Feb 10;34(5):436-42.
【目的】がん疼痛の管理に関する WHO ガイドラインは 3
ステップの鎮痛ラダーを痛みの程度に応じて順次行
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うことを推奨している。しかし、中等度の痛みに対してステップ 2 の弱オピオイドか低用量のステップ3 の強オピオイドのいずれを用いるべきかを結論づけるデータは不足している。本研究ではオピオイド初回使用患者における低用量モルヒネと標準用量の弱オピオイドの効果および忍容性を比較評価した。
【方法】イタリアの非盲検多施設ランダム化試験で、中等
度疼痛(Numerical Rating Scale(NRS) 4 ~ 6)を有するオピオイド投与歴のないがん患者 240 人をステップ 2 にあたる弱オピオイド(コデインまたはトラマドール(アセトアミノフェンとの合剤も可)、最大推奨用量に漸増)またはステップ 3 にあたる経口低用量モルヒネ(短時間型製剤 5mg 4 時間毎から開始し、3 日間でタイトレーション後、徐放型相当用量に移行)群に割り付けた。7、14、21 および 28 日後に疼痛の程度、副作用を評価した。主要アウトカムは鎮痛効果(NRS で 20%以上の改善)が得られた患者数とした。
【結果】240 名のオピオイド未投与がん疼痛患者が低用量
モルヒネ群(118 名)と弱オピオイド群(122 名)に割り付けられた。弱オピオイド群の内訳はコデインが 99 名、トラマドール単剤が 19 名、トラマドール、アセトアミノフェン合剤が 4 名だった。7 日開始後における鎮痛効果は、低用量モルヒネ群で 88.2%、弱オピオイド群で 57.5%だった (odds risk, 6.18; 95% CI, 3.12 to 12.24; P