14
1 第2章 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けのものか考えたことがお有りだろうか。私は二つの意味合いが あると考えている。 一つ目は、事業推進のための基本的な考え方やその方法論としての位置付けである。 事業戦略のスタンダードである競争戦略の視点で考えれば、それは一定のパイの奪い合いを成功に導く ための基本的な考え方や方法論のことを意味する。すなわち、市場規模は一定である。その限られた市場 を自社のテリトリーにするための競争原理に基づく考え方と方法論だ。 二つ目は、事業推進のための重要な社内ツールとしての位置付けである。 上位管理者クラスであれば、事業推進にとって最適な施策や方法について既に頭の中に思い描いている 場合は多い。それは直感的で明確な裏付けを持たないものの結果的に正しい場合が多い。ところが、それ を客観的かつ論理的に裏付けることができないため、自身の考えで周囲を説得できずに社内の意思決定が 難しくなる。或いは、意思決定まで大幅に遅れるかである。 組織にはいろいろな価値観や考え方を持つ者がいる。それらの者を説得しようとするならば、何らかの 客観的なツールが必要になる。そして、そのツールを上手に活用して周囲の者を自身と同じベクトルに向 けさせることが大切なのである。すなわち、事業戦略とは周囲を説得し自身の思い描く方向へと導くため の客観的ツールにもなりえるのだ。マネージメントのためのツールと考えれば分かりやすいだろう。その ような使い方がされるものとして他にもキャッシュフローなどが挙げられる。 人を説得し納得させて同じ方向へとそのエネルギーを結集することがリーダーシップなのである。その ためには何らかのロジックやツールが必要になる。リーダーシップ発揮のためのツールが必要なのである。 人間は万人に受け入れ可能な客観的なものを使いたがる。それを有り難がる。理論武装という響きも好き なのだ。それと同時に、自身の思い描いている施策や方法を客観的に判断しチェックするためのツールに もなる。 私自身でいえば結果的に事業戦略をこの二つ目の位置付けとして利用する機会が多かった。 (1)競争戦略 既存の事業戦略論として過去に何度か聞いたことがあるかもしれない比較的有名な事業戦略である。マ イケル・ポーターの論文「競争戦略論」が有名である。先ずは、おさらいも兼ねて既存の事業戦略論とし てこの競争戦略をレビューしよう。 コストリーダーシップ(=低コスト化)とユニークバリュープロポジション(=差別化)のトレードオ フを重要な課題とする。すなわち、その二つの両立は難しいため、どちらか一方の要因をもって市場で競 争せざるをえないという論理が基本になる。それはイノベーター理論から見ても次のような考えで両立は 難しいと結論付けられる。革新的な製品を投入しても市場浸透度が浅い初期の段階では限界コストが高く 規模の経済はとれない。しかし、時間が経つにつれて市場浸透度が深まり規模の経済がとれるようになる

1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

1

第2章 1-5.事業戦略論各論

先ず、事業戦略とはどのような位置付けのものか考えたことがお有りだろうか。私は二つの意味合いが

あると考えている。

一つ目は、事業推進のための基本的な考え方やその方法論としての位置付けである。

事業戦略のスタンダードである競争戦略の視点で考えれば、それは一定のパイの奪い合いを成功に導く

ための基本的な考え方や方法論のことを意味する。すなわち、市場規模は一定である。その限られた市場

を自社のテリトリーにするための競争原理に基づく考え方と方法論だ。

二つ目は、事業推進のための重要な社内ツールとしての位置付けである。

上位管理者クラスであれば、事業推進にとって最適な施策や方法について既に頭の中に思い描いている

場合は多い。それは直感的で明確な裏付けを持たないものの結果的に正しい場合が多い。ところが、それ

を客観的かつ論理的に裏付けることができないため、自身の考えで周囲を説得できずに社内の意思決定が

難しくなる。或いは、意思決定まで大幅に遅れるかである。

組織にはいろいろな価値観や考え方を持つ者がいる。それらの者を説得しようとするならば、何らかの

客観的なツールが必要になる。そして、そのツールを上手に活用して周囲の者を自身と同じベクトルに向

けさせることが大切なのである。すなわち、事業戦略とは周囲を説得し自身の思い描く方向へと導くため

の客観的ツールにもなりえるのだ。マネージメントのためのツールと考えれば分かりやすいだろう。その

ような使い方がされるものとして他にもキャッシュフローなどが挙げられる。

人を説得し納得させて同じ方向へとそのエネルギーを結集することがリーダーシップなのである。その

ためには何らかのロジックやツールが必要になる。リーダーシップ発揮のためのツールが必要なのである。

人間は万人に受け入れ可能な客観的なものを使いたがる。それを有り難がる。理論武装という響きも好き

なのだ。それと同時に、自身の思い描いている施策や方法を客観的に判断しチェックするためのツールに

もなる。

私自身でいえば結果的に事業戦略をこの二つ目の位置付けとして利用する機会が多かった。

(1)競争戦略

既存の事業戦略論として過去に何度か聞いたことがあるかもしれない比較的有名な事業戦略である。マ

イケル・ポーターの論文「競争戦略論」が有名である。先ずは、おさらいも兼ねて既存の事業戦略論とし

てこの競争戦略をレビューしよう。

コストリーダーシップ(=低コスト化)とユニークバリュープロポジション(=差別化)のトレードオ

フを重要な課題とする。すなわち、その二つの両立は難しいため、どちらか一方の要因をもって市場で競

争せざるをえないという論理が基本になる。それはイノベーター理論から見ても次のような考えで両立は

難しいと結論付けられる。革新的な製品を投入しても市場浸透度が浅い初期の段階では限界コストが高く

規模の経済はとれない。しかし、時間が経つにつれて市場浸透度が深まり規模の経済がとれるようになる

Page 2: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

2

と低コスト化が実現する。ところが、そのような規模の経済が実現した時点ではこの製品自体のイノベー

ションは費えてしまいコモディティティ化し差別化は消えうせている。そのように、競争戦略論ではコス

トリーダーシップ(=低コスト化)とユニークバリュープロポジション(=差別化)の両立は難しいと論

じられている。

コストリーダーシップを得られるのは市場シェア上位の企業すなわち大手企業に限られる。すなわち、

限界コストを下げられる企業とは規模の経済をとることができる企業ということだ。従って、中小含めた

多くの企業は差別化を選択せざるをえないのだ。さらには、激化した競争市場では顧客ニーズに対してき

め細かな対応が求められる。その結果、セグメンテーションの細分化を無意識にも行うことになる。

この市場の細分化つまり市場規模縮小によって、たとえその中で一番になったとしても大きな成長は期

待できないことになる。それと同時に、同一業界では競争ルールや事業構造やコスト構造や生産方法など

が似かよっており実質的には差別化を打ち出そうにもそれが難しい場合は多い。特に、コモディティ商品

(=日常用品)を扱う業界ではその傾向が強い。似かよっているがために模倣され易いからである。従っ

て、差別化しやすい一部の市場を除けば消費財市場に代表されるようにコストリーダーシップ(=規模の

経済の獲得)を目的にM&Aが繰り返されることになる訳だ。

繰り返すが、この論理は一定のパイをサプライヤーたちが奪い合うという前提に立つ戦略である。いわ

ば「サプライヤーオリエンテッド戦略」だ。そして、規模の経済を得ることを第一としてイノベーション

は競争優位を得るための手段と見なされることが多いのである。

以上が一般的に論じられているところの競争戦略論である。しかし、その中で問題になるのは一定の市

場規模という前提条件のことだ。

既に述べたとおり、市場とは顧客の集合体でありその中には不確定要素が多い。そして、その時々の市

場環境に応じて市場規模も市場特性も変化する。世界情勢や経済状況や生活様式や価値観などの時代の変

化やイノベーションの出現によって人間の欲求の大きさやその質は時系列的に変化する。それに伴って当

然、市場規模は変化するのである。また、同一業界で同一製品群の競合他社どうしであっても個々の企業

が抱える市場は同一のものとは言い難い。何故ならば、顧客へのチャネル、パートナー企業とのアライア

ンス、ビジネスモデルなどの特性や規模は企業によって千差万別であるからだ。

従って、一定のパイを奪い合うという「サプライヤーオリエンテッド戦略」は大量のコモディティ製品

が主流を占める時代には有益だったのかもしれない。しかしながら、顧客のニーズが多様化したこの現状

では一部の市場を除けばそれはもはや有益とはいえない。それとは違う戦略思考を考えなければならない。

その考え方を次に述べる。

(2)需要創造型戦略

この需要創造型戦略とは、上述の競争戦略の起点である「サプライヤーオリエンテッド戦略」とは逆の

「デマンドオリエンテッド戦略」を起点にした戦略のことだ。すなわち、既存市場の周辺や市場間の境界

において新たな顧客ニーズを発掘することによって市場規模を拡大することである。或いは、新たな市場

Page 3: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

3

を作り上げることである。そして、その市場規模の増分を一気に自社で獲得する事業戦略のことだ。

別の言い方をすれば市場創造型といえよう。それは人によっては新規事業と呼ばれるのかもしれない。

しかし、既に述べたとおり、市場は常に変化し続けるものであり、企業組織毎に抱える市場は違って然る

べきだとの見方を私はしている。そのためここではあえて新規事業とは考えない。その意味では、既存事

業と新規事業とを分けるような戦略的思考方法は必要無いのかもしれない。というよりも、それは企業組

織毎の個別による考え方次第だと思う。

さて、この戦略でポイントとなるのは以下の3点である。

顧客価値の新規開発

開拓市場への一番乗り

低コスト化と差別化の両立

これらが実現できれば間違いなく事業は成功する。但し、一般的に新規事業を語る言葉として「顧客は

経験したことのないものを欲しがることはできない」というものがある。その言葉のとおり、顧客価値を

新規に開発したところでどれ程の結果が出てくるのか読み難い。その意味では、顧客価値の新規開発はリ

スクを負った事業ともいえる。しかし、リスクを伴っていてもそれを軽減するための方策を考えれば良い

のである。そのための方策は全方位的に有りえるのだが、例えば以下のコンセプトによるものは有効にな

る筈だ。

オープン化

ネットワーク化

上記の二つのコンセプトを利用して顧客価値を上手に開発しヒットに繋げた事例として、最近のもので

はフリー百科事典のウィキペディア、オープンソースのリナックス、そして SNS 最大手のミクシィのオ

ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

この需要創造型戦略の上記 3 つのキーポイントの中で一番重要なのが「顧客価値の新規開発」である。

但し、顧客価値を的確に掴むことが非常に難しいのである。単に顧客に聞けばよいとか、或いは質問攻め

にすればよいとかいうものではない。顧客すら気づいていない価値を見出すために独自で調査や分析を行

う場合もある。或いは、顧客の顧客であるエンドユーザーにまで踏み込み、そのようにビジネスモデルを

再構築する場合もあるかもしれない。顧客価値を的確に掴むこととは顧客の思考や行動を徹底的に調べ尽

くす仕事なのである。決して一過性で済むような仕事ではない。

そして、それを支えるのがイノベーションだ。イノベーションとは単なる技術革新のことではなく、新

たな発想から新たな価値を創造する意義ある社会的変革のことである。例えば、顧客価値発掘などのマー

ケティング技術、商品開発技術、製造技術などが該当しよう。

それは卵が先か鶏が先かの議論にもなりかねないが、このイノベーション開発の発生確率を高めるため

には組織構造が重要になる。例えば、事業組織をフラット型(=シンプルな職位階層)やアメーバ型(=

職能と職位を分離したプロジェクト単位のグループ編成)などに変えることによって、効果的かつ効率的

Page 4: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

4

な事業運営を可能にする組織戦略が挙げられる。それは「イノベーションは組織構造に従い易い」と述べ

た事業戦略とほぼ同義である。逆に、「組織構造はイノベーションに従い易い」と述べている戦略もある。

実は両方共に真であり、イノベーションと組織構造は双方共に影響し合っているといえるのだ。

顧客価値発掘のマーケティングイノベーションを作り出すための重要な方法論として、先ずは非顧客に

ついて考えることを挙げたい。「何故、彼ら或いは彼女らは非顧客のままなのか?」そして、「顧客と非顧

客の共通点は何だろうか?」それらについて良く考えてみることだ。既に述べたとおり、リピーターなど

既存顧客のニーズを深堀ばかりしていると顧客価値の発掘という視点からかけ離れていくだけだ。それは

自社の市場自体を狭めかねないものである。特定顧客の満足度を満たせば満たすほど需要を縮小させるリ

スクをより多く生み出すからである。

例えば、ゲームソフトで考えれば以下のようなマニアックな顧客満足度のことだ。

難易度の高い操作性

面倒なルール

複雑なストーリ

解像度の高い画面描写と大画面化

早いレスポンス

長時間必要なセットアップとスタートアップ

上記を実現するためにはハードウェア上での CPU や半導体の高性能化や微細化といった技術的イノベ

ーションが必須になる。そして、その分のコストは価格に反映されることになる。それと同時に、このよ

うなスピーディかつ複雑なゲーム展開についてくることのできないユーザーが出てくる。このように特定

の顧客満足度の深堀は複数のリスクを伴う。すなわち、マーケティングイノベーションの垂直的進化はそ

の市場自体を狭めかねないなどの複数のリスクを生み出すことになる。

その一方で、マーケティングイノベーションの水平的進化は「顧客価値の新規開発」に繋がる。すなわ

ち、需要創造型事業を生みやすいのである。

但し、何も垂直的進化を否定している訳ではない。マーケティングイノベーションの垂直的進化を推し

進めて、比較的少数の固定客を半永久的に囲い込む戦略も有って当然だ。特に、単価の高い製品やサービ

スを扱う場合にはそれは有効な戦略になる。

その意味では、垂直的進化は客層幅を犠牲にして顧客ロイヤリティ向上を重視する囲い込み戦略であり、

水平的進化は逆に顧客ロイヤリティ向上を犠牲にして客層幅を重視する需要創造型戦略といえよう。従っ

て、垂直的進化と水平的進化のバランスが大切になる。このバランスは時代背景にもよる。

但し、日本の場合「ものづくり」や技術志向型の産業構造が今まで強かったためどうしても垂直的進化

が中心であった。そのため、今後は積極的に水平的進化すなわち需要創造型戦略を志向するべきである。

今までとは違う顧客価値を見出すためには、先ずは既存事業のリスク分析(=競合分析)を行い、そし

て既存顧客と非顧客の両者の思考と行動を徹底的に洗い出しその共通項を見出すことである。

上記 3つのキーポイントの中で次に重要なことは「低コスト化と差別化の両立」である。この共通項と

いう新たな顧客価値にはこの「低コスト化と差別化の両立」が適用されなければならない。

Page 5: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

5

顧客価値は多数の価値要素から構成される。価値要素とは、ここでは単純なキーワードで列記するが、

例えば「価格」「品質」「認知度」「ブランド力」「選びやすさ」「楽しさ」「こだわり」「意外性」などであり、

詳細に抽出しようとすればそれこそ無数にも考えられる。そして、既存顧客と非顧客の共通項という新規

の顧客価値を発掘するためには以下のような手順が必要になる。

① 既存顧客と非顧客にとっての顧客価値とは何かを分析するために、先ず既存顧客と非顧客にとっ

て重要だと考えられる価値要素を抽出する。なお、以下のサイクルを繰り返して慣れてくるに従

って価値要素をできるだけ具体的にかつ細かくそして多く抽出することである

② 市場で売れ筋の既存製品(サービス)について競合分析を行う。代表的な既存製品をいくつかピ

ックアップする。それらの既存製品に対して上記①で既存顧客から抽出した価値要素をあてはめ

て定量分析を行う。その際、横軸に既存価値要素を重要と思われる順番で列記する。縦軸は価値

要素の大きさを表すが、最初は大・中・小の 3レベルによる価値要素の比較検討から実施しても

良い。それにより既存製品の代表的なバリューカーブができあがる。このバリューカーブこそが

顧客価値なのである

③ 上記②で作成した既存製品のバリューカーブの特性を分析する

④ 次に、新規製品のバリューカーブすなわち新規の顧客価値について考える。上記②で用いた横軸

に上記①で非顧客から抽出した価値要素を追加する。これらの新規価値要素のどれに重点を置い

て開発するべきか関係者全員でブレーンストーミングを行う。それと同時に、既存製品で重点を

置かれていた既存価値要素の中から削除できるもの或いはその大きさを削減できるものはどれ

なのか関係者全員でブレーンストーミングを行う

⑤ 上記④の結果を踏まえて新規製品のバリューカーブを作成する。既存製品のバリューカーブを参

考にして新規と既存の価値要素に対して定量的判断を行う。その際、既存製品のバリューカーブ

に追加した価値要素の総量と削減した価値要素の総量とのバランスを考慮するのが重要なポイ

ントになる

⑥ 以上の手順により既存顧客と非顧客の共通項ともいうべき新規顧客価値のバリューカーブがで

きあがる。それは既存価値(=既存機能)を削減しているため「低コスト化と差別化の両立」を

実現可能とする(下記の図を参照)

⑦ 上記のサイクルを繰り返す。その際、最初は個人単位で行う。その後、グループを作り個人で作

った既存製品と新規製品のバリューカーブについてブレーンストーミングすることによって比

較検討を行いグループとして一つの案にまとめ上げる。最後には、全員で一つの案にまとめ上げ

る。それによって、精度を高めながら効率的に既存製品の分析も新規顧客価値の開発も行うこと

ができる

Page 6: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

6

上記の図は、競合分析すなわちバリューカーブによる分析を行い新規の顧客価値を発掘しようとした事

例である。なお、この事例は私自身のアイデアを表現しただけのもので、実際の市場には投入していない

ことを最初に断っておきたい。

先ずは、眼鏡市場の代表的な既存製品群に対して競合分析を行った。代表的なブランド眼鏡と格安眼鏡

の 2種類に対してである。それらを踏まえて新規の顧客価値を発掘するために新たな価値要素として右側

の 2つの価値要素(上図の横軸)を追加した。すなわち、新規開発製品の候補として機能性眼鏡を見出し

たのである。既存でも新規でも本来ならばもっと多くの価値要素が挙げられるが、ここでは考え方を理解

していただくため 9個の価値要素に留めた。

ここでポイントになるのは以下のような考え方である。

既存製品について、高額なオーダーメイドを除けば、全てのフレームが出来合い製品であるた

め多くの顧客には眼鏡をかけた時のフィット感が十分でないという不満がある。しかし、本来

眼鏡とはそのようなものだという固定概念があるため多くの顧客は仕方がないと諦めている。

従って、既存の価値要素についてはこの要素の向上にフォーカスすべきであると考えた

既存製品にはなかった新たな価値要素として、「選びやすさ」と「購入後でもレンズとフレーム

の組合せフリーな構造」の二つを掲げた。前者の「選びやすさ」とは、出来合いのフレームを

一つ選ぶのではなくフレームを幾つかのパーツに分けそれぞれのデザインやサイズやフィット

感に応じて選択可能としたことだ。さらに、その場で簡単に組み立てることができる。それは

Page 7: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

7

同時に、上記で述べた既存価値要素のフィット感の向上に繋がる。後者の「購入後でもレンズ

とフレームの組合せフリーな構造」とは、購入後も自分自身でパーツを取り替えることができ

る簡易な組立構造としたことだ。それによりパーツさせ購入すれば別の眼鏡に様変わりする。

すなわち、状況や気分に応じて簡単にモデルチェンジができるコストパフォーマンスの良い機

能性眼鏡になるのである

上記 2 項目(既存価値要素の強化と新規価値要素の追加)へのリソースの加増に応じて他の既

存価値要素へのリソース配分については削減しなくてはならない。それは「低コスト化と差別

化の両立」を維持するためである。そのためフレームの各種パーツのデザインやサイズなどの

種類を極力抑えて部品点数を少なくし製造コストを下げる必要がある。但し、フィット感が損

なわれることのないよう各パーツの組合せにより十分に対応できるよう配慮しておくことは必

要だ

上記によって、フレームの各種パーツやレンズの追加、或いは買い替えの需要を促すことがで

きる

このように非顧客の分析、すなわち顧客が購入しない理由を分析することは重要である。この需要創造

型戦略の基本的な考え方は以下のとおりである。

既存顧客の利便性の更なる向上

非顧客の市場への参入障壁の除去

既存機能の削減による製造コストの低下

顧客でも非顧客でもそれらの理由を分析することは重要である。また、競合分析において競合製品同士

を分析することも同時に重要だ。ここではそれらの方法論について述べることとする。

i. 「三現主義」による調査

三現主義とは、現場・現物・現実の三つを総称した言葉である。三現主義の対象としては自社

製品(サービス)は当然である。それと同時に、競合他社製品もその対象になる。三現主義に

よる調査を行う上で重要な点は以下のとおりである

① 過去に調査会社が行った外部委託レポートや調査報告書などには頼らないこと。中身の

鮮度の問題もあるが、それ以上に自分自身の五感を使って現場で現物を介して現実を客

観的に感じ取ることが先決である

② 顧客との直接対話や顧客と行動を共にするなど顧客との密着を心掛けることである

③ 非顧客(=競合他社製品の顧客や完全非顧客など)への密着はさらに大切である

④ 最終的には現場・現物・現実を通して社会的な評価を分析することになる

ii. 分析対象となる競合製品グループ

先に述べた眼鏡市場を例にとれば、自社製品や競合他社製品の各種様々な眼鏡を分析すること

になる。しかしながら、既にお分かりかもしれないが需要創造の視点からそれだけでは不十分

Page 8: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

8

なのである。その理由は以下のとおりだ。

① 「形式は違うが同じ機能を持つ製品(サービス)群との競合分析」

眼鏡の事例で考えれば、先ずコンタクトレンズを思い浮かぶ人も多いかもしれない。形

式(=製品種別)は眼鏡と異なるが、視力を矯正するという機能は眼鏡と同じだ。つま

り、同じ機能製品同士なのである。

そこで考えてみよう。何故、眼鏡からコンタクトレンズに顧客は流れていくのだろう

か?鼻や耳に当たる感覚がフィットしないからだろうか。或いは、顔に眼鏡をかけるこ

と自体が面倒だからだろうか。

今度は逆に、何故、眼鏡を掛けている顧客はコンタクトレンズに流れていかないのだろ

うか?ドライアイなどで目に合わないからだろうか。或いは、目に傷がつくのを恐れて

いるからだろうか。または毎日のメンテナンスが面倒だからだろうか。

そういったことを良く考えればヒントは自然と沸いてくる筈だ。

因みに、他にも形式は違うが同じ機能を持つ製品(サービス)としてレーザー手術があ

る。近視とは、目の水晶体自体の問題や水晶体を掌る筋肉群の調整機能低下のどちらか

によって引き起こされる網膜上の焦点ぼけから来る現象のことである。レーザー手術と

はレーザーにより角膜の形状を変え網膜上の焦点を合わすための矯正方法の一つであ

るからだ。

② 「形式と機能は違うが同じ目的を果たす製品(サービス)群との競合分析」

次に、形式も機能も異なるが、目的が同じ製品(サービス)について考えてみよう。

人によって製品(サービス)の購入目的は様々であり一概に目的が同じ製品群とは言い

難い側面もあるかもしれない。特に昨今は、顧客の購入動機すなわち購入目的が多様化

しサプライヤーにとっては思いもよらないことが購入動機や購入目的になることも多

い。逆に言えば、新たな顧客価値の発掘はそのような発見のための地道でたゆまぬ努力

があればこそである。

本事例で形式も機能も異なるが目的が同じ製品(サービス)といえば、分かり易いとこ

ろでは視力回復トレーニングやその補助ツールが挙げられる。すなわち「見えるように

なる」という目的においてそれは眼鏡と同じだ。

そして、それと眼鏡との共通項を良く考えてみることだ。

さらに踏み込んで目的を「読書や勉強」と具体的にしてみれば、視力とは関係のないオ

ーディオブック、音声認識や音声合成機能付きオーディオプレイヤー、学習用 CD/MD

教材、ラジオ講座などが同じ目的として挙げられる。同様に、それらと眼鏡との共通項

を考えてみれば面白いことに行き着くだろう。

以上のように、同じ形式(=種別)製品群、同じ機能製品群、同じ目的製品群のそれぞれの中

で競合分析を行うことが大切なのである。我々は往々にして競合分析を同じ形式製品群の中で

終始しかねない。また、その範囲を広げたとしてもせいぜい同じ機能製品群の中で多少の分析

をする程度だ。しかし、そこからさらに分析対象をある一定の方向性を保ちながら拡張してい

くことこそが肝要なのである。但し、分析対象を拡張すればするほど、その多様性も同時に広

Page 9: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

9

がりバラツキが出てくることも忘れてはいけない。

iii. 付属関連製品(サービス)群

競合製品の分析と同時に、対象製品(サービス)の付属品や関連製品についても分析を行う必

要がある。この付属関連製品には対象製品購入時に発生するものと購入前後に発生するものと

の 2種類がある。つまり、縦軸(購入プロセス)上と横軸(時間)上とで発生するものだ。

① 縦軸上での付属関連製品群

本事例では眼鏡ケースやクリーナーなどが挙げられる。それらは殆ど眼鏡とセットで販

売されるケースが多い。そういった補完的要素の強いものも分析する必要がある。

例えば、それらは本当に顧客にとって必要なものなのだろうか?或いは顧客にとってそ

れらの使い方は実際のところどうなっているのだろうか?もしかしたら既存のような

ケースではなく持ち運びに便利なように(ポケットに挿入可能なように)レンズと鼻パ

ットのみを保護してくれる薄型のカードタイプのようなものが好まれるのかもしれな

い。または、そのような付属品は一切不要でその分値段を安くして欲しいという方も多

くいるかもしれない。過去に眼鏡を複数回購入したことがあればそのような付属品は家

に帰ればたくさん眠っている筈だ。必要な人にはオプション製品として別売りでも対応

は十分なのかもしれない。

一方、眼鏡の上から装着可能なアタッチメントタイプのサングラスがある。しかし、現

状ではそれは非常にお粗末なものが多い。私などは本当なら購入したいのだが、都内の

どこにいってもお粗末な玩具のようなものしか見当たらず今に至っている。

それら付属関連製品も製品購入の十分な動機になりえることを良く理解して欲しい。そ

れと同時に、不必要なものまでセットにして顧客に押し付けてはいないか見直してみる

ことも大切である。

② 横軸上での付属関連製品群

時間軸上すなわち対象製品購入前後に関係してくる付属関連製品(サービス)群である。

本事例では、購入前には眼科検診や視力検査といった医療サービスであり、購入後には

メンテナンスや修理やレンズ交換などが該当する。もっとも購入時でもお店によっては

度数の高いレンズやフレームサイズの都合により 1週間程度の時間を要する場合もある。

そのような時間軸で考えてみれば、眼鏡を作るのに眼科医院に行った後に眼鏡屋に行き

さらに待たされてようやく眼鏡の引渡しという場合も少なくない。そのように付属関連

サービスの顧客満足度の低さが眼鏡に対する顧客価値を低くさせているのかもしれな

い。但し、現状ではそのような時間軸上での問題点は概ね解消されつつある。殆どの眼

鏡屋では既に視力検査機器も完備し特に大型店舗では最新式のものまで導入している

場合も多いため昔と比べて時間もかからない。

しかし、時間軸上でより踏み込んで考えてみれば、買い替えによって不要になる眼鏡の

取り扱い方法が今後に向けた重要なポイントになる。すなわち、中古品の買い取り制度

や中古品市場、さらに踏み込んでレンタル市場というのはどうであろうか。

無限にというのは言い過ぎだが、方向性を見定めて定量的に分析することを繰り返して

Page 10: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

10

いけば道は開ける筈である。

iv. 顧客価値における価値要素の方向性

既存製品に対して競合分析を行った結果を踏まえて、新規開発製品の新たな顧客価値を考える。

その際、既に述べたとおり、既存の価値要素の増減や新規の価値要素の選択、或いはそれらの

大きさやメリハリなどを考えなくてはならない。重要なことはその考えの方向性、すなわちど

んな種類の価値要素に特化するべきなのかを明確にすることだ。それは顧客の思考や行動を徹

底的に分析した結果を整理して導き出したものである。その方向性は以下のような種類にグル

ープ分けできる。

① 機能的価値要素群

② コスト的価値要素群

③ 感覚的価値要素群

④ 社会的価値要素群

そのような考え方は「選択と集中」である。それと同時に、既存製品には見られない価値要素

の組み合わせ(=すなわちバリューカーブ)という意味では「多様性」を含む。

以上、需要創造型戦略を述べてきたが、是非このバリューカーブを使って競合分析を行って欲しい。そ

の際、繰り返しになるが留意して頂きたいことは以下のとおりだ。なお、それらの詳細については後ほど

「成功のための営業戦略」の節で述べることにする。

① 最初に各自で分析を行う

② 次に各自の分析結果を持ち寄って部内メンバー間でレビューを行う

③ 最後に部署としての分析を完成させる

④ 商品化やサービス化までの間に上記 PDCA サイクルを複数回行う

なお、上記の PDCA サイクルとは Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のことで

ある。それは新たな顧客価値の製品(サービス)発掘を目指してバリューカーブを完遂させるための重要

なサイクルになる筈だ。

かのピーター・ドラッカーは企業の目的は利益ではなく顧客創造(=つまり需要と市場の創造)である

と述べた。私は、その延長線上に企業の本来の目的である「社会的責任の遂行」すなわち社会貢献が存在

し、それにより地域経済も地域コミュニティも活性化すると考えている。その場合の企業の社会に対する

貢献とは以下のようなものである。

国民である社員の雇用とその維持

社員の給与と賃金の維持

社員を介した地域コミュニティとの連携(社会的貢献活動への参加など)

Page 11: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

11

但し、企業が需要を創造し利益を上げ社会的責任も果たそうと努力しても、そのための法規制などの環

境整備を行う国家と地方の政治がまともに機能していなければそれは難しい。政治がまともに機能するた

めにはそれを担う国会議員と地方議員が短期の状況に右往左往せずに中長期を見定め腹を括って政策に

あたることが肝要である。国会議員と地方議員には信義に基づいた考えと行動が求められる。政治もそう

だが行政も同様だ。そのため、大した志も無く単に権力や出世や知名度を欲し既得権益にしがみ付いてい

るような政治家や行政官僚たちの個人的な都合によって振り回されることのないよう歯止めをしなけれ

ばならない。

良く考えて欲しいのだが、そのような者たちが関与している限り国も地方も国内経済も決して良くはな

らない。何故ならば、我々国民は彼らのそういった本質を直感的に見抜いているからである。そして、そ

ういった者たちが関与している限り我々国民のマインドは上がって来る筈もない。政治による法規制など

の環境整備以上にそのような国民マインドの方が企業の需要創造にとっても大切だ。民間サイドが需要創

造をしたくても政治や行政の体たらくがそれを阻んでいるといわざるをえない。但し、そんな状況下でも

民間企業は需要を増やそうと日夜頑張っている。政治家や行政官僚が民間組織で働く者の気持ちを理解し

ない限り需要を創り経済を活性化することなど到底難しい。要は、国家を信じきるという国民のマインド

が大切でありそれを育むことだ。

机上の理想論だけでは何も変えることはできない。そうであれば、政治家(=国会議員と地方議員)、行

政官僚、民間組織人の 3者間でジョブローテーションを行うことも視野に入れる必要があるのではないか。

知名度や政党の勢いだけで当選するような社会経験すら評価できないような素人議員よりもその方がよ

っぽど有益だと思う。

(3)事例研究

ここで、二つほど事例を紹介したい。どちらも、新規事業を立上げた時のものであって、需要創造型戦

略を考慮して新たな顧客価値を生み出そうとしたものである。

一つ目は IPセキュリティコンサルティング事業の立上げである。単に IPセキュリティと言ってしまえ

ば別に目新しいことでもない。

しかしながら、この事業を立上げようとした 2006年当時は(2010年現在もほぼ同じ状況なのだが)IP

電話(=VoIP:Voice over IP)の加入者数が増大していた。また、当時は IP電話を踏み台にしたウイル

スやワームやスパム(=SPIT 等迷惑メール)や DoS 攻撃や詐称などといった IP ネットワークのセキュ

リティを脅かす脅威が米国で報告され始めた頃でもあった。

それらはいずれ日本にも出現すると予想されてはいたが、当時はそれらに対処するためのサービスは皆

無に等しかった。何故ならば、IP 電話を踏み台にした脅威であるため特別な技術を要するからであった。

そのサービスを提供するのであれば、それは IP 電話のプラットフォームを直接保有する大手電気通信

事業者向けのサービスになる。その技術やノウハウは IP 電話のプラットフォームであるソフトスイッチ

(SIP プロトコル準拠)に関する構築や検証試験の経験値に依存する。そして、その SIP(=Session

Initiation Protocol)プロトコルを十二分に使いこなすだけの技術力を保有する通信プラットフォーム開

Page 12: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

12

発企業は当時では稀有な存在であったからだ。

また、このような脅威について当時は大して注目もされていなかった。

ところが、実際に大手通信事業者からヒヤリングしてみると以下のようなことが判った。

実は日本でも VoIPを踏み台にした脅威がネットワーク上で発生し始めてきたこと

通信事業者としてそれを懸念していること

但し、VoIPサービス自体が新しいものなので通信事業者として具体的にどう対応すれば良い

のか判らないこと

通信事業者が保有するネットワーク基盤のセキュリティに関することなので一過性ではなく

継続的な対応方法を検討していること

セキュリティサービスを外部から受けるにしてもイニシャルコストが高額でないことが前提

になること

一方、自社(当時)は VoIP 用プラットフォーム(=ソフトスイッチとボーダーソリューション)につ

いて日本でも有数の経験と検証データを保持していたため、競合他社と比較してもそれらが十分な優位性

になりえると判断していた。

そこで下記の考え方に従って行動すれば通信事業者の需要を喚起できると考えた。

① 方法論を体系化しその提供に力点を置くこと

② PDCAサイクルに従ったコンサルティングの実施

③ 次回に繋げるサポートサービスの提供(テスト環境やテストツールの提供、或いは技術サポ

ートサービスの提供)

特に上記①については具体的に以下の手法を取り入れた。それらの手法のキーポイントは「可視化」と

「定量化」である。

脅威の分類:

世界的な業界標準となりえる国際標準化団体を他社に先駆けて見出した。その団体がイニシ

アティブをとり開発された分類法を参考にして、日本の VoIPプラットフォームの実状に合致

した「脅威の分類表」を作成した。脅威項目については、大項目 → 中項目 → 小項目 と属

性により細分化して表した。すなわち、脅威の可視化である

脅威のスコアリング:

脅威項目に対する対象ネットワークの脆弱性についての評価手法である。その脅威に対する

評価は次の 3つの視点から行われることになる。一つ目は「脆弱性そのものの特性評価基準」

である。二つ目は「現在の深刻度の評価基準」(対策の有効性)である。三つ目は「攻撃を受

けた際の被害規模などの環境評価基準」である。脅威のスコアリングはこれら 3 つの包括的

評価基準により実施される。すなわち、脅威の定量化である

Page 13: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

13

このようにして IPネットワークにおける VoIPプラットフォーム(SIPプロトコル)の脆弱性に特化し

たセキュリティコンサルティングサービスを立上げた。上記②の PDCA サイクルに従ったコンサルティ

ングの実施方法として以下のサービスフローを確立した。結果的に、ある通信事業者から本セキュリティ

コンサルティングサービスを受注することができた。

次に紹介するのも上記と同様に IP 電話(=VoIP)に関するサービスである。電話とインターネットの

融合という新たなコンセプトで新規サービスを考えた。

その背景として以下のようなニーズが存在していた。なお、それは 2005年~2006年頃のことだ。

電気通信事業者は、電話などの音声系サービスの強みを活かしたインターネット上の新たな

コミュニケーションサービスを志向していた

インターネットサービスプロバイダーは、インスタントメッセージやチャット或いはブログ

や SNS といった既存のコミュニケーションサービス以外にマーケティング効果が高い電話

サービスとの連携を志向していた。この場合は、特にコールセンターへの通話を促進させる

ことであった

そこで IP電話とインターネットを融合させるサービスについて下記の方針に基づき検討した。

インターネット系サービスのウェッブ画面(厳密にはブラウザ内である)に IP 電話を起動

システムに関する脅威項目の抽出 過去に発生した脅威情報の収集

想定される脅威に対するリスク分析

想定される脅威のランク付け

各種試験ツール(汎用、専用)を用いた試験実施

試験結果の評価

セキュリティ対策取りまとめ

試験範囲の決定

システムに関する脅威項目の抽出 過去に発生した脅威情報の収集

想定される脅威に対するリスク分析

想定される脅威のランク付け

各種試験ツール(汎用、専用)を用いた試験実施

試験結果の評価

セキュリティ対策取りまとめ

試験範囲の決定

Page 14: 1-5.事業戦略論各論 先ず、事業戦略とはどのような位置付けの …shinyu-kai.cocolog-nifty.com/nihon/2-1-5.pdf · ープン化戦略(アプリなどプラットフォームの開放及び招待制から登録制への変更)が該当する。

14

させるクリックボタンを埋め込む。エンドユーザーがこのボタンをクリックするとインター

ネットサービスプロバイダーのサーバーに設定された呼制御用サーバーが起動する。このサ

ーバーは起動後エンドユーザーから指定された電話とコールセンターの電話の両方に自動

発信する。さらに両方共に繋がった時点でそれらの回線をブリッジすることにより両者が通

話可能になる。以上がウェッブを利用した電話の自動接続サービスである

提供するものは基本的には IP 電話を制御するためのコールコントローラーと呼ばれる通信

用制御ソフトウェア(=上記の呼制御用サーバー)のみである

オプション提供としてインスタントメッセージなどのコンポーネントも用意する

提供形態として【初期費用+月額費用】の SaaS(=ASP)型を採用し顧客の費用負担を抑え

ることにも配慮する

但し、ケースバイケースで顧客の実績すなわち創出利益に応じた配分をもって提供価格とす

るレベニューシェア方式も考慮する

そのような考え方で立上げた結果、多くの企業から注目をして頂いた。守秘義務もあるのでこれ以上は

ご勘弁願いたい。

〔日本復活の鍵 TOPに戻る〕