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2015年度雑誌会 日時:2015年5月11日(月) 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者①:斉藤佳佑 タイトル:Seismic Impact of the Mw 9.0 Tohoku Earthquake in Eastern China 著者:Jia Cheng, Mian Liu, Weijun Gan, Xiwei Xu, Fuqiong Huang, and Jie Liu 雑誌名:Bulltin of the Seismological Society of America, Vol. 104, No. 3, pp. 1258-1267, June 2014 要旨: 2011 年の東北地方太平洋沖地震は、激しい地震活動度で知られる中国の東部地方におい て重大な変位を引き起こした。 果たして、東北地方太平洋沖地震は中国の東部地方の応力場や地震活動を変化させたのか どうかを探るため、 我々は、球体状の層構造を仮定したときの粘弾性歪モデル用いて変位量を計算し、GPS 測の結果と比較した。 さらに、最もよくフィッティングしたモデルを用いて、中国の東部地方の主な断層における 応力変化を計算した。 計算の結果、これらの断層における、東北地方太平洋沖地震による応力変化量は 0.002MPa であったため、 我々は、東北地方太平洋沖地震が中国の東部地方の応力場を著しく変化させた訳ではなく、 また、地震をトリガーさせた訳ではない、と結論付けた。 発表者②:田中 タイトル:Estimation of eruption source parameters from umbrella cloud or downwind plume growth rate 著者:Solene Pouget, Marcus Bursik, Peter Webley, Jon Dehn, Michael Pavolonis. 雑誌:Journal of Volcanology and Geothermal Research, 258, 100-112, 2013. 要旨: 本論文の目的は傘型噴煙や水平風の影響を受けて変形する downwind plume の形状から 噴火の Mass Eruption Rate (MER) [kg/s]を推定する新しい手法を開発することである。噴 火が発生した際、飛行機の運行や降灰など、噴煙による影響は少なくない。MER は噴煙の 成長や降灰を予測するために重要なパラメーターのひとつとして挙げられる。しかし噴火 中、多くの事例で MER は未知であるか、もしくは経験的に弱い制約が与えられるのみであ る。そこで著者らは、多くの場合噴火後数分から数時間でデータを手にすることが可能な衛 星写真に着目した。著者らの提案する手法では、噴煙の衛星写真から噴煙の半径(傘型噴煙)

1zasshikai1て説明するために、関連する対流圏もしくは電離圏のパラメータを用いて議論 している。その結果FM ラジオ電波 (λ<4km の場合)は400~500km

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2015年度雑誌会

日時:2015年5月11日(月)

場所:理学部4号館2階207講義室

発表者①:斉藤佳佑

タイトル:Seismic Impact of the Mw 9.0 Tohoku Earthquake in Eastern China

著者:Jia Cheng, Mian Liu, Weijun Gan, Xiwei Xu, Fuqiong Huang, and Jie Liu

雑誌名:Bulltin of the Seismological Society of America, Vol. 104, No. 3, pp. 1258-1267,

June 2014 要旨:

2011 年の東北地方太平洋沖地震は、激しい地震活動度で知られる中国の東部地方におい

て重大な変位を引き起こした。

果たして、東北地方太平洋沖地震は中国の東部地方の応力場や地震活動を変化させたのか

どうかを探るため、

我々は、球体状の層構造を仮定したときの粘弾性歪モデル用いて変位量を計算し、GPS 観

測の結果と比較した。

さらに、最もよくフィッティングしたモデルを用いて、中国の東部地方の主な断層における

応力変化を計算した。

計算の結果、これらの断層における、東北地方太平洋沖地震による応力変化量は 0.002MPa

であったため、

我々は、東北地方太平洋沖地震が中国の東部地方の応力場を著しく変化させた訳ではなく、

また、地震をトリガーさせた訳ではない、と結論付けた。

発表者②:田中 良

タイトル:Estimation of eruption source parameters from umbrella cloud or downwind

plume growth rate

著者:Solene Pouget, Marcus Bursik, Peter Webley, Jon Dehn, Michael Pavolonis.

雑誌:Journal of Volcanology and Geothermal Research, 258, 100-112, 2013.

要旨:

本論文の目的は傘型噴煙や水平風の影響を受けて変形する downwind plumeの形状から

噴火のMass Eruption Rate (MER) [kg/s]を推定する新しい手法を開発することである。噴

火が発生した際、飛行機の運行や降灰など、噴煙による影響は少なくない。MERは噴煙の

成長や降灰を予測するために重要なパラメーターのひとつとして挙げられる。しかし噴火

中、多くの事例でMERは未知であるか、もしくは経験的に弱い制約が与えられるのみであ

る。そこで著者らは、多くの場合噴火後数分から数時間でデータを手にすることが可能な衛

星写真に着目した。著者らの提案する手法では、噴煙の衛星写真から噴煙の半径(傘型噴煙)

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や火口からの距離に対する噴煙の幅(downwind plume)を測定することで、MERの時間

変化を推定する。この手法をアイスランドEyjafjallajokull火山の2010年の噴火に適用し、

MERの時間変化を明らかにした。一方で、衛星写真から噴煙の境界を適切に同定する手法

の開発、またその自動化が今後の課題であると指摘している。また、この新たな手法の評価

を行うために、5 つの噴火事例にこれを適用し、Plume rise 法や噴煙高度を用いる既存の

手法を用いたMERの推定との比較を行った。その結果として、この新たな手法は既存の手

法に比べて時間分解能や即時性が高いことを示した。また、著者らはこの手法の利点として、

衛星写真を用いた手法であることから、地上観測の困難な火山におけるMERの評価に対し

ても有効であると主張している。

発表者③:橋本武志(T. Hashimoto)

タイトル:The dynamic interplay between saline fluid flow and rock permeability

in magmatic-hydrothermal systems 著者:P. Weis

雑誌名:Geofluids (2015) 15, 350-371, doi: 10.1111/gfl.12100

要旨: この論文は,地殻内の珪長質マグマ溜まりと地表の間に発達する熱水系(magmatic

hydrothermal system)のふるまいを、斑岩銅鉱床の形成過程に着目した数値計算によって

考察したものである。

岩石の浸透率を時間とともに変化させている点が、この数値計算の最大の特徴である。

この動的浸透率の導入によって、浸透率波(permeability wave)という興味深い現象

が見つかった。これは、マグマ溜まりからエピソディックに絞り出される流体の上昇

に伴って、浸透率の高い状態と低い状態が数千年の時間スケールで交互に伝播していく

ものである。

また、このシステムでは、マグマ性流体のプリュームからなる "inner part" と、天水の

冷却循環系からなる "outer part" を分ける "hydrological divide" と呼ばれる構造が自己

形成される。

本研究は、斑岩銅鉱床の産状をうまく説明できるだけではなく、浅部熱水性金鉱床との

関係や、火山学で大きなテーマとなっている "excess degassing(過剰脱ガス)" の問

題、さらには、いわゆる超臨界流体地熱資源といった関連分野にも、様々なヒントや新

たな発想を与える可能性があり、示唆に富んでいる。

雑誌会では、同著者による 2012年の Science論文とあわせて紹介する。

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2015年度雑誌会 日時:2015年5月18日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:森田笙、岡崎健治、村井芳夫 発表者①:森田笙 Title:Over-the-Horizon Anomalous VHF Propagation and Earthquake Precursors Authors:M. Devi, A. K. Barbara, Ya. Yu. Ruzhin, M. Hayakawa Journal:Surveys in Geophysics, Volume 33, Issue 5, 1081-1106 doi : 10.1007/s10712-012-9185-z Abstract: この論文は、地震の前兆現象やそれに伴って発生する震源を決定するための

研究についてレビューしたものである。ULF、ELF、VLF/LF、MF、HF、VHFなどの電波を短期地震予測に用いるアプローチの概要について簡単な説明から

始まり、その中でも VHFの見通し外伝播に着目して観測報告例をレビューしている。特に FM 電波と TV 信号を用いれば地震だけでなく、震央の位置を示すことが可能となり、さらに遠方からの TV信号を用いると、よりはっきりとしたシグナルを見ることができると考えられている。 これらの観測によって導き出すことのできる前兆現象としての可能性につい

て説明するために、関連する対流圏もしくは電離圏のパラメータを用いて議論

している。その結果 FM ラジオ電波 (λ<4km の場合)は 400~500km に限って言えば、主に地震直前に対流圏が受ける影響によって受信波が現れることが考

えられると述べられている。VHFの TV信号(<70MHz)は対流圏の環境変化に影響を受けている電離層の状態変化によることが妥当であると考えられている。 地震発生の前に、リソスフェア、浅部地下環境、VHF伝播現象の性質が連携しているという証拠は充分にあり、地震発生の準備過程における、リソスフェア

と大気でのエネルギー交換のプロセス (Lithosphere-Atmosphere-Ionosphere (LAI) coupling) について、潜熱流量や sonic detection and ranging (SODAR)の手法を用いたエコーグラム、LFの伝播などといった観測結果を用いることによって広く議論されるべきであるとし、また、FM波や TVシグナルの

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同時観測による性質の相関について調べることによってそれら複雑なプロセス

を理解するための有用な指針となりうるであろうと筆者は述べている。

発表者②:岡崎健治 タイトル:Joint inversion of marine seismic AVA and CSEM data using statistical rock-physics models and Markov random fields : Stochastic inversion of AVA and CSEM data 著者:J. Chen, M. Hoversten 雑誌名:Lawrence Berkeley National Laboratory Paper 5270E (2013) 要旨: 地下地質構造や地盤の物理特性値を推定するには、岩石物理モデルをもとに、

物理探査によって直接得られる弾性波速度や比抵抗を複合的に逆解析すること

が有効になる場合がある。しかし、適切でない岩石物理モデルを使用したり、推

定する地盤の物理特性値が不正確であったりすると誤解を招く結果を引き起こ

す場合がある。一方、ボーリング調査によるデータをもとに、弾性波速度や比抵

抗と地盤の物理特性値との統計的な関係を求めることは可能である。本研究で

は、CO2 のモニタリングへの適用技術の開発を目的として、アンゴラ共和国のクイト地区において、CO2 を注入した砂と頁岩からなる地層を対象に、はじめに、ボーリングと各種検層から得た地盤の物理特性値(P 波と S 波の速度比、音響インピーダンス、密度、比抵抗、岩層タイプ、間隙率および飽和度)を地層

別に整理している。次に、反射法弾性波探査と人工信号源電磁探査による弾性波

速度と比抵抗値を検層による地盤の物理特性値と統計的な関係を持たせて解析

するためのベイズ法を開発している。取り組みでは、地盤の物理特性値をマルコ

フ連鎖モンテカルロ法によって推定するとともに、実測値と検証している。また、

情報量の多寡に応じた効果を定量化するため、予測誤差の尺度として、推定値と

実測値の残差、不確実性の尺度として、95%予測区間の平均幅を用いて整理している。本研究の結果、ボーリングによる地質情報を加味することで、とくに P波と S 波の速度比と密度については、実測値と推定値の差を低減できること、また、不確実性を減少させ、大幅に改善できる情報を提供できることを確認して

いる。あわせて、ボーリング1孔の情報を他の場所にも展開できる可能性を示唆

している。

発表者③:村井芳夫

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タイトル:Seismic fault zone trapped noise 著者:Gregor Hillers, Michel Campillo, Yehuda Ben-Zion, and Philippe Roux 雑誌名:J. geophys. Res. Solid Earth, Vol.119, 5786–5799, 2014 http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2014JB011217/full 要旨: 断層帯は周囲に比べて低速度になっていて、速度コントラストによって生じ

る断層帯内の屈折波やトラップ波を解析することによって、地震発生の理解や

断層力学にとって重要な断層帯の構造が得られてきた。本論文では、断層帯に展

開された地震計アレイによる常時微動(ノイズ)の記録から、断層帯にトラップ

された波動場の抽出を行う。観測点間のノイズの相互相関の周波数依存性から、

0.5Hz より高周波になると周囲に比べて断層帯内で散乱波が等方的に伝播するようになり、coherencyが増加していた。この境界になっている周波数を臨界周波数(critical frequency fc ≈ 0.5 Hz)と定義する。1Hz以上の高周波では、断層帯内で散乱波がランダムに伝播することによって、低速度の断層破砕帯にト

ラップされた波動場が生成される。このような状況で観測点間のノイズの相互

相関を計算すると、基準とした観測点に近付く波と遠ざかる波が表れ、基準とし

た観測点付近で両者が重ね合わされることによって焦点(focal spot)が生じる。focal spotの形状はその場所の媒質の特性に依存するので、空間的に高密度にサンプリングして focal spotを調べることによって、断層に直交する方向に伝わる地震波の速さが 50%程度減少していることがわかった。これは従来の走時インバージョンによる推定値と調和的であり、トラップされたノイズを使う手法は

断層トラップ波の解析のような震源に関する制限がないので、地震活動が低い

断層でも、断層破砕帯の内部構造を調べるために広く適用可能である。

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2015年度雑誌会 日時:2015年6月1日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:斉藤佳佑、佐川朋之、勝俣 啓 発表者①:斉藤佳佑 タイトル:Seismic Impact of the Mw 9.0 Tohoku Earthquake in Eastern China 著者:Jia Cheng, Mian Liu, Weijun Gan, Xiwei Xu, Fuqiong Huang, and Jie Liu 雑誌名:Bulltin of the Seismological Society of America, Vol. 104, No. 3, pp. 1258-1267, June 2014 要旨: 2011年の東北地方太平洋沖地震は、激しい地震活動度で知られる中国の東部地方において重大な変位を引き起こした。 果たして、東北地方太平洋沖地震は中国の東部地方の応力場や地震活動を変化

させたのかどうかを探るため、 我々は、球体状の層構造を仮定したときの粘弾性歪モデル用いて変 位量を計算し、は GPS観測の結果と比較した。 さらに、最もよくフィッティングしたモデルを用いて、中国の東部地方の主な断

層における応力変化を計算した。 計算の結果、これらの断層における、東北地方太平洋沖地震による応力変化量は

0.002MPaであったため、 我々は、東北地方太平洋沖地震が中国の東部地方の応力場を著しく変化させた

訳ではなく、また、地震をトリガーさせた訳ではない、と結論付けた。

発表者②:佐川朋之 Title: Source complexity of the 4 March 2010 Jiashian, Taiwan, Earthquake determined by joint inversion of teleseismic and near field data Author: Shiann-Jong Lee, Laetitia Mozziconacci, Wen-Tzong Liang, Ya-Ju Hsu, Wen-Gee Huang, Bor-Shouh Huang

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Journal: Journal of Asian Earth Sciences 64 (2013) 14–26 Abstract:

2010年 3月 4日に台湾の JiashianでMw6.4の地震が発生した。この地震は2010年に台湾南部で発生した最大の内陸地震である。本震の発生した場所は地震活動が低調な場所だったため、予期しないものであった。加えて、報告されて

いる地震の発振機構は既知の活断層の構造と一致しない。この地震の原因、特に

その破壊過程を理解するために、遠地地震の実体波とGPSによる地震時の変位、近地地震による地表変位のデータを用いて joint source inversion を行った。本研究では、余震分布と地震時の GPSデータから取り出した傾斜角から北西から南東方向の断層について考察した。詳細な時空間的すべり分布を分析するた

めに spectral-element method と full time-space inversion technique によって与えられる近地三次元グリーン関数を用いた。我々は二つの主要なアスペリ

ティー内部に複数の滑りパッチが分布した複雑な破壊過程を発見した。この滑

り分布図から平均滑り量が 12.9cm、最大滑り量が 27.3cmであることが分かり、この地震の Mw6.47が導かれる。この断層の破壊は深さ 20kmの地点の断層における最も深い部分で始まり、深さ 2kmの地点まで上方向に向かって伝搬していき、二つのアスペリティーを形成し、その破壊継続時間は約 16 秒であった。多くの余震は深部と浅部の二つのアスペリティーの境界部分付近で発生した、

一方で深部のアスペリティー周辺では余震が発生しなかった。我々は滑りパッ

チの位置が、地震時の破壊伝播が限定される断層系周りと関係することを推論

する。

発表者③:勝俣 啓 タイトル:A very long-term transient event preceding the 2011 Tohoku earthquake 著者:Yusuke Yokota & Kazuki Koketsu 雑誌名:Nature Communications on 6 Jan 2015: DOI: 10.1038/ncomms6934 要旨: プレート境界でのゆっくり滑りは、測地学的手法により様々な沈み込み帯で

観測されている。2011年東北地方太平洋沖地震は、地球上で最も地震活動度が高い沈み込み帯の一つである日本海溝沿いで発生した。日本海溝沿いでは、地震

後の余効滑りを除けば、ゆっくり滑りは観測されたことがなかった。本論文で

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は、大規模なゆっくり滑りが 2011年東北沖地震前に発生していたこと、その継続時間はかつてないほど長期間に渡っていたことを示す。我々は GPS観測点で観測された時系列データから、M6~M8 程度の地震による地震時の変化および余効滑りによる変化を差し引いた。補正後のデータの最初の部分は、プレート境

界が固着し、定常的な滑り欠損が生じていることによる変動だと仮定し、この部

分のトレンドを差し引いた。そうすると、2011年東北沖地震の約9年前、2002年頃から定常的なトレンドからずれが生じ、このような変化は東北地方の広範

囲のGPS観測点で観測された。このずれの原因は、プレート境界の固着が緩み、境界面上の断層でゆっくり滑りが生じたためであると仮定し、断層モデルをイ

ンバージョンで決定した。

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2015年度雑誌会 日時:2015年6月8日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:翁長良介、青木千夏、大島弘光 発表者:翁長良介 タイトル:The origin of thermal waters in volcanic areas 著者:G.I.Arsanova 雑誌名:Journal of Volcanology and Seismology, 2014, Vol.8, No.6, pp. 361-374 要旨: 火山地帯における熱水の起源が、天水なのか火山活動によるものなのかにつ

いては長らく議論されてきた。 筆者がこの問題に対して、まず地球全体における水の収支について考察したと

ころ、初生水の存在が示唆された。その上で、火山地帯での初生水の起源を議論

するために、カムチャッカをテストフィールドに選んだ。対象地域で 100 以上の水、ガス、岩石などをサンプルし、それらの化学分析によって、Cl,Na,K,Li,Rbの五種類の塩基性元素に関しての同定をした。 分析の結果から、この地域におけるほとんどの熱水は、地殻中に入った冷たい水

が熱せられたものではなく、地殻中のマントル起源の水であると筆者は結論づ

けた。

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発表者:青木千夏 タイトル:Assessing the potential improvement in short-term earthquake forecasts from incorporation of GPS data 著者:Ting Wang, Jiancang Zhuang, Teruyuki Kato, and Mark Bebbington 雑誌名:GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL.40, 2631-2635, 2013 要旨: 地震発生予測モデルや地震予知研究において、カタログに基づく地震の確率

的予測の詳細な研究はこれまでにも行われてきた。しかし、カタログ以外のツ

ールを用いた地震予測の手法はまだ確立されていない。そこで本論文では、地

震カタログ以外のツールとして、GPS観測を用いた。GPSによって記録される地殻変動のデータが、地震予測において有用な情報を含んでいることを検証

する。ここでは、異なる構造的環境をもつ 3つの地域(ニュージーランド、南カリフォルニア、関東)の GPSデータを検証し、Molchanのエラーダイアグラムを用いてその予測能力を調べる。 予測の手法はアラーム関数に基づいている。まず対象とする全期間を同じ長

さ l (days)の n+1個のセルに分割し、i番目のセル内でアラーム関数が所定のしきい値 uを超えると、i+1番目のセル内で地震が起きることを予測する。また、この予測手法の性能を評価するために、条件付き確率に関して成り立つ定

理である「ベイズの定理」を適用する。これによって得られた確率利得をポア

ソンモデルと比較し、この手法の有意性の検討を行っている。 結果として3つすべての領域においてアラームと地震の発生は正の相関を示

し、ポアソンモデルより有意であることが示された。しかしその確率利得は高

いものとは言えない。よって今後は GPSを予測のツールとして単一に用いるのではなく、カタログをもとにした地震予測に GPSデータを組み込むことで、大地震の予測の改善ができるかもしれないと著者らは結論づけている。

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発表者:大島弘光 タイトル:Suomi satellite brings to light a unique frontier of nighttime environmental sensing capabilities 著 者:S. D. Miller, S. P. Mills, C. D. Elvidge, D. T. Lindsey, T. F. Lee, and J. D. Hawkins. 雑 誌 名:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 109, No.39, 15706–15711(2012) 要旨: 2015年4月 23日 01時(現地時間)チリ南部のカルブコ火山でプリニー式噴火が発生し、約6時間にわたって火山灰や軽石を噴出し、噴煙高度は 15km 以上に達した.この噴火で生じた噴煙を撮影した衛星画像のなかに、成層圏に達し

た噴煙を取り巻くような波紋を映し出した画像があった. これは 2011 年に NOAA/NASA によって打ち上げられた極軌道衛星スオミNPP に搭載されている可視赤外イメージャ/放射計装置(VIIRS)の DNB バンドで月のない夜間に撮像され、光源は主に大気光であり、波紋は中間圏の重力波

(あるいは大気光波)と説明されていた。 この画像を切掛けにして、今回はスオミ NPPに搭載された VIIRS/DNBバンドの概説論文を紹介する。その要旨は以下のとおり。 地球観測衛星に搭載されているほとんどの撮像装置は、日中は可視センサー、

夜間は低層雲や地表面を分離することが難しい熱赤外センサーを使用している. なかには月明かりでも撮像可能な装置を搭載した衛星もあるが、その撮像能

力は太陽光に較べて劣っている. 極軌道気象衛星スオミ NPP衛星に搭載された VIIRS/DNB撮像装置は、三つのセンサー利得を持ち、大気光や星明かり、黄道光のような拡散光により映し出

された雲や地表面を撮影することができる. 現在までに得られた新月のもとで撮影された画像は、気象学、地表環境ばかり

でなく、中間圏における大気光の広がりや大気循環に起因する変動など大気光

の構造を明らかにした. これは伝統的に天文学で厄介者とされていた大気光が研究対象に、また道具

になることを示し、「ある人にとってはゴミであっても、他の人にとっては宝で

ある」という古い格言を再認識させ、次世代の観測衛星の対象と設計に影響を与

えるだろう。 同時に拡散光は時空間的に複雑な変化を示し、それ自身が研究対象にもなり

えよう。

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2015年度雑誌会 日時:2015年6月15日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:岡本理沙、奥田真央、三嶋 渉

発表者①:岡本理沙 タイトル:An automated SO2 camera system for continuous, real-time monitoring of gas emissions from Kilauea Volcano’s summit Overlook Crater 著者: Christoph Kern, Jeff Sutton, Tamar Elias, Lopaka Lee, Kevan Kamibayashi, Loren Antolik, Cynthia Werner 雑誌名:Journal of Volcanology and Geothermal Research (2014) 要旨: 本論文では、長期的に火口から放出される SO2 の遠隔測定を行なうための、SO2 カメラシステムの設計について述べている。まず、筆者たちは、雨風や腐食性のガスにさらされる場所でも、長時間設置できる頑丈な収納容器を製造し

た。このおかげで、Overlook Craterにおいて 12ヶ月間におよぶ連続的な観測が可能になった。SO2 カメラによって記録された画像は、USGS Hawaiian Volcano Observatory (HVO)に送られ、新しいアルゴリズムにより、SO2のカラム濃度や放出率が自動的にリアルタイムで導出される。これらの画像や放出率

は、HVOの観測所で共有され、火山活動を評価する有益な情報として利用されている。

Kilauea Volcanoにおける連続的な画像データや、高い分解能を持った放出率、他のモニタリング技術による連続観測データと組み合わせて、筆者たちは

Overlook Craterの地下浅部の状態を考えている。観測期間中に、溶岩湖が、ガスの噴出があまりない不活発な状態から、ガスが激しく噴出する活発な状態へ

と変化する様子を、SO2カメラでとらえることができた。 今回の試行は、SO2 カメラを連続的にリアルタイムで火山モニタリングに使用した初めての成功例であり、今後、他のモニタリング技術のデータを組み合わせ

ることで、噴火過程を理解することができるのではないかと、筆者たちはまとめ

ている。

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発表者②:奥田真央 タイトル:Structure and tectonics of the northwestern United States from EarthScope USArray magnetotelluric data 著者:Paul A. Bedrosian, Daniel W. Feucht 雑誌名:Earth and Planetary Science Letters 402 (2014) 275-289 要旨: 北アメリカ大陸の地殻や上部マントルの構造は、これまで多くの地震波によ

る研究が行われており、明らかになってきている。これらの研究と共同して地下

構造を推定するために、MT法による地下の比抵抗探査が始まった.ここで得られたデータから、リソスフェア内の流体やメルトの配置について明らかになっ

た。本論文では、始生代から現在までの北アメリカ西部の地殻構造について、3D比抵抗モデルにより説明している。 本論文で対象としているのは、2006 年から 2011 年にかけてアメリカ本土の約35%の地域で行われたMT探査である。観測点 329点のうち 241点について適切なエラー処理をして、3D インバージョンを行い、地下 150km までの比抵抗構造を推定した。また、得られたモデルと地震波速度構造モデルを比較すること

によりリソスフェア内の構成を特定した。 これにより、この地域の分裂や隆起・衝突を経た複雑な地殻構造が明らかになっ

た。また、沈み込んだ Fuca-Gordaプレートとリソスフェアの境界を推定することができた。この境界は、中生代に北アメリカ大陸がどのような進化をしてきた

かを研究するための重要な手がかりになると考えられている。

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発表者③:三嶋 渉 タイトル: A 3D model of crustal magnetization at the Pinacate Volcanic Field, NW Sonora, Mexico 著者: Juan Garcia-Abdeslem, Thierry Calmus 雑誌名: Jounrnal of Volcanology and Geothermal Research, 2015, 29-37. 要旨: この論文は、メキシコの北西に位置する Pinacate火山地域において、三次元磁化構造解析を行ったものである。著者らは、磁気異常図をもとにインバージョ

ン解析を行い、地下の磁化構造を推定した。 解析結果に、岩石磁気、絶対年代測定の結果も加えることで、著者らは、

Pinacate火山域が2つの volcanic episodesで形成された、と結論づけた。2つのうち年代の古い活動期は、現在の地球磁場と逆方向だった松山クロンに主に

形成された。一方、年代の新しい活動期は、現在の地球磁場と同じ方向のブリュ

ンクロンの間に形成されていた。 また、Santa Claraの北側に、現在の地球磁場方向に帯磁した岩体が伏在していることが、解析結果から示された。この岩体はマグマだまりであることが示唆

される。この岩体の磁化方向が現在の地球磁場と同じ方向であることは、マグマ

だまりと推察される岩体がブリュンクロンの間でキュリー温度以下へ冷却され

たことを示唆する、と著者らは述べている。最後に、磁化構造のインバージョン

解析における、解析手法自体の課題を議論としてまとめている。

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発表者④:高橋 浩晃 Title: Viscoelastic relaxation following subduction earthquakes and its effects on afterslip determination, Authors: Tianhaozhe Sun, Kelin Wang Journal: Journal of Geophysical Research, 120, 1329-1344, 2015. Abstract: 東北沖地震では,弾性体の余効すべりモデルから推定されるのとは逆方向の陸向きの変

位が海溝軸近くの GPS/Aで観測されているが,これは粘弾性効果が大きく効いていることを示している.東北沖地震のような沈み込み帯プレート境界地震による短期間での粘弾性

緩和の影響を 2次元有限要素法を用いて検討した. 粘弾性緩和により,地震の直後から陸側と海溝側で反対方向の変位と,陸側の断層端付近

で沈降が起こることが示された.粘弾性効果を考慮しない場合,断層深部では余効すべりが

過大,断層浅部では過少評価となる.たとえば,2005年ニアス地震の場合では,弾性体モデルより 50%も多い余効すべりが推定される.また,東北沖地震後に福島沖の GPS/Aで海溝軸向きの変位が観測されていることは,粘弾性効果を考慮すると地震時の主なすべり領

域よりも南側の浅部で大きな余効すべりが発生していることを示唆する.

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2015年度雑誌会 日時:2015年6月22日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:菅野倖太郎、成田翔平、青山 裕 発表者①:菅野倖太郎 Title: The subsurface temperature assessment by means of an indirect electromagnetic geothermometer Authors: Viacheslav Spichak1 and Olga Zakharova1 Journal: GEOPHYSICS, VOL. 77, NO. 4 (JULY-AUGUST 2012); P. 1–12, 14 FIGS. 10.1190/GEO2011-0397.1 Abstract: 間接的電磁気(EM)地質温度計に基づく地下温度推定は、進歩をみせている。使

われている手法は、他の温度推定手法に反して、電気伝導度と岩石の特性に関する予

備知識を伴わない人工ニューラルネットワーク技術に基づいている。3つの地域((Tien Shan, Kyrgyzstan; Soultz-sous-Forêts,France; and Hengill, Iceland)での孔間空間内挿法による間接的な EM地質温度計の応用は、温度推定エラーは 4つの要因から引き起こされることを示す異なった地質学的要因によって特徴づけられた。4つの要因とは、断層活動、温度が推定されている領域と EMサイトとの距離、雨水または地下水の流れ、横方向の地質学的異方性(適切な EMインバージョンツールが使われた場合この要因は制限的ではない)である。また、外挿法エラーが 2つの要因に依存することが証明された。2つの要因とは、さく井と EMサイトの間隔、さく井の長さと外挿深度の比率である。特に、さく井の 2倍の深さでの温度外挿の相対的な正確さは平均5%を超えなかった。間接的 EM地質温度計を使うことで、EMサウンディングデータから調査地域の2Dと3D温度モデルを復元することができた。そして、熱伝導が有意なメカニズム、流体循環経路、新しいさく井を掘るのに適した場所など

に関する重要な結果を出すことができた。地熱貯留層の開発の最中に間接的 EM地質温度計を応用し、地上での EMモニタリングデータを基にした地下温度変化の観測や将来の傾向を予測することが可能になるかもしれない。

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発表者②:成田翔平 Title: Morphology and dynamics of explosive vents through cohesive rock formations Authors: O. Galland, G. R. Gisler, and Ø. T. Haug Journal: Journal of Geophysical Research : Solid Earth, vol.119, 4708-4728pp, 2014 Abstract: 活動的火山の浅部で起こる爆発的噴火では、しばしば様々な形態(V字型や I字型

など)の ventが形成されるが、それらの形成メカニズムに関しては未解明な部分が多い。これまでに、火道の粘塑性や山体構成粒子の粘着力を無視した実験やシミュレー

ションが主に行われてきたが、筆者たちは、実際にはこれらの性質が vent形成のメカニズムに大きな影響を及ぼしていると考えている。 そこで、彼らは vent形成のダイナミクスを支配するパラメータの同定を目的として、岩石の弾塑性や粒子の粘着力を考慮した室内実験とシミュレーションの両方を行

った。その前に、次元解析を行うことで、目的とするパラメータの候補を、ventの直径・鉛直長さ・注入される流体の圧力・岩石密度・粒子の粘着力・降伏強度の 6つに絞っている。これらのパラメータを適宜変えながら実験とシミュレーションを行い、

形成された ventの形態の時間変化を観察した。 その結果、I字型、V字型および水平型の 3種類の vent形成が確認された。これら

の形成を支配する量として、注入圧力と降伏強度(または粘着力)の比が関係してい

ることが示唆された。

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発表者③:青山 裕 Title: Volcano seismicity and ground deformation unveil the gravity-driven magma discharge dynamics of a volcanic eruption Authors: Maurizio Ripepe, Dario Delle Donne, Riccardo Genco, Giuseppe Maggio, Marco Pistolesi, Emanuele Marchetti, Giorgio Lacanna, Giacomo Ulivieri and Pasquale Poggi Journal: Nature Communications 6:6998 doi: 10.1038/ncomms7998 (2015). Abstract: イタリア・エオリア諸島の北端に位置するストロンボリ火山は、玄武岩質の溶岩片と

火山ガスを繰り返し放出するストロンボリ式噴火で知られている。ストロンボリ火山に

おけるストロンボリ式噴火は、山頂の活動火口において非常に長期にわたり安定して継

続しているが、しばしばストロンボリ式噴火のシステムが崩壊し、山腹からの溶岩流出

や、”paroxysm”と呼ばれる大規模噴火に至ることがある。ストロンボリ式噴火から溶岩流出や大規模噴火への遷移は、ストロンボリ火山におけるマグマ供給系のイメージを創

出,改良していく上で非常に重要な示唆を与えてくれる。本論文は 2007年 2月 27日に始まった溶岩流出イベントのデータに基づいて、ストロンボリ火山の浅部マグマ供給

系および溶岩流出イベントのメカニズムについて議論したものである。 一般的に、溶岩流出イベントは、地下深部からのマグマ供給率の増大が主要因とし

て理解されている。しかしながら、ストロンボリ火山における溶岩流出イベントにお

いては、深部からのマグマ供給率の増大の寄与はごくわずかで(流出前 0.28m^3/s,流出期 0.7m^3/s)、山腹から流出したマグマの大部分は山頂火口直下の極浅部に蓄積していたマグマであると考えられる。このアイデアは、長径 300m、短径 140mをもつ楕円筒形の浅部マグマ溜まりの側面に開いた流出孔から重力を駆動力として粘性流

体が流れ出るという極めて単純なモデルと、観測から得られている「マグマ流出量」

「VLP地震の相対深さ」「傾斜変動」の時間変化が良く一致することで確認された。マグマ流出による火道内の圧力降下は 4.3-6.7MPaと見積もられ、この浅部の圧力降下が 3月 15日の”paroxysm”で放出された深さ 7-10kmからの深部マグマの上昇に寄与したと考えられる。また、溶岩流出期を挟む 2006年から 2013年までの山頂火口の標高と VLP地震の相対深さには強い相関が認められる。VLP地震の発生メカニズムは、波形インバージョン解析の結果から山体内部に安定して存在しているクラックの

開閉運動で説明されてきた。しかしながら、溶岩流出があっても VLP地震は相変わらず発生していること、火口標高と地震の深さが相関していることから、発生メカニズ

ムを大きく考え直す必要があるだろう。

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2015年度雑誌会

日時:2015年7月6日(月)午後3時-午後4時30分

場所:理学部4号館2階207講義室

発表者:仲辻周次郎

Title: Seismological evidence for long-term and rapidly accelerating magma

pressurization preceding the 2009 eruption of Redoubt Volcano, Alaska

Authors: Diana C. Roman, Matthew D. Gardine

Journal: Earth and Planetary Science Letters 371-372, (2013), 226-234

Abstract:

噴火予測は過去の噴火の観測データと予測を行う火山の観測データを照らし合わせ同様

のパターンが現れるかどうかに大きく依存している。

本論文で取り上げるアラスカのリダウト山は噴火前の地震活動の推移において火山構造

性地震の発生後に長周期地震と微動が発生するといった

典型的なパターンとは異なり、長周期地震と微動の発生が先行しその後火山構造性地震

が発生する。このようにパターンの異なる観測データが得られた火山の噴火を予測するこ

とは困難である。

噴火予測の精度を上げるために火山における前兆現象の原因や仕組みの理解や現象が起

こる微細なシグナルを見つけるための新しい観測手法の発展は重要である。

本論文では、2009 年 3 月のリダウト山の噴火前の地震活動において火山構造性地震に

注目した fault-palene-solution から推定される応力場や shear-wave-splitting 解析から求

められる fast waveの振動方向の時間変化について調べ噴火活動との関係を議論した。

その結果、静穏期の応力場の P軸の方位角に比べ活動期の P軸の方位角は異なる向きを

示した。また、S波の振動方向にも同様の変化見られた。

S波の振動方向が変化した期間とマグマの増圧を示す微動が発生した期間は等しく、2009

年 7月まで継続した。また応力場の P軸の方位角の変化は 2009年 3月 21日に地震活動が

増大したときや 23日の噴火の直前に見られた。つまり、火山の応力場を解析することは噴

火までのタイムスケールに沿ったリダウト山のmagmatic systemにおける微細な変化を知

ることができる。このことにより本論文で用いられた解析方法は迅速な噴火予測を示唆す

るとともにマグマの活動予測の精度を向上するための応力場の観測の重要性を証明した。

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2015年度雑誌会 日時:2015年7月13日(月)午後3時―午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者:岩田光義、早川 美土里、谷岡勇市郎 発表者①:岩田光義 タイトル: Depth to Curie temperature across the central Red Sea from magnetic data using the de-fractal method デフラクタル法を用いた磁気データからの紅海中央部を横切るキュリー温度の深度 筆者:Ahmed Salem , ChrisGreena, Dhananjay Ravat , Kumar Hemant Singh , Paul East, J.Derek Fairheada,Saad Mogren , Ed Biegert 雑誌名:Tectonophysics 624-625(2014) 75-86 要旨:

紅海は高い熱流量によって特徴づけられ、熱流量の測定値の 90 パーセント以上は世界の

平均値より高く、高い値は沿岸に広がり、地熱エネルギー資源に対する有望地である。 本論文では、紅海の地殻熱構造を理解するために、磁気データに基づく紅海中央でのキュ

リー等温図(580 度)の深度マッピングをするつもりである。近年では,改良されたスペク

トル解析技術(デフラクタル法)が発達し、磁気層の表面と底面(キュリー等温)の境界深

度を推定することができる。デフラクタルアプローチは、観察されたパワースペクトルから

フラクタル磁化の影響を除去し、パワースペクトルの反復フォワードモデリングを用いて、

磁化層の底部までの深さやトップまでの深さのパラメータを推定する。 本論文ではスーダン沿岸からサウジアラビア沿岸までの中央紅海の断面に沿った、磁気

データの12ウィンドウにデフラクタル法を適用した。 その結果,変化する磁気底部の深さは,リフト軸での 8.4 キロからその周辺地域での 18.9キロまでの範囲にあることを磁気変化でのキュリー等温深度を示している。 屈折法地震探査により拘束された重力データの 3 次元インバージョン結果に基づいて公開

されたモホ面の深度とこれらの深度を比較すると,周辺では磁気底面はモホ面よりも浅い

のに対して、リフト地域ではモホ面に密接に対応していることを示した。 また,熱流量データのモデルによるリフトの中心部でのキュリー等温深度も,また、モホ

面の深度に対応していることを示していた。 したがって,磁気データから推定されたキュリー等温深度は,断面全体でのキュリー等温深

度を推定できる。

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発表者②:早川 美土里 Title: Time-lapse magnetotelluric monitoring of an enhanced geothermal system 涵養地熱系の時間推移マグネトテルリクモニタリング Authors:Jared R. Peacock , Stephan Thiel , Graham S. Heinson , and Peter Reid Journal:GEOPHYSICS, VOL. 78, NO. 3 (MAY-JUNE 2013); P. B121-B130, 6 FIGS. Abstract: 近年、再生可能エネルギーが注目され、中でも有望とされているのが涵養地熱系発電

(EGS)である。しかし、EGS のための地下構造の推定は、経験的・技術的に困難である。

地下構造の推定に用いられる主な手法として、地震波トモグラフィーと電磁気探査(EM 法)が用いられるが、地震波トモグラフィーでは地下フラクチャーのつながり方やフラクチャ

ー内の流体を直接推定することは困難である。一方、EM 法では電気伝導度との対比により

地下構造を推定する。中でもMT法(Magnetotelluric)はあらゆる深度の推定が可能である。 そこで本論文では、南オーストラリアの Paralana における EGS の初期行程である流体

注入の前後における MT の測定データから、MT 法が EGS のモニタリングツールとして有

効であるか考察した。 測定の結果をフェーズテンソル(PT)残差と比抵抗テンソル(RT)残差によって表現したと

ころ、注入された流体が注入井から北北東方向へ伸びた断層に沿って移動したことが示唆

され、EM によるモニタリングが注入流体のモニタリングツールとして使う必要性の良い例

が示された。

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発表者③:谷岡勇市郎 タイトル:Traveltime delay and initial phase reversal of distant tsunamis coupled with the self-gravitating elastic earth 著者:Shingo Watada, Satoshi Kusumoto, and Kenji Satake 雑誌名:Journal of Geophysical Research, doi:10.1002/2013/B010841 要旨:

2010 年チリ地震や 2011 年東北地方太平洋地震の津波が多くの深海域津波計により観測

された際、津波の到達時刻が長波近似による津波数値計算よりも 15分程度遅れた。大きな

最初のピークの前に謎の小さな沈降も遠地で一般的に観測された。観測津波位相速度の周

波数依存性は長周期では逆分散を示した。この現象は地球の自己重力と弾性が引き起こす

津波モードの位相速度と一致する。つまり海水の圧縮の効果・津波の固体地球への弾性ロー

ディングの効果・津波伝播による質量移動による重力ポテンシャルの変化が津波伝播時間

や初期位相の沈降の原因である。単純な1D 津波伝播テストは遠い距離を伝播した場合逆分

散が大きな最初の津波に先行する小さな沈降を作ることを確かめた。海水の圧縮や弾性体

地球や重力ポテンシャルの擾乱を組み込み実際の海底地形上で津波波形を計算する新しい

手法を開発した。それは長波での数値計算結果に位相補正を加えることで達成した。観測と

計算津波波形の津波到達時刻の差は5分以内となり、波形の相違はほとんどなくなった。

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2015年度雑誌会

10月5日(月)午後3時-午後4時30分

場所:理学部4号館2階207講義室

発表者①:森田 笙

タイトル:Anomaly of the ionospheric electron density close to earthquakes: Case study

of pu’er and Wenchuan earthquakes 著者:Yufei He, Dongmei Yang, Jiadong Qian and Michel Parrot

雑誌名:Earthquake Science, December 2011, Volume 24, Issue 6, pp 549-555

doi: 10.1007/s11589-011-0816-0

要旨:

DEMETER衛星は、地震に先立つ地磁気の変動が電離層を乱して電波の伝わり方に影響を

与えているという現象を捉えるために、2004年に打ち上げられたフランス国立宇宙研究セ

ンター(CNES)の地球観測衛星である。本論文では DEMETER 衛星で観測される電離圏の

電子密度のデータを用いて、空間的・時系列的の両側面から地震前に異常が発生する可能性

について解析し考察している。地震の前駆現象と、その他の地球磁場の活動による現象を区

別するために、同じエリア内において、地震が差し迫った場合の空間的もしくは時間的に近

い観測データと、それ以外の場合での過去の観測データの比較を行った。著者らによれば、

2007 年 6 月 2 日プーアルおよび 2008 年 5 月 12 日四川で発生した地震を例とする

と、”preparation zone” において地震発生前にそれぞれの震央付近で電子密度のポジティ

ブな異常を検出したと報告している。この結果は、異なる解析手法を用いている先行研究と

もよく一致しており、したがって電離圏での異常現象は地震準備段階と関連があると著者

らは推測した。

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発表者②:西村 裕一

タイトル:A Nexus of Plate Interaction: Vertical Deformation of Holocene Wave-built

Terraces on the Kamchatsky Peninsula (Kamchatka, Russia) 著者:Pinegina, T.K., Bourgeois, J., Kravchunovskaya, E.A., Lander, A.V., Arcos, M.E.M.,

Pedoja, K., and MacInnes, B.T. 雑 誌 名 : Geological Society of America Bulletin, 125 (9/10): 1554-1568. doi:

10.1130/B30793.1., 2013.

要旨:

著者らは長年,千島海溝沿いで発生する地震に伴う津波の痕跡を追跡し,長期にわたる地震

津波の履歴(発生頻度と規模の推移)を調べている.津波堆積物の分布から津波の規模を推

定するには,津波の浸水距離や高さの評価に関わってくる海岸域の隆起や沈降の履歴もま

た把握しなくてはならない.この論文は,千島海溝の北端,アリューシャン海溝と会合する

付近に位置するカムチャッキー半島(カムチャッカ半島の中央部)で実施された地質学的調

査を基に,この地域の地殻変動履歴を解明しようとしたものである.ここでは,数 10kmの

海岸線で 30測線,200カ所で掘削調査を集中的に実施し,地層に狭在する火山灰層の分布

と年代から海岸線の推移を復元するという新しい手法を用いて,海岸線の隆起量を定量的

に求めた.その結果,カムチャッキー半島では,過去 2000年間の垂直変動量が -1から+7

mm/year であることがわかった.隆起のパターンは近年の測地データと調和的で,また現

在ある海成段丘の分布とも矛盾しない.AD250-600 年に隆起速度が平均より数倍速かった

というバラツキも認められた.この海岸隆起は,基本的には地震時隆起の積み重ねによるも

のと解釈している.また,この複雑な隆起パターンは,カムチャッキー半島がオホーツクプ

レートとベーリングプレートに挟まれて押し潰されるモデルで定性的には説明できそうで

ある.

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2015年度雑誌会 11月9日(月)午後3時-午後4時30分 発表者1:早川 美土里 タイトル:Three-dimensional magnetotelluric characterization of the Coso geothermal field Coso 著者: Gregory A. Newman, Erika Gasperikova, G. Michael Hoversten, Philip E. Wannamaker 雑誌名:GEOTHERMICS 37 (2008) 369-399 要旨: California の Coso 地熱系の東部では、125 点の格子状の magnetotelluric(MT)探査が行わ

れている。ノイズ除去のために Parkfield (CA) で継続的に測定されているデータをリモー

トリファレンスとして使用した。ノイズ除去されたデータにより完全な 3 次元比抵抗モデ

ルが計算され、支配的な地質構造が生産井に影響しているということや、地表に現れている

断層や局所的な地電流走向との関係性が示された。また、別に行われた 2 次元インバージ

ョンと比較したとき、3 次元モデルは比抵抗のつながりをより良く示している。比抵抗モデ

ルは微小地震発生点や貯留層流体生産間隔や Wu and Lees(1999)で得られた音響速度とせ

ん断速度のモデルと関係付けられている。後者の関係は、フィールドの東部の垂直に近い低

比抵抗構造は𝑉𝑝 𝑉𝑠⁄ 比が増加する場所でもあるということを示している。Devil’s Kitchen 全

体は地熱井の密度が高い地域で、地表近くの伝導度の高い物質はスメクタイト泥の変質体

であると考えられている。この変質体の下と貯留層内の高い比抵抗は、イライト泥の形を作

るプロピライトの変質であると判断され、これは一般的に高温の貯留層で見られる。南西部

では𝑉𝑝 𝑉𝑠⁄ 比が貯留層流体生産間隔の上で高められているが、比抵抗には特徴が無い。Devil’s Kitchen の南部・南西部の比抵抗モデルをより洗練するにはより多くの MT データが求め

られる。

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発表者2:岩田 光義 タイトル:Aeromagnetic constraints on the subsurface structure of Usu Volcano, Hokkaido, Japan 著者:Shigeo Okuma, Tadashi Nakatsuka, Yoshihiro Ishizuka 雑誌名:Exploration Geophysics, 2014, 45, 24–36 要旨:

有珠火山は、主に玄武岩外輪山溶岩や鮮新世や更新性の安山岩が下に堆積している石英

安山岩火山岩から成る火山であり、20~30 年毎に噴火している。2000 年に起こった最近の

噴火は 1978 の噴火以来初めて起こった。この噴火が始まってから約 3 ヶ月後に、高解像度

ヘリコプターの空中磁気探査を行った。実際の観測面より下にある同等な磁気異常を仮定

して、平滑化した観測面の磁気異常を計算した。地下構造を明確にするために磁気異常の3

D イメージングを行った。著者たちのモデルは有珠火山の主な火山体では高磁気を示し、そ

れは有珠外輪山溶岩の分布を反映しているかもしれない。一方、低磁気は西山火口地域の北

西や東丸山潜在円頂丘にあり、そこの近くでは比較的、鮮新世や更新性の火山岩が発見され

ている。これらの地域付近の露頭で観測された逆帯磁によりその低磁気を説明できるであ

ろう。 この調査は有珠火山の基盤や火山体での火山岩の地下や表面での分布に関する理解を改

善したが、いくつかの限界が存在する。他の地球物理データによって明らかにされているに

もかかわらず、1977-1988 や 2000 年の噴火でのマグマの貫入に関する情報はこの探査で

は得られていない。そのもっともあり得る理由は、貫入マグマとそれらの母岩の間の小さな

磁気コントラストである。おそらく貫入マグマはその調査が行われたときまでに強く磁化

するほど十分冷えなかったのであろう。

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発表者3:重藤迪子 タイトル:Slip pulse and resonance of the Kathmandu basin during the 2015 Gorkha earthquake, Nepal 著者:J. Galetzka, D. Melgar, J. F. Genrich, J. Geng, S. Owen, E. O. Lindsey, X. Xu, Y. Bock, J.-P. Avouac, L. B. Adhikari, B. N. Upreti, B. Pratt-Sitaula, T. N. Bhattarai, B. P. Sitaula, A. Moore, K. W. Hudnut, W. Szeliga, J. Normandeau, M. Fend2, M. Flouzat, L. Bollinger, P. Shrestha, B. Koirala, U. Gautam, M. Bhatterai, R. Gupta, T. Kandel, C. Timsina, S. N. Sapkota, S. Rajaure, N. Maharjan 雑誌名:Science, 2015, Vol. 349, No. 6252, pp. 1091-1095, DOI: 10.1126/science.aac6383 要旨:

2015 年 4 月 25 日,ネパールの首都カトマンズの北西約 77 km,西部ゴルカ郡を震央と

する,Mw 7.8 の大地震が発生した(The 2015 Gorkha, Nepal, earthquake)。震源メカニ

ズムは東西走向 295 度,北傾斜 11 度の低角逆断層(USGS, MWC)であり,インドプレー

トとユーラシアプレートが衝突するプレート境界の主ヒマラヤ断層(Main Himalayan thrust)で発生している。震源深さは約 15 km(USGS, QED)であり,地表断層は現れて

いない。 筆者らは,本地震において,ハイレート(5 Hz)GPS 網で,陸域のプレート境界大地震

における断層破壊を捉えることに初めて成功しており,本論文では,ハイレート GPS とス

タティック GPS による測地データ,干渉合成開口レーダーによる地殻変動データから,詳

細な震源過程を推定している。 推定された結果は以下の通りである。断層破壊はカトマンズの北を通り南東へ向かって

伝播し,最大すべり域はカトマンズの北で約 6.5 m である。主すべり域は深さ 10-20 km 程

度の狭い範囲に集中し,破壊伝播速度は 3.3 km/s(S 波速度の 95 %)と速い。破壊継続時

間は 65 秒,モーメント解放量のピークは 23 秒にあり,カトマンズの北約 10 km に位置す

る。そのパルス継続時間は約 6 秒,最大すべり速度は約 1.1 m/s であり,すべりがスムーズ

に始まり,高周波(1 Hz>)の励起が小さかったことが明らかになった。 さらに,これら震源破壊過程解析結果とカトマンズ盆地内に位置する強震記録(KATNP,

USGS)の特徴から,盆地全体が周期 4-5 秒で共振し,カトマンズ盆地内の建物被害に関し

て,低層建物は比較的被害を受けなかったが,高層建物は被害を受けたと結論付けている。

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2015年度雑誌会 日時:10月5日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者1:仲辻 周次郎 タイトル:Preparatory and precursory processes leading up to the 2014 phreatic eruption of Mount Ontake, Japan. 著者:Aitaro Kato , Toshio Terakawa , Yoshiko Ymanaka , Shinichiro Horikawa , Kenji Matsuhiro and Takeshi Okuda 雑誌名:Earth, Planets and Space (2015)67:111 DOI 10.1186/s40623-015-0288-x 要旨: 2014年 9月27日日本の御嶽山で水蒸気噴火が発生し、多くの被災者が出た大災害となった。水蒸気噴火は前兆となる現象が弱く局在的であるため予測が困難である。これ

までの研究で水蒸気噴火は火山活動の中で地震活動の増加や火山帯において熱流量が

増加した時期に発生していることがわかってきた。本論文では、噴火の前後で発生した

地震の中で非常に明瞭な波形で観測された96の VT地震と2の LP地震の震源再決定を行い、そしてmatched-filter法を用いて記録された全ての波形と震源を再決定した地震の波形を照らし合わせ、読み取ることが困難であった多くの微細な地震を検出し、御

嶽山の火山活動における地震活動の情報を再構築し、水蒸気噴火が発生するまでの過程

について新しい見解を得た。噴火の2週間前、LP 地震の増加と地震の規模別頻度を表す b−値の増加が観測されたことは、マグマ溜まりの上部に以前から存在していた断層や割れ目に熱流体が浸入しマグマ溜まりからの熱供給により断層や割れ目が加圧され

たことを示唆する。そして噴火の約10分前、VT地震の震源が鉛直上方向と北北西-南南東の水平方向に移動したこと、火口付近の微動の振幅が増加したことや傾斜計が東南

東方向に傾いたことから、この期間に加圧された熱流体が火道を伝搬し、噴火へと至っ

たと著者らは推測した。

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発表者2:佐川 朋之 タイトル:Between-Event Variance for Large Repeating Earthquakes 著者:Gony Yagoda-Biran, John G. Anderson, Hiroe Miyake, and Kazuki Koketsu 雑誌名:Bulletin of the Seismological Society of America, Vol. 105, No. 4, pp. –, August 2015, doi: 10.1785/0120140196 要旨: 本論文において著者達は、同一断層面上において繰り返し発生するほぼ同じマグニチュ

ードの地震に関して、地表面の動きの分散を計算した。この研究において対象にした地

震はカリフォルニアで発生した2つの横滑り断層の地震と日本の沈み込み帯で発生し

た6つの地震である。これらの地震については、コーナー周波数よりも高い周波数帯を

扱っているため、断層近傍の観測点において地震の変動性は破壊過程の小規模な違いに

起因する。同一断層面上で繰り返し発生する地震間の地表面の動きの変動性(𝜏𝐹2:)とハザードマップにおいて地表面の揺れを予測する際に用いる方程式によって計算される総

変動性(𝜏2)について調べた。その結果、対象としている周波数帯において𝜏𝐹2が𝜏2よりも小さいことが示された。なぜならば、𝜏𝐹2と𝜏2は主にその地域の断層の物理特性に依存し、今回扱う地震は繰り返し地震なので物理特性は同一と見なせるからである。このことか

ら、地震災害に関するハザードマップを作成する際に𝜏2よりも小さな繰り返し地震間の変化を潜在的に用いることができる可能性が示唆された。従ってこの結果はハザードマ

ップと実際の地震被害との間の不一致を解決する手助けになるかもしれないと筆者達

は述べている。

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発表者3:三嶋 渉 タイトル:Magnetic links among lava flows, tuffs and the underground pluming system in a monogenetic volcano, derive from magnetics and paleomagnetic studies 著者:Jaime Urrutia-Fucugauchi, Alfonso Trigo-Huesca, Ligia Perez-Cruz 雑誌名:Physics of the Earth and Planetary Interiors (2012) 10-18 要旨: 中央メキシコの Valsequillo Reservoirの北に位置する Toluquilla火山は,小さな噴

石丘(単成火山)である.この火山の活動時期は,Ar/Ar年代測定の結果から約 130万年前と考えられている.火山噴火において,火道の形状はその噴火ダイナミクスを支配

する一つの支配要素と言われている.そのため,火道の構造を把握することは,火山噴

火への理解を進める上で重要な示唆を与えてくれる. 著者らはこの Toluquilla火山で古地磁気学・地球物理学的手法を組み合わせ,磁化

構造解析による火道構造の推定に向けた議論をしている.まず,Toluquilla火山の凝灰岩の磁化方向を調べた.磁化方向は2成分から成っていたが,初生磁化は逆帯磁と推定

された.次に,磁性鉱物の特定を試み,2種類の磁性鉱物の存在が推察された.最後に,

Toluquilla火山周辺の地上地磁気探査を行い,この地域の磁気異常図を作成した.そうして,この磁気異常データを説明するための帯磁源を,逆帯磁のプリズムと仮定した上

で,その長さ,深さ,磁化の角度をパラメータにしたフォワードモデリングを行った.

このフォワードモデルで推定された帯磁源の磁化方向は岩石試料から得られた磁化方

向と比べてやや深いが概ね一致する,と著者らは推察した.これらの結果に基づいて,

本論文の議論は,単成火山で岩石試料と物理観測で推定される帯磁源の磁化情報が比較

的一致する場合において,磁化構造解析が火道構造の推定に制約を与えるというもので

ある.

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発表者4:田中 良 タイトル:From source to surface : dynamics of Etna’s lava fountains investigated by continuous strain, magnetic, ground and satellite thermal data 著者:A. Bonaccorso, S. Calvari, G. Currenti, C. Del Negro, G. Ganci, A. Linda, R. Napoli, S. Sacks, A. Sicali 雑誌名:Bull Volcano (2013) 75:690, DOI 10.1007/s00445-013-0690 要旨: 本論文の目的は,多項目観測からイタリア,シチリア島東部に位置するエトナ火山の

マグマ供給系を明らかにすることである.エトナ火山に 2つのひずみ計が導入された後に発生した 2つの溶岩噴泉イベントを解析対象とした.ひずみ計は中央火口からおよそ6 km, 10 kmの位置にそれぞれ設置され,溶岩噴泉発生時に山体の収縮を示すシグナルが観測された.2つのひずみ計の火口までの距離と観測されたシグナルの振幅比からソースの深さを 1.5 -3 kmと推定した.また,噴火口から数 100 mの全磁力連続観測点において,噴火に伴い全磁力が 3.5nT増加した.継続時間がそれぞれのイベントで 90分, 15分と短いことから,この全磁力変化は貫入ダイクの開口によるピエゾ磁気効果であると推定された.これらの歪・全磁力観測の解釈は,地上熱観測によって記録された

噴火現象の遷移と対応付けて行われた.また、地上・衛星熱観測によって、溶岩と破砕

物の噴出量が推定され,2つのイベントで大きな差はなかった.2つのイベントの継続

時間が異なるにもかかわらず,同程度の噴出量であることから,地下にある一定の大き

さの貯留域が存在し,これが噴出量を支配していることが示唆される.著者らは今後の

課題として歪記録によって推定された圧力源の位置決定精度を高めることを挙げてお

り,ひずみ計を火口から 2-3 km の距離に設置することでこの課題は解決できるとしている.

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2015年度雑誌会 日時:12月7日(月)午後3時-午後4時30分 場所:理学部4号館2階207講義室 発表者1:佐川 朋之 タイトル:Between-Event Variance for Large Repeating Earthquakes 著者:Gony Yagoda-Biran, John G. Anderson, Hiroe Miyake, and Kazuki Koketsu 雑誌名:Bulletin of the Seismological Society of America, Vol. 105, No. 4, pp. –, August 2015, doi: 10.1785/0120140196 要旨: 本論文において著者達は、同一断層面上において繰り返し発生するほぼ同じマグニチュ

ードの地震に関して、地表面の動きの分散を計算した。この研究において対象にした地震は

カリフォルニアで発生した2つの横滑り断層の地震と日本の沈み込み帯で発生した6つの

地震である。これらの地震については、コーナー周波数よりも高い周波数帯を扱っているた

め、断層近傍の観測点において地震の変動性は破壊過程の小規模な違いに起因する。同一断

層面上で繰り返し発生する地震間の地表面の動きの変動性(𝜏𝐹2:)とハザードマップにおいて地表面の揺れを予測する際に用いる方程式によって計算される総変動性(𝜏2)について調べた。その結果、対象としている周波数帯において𝜏𝐹2が𝜏2よりも小さいことが示された。なぜ

ならば、𝜏𝐹2と𝜏2は主にその地域の断層の物理特性に依存し、今回扱う地震は繰り返し地震な

ので物理特性は同一と見なせるからである。このことから、地震災害に関するハザードマッ

プを作成する際に𝜏2よりも小さな繰り返し地震間の変化を潜在的に用いることができる可

能性が示唆された。従ってこの結果はハザードマップと実際の地震被害との間の不一致を

解決する手助けになるかもしれないと筆者達は述べている。

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発表者2:翁長 良介 タイトル:Temporal changes in thermal waters related to volcanic activity of Tokachidake Volcano, Japan: implications for forecasting future eruptions 著者:Ryo Takahashi, Tomo Shibata, Yasuji Murayama, Tagiru Ogino, Noritoshi Okazaki 雑誌名:Bull Volcano(2015)77:2, DOI 10.1007/s00445-014-0887-6 要旨: 本論文は北海道十勝岳において、約 30年にわたる熱水の化学成分の変化を調査し、火山活動との関係を推測したものである。筆者達は 1986年から現在まで、定期的に十勝岳温泉周辺の 4 カ所と吹上温泉周辺の 4 カ所で熱水の採取の化学成分を分析した。採取した熱水の Cl/SO4モル比に注目すると、十勝岳温泉周辺の熱水は Clが乏しく SO4に富み、吹上温泉周辺の熱水も 1986年では同様の特徴を示していたが、それ以降は Clに富み、SO4が乏しい特徴を示すことがわかった。吹上温泉周辺で採取された熱水では、1988~89 年の噴火に先駆けて Clの量が明らかに増加し、1992年から減少に転じている傾向がみられた。同時に、Cl-SO4-Na の成分比では噴火前から Clと Naの割合が増加しており、1992年を境に減少に転じる。一方で SO4 の割合は 1992 年以降増加を示した。これらの観測結果を受けて筆者達は地下の熱水環境の変化を次のように推測している。吹上温泉周辺の地下には熱

水溜まりが存在ており、1986年までは十勝岳温泉周辺に供給されるものと同じ帯水層からの熱水が供給されていた。そこに 1988~89年の噴火前からマグマに起因する NaClに富んだ熱水が流入しはじめ、1992年に供給が終わり、それ以降 SO4に富む熱水が流入した。最後に筆者達は、今後火山活動が高まりを見せたとき 1988~89年噴火前に見られた化学成分の変化がみられる可能性があり、調査を続けていく必要があると結んでいる。

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発表者3:伊尾木 圭衣 タイトル:Dispersion and nonlinear effects in the 2011 Tohoku-Oki earthquake tsunami 著者:Tatsuhiko Saito, Daisuke Inazu, Takayuki Miyoshi, and Ryota Hino 雑誌名:Journal of Geophysical Research, 2014, 10.1002/2014JC009971, 5160-5180. 要旨: この論文は 2011年東北沖地震津波に関して、波の分散と非線形効果の役割を明らかにするものである。高解像度のソースモデルを用いて、非線形分散式をもとに津波のシミュレー

ションをおこなった。このシミュレーションは、沖合、深海、震源付近で記録された波形を

うまく表すことができた。このイベントにおいて最も浸水範囲が大きかった仙台平野にお

いて、計算浸水域は実際の浸水域とよく合う。異なる津波の式を用いてシミュレーションす

ることで、このイベントにおける波の分散、非線形効果、エネルギー散逸の洞察を得ること

が出来た。波の分散は、多くの研究で無視されてきたが、波の分散を考慮しないと深海にお

いて最大振幅が過大評価されることがわかった。また最大津波高さ 2m 以下が観測された

深海における観測点の波形も分散の必要性を示した。非線形効果は、湾や港に入る津波の伝

播に大きな役割を果たすことはよく知られている。さらに非線形効果は正確なモデルを考

える上で必要である。とくに非線形項を含むことは、浸水よりも沿岸から反射した波を正確

にモデリングするときに重要となった。

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発表者4:平塚晋也 タイトル:The 5 September 2012 Nicoya, Costa Rica Mw7.6 earthquake rupture process from joint inversion of high-rate GPS, strong-motion, and teleseismic P wave data and its relationship to adjacent plate boundary interface properties 著者:Han Yue, Thorne Lay, Susan Y. Schwartz, Luis Rivera, Marino Protti, Timothy H. Dixon, Susan Owen, and Andrew V. Newman 雑誌名:Journal of Geophysical Research, Vol. 118, 5453-5466, doi:10.1002/jgrb.50379, 2013. 要旨:

1992 年ニカラグア地震(Mw7.7)の震源域と 1990 年のコスタリカ地震(Mw7.0)の震源域に挟まれた領域(ニコヤギャップと呼ばれる)においては,1853,1900,1950 年と約 50年の間隔でM>7.5のプレート境界型地震が発生している。ニコヤギャップにおいては、1978年にもプレート境界型地震が発生したが、その地震は前述の 3 つの地震に比べると規模の小さい Mw7.0 の地震であった。そのため、1950 年のコスタリカ地震(Mw7.8)の発生以後、ニコヤギャップに蓄積していたと考えられるすべり欠損は完全には解放されず、この領

域においては約 3mのすべり欠損(Mw7.8 の地震に相当)が依然として蓄積していると考えられていた。ニコヤ半島付近で行われた GPS観測の結果によれば、沈み込むプレート境界面上の固着が強い(プレート間カップリングが大きい)と考えられる領域は、ニコヤ半島

の直下、ニコヤ半島の南西沖、およびニコヤ半島の南東沖の 3 つの異なる場所に存在すると推定される。 著者らは、2012年 9月にニコヤギャップで発生したコスタリカ地震(Mw7.6)に関して、

High-rate GPS、Low-rate GPS、遠地 P波、および強震動の記録を用いてジョイントインバージョンを行い、地震時のすべり分布の推定を行っている。それによれば、地震時に大き

くすべったと考えられる領域は、前述の 3 つの固着域のうち、ニコヤ半島の直下に位置する固着域と互いによく重なり合うことがわかった。また、ニコヤ半島の南西沖に位置する固

着域においては、地震時にすべりがほとんど生じていないことがわかった。そのため、将来、

この固着域を破壊するような、2012年の地震と同規模の地震が発生する可能性があると著者たちは述べている。

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2015年度雑誌会

開催日:2015年12月21日(月)午後3時-午後4時30分

発表者①:成田翔平

Title : Real Time Tracking of Magmatic Intrusions by means of Ground Deformation

Modeling during Volcanic Crises

Authors : Flavio Cannavò, Antonio G. Camacho, Pablo J. González, Mario Mattia,

Giuseppe Puglisi & José Fernández

Journal : Scientific Report, Nature

Abstract :

火山噴火は、現在活動が活発な火口から始まるとは限らない。中心火道から水平方向へ

マグマが移動し、火口のない地点や長期間活動していない火口から噴火が始まったケース

は、多くの火山で報告されている。最近の例を挙げると、岩手山 1998年噴火未遂や有珠山

2000年噴火、Bárðarbunga火山 2014年噴火などが該当する。こうした事例では、地震や

地殻変動などの地球物理観測によってマグマ活動の活発化が捉えられてはいるものの、ど

こから噴火が始まるかは正確には予測できていない。このため、噴火開始地点の予測は、

居住地域においては切迫した問題であり、火山学的に非常に重要な課題であるといえる。

本論文の目的は、噴火直前に GPSでとらえた地殻変動データを用いて、変動を引き起こ

す圧力源のサイズやその空間分布と時間発展を追跡し、噴火開始地点予測をするための手

法の開発である。そのために筆者らは、Camacho et al(2011)で提唱された手法を用いた。

この手法は本来、重力/地殻変動データの同時インバージョンのためのものだが、以下の特

徴がリアルタイムインバージョンに活きてくるため、筆者らはこれを用いてリアルタイム

インバージョンを試みている。1:変動源を小さな点やブロックの集合体とみなすため事前

の形状の仮定が不要であること、2:計算時間が数秒であることの二点である。筆者らは、

リアルタイムインバージョンのテストデータとして、イタリアの Etna火山 2008年 5月噴

火とその準備過程で GPS に記録された地殻変動データを選び、当時の GPS データをリア

ルタイムで得ているかのように逐次的にインバージョンを行い、時間発展する変動源の位

置・形状・空間分布を追跡するシミュレーションを行った。その結果、仮想的にではある

が、2007年 6月中旬から 7月末までの 1.5ヶ月間でのマグマ蓄積過程と噴火前日から当日

までの浅部へのマグマ上昇過程が再現された。この際、各パラメータの決定精度は、変動

源の位置が観測点から離れるほど落ちることが確認された。最後に筆者らは、この手法を

他の火山にも適用することで、マグマ動向のモニタリングを実際にリアルタイムで行うこ

とが可能であると結論付けている。

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発表者②:福原絃太

Title: Surges around the Hawaiian Islands from the 2011 Tohoku Tsunami

Authors: Kwok Fai Cheung, Yefei Bai, and Yoshiki Yamazaki

Journal: JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH: OCEANS, VOL. 118, 5703–5719,

doi:10.1002/jgrc.20413, 2013

Abstract:

2011 年東北沖地震による津波は東北地方太平洋沿岸地域などに甚大な被害をもたらした.

この津波はハワイ諸島周辺に到達後最大 38時間に渡って港やマリーナの閉鎖という結果を

もたらした.筆者たちは沿岸災害の物理過程の解明と推定を行うために震源から津波イベ

ントを再現するために非静力学モデルを利用した.いくつかの潮汐計,海底圧力計と超音

波流速計(ADCPs)からハワイでのモデル結果の検証と評価のための観測値を得ることが

できた.計算から得られた表面隆起のスペクトル解析などによってマルチスケール共振が

原因の複雑な流れのパターンを明らかになった.33-75分周期の定常波はハワイの島に沿っ

て発達する.27分より短いものは島や浅瀬によって制限されている.港内やサンゴ礁で波

節を形成できる周期 16分より短いエッジ波は観測される沿岸流の推進力となっている.振

動モードと共振の干渉は太平洋の島々における危機管理に対する影響とハワイで観測され

た影響を説明する.

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発表者③:岡本理沙

タイトル:Budget of shallow magma pluming system at Asama Volcano, Japan, revealed

by ground deformation and volcanic gas studies

著者:Ryunosuke Kazahaya, Yosuke Aoki, and Hiroshi Shinohara

雑誌名:Journal of Geophysical Research. Solid Earth, 120 (2015)

Doi: 10.1002/2014JB011715

要旨:

浅間火山では、2000 年から 2011 年にかけて、活発な火山ガス放出や火山の膨張収縮な

どの地殻変動が観測された。この論文では、浅間火山のマグマ供給系の理解を目的として、

火山ガス放出率と地殻変動の観測結果を基に、脱ガスしたマグマ量、ダイク型火道のマグ

マ体積減少量を計算し、膨張、収縮時における地下のマグマ収支を見積もっている。

火山ガスの放出率と地殻変動の観測データは、地殻中部のマグマだまりから、浅部のダ

イク型火道へとマグマが供給され、マグマの脱ガスが促進されたことを示している。また、

マグマの脱ガスモデルは、地殻中部のマグマだまり、ダイク型火道、L字型火道によるマグ

マ対流と浅部でのマグマ供給系を基にしている。筆者らは、火山ガス放出量から、脱ガス

によるダイク型火道のマグマの体積減少量と、脱ガスしたマグマ量を見積もった。その結

果、膨張時は、ダイク型火道の体積変化量よりも、脱ガスによるマグマ収縮量のほうが多

いことが分かった。これは、地殻変動から得られたダイク型火道の体積増加量の2倍以上

のマグマが、地殻中部のマグマだまりからダイク型火道に供給されたことを示している。

また、収縮時は、ダイク型火道の体積変化量と、脱ガスによるマグマ収縮量は同程度であ

り、このことは、火山ガス放出が地盤収縮の一要因として無視できないことを示している。

また、地殻変動の観測結果より、ダイク型火道の長期的な収縮がみられた。このことは、

マグマ対流が起こり、脱ガスしたマグマが、ダイク型火道を通り抜け、地殻中部のマグマ

だまりに下降していることを示唆している。

これらのことから、一般には、地殻変動で観測されたマグマだまりの膨張量はマグマの

注入量と同じものであると考えられているが、ガス観測結果からは、それよりもはるかに

多量のマグマがマグマだまりを通過していることが明らかになった。このことは、脱ガス

活動が活発な火山の地殻変動を解釈するうえで、脱ガスによるマグマの収縮量を考えるこ

との重要性を示している。