Upload
others
View
2
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
包摂的成長の重要性については第 1 章第 4 節において述べたとおりだが、地域経済がグローバル化の恩恵を受けられるようにするためには、まずは地域の生産性を向上させることが必要である。地域の生産性を向上させるための観光、農業、中小企業などにおける具体的な支援策については第Ⅲ部で述べるが、ここでは地域経済の生産性の現状について記載する。 地方においては、農業やサービス業は重要な産業基盤であり、就業者数で見ると、農業とサービス業だけで 7 割以上の就業者比率となっている。地域にもグローバル化の恩恵が行き渡るようにするためには、これらの産業の生産性を向上させることが重要である(第Ⅱ-4-2-1 図)。 産業別に我が国の労働生産性を見ていくと、都市圏の製造業が一人当たり約 900 万円であるのに対して、農業は都市圏・地方圏ともに一人当たり 300 万円を下回る状態となっており、1/3 に満たないことが分かる。またサービス業に関しても、大規模都市圏では製造業に匹敵する生産性の高さをもっているものの、地方圏においては地方圏における製造業の半分以下の生産性となっているため、地方圏のサービス業の生産性に関しても上昇させていくことが重要である(第Ⅱ-4-2-2)。 地方圏のサービス生産性を上昇させていく上で重要
な分野の一つとして観光が挙げられる。世界的に見た場合には観光客数は世界 16 位とまだ低い値にあるものの、我が国の観光客数は近年急上昇しており、2016年には 2404 万人に達した。2011 年の 622 万人から 4倍程度となっている(第Ⅱ-4-2-3 図、第Ⅱ-4-2-4 図)。 我が国は観光産業の中でも特に文化サービスの単価が低く設定されており、生産性についても低いと言われており 119、実際にフランスと比較しても我が国の観光関連消費は宿泊施設サービスや飲食供給サービスに偏っていることから、文化サービスの生産性の向上
地域経済の生産性向上第2節
第Ⅱ-4-2-1 図 産業・地域圏別就業者比率
〈大規模都市圏(30 万人以上)〉 〈小規模都市圏(30 万人未満)〉 〈地方圏〉
製造業16.8%
[5.7%、42.5%]
建設業7.8%建設業7.8%
建設業8.9%建設業8.9% 建設業
9.7%建設業9.7%
電気・ガス・水道業0.6%
電気・ガス・水道業0.5%
電気・ガス・水道業0.5%
製造業21.7%
[3.6%、43.4%] 製造業16.4%
[0.0%、36.8%]サービス業72.2%
[49.7%、81.9%]
サービス業60.4%
[45.2%、85.4%]
サービス業56.3%
[19.6%、92.7%]
農林水産業2.6%
[0.9%、20.0%]
農林水産業8.4%
[1.2%、27.1%]
農林水産業17.1%
[0.6%、77.0%]
※[ ]はレンジを示し、左が最小値、右が最大値を表す。資料:総務省「国勢調査」(2010 年)、総務省・経済産業省「経済センサス活動調査」(2012 年)等から経済産業省作成。
第Ⅱ-4-2-2 図 産業・地域圏別労働生産性
0
1,200
900
600
300
サービス産業製造業農林漁業
大規模都市圏
小規模都市圏
地方圏
大規模都市圏
小規模都市圏
地方圏
大規模都市圏
小規模都市圏
地方圏
(万円 / 人)
資料:第一回ローカルアベノミクス企画会議(2015 年)から抜粋。
�119デービットアトキンソン「新・観光立国論」
第4章
第Ⅱ部
通商白書 2017 261
第2節地域経済の生産性向上
等を通して、生産性の高いインバウンド産業を育てていくことが肝要(第Ⅱ-4-2-5 図)。 このように、我が国地域では農業、サービス業の従事者の比率が高いものの、現状では生産性が低いため、第Ⅲ部で紹介するような人材投資施策等によって生産性を高めることが重要である。
第Ⅱ-4-2-3 図 訪日外客者数推移
資料:�CEIC データベースから経済産業省作成。
0
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
(万人)
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
第Ⅱ-4-2-4 図 2015 年の観光客数比較
資料:世界銀行データベースから経済産業省作成。
0
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
(万人)
サウジアラビア
日本
ギリシャ
マレーシア
香港
オーストリア
タイ
メキシコ
ロシア
英国
ドイツ
トルコ
イタリア
中国
スペイン
米国
フランス
第Ⅱ-4-2-5 図 インバウンドにおける観光関連消費の内訳
資料:OECD�Database�(2013)から経済産業省作成。
0
100
80
60
40
20
(%)
日本フランス
スポーツ・娯楽サービス旅行会社関連サービス旅客輸送サービス
文化サービス
飲食供給サービス自動車等レンタルサービス
宿泊施設サービス
262 2017 White Paper on International Economy and Trade
第4章 我が国のインクルーシブな成長に向けた取り組みの強化
コラム
1
アジアを中心とした新興国では経済成長、人口増加が進んでおり、世界全体の食品市場は 2009 年の340 兆円から 2020 年には 680 兆円まで倍増すると推計されている 120。この市場の獲得を狙い、2016 年5 月、政府は「農林水産業の輸出力強化戦略」をとりまとめ、2019 年の輸出額 1 兆円達成を目指し、官民を挙げて農林水産物・食品の輸出促進に取り組んでいる(コラム 3-1 図)。
同戦略では、海外における日本食の高い人気を梃子に、食文化と一体的にプロモーションを図っていくことをアクションの一つに掲げている。地域の資源と文化を背景とした付加価値の高い食品の海外販路拡大につながれば、地方の中小企業にとっても大きなチャンスになりうる。 そうした背景のもと、民間において、日本文化・食文化と一体化して販売拠点を海外に設ける取り組みが活発化している。例えば、クールジャパン機構の出資を活用し、株式会社マエタクと長崎県の企業等によるコンソーシアムが米国カリフォルニア州に展開する「日本茶カフェ」と、三越伊勢丹グループがマレーシアに展開する「ジャパンモール」が、それぞれ 2016 年にオープンした。今後、こうした拠点が海外でのブランド力を高めることにより、日本の中小食品企業にとってのプラットフォームとなることが期待される。〈参考:海外の先進事例 121〉 イタリアは、地中海性気候を活かして生産したオリーブ油、ワインに加え、パスタ類など、「イタリア料理」として誰もが思い描く産品を中心に、食文化と一体となった輸出を推進している。また、食分野の産業連携により更なる輸出の促進につなげようとしている。 その一つとして、イタリアの食文化を軸に、「買う(販売)・食べる(飲食)・学ぶ(体験)」の 3 つの事業を融合させた新たなビジネスモデルを展開するイータリー(EATALY Distribution S.R.L)(イタリア食材の小売・外食事業、資本金 2100 万米ドル、年商 2.1 億ユーロ、従業員数約 1,400 人)が注目されている。イータリーは 2007 年にトリノに 1 号店を開店した後、2008 年には東京に、2010 年にはニューヨークに進出。現在はイタリア国内に 18 店舗、海外に 15 店舗を展開している。 イータリーでは、国際 NPO であるスローフード協会 122 の理念を取り入れ、その傘下の食科学大学
文化と一体となった農水産品輸出コラム
1コラム
3
コラム 3-1 図 農林水産物・食品の輸出額の推移
資料:�農林水産省 HP「平成 28 年農林水産物・食品の輸出額推移」から経済産業省作成。
1,7361,736 1,6981,6982,2162,216
2,3372,337
2,7572,757 2,6402,640
123123 118118152152
211211263263 268268
2,6522,652 2,6802,680 3,1363,136 3,5693,5694,4314,431 4,5934,593
10,000
4,511 4,4975,505
6,117
7,451 7,502
0
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
(億円)
2019H31
2016H28
2015H27
2014H26
2013H25
2012H24
2011H23
水産物林産物農産物
平成 31 年の輸出額 1 兆円達成を目指す
+0.7%(対前年比)
(年)
�120A.T. カーニー(株)推計。121中企庁(2016)
第4章
第Ⅱ部
通商白書 2017 263
第2節地域経済の生産性向上
から人材を受け入れている。また、スローフード協会の認定する産品を始め、地域性のある高品質な商品について、食品生産者と直接、長期契約を締結している。主要な加工食品はイータリーの海外店舗でも販売しており、海外での認知度・販売経験の乏しい食品生産者に輸出ノウハウの提供も行っている。 イータリーと取引をしている中小食品企業、Michelis Egidio s.n.c.(菓子・パスタ製造、資本金 90,000ユーロ、年商 1300 万ユーロ)では、売上げの 15~18%が海外での販売であり、2018 年にはこれを20%まで、2020 年には 50%まで高めたいとの目標を立てている。現在の主な輸出先は米国、ドイツ、ブラジルであり、更に輸出先を増やすことを検討している。Michelis の経営者からは、中小企業にとって海外での販路開拓のハードルは高いが、イータリーの海外店舗に出店し、海外の顧客に商品の良さを対話と五感で訴える工夫を行ったことにより、海外での新たな取引の拡大につながったとの話が聞かれている。
コラム 3-2 図 イータリーにおける連携モデル
スローフード協会スローフード協会
食科学大学食科学大学
創設人材
コンセプトを監修
認証
イータリーイータリー
連携(物販、飲食、体験)
連携(物販、飲食、体験)
国内店舗国内店舗
海外店舗海外店舗
18 店舗15 店舗(うち日本に 3 か所)
長期契約(中間流通コストの削減、
安定調達)
中小食品企業(サプライヤー)
資料:経済産業省作成。
�1221986 年にイタリアのカルロ・ペトリーニが提唱。ファーストフードに対して唱えられた考え方で、その土地の伝統的な食文化や食文化を
見直す運動。トリノに本部を持ち、現在 150 カ国以上 10 万人以上の会員を持つ。
264 2017 White Paper on International Economy and Trade
第4章 我が国のインクルーシブな成長に向けた取り組みの強化