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2015年度学科共通科目
「哲学・思想の基礎」
経験は真理を保証できるか 担当:山口裕之
http://www.ias.tokushima-u.ac.jp/
shin-kokusai/index.htm
前回分の小テストの解答
問1
• この授業でプリントを配布しない主要な理由は何か。
①大学の授業にプリントはふさわしくないから。
②クリッカー問題のネタバレになるから。
③プリントの紙がもったいないから。
④ メモを取る技術の練習のため。
94%
問2
• 「自然法則」という言葉を作った人はだれか。
①デカルト
②ロック
③プラトン
④アリストテレス
52%
問3
• 「自然法則」という言葉の含意は、
①神が作った自然現象の法律である。
②自然界に内在するイデアである。
③人間が設定した概念である。
④人間には知ることができない。
70%
問4
• イデア論の解釈として正しいのはどれか。
①犬のイデアは、幼児が経験することによって作られる。
②犬のイデアを、幼児は生まれたときから知っている。
③人間がそれを知るか否かとは関係なしに、犬のイデアが存在する。
④それぞれの個人には「その人それぞれのイデア」が存在する。
89%
問5
• 「実在」に関連する言葉について正しいのはどれか。
①目に見えるもののことである。
② existenceの語源は「外に向かって 立っている」である。
③ substanceの語源は「外に向かって 立っている」である。
④ realityの語源は「見える」ということである。
76%
問6
• ジョルダーノ・ブルーノが火あぶりになった主要な理由は何か。
①地動説を主張
②天動説を主張
③三位一体説を否定
④三位一体説を主張
78%
問7
• 「正義」など時代によって変わる概念はイデア論ではどう説明されるのかという学生の質問にどう応答したか。
① 「正義」は普遍的でしょう。
② 「正義」は説明できません。
③時代によって「正義」のイデアも変わります。
④時代によって「正義」の概念は変わるがイデアは変わりません。
79%
平均
77%
前回の授業へのコメント
コメントの応答に時間を割きすぎだ。
• 理解しないまま、あるいは誤解したまま先に進んでも、学習になりません。
• 少しのことであっても、正しく理解することが大切です。
不適切な書き方
• 「~と思った」「印象を持った」「考えた」
–消して理由を書きましょう。
• 「~に疑問を持った」
–疑問を持った理由を書きましょう。
• イデア論について少しわかった。
–具体的に何が分かったのか、何がまだ分かっていないのか書きましょう。
• ニュートンとライプニッツとマルブランシュの思想がこれほど違うので面白かった。
–単なる感想で終わらないように。
経験主義
「犬という概念は経験によって獲得される。それ故にイデア論は間違っている」という学生のコメントがあったが、経験主義の立場から見ると、自分が経験したことが「正しい」と考えるために、プラトンのイデア論はこのように批判される。これは論理的正しさと経験的正しさの対立である。
• 違います。
• 「経験主義」という訳はミスリーディングなので「実験主義」と訳した方がよいと思っています。
神など存在しない!
• 神は架空の存在
• なぜ神の存在を前提するのか
• ぼくは神を信じられないので、神が自然法則を作ったという考え方を信じられない。
• これでは信仰上の争いになってしまいます。
• ちなみに、神を信じないという日本人が多いですが…
• 本川裕「社会実情データ図録」より
• http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/9520.html
私は無神論
無神論者の私からすると、神を前提として議論していた哲学者たちの考えを理解することは難しい。
• 駒澤大学名誉教授の奈良康明氏が『医療と貢献心』という本の中で、「うちの院生がアメリカの学者に宗教的背景を聞かれて、「無神論です」と答えたので叱った。無神論者というのは神を求めて、求めて、結局私には神はいないんだという結論に至った者のことであって、お前のは「無関心論だ」」と述べています。
何でも説明
• 神を使うと何でも説明できてしまうので科学的ではない。
• ニュートンは神の一言で片づけた。
• ニュートンは、神を使って「なんでも」は説明していない。
• 自然法則が成り立つことの「原因」が問題。
– これは自然科学では解明できない。
コンディヤック『論理学』より。
「最良の本を読んでも、そこから自分たちの知っていることしか読み取らないということは、自分を学者だと思っている人々の間では、非常にありふれたことである。その結果彼らは本を読んでも何も学ばないのである。彼らがまったく知らなかったことについて書いてある本を読んでも、何一つ新たなことを読み取らないのである。」
調べるなら徹底的に。
神はライプニッツの考える最高のモナドである。しかしモナドは他のモナドと相互関係を持たないものと定義されている。なぜモナドである神の立てた予定に他のモナドは従うのだろうか。
予定調和説
ライプニッツの説では、私が今徳島大学の学生であることもあらかじめ決まっていたということになる。しかし私はこれは自分の選択だったと信じたい。
• キリスト教カルヴァン派の「予定説」の影響はあるでしょう。
• 「予定説」は反証不能。
前回分の小テスト
問1
• ニュートンの考えはどれか。
①万有引力の原因は神である。
②全てのことの原因は神である。
③神を使えばすべてのことが説明できる。
④万有引力の原因については深く考えず神の一言で片づけた。
問2
• 万有引力の法則とは
① リンゴが落下することである。
②すべてのもの落下することである。
③質量の積に比例し距離の二乗に反比例する力が働く。
④惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。
問3
• ライプニッツの考えは、
①万有引力の法則は神が創造した。
②万有引力の原因は神である。
③神は法則に従わない。
④万有引力はオカルト的である。
問4
• ライプニッツの説は、
①予定調和説
②機会原因説
③永遠真理創造説
④万有引力の法則
問5
• マルブランシュの説は、
①万有引力の法則
②機会原因説
③予定調和説
④永遠真理創造説
問6
• バットに当たったボールが飛んでいくことの原因をマルブランシュが説明すると、
①バットに当たった瞬間に神が運動法則に従う仕方で動かす。
②ボールの動きとバットの動きが予め決められている。
③運動法則を神が創造したので、バットのエネルギーがボールを動かす。
④質量の積に比例する力でボールが動く。
問7
• バットに当たったボールが飛んでいくことの原因をライプニッツが説明すると、
①運動法則を神が創造したので、バットのエネルギーがボールを動かす。
②バットに当たった瞬間に神が運動法則に従う仕方で動かす。
③質量の積に比例する力でボールが動く。
④ボールの動きとバットの動きが予め決められている。
前回のつづきから
自然法則の「原因」をめぐって
• ニュートン:万有引力の原因は神
• ライプニッツ:予定調和説・最善世界説
• マルブランシュ:機会原因論
–前回言わなかったが、デカルトは「永遠真理創造説」。
→いずれも、自然法則が成り立つことの
原因を考えている。
さらにスピノザは、
• 「神は自然法則以外のことはしない。」
=神即自然。
・・・神さまは「自然そのもの」なのか?
じゃあ、自然研究だけしてればいいじゃない。
→自然研究から「神」という要素が排除される。
(ただしスピノザ自身は、「無神論」の嫌疑がかけられ、彼の著作は禁書になった。)
ここまでのまとめ
• もともと自然研究は、「自然界に現れた神の英知」を明らかにするという目的で進められた。
• 「自然法則」という概念は、「神による世界の創造」を前提として考え出された概念である。
• 「現象の背後に自然法則が実在する」という考え方は、「神による創造」「神による世界の支配」「神の実在」という概念とセット。
• ところが、17世紀末には、自然研究が進展し、
「自然法則の普遍性」と「神の全知全能」が齟齬をきたすようになってきた。
• マルブランシュの「機会原因論」などは、「現象」の領域と「神」の領域を切り分けるものだった。
→18世紀以降、神の領域はとりあえずおいておこう、ということになった。
– 「原因」を考えなくても「法則」を研究できる。
現在でも、
• 「現象の背後に自然法則が実在する」という発想は、科学者の間でも根強く信じられている。
• 変わった点:
– 17世紀には、キリスト教と結びついた「社会的通念」だった。
–現在では、科学者の「個人的信念」として語られる。
しかし、とはいえ、
• だとすると、どうして「自然法則が正しい」といえるのか???
• 17世紀までは、「自然法則の実在」を神が保証していた。
• 神抜きにして、何が法則の正しさを保証してくれるのか?
・・・「イギリス経験論哲学」が登場する
時代的背景。
イギリス経験論哲学
高校の「倫理」などでは、
• 「大陸合理論哲学のデカルトを、イギリス経験論哲学のロックが批判した。」
当然、そんな単純な話ではない。
• 経験論哲学が登場したのは、神に代わる「真理の根拠」を求めるという時代の要請に応えるためであり、経験論哲学はそれを人間の
「経験」(実験)に置いたということがポイント。
では、経験は「真理」を
保証できるのか?
法則と、その原因としての神
• たとえば、物体が衝突すると、エネルギー保存法則に従って運動が生じる。
→マルブランシュなら、「神が法則に従うように物体を動かしているからだ。」
要するに、法則の真の「原因」は知りえない。
• 「原因」を探求せず、現象の継起の規則性を観察することで法則を設定するしかない。
=「実証主義」の法則観。=原因概念の排除
ヒュームの「因果関係論」
• 物体の衝突を観察したときに、観察可能なものは、右からやってきた物体Aが、物体Bに接触したところで停止し、同時にBが左へと動き出したことだけ。
=「力」そのものは観察できない。
• なぜ我々は「Aがぶつかったので、Bが動いた」と
いうふうに、因果関係を読み込んでしまうのか?
ヒュームの答え
「何度か類似の現象を見ているうちに、
次の現象を予測する習慣が身につくからだ。」
=「心の習慣」としての因果関係の認識
→「法則」概念からの「原因概念の排除」に加担。
ヒュームの考えでうまくいく?