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207─  ─ Vol. 32 No. 4(2015)

【はじめに】

第32回日本TDM学会・学術大会で優秀演題賞を受賞させて頂き, 大会長の大森栄先生をはじめ選考

委員の先生方に厚く御礼申し上げます。今回の受賞演題である「正期産で出生した新生児, 乳児を対象

としたバンコマイシン(VCM)の至適投与量に関する検討」の研究背景や, 東京都立小児総合医療セ

ンター(以下当院)で行っているAntimicrobial Stewardship Program(ASP)におけるTDMの役割を

紹介し, 小児科領域におけるTDMの実際を会員の皆様方に知っていただきたい。

【病院紹介】

当院は2010年 3 月に開院した東京都府中市にある561床(一般347床, 結核12床, 精神202床)の日本

最大規模の小児専門病院である。日々, 小児特有のきめ細やかな調剤, 注射薬ミキシングを行っている

なか, 大きな特徴は新生児集中治療室(NICU)24床, 小児集中治療室(PICU)10床, 高度治療室

(HCU)12床といった重症患者を対象とする病棟にサテライトファーマシーを設置していることであ

る1)。それぞれに薬剤師が常駐し投与量のチェック, 配合変化の確認を行いながらクリーンベンチ内で

ミキシングを行い, 抗菌薬のTDMに関しても積極的に関わっている2)。筆者もPICUサテライトファー

マシーの担当者である。

【ASPにおけるTDMの有用性】

当院では2012年より院内における抗菌薬の適正使用を推進することを目的にASP小委員会が発足し

た。感染症科医 3名, 新生児科医 1名, 薬剤師 1名, 臨床検査技師 1名, 事務職員 2名からなる少人数

のチームで構成され, 抗菌薬使用状況の把握に基づく問題点の抽出と細菌検査の適正化を主な取り組み

としながら様々な活動を行っている。当院におけるASPの特徴は, 感染症科医によるコンサルテーショ

ン体制が非常に充実していることから, メロペネム, ピペラシリン/タゾバクタム, セフェピムなどの

広域抗菌薬を含む12種類の注射用抗菌薬について許可制をとっていることである。小児専門病院であ

ることから小児禁忌であるニューキノロン系抗菌薬や, 8 才未満では適応が限定されるミノサイクリン

も許可制としている。許可制導入により広域抗菌薬の使用は非常に少なく抑えられており, メロペネム

を使用する症例は2.3例/月, ピペラシリン/タゾバクタムは5.9例/月(平成26年実績)と病院全体で抗菌

薬の適正使用が推進できている。抗MRSA薬はバンコマイシン(VCM)とリネゾリドの 2剤が採用と

なっており, リネゾリドのみを許可制としている。VCMに関しては, 生後 2 か月以上で発症した細菌

HHHHHHHHHHHHHSSSSSS

会 員 寄 稿SSSSSS

会員通信コーナー

優秀演題賞を受賞して「Antimicrobial stewardship programにおけるTDMの有用性」

諏訪 淳一Junichi SUWA

東京都立小児総合医療センター 薬剤科

Division of Pharmacy, Tokyo Metropolitan Children’s Medical Center

「第32回日本TDM学会学術大会(最)優秀演題賞受賞者からの寄稿」

208─  ─

性髄膜炎の初期治療薬として使用しているため許可制とはしていない。

薬剤科ではVCM使用症例の全例に対して投与量, 検査値, 血中濃度をチェックしており, 薬剤師に

よる血中濃度解析を実施している。PICUやNICUにおいては, サテライトファーマシーの担当者が毎日

直接ベッドサイドで担当医と投与量に関してディスカッションを行っている。VCMは月平均30名程度

使用されており, 様々な年齢や疾患の小児を対象に医師へ投与量の提案を行っている。ASPにおいて,

抗菌薬の投与量を適正化することは重要な要素であり, 薬剤師によるTDMの有用性は非常に大きいと

感じている。また, 院内採用である抗菌薬, 抗真菌薬, 抗ウイルス薬はすべてASPによる推奨量が決め

られており, 電子カルテ上で容易に参照することができるようになっている。また, 推奨量は処方箋に

自動的に印字され, 薬剤師が処方チェックを行う際にも非常に役立っている。

【研究背景】

小児, 新生児におけるVCMの投与量は「添付文書」, 「抗菌薬TDMガイドライン」, 「MRSA感染

症の治療ガイドライン」などで示されている(表 1 )。「抗菌薬TDMガイドライン」では15 mg/kgを1

日 4 回(60 mg/kg/day)が推奨されているが, この投与量においては血中濃度10 μg/mLを超えた症

例が49%であった報告3)など, さらに高用量な投与を必要とする報告が数多くある。しかし, これらの

報告は新生児を除外した研究での報告であり, 臓器の発達が未完成な新生児に対しては適応できないと

考えられる。新生児を対象としたVCMの薬物動態に関する報告はいくつかあるものの, 低出生体重児

(出生時体重2500 g以下)や早産児(在胎週数37週未満)での報告4,5)がほとんどであり, 正期産(在胎

週数37週から42週)で出生した新生児を対象とした報告は非常に少ない。新生児の投与量としては,

JAIDS/JSC感染症治療ガイド2014やネルソン小児感染症治療ガイド第19版などで示されているが(表

2 ), この投与量は日齢, 体重, 在胎週数などをもとに投与量をどの程度減らせばよいかを示している

ものであり, 正期産で出生した新生児の投与量は日本の添付文書の記載とほぼ同じ投与量となる。しか

し, この投与量が正期産で出生した新生児, 乳児に対して適切なものかを評価した報告はない。そこで,

正期産で出生した新生児, 乳児を対象とし, VCMの至適投与量に関する検討を行った。

【発表内容】

2010年 3 月から2014年12月までにVCMが投与された日齢 0-168の症例を対象とした。除外基準とし

て, 早産児, 血中濃度未測定例, PICU症例を除外した。対象症例に対し, 身長, 体重, 日齢, 投与量,

初回トラフ値, 血清クレアチニン値(sCr)について検討を行った。腎機能の評価は, Schwartzの式を

TDM研究

表 1 小児におけるバンコマイシンの投与量

209

用い算出した。身長未測定の症例に対しては, 当該月齢における平均身長を使用した。 1日投与量とト

ラフ濃度の比(D/C)を算出し, 身長, 体重, 日齢, 腎機能ごとに比較を行った。統計解析には, SPSS

ver.20を使用し, 有意確率 5 %未満を有意な差とした。

調査期間における対象症例は72例であった。72例の平均日齢は67.5±27.9日(平均値±標準偏差)で

あり, 日齢 0-7は 0例, 日齢8-28が16例, 日齢29-56が15例, 日齢57-84が15例, 日齢85-112が11

例, 日齢113-140が 7 例, 日齢141-168が 8 例であった。体重は4768.4±1626.1 g, 1 日投与量は45.9±

11.9 mg/kg/dayであり, 初回トラフ値は11.8±5.3 μg/mLであった。各日齢における初回トラフ値の平

均を表 3に示した。eGFRは57.6±15.0 mL/min/1.73m2であった。D/Cは全体で4.5±1.9であり, 日齢ご

とに比較すると, 日齢8-28が3.4±1.4, 日齢29-56が4.3±0.9, 日齢57-84が5.0±2.6, 日齢85-112が

5.0±0.8, 日齢113-140が4.4±2.1, 日齢141-168が5.5±2.5であった(図 1 )。身長, 体重, 日齢, eGFR

とD/Cの相関係数はそれぞれ, 0.37(p<0.05), 0.30(p=0.11), 0.34(p<0.05), 0.48(p<0.05)であった

(図 2 )。eGFRごとにD/Cを比較すると, eGFR=40 mL/min/1.73m2以下(n= 9 )で2.7±1.5, 40-60

(n=31)で4.0±1.3, 60以上(n=32)で5.5±1.9であった。今回の検討により, 正期産で出生した日齢 8

以降の新生児においてトラフ値10-15 μg/mLを目標とすると34-51 mg/kg/dayが必要な 1日投与量

であると推測された。この投与量は添付文書の新生児に関する記載よりも高用量であることから, 正期

─  ─ Vol. 32 No. 4(2015)

表 2 新生児におけるバンコマイシンの投与量

表 3 VCMの投与量とトラフ値

210─  ─

産児であれば投与開始から10 mg/kgを 1 日 4 回(40 mg/kg/day)で開始することが必要であると考

えられた。また, 日齢29以降はD/Cの値より, 「抗菌TDMガイドライン」の推奨量である15 mg/kgを 1

日 4 回(60 mg/kg/day)での投与開始が妥当であると考えられた。しかし, D/CはeGFRとの相関が身

長, 体重, 日齢よりも大きく, eGFRを評価し40 mL/min/1.73m2以下の場合は標準的な投与量ではトラ

フ値が上昇する恐れがあることから, 新生児においても腎機能を評価したうえで投与量を決定する必要

があると考えられた。

TDM研究

図 1 各日齢におけるD/Cの推移

図 2 D/Cと各パラメータとの相関

211

【おわりに】

本研究で対象とした「正期産で出生した新生児」は, 当院で集積している約1000例の中のほんの10例

程度であり非常にまれなpopulationである。しかし, ほとんど血中濃度に関する報告がされていない

populationであることから, 当院のような小児専門病院での症例蓄積が重要である。今後も症例を蓄積

していき様々な報告を行っていけるよう努力していく所存である。

【謝辞】

本研究に関し多大なるご指導いただいた薬剤科の皆様方, 堀越裕歩先生をはじめとする感染症科の先

生方に感謝いたします。

【参考文献】

1 )吉田眞紀子, サテライトファーマシーを活用したNICU・PICU業務. 月刊薬事. 2012 ; 54(2): 73-77

2 )松本智子, 西山まゆみ, 工藤尚了, 諏訪淳一, 吉田眞紀子. PICU(Pediatric Intensive Care Unit)サテラ

イトファーマシーでの業務展開. 全国自治体病院協議会誌. 2012 ; 51(6): 89-91

3 )Kim DI, Im MS, Choi JH, Lee J, Choi EH, Lee HJ. Therapeutic monitoring of vancomycin according to

initial dosing regimen in pediatric patients. Korean J Pediatr. 2010 ; 53(12): 1000-1005.

4 )木村利美, 国分秀也, 村瀬勢律子, ほか. 添付文書に基づくバンコマイシンの新生児投与について. 日本小

児臨床薬理学会誌. 2001 ; 14(1): 31-34.

5 )大久保賢介, 比嘉真由美, 河田興, 日下隆, 磯部健一, 伊藤進. 添付文書における新生児期の薬用量記載の

問題点. 日本小児臨床薬理学会誌2002 ; 15(1): 123-126.

─  ─ Vol. 32 No. 4(2015)