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講義資料 http://www.brain.rcast.u-tokyo.ac.jp/ password: be15 神崎亮平 2015年度バイオエンジニアリング 第1回:生物の賢さとモデル生物 第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現 第3回:モデル生物による感覚・脳・行動研究 1.ニューロンのしくみ 2.感覚細胞における符号化 と感覚情報の表現 第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現 1.ニューロンのしくみ 2.感覚細胞における符号化 と感覚情報の表現 第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現 ニューロンの発見 Jan Purkinje (1836) (チェコ) 小脳の細胞----Purkinje cell 核とその細胞質以外はほとんど見えていない. Otto Deiters (1865) (Bonn) 脊髄の大型運動神経が細胞体から2種類の 異なる繊維を出している図を公表 原形質伸張部 (protoplasmic prolongation) : 樹状突起 軸筒(axis cylinder) : 軸索

2015年度バイオエンジニアリング 第2回:ニューロンのしく …ゴルジ染色 重クロム酸 オスミウム固定 クロム酸銀の沈着 硝酸銀 Camillo Golgi

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  • 講義資料http://www.brain.rcast.u-tokyo.ac.jp/

    password: be15

    神崎亮平

    2015年度バイオエンジニアリング

    第1回:生物の賢さとモデル生物

    第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現

    第3回:モデル生物による感覚・脳・行動研究

    内 容

    1.ニューロンのしくみ

    2.感覚細胞における符号化と感覚情報の表現

    第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現

    内 容

    1.ニューロンのしくみ

    2.感覚細胞における符号化と感覚情報の表現

    第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現 ニューロンの発見

    Jan Purkinje (1836) (チェコ)小脳の細胞---->Purkinje cell核とその細胞質以外はほとんど見えていない.

    Otto Deiters (1865) (Bonn)脊髄の大型運動神経が細胞体から2種類の異なる繊維を出している図を公表原形質伸張部 (protoplasmic prolongation) : 樹状突起軸筒(axis cylinder) : 軸索

  • ゴルジ染色

    重クロム酸オスミウム固定

    クロム酸銀の沈着

    硝酸銀

    Camillo Golgi (1885)

    Fig. 1. (A) Typical view of human cerebellum prepared by this modified Golgi method. Note the regular staining of individual Purkinje cells (PC). There is silver-chromate precipitate along the surface of the tissue, and blotches of precipitate scattered within the parenchyma. Scale bar equals 50 μm. (B) Stained Purkinje cells (PC) and deep stellate cell(s) in the molecular layer. Scale bar equals 25 μm.

    ニューロンの形態

    Santiago Ramon y Cajal(1914年頃)

    細胞体

    樹状突起

    ランヴィエ絞輪

    シナプス

    ミエリン鞘

    軸索

    軸索終末シナプス

    ゴルジ染色像

    A)トカゲ網膜双極細胞B)マウス小脳籠細胞C)ウサギ大脳皮質

    錐体細胞D)ヒト脳幹の細胞E)ネコ小脳顆粒細胞F)ヒト小脳プルキンエ細胞

    (S.Ramon y Cajal, 1909-1911)

    神経終末とシナプス

    収束的結合convergent connection

  • 化学シナプスの電子顕微鏡像

    シナプス前ニューロンのシナプス終末

    シナプス後ニューロンのシナプス終末

    入力部位数102-5

    5 m

    膜電位

    マイクロマニピュレータmicromanipulator

    分極:膜電位は、静止電位より小さくなる(脱分極)、大きくなる(過分極)

    過分極hyperpolarization

    脱分極depolarization

    膜電位membranepotential

    膜電位:ニューロンの情報

    活動電位シナプス電位

    活動電位

    ヤリイカの巨大神経

  • ヤリイカの巨大神経 ヤリイカ巨大神経軸索内外のイオン濃度

    イオンの細胞内外の不等分布

    化学的平衡:膜の両側で濃度が等しく分布電気的中性:各側で正負が等しく中性

    例)ヤリイカの軸索

    膜が平衡状態の時には、イオンの濃度勾配によって生じる化学エネルギーとイオンの電気的エネルギーは見かけ上等しくなる.

    膜電位Membrane Potential

  • 化学力

    電気力

    平衡時:

    電気化学エネルギーと平衡電位

    F:ファラデー定数 96,500 C / molR: 気体定数 8.3J/mol/KT: 絶対温度 (K)E: 平衡電位 (Equilibrium Potential)

    (ネルンストの式 Nernst Equation)膜があるイオンを通すとき、膜を横切って生じる電位変化は、ネルンスト電位(平衡電位)に向かって動く。この電位を膜を挟んで生じる膜電位という.

    膜電位Membrane Potential

    例)イカの巨大軸索18度cで 2.3RT/F=58mV

    平衡電位

    ENa=58log([Na]out/[Na]in)=58 log (460/50) = 55(mV)

    Ek=58log ([K]out/[K]in) = 58 log (20/400) = -75(mV)K+イオン平衡電位 Equibrium potential(Ek)

    Na+イオン平衡電位(ENa)

    Equilibrium Potential電気的等価回路

    平衡電位:ENa, EK,ECl透 過 性:コンダクタンス電気容量:脂質二重層:容量Cm

  • Ecl

    電気的等価回路

    平衡電位:ENa, EK,ECl透 過 性:コンダクタンス電気容量:脂質二重層:容量Cm

    2K流入3Na流出

    膜には, K+の漏洩チャネルがあり,静止状態の膜は主にK+を透過させるので,静止電位はK+の平衡電位(通常−70mV)に近い.

    静止膜電位

    K+イオン平衡電位Equibrium potential(Ek)Ek=58 log (Kout/Kin)

    = 58 log (20/400) = -75(mV)

    Resting Potential

    活動電位Action Potential

    活動電位の細胞内記録

  • Sir Alan Lloyd HodgkinGreat BritainCambridge UniversityCambridge, Great Britain1914 - 1998

    Sir Andrew Fielding HuxleyGreat BritainLondon UniversityLondon, Great Britain1917 -

    Hodgkin and Huxley 活動電位の発生機構

    開孔

    開孔

    閉鎖

    閉鎖

    閉鎖

    閉鎖

    不活性化

    Kチャネル

    Naチャネル

    m-gate h-gate

    n-gate

    Na

    K

    不応期Refractory Period

    活動電位の性質

    1. 一過的 transient急激な脱分極と再分極

    2. 悉無的 all or noneいったん発生すれば大きさも時間経過も同じ。

    3. 閾値 threshold 臨界脱分極

    4. 逆転 overshoot 細胞内外の電位が逆転

    5. 不応期 refractory period 絶対不応期、相対不応期

  • 神経細胞膜上のさまざまな機能分子 化学シナプスの電子顕微鏡像

    シナプス前ニューロンのシナプス終末

    シナプス後ニューロンのシナプス終末

    入力部位数102-5

    5 m

    神経終末の構造

    シナプス前ニューロンPresynaptic Neuron

    シナプス後ニューロンPostsynaptic Neuron

    シナプス小胞Synaptic Vesicle

    シナプス間隙

    synapticcleft

    肥厚した膜

    化学伝達物質の放出と受容

    取り込みや分解 薬理作用

  • 興奮性後シナプス電位

    Ecclesらがネコの脊髄運動ニューロンからの記録がはじめ(1955)

    Excitatory Postsynaptic Potential(EPSP)

    抑制性後シナプス電位inhibitory postsynaptic potential(IPSP)

    EPSPの加重

    1. 時間的加重temporal summation1つの入力から時間的に接近して複数個のシグナルが送り込まれる場合

    2. 空間的加重spatial summation複数の入力から1個ずつのシグナルが時間的に接近して送り込まれる場合

    加重の条件

    神経系による統合作用

  • 活動電位とシナプス電位の比較

    膜電位依存性チャネル

    リガンド依存性チャネル

    生物に共通の神経信号

    内 容

    1.ニューロンのしくみ

    2.感覚細胞における符号化と感覚情報の表現

    第2回:ニューロンのしくみと感覚情報の表現 感覚受容細胞における符号化の過程

    トランスダクション

    受容器電位

    緊張電位

    起動電位

    インパルス

  • 脳内の視覚情報処理:感覚情報はいったん要素に分解

    視覚刺激の持つさまざまな特徴(形,色,傾き,運動の方向,様相(縞模様)など)がいったん要素ごとにバラバラに分解されて処理される

    並列分散処理

    並列分散処理

    脳による信号処理:並列分散処理

    ニューロンそれ自体がきわめて信頼性が乏しい.このような素子で処理システムを構築する必要が生物にはある.

    特徴1) 直列処理に比べて計算速度が速い2) 機能維持,欠陥許容性が高い

    Parallel Distributed Processing: PDP

    視覚野

    視覚の対象物は,形,色,動きなどの特徴をもつが,それらは異なる場所で処理される(要素の分離:初期視覚(early vision, preattentive visual process)).分離された要素は統合され認識される.

    背側経路:動き,空間位置腹側経路:形,色などの物体の特徴

    並列分散処理

  • A

    B

    C

    触覚情報のコーディング

    A

    B

    C

    A 変位

    触覚情報のコーディング

    B 速度

    A

    B

    C

    触覚情報のコーディング

    C 加速度

    A

    B

    C

    触覚情報のコーディング

  • 聴覚情報のコーディング

    並列・階層構造

    外界の感覚刺激と大脳皮質内の一つの細胞が1対1に対応する

    Barlow(1972)の単一細胞仮説

    単一細胞 = 一つの機能

    ある刺激が外界に存在する確からしさ(認識の度合い)は,その刺激に対応する細胞の平均発火率の大きさによって決定される

    神経応答のパターン

    興奮応答

    抑制応答

    匂い刺激:0.5秒

    Barlowの説を脳の高次領域での物体の認識の機能まで適用すると,いわゆる

    Barlow(1972)の単一細胞仮説

    単一細胞 = 一つの機能

    刺激が何であるかは,どの位置の細胞が発火しているかという情報でコードされている(位置コーディング)

    「おばあちゃん細胞仮説」に至る

  • 認識すべき対象の数だけ細胞が存在しなくてはならない.

    「おばあちゃん細胞仮説」の問題点

    組み合わせ的爆発

    「私のおばあちゃん」が赤い着物を着ている場合と青い着物を着ている場合をわれわれは区別できる.これは,2つの場合に異なる組み合わせに対して異なる細胞が存在しなくてはならない.

    組み合わせ的爆発からの回避

    細胞集団による平均発火コーディング(Hebbアセンブリ)

    情報は単一細胞による位置コーディングではなく,同時に発火している細胞集団の組み合わせでコードされているとする説

    細胞集団による平均発火コーディング

    細胞の平均発火率に着目する点は,単一細胞の平均発火率コーディングと共通であるが,

    (Hebbアセンブリ)

    「おばあちゃん」+「赤い」+「着物」というように,それぞれを表現する

    異なる細胞を組み合わせることにより,「組み合わせ的爆発」を回避することができる

    細胞集団による平均発火コーディング

    (Hebbアセンブリ)

  • 細胞集団による平均発火コーディング

    1つの情報が複数の細胞に広がってコードされる.1つの細胞が集団のメンバーを変えることにより,複数の情報の表現に参加できる

    分散表現

    (Hebbアセンブリ)

    Hebbアセンブリの間題点

    脳内で一度断片化(分散表現)された情報から,もとの完全なイメージを再構成する過程が必要

    Hebbアセンブリの間題点

    バインディング(結合)

    赤い長方形青い正方形

    脳内で一度断片化(分散表現)された情報から,もとの完全なイメージを再構成する過程が必要

    バインディング(結合)

    バインディング(結合)

  • バインディング(結合)問題

    視覚の対象物は,形,色,動きなどの特徴をもつが,それらは異なる場所で処理される(要素の分離:初期視覚(early vision, preattentivevisual process)).分離された要素は統合され認識される.

    背側経路:動き,空間位置腹側経路:形,色などの物体の特徴

    すべての要素が集まる(統合,結合)場所は脳内には存在しない!

    バインディング問題

    バインディング問題

    赤い三角

    視野

    領域A 領域B

    バインディング問題

    青い丸

    視野

    領域A 領域B

  • バインディング問題 バインディング問題

    赤い三角+青い丸

    視野

    領域A 領域B

    バインディング問題

    赤い三角

    視野

    領域A 領域B

    青い丸

    視野

    領域A 領域B

    赤い三角+青い丸

    視野

    領域A 領域B

    間題は,色と形をどのような方法で,たとえば「赤」と「三角」,「青」と「丸」を正しく組み合わせ「赤い三角」,「青い丸」を同時に認識できるのか?

    「Hebbアセンブリ」による「赤い三角」の認識

  • 地と図の分離

    「見ているもの」 と 「見えるもの」 は同じではない

    天使と悪魔

  • 単一細胞の平均発火率コーディング

    平均発火率というス力ラー量を変数とした「単一細胞=一つの機能」という概念により,発火している細胞の位置で表現

    ダイナミカルな情報コーディング

    脳内空間の「点」による情報表現

    細胞集団による平均発火率コーディング

    平均発火率とういうス力ラー量を変数とするが,情報の意味は分散表現により複数の細胞にわたる発火の空間パターンにより表現.

    ダイナミカルな情報コーディング

    「点」に自由度を加えた「面」による情報表現

    以上のコーディングは,バインディング問題をかかえており,さらに表現の自由度の拡大が必要

    ダイナミカルな情報コーディング ダイナミカルな情報コーディング

    空間の自由度を使ってしまったあと,残る自由度は『時聞』の自由度である.

    では,どのような自由度が使えるか?

  • Gray & Singer

    麻酔下状態のネコの視覚皮質での細胞の振動的な発火現象および空間的に離れた細胞間での振動的発火の同期現象の発見

    各細胞で生じる振動的発火の位相の自由度を用いて,異なる視覚刺激に応じて異なる細胞グループが位相を合わせて同期発火するメ力ニズムにより,柔軟からダイナミックな情報のバインディングが行われる可能性を示した.

    ダイナミ力ル情報コーディングの例 視覚野

    1次視覚野の神経活動の振動 同期的振動

  • 同期的振動