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2016年度修士論文概要
空気式放射空調を有するオフィスの温熱環境・換気性能に関する研究
発表者:多良俊宏
指導教員:甲谷寿史准教授
●修士論文の構成及び概要
本研究は空気式放射空調を有するオフィス空間を対象として、温熱環境及び換気性能を、現在一
般的に用いられている空調方式と比較することで優れた点や劣る点を明らかにすると共に、空気式放
射空調の導入を促進させるような設計指針の作成を目標としている。第1章では研究の背景及び目的
を述べる。第2章では本研究で用いた換気性能評価指標についての整理を行うとともに新たな指標の
提案を行う。第3章では空気式放射空調を導入した事例として全面有孔天井を用いた天井給気チャン
バーを有する空気式放射空調を対象として実測調査を行う。第4章では前章の再現を CFD 解析で行う
とともに、不十分であった気流性状の把握を行う。第5章では、標準的なオフィスにまで解析範囲を
広げ、様々な空調方式と空気式放射空調との比較から室内の総合的な環境評価を行う。
本報は平成 28年度空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会に掲載予定の梗概を加筆修正し
たものであり、本論文の第3章及び第5章の内容を一部まとめたものである。
1.はじめに
近年、執務室空調において、省エネルギー性と快適性
を両立させた低環境負荷計画が求められている。中でも、
放射空調は放射熱を利用することで、不快な気流感のな
い、快適で人体に優しい空調として注目を集めている。
本研究では、全面有孔天井を用いた対流・放射空調方
式 1) を大面積の基準階に導入したオフィスビルにおいて、
省エネルギー化を図りつつ良好な室内環境を実現できて
いるかを明らかにすることを目的としている。本報では、
CFD解析により前報 2) で述べた実測の再現を行うととも
に、実測では不十分であった気流性状の把握を行った。
2.空調システム概要
対象としている空調システムの概念図を Fig. 1に示す。
給気は天井チャンバー内に空調機から行い、天井全面に
敷設された有孔スチールパネルから室内に供給する。還
気は、床に設置されたOAフロアパネルの配線取出口を
利用した吸込み口からOAフロア内を経て、各ゾーンま
で横引きした還気用チャンバーより空調機へ戻される。
大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻建築環境・設備 Gr
Fig. 1 Convective/radiative air-conditioning system
Ceiling chamberVAV
Radiant panel
Underfloor chamber
SA
RA
Air-conditioned air is supplied to a ceiling chamber.
AHU
Radiation (negative)
3.全面有孔天井のモデル化
CFD解析を行うにあたって、天井面の有孔板を精密に
再現することは、計算負荷が増大してしまうため不可能
である。そこで本報では ,樋口ら2)が行った有孔板によっ
て生じる圧力損失をCFD解析により求め、同様の圧力損
失をCFD解析空間内の天井部分に与える手法を用いて全
面有孔天井を再現することとした。解析空間を Fig. 2に示
す。孔径 4mm, ピッチ 11mm 厚み 0.5mm のプレートの前
後に 500 ㎜の空間を設けた。側面は対称面扱いとし有孔
板が無限大に広がっている空間を想定している。解析手
法を Table 1に示す。実測時の放射空調方式会議室におけ
る給気量の合計は約 20000㎥ /hであり、床面積が 7.4×10.1㎡であるので風速の平均値は 0.0075m/s程度である。本研
究ではこの風速を基準として吹出し風量を 0.001m/sから
0.012m/sの 12条件設定して解析を行った。また、天井面
の有孔板の開口率は 10%であるので孔近傍での風速は 10倍の 0.075m/s 程度となる。そのため、レイノルズ数が約
35 となることから、層流と SSTk-ωモデルでの解析を行
いより良い乱流モデルの検討を行った。
44m
m
44mm 500mm
44mm
44m
m 0.5mm
Outlet
SymmetryWall
Inlet
4mm 11mm
500mm
Fig. 2 Analysis domain (Pressure loss model)
Supply air opening
Exhaust
Punched metal
Desk
Beam
Heating dummy
7400
7400
7400
1010
015
0030
00
[mm]
1
2
3
4
5
6
Table 2 CFD analysis case and results
Fig. 3 Relationships between air velocity and pressure loss
a) Plan
b) ElevationFig. 4 Analysis domain
Table 3 CFD analysis condition
Table 1 CFD Analysis condition (Pressure loss model)
1.346×10-2
1.353×10-2
1.405×10-2
Plessure loss [Pa]Turblence model
SSTk-ω
Number of mesh
3,503,020
3,503,020
12,017,080Laminar
Laminar
CFD code Fluent 16.0
Turblence model SSTk-ω
Number of mesh 3,503,020 12,017,080
Discretization
QUICKAlgorithm
SIMPLE
Laminar
層流モデルでのメッシュが細かい場合と粗い場合、そ
して SSTk-ωモデルでメッシュを粗い場合にしたものの 3条件での解析結果をTable 2に示す。圧力損失に差異がほ
とんど見られ無いことから、計算負荷の小さい層流のメッ
シュが粗いものを採用し圧力損失を算出した。CFD解析
により求めた流入速度と圧力損失の関係を Fig. 3に示す。
この関係式を次に行うCFD解析時に入力することで有孔
板の再現を行った。
00.002
0.006
0.01
0.014
0.018
0 0.002 0.006 0.01 0.014
Pres
sure
loss
(ΔP)
[Pa
]
Velocity [m/s]
247.350 0.88126P v v∆ = +
4.対象建築物のCFD解析
4.1 解析空間 解析空間の概要を Fig. 4 に示す。解析空間は前報まで
実測の対象としていた全面有孔天井を用いた対流・放射
空調方式を行う会議室を想定しており、発熱体や机も実
測と同様の位置にモデリングした。FL+3000 の位置に 3で述べた開口率 10%のパンチングメタルと同様の圧力損
失を生じさせる 0.5㎜の厚さの空間を設定した。天井チャ
ンバー内には大梁と吹出し口の他にもダクトやLEDの配
線等が存在しているが、本研究では簡単のため省略した。
床面には吸込み口があり、還気チャンバー方式を用いて
いるため実際は吸い込み流量は均一ではないが、吸込み
流量の差異は小さいと考えられるため解析では均一とし
逆流は無いものとした。発熱は照明発熱の 5.1W/ ㎡を床
面に与えた。発熱体に対しては、側面には発熱を与えず
上面のみに 60Wを与えた。これは、本解析における発熱
体が実際の人体を想定したものではなく実測で用いた発
熱体を想定しており、実測での熱画像から発熱体内部の
60Wのブラックランプによる熱が発熱体の上部に滞留し
ていることが確認できたためである。実測では周囲の室
や廊下も対象の室と同系統で空調を行っていたため、解
析では壁面は断熱とした。給気口からの吹出しはVHSに
より直下ではなく東西方向を向いているため解析では各
給気口を左右に二分割し、それぞれ 45° の方向に給気を
行った。また、CO ₂の発生では、実測と発生量を統一す
るため、各発熱体の直上に吹出し口を設け、合計で 10L/min発生させた。
4.2 解析手法及び解析条件
解析手法を Table 3 に示す。メッシュは 50 ㎜間隔とし
給気口周辺のみ、より細かい 30㎜間隔とした。実測にお
ける各給気口からの給気量をTable 4に示す。設計時には
均一な給気を予定していたが、実際には 2つの異なる系
統からの給気である事や、給気口までの経路差等の影響
により流量に差異が生じている。Fig. 5に示す実測での規
準化濃度の平面分布には分布が見られ、この原因として
不均一な給気が考えられる。そのため、本解析では実測
と同様の給気量を与える不均一給気条件に加えて、全給
気量の合計を 6等分した均一給気条件の 2通りの給気条
件を比較し換気性能や気流性状の検討を行う。
CFD code Fluent 16.1
Turblence model
Number of mesh 3,810,474
Discretization
QUICKAlgorithm
SIMPLE
Standard k-ε
大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻建築環境・設備 Gr
1300117010409107806505203902601300 [PPM]
1300117010409107806505203902601300 [PPM]
NN
A A
B
B
A A
B
BAve. 702[ppm] Ave. 679[ppm]
0.750.8 0.85
0.9 0.951 1.05
1.1 1.151.2 1.25
A
B
C100
600
1100
1700
2300
2900
0.6 0.8 1 1.2 1.4
A
B
C
Floor
Normalized CO2 concentration
Hig
ht [m
m]
Ave. 1.00[-]
a) Holizontal distribution a) Vertical distributionFig. 5 Results of measurement (Normalized CO2 concentration)
a) Ununiform supply air condition b) Ununiform supply air condition1) Holizontal distribution 1) Holizontal distribution
2) Vertical distribution(A-A) 2) Vertical distribution(A-A)
3) Vertical distribution(B-B) 3) Vertical distribution(B-B)
Fig. 6 Distribution of normalized CO2 concentration
Table 4 Flow rate of supply air 4.3 解析結果
(1)CO ₂濃度及び風速分布
Fig. に居住域である FL+1100 での CO ₂濃度平面分布を
及び二断面での濃度分布を示す。平面分布からは実測で
見られた室南東部での濃度上昇が見られ、ある程度実測
を再現できているのではないかと考えられる。また、鉛
直方向でも実測で見られた居住域より上部の空間におけ
る濃度上昇が確認出来る。この領域での濃度上昇の原因
として、Fig. 7に示す風速のベクトルの分布から、天井面
からの給気と発熱体からのプルームが衝突することによ
るCO ₂の滞留が考えられる。また、天井面からの給気は
床面の吸込み口まで一方向流を形成すると予想されるが、
実際は室全体を循環するような流れ場が形成されている
ことがわかる。特に、室の東側壁面に沿って下降流が生
じ西側からはパンチングメタルを逆流する上昇流が生じ
ている。この原因として、給気口の配置が室の東側に偏っ
ているため、東側の天井チャンバー内が高圧になり、一
方で相対的に給気量の少ない西側では低圧となる事が原
因だと考えられる。この逆流が原因となり給気チャンバー
内のCO ₂濃度の上昇していることがわかる。
0.300.270.240.210.180.150.120.090.060.030.00 [m/s]
0.300.270.240.210.180.150.120.090.060.030.00 [m/s]
0.300.270.240.210.180.150.120.090.060.030.00 [m/s]
0.300.270.240.210.180.150.120.090.060.030.00 [m/s]
Supply air opening 1Sampling point Flow rate [m3/h] Total [m3/h]
221
124Supply air opening 2Supply air opening 3 386Supply air opening 4 151Supply air opening 5 306Supply air opening 6 600
1788
a) Ununiform supply air condition b) Ununiform supply air condition
1) Vertical distribution(A-A) 1) Vertical distribution(A-A)
2) Vertical distribution(B-B) 2) Vertical distribution(B-B)
Fig. 7 Velocity distribution 大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻
建築環境・設備 Gr
【参考文献】多良 , 山中 , 甲谷 , 相良 , 桃井 , 福森 , 水出 , 後藤 : 有孔天井を用いた対流・放射冷暖房に関する実験研究 (その 4) 執務室の換気性能評価 ,空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集 ,第 3巻 pp401-404,2016.9樋口 , 小林 , 岩田 , 相良 , 山中 , 甲谷 , 桃井 , 古賀 , 一谷 , 西山 : 温度成層型水蓄熱槽の CFD 解析-ディフューザー吐出部のパンチングメタルのモデル化手法の検討- , 空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集 , 第 2巻 pp149-152,2013.9
1)
2)
Floor0
100
600
1100
1700
2300
2900
0.6 0.8 1 1.2 1.4Normalized CO2 concentration Normalized CO2 concentration
0.6 0.8 1 1.2 1.4Floor
CBACBAMeasured value
Analytical value Ave.
Ave.
CBACBAUnuniform flow
Uniform flow Ave.
Ave.
Hig
ht [m
m]
Floor0
100
600
1100
1700
2300
2900
0 5 10 15 20 0 5 10 15 20Local mean age of air [min] Local mean age of air [min]
Floor
CBACBAMeasured value
Analytical value CBACBAUnuniform flow
Uniform flow
Hig
ht [m
m]
a) Measurement and CFD analysis a) Measurement and CFD analysis b) Uniform and ununiform b) Uniform and ununiform Fig. 9 Comparison of normalized CO2 concentration Fig. 10 Comparison of normalized CO2 concentration
25.022.520.017.515.012.510.0 7.5 5.0 2.5 0[min]
25.022.520.017.515.012.510.0 7.5 5.0 2.5 0[min]
A A
B
B
A A
B
BAve. 13.3[min] Ave. 12.7[min]
実測では排気濃度の測定が不十分であったため、
FL+1100 の濃度を排気濃度として代用した。同様の方法
で規準化を行うと全条件で規準化居住域濃度が 1となり
比較ができない。そのためここでは解析値のみの比較を
行う。鉛直方法での規準化濃度分布をFig. 9に示す。なお、
この図の左に示す規準化濃度では実測と解析で同様の傾
向となる事のみが確認できる。鉛直濃度分布の二条件の
比較及び居住域平均濃度から、不均一流量条件の方が居
住域が高濃度となる事がわかる。両条件とも居住域は天
井チャンバー内から流出し壁面に沿って床面に到達した
後に発熱によって上昇する気流の影響を受けるが、不均
一条件では逆流によりチャンバー内が高濃度となってい
ることが原因だと考えられる。流量を調整することによ
り室内環境を改善できるという知見が得られた。
(2)局所平均空気齢
居住域における局所平均空気齢分布 Fig. 8 に、鉛直分
布を Fig. 10に示す。総給気量と室体積から求まる排気口
における空気齢の理論値は 11.3 min である。実測値と比
較すると値は大きくなるものの、理論値に近い値である
ため、ある程度の精度を有していると言える。濃度と同
様に均一流量条件の方が値が低くなることから、給気濃
度を改善することにより新鮮外気供給の観点からも室内
環境を改善できることがわかった。不均一条件では、天
井チャンバー内の逆流流量が多いため、逆流した後に再
度室内に給気される経路分空気齢が長くなることが原因
であると考えられる。
5.まとめ
本報では全面有孔天井を用いた対流・放射空調を行う
オフィスビルを対象として、CFD 解析により実測を再
現するとともに気流性状の把握を行った。
実測の結果、室内は天井面から床面への一方向流では
なく大きな循環流を形成していることがわかった。また、
室内から天井給気チャンバー内に空気が逆流する事によ
るチャンバー内 CO ₂濃度上昇が室内の濃度分布に大き
く影響するという知見が得られ、各給気口からの給気量
を均一にすることで逆流量を減らすことができ、空気齢
も含めて室内環境の改善に繋がる事がわかった。
今後は気流解析だけでなく放射の影響も考慮した評価
を行うとともに、標準オフィスを対象として一般化した
条件における空気式放射空調の評価を行うことを予定し
ている。
a) Ununiform supply air condition b) Ununiform supply air condition1) Holizontal distribution 1) Holizontal distribution
2) Vertical distribution(A-A) 2) Vertical distribution(A-A)
3) Vertical distribution(B-B) 3) Vertical distribution(B-B)
Fig. 8 Distribution of the local mean age of air
大阪大学大学院 工学研究科 地球総合工学専攻建築環境・設備 Gr