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21. 粉末X線回折データによる 結晶構造解析(定量分析) 担当:名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授 井田 Regional Co-chair of Eastern Pacific Rim & Director at Large, International Centre for Diffraction Data (ICDD) あいちシンクロトロン光センター主幹研究員 Commission on Powder Diffraction, International Union of Crystallography (IUCr) 名古屋工業大学 予定実施日:2020 7 20 日(月) 工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野 セラミック応用学実験 II 1

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  • 21. 粉末X線回折データによる  結晶構造解析(定量分析)担当:名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授 井田 隆 Regional Co-chair of Eastern Pacific Rim& Director at Large, International Centre for Diffraction Data (ICDD)

    あいちシンクロトロン光センター主幹研究員Commission on Powder Diffraction, International Union of Crystallography (IUCr)

    名古屋工業大学 予定実施日:2020 年 7 月 20 日(月)工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野 セラミック応用学実験 II

    1

  • 21. 粉末X線回折データによる  結晶構造解析(定量分析)担当:名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授 井田 隆 Regional Co-chair of Eastern Pacific Rim& Director at Large, International Centre for Diffraction Data (ICDD)

    あいちシンクロトロン光センター主幹研究員Commission on Powder Diffraction, International Union of Crystallography (IUCr)

    名古屋工業大学 予定講義日:2020 年 7 月 20 日(月)工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野 セラミック応用学実験 II

    2

    ICDD データ無機物質:約 45 万件有機物質:約 55 万件(名工大附属図書館で無機  データは参照できます)

  • 21. 粉末X線回折データによる  結晶構造解析(定量分析)担当:名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター 教授 井田 隆 Regional Co-chair of Eastern Pacific Rim& Director at Large, International Centre for Diffraction Data (ICDD)

    あいちシンクロトロン光センター主幹研究員Commission on Powder Diffraction, International Union of Crystallography (IUCr)

    名古屋工業大学 予定講義日:2020 年 7 月 20 日(月)工学部 生命・応用化学科 環境セラミックス分野 セラミック応用学実験 II

    3

  • 内容0.はじめに 1.試料ホルダの製作2.粉末試料の充填3.データの収集4.データの前処理5.同定と定性分析6.リートベルト法による定量相組成分析

    4

  • 0.はじめに  Introduction

    5

  • 粉末X線回折の使われ方ー物質を特定・分析する2018 年 5 月 6 日 NASA 火星探査機「インサイト」打ち上げ

    2011年 11 月 26 日  NASA 火星探査機「キュリオシティ」打ち上げ

    「キュリオシティ」による火星の土壌分析には

     APXS: α 粒子X線分光ユニット

     ChemCam: X線蛍光分析ユニット

     ChemMin: X線回折測定ユニット

    が搭載された。

    ChemMin のデータから,火星の土壌の成分は

    地球上に見られるありふれた鉱物の組み合わせ

    だが,組成からどのように火星上の地形が形成

    されたか知る手がかりになったとされる。

    6

    火星探査機 キュリオシティ

  • 粉末X線回折の歴史

    1895年 Röntgen, X線の発見1912年 Laue, X線回折の発見1912年 Bragg & Bragg, ブラッグの法則1915年 Debye & Scherrer, 粉末回折法1916年 Hull, 粉末回折法 細かい粉末を試料として使うと,「同じ物質なら必ず同じ回折図形が得られる」1936年 Hanawalt & Rinn, 粉末回折による同定/定性分析1941年 粉末回折法による化学分析のための合同委員会    Powder Diffraction FileTM (PDF)1969年 粉末回折標準に関する合同委員会    = Joint Committee on Powder Diffraction Standards (JCPDS)

    1978年 国際回折データセンター    = International Centre for Diffraction Data (ICDD)

    7

    D. Hanawalt

    P. Debye P. Scherrer

    General Electric

    1936(化学賞)

  • 1.試料ホルダの製作  Preparation of Sample Holder

    8

  • 9

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク, MiniFlex 600-C(ミニフレ)冷却水循環装置内蔵

  • 10

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク, MiniFlex 600-C

    X線発生中であれば,ドアロック解除スイッチを押し,電磁シャッターが閉じる音を確認

  • 11

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

  • 12

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    X線発生中であれば,シャッター・クローズ・ランプが点灯していることを確認する。

  • 13

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    Rゴニオ半径

    (カメラ半径)R = 150 mm

    R

    X線源 試料位置 検出器

  • 14

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    Rゴニオ半径

    (カメラ半径)R = 150 mm

    R

    X線源 試料位置 検出器

    この情報は,測定条件の設定,データ処理の際に利用する。

  • 15

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    X線発生装置: Cu 標的ガラス封入菅,キャノン電子管デバイス, A-21-Cu, 焦点サイズ 1 mm × 10 mm,取り出し角 6º,
W フィラメント,40 kV, 15 mA で使用

  • 16

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    X線発生装置: Cu 標的ガラス封入菅,キャノン電子管デバイス, A-21-Cu, 焦点サイズ 1 mm × 10 mm,取り出し角 6º,
W フィラメント,40 kV, 15 mA で使用

    この情報は,測定条件の設定,データ処理の際に利用する場合がある。

  • 17

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    X線検出器:Si ストリップ検出器,リガク,D/teX Ultra-2,
0.1 mm 幅 - ストリップ 128 本(見込み角 )Ψ = 4.89∘

  • 18

    粉末X線回折測定に用いる装置Si ストリップ検出器(PIN フォトダイオードアレイ)

    2SiO layer

    Al electrode

    P+ : denselyp- doped Si

    N : dilutely‒

    N : densely+

    Reversely biased voltage

    AmplifierShaper

    n- doped Si

    n- doped Si

    P-doped Si strips Intrinsic Si layerN-doped Si layer

    Insulator (capacitor) for "AC-coupling"

    "CMOS" センサとも呼ばれるが…

  • 19

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    X線検出器:Si ストリップ検出器,リガク,D/teX Ultra-2,
0.1 mm 幅 - ストリップ 128 本(見込み角 )Ψ = 4.89∘

    この情報は,測定条件の設定,データ処理の際に利用する。

  • 20

    粉末X線回折測定に用いる装置デスクトップ回折装置 リガク , MiniFlex 600-C

    試料保持部:2枚の板バネで試料板( 厚)を基準面に押し当てる。基準面は汚さないように注意する。

    1.5 − 1.7 mm

    16 mm

    基準面基準面

  • 21

    試料ホルダの製作材質:アクリル板, 厚3 mmポリメチルメタクリレート polymethylmethacrylayte (PMMA)

  • 22

    試料ホルダの製作材質:アクリル板, 厚3 mm

    試料の性状や測定条件によって試料ホルダからの散乱が観測される場合がある。典型的な高分子の散乱パターンは知られている。

    ポリメチルメタクリレート polymethylmethacrylayte (PMMA)

  • 23

    試料ホルダの製作マイクロメータで試料保持部深さと容積を確認する。実測深さ:平均 ,誤差 容積:

    0.61 mm 0.01 mm4.00 × 0.061 = 0.244 mL

    マイクロメータ

    この情報は,試料準備・データ処理の際に使用する。

  • 24

    試料ホルダの重量測定試料粉末を充填する前に洗浄・乾燥させ,重量測定をしておく(市販の試料ホルダでも洗浄してから使う方が良い)。
この重量は風袋 tare と呼ばれる。

    ふうたい テ ア

    4.113 27 gこの情報は,試料準備・データ処理の際に使用する。

  • 2.粉末試料の充填  Filling Sample Powder

    25

  • 26

    測定試料チタン酸鉛 (II), (Strem Chemicals,
99.5%)(富士フイルム和光純薬)国内法による主な規制
毒物及び劇物取締法:劇物 包装等級 3
PRTR (環境汚染物質排出移動登録)法:
 特定第1種指定化学物質
水質汚濁防止法:有害物質––––––薬品安全データシート (MSDS) を参照する。ゴーグル・マスク・手袋着用。施錠できる薬品庫で保管する。使用量を記録する。拭き取った紙等は他のゴミとわけて,まとめて保管する。

    PbTiO3

  • 27

    予備調査 ICDD PDF-4+ データベースチタン酸鉛 (II), ,鉱物名 macedonite

    マ セ ド ナ イ ト

    ICDD-PDF#01-085-9718空間群 Space Group: (#99) 正方晶 tetragonal

    計算密度

    式量 Formula Weight:

    PbTiO3

    P4mm

    a = 3.899 Å c = 4.150 Åρcalc = 7.976 g cm−3

    303.05 g mol−1

  • 28

    予備調査 ICDD PDF-4+ データベースチタン酸鉛 (II), ,鉱物名 macedonite

    マ セ ド ナ イ ト

    ICDD-PDF#01-085-9718

    PbTiO3

  • 29

    予備調査 NIST 標準データベースチタン酸鉛 (II), ,Lead Titanium OxideSiegbahn 表記 (カッパー・ケイ・アルファ・ワン,ケイ・アルファ・シ ー グ バ ー ン

    ツー)(国際純正・応用化学連合 IUPAC 推奨表記 ユーパック

    (カッパー・ケイ・エル・スリー,ケイ・エル・ツー))X線(光子エネルギー )に対する質量減衰係数 mass attenuation

    マ ス アテニュエイション

    coefficient (ミュー・オーバー・ロー) を算出する。
コエフィシェント

    米国標準技術局 National Institute of Standard and Technology; NIST から公開される情報 NIST Standard Reference Database 128 “X-Ray Transition Energies Database” ,126 “X-Ray Mass Attenuation Coefficients” Table 3 を参照する。

    PbTiO3Cu Kα1, Kα2

    Cu KL3, KL2

    hν = 8.04 keV(μ/ρ)

  • 30

    予備調査 質量減衰係数の算出チタン酸鉛 (II), ,Lead Titanium OxideNIST Standard Reference Database 126 “X-Ray Mass Attenuation Coefficients” Table 3

    PbTiO3

    Energy (keV)

    (μ/ρ) (cm2/g)

    O Ti Pb

    6 27.70 432.3 467.2

    8 11.63 202.3 228.7

    10 5.952 110.7 130.6

    8.04 11.45 199.5 225.8原子量 (g/mol) 16.00 47.87 207.2

    y = y0 + Ae−hν/τ

    をあてはめて推定

  • 31

    予備調査 質量減衰係数の算出チタン酸鉛 (II), ,Lead Titanium OxidePbTiO3

    Energy (keV)

    (μ/ρ) (cm2/g)

    O Ti Pb8.04 11.45 199.5 225.8

    原子量 (g/mol) 16.00 47.87 207.2

    =225.8 × 207.2 + 199.5 × 47.87 + 11.45 × 16.00 × 3

    207.2 + 47.87 + 16.00 × 3= 187.7 (cm2/g)

    (μ/ρ)PbTiO3 =(μ/ρ)Pb × MPb + (μ/ρ)Ti × MTi + (μ/ρ)O × MO × 3

    MPb + MTi + MO × 3

  • 32

    試料の粉砕準備するもの:瑪瑙乳鉢・乳棒,コピー紙,薬包紙,スパーテル,

    めのう

    ミクロスパーテル,ポリスマン,キムワイプ,エタノール洗瓶

    瑪瑙乳鉢

    瑪瑙乳棒

    スパーテル

    ポリスマンミクロスパーテル

  • 33

    瑪瑙乳鉢

    瑪瑙乳棒

    試料の粉砕瑪瑙乳鉢・乳棒は優しく丁寧に扱う。乳棒を乳鉢に叩きつけてはめのう

    いけない。乳棒は太い側を手前にして置く。乾燥機は使わない。エタノールを染み込ませたキムワイプで拭いてきれいにする。着色した試料が染みのようになってとれないときは白煉瓦を粉砕する

    しろれ ん が

    ときれいになる場合がある。

  • 34

     ポリスマン

    瑪瑙乳棒

    試料の粉砕乳鉢や乳棒にこびりついた粉は,ポリスマンで掻き落とす。

  • 35

    試料粉末の充填(フロントローディング)フロントローディング以外にバックローディング,サイドローディングという方法もある。以下の目標がある。1.面一にしあげること。

    つらいち

    2.表面が平滑になるようにすること。3.結晶方位が特定の方向に向きがちになること
 (選択配向)を避けること。4.均一に,緻密に詰まるようにすること。それぞれ理由があるが,同時に実現することは難しい場合もある。試料粉末の性状や測定の目的・データ解析のスキルによっても優先する項目は変わる。

  • 36

    試料粉末の充填(フロントローディング)粉を少し余分に入れて,ガラス板で擦り切る操作をする。ガラス

    板の縁の面取りは深くない方が良い。
ふち

    一回で擦りきれなかった場合に,ガラス板に付着した粉をポリスマンで掻き落として,擦り切り直す操作を繰り返すと良い場合がある。

    試料粉末

    擦り切る動作す

    ガラス板

    薬包紙

  • 37

    試料粉末の充填(フロントローディング)試料板の表面や側面に付着した粉末はポリスマンできれいに拭き取る。特に装置の基準面と当たる場所は確実にきれいにする。

    装置基準面と当たる部分

  • 38

    試料粉末の充填(フロントローディング)詰め終えたら 90º 以上傾けて脱落しないことを確認する。

    薬包紙

    脱落しないことを確認する

  • 39

    試料の重量測定試料と試料ホルダを合わせた重量を測定する。嵩密度 とバルク線減衰係数 (バルク侵入深さ ),充填率を算出する。粉末秤取値

    ρbulk μbulk μ−1bulk

    4.856 69 g

    4.856 69 − 4.113 27 = 0.743 42 (g)

  • 40

    粉末試料の嵩密度,X線侵入深さ,充填率の算出

    嵩密度: かさ

    バルク侵入深さ:


     

    充填率:

    ρbulk =0.743 42 g0.244 mL

    = 3.05 g cm−3

    μ−1bulk =1

    (μ/ρ)PbTiO3 × ρbulk=

    10187.7 × 3.05

    = 0.017 mm

    f =3.05

    7.976= 0.38

  • 41

    粉末試料の嵩密度,X線侵入深さ,充填率の算出

    嵩密度:

    バルク侵入深さ:


     

    充填率:

    ρbulk =0.743 42 g0.244 mL

    = 3.05 g cm−3

    μ−1bulk =1

    (μ/ρ)PbTiO3 × ρbulk=

    10187.7 × 3.05

    = 0.017 mm

    f =3.05

    7.976= 0.38 試料厚さ と比

    べて十分に浅い。試料の表面付近しか観測にかからない。

    0.61 mm

    手作業のフロントローディングでは 程度がふつう。0.2 ∼ 0.4

  • 42

    期待される統計精度の推定有効照射面積:

    有効侵入深さ:

    有効照射体積( , , ):
   ランダム配向回折確率( , ):

     

    代表径 なら,

     有効回折粒子数

     相対統計誤差 程度を期待できる。

    Aeff = RWΦDS csc θμ−1eff = μ

    −1bulk sin θ

    R = 150 mm W = 10 mm ΦDS = 1.25∘

    Veff = RWΦDSμ−1bulk ≈ 0.56 mm3

    ΦSS = 1.25∘ Ψ = 4.89∘

    P =ΦSSΨ

    4π≈ 1.5 × 10−4

    D = 0.01 mm

    Neff =6VeffPπD3

    ≈ 160

    (160)−1/2 ≈ 0.08

  • 3.データの収集  Data Collection

    43

  • 44

    測定装置の状態の確認・エージングの実施使用記録を確認する。冷却水量をチェックする。必要なら補充する(X線回折装置のトラブルでは,冷却水系が 原因である頻度が高い)。未使用期間の長さに応じて適切なエージング
プログラム(低い放電電流で段階的に加速電圧
をあげるプログラム)を実施する。ガラス封入
管内の真空度は放置すると悪化するが,放電を
すればタングステンフィラメントが電離した
残留ガスによるスパッタリングをうけて,器壁に蒸着するとき
に残留ガスを固定すること(ゲッター効果)によって真空度が回復すると言われる。

  • 45

    測定装置の慣らし運転目的の加速電圧,放電電流( )に達したら,1時間程度待つ。あるいは本測定の前の予備測定などをする。熱的な定常状態(熱の発生・流入と流出,温度分布の時間変化が十分に遅くなっている状態;熱平衡状態ではない)に近づけるため。X線源だけでなく,機械を駆動するためのモーターも熱の発生源になる。金属部材の熱膨張による光学素子の相対的な位置の変化は誤差の原因になる。

    40 keV, 15 mA

  • 46

    測定条件の設定発散スリットの設定最低角度の反射の出現位置に応じて変更するのがふつう。試料幅 ,ゴニオ半径 ,発散スリット divergence slit の開き角 のとき,入射ビーム照射範囲が試料幅からはみ出さない最低の角度 は,


     

    ICDD-PDF#01-085-9718 によれば の最低角反射は

    であり,この条件で適当と判断した。

    WS = 20 mm R = 150 mmΦDS = 1.25∘

    2Θc

    2Θc ≈ 2 arcsinRΦDS

    WS≈ 18.8∘

    PbTiO32θ001 = 21.39∘

    低角でのビームのはみ出し

    発散スリット

  • 47

    測定条件の設定測定角度ステップの設定装置の基本角度分解能は,有効X線焦点サイズ幅 ,検出ストリップ間隔 ,ゴニオ半径 から,


     

    と概算され,ナイキスト・シャノン Nyquist-Shanon の標本化定理から,サンプリングの間隔を 以下にすれば情報の欠落を避けられると考える。キリの良い数字として例えば を選ぶ。

    0.1 mm0.1 mm 150 mm

    0.1 mm × 180∘

    150 mm × π≈ 0.038∘

    0.019∘

    0.01∘

  • 48

    測定条件の設定走査角度範囲は 走査速度は とした。

    ステップあたりの計数時間は , の合算では 相当(普通の目的であれば 程度でも良い)。

    測定の結果

    2Θ : 5∘ ∼ 140∘

    1∘/min0.01∘ 0.6 s/step 128 strip

    76.8 s/step 10∘/min

    160000

    120000

    80000

    40000

    0Inte

    nsity

    (cou

    nts)

    1401301201101009080706050403020102Θ (º)

    Observed

  • 49

    測定結果,ICDD PDF との比較160000

    120000

    80000

    40000

    0Inte

    nsity

    (cou

    nts)

    1401301201101009080706050403020102Θ (º)

    Observed

    1000800600400200

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    PbTiO3, PDF#01-005-9718

    に帰属されないピークが観測されている。PbTiO3

  • 4.データの前処理  Preprocessing of Data

    50

  • 51

    測定装置の分光プロファイルと装置収差の処理測定に使用した装置は, 輻射を 厚さの 箔に通過させて使用するものなので,X線輻射の分光プロファイルと

    箔のX線吸収分光プロファイルの影響を受け,測定結果には 線だけでなく 線,弱い 線, 吸収端

    の構造が現れる。また,装置収差(軸発散収差・赤道発散収差・試料透過性収差)のためにピーク位置はシフトし,ピーク形状は変形する。X線輻射・吸収分光プロファイルの精密測定の結果は知られており,装置収差の数学的な表現も明らかになっているので,これらの影響を逆畳み込み処理 deconvolutional treatment によって取り除く処理を行う。

    Cu K 0.023 mm Ni

    NiCu Kα1 Cu Kα2 Cu Kβ Ni K

  • 52

    畳み込み定理

          

    を利用する。関数 が本来の回折図形, が装置によるシフト・ぼやけ・変形を表す関数(装置関数),実測の回折図形が

    のとき

      

    と とから「本来の回折図形」 が求められる。

    h(x) = ∫ ∞−∞

    f(x − y) g(y) dy

    H(k) = ∫ ∞−∞

    h(x) e2πikx dx

    F(k) = ∫ ∞−∞

    f(x) e2πikx dx

    G(k) = ∫ ∞−∞

    g(x) e2πikx dx

    ⇒ H(k) = F(k)G(k)

    f(x) g(x)

    h(x)

    f(x) = ∫∞

    −∞

    ∫ ∞−∞

    h(x)e2πikx dx

    ∫ ∞−∞

    g(x)e2πikx dxe−2πikx dk

    h(x) g(x) f(x)

  • 53

    測定装置の分光プロファイルと装置収差の処理逆畳み込み処理 deconvolutional treatment(標準試料)

    250002000015000100005000

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    400

    300

    200

    100

    0

    LaB6 (NIST SRM 660c), Observed

    250002000015000100005000

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    4003002001000

    LaB6 (NIST SRM 660c), Deconvolutionally treated

  • 54

    測定装置の分光プロファイルと装置収差の処理逆畳み込み処理 deconvolutional treatment(標準試料)

    250002000015000100005000

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    400

    300

    200

    100

    0

    LaB6 (NIST SRM 660c), Observed

    25000200001500010000

    50000

    1401301201101009080706050403020102Θ (º)

    4003002001000

    LaB6 (NIST SRM 660c), Deconvolutionally treated

  • 55

    測定装置の分光プロファイルと装置収差の処理逆畳み込み処理 deconvolutional treatment

    1600001200008000040000

    0Inte

    nsity

    (cou

    nts)

    1401301201101009080706050403020102Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3(?), Observed

    1600001200008000040000

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

  • 5.同定と定性分析  Identification 
  & Qualitative Analysis

    56

  • 57

    主成分ピークの特定と不純物ピークの検出, PDF#01-085-9718 との比較PbTiO3

    2θ = 15.03∘ 30.31∘ 63.04∘

    d = 5.890 Å 2.946 Å 1.473 Å

    1600001200008000040000

    0140130120110100908070605040302010

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

    に帰属されないピークが 20 本程度残ることが確認できる。 のピークが目立つが,

    にも目立つピークがある。

    PbTiO32θ = 30.31∘ 2θ = 15.03∘

    (d = 5.89 Å)

  • 58

    不純物ピークの特定(1)「最長の 値が , , は含むかもしれず,を含む」条件で検索 , massicot(金密陀) ,

    マ シ コ ー ト きんみ つ だ

    PDF#00-005-0570 が上位ヒット

    d 5.89 ± 0.01 Å Pb Ti O⇒ PbO (Pbcm)

  • 59

    不純物ピークの特定(1), massicot(金密陀) , PDF#00-005-0570 のピーク位マ シ コ ー ト きんみ つ だ

    置を確認する。 の範囲の 18 本の未帰属ピークのうち 13 本が帰属された。

    PbO (Pbcm)2θ ∈ [10∘, 90∘]

    1600001200008000040000

    09085807570656055504540353025201510

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

    に弱いピークが残る。2θ = 17.70∘, 25.28∘, 35.73∘, 47.97∘, 53.91∘

    d = 5.02, 3.52, 2.51, 1.89, 1.70 Å

  • 60

    不純物ピークの特定(2)「最長の 値が , , は含むかもしれない,を含む」条件で検索 , litharge(密陀僧) ,

    リ サ ー ジュ み つ だそう

    PDF#00-005-0561 が上位ヒット

    d 5.02 ± 0.01 Å Pb Ti O⇒ PbO (P4/nmm)

  • 61

    不純物ピークの特定(2), litharge(密陀僧) , PDF#00-005-0561 のピークリサー ジュ み つ だそう

    位置を確認する。 の範囲の 5 本の未帰属ピークのうち 2 本が帰属された。

    PbO (P4/nmm)2θ ∈ [10∘, 90∘]

    1600001200008000040000

    09085807570656055504540353025201510

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

    に弱いピークが残る。2θ = 25.28∘, 47.97∘, 53.91∘

    d = 3.52, 1.89, 1.70 Å

  • 62

    不純物ピークの特定(3)「最長の 値が , , は含むかもしれない,を含む」条件で検索 , brookite(板チタン石) ,

    ブルッカイト いた せき

    PDF#00-015-0875 が上位ヒット

    d 3.52 ± 0.01 Å Pb Ti O⇒ TiO2 (Pbca)

  • 63

    不純物ピークの特定(3) , brookite(板チタン石) , PDF#00-015-0875 のピーブルッカイト いた せき

    ク位置を確認する。 の範囲の 3 本の未帰属ピークのうち 2 本が帰属された。

    TiO2 (Pbca)2θ ∈ [10∘, 90∘]

    , に弱いピークが残る。2θ = 53.91∘ d = 1.70 Å

    1600001200008000040000

    09085807570656055504540353025201510

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

  • 64

    不純物ピークの特定(4)「第3最強ピークまでに 値が のピークを持ち,

    , は含むかもしれず, を含む」条件で検索 , tistarite(チスター石) , PDF#04-004-2832 と, , ティスタライト せき

    rutile(金紅石) , PDF#01-072-7374 とが上位ヒットル チ ル きんこうせき

    d 1.70 ± 0.01 ÅPb Ti O ⇒ Ti2O3

    (R3c) TiO2(R3c)

  • 65

    不純物ピークの特定(4) , tistarite , PDF#04-004-2832 の第2・3最強ピークが観測ティスタライト

    されず, , rutile , PDF#01-072-7374 の最強ピークが観ル チ ル

    測されていない。いずれも不純物として含まれることが特定されたとは言えない。(含まれていないとも断言できない)

    Ti2O3TiO2 (R3c)

    , のピークは未確定。2θ = 53.91∘ d = 1.70 Å

    1600001200008000040000

    09085807570656055504540353025201510

    2Θ (º)

    4000

    3000

    2000

    1000

    0

    PbTiO3 (?), DCT

  • 66

    同定と定性分析のまとめ以下の相が含まれると考えられる。主相 , lead titanium oxide, , PDF#01-085-9718

    レッド タイテイニアム オキサイド

    副相1 , massicot(金密陀) , PDF#00-005-0570マ シ コ ー ト きんみ つ だ

    副相2 , litharge(密陀僧) , PDF#00-005-0561リ サ ー ジュ み つ だそう

    副相3 , brookite(板チタン石) , PDF#00-015-0875ブルッカイト いた せき

    他に , tistarite(チスター石) , 
ティスタライト せき

    PDF#04-004-2832 または, , rutileル チ ル

    (金紅石) , PDF#01-072-7374きんこうせき

    が微量に含まれている可能性がある。

    PbTiO3 (P4mm)PbO (Pbcm)PbO (P4/nmm)TiO2 (Pbca)

    Ti2O3 (R3c)TiO2

    (R3c)

  • 6.リートベルト法による
  定量相組成分析  Quantitative Phase Analysis 
  by Rietveld Method

    67

  • 68

    リートベルト法 Rietveld method による定量相組成分析 Quantitative Phase Analysis泉富士夫・名古屋工業大学客員教授の制作した Rietan- FP を利用

    リ ー タ ン エフピー

    した QPA を試みる。以下の4相が含まれるとし,副相の構造には PDF データを仮定する。

    主相 , lead titanium oxide, , PDF#01-085-9718レッド タイテイニアム オキサイド

    副相1 , massicot(金密陀) , PDF#00-005-0570マ シ コ ー ト きんみ つ だ

    副相2 , litharge(密陀僧) , PDF#00-005-0561リ サ ー ジュ み つ だそう

    副相3 , brookite(板チタン石) , PDF#00-015-0875ブルッカイト いた せき

    PbTiO3 (P4mm)PbO (Pbcm)PbO (P4/nmm)TiO2 (Pbca)

  • 69

    リートベルト法による定量相組成分析 QPARietan- FP を利用した QPAを試みる。リ ー タ ン エフピー

  • 70

    リートベルト法による定量相組成分析 QPARietan- FP の出力ファイル *.lst を末尾から遡れば,各相のリ ー タ ン エフピー さかのぼ

    尺度因子 scale factor が以下のような値に最適化(?)されていることがわかる。第4相:第3相:

    第2相:

    第1相:

    −3.0(8) × 10−6

    1.5(7) × 10−7

    2.38(9) × 10−6

    1.422(5) × 10−3

  • 71

    リートベルト法による定量相組成分析 QPA目立つ不純物ピークの現れる角度領域のデータを解析対象から除外する設定をして主相の単相リートベルト解析をする。

    100000

    50000

    0

    Inte

    nsity

    1401301201101009080706050403020102Θ (º)

    Rp = 8.0 % , RB = 3.0 %

    主相の尺度因子:s1 = 1.422(4) × 10−3

  • 72

    リートベルト法による定量相組成分析 QPA第2相 massicotピークの現れる角度領域以外を解析対象から除外する設定をして第2相の尺度因子を調整するフィッティングをしてみる。

    Rp = 13.9 %

    第2相の尺度因子:s2 = 8.4(2) × 10−5

    0

    40000

    Inte

    nsity

    30292827262524232221201918171615142Θ (º)

  • 73

    リートベルト法による定量相組成分析 QPA第 相の質量分率は,尺度因子 ,化学単位数 ,式量 ,単位胞体積 とから,

      

    i si Zi MiVi

    wi =siZiMiVi

    ∑i siZiMiVi

    → 第2相の質量分率:  (???)w2 = 0.29

    第1相 第2相尺度因子化学単位式量単位胞体積

    si

    Zi

    MiVi

    1.422 × 10−3 8.2 × 10−5

    1 4

    303.05

    63.09

    223.20

    153.76

  • レポート課題今回の解析では 試薬に massicot 型 が 29% 含まれるという結果となった。この定量値が本来の値から大きくずれているらしいことは,実測のデータと ICDD PDF データとの対応を詳しく比較しても確認できる。このように massicot の定量値が過大に評価されたことについて考えられる原因をあげ,さらにどのような粉末回折測定実験・データ解析をすれば,このような矛盾を解消しうると考えられるかについて述べる。

    PbTiO3 (99.5%) PbO