14
X線粉末回折法─応用地質学的意義と解析の実際 1.はじめに 2.X線粉回折の応用地質学的意義 3.X線粉回折の原理 4.定と解析 1.はじめに X線の長はおそ 0.5 であ。こに対して可視光線の長は 6000 程度であ。 X線はしたがって、電磁の中で線と紫外線の間の長もってい。 には別の単位として、X単位(Xunit=XU)、おびX単位(kX=1000XU)が使 kX 単位は、ずかに大きい。X線の範囲の長の (SI)単位としては、(nm)が使。 1 nm=10 -9 m=10 この X 線利用して行う鉱物の決定の1つとしてX線粉回折(粉X線回折 とも言う)があ。ここでは、X線粉回折で何がかのかということや、その意義 に触、また解析の方についての簡単な説明行う。図 1 にX線回折装置の例示す2.X線粉回折の応用地質学的意義 2-1 X線粉回折と偏光顕微鏡観察 X線粉回折にって岩石その他の試料中に含ま主な鉱物組み合せとその定 性的な量比推定すことができ。場合にっては、標準試料用いて検量線引き、 あ程度の定量行うこともでき。 岩石中に含まれる鉱物を決定する一般的な方には、このX線粉回折のほかに、薄片 作製し、偏光顕微鏡観察行う方があ。この2つの方は、目的に応じて、どち か選択すば良いのであが、そぞ長所と短所があ(表2-1)。目的に っては片方だけでは不十分で両方行って総合しなけばなない場合もあ。 図1 X線回折装置 (島製作所製 XRD-6000 型)

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X線粉末回折法─応用地質学的意義と解析の実際

1.はじめに

2.X線粉末回折法の応用地質学的意義

3.X線粉末回折法の原理

4.測定と解析

1.はじめに

X線の波長はおよそ0.5 である。これに対して可視光線の波長は6000 程度である。

X線はしたがって、電磁波スペクトルの中でガンマ線と紫外線の間の波長をもっている。

時には別の単位として、X単位(Xunit=XU)、およびキロX単位(kX=1000XU)が使わ

れる。 kX 単位は、オングストロームよりわずかに大きい。X線の範囲の波長の

(SI)単位としては、ナノメートル(nm)が使われる。

1 nm=10-9m=10

この X 線を利用して行う鉱物の決定法の1つとしてX線粉末回折法(粉末X線回折法

とも言う)がある。ここでは、X線粉末回折で何がわかるのかということや、その意義

に触れ、また解析の方法についての簡単な説明を行う。図 1にX線回折装置の例を示す。

2.X線粉末回折法の応用地質学的意義

2-1 X線粉末回折と偏光顕微鏡観察

X線粉末回折によって岩石その他の試料中に含まれる主な鉱物組み合わせとその定

性的な量比を推定することができる。場合によっては、標準試料を用いて検量線を引き、

ある程度の定量を行うこともできる。

岩石中に含まれる鉱物を決定する一般的な方法には、このX線粉末回折法のほかに、薄片

を作製し、偏光顕微鏡観察を行う方法がある。この2つの方法は、目的に応じて、どち

らかを選択すれば良いのであるが、それぞれ長所と短所がある(表2-1)。目的によ

っては片方だけでは不十分で両方を行って総合しなければならない場合もある。

図1 X線回折装置

(島津製作所製 XRD-6000 型)

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表2-1 偏光顕微鏡観察とX線粉末回折の長所と短所

(勝島ほか,1997)

長 所 短 所

偏光顕微鏡観察(1)

岩石組織と造岩鉱物の判定により

岩石名を決定できる.初生鉱物と変

質鉱物の区別や生成順序を検討で

きる.含有量が微量でも個々の結晶

が大きければ鑑定できる.

極めて微細な鉱物や不透明鉱物

(2)は鑑定できない.粘土鉱物・

沸石・その他特殊な鉱物の一部

は,正確な鑑定が困難なことが多

い.

X線粉末回折法(1)

極めて微細な鉱物や不透明鉱物で

も決定可能.粘土鉱物や沸石族鉱

物を詳しく判定できる.

含有量が数%以下であると検出

困難.鉱物の生成順序は決定で

きない(3).

(1):両方法とも岩石の化学組成ではなく含まれている鉱物の種類が決まる.

(2):不透明鉱物(例えば,磁鉄鉱・チタン鉄鉱・黄鉄鉱など)は薄片でも光を通さないので,普通の

偏光顕微鏡観察では鉱物種を決定できなのい.不透明鉱物の鑑定は研磨片(または研磨薄片)

を作製して反射顕微鏡で観察する.

(3):例えば初生的に含まれてた石英と2次的に生成した石英を区別することはできない(鏡下観察

では可能なことが多い).

X線粉末回折によって、試料に含まれる鉱物を決定することにはどのような意義があ

るであろうか?以下にいくつかの事例と留意点を列挙する。

2-2 不明鉱物の決定

そもそも詳細不明な鉱物やそれを含む岩石が不明な場合、それらを決定したり、岩石

を決める根拠の一つとする。例えば肉眼的に間違えるケースもある緑色岩と蛇紋岩の場

合、前者であれば緑泥石や斜長石が、後者であれば蛇紋石が主として検出される。

2-3 切り土・掘削等の土木工事に直接影響する膨潤性粘土鉱物の判定

膨潤性粘土鉱物、すなわち主としてスメクタイト(モンモリロナイトやサーポナイト

などモンモリロナイト鉱物の総称)の存在を調べる。具体的にはダム・路線に関係する

断層・地すべり・風化帯などにスメクタイトが存在するかどうかやその量比についての

検討で、地質コンサルタント業界においてもっとも多いケースである。膨潤性粘土鉱物

にはこの他、一部の混合層粘土鉱物や膨潤性緑泥石がある。なお、蛇紋石鉱物はしばし

ば膨潤性との誤解を受けるが、蛇紋石そのものは膨潤性鉱物ではない(ただし、風化作

用によってパイロオーライトなどの体積の大きい鉱物に変化すると膨張する。また、変

形・流動し易いなどの別の問題がある)。

2-4 コンクリートに有害な鉱物の判定

(1)アルカリ骨材反応を起す鉱物

アルカリ骨材反応とは、骨材中に含まれる①シリカ鉱物,②珪酸塩鉱物,または③ド

ロマイト質石灰岩と、セメント系のアルカリ分との反応を言う。この反応の結果、コン

クリートに膨張・亀裂発生・ポップアウトのなどの弊害をもたらす。

アルカリ骨材反応はしたがって、①アルカリ-シリカ反応,②アルカリ-珪酸塩反応,

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③アルカリ-炭酸塩反応などに区別される。

これらの鉱物以外がコンクリート中で有害な役割を果たすことがあるが、アルカリが

関与しないのでこれはアルカリ骨材反応とは呼ばない。

1)アルカリ-シリカ反応を起こす鉱物

・ガラス・シリカ鉱物(微少石英,クリストバル石,トリディマイト,カルセドニー,

オパール)

2)アルカリ-珪酸塩反応を起こす鉱物

・微細黒雲母・絹雲母

3)アルカリ-炭酸塩反応を起こす鉱物

・ドロマイト

4)その他

・アルカリ沸石(輝沸石,ソーダ沸石)

(2)アルカリ骨材反応以外の反応を起こす鉱物

・濁沸石(ローモンタイト)

・スメクタイト:これが多い泥岩骨材は凍結融解などによりひび割れてポップアウト

する。

・硫化鉄(黄鉄鉱・白鉄鉱他)

・蛇紋石やブルース石の変質鉱物(パイロオーライト,コーリンガイト)の生成によ

る体積膨張でポップアウトする。

・硫酸塩鉱物(石膏・硬石膏・明ばん石・ジャロサイト)

・酸化物(ペリクレス=MgO,ウスタイト=FeO,ライム=CaO)

(3)コンクリート骨材中の有害鉱物許容量の目安

コンクリートの骨材に含まれると有害な鉱物の量の目安を表2-2に示す。

表2-2 コンクリート骨材中の有害鉱物の許容量の目安

鉱物名 存在状態 許容量の目安

堆積岩中 存在が確認されたなら使わない方が良い. 1)構成鉱物

を交代 その他の岩石中 ローモンタイト

2)細脈 1~2%以下

堆積岩中 存在が確認されたなら使わない方が良い. モンモリロナイト その他の岩石中 20~30%以下

シリカ鉱物,ガラス 種々の岩石中 20~30%以下

MgO スラグ類,人工軽量骨材等 CaO を伴うことが多いが,MgO だけで考え

れば 5~6%以下.

〔セメント協会,1984〕

2-5 地すべりや崩壊に関連する変質鉱物の検討

地すべりや崩壊の成因解明のための一手段として用いる。例えば、一般の地すべりは

すべり面にスメクタイトが発達していることが多い。急傾斜地をつくることもあるハイ

アロクラスタイトは、生成時に急冷クラックに沿って初生的なスメクタイト(樹枝状ス

メクタイト)を生成することがある。蛇紋岩地すべりには滑石の他にも、滑動面をつく

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り易いブルース石が卓越することが多い。また、この他さまざまの熱水変質作用や風化

作用があり、これらが重複することもあって、さまざまの変質鉱物が生成する。

2-6 岩石の風化作用・岩石の劣化と変質鉱物の消長

例えば風化作用に伴って、黄鉄鉱や方解石が消失し、また、斜長石・輝石・ガラスや

緑泥石はスメクタイト化する。ハロイサイトが生成することもある。また、しばしば硫

酸塩鉱物である石膏やジャロサイトが析出する。

2-7 重金属の濃集と変質分帯

重金属を濃集する熱水鉱床は、火山体の中のマグマ性熱水や天水と中和したマグマ性

熱水の分布と関係している。そのため重金属の分布はアルカリ性帯,中性帯,酸性帯の

区別と各帯の中での温度構造によって生成する種々の鉱物の組合せとの関連をもってい

る。そのため各種変質鉱物を決定できるX線粉末回折は①土木工事に伴う有害排土処理

の見積りや、②浅熱水性金鉱床等の鉱床調査に必要である。

2-8 地熱・温泉

地熱地域の温度構造をみるために、熱水変質帯の変質分帯を行う。また、温泉沈澱物

の種類を決定する。

2-9 泥質物質の供給源

河川や海に供給された泥の鉱物組合せや粘土鉱物の量比を決め、上流に分布する地質

のそれらと比較する。これに基づいて問題とする泥の供給源を推定する。

2-10 その他

・遺跡調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・土器のベンガラが赤鉄鉱か辰砂か?.土器の焼

成条件の推定.石器や玉の起源.

・鋼鉄製構造物の劣化・・・・・・・・・・・・酸化鉄鉱物のタイプの決定

・発破後の周囲の岩石の変成・・・・・・アラレ石,方解石Ⅱ

・ダムの漏水観測・・・・・・・・・・・・・・・・沈殿物や水試料を蒸発・乾固させて分析する.

・緑泥石の化学的特性判定・・・・・・・・緑泥石の Fe/Mg 比は地すべり土塊の C-φ決定

の参考になる.

・イライトの結晶度の判定・・・・・・・・泥質岩のイライト結晶度と岩盤性状とは関連が

ある.

・トンネル内湧水に伴う沈殿物・・・・水酸化鉄、アロフェンなど.

・ロームか大陸起源のレスか?・・・・花崗岩由来の風化鉱物等.カオリナイト,ハロイ

サイト他.

・アスベストの判定・・・・・・・・・・・・・・アスベストとなり得る蛇紋石系のクリソタイル

や角閃石系の鉱物であるか?

・CO2 の鉱物固定,地中貯留に関わる生成鉱物の判定・・・・方解石,あられ石,マグネ

サイト,ダイピンジャイト,ハイドロドロマグネ

サイト.

・「珪岩」や「石英砂」の純度・・・・石英の他にしばしば、斜長石,カリ長石,雲母など

が含まれる.

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3.X線粉末回折の原理

(1)Bragg の反射条件式

結晶質物質に波長λの特性X線が、間隔 dで並んでいる原子面と角度θをなして入射

することを考える。そのとき、ある1枚の原子面について、反射角が入射角に等しけれ

ば、各散乱波の位相はそろっており、波は干渉し互いに強め合う(鏡面反射)。これは

以下のような条件(Bragg の反射条件式)のとき位相がそろって反射波は互いに強め合

う。すなわち、光路差 2d SinθがX線の波長の整数倍の時である(図3-1)。

2d Sinθ=nλ

d:格子面間隔 θ:ブラッグ角

n:反射の次数(整数) λ:波長

図3-1 ブラッグの条件

(2)X線粉末回折法

X線の回折現象を用いて研究する方法には様々な方法があるが、試料の状態で区別す

れば、単結晶を用いる方法と粉末(あるいは多結晶)を用いる方法に分けられる。また、

記録法で分ければ、写真法と計数管法がある。

我々が、ここで用いるのは粉末試料を用いて計数管法で記録するという方法である。

機械はディフラクトメーター(図3-2)と呼ばれる装置を用いる。それで XRD(X-ray

diffractmeter)法と呼ばれる。

特性X線(単色X線,固有X線とも呼ぶ:図3-3)を一定方向から入射する場合で

も、試料に粉末結晶を用いれば、小結晶は色々な方位をもつので、回折条件を満たすも

のが必ず含まれている。特性X線の入射角を少しずつ変えて回転していくが取り出し角

は常に 2θである(X線の入射-取出し部が試料面に対して回転するか、逆に試料台の

方を回転させる)。すなわち、スリットを通ってくる以外の角度のブラッグ条件を満た

す反射波は無数にあるものの、装置は信号としては受け取らない。このようにしてX線

粉末回折チャートが得られる(図3-4)。その回折パターン(図3-5)を既知の鉱

物の回折パターンと照合することによって鉱物種を判定する。

入射

反射

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図3-2 X線ディフラクトメーター

(Cullity,1977)

図3-3 X線回折計で最もよく利用される特性X線(固有X線)は CuKα線で 1.5418

である.CuKα線を詳しく調べると Kα1 線(1.5405 )と Kα2 線(1.5443 )の二重

線からなる.これはデータ処理プログラムで除去することができる.Kα線に伴って

必ず発生する Kβ線(1.392 )の強度は Kα線の強度の 20%程度で Ni 箔のフィル

ターで除去できる.

(加藤,1990 による)

連続X線

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図3-4 Bragg 角を通って回転する結晶による回折

(Cullity,1977)

図3-5 NaCl 粉末の自動記録回折図形

ニッケルフィルターを通した銅X線.2θの全域の約半分が示されている.

縦軸の数値は単にチャートのものさしを示しているが.必要なら毎秒あた

りのカウント数(cps)に換算できる.

(Cullity,1977)

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4.測定と解析

4-1 X線粉末回折の流れ

採取した試料から、以下の要領で定方位試料と不定方位試料を作製し、X線粉末回折

を行う。図4-1に流れ図を示す。

X線の回折チャートの判読に上達するには岩石や鉱物の肉眼鑑定・偏光顕微鏡観察や

微化石の鑑定と同様に、数多くの事例をこなして、基本的なパターンの認識ができるよ

うになる必要がある。

回折線の検索ソフトもあるが、複数の鉱物が混在している場合、役に立たないことが

多いし、通常あり得ない鉱物が候補に上がってしまうことも少なくない。X線粉末回折

に供する前に、地質をよく考え、出現しそうな鉱物を頭に入れておく。例えば泥岩の分

布する地帯であれば、石英・斜長石等の他に緑泥石,雲母類やスメクタイトなどの粘土

鉱物や、黄鉄鉱などの硫化鉱物の存在を疑う必要がある。このようにして、まず、確か

な鉱物の回折線を除いていき、最後に残った不明な回折線を粘土鉱物等であれば必要な

処理を行うことも含めて、充分に時間をかけて検討する。

4-2 不定方位試料作成と不定方位測定

試料を風乾後、鉄乳鉢内でたたいて粗砕する。さらにめのう乳鉢で指先でざらつきを

感じない程度まで擦りつぶす。粉末化した試料をアルミニウム製試料ホルダーに圧入し

測定に供する。

この測定では岩石に含まれる鉱物全体を大局的に判定できる。そのため、なるべく広

範囲に走査する(例えば回折角 2θ=2.0゜~65゜)。これで粘土鉱物等が含まれていそう

であれば、定方位測定へ進む必要がある。

4-3 定方位測定

(1)定方位試料作成と定方位無処理測定

不定方位粉末試料から、水ひ法により粘土分を採取し、定方位プレパラートの作製を

行い測定に供する。この試料からは石英・長石・輝石など重い鉱物は取り除かれている。

また粘土鉱物のある結晶面がそろうこともあって、粘土鉱物等扁平な鉱物の一部の回折

線は強調される。それで、以後の処理の方法やその必要性も判断し易くなる。

水ひ法は、粘土鉱物粒子の大きさの相違による水中沈降速度の差を利用して粒径によ

り分別する沈降法である。試料の一定量をビーカーに取り蒸留水で分散させる(必要に

応じて分散剤を使用することもある)。その分散液を試験管に取り、約8時間放置後上

澄み液を 10 ㎝(径 2μm 以下の粘土分が懸濁している)の深さまで回収する。遠心分離

機により粘土分を濃集し、スライドグラス上に定方位に沈着させ、温室で風乾させる。

これをX線粉末回折に供する。

(2)エチレングリコール処理と測定

定方位測定試料にエチレングリコール(EG と略す)を数滴たらし、その後エチレン

グリコールの水蒸気(60℃)に 30分放置した後、測定に供する。

この処理で、スメクタイト(モンモリロナイト鉱物)は層格子の厚さが約 2 増大す

る。これは珪酸塩層間の水がエチレングリコールと置換するためである。この性質はス

メクタイトの持つ特性であって、スメクタイトの 15~15.5 の回折線と緑泥石の 14~

14.5 の回折線を区別するのに利用される。

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図4-1 X線粉末回折の流れ

X線回折

風乾

定方位試料    X線回折

適量の蒸留水を加え分酸.スポイドで取り,スライドグラスに沈着.

遠心分離機で粒子を沈下

水面から約10㎝までの上ずみ液を採取(2μ以下の粒子の入った液体)

8時間

60メッシュ(0.25㎜)

一定量を試験管中に取り,蒸留水を加えて撹拌.

メノウ乳鉢ですりつぶす 不定方位試料

水  ひ

試  料

鉄乳鉢で粉砕

1~2日 風乾

50~100g

   その他   (熱処理など)

    定方位プレパラートにエチレン    グリコールを数滴落す.    半乾きの状態

HCl処理試料    X線回折

  6規定の塩酸間溶液中に粉末試料  を入れ約1時間煮沸しした後,よく  洗浄し,スライドグラスに塗布.

EG処理試料    X線回折

6規定の塩酸溶液中に粉末試料 を入れ約1時間煮沸した後,よく 洗浄し,スライドグラスに塗布.

適量の蒸留水を加え分散. スポイトで取り,スライドグラスに沈着.

めのう乳鉢ですりつぶす

不定方位試料

X 線回折

水面から約 10 ㎝までの上ずみ液を採取 (2μm 以下の粒子の入った液体)

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(3)塩酸処理と測定

粉末試料を1:1塩酸で1時間煮沸した後、水ひにより粘土分を採取する。これをよ

く水洗いし、定方位試料を作製して測定する。

カオリン鉱物(カオリナイト,ハロイサイトなど)と緑泥石の区別が困難な場合があ

る。このような時に塩酸処理を行い、それぞれの存在の有無を検討する。一般に Al 質の

ものは Fe 質なものに比較して、塩酸処理で結晶構造が壊れにくい。従って、カオリン

鉱物や絹雲母などは普通の緑泥石などよりも、この処理で結晶構造が壊れにくい。スメ

クタイトでも Fe,Mg 質のものは、この処理で簡単に溶解するが、結晶度のよい Al 質の

ものは、この処理に対して強い抵抗を示す。

(4)その他

他に熱処理等が必要な場合があるが、ここでは省略する。

4-4 鉱物組合せと相対含有量の判定

回折X線の強度は、結晶相物質(鉱物)の含有量・鉱物種(化学組成,結晶構造)・

結晶度・粉末粒子の形状・大きさ・方位・測定条件・混合物全体のX線吸収係数などの

複合的な要因に支配される。これらの主要な要素のみについてみても鉱物の種類によっ

て異なり、また同族の鉱物であっても異変があり、同じ結晶面の回折強度が一定の強度

を示すとは限らない。従ってX線回折より得られる結果は、あくまでも定性的なもので

あり、量的な評価はある程度相対的なものである。

鉱物の相対含有量の一覧表は、①各鉱物の最大回折線の強度の相対比較で行ったり、

②石英等指標鉱物の回折線強度を基準にして作成される。また、③粘土鉱物のみでの相

対量比は小林・生沼(1962)の方法などで表示することができる(表4-1)。

4-5 測定条件の記載と回折チャート

回折チャートには、それぞれ必ず以下のように測定条件を記載する。

(例)分析は、島津製作所 XRD6000 型X線回折装置を使用し、測定条件は以下の通り

である。

不定方位 定方位

対陰極(ターゲット) Cu Cu

フィルター Counter monocrometer Counter monocrometer

管電圧 30kV 30kV

管電流 20mA 20mA

スリット系 1゜-0.3 ㎜-1゜ 1゜-0.3 ㎜-1゜

走査速度 2゜/min 2゜/min

フルスケール係数 2000counts 2000counts

走査範囲 2~65゜ 2~20゜

次頁上には不定方位分析の回折チャートを、下には水ひを行って、粘土鉱物主体とな

った試料の定方位分析を行った回折チャート(上から無処理,エチレングリコール処理,

HCl 処理)を示す。スメクタイト(Sm)と緑泥石(Chl)の回折線に注意して欲しい。結果

は表4-1のように表示する。

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Qz

Qz

QzQz

QzQz

Qz

Qz

QzQz

Pl

PlPlPl

Pl

Pl

Pl Pl

Chl ChlChl

ChlMcMc

Sm

SmPyPy

試料名:    A

処理条件:不定方位

Targetcounter mo nocro meterSlitsVoltageC urrentScan speedPreset tim eScan range

Hardware

Cu

1°-0 .3mm-1°30kV20mA

2°/m in1.5se c2θ=2 °~65°

XRD-6000 (SIMAD ZU)

10 20 30 40 50 60

0

500

1000

1500

2000

*** XRDチャート ***

θ-2θ(度)

I(Counts

500

1000

1500

2000

*** XRDチャート ***

I(C

ounts)

500

1000

1500

2000

I(C

ounts

5 10 15 200

500

1000

1500

2000

θ-2θ(度)

I(Counts

処理条件:定方位(E.G処理)

処理条件: 定方位(HC L処理)

Chl

Chl

Chl

Chl

Chl

Chl

Mc

Mc

Mc

Mc

Mc

Sm

Sm

Sm

試料名:    A

処理条件:定方位(無処理)

Targetcou nter mon ocrometer

SlitsVoltageCu rrent

Scan speedP reset ti meScan ran geHardware

Cu

1°-0.3mm-1 °30kV20mA

2°/m in1.5sec2θ=2°~20°XRD -6000 (SIMAD ZU)

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サンプルNo. Qz Pl Py Mc Chl Sm

907 305 30 20 86 42

6.0 2.0 0.2 0.1 0.6 0.3

(不定方位分析の回折線を使用)

AI (counts)

QI

  凡 例

  I (counts) :最強ピークカウント数

  含有量は石英指数(QI)で表記 (標準試料石英の最強ピークカウント数=15112counts)

  Qz:石英  Pl:斜長石  Py:黄鉄鉱          

  Mc:雲母類  Chl:緑泥石  Sm:スメクタイト           

Mc (001) 反射 Sm (001) 反射

反射強度 相対量比 % 反射強度 相対量比 % 反射強度 相対量比 %

A 97 97.0 26 267 242.7 65 82 31.5 9

  Mc:雲母類  Chl:緑泥石  Sm:スメクタイト

(定方位分析の回折線を使用:小林・生沼,1962に基く)

  凡 例

Chl (002) 反射サンプルNo.

サンプルNo. Qz Pl Py Mc Chl Sm

A ◎ ○ - + + +

(不定方位分析の回折線を使用)

  凡 例

  ◎:極多量  ○:多量  △:中量  +:少量  -:微量 

  Qz:石英  Pl:斜長石  Py:黄鉄鉱         

  Mc:雲母類  Chl:緑泥石  Sm:スメクタイト           

表4-1 X線粉末回折結果の表示例

表 4-1-1 X線粉末回折結果(最大回折線の相対強度比較)

表 4-1-2 X線粉末回折結果(石英指数表示)

表 4-1-3 粘土鉱物の相対量比

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4-5 定量分析

1.1 分析方法

定量分析には内部標準法と外部標準法があるが、ここでは内部標準法について示す。

内部標準法とは測定試料に一定量の標準物質を加え、測定試料と標準物質のX線回折強

度比を求めると、一定の比例関係を示すことを利用して行う定量法である。この方法は、

あらかじめ測定試料と同じ粒度、結晶度をもつ純粋な鉱物(スタンダード鉱物)とそれ

以外の物質(ガラス粉末など)を各種の割合で混ぜ合わせ、一定量の標準鉱物(蛍石な

ど)を混ぜX線回折を行い、純粋な鉱物と標準鉱物の回折線強度比と、その重量%の関

係(検量曲線)を求めておく(検量線の作成)。この後、測定試料に検量線を作成した

ときと同じ割合で標準鉱物を混ぜ測定試料中の定量対象の鉱物と標準鉱物の回折強度

比を求め、既に得られている検量線からその重量%を求める。

1.2 検量線作成・試料調整

例えば濁沸石の定量を行おうとする場合に検量線作成のスタンダード鉱物には、濁沸

石を用いる。

内部標準鉱物には、回折強度が安定であり、分析試料に含まれていない鉱物を用いる

必要があるため。例えば蛍石(Fluorite)を使用する。検量線用試料は、スタンダード鉱

物(石英)+希釈物質(ガラス粉末)を 0.56g とし内部標準鉱物(蛍石)を 0.14g 加え、

5,20,40,60,80,100wt.%などに調整しX線回折を行う。定量分析試料は、分析試料

0.56g+内部標準鉱物(蛍石)0.14g を混合しX線回折を行う。

1.3 測定条件

測定に使用したX線回折装置と測定条件を記載する。

1.4 定量分析結果

定量分析の結果は検量線(図 4-5-1)を示したうえで表(表 4-5-1)にして示す。

同一試料を各3回測定し、その平均値を含有量(wt%)としている。

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① ② ③

定量成分 9.27 9.32 9.33

Lau 回折線強度     I  counts 32 33 30

内部標準 47.02 47.03 47.02

Flu 回折線強度     Is  counts 944 584 610

3.4 5.7 4.9

1.0 1.7 1.5

試料名:  B

2θ °

2θ °

強度比      I %

含有量 wt.%

平均値 wt.% 1.4

# 検量線    含有量=A*Ig^3+B*Ig^2+C*Ig+D

A=0.0 B=0.0 C=0.3061849 D=-0.0223208

5 1920 6240 138

Lau 含有量(wt.%) I/Is 強度比(%) 60 198Lau-5% 19 80 238Lau-20% 62 100 342Lau-40% 138Lau-60% 198

Lau-80% 238Lau-100% 342

# 検量線データリスト

0

100

200

300

400

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

含有量(wt.%)I/

Is 強

度比

(%)

図4-5-1 濁沸石(ローモンタイト)の検量線

表4-5-1 X線粉末回折(定量)結果一覧表

Lau:濁沸石 Ful:蛍石

引用・参考文献

Cullity.,B.D.(1977) 「新版X線回折要論」(松村源太郎訳,1980)(株)アグネ,516p.

加藤誠軌(1990) セラミックス基礎講座3「X線回折分析」.内田老鶴圃,343p.

勝島尚美ほか(1997)「ボーリングコアの観察-岩盤編」,日本応用地質学会北海道支部,69p.

小林和夫・生沼 郁(1962) 海底堆積物中の粘土鉱物の研究.海洋地質,1,13-23.

セメント協会(1984) アルカリ骨材反応に関する文献調査,セメント化学専門委員会報告

C-2,100-132.

(斉藤晃生・加藤孝幸)