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KP-1000 を用いた花粉種別の解析について ○ 鈴木基雄、登内道彦、村山貢司(気象業務支援センター)、 光本浩太郎(興和株式会社電機光学事業部) 1. KP-1000 の特徴 大気中に飛散している微粒子には、花粉だけではなく、ゴミやホコリ、黄砂、霧など、さまざまなも のがある。花粉の大きさは 1035μm の範囲に分布しているが、これと同程度の大きさのゴミやホコ リも多く、粒子径だけを指標とした計測方法では花粉だけを選別して計測することは不可能である。 KP-1000 の光学系では散乱光信号と同時に青色蛍光信号、赤色蛍光信号の 3 つの信号が同時に検出され る。本研究では自動的に花粉の識別をする方法について、蛍光強度の色比だけでなく、粒径を代表する と考えられる散乱光強度を利用して、スギとヒノキの花粉種別の定量的な振り分け方法を検討した。 2. 散乱光強度と色比の分布 散乱光強度は粒子の断面積に比例すると考えられることから、散乱光強度の平方根を横軸に、赤色蛍 光と青色蛍光の比を縦軸としてプロットし、 2005 年および 2006 年春の花粉飛散シーズンにおけるヒノ キ科花粉飛散前後の比較を行った。その 2005 年の分布を図 1 に示した。 ヒノキ科花粉飛散前は赤色蛍光と青色蛍光の色比の縦軸方向に分布が伸び、また、色比 1.0 以下 の分布が少なくなっている。一方、ヒノキ科花粉飛散後では色比 0.52.0 の幅で散乱光の横軸方向 に分布が伸び、色比 1.0 以下の分布が多くなっている。図からスギ花粉は散乱光強度の平方根が 1.0 を中心として分布していることが明らかであ る。一方、ヒノキ科花粉についてはスギ花粉 よりも粒径が小さいこと、飛散前にはヒノキ 科花粉はごく微量にしか検出されないであろ うことから、色比 1.0 程度で、スギ花粉よりも 散乱光強度が小さい領域に分布していると考 えられる。これらを勘案して、図に示すよう な楕円識別関数を設定した。 3. 分類結果 1 で設定した楕円識別関数を用いて、 2005 年春の花粉飛散シーズンにおける KP-1000 の花粉 検出結果を解析した。重複部分花粉数は重複部分以外のスギおよびヒノキ科領域にカウントされた 単位面積当たりの花粉個数比率により、配分を 行った。ここでは日単位のばらつきを抑制する ため、単位面積当たりの花粉個数比率は 5 日間 の移動平均を行って適用した。 2 KP-1000 の花粉検出結果を解析したス ギおよびヒノキ科花粉の日変化図をダーラム法 による計測値とともに示す。スギとヒノキ科花 粉については概ね分離が可能となったが、ヒノ キ科花粉飛散前にも、若干のヒノキ科花粉が検 出されており、今後、Durham 法による計測と 併せて、他種類の花粉や有機性 DUST に対する KP-1000 の感度について検討する必要がある。 スギ 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 2005/3/1 2005/3/3 2005/3/5 2005/3/7 2005/3/9 2005/3/11 2005/3/13 2005/3/15 2005/3/17 2005/3/19 2005/3/21 2005/3/23 2005/3/25 2005/3/27 2005/3/29 2005/3/31 2005/4/2 2005/4/4 2005/4/6 2005/4/8 2005/4/10 2005/4/12 2005/4/14 2005/4/16 2005/4/18 2005/4/20 2005/4/22 2005/4/24 2005/4/26 2005/4/28 2005/4/30 日付 Durham(個/cm2) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 KP-1000(個) Durham KP-1000 ヒノキ 0 50 100 150 200 250 300 350 400 2005/3/1 2005/3/3 2005/3/5 2005/3/7 2005/3/9 2005/3/11 2005/3/13 2005/3/15 2005/3/17 2005/3/19 2005/3/21 2005/3/23 2005/3/25 2005/3/27 2005/3/29 2005/3/31 2005/4/2 2005/4/4 2005/4/6 2005/4/8 2005/4/10 2005/4/12 2005/4/14 2005/4/16 2005/4/18 2005/4/20 2005/4/22 2005/4/24 2005/4/26 2005/4/28 2005/4/30 日付 Durham(個/cm2) 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 KP-1000(個) Durham KP-1000 1 ヒノキ科花粉飛散前後の散乱光と色比 2 スギおよびヒノキ科花粉の日変化図

KP-1000 を用いた花粉種別の解析について ...KP-1000 を用いた花粉種別の解析について 鈴木基雄、登内道彦、村山貢司(気象業務支援センター)、

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Page 1: KP-1000 を用いた花粉種別の解析について ...KP-1000 を用いた花粉種別の解析について 鈴木基雄、登内道彦、村山貢司(気象業務支援センター)、

KP-1000を用いた花粉種別の解析について

○ 鈴木基雄、登内道彦、村山貢司(気象業務支援センター)、 光本浩太郎(興和株式会社電機光学事業部)

1. KP-1000の特徴 大気中に飛散している微粒子には、花粉だけではなく、ゴミやホコリ、黄砂、霧など、さまざまなも

のがある。花粉の大きさは 10~35µm の範囲に分布しているが、これと同程度の大きさのゴミやホコ

リも多く、粒子径だけを指標とした計測方法では花粉だけを選別して計測することは不可能である。

KP-1000 の光学系では散乱光信号と同時に青色蛍光信号、赤色蛍光信号の 3 つの信号が同時に検出され

る。本研究では自動的に花粉の識別をする方法について、蛍光強度の色比だけでなく、粒径を代表する

と考えられる散乱光強度を利用して、スギとヒノキの花粉種別の定量的な振り分け方法を検討した。 2. 散乱光強度と色比の分布 散乱光強度は粒子の断面積に比例すると考えられることから、散乱光強度の平方根を横軸に、赤色蛍

光と青色蛍光の比を縦軸としてプロットし、2005 年および 2006 年春の花粉飛散シーズンにおけるヒノ

キ科花粉飛散前後の比較を行った。その 2005 年の分布を図 1 に示した。 ヒノキ科花粉飛散前は赤色蛍光と青色蛍光の色比の縦軸方向に分布が伸び、また、色比 1.0 以下

の分布が少なくなっている。一方、ヒノキ科花粉飛散後では色比 0.5~2.0 の幅で散乱光の横軸方向

に分布が伸び、色比 1.0 以下の分布が多くなっている。図からスギ花粉は散乱光強度の平方根が 1.0を中心として分布していることが明らかであ

る。一方、ヒノキ科花粉についてはスギ花粉

よりも粒径が小さいこと、飛散前にはヒノキ

科花粉はごく微量にしか検出されないであろ

うことから、色比 1.0 程度で、スギ花粉よりも

散乱光強度が小さい領域に分布していると考

えられる。これらを勘案して、図に示すよう

な楕円識別関数を設定した。 3. 分類結果 図 1 で設定した楕円識別関数を用いて、2005 年春の花粉飛散シーズンにおける KP-1000 の花粉

検出結果を解析した。重複部分花粉数は重複部分以外のスギおよびヒノキ科領域にカウントされた

単位面積当たりの花粉個数比率により、配分を

行った。ここでは日単位のばらつきを抑制する

ため、単位面積当たりの花粉個数比率は 5 日間

の移動平均を行って適用した。 図 2 に KP-1000 の花粉検出結果を解析したス

ギおよびヒノキ科花粉の日変化図をダーラム法

による計測値とともに示す。スギとヒノキ科花

粉については概ね分離が可能となったが、ヒノ

キ科花粉飛散前にも、若干のヒノキ科花粉が検

出されており、今後、Durham 法による計測と

併せて、他種類の花粉や有機性 DUST に対する

KP-1000 の感度について検討する必要がある。

スギ

0100200300400500600700800900

2005/3/1

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KP-1000(個)

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図 1ヒノキ科花粉飛散前後の散乱光と色比

図 2スギおよびヒノキ科花粉の日変化図